説明

人工コラーゲンゲル

【課題】コラーゲン様のアミノ酸配列を有しつつ、コラーゲン様のゾル/ゲル相転移挙動(ゲル形成能)を示すコラーゲン模倣物質を提供することを目的とする。
【解決手段】3以上の分岐を有する複数の分岐部分を含む樹状ポリマーと、(POG)n[式中、P:プロリン;O:ヒドロキシプロリン;G:グリシン;n:9以上の整数]で表されるトリペプチドリピートを含むポリペプチドから構成され、その水性溶液が加温によりゲル化することを特徴とするゲル形成性複合ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹状ポリマーと該樹状ポリマーに結合したコラーゲン様ペプチド(コラーゲンモデルペプチド)から構成され、その水性溶液が加温によりゲル化することを特徴とするゲル形成性複合ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、分子量約10万の棒状タンパク質であり、細胞外基質に多く含まれている(ヒトでは全タンパク質の約30%を占める)。コラーゲンは、その低細胞毒性、低免疫原性のため生体材料として汎用され、またその弾力性や保湿性から化粧品として使用されている。更に、コラーゲンは、徐放性薬物送達システムの材料としても大いに注目されている。
【0003】
従来、コラーゲンとしては動物由来のものが使用されてきた。しかし、動物由来コラーゲンの使用には、ウイルス、細菌やその他の病原性物質による汚染の問題が存在する。
そこで、近年、天然コラーゲンの代用品として、コラーゲンに特徴的なアミノ酸配列を模倣した人工のコラーゲン(コラーゲン様ペプチド)が研究されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−514189号公報
【特許文献2】特開2005−58499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在得られているコラーゲン様ペプチドは、単独では(架橋剤を用いなければ)ゲル化能を有しないか、有する場合であっても、冷却によりゲル化し、加温によりゾル化する。このゾル/ゲル相転移挙動は、コラーゲンの熱変性体であるゼラチンが示す挙動と同じであり、天然コラーゲンが示す挙動(加温によりゲル化、冷却によりゾル化)とは正反対である。
この挙動特性のため、従来のコラーゲン様ペプチドの用途は限定的であった。
【0006】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、コラーゲン様のアミノ酸配列を有しつつ、コラーゲン様のゾル/ゲル相転移挙動(ゲル形成能)を示すコラーゲン模倣物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、3以上の分岐を有する複数の分岐部分を含む樹状ポリマーと、(POG)n[式中、P:プロリン;O:ヒドロキシプロリン;G:グリシン;n:9以上の整数]で表されるトリペプチドリピートを含むポリペプチドとから構成され、その水性溶液が20℃でゾル状態であり、加温によりゲル化することを特徴とするゲル形成性複合ポリマーが提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記ゲル形成性複合ポリマーを含んでなることを特徴とするゲル形成剤が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゲル形成性複合ポリマーは、その水性溶液が加温によりゲル化するので、すなわち、ゲル化前には、低温でゾル状態であり、高温でゲル化するので、調製及び/又は適用が容易である(例えば、常温で調製/適用が可能であり、注射により適用可能である)。一方、体表又は体内に適用する場合、体温による加温及び/又は外部からのエネルギー供給による加温によってゲル化させることができる。このように、本発明によれば、取扱い性に優れるゲル形成剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】Ac-POG5、Ac-POG10及びAc-PPG10のNMR測定の結果を示す。
【図2】Ac-POG2、Ac-POG8及びAc-POG10のNMR測定の結果を示す。
【図3】POG2-G4、POG5-G4、POG8-G4及びPOG10-G4のNMR測定結果を示す。
【図4】PPG10-G4のNMR測定結果を示す。
【図5】POG10-G5のNMR測定結果を示す。
【図6】(a)POG10-PLD-G2及び(b)POG10-PLD-G3のNMR測定結果を示す。
【図7】(左)POG2-G4、POG5-G4、POG8-G4、POG10-G4及びPPG10-G4並びに(右)Ac-POG10、POG10-PLD-G2及びPOG10-PLD-G3のCDスペクトルを示す。
【図8】POG2-G4、POG5-G4、POG8-G4、POG10-G4及びPPG10-G4のCDスペクトルの温度依存性を示す。
【図9】POG10-G4水溶液(5mg/ml)の透過率の温度変化を示す。
【図10】POG10-G5水溶液(1mg/ml)の透過率の温度変化を示す。
【図11】POG5-G4、POG8-G4及びPOG10-PLD-G2についてのゲル形成試験の結果を示す写真である。
【図12】PPG10-G4についてのゲル形成試験の結果を示す写真である。
【図13】POG10-G4及びPOG10-PLD-G3についてのゲル形成試験の結果を示す写真である。
【図14】POG10-G5についてのゲル形成試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ゲル形成性複合ポリマー]
本発明のゲル形成性複合ポリマーは、3以上の分岐を有する複数の分岐部分を含む樹状ポリマーと、(POG)n[式中、P:プロリン;O:ヒドロキシプロリン;G:グリシン;n:9以上の整数]で表されるトリペプチドリピートを含むポリペプチドとから構成され、その水性溶液が20℃でゾル状態であり、加温によりゲル化することを特徴とする。
【0012】
以下、本発明のゲル形成性複合ポリマーを、単に「ゲル形成性ポリマー」又は「複合ポリマー」と呼ぶこともある。また、トリペプチドリピート(POG)nを含むポリペプチドを、「コラーゲンモデルペプチド」とも呼ぶ。
【0013】
本発明のゲル形成性ポリマーの水性溶液は、加温により、好ましくは30〜45℃の範囲内、より好ましくは35〜45℃の範囲内の温度でゲル化する(すなわち、ゲル状態となる)。この温度範囲内でゲル化することにより、本発明のゲル形成性ポリマーの水性溶液は、体表面や体内の目的の部位への適用後に、該部位にて体温による加温、又は体温及び外部からのエネルギー供給(例えば、加熱、超音波又は電磁波の照射等)による加温によってゲル化させることができる。
