説明

人体部位位置測定装置および電子機器システム

【課題】人体の特定位置を非接触で測定する新規な手段を提供すること。
【解決手段】人体部位位置測定装置は、人体表面に電磁場を伝搬させる励振器1と、励振器1から離間して配置された電磁場変動検出器2とによって構成されている。電磁場変動検出器2は、互いに離間して設けられた2つの電極20A、B、乗算器23A、Bを有している。乗算器23Aには、電極20Aと、移相器25Aを介して電極20Bとが接続している。一方、乗算器23Bには、移相器25Bを介して電極20Aと、電極20Bとが接続している。乗算器23A、Bの出力側は減算器26に接続していて、減算器26の出力側は、ローパスフィルタ28を介してオシロスコープに接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の特定位置、たとえば手の位置を非接触で検出することができる人体部位位置測定装置に関する。また、その人体部位位置測定装置を利用した電子機器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人体の特定部位の位置、たとえば手先の位置を測定する装置として、従来マウスやタッチパネルディスプレイなどの機器があるが、これらはいずれも人体との接触を必要とするものであり、非接触では位置を測定することができない。
【0003】
非接触で人体の特定位置を検出する装置としては、テルミンと呼ばれる楽器がよく知られている。テルミンは2本のアンテナを有し、アンテナはそれぞれ発振回路に接続されている。アンテナと人体との相対距離の違いによる静電容量の変化によって発振周波数を変化させ、2つの発振回路の周波数のうなりを音に変換する楽器である。このテルミンの原理を利用した位置測定装置として、特許文献1がある。特許文献1では、第1方向に沿って平行に配置された複数の第1アンテナと、第1方向に直交する第2方向に沿って平行に配置された複数の第2アンテナと、によって構成されたアンテナパネルを有したセンサ装置が示されている。センサ装置には、第1、2アンテナにそれぞれスイッチで切り換えられて接続する1つの発振回路が設けられており、人の手がアンテナパネルに近づいた場合に、第1アンテナと発振回路とを接続して発振周波数の変化から第1方向の座標を決定し、第2アンテナと発振回路との接続に切り換えて発振周波数の変化から第2方向の座標を決定することで、アンテナパネル上部に位置する人の手の位置を非接触で検出することができる。
【0004】
また、ハエの視覚系の信号処理回路を、視覚センサ(速度検出器)として用いた例が知られている(たとえば非特許文献1)。これは、Δx離れた左右2つの光センサを用い、2つの光センサによる光の強度をそれぞれ電気信号に変換して、一方の電気信号をΔt遅延させ、2つの電気信号の相関を取ることによって速度を検出するものである。
【0005】
さらに、上記非接触での人体位置測定技術とは別の技術として、人体表面に電磁場を伝搬させる技術が知られている(たとえば非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−139280
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. Harrison,"A Biologically Inspired Analog IC for Visual Collosion Detection",IEEE Transactions on Circuits and Systems-1:Regular papers,Vol.52,NO.11,pp.2308-2318,2005
【非特許文献2】根日屋英之,”人体通信の最新技術”,電波技術協会報FORN−2010.1 No.272,pp.24−27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の位置測定装置では、特定の人だけの手の位置を測定したい場合であっても、その特定の人と他の人との区別ができず、選択的に人の手の位置を測定するということができない。
【0009】
また、ハエの視覚系回路のように、光センサによって人体の位置を検出する装置を構成することが考えられる。しかし、光によるセンシングでは奥行き方向の検知精度の悪化や、ダイナミックレンジの問題、暗い場所では検知することが困難、レンズの汚れに弱い、など多数の問題があると考えられる。
【0010】
また、人体の電磁場の表面伝搬を利用した、人体の位置測定装置は知られていない。
【0011】
