説明

人工毛髪及びその製造方法

ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等よりなる人工毛髪に比較して、外観、質ともに天然ヒト毛髪に近い風合いを有し、経時的にその風合いを維持する人工毛髪に関するものであり、ポリトリメチレンテレフタレートを含むモノフィラメントからなる人工毛髪により、更には、繊度が22〜333デシテックス、融点225〜235℃、ガラス転移点温度が45〜80℃である、ポリトリメチレンテレフタレートを含むモノフィラメントからなる人工毛髪により、物性としての弾性回復率、強度、伸度、風合いが天然ヒト毛髪と類似し、縮れや光沢の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、外観、質ともに天然ヒト毛髪に近い風合いを有し、経時的にその風合いを維持する人工毛髪に関する。
【背景技術】
従来、かつらや付け毛等に用いる人工毛髪は、ポリエステル、アクリル、塩化ビニル、ナイロン等の合成繊維素材が使用されている。例えば、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートを混合することで風合いを改善することが試みられている(特開2002−161423号公報)。更には、例えば、人工毛髪の風合い、三つ編み等の手作業時の扱い易さを改良すべく、ポリエチレンテレフタレートを偏平に紡糸し、人工毛髪用繊維及び繊維束としている(特開平09−132813号公報)。
上記のような、人工毛髪素材を使用したかつらを着用して日常生活をしていると、毛髪としては不自然な、合成繊維素材特有の縮れや光沢が発生する。その結果、人工毛髪の代替としての風合い等で表現される自然感が損なわれ、かつらとしての価値が損なわれる現象が発生する。
【発明の開示】
本発明者らは、ポリトリメチレンテレフタレートをモノフィラメントに使用することで、上述の課題を克服した。
すなわち、本発明の課題は、
(1)ポリトリメチレンテレフタレートを含むモノフィラメントからなる人工毛髪、
(2)モノフィラメントの繊度が22〜333デシテックス、融点225〜235℃、ガラス転移点温度が45〜80℃である(1)記載の人工毛髪、あるいは、
(3)ポリトリメチレンテレフタレートを含むポリマーから人工毛髪のモノフィラメントを製造するに際し、ポリトリメチレンテレフタレートを含むポリマーを溶融紡糸する紡糸温度が240〜320℃であることを特徴とする人工毛髪の製造方法、
(4)モノフィラメント延伸時の延伸倍率が2.0〜4.0倍であることを特徴とする(3)記載の人工毛髪の製造方法、
(5)モノフィラメント延伸の際の温度が、延伸ゾーンでは35〜100℃であることを特徴とする請求項4記載の人工毛髪の製造方法
により達成される。
本発明の人工毛髪は、物性としての弾性回復率、強度、伸度、風合いが天然ヒト毛髪と類似しており、また、弾性回復率が高いことにより、縮れや折りシワによる光沢の発生を抑制することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に含まれるポリトリメチレンテレフタレートは、ポリトリメチレンテレフタレート単独であっても、以下に示すポリトリメチレンテレフタレートの共重合物であってもよい。すなわち、ポリトリメチレンテレフタレートとの共重合物質は、本発明の効果を損なわない範囲で、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の酸成分や、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール成分、ε−カプロラクトン、4−ヒドロキシ安息香酸、ポリオキシエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が共重合されていてもよく、その量が10wt%未満共重合されていてもよい。
また、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤などを共重合、または混合してもよい。
本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含む人工毛髪のモノフィラメントを構成するポリマーは、公知の方法を用いて重合することができる。例えば、テレフタル酸またはテレフタル酸の低級アルコールエステルと過剰の1,3−プロパンジオールをテトラブチルチタネート等の触媒存在下、エステル交換反応させ、次いで、得られた反応物にテトラブチルチタネート等の触媒を加えて、0.5torr以下の真空下、240〜280℃で重縮合反応を行うことにより、当該ポリマーを得ることができる。更に、得られたポリマーより常法の紡糸方法でモノフィラメントを製造することができる。
本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含む人工毛髪のモノフィラメントを構成するポリマーの分子量は、実施例に記載された方法で測定された極限粘度によって規定できる。極限粘度[η]は、通常0.4〜2.0、好ましくは0.5〜1.5、更に好ましくは0.6〜1.2である。極限粘度が0.4以上の場合は、ポリマーの溶融粘度が高いため、紡糸性が安定となる。また得られるモノフィラメントの強度も高く満足できるものとなる。逆に極限粘度が2.0以下の場合は、溶融粘度が高すぎないために、ギアポンプでの計量がスムーズに行われ、吐出不良等で紡糸性は低下することがない。
本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含む人工毛髪のモノフィラメントは、単糸繊度が22〜333デシテックス(dtex)であることが好ましい。更には40〜250dtexであること、更には50〜200dtexであることが、天然ヒト毛髪に近い外観、感触を得ることができる。
本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含む人工毛髪のモノフィラメントは、融点が225〜235℃、より好ましくは228〜232℃であることが好適である。紡糸温度に対して、融点の温度領域が狭いほど、加工特性が向上するためである。
本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含む人工毛髪のモノフィラメントは、ガラス転移点温度(以下、Tgと略記する)が45〜80℃であることが好適である。Tgは非晶部分の分子密度に対応するので、この値が小さくなるほど非晶部分の分子密度が小さくなるために分子が動きやすくなる。Tgが80℃を越えないと、繊維の剛性が高くならず毛髪としてのセットができる。Tgが45℃以上であると毛髪としての風合いが損なわれない。毛髪としてのバランスがよいという観点から、Tgは、好ましくは45〜70℃、更に好ましくは55〜65℃である。