【0014】
ゲル化により生じた(本発明のゲル形成性ポリマーからなる)ゲルは、好ましくは、冷却により再度ゾル化する。この場合、再ゾル化は、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下で生じる。このようなゾル/ゲル相転移特性を示すゲルを形成し得る本発明のゲル形成性ポリマーは、適用部位での留置性(滞留性)に優れるので特に好ましい。
【0015】
ここで、「ゲル状態」とは、水性溶液がその流動性を失った状態をいう。ゲル状態は、簡便には、例えば該溶液を容器中で調製して(例えば少なくとも5分間)静置したのち、該容器を傾けた際、流動の有無を肉眼観察することによって確認することができる。或いは、ゲル状態は、試料上面にステンレス鋼球(例えば、直径:2.38mm;重量56.4mgのもの)を静かに載置したとき、該球が容器の底まで沈下しないときの状態とも規定できる
【0016】
本発明のゲル形成性ポリマーは、例えば0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは5〜20重量%の水性溶液としたとき、30〜60℃でゲル状態になる(ゲル化する)ことができる。該水性溶液のpHは、例えば6〜8、好ましくは6.5〜7.5である。
【0017】
本発明のゲル形成性複合ポリマーは、下記の実施例で示すように、そのポリペプチド部分が三重らせんコンホメーションを形成し得、かつ、その水性溶液が加温によりゲル化するという点で、天然コラーゲンの特徴を有していることから、「コラーゲン様」物質と言うことができる。
【0018】
本発明の複合ポリマーにおいて、コラーゲンモデルペプチドは樹状ポリマーの全ての末端基に結合していてもよいし、樹状ポリマーの一部の末端基に結合していてもよい。
樹状ポリマーに結合しているコラーゲンモデルペプチドの数の下限は、好ましくは40、より好ましくは45、更に好ましくは50である。上限は、特に制限されないが、合成の難易性及び/又はコストの観点から、例えば500、300、250又は125であり得る。
【0019】
<樹状ポリマー>
本発明に使用し得る「樹状ポリマー」は、(存在する場合)1つの「コア」、3以上の分岐を有する複数の「分岐部分」及び複数の「末端基」からなり、三次元的に高度に分枝/分岐した樹状構造を有する化合物である。
第m世代の「樹状ポリマー」(「世代」については下記を参照)は、式(I):
Zs(X1(X2(X3(...(Xm-1(XmYm(qm)-1)(qm-1)-1-(rm-1)Ym-1(rm-1))...)q3-1-r3Y3r3)q2-1-r2Y2r2)q1-1-r1Y1r1)p
で表し得る。
【0020】
上記式中、
Zはコアであり;
X1、X2、X3、...、Xm-1、Xmは、それぞれ1、2、3、...、m-1、m世代目の分岐部分であり、全てが同一であっても異なってもよいし、任意の組合せが同一であってもよく、また、複数存在するX1、X2、X3、...、Xm-1、Xmは、全てが同一であっても異なってもよいし、任意の組合せが同一であってもよい;
Y1、Y2、Y3、...、Ym-1、Ymは、それぞれ1、2、3、...、m-1、m世代目の分岐部分に結合した末端基であり、全てが同一であっても異なってもよいし、任意の組合せが同一であってもよく、また、複数存在するY1、Y2、Y3、...、Ym-1、Ymは、それぞれ異なってもよく(すなわち、例えば、Y1が複数存在する場合、全てのY1が同じ基である必要はなく、一部のY1は別の基であってもよい);
【0021】
sは0又は1であり、
pは、sが0のとき1又は2、好ましくは2であり、sが1のとき、コアの分岐部分との結合手の数であって、1以上の整数である。pは例えば1〜6、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜4の整数であり(更に好ましくは4)(pが1のとき、X1の残る分岐端末は保護基又は末端基と結合する);
q1、q2、q3、...、qm-1、qmは、それぞれ1、2、3、...、m-1、m世代目の分岐部分の分岐数であって、3以上の整数(例えば、3〜10、好ましくは3〜8、より好ましくは3〜6、より好ましくは3又は4)であり、全てが同一であっても異なってもよいし、任意の組合せが同一であってもよく、また、複数存在するq1、q2、q3、...、qm-1、qmは、それぞれ異なってもよく;
r1、r2、r3、...、rm-1は、それぞれ1、2、3、...、m-1世代目の分岐部分の分岐のうち(次世代の分岐部分に結合せず)末端基に結合している分岐の数であって、rmは0〜qmの整数であり、複数存在するr1、r2、r3、...、rm-1は、それぞれ異なってもよい。
【0022】
本発明において、樹状ポリマーは、コアの官能基に分岐部分が結合したもの(コアが存在する場合)又は2つの分岐部分同士が結合したもの(コアが存在しない場合)を第1世代(G1)、第1世代の分岐端部に更に別の分岐部分が結合したものを第2世代(G2)というように、分岐部分の繰り返し数(m;又は分岐部分の層数)に応じて、「第m世代(Gm)の樹状ポリマー」と呼ぶ。
【0023】
コアは、1つ以上の官能基を有する化合物から誘導されるものである。官能基としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、ヒドロキシ基、カルボン酸基、チオール基、エステル基、アミド基、ケトン基、アルデヒド基などが挙げられ、好ましくは、第一級アミノ基及び第二級アミノ基である。コアを構成する化合物としては、例えばアンモニア、ポリアミンなどが挙げられる。ポリアミンの例は、C1〜C12アルキル(好ましくは、C1〜C6アルキル)ジアミンである。
【0024】
分岐部分は、3以上の原子価を有する原子を含む分岐構造単位の繰り返しからなる。3以上の原子価を有する原子としては、炭素、窒素、ケイ素、リンなどが挙げられる。
樹状ポリマー中の分岐部分は1種類のみで構成されていてもよく、2種類以上で構成されていてもよい。
樹状ポリマーの分岐部分は、例えば、以下に示すような構造であり得る。
【0025】
【化1】

【0026】
樹状ポリマーの分岐部分は、本発明の複合ポリマーの水溶性の観点から、親水性であることが好ましく、そのため、アミド基、エステル基、(二級)アミノ基、カルボニル基、エーテル基、チオエーテル基を含むことが好ましく、アミド基、エステル基、アミノ基及び/又はカルボニル基を含むことが特に好ましい。
【0027】