本発明は、ハエの視覚系回路と、人体表面の電磁場伝搬技術とに着想を得てなされた従来にない新規な人体の特定位置を測定する装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、人体の特定位置を非接触で測定する人体部位位置測定装置において、人体表面に電磁場を伝搬させる励振器と、人体から離間し、かつ互いに離間して配置された第1電極と第2電極とを有して、その2つの第1電極および第2電極に至る電磁場の位相差から、人体の特定位置を測定する電磁場変動検出器と、を有することを特徴とする人体部位位置測定装置である。
【0013】
励振器は、人体表面に電磁波を伝搬することができる位置に取り付けられていればよく、人体に直接取り付けられていてもよいし、イスなどの人体と接触する物体に取り付けられていてもよい。励振器の発振周波数は、人体表面を電磁場が伝搬することができる周波数帯であればよく、たとえば1〜100MHzである。
【0014】
電磁場変動検出器は、たとえば下記の第2、3の発明のように構成することができる。第3の発明のように構成すれば、オフセットが安定し、位置の測定精度を向上させることができる。また、第2の発明のように構成すれば、位置測定精度は落ちるが、構成が簡単となるため位置測定装置の低コスト化を図ることができる。
【0015】
また、本発明における「人体の特定位置」とは、人体のあらゆる箇所を示すものであるが、特に手先などの先端が細くなっている部分がよい。位置測定精度が向上するためである。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、電磁場変動検出器は、第1電極と第2電極とで受信する電気信号とを乗算して出力する乗算器と、乗算器の出力のうち、高周波成分をカットして出力するローパスフィルタと、を有することを特徴とする人体部位位置測定装置である。
【0017】
第3の発明は、第1の発明において、電磁場変動検出器は、第1電極に接続する第1移相器と、第2電極に接続し、移相量が第1移相器と等しい第2移相器と、第1電極で受信する電気信号と、第2電極で受信し、第2移相器によって移相された電気信号とを乗算して出力する第1乗算器と、第1電極で受信し、第1移相器によって移相された電気信号と、第2電極で受信した電気信号とを乗算して出力する第2乗算器と、第1乗算器の出力と、第2乗算器の出力との差分をとる減算器と、減算器の出力のうち、高周波成分をカットして出力するローパスフィルタと、を有することを特徴とする人体部位位置測定装置である。
【0018】
第4の発明は、第3の発明において、第1移相器および第2移相器の移相量は、90°であることを特徴とする。このように移相量を90°とすると、電磁場変動検出器の出力を向上させることができるため、人体位置の測定感度を向上させることができる。
【0019】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、電磁場変動検出器をさらにもう1台備え、一方の電磁場変動検出器の第1電極と第2電極とを結ぶ第1直線と、他方の電磁場変動検出器の第1電極と第2電極とを結ぶ第2直線とが、角度を成すように、2台の電磁場変動検出器における前記第1電極および第2電極が配置されている、ことを特徴とする人体部位位置測定装置である。
【0020】
第6の発明は、第5の発明において、第1直線と第2直線は直交することを特徴とする。
【0021】
第7の発明は、第1の発明から第6の発明において、励振器の発振周波数は1〜100MHzであることを特徴とする。
【0022】
第8の発明は、人体の特定位置は、手先の位置であることを特徴とする。
【0023】
第9の発明は、第1の発明から第8の発明において、励振器は座席に取り付けられ、人が座席に座った場合に励振器と人体が接触することにより、人体表面に電磁場を伝搬させる、ことを特徴とする人体部位位置測定装置である。
【0024】
第10の発明は、第1の発明から第9の発明の人体部位位置測定装置と、電子機器とを有し、人体部位位置測定装置により人体の特定位置を測定し、その人体の特定位置の変動を元に電子機器の操作を行うことを特徴とする電子機器システムである。
【0025】
第11の発明は、第10の発明において、電子機器は、カーオーディオ、カーナビ(カーナビゲーションシステム)、身体障害者用装置、またはゲーム機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の人体の特定位置測定装置は、人体表面を伝搬する電磁場を、2つの離間した第1、2電極で受信し、その位相差を電磁場変動検出器により測定することで、人体の特定位置(たとえば手先の位置)を測定するものであり、人体の特定位置を非接触で検出して測定することができる。特に、人体の特定位置検知のために電磁場変動検出器の2つの第1、2電極を人体の特定位置を検出したい領域の近傍に配置すればよいだけであるため、場所をとらず、設置の自由度が高い。また、本発明の人体の特定位置測定装置では、励振器によって励振された人体の特定位置のみを検出することができ、励振器によって励振されていない人体の特定位置は検出しない。つまり、励振器によって特定の人のみの位置を選択的に検出することができる。