末端基の構造は、所望により適宜選択できる。末端基としては、例えば、アミノ基、アミノ(C1〜C4)アルキル基、アミドエタノール基(2-ヒドロキシエチルアミノ基)、アミドエチルエタノールアミン基((2-ヒドロキシエチルアミノ)エチルアミノ基)、アミノ(C1〜C4)アルキル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシ(C1〜C4)アルキル基、カルボキシル基、カルボキシル(C1〜C4)アルキル基などが挙げられ、好ましくはアミノ基、カルボキシル基、より好ましくはアミノ基である。
末端基は、分岐部分の分岐末端部の基と一緒になって上記ような基を形成していてもよい。
【0028】
本発明の複合体ポリマーにおいては、樹状ポリマーの末端基は、コラーゲンモデルペプチドとの直接又は間接的な結合に使用されている。よって、末端基のアミノ基は、例えば、コラーゲンモデルペプチド又は誘導体化コラーゲンモデルペプチドのカルボキシル基とのアミド結合又はウレタン結合に供されており、末端基のヒドロキシ基は、例えば、コラーゲンモデルペプチド又は誘導体化コラーゲンモデルペプチドのカルボキシル基とのエステル結合に供されており、末端基のカルボキシル基は、例えば、コラーゲンモデルペプチド又は誘導体化コラーゲンモデルペプチドのアミノ基とのアミド結合に供されている。
【0029】
本発明において、樹状ポリマーの世代数は、2以上であれば特に制限されないが、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜6であり得る。
【0030】
樹状ポリマーは、公知の製造方法により製造できる。例えば、上記(1)〜(25)のような分岐部分を有する樹状ポリマーについての製造方法は、以下の文献:
(1)について、D.A. Tomaliaら、Polym. J. 17, 117 (1985);D.A. Tomaliaら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 29, 138 (1990)に、
(2)について、E.M.M. de Brabander-van den Bergら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1308 (1993);E.M.M. de Brabander-van den Bergら、Macromol. Symp. 77, 51 (1994);J.C. Hummelenら、Chem. Eng. J. 3, 1489 (1997);C. Wanerら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1300 (1993)に、
【0031】
(3)について、H.K. Hall Jr.ら、Polym. Bull. 17, 409 (1987)に、
(4)について、米国特許第4289872号;米国特許第4410688号;特表2008-539297号公報;A.M. Bondiaら、Tetrahedron Lett. 51, 3330 (2010)に、
(5)について、L.J. Twymanら、Tetrahedron Lett. 35, 4423 (1994)に、
(6)について、K.E. Uhrichら、J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1623 (1992)に、
(7)について、S.C.E. Bucksonら、Macromol. Symp. 77, 1 (1994)に、
【0032】
(8)について、G.R. Newkomeら、J. Org. Chem. 50, 2004 (1985);G.R. Newkomeら、J. Chem. Soc. Chem. Commun. 752 (1986);G.R. Newkomeら、J. Am. Chem. Soc. 108, 849 (1986);G.R. Newkomeら、J. Am. Chem. Soc. 112, 8458 (1990);G.R. Newkomeら、Macromolecules 24, 1443 (1991);G.R. Newkomeら、J. Org. Chem. 53, 5552 (1988);米国特許第5136096号;米国特許第5206410号;米国特許第5210309号に、
(9)について、M. Okazakiら、J. Am. Chem. Soc. 125, 8120 (2003);I. Washioら、Macromolecules 38, 2237 (2005)に、
【0033】
(10)について、R. Haagら、J. Am. Chem. Soc. 122, 2954 (2000)に、
(11)について、M. Jayaramanら、J. Am. Chem. Soc. 120, 12996 (1998)に、
(12)について、C.J. Hawkerら、J. Am. Chem. Soc. 112, 7638 (1990);G. L'abbeら、Chem. Commun. 2143 (1996)に、
(13)について、P. Murerら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 34, 2116 (1995)に、
(14)について、H.T. Changら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 35, 182 (1995)に、
【0034】
(15)について、H. Threら、J. Am. Chem. Soc. 118, 6388 (1995);H. Threら、J. Am. Chem. Soc. 123, 5908 (2001);Henrik R. Ihreら、Bioconjugate Chem. 13, 443-452 (2002);Andrew P. Goodwinら、J.Am.Chem.Soc., 129, 6994 (2007)に、
(16)について、Y. Hirayamaら、Org. Lett. 7, 525 (2005);中村大輔ら、高分子学会予稿集、54, 2949 (2005)
【0035】
(17)について、C.J. Hawkerら、J. Am. Chem. Soc. 114, 8405 (1992);C.J. Hawkerら、J. Am. Chem. Soc. 121, 262 (1999);D.M. Haddletonら、J. Chem. Soc. Perkin. Trans. 1, 649 (1996)に、
(18)について、D. Seebachら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 35, 2795 (1996);D. Seebachら、Helv. Chim. Acta. 80, 989 (1997)に、