【0027】
また、第5の発明によれば、人体の特定位置を2次元的に測定することができ、第6の発明によればその測定精度を向上させることができる。
【0028】
また、第10、11の発明のように、本発明の人体部位位置測定装置を利用すれば、非接触で電子機器の操作を行うことができる電子機器システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の人体部位位置測定装置の構成を示した図。
【図2】変形例の電磁場変動検出器の構成を示した図。
【図3】人体の特定位置の測定結果を示したグラフ。
【図4】実施例2の人体部位位置測定装置の構成を示した図。
【図5】実施例3の電子機器システムの構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
図1は、実施例1の人体部位位置測定装置の構成を示した図である。この人体部位位置測定装置は、人体に取り付けられる励振器1と、励振器から離間して配置された電磁場変動検出器2とによって構成されている。
【0032】
励振器1は、発振器10と、バンドパスフィルタ11および増幅器13を介して発振器10と接続する電極12と、によって構成されている。発振器10の発振周波数は、電磁場が人体表面を伝搬することができる周波数であり、1〜100MHzである。バンドパスフィルタ11は、発振器10の発振する電気信号の周波数帯のみを透過するものであり、増幅器13はバンドパスフィルタ11を透過した電気信号を増幅するものである。また、電極12は、増幅器13からの電気信号によって電磁場を励振し、人体表面に電磁場を伝搬させるものである。バンドパスフィルタ11や増幅器13は必ずしも必要なものではないが、ノイズ等を除去して位置測定精度を高めるためにはこれらを設けることが望ましい。
【0033】
電磁場変動検出器2は、互いに離間して設けられた2つの電極20A、B(本発明の第1電極、第2電極に相当)を有している。電極20A、Bは、励振器1によって人体表面を伝搬する電磁場を電気信号として受信するものである。電極20Aにはバンドパスフィルタ21A、増幅器22Aが、電極20Bにはバンドパスフィルタ21B、増幅器22Bが、それぞれ接続されている。バンドパスフィルタ21A、Bは、発振器10の発振周波数帯のみを透過するものであり、増幅器22A、Bは、それぞれバンドパスフィルタ21A、Bからの電気信号を増幅するものである。
【0034】
また、電磁場変動検出器2は、乗算器23A、Bをそれぞれ有している。乗算器23Aには、増幅器24を介して増幅器22Aと接続し、移相器25A、増幅器24を介して増幅器22Bと接続している。一方、乗算器23Bには、移相器25B、増幅器24を介して増幅器22Aと接続し、増幅器24を介して増幅器22Bと接続している。移相器25Aは電極20Bからの、移相器25Bは電極20Bからの電気信号を移相して出力するものであり、その移相量は等しく設定されている。乗算器23Aは、電極20Aからの電気信号と、移相器25Aによって移相された電極20Bからの電気信号とを乗算して出力するものである。また、乗算器23Bは、電極20Bからの電気信号と、移相器25Bによって移相された電極20Aからの電気信号とを乗算して出力するものである。
【0035】
乗算器23A、Bの出力側は減算器26に接続していて、それぞれの出力する電気信号の差分をとって出力する。減算器26の出力側は、増幅器27、ローパスフィルタ28を介してオシロスコープ(図示しない)に接続している。増幅器27は、減算器26の出力する電気信号を増幅するものであり、ローパスフィルタ28は、高周波成分(直流成分に近い電気信号以外)をカットして出力するものである。
【0036】
次に、人体部位位置測定装置の動作について説明する。
【0037】
まず、人体に取り付けられた励振器1によって、人体表面に電磁場を伝搬させる。つまり、発振器10によって1〜100MHz帯の周波数の電気信号を発振させ、バンドパスフィルタ11を通してノイズ成分等を除去して増幅器13によって電気信号を増幅したのち、電極12より電磁場を励振させて人体表面に電磁場を伝搬させる。励振器1の発振器10の周波数が1〜100MHzの範囲であれば、励振された電磁場を人体表面に伝搬させることができる。なお、人体は比誘電率が高いため、波長が大きく短縮されて伝搬しているものと推察される。たとえば10.7MHzでは人体の比誘電率はおよそ160程度となり、非常に高い値となっている。
【0038】