(19)について、M.A. Carnahanら、J. Am. Chem. Soc. 123, 2905 (2001)に、
(20)について、M.A. Carnahanら、Macromolecules 34, 7648 (2001)に、
【0036】
(21)について、F. Zengら、J. Am. Chem. Soc. 118, 5326 (1996)に、
(22)について、A. Morikawaら、Macromolecules 26, 6324 (1993);A. Morikawa, 「Polymeric Materials Encyclopedia」 J.C. Salamone ed., CRC Press, 1996, vol. 3, p.1806に、
(23)について、S.R. Rannardら、J. Am. Chem. Soc. 122, 11729 (2000)に、
【0037】
(24)について、M. Tominagaら、Chem. Lett. 374 (2000)に、
(25)について、H. Uchidaら、J. Am. Chem. Soc. 112, 7077 (1990);A. Morikawaら、Macromolecules 24, 3460 (1991);M. Kakimoto, 「Polymeric Materials Encyclopedia」 J.C. Salamone ed., CRC Press, 1996, vol. 3, p.1809に記載されている。
一部のものは市販品として入手可能である。
【0038】
本発明に関しては、樹状ポリマーのうち、分岐の規則性が非常に高いもの(すなわち、上記式において、r1、r2、r3、...、rm-1がいずれも0のもの)を「デンドリマー」と呼ぶ。
第m世代の「デンドリマー」は、式:
Zs(X1(X2(X3(...(Xm-1(XmYmqm-1)(qm-1)-1)...)q3-1)q2-1)q1-1)p
(式中、変数の定義は上記式(I)と同じ)で表し得る。
【0039】
デンドリマーの概略構造は下記のように表し得る。
【化2】

【0040】
デンドリマーにおいては、複数のX1、X2、X3、...、Xm-1、Xmは全てが同一であることが好ましく、複数のYmは同一であることが好ましい。上記式で表されるデンドリマーのうち、p=1のものは特に「デンドロン」とも呼ばれる。
【0041】
第m世代のデンドリマーが有する末端基の数は、p×(q1−1)×(q2−1)×(q3−1)×...×(qm−1)である。全ての世代(層)で同じ分岐数qの分岐部分が使用されている場合、第m世代のデンドリマーの末端基の数は、p×(q-1)mである。
【0042】
デンドリマーのコアは、例えば、C1〜C12アルキル(好ましくは、C1〜C6アルキル)ジアミンであり得る。より具体的には、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,12-ジアミノドデカンが挙げられる。
コアが、デンドリマーの全体の形状(例えば、球状、楕円状、円柱状等)を決定する。
【0043】
デンドリマーの分岐部分は、例えば、上記(1)、(2)、(4)、(5)、(15)、(19)、(20)の構造であり得る。
本発明において、デンドリマーは、世代数が2以上であれば特に制限されないが、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜6である。
【0044】
本発明において、デンドリマーとしては、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーが好ましく、分岐部分が-CH2CH2CONHCH2CH2N<のPAMAMデンドリマーがより好ましい。
【0045】
第m世代のPAMAMデンドリマーは、簡潔には、コアとなる第一級アミン(例えば、エチレンジアミン)に、(例えばアクリル酸エステルを反応させる)マイケル付加反応とそれに続く(例えばジアミノアルカンを用いる)エステルアミド交換反応とからなる1サイクルの反応をm回繰り返し、任意に所望の末端基を付加することにより製造できる(Tomalia, D.ら(1985),前出;Frechet, J. M. J., Tomalia, D. A.編、(2001) Dendrimers and other dendritic polymers, J. Wiley & Sons, West Sussexを参照)。
【0046】
分岐部分が-CH2CH2CONHCH2CH2N<であるPAMAMデンドリマーは、アクリル酸メチルを用いるマイケル付加反応とエチレンジアミンを用いるエステルアミド交換反応との反応サイクルにより製造することができる。
また、PAMAMデンドリマーとしては、「Starburst(登録商標)PAMAMデンドリマー」の商品名でから市販されているものも、本発明における使用に適切である。
【0047】
本発明に関しては、樹状ポリマーのうち、分岐の規則性が比較的低いものを「ランダム樹状ポリマー」又は「ハイパーブランチポリマー」と呼ぶ。
ハイパーブランチポリマーは、一般にAB2型モノマーを重合させることにより、分岐を展開させる。ここで、A,Bとは、それぞれ重合反応可能な官能基の組み合わせを示すものである。例えば、水酸基とカルボキシル基、アミノ基とカルボキシル基などの組み合わせが挙げられる。さらに場合によっては、分岐のコアとして機能する物質を併用することもある。また、グリシドールやエチレンイミンなどの開環重合によってハイパーブランチポリマーを作製することもできる。
ハイパーブランチポリマーは上記のデンドリマーと同じように分岐部分を有するが、コア部は必須ではなく、また分岐部分に一部欠損して不規則または不連続な箇所があってもよい。デンドリマーにも存在する分岐部分及び末端部分をそれぞれ分岐ユニット(D)及び末端ユニット(T)といい、分岐が欠損している箇所を直鎖ユニット(L)と呼ぶ。
【0048】
ハイパーブランチポリマーの概略構造は下記のように表し得る。
【化3】

ハイパーブランチポリマーの分岐度は以下の式で表わされる。
分岐度=(D+T)/(D+T+L)
規則的に分離したデンドリマーでは分岐度は1、直鎖状ポリマーでは分岐度は0となる。
【0049】
ランダム樹状ポリマーの分岐ユニットは、「樹状ポリマー」について挙げられたいずれのものでもあり得るが、より具体的には、上記(1)、(2)、(4)、(5)、(15)、(19)、(20)の構造のものであり得る。さらに、エチレンイミン骨格、グリセリン骨格、様々な糖類の骨格でもあり得る。
【0050】
モノマーユニットがリシン(-NH-CH(C4H2NH-)CO-)であるランダム樹状ポリマーの具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0051】
ポリリシンランダム樹状ポリマーの例(PolyLysine-Dendri-graft:PLD):
【化4】

【0052】
上記式のようなポリリシンランダム樹状ポリマーは、直鎖ユニットとしての(Lys)8の側鎖及び/又は末端に、AB2型モノマーとしてのリシンモノマー(例えば、TFA-L-リシン-NCAモノマー[TFA:トリフルオロアセチル基;NCA:N-カルボキシ無水物]など)を繰り返し付加反応させることにより合成することできる。例えば、上記式のポリリシンランダム樹状ポリマーは、付加反応を2回繰り返すことによって合成することができる。
付加反応は、例えば、(TFA-L-リシン-NCAモノマー)/(直鎖ユニット又は直前の付加反応により得られたランダム樹状ポリマー)の重量比を2.6〜3.9とし、適切なpH条件(例えば、3〜9、好ましくは6〜7)下に、水性溶媒(例えば、HCO3NA水溶液)中、-10〜60℃(例えば0℃)で行われる。
【0053】
上記式のようなポリリシンランダム樹状ポリマーの平均分子量は、付加反応の繰り返し回数が1のもの(第2世代)については例えば6000〜14000(好ましくは8000〜9000)であり、2のもの(第3世代)については例えば15000〜30000(好ましくは20000〜25000)であり、3のもの(第4世代)については例えば50000〜80000(好ましくは64000〜67000)であり、4のもの(第5世代)については例えば140000〜200000(好ましくは170000〜180000)である。また、分岐度及び多分散性は、例えば、0.5〜0.9(好ましくは第2、3世代については0.7〜0.9、第4、5世代については0.6〜0.8)及び1.3〜1.5である。末端基数は、第2世代については例えば40〜60であり、第3世代については例えば100〜150であり、第4世代については例えば300〜450であり、第5世代については例えば900〜1100である。
【0054】
<コラーゲンモデルペプチド>
式(POG)n[式中、P:プロリン;O:ヒドロキシプロリン;G:グリシン;n:9以上の整数]で表されるトリペプチドリピートにおいて、nの上限は特に制限されないが、合成の難易性及び/又はコストの観点から、例えば30、25、20又は15であり得る。また、これらの混合物であってもよい。
【0055】
上記トリペプチドリピートを含む本発明に係るポリペプチドは、(POG)n部分の一方又は両方の端部に、1〜10個まで(例えば、2〜6個)の任意のアミノ酸が付加されたものであり得る。また、(POG)nユニットの内部に3の倍数の数のアミノ酸からなる任意のペプチド(トリペプチド、ヘキサペプチドなど)が挿入されたものでもよい。本ポリペプチドは、(POG)n部分が強固な三重らせんを形成するので、その一方若しくは両方の端部、又は中央部への10個程度のアミノ酸の付加は、本ポリペプチドのコンホメーション(三重らせん構造)形成にほとんど影響しないと考えられる。本ポリペプチドは、トリペプチドリピート(POG)nのみからなってもよい。
【0056】
ポリペプチドは、一方の末端を樹状ポリマーの末端基と反応性を有する基で誘導体化されていてもよい。結合させようとする樹状ポリマーの末端基がアミノ基である場合には、本ポリペプチドは、一方の末端(例えば、本来アミノ末端である末端)が、アミノ基とアミド結合又はウレタン結合を形成できる基、例えば4-ニトロフェニルカーボネート基又はカルボキシル基で誘導体化された形態であってもよく、樹状ポリマーの末端がヒドロキシ基である場合には、本ポリペプチドは、一方の末端(例えば、本来アミノ末端である末端)が、ヒドロキシ基とエステル結合を形成できる基、例えばカルボキシル基で誘導体化された形態であってもよい。
また、ポリペプチドの一方の末端にアミノ酸以外の化合物が結合されたものでもよい。例えば、標識化することができる蛍光色素やリガンド機能を持つ生理活性物質があり得る。
【0057】
ポリペプチドは、固相合成法又は液相合成法などの公知のペプチド合成法に従って製造することができる。
コラーゲンモデルペプチドと樹状ポリマーの末端基との反応は、末端基の種類によって適宜選択できる。例えば末端基がアミノ基又はヒロドキシル基である場合、コラーゲンモデルペプチドのカルボキシル基と反応させることにより、末端基がカルボキシル基である場合、コラーゲンモデルペプチドのアミノ基と反応させることにより、コラーゲンモデルペプチドを樹状ポリマーの末端基に直接結合させることができる。
【0058】
[ゲル形成剤]
本発明のゲル形成剤は、上記で説明したゲル形成性複合ポリマーを含んでなることを特徴とする。
ゲル形成剤は、任意に水性溶媒を含み得、したがって水性溶液の形態であり得る。水性溶液中のゲル形成剤の濃度は、例えば0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは5〜20重量%であり得る。また、水性溶液のpHは、例えば6〜8、好ましくは6.5〜7.5である。
水性溶媒としては、例えば、水、生理食塩水、これらに緩衝剤(リン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、酢酸塩等)を添加したものが挙げられる。
【0059】
ゲル形成剤において、樹状ポリマーは、予め、その内部環境(間隙)に種々の薬剤を包接させてもよい。薬剤をデンドリマー内部の間隙に包接させる方法は公知であり、例えばKojima C.ら、Bioconjuge Chem 11: 910〜7 (2000)などに記載されている。
【実施例】
【0060】
以下の実施例において、ポリペプチド(POG)n及び(PPG)nをそれぞれ「POGn」及び「PPGn」(例えばn=10のとき、POG10及びPPG10)と表記し、第m世代の樹状ポリマーを「Gm」(例えばm=4のとき、G4)と表記し、第m世代の樹状ポリマーGmの末端にポリペプチド(POG)nが結合した複合ポリマー(ポリペプチド結合樹状ポリマー)を「POGn-Gm」と表記する。
【0061】
1.コラーゲンモデルペプチド結合樹状ポリマーの合成
1.1.コラーゲンモデルペプチドPOG5、POG10及びPPG10のアセチル化