電磁場変動検出器2の2つの電極20A、Bは、人体に近い位置(たとえば、人体の手先近傍)に、人体には接触させずに配置されており、2つの電極20A、Bによって、人体表面を伝搬する電磁場を電気信号として受信する。この電極20A、Bで受信する電気信号は、人体位置と電極20A、Bとの相対的な距離に応じて位相が異なる。以下、説明の簡略化のため、電磁場変動検出器2の電極20Aで受信する電気信号をcos(ωt+θA)、電極20Bで受信する電気信号をcos(ωt+θB)として考察する。ωは2πfであり、fは発振器10の発振周波数である。なお、位置測定精度を高めるために、なるべく電極20A、B間を結ぶ直線に近い位置に人体を近づけることが望ましく、およそc/(2πf(εr)1/2 )、ここでfは発振器10の発振周波数、εrは人体の比誘電率、以下まで人体を電極20A、B間を結ぶ直線に近づけるのがよい。たとえば10.7MHzでは50cm以下まで近づける。励振器1から電磁波が放射されているわけではなく、人体表面に電磁場がまとわりついて伝搬している状態であり、人体の近傍界の範囲に電極20A、Bが入る必要があるためである。そのため、電極20A、B間の距離はc/(2πf(εr)1/2 )以下の距離にある必要がある。
【0039】
電極20Aで受信した電気信号cos(ωt+θA)は、バンドパスフィルタ21Aによって発振器10の周波数帯域のみが透過され、増幅器22Aによって信号が増幅される。
【0040】
また、電極20Bで受信した電気信号cos(ωt+θB)は、バンドパスフィルタ21Bによって発振器10の周波数帯域のみが透過され、増幅器22Bによって信号が増幅される。
【0041】
増幅器22Aからの出力は、2つに分岐されて一方は増幅器24によってさらに信号が増幅されたのち乗算器23Aへ、他方は移相器25Bによって位相がφ遅らされてcos(ωt+θA−φ)の電気信号となり、その電気信号が増幅器24によって増幅されたのち乗算器23Bへ入力される。
【0042】
また、増幅器22Bからの出力は、2つに分岐されて一方は増幅器24によってさらに信号が増幅されたのち、乗算器23Bへ、他方は移相器25Aによって位相がφ遅らされてcos(ωt+θB−φ)の電気信号となり、その電気信号が増幅器24によって増幅されたのち乗算器23Aへ入力される。
【0043】
つまり、乗算器23Aには、cos(ωt+θA)の電気信号と、cos(ωt+θB−φ)の電気信号が入力され、乗算器23Bには、cos(ωt+θA−φ)の電気信号と、cos(ωt+θB)の電気信号が入力される。したがって、乗算器23Aの出力は、cos(ωt+θA)・cos(ωt+θB−φ)であり、後段のローパスフィルタ28でカットされる高周波成分を除けば、(1/2)・cos(ψ+φ)である。ここで、θA−θB、すなわち位相差をψと置いた。同様に乗算器23Bの出力は、(1/2)・cos(ψ−φ)となる。
【0044】
乗算器23A、Bから出力される電気信号(1/2)・cos(ψ+φ)および(1/2)・cos(ψ−φ)は、減算器26に入力される。減算器26からの出力は、(1/2)・cos(ψ−φ)−(1/2)・cos(ψ+φ)=sinψ・sinφとなる。その後、増幅器27で信号が増幅されたのち、ローパスフィルタ28によってすでに計算上省略した高周波数成分がカットされて、sinψ・sinφがオシロスコープへと入力される。
【0045】
オシロスコープでは、電気信号sinψ・sinφの電圧値が測定される。この電圧値は、電極20A、Bで受信する電気信号の位相差ψ(=θA−θB)に対応した値であり、さらにその位相差ψは、電極20A、Bの近傍にある人体表面の位置に対応した値である。したがって、電気信号sinψ・sinφの電圧値から、電極20A、Bの近傍にある人体表面の位置を測定することができる。なお、この結果が示すように、φが90°のときにsinφ=1より出力が最大となるため、移相器25A、Bの移相量φは90°に設定することが望ましい。位置測定の感度を向上させることができるためである。
【0046】
上記のように、電磁場変動検出器2では、受信した2つの電気信号をそれぞれ2つに分割し、それぞれの一方をディレイしたのち乗算して差分を取っている。これは、単に受信した電気信号を乗算して高周波成分をカットするだけではオフセットが安定せず、位置の測定精度が悪化してしまうためである。ただし、高い位置精度が求められていない場合には、図2のように、電磁場変動検出器2から移相器25A、B、乗算器23B、減算器26を削除した構成とすることもできる。
【0047】
以上のようにして、実施例1の人体部位位置測定装置では、人体の一次元的な位置を非接触で測定することができる。また、励振器1によって励振されていない人の位置は測定されず、励振器1によって励振された人のみの位置を選択的に測定することができる。
【0048】