蒸留水1mlに、0.1g(73.8μmol)のPOG5((株)ペプチド研究所)を溶解し、4N水酸化ナトリウム水溶液200μlを加え、次いで無水酢酸69.8μl(0.738mmol)と4N水酸化ナトリウム水溶液200μlを同時に加え、その後4℃で12時間攪拌した。ニンヒドリンテストにより反応の進行を確認し、Sephadex LH-20(solvent:蒸留水)で精製後、凍結乾燥することで生成物を得た(収量:98.5mg;収率:95.5%)。
【0062】
蒸留水1mlに、0.1g(32.2μmol)のPOG10((株)ペプチド研究所)を溶解し、4N水酸化ナトリウム水溶液200μlを加え、次いで無水酢酸60.9μl(0.644mmol)と4N水酸化ナトリウム水溶液200μlを同時に加え、その後4℃で12時間攪拌した。ニンヒドリンテストにより反応の進行を確認し、Sephadex LH-20(solvent:蒸留水)で精製後、凍結乾燥することで生成物を得た(収量:102.5mg;収率:101.1%)。
【0063】
蒸留水5mlに、0.548g(0.216mmol)のPPG10((株)ペプチド研究所)を溶解し、4N水酸化ナトリウム水溶液200μlを加え、次いで無水酢酸409μl(4.32mmol)と4N水酸化ナトリウム水溶液900μlを同時に加え、その後4℃で12時間攪拌した。ニンヒドリンテストにより反応の進行を確認し、Sephadex LH-20(solvent:蒸留水)で精製後、凍結乾燥することで生成物を得た(収量:0.5107g;収率:91.8%)。
【0064】
上記アセチル化の反応スキームを下記に示す。
【化5】

【0065】
上記アセチル化ポリペプチドAc-POG5、Ac-POG10及びAc-PPG10のNMR測定の結果を図1に示す。
【0066】
1.2.アセチル化ポリペプチドAc-POGn(n=2、8、10)の合成
<操作>
ペプチド合成
ペプチド固相合成法により目的のペプチドを合成した。詳細な手順を以下に示す。
1)マルチ固相合成機(KMS-3;国産化学製)において、Fmoc-Gly-PEG Alko-resin(0.69mMol/g)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF;樹脂1g当り10ml)で2時間膨潤させる。
2)樹脂をDMF(樹脂1g当り10ml)で洗浄する(1分間×3回)。
3)20%ピペリジン/DMF溶液(樹脂1g当り10ml)を用いてFmocを除去する(3分間×2回、20分間×1回;脱保護)。
4)洗浄排液が中性(pH試験紙による確認)になるまでDMF(樹脂1g当り10ml)で繰り返し洗浄する(1分間×7回)。
5)Fmoc-アミノ酸のDMF溶液(樹脂1g当たり5ml)溶液及び4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド(DMT-MM)を加え、3時間反応させた。反応の進行をクロラニルテストにより確認した。
6)目的の配列を有するペプチドが得られるまで上記工程2)〜5)を繰り返す。
【0067】
縮合反応に用いた試薬の仕込み比を以下に示す。
試薬 モル比
DMT-MM 4
Fmoc-Pro-OH 4
Fmoc-Hyp-OH 4
Fmoc-Gly-OH 3
【0068】
クロラニルテスト
樹脂1〜5mgにDMF中2重量%のアセトアルデヒド溶液及びDMF中2重量%のp-クロラニル溶液を順に1滴ずつ加え、5分間室温にて放置した。溶液が青色であれば二級アミンの存在が確認できる。
【0069】
樹脂からの合成ペプチドの切り出し
7)上記工程2)〜4)を行い、Fmocを除去する(脱保護)。
8)50等量の無水酢酸、ピリジンのDMF溶液を加えて一晩攪拌することにより、アセチル化を行う。
9)適量のメタノール(MeOH)で洗浄した後、一晩減圧乾燥する。
10)乾燥した樹脂をナスフラスコに移し、TFA/H2O(95/5)(樹脂1g当り10ml)で3時間、攪拌しながら反応させる。
11)グラスフィルターで吸引ろ過し、TFAで洗浄する。
12)ろ液及び洗浄液中の溶媒を減圧留去した後、氷冷ジエチルエーテルで沈殿させ、沈殿物を凍結乾燥する。
【0070】
得られた沈殿物のNMR測定結果を図2に示す。NMRよりPOG由来のピークが確認でき、目的のペプチド(Ac-POG2、Ac-POG8及びAc-POG10)が得られたことが確証された。
【0071】
1.3.コラーゲンモデルペプチド結合デンドリマーの合成
(1)POGn-G4の合成
【化6】

【0072】
POG2-G4の合成
蒸留水2mlに、第4世代のポリアミドアミンデンドリマー(G4;Starburst(登録商標)PAMAMデンドリマー[412449-10G];末端数64;コア:-NCH2CH2N-(エチレンジアミン);分岐部分:-CH2CH2CONHCH2CH2N<;末端基:NH2)22.8mg(3.19μmol)を溶解し、更に4N水酸化ナトリウム水溶液500μl、上記で得られたAc-POG2 60.8mg(0.102mmol)、DMT-MM 0.113g(0.307mmol)を加え、室温で3日間攪拌した。反応の進行をニンヒドテストにより確認した。その後、透析(MWCO:2000, 外層:蒸留水)を1.5日間行い、凍結乾燥することで生成物を得た(収量:64.2mg;収率:76.8%)。
【0073】
POG5-G4の合成
蒸留水3mlに、PAMAM-G4 15.5mg(1.10μmol)を溶解し、更に上記で得られたAc-POG5 97.7mg(69.9μmol)、DMT-MM 51.3mg(0.140mmol)を順に加え、次いで1N水酸化ナトリウム水溶液450μlを加えてpHを約10に調整した後、40℃にてアルゴン雰囲気下で3日間攪拌した。反応の進行をニンヒドテストにより確認した。その後、Sephadex LH-20(solvent:蒸留水)で精製し、続いて透析(MWCO:2000, 外層:蒸留水)を1.5日間行った。次いで、溶媒を減圧留去し、凍結乾燥することで生成物を得た(収量:63.1mg;収率:56.8%)。
【0074】
POG8-G4の合成
蒸留水1mlに、PAMAM-G4 17.5mg(1.23μmol)を溶解し、4N水酸化ナトリウム水溶液500μl、上記で合成したAc-POG8 0.226g(0.103mmol)、DMT-MM 0.113g(0.308mmol)を加え、室温で3日間攪拌した。反応の進行をニンヒドテストにより確認した。その後、透析(MWCO:10000, 外層:蒸留水)を2日間行い、凍結乾燥することで生成物を得た(収量:87.0mg;収率:35.7%)。
【0075】
POG10-G4の合成