図3は、実施例1の人体部位位置測定装置によって人体の特定位置を測定した結果を示したグラフである。図3のグラフの横軸は測定時間、縦軸は電磁場変動検出器2の出力する電圧値である。電磁場変動検出器2の電極20A、Bは、22cm離間して段ボール箱上に貼り付けて設置した。また、励振器1の発振器10は腕に取り付け、励振器1の電極12は手の甲に貼り付けて設置した。発振器10の周波数は10.7MHzとした。そして、電極20A、B間近傍(電極20A、Bの設置された段ボール箱上方10cm離れた領域)に手先をかざし、その手先を電極20A近傍と電極20B近傍との間で複数回往復させた。
【0049】
図3に示すように、電極20A近傍では電圧値が最も低くなり、電極20A近傍から電極20B近傍の方へ手先を動かしていくと電圧値が増加していき、電極20B近傍で電圧値が最も高くなり、電極20B近傍から電極20A近傍の方へ手先を動かしていくと電圧値が減少していく、というのを繰り返していることがわかる。つまり、実施例1の人体部位位置測定装置によって、手先を電極20A近傍と電極20B近傍との間で複数回往復させている様子を測定できていることがわかる。また、図3のように、手先の位置の時間的変化を測定することで、グラフの曲線の傾きとして、手先の速度も測定できることがわかる。
【0050】
なお、図3のグラフにおいて電圧値が最も低い部分が平らになっているが、これは電磁場変動検出器2の回路を構成した素子の性能により飽和してしまったためであり、飽和しないように素子を選択すれば、電圧値が最も低い部分のグラフ形状が正弦波の谷に近い形状となり、より正確に人体位置の測定をできるものと考えられる。
【実施例2】
【0051】
図4は、実施例2の人体部位位置測定装置の構成を示した図である。実施例2の人体部位位置測定装置は、実施例1の人体部位位置測定装置に、さらに以下の構成を加えたものである。すなわち、電磁場変動検出器2と同一構成の電磁場変動検出器3をさらに加えたものである。電磁場変動検出器3は、電磁場変動検出器2の電極20A、Bに対応する電極として、電極20C、Dを有している。そして、電磁場変動検出器3は、電磁場変動検出器2の電極20A、B間を結ぶ直線(x軸方向に平行な直線)と、電磁場変動検出器3の電極20C、D間を結ぶ直線(y軸方向に平行な直線)が、直交するように、プラスチックの矩形枠状のフレーム30上に配置されている。
【0052】
この実施例2の人体部位位置測定装置では、フレーム30に人体(たとえば指先)40を近づけた場合に、電磁場変動検出器2の出力する電圧値と、電磁場変動検出器3の出力する電圧値とから、x軸方向における人体の特定位置と、y軸方向における人体の特定位置を測定することができる。つまり、人体の二次元的な位置を非接触で測定することができる。
【0053】
なお、実施例2では、電極20A、Bを結ぶ直線と電極20C、Dを結ぶ直線が直交するように配置したが、必ずしもその必要はなく、2つの直線が角度を成すように配置すればよい。ただし、位置測定の精度向上のためには直交させることが望ましい。
【0054】
また、実施例では励振器1を人体に直接取り付けたが、励振器1は必ずしも人体に取り付ける必要はなく、電磁場を励振して人体表面に伝搬させることができる位置に取り付けられていればよい。たとえば、座席の背もたれの部分に励振器1を設置することで、座席に座った人の表面に電磁場を伝搬させるようにしてもよい。この場合には、座席に座った状態では位置を検出することができ、座席を立った状態では位置を検出できないようにすることができ、人体部位位置測定装置の誤動作の防止等に利用することができる。また、車両の座席においては、励振器1を座席に設置しておけば、運転席か助手席の区別に利用することもできる。
【実施例3】
【0055】
実施例3は、実施例1に示した人体部位位置測定装置を利用した電子機器システムである。図5は、その電子機器システムの構成を示した図である。図5のように、人体40に励振器1が取り付けられ、人体40と非接触な位置に電磁場変動検出器2が配置されている。電磁場変動検出器2の出力する電圧値は、デジタルないしアナログの信号として電子機器4に入力される。電磁場変動検出器2と電子機器4との接続は、ブルートゥースなどの無線によるものであってもよいし、有線によるものであってもよい。電子機器4は、たとえばカーオーディオ、カーナビ(カーナビゲーションシステム)、身体障害者用装置、ゲーム機、携帯機器(携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンなど)、TV、等である。電子機器4は、電磁場変動検出器2からの電圧値に基づく人体40の位置を元にして、自身の機能の制御を行う。これにより、人体40の位置の変動(たとえば手先を振る)によって電子機器4の制御を行うことができる。