蒸留水2mlに、PAMAM-G4 7.15mg(0.503μmol)を溶解し、上記で生成したAc-POG10 0.101g(32.2μmol)、DMT-MM 35.4mg(96.6μmol)を順に加え、1N水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ性に調整した後、室温で4日間攪拌した。反応の進行をニンヒドテストにより確認した。その後、Sephadex LH-20で精製し、続いて凍結乾燥することで生成物を得た(収量:63.8mg;収率:59.0%)。
【0076】
PPG10-G4の合成
蒸留水2mlに、PAMAM-G4 17.0mg(1.19μmol)を溶解し、上記で生成したAc-(PPG)10 0.180g(68.7μmol)、DMT-MM 37.8mg(0.103mmol)を順に加え、1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7.42に調整した後、50℃で3日間攪拌した。反応の進行をニンヒドテストにより確認した。その後、80℃で透析(MWCO:10000、外層:蒸留水)を2日間行い、凍結乾燥することで生成物を得た(収量:135.6mg;収率:65.5%)。
【0077】
生成した上記コラーゲンモデルペプチド結合デンドリマーPOG2-G4、POG5-G4、POG8-G4及びPOG10-G4のNMR測定結果を図3に、PPG10-G4のNMR測定結果を図4に示す。それぞれデンドリマー由来のピーク(2.4ppm-3.2ppm付近)とポリペプチド由来のピーク(図1、2を参照)が存在することから、反応が進行したと考えられる。
反応率は、その積分比よりPOG2-G4については105%、POG5-G4については106%、POG8-G4については98%となった。
【0078】
POG10-G4及びPPG10-G4については、蛍光物質フルオレスカミンを用いる第一級アミノ基定量(検量線:L-チロシン)により求めた第1級アミノ基の残存量から算出したペプチドの反応率は、それぞれ96%及び95%となった。すなわち、デンドリマーに結合しているコラーゲンモデルペプチドの数は、平均で、60〜62と見積もられる。
【0079】
(2)POG10-G5の合成
【化7】

【0080】
0.1N NaOH水溶液2mlに、第5世代のPAMAMデンドリマー(G5;Starburst(登録商標)PAMAMデンドリマー[536709-5G];末端数128;コア:-NCH2CH2N-(エチレンジアミン);分岐部分:-CH2CH2CONHCH2CH2N<;末端基:NH2) 11.5mg(0.398μmol)、上記で得られたAc-POG10 79.3mg(25.5μmol)及びDMT-MM 28.1mg(76.5μmol)を溶解し、室温で5日攪拌した後、透析(MWCO;10000、外相:蒸留水)を2日行うことで白色の生成物を得た(収量:73.9mg;収率:81.4%)。
【0081】
生成したコラーゲンモデルペプチド結合デンドリマーPOG10-G5の1H NMR測定結果を図5に示す。PAMAM G5由来のピーク(A)とAc-POG10由来のピーク(A以外)が確認できることから反応が進行したと考えられる。蛍光物質フルオレスカミンを用いる第一級アミノ基定量(検量線:L-チロシン)により求めた第1級アミノ基の残存量から算出したペプチドの反応率は、38%であった。すなわち、デンドリマーに結合しているコラーゲンモデルペプチドの数は、平均で、48〜49と見積もられる。
【0082】
1.4.コラーゲンモデルペプチド結合ポリリシンランダム樹状ポリマーの合成
【化8】

【0083】
POG10-PLD-G2の合成
蒸留水6mlに、第2世代ポリリシンランダム樹状ポリマー(PolyLysine-Dendri-graft;PLD-G2;COLCOM(France)より購入;末端数49;末端基:NH2) 14.5mg(1.69μmol)を溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液1.5ml、上記で生成したAc-POG10 0.299g(0.110mmol)、DMT-MM 0.121g(0.329mmol)を順に加え、室温で3日間攪拌した。反応の進行をニンヒドテストにより確認した。その後、透析(MWCO:10000, 外層:蒸留水)を2日間行い凍結乾燥することで生成物を得た(収量:0.250g;収率:92.4%)。
【0084】
POG10-PLD-G3の合成
蒸留水2mlに、第3世代のポリリシンランダム樹状ポリマー(PLD-G3;COLCOM(France)より購入;末端数124;末端基:NH2) 24.6mg(1.12μmol)を溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液500μl、上記で生成したAc-POG10 0.496g(0.181mmol)、DMT-MM 0.190g(0.544mmol)を順に加え、室温で3日間攪拌した。反応の進行をニンヒドテストにより確認した。その後、透析(MWCO:10000, 外層:蒸留水)を2日間行い凍結乾燥することで生成物を得た(収量:0.481g;収率:98.4%)。
【0085】
NMR測定結果を図6に示す。
フルオレスカミンを用いる第一級アミノ基定量(検量線:L-チロシン)により求めた第1級アミノ基の残存量から算出したペプチドの反応率は、POG10-PLD-G2については81.3%であり、POG10-PLD-G3については67.8%であった。すなわち、PLDに結合しているコラーゲンモデルペプチドの数は、平均で、G2については39、G3については83〜84と見積もられる。
【0086】
1.5.コラーゲンモデルペプチド結合樹状ポリマーの種々の特性
(1)円二色性(CD)スペクトル測定
0.04mg/mlに調整したサンプル水溶液を作製し、4℃で一晩以上インキュベートした。その後、20℃で円二色性分散計(Jasco J-820)を用いて波長190〜260nmでの楕円率θを測定した(5回積算)。また、温度変化の場合は各温度で15分インキュベート後、同様にして測定を行った(3回積算)。
【0087】
図7にCDスペクトルを示す。いずれも複合ポリマーでも、コラーゲンの三重ヘリックス構造に特徴的な200nm付近での負のピークと225nm付近での正のピークを示すCDパターンが得られたが、POGの繰り返し数nが増加するにつれて225nm付近の正の極大値が増加している。これは、POG鎖長を増加することで三重へリックス形成性が向上することを示唆している。また、PPG10-G4よりPOG10-G4の方が正の極大値が増加している。これは、ヒドロキシプロリン(O)の水酸基によって水素結合が形成され、三重ヘリックス構造が安定化したためと考えられる。
一方、デンドリマーではなく、ポリリシンランダム樹状ポリマーでも、結合させた三重ヘリックス形成性の向上が見られた。また、この場合、世代数(分子量)の増加によって正の極大値がわずかに増加していることがわかった。
【0088】
続いて、温度変化測定を行った結果を図8に示す。POG10-G4以外のペプチド結合デンドリマーでは、温度が増加するにつれて縦軸の値(225nmにおけるモル楕円率)が減少した。これは、三重へリックスの解離を示している。POG鎖長が増加するにつれて三重へリックスの形成性および熱安定性が向上することが分かった。一方、POG10-G4に関しては、55℃付近からモル楕円率が急激に上昇した。これは集合体の形成を示唆している。
【0089】
(2)POG10-G4及びPOG10-G5の透過率変化測定
5mg/mlのPOG10-G4水溶液又は1mg/mlのPOG10-G5水溶液を作製し、4℃で一晩インキュベートした。次いで、40℃でサンプルを15分処理した後に、JASCO V-630 Spectrophotometer(日本分光)を用いて313nmにおける透過率の温度変化を測定した。なお、昇温速度は1℃/分で行った。
【0090】
POG10-G4についての結果を図9に示す。50℃付近で透過率の急激な減少が確認できる。これは、集合体の形成によって溶液が白濁したためであると考えられる。
POG10-G5についての結果を図10に示す。図より、POG10-G5は40〜50℃付近で透過率の減少が確認できる。この結果は、POG10-G5はこの温度領域で集合体を形成していることを示唆している。また、高温から冷却していくと、20℃付近で透過率が元に戻る、つまり集合体が解裂することが示唆された。
【0091】
(3)ゲル形成試験
本試験においては、ステンレス鋼球(直径2.38mm;56.4mg)を試料の上面に静置し、該球が底まで沈下すれば「ゾル状態」であり、そうでなければ「ゲル状態」であるとした。
POG5-G4、POG8-G4、POG10-G4、POG10-PLD-G2及びPOG10-PLD-G3について、15wt%(150mg/ml)水溶液を作製し、各温度(20、25、30、40℃)で15分保持した後、ボールを載せて写真を撮影した(図11〜13)。
【0092】
POG5-G4、POG8-G4及びPOG10-PLD-G2では4〜40℃のいずれの温度でもゾル状態であった(図11)。一方、PPG10-G4では低温ではゲルを形成したが、加熱によりゾルとなった(図12)。これは、コラーゲンが熱変性したゼラチン様の挙動である。
これに対し、POG10-G4、POG10-PLD-G3は加温するとゲルを形成し、冷却するとゾルになることがわかった(図13)。これは、天然コラーゲンと同様の挙動である。そして、体温付近(40℃)でゲルを形成することがわかった。
【0093】
POG10-G5について20wt%水溶液を作製し、各温度(15、20、25、30、35、40℃)で15分保持した後、ボールを載せて写真を撮影した(図14)。
その結果、20wt%のPOG10-G5水溶液は40℃でゲル化し、20℃で完全にゾル化することがわかった。これは、透過率測定の結果と一致しており、低温で集合体が崩壊したと考えられる。
また、本実施例で生成したPOG10-G5は、上記POG10-G4と比較してゲル化能が若干低かったが、これは、POG10-G5において、POG10の結合率が低かったことに起因してPOG10の集積性が低下したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の複合ポリマーは、生体適合性材料として有用である。本発明の複合ポリマーは、コラーゲン様の物質であるので、コラーゲン(特に、天然コラーゲン)の代用品として広く適用できる。例えば、癒着防止材、創傷被覆材若しくは創傷修復用インプラント、整形外科用インプラント、人工結合組織のような医療用材料又は再生医療用材料;埋め込み型の局所薬物送達又は薬物徐放システム;コンタクトレンズ又は眼科用インプラント;細胞培養基材又は細胞培養(例えば、三次元培養)用の足場材;美容・化粧用組成物におけるコラーゲンの代用品として使用可能である。
コラーゲンペプチド-修飾デンドリマーの薬物送達システムとしての使用可能性については、特開2009-263339号公報を、医療用材料又は再生医療用材料については、特表2001-514189号公報を参照。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の分岐を有する複数の分岐部分を含む樹状ポリマーと、(POG)n[式中、P:プロリン;O:ヒドロキシプロリン;G:グリシン;n:9以上の整数]で表されるトリペプチドリピートを含むポリペプチドとから構成され、その水性溶液が20℃でゾル状態であり、加温によりゲル化することを特徴とするゲル形成性複合ポリマー。
【請求項2】
前記ゲル化が30〜45℃の範囲内の温度で生じる請求項1に記載のゲル形成性複合ポリマー。
【請求項3】
前記ゲル化により生じたゲルが、冷却によって、35℃以下の温度でゾル化する請求項1又は2に記載のゲル形成性複合ポリマー。
【請求項4】
前記樹状ポリマーにおいて、分岐部分が、ポリアミドアミン、リシン又はグルタミン酸からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のゲル形成性複合ポリマー。
【請求項5】
前記樹状ポリマーに結合している前記ポリペプチドの数が40以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のゲル形成性複合ポリマー。
【請求項6】
前記水性溶液の濃度が0.1〜50重量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載のゲル形成性複合ポリマー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のゲル形成性複合ポリマーを含んでなることを特徴とするゲル形成剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−46660(P2012−46660A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190820(P2010−190820)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年5月11日 社団法人 高分子学会発行の「高分子学会予稿集 59巻1号[2010]」および 平成22年5月26日 社団法人 高分子学会主催の「第59回高分子学会年次大会」において発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】