電子機器4の制御とは、たとえば、電子機器4の電源のオンオフや、カーオーディオであればAM、FM、TVの切換や、チャンネルの変更などである。より具体的には、手先を左右に3回振ったときにはAMに、手先を左右に4回振ったときにはFMに、というようなカーオーディオの制御を非接触で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の人体部位位置測定装置は、たとえばオーディオ装置、カーナビ装置などの非接触操作に用いることができる。また、身体障害者用装置やゲーム機、携帯機器等を非接触で操作する装置に応用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1:励振器
2、3:電磁場変動検出器
4:電子機器
10:発振器
10、20A、B、C、D:電極
23A、B:乗算器
25A、B:移相器
26:減算器
28:ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の特定位置を非接触で測定する人体部位位置測定装置において、
人体表面に電磁場を伝搬させる励振器と、
前記人体から離間し、かつ互いに離間して配置された第1電極と第2電極とを有して、その2つの前記第1電極および前記第2電極に至る電磁場の位相差から、前記人体の特定位置を測定する電磁場変動検出器と、
を有することを特徴とする人体部位位置測定装置。
【請求項2】
前記電磁場変動検出器は、
前記第1電極と前記第2電極とで受信する電気信号とを乗算して出力する乗算器と、
前記乗算器の出力のうち、高周波成分をカットして出力するローパスフィルタと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の人体部位位置測定装置。
【請求項3】
前記電磁場変動検出器は、
前記第1電極に接続する第1移相器と、
前記第2電極に接続し、移相量が前記第1移相器と等しい第2移相器と、
前記第1電極で受信する電気信号と、前記第2電極で受信し、前記第2移相器によって移相された電気信号とを乗算して出力する第1乗算器と、
前記第1電極で受信し、前記第1移相器によって移相された電気信号と、前記第2電極で受信した電気信号とを乗算して出力する第2乗算器と、
前記第1乗算器の出力と、前記第2乗算器の出力との差分をとる減算器と、
前記減算器の出力のうち、高周波成分をカットして出力するローパスフィルタと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の人体部位位置測定装置。
【請求項4】
前記第1移相器および前記第2移相器の移相量は、90°であることを特徴とする請求項3に記載の人体部位位置測定装置。
【請求項5】
前記電磁場変動検出器をさらにもう1台備え、
一方の前記電磁場変動検出器の前記第1電極と前記第2電極とを結ぶ第1直線と、他方の前記電磁場変動検出器の前記第1電極と前記第2電極とを結ぶ第2直線とが、角度を成すように、2台の前記電磁場変動検出器における前記第1電極および第2電極が配置されている、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の人体部位位置測定装置。
【請求項6】
前記第1直線と前記第2直線は直交することを特徴とする請求項5に記載の人体部位位置測定装置。
【請求項7】
前記励振器の発振周波数は1〜100MHzであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の人体部位位置測定装置。
【請求項8】
前記人体の特定位置は、手先の位置であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の人体部位位置測定装置。
【請求項9】
前記励振器は座席に取り付けられ、人が座席に座った場合に前記励振器と人体が接触することにより、人体表面に電磁場を伝搬させる、ことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の人体部位位置測定装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の前記人体部位位置測定装置と、電子機器とを有し、前記人体部位位置測定装置により人体の特定位置を測定し、その人体の特定位置の変動を元に前記電子機器の操作を行うことを特徴とする電子機器システム。
【請求項11】
前記電子機器は、カーオーディオ、カーナビ、身体障害者用装置、またはゲーム機であることを特徴とする請求項10に記載の電子機器システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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