このようにTgは繊維の構造因子であるために、同じ分子構造を持つポリマーであっても、紡糸温度、紡糸速度、延伸倍率、延伸の際の温度等の紡糸条件によって異なる値を示すものである。
本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含む人工毛髪のモノフィラメントの単糸断面は特に制限はなく、丸、三角、四角、五角、あるいは、扁平糸等が挙げられる。
本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含む人工毛髪のモノフィラメントは、公知の方法で製造することができる。すなわち、例えば、ノズルから押し出されたポリマーが水冷によって冷却固化した後、一定の速度で回転している第一ロールに数回以上巻き付けられることにより、ロール前後での張力が全く伝わらないようにし、第一ロールと第一ロールの次に設置してある第二ロールとの間で延伸を行い、その後ワインダーで巻き取る方法で製造できる。
モノフィラメントにおいてポリマーを溶融紡糸する際の紡糸温度は240〜320℃、好ましくは245〜300℃、更に好ましくは250〜280℃が適当である。紡糸温度が240℃以上では、安定した流動性が得られ、紡糸性が損なわれず、また満足し得る強度を示す。紡糸温度が320℃以下では、熱分解が激しくならず、得られた糸は着色することなく、また満足し得る強度を示す。
糸の巻き取り速度については、通常1500m/min以下、好ましくは500m/min以下、更に好ましくは400m/min以下で巻き取る。巻取速度が1500m/min以下であると、冷却が容易となる。
また、延伸時の延伸倍率は2.0〜4.0倍、好ましくは2.2〜3.7倍、更に好ましくは、2.5〜3.5倍がよい。延伸倍率が2.0倍以上では、延伸により十分にポリマーを配向させることができ、得られた糸の強度は低いものとなりにくい。また4.0倍以下では糸切れが抑えられ、安定して延伸を行うことができる。
延伸の際の温度は、延伸ゾーンでは35〜100℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは50〜100℃がよい。延伸ゾーンの温度が35℃以上では延伸の際に糸切れが少なく、連続してモノフィラメントを得ることができる。また100℃以下であると延伸ロールなどの加熱ゾーン対する繊維の滑り性が悪化することなく、糸切れが少ない。また必要に応じて、120〜180℃の熱セットを行ってもよい。
また、上記のような紡糸条件により、本発明において好適な範囲のガラス転移点温度を有するモノフィラメントが得られる。
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、言うまでもなく実施例のみに本発明は限定されるものでない。尚、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)極限粘度
オルト−クロロフェノールを溶媒として、ポリマー濃度1.0%、35℃にてオストワルドの粘度計による測定法で測定した。
(2)ガラス転移点
セイコーインスツルメンツ製熱分析装置(EXSTAR6000)を用い、乾燥窒素中、昇温速度20℃/分にて測定した。
(3)弾性回復率
試料長100センチメートルに200グラムの重りを24時間吊るしたのちに開放して、1時間後の試料長を測定した。
この方法による天然ヒト毛髪の弾性回復率は、85%であった。
(4)風合いの比較
目視で人工毛髪と天然ヒト毛髪との風合いを比較した。
◎:非常に天然ヒト毛髪に近い風合い
○:天然ヒト毛髪に近い風合い
△:天然ヒト毛髪でないことがわかる
×:明らかに天然ヒト毛髪でないことがわかる
[実施例1〜3]
ポリトリメチレンテレフタレート(極限粘度0.85)を使用して紡糸温度270℃で溶融押し出しを行い、延伸倍率を2.5倍、延伸ゾーンの温度を実施例1,2は70℃、実施例3は80℃で紡糸した。繊度、55、111、222dtexのモノフィラメントを紡糸した。それら得られたモノフィラメントについて、評価した結果を第1表に示す。得られたモノフィラメントのTgは55℃であった。弾性回復率は、天然ヒト毛髪に近い結果を得た。また、天然ヒト毛髪との比較においては、非常に天然ヒト毛髪に近い風合いを得た。更に、経時的にその風合いを維持するものであった。
[実施例4〜6]
ポリトリメチレンテレフタレートを使用して紡糸温度270℃で溶融押し出しを行い、延伸倍率を3.5倍、延伸ゾーンの温度を実施例4,5は80℃、実施例6は100℃で紡糸した。繊度、55、111、222dtexのモノフィラメントを紡糸した。それら得られたモノフィラメントについて、評価した結果を第1表に示す。得られたモノフィラメントのTgは65℃であった。弾性回復率は、天然ヒト毛髪に近い結果を得た。また、天然ヒト毛髪との比較においては、非常に天然ヒト毛髪に近い風合いを得た。更に、経時的にその風合いを維持するものであった。

(比較例1〜8)
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン(Ny)、アクリル(AN)、塩化ビニル(PVC)を紡糸し、同様に評価した。その結果を第2表に示す。
比較例では、何れにおいても、弾性回復率が低く、また、天然ヒト毛髪に近い風合いを得ることができなかった。

【産業上の利用可能性】
本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含むモノフィラメントは、人工毛髪に用いた場合、公知のポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等からなる人工毛髪に比較して、外観、質等を著しく向上したものとなる。従って、本発明のポリトリメチレンテレフタレートを含むモノフィラメントからなる人工毛髪は極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレートを含むモノフィラメントからなる人工毛髪。
【請求項2】
モノフィラメントの繊度が22〜333デシテックス、融点225〜235℃、ガラス転移点温度が45〜80℃である請求の範囲第1項記載の人工毛髪。
【請求項3】
ポリトリメチレンテレフタレートを含むポリマーから人工毛髪のモノフィラメントを製造するに際し、ポリトリメチレンテレフタレートを含むポリマーを溶融紡糸する紡糸温度が240〜320℃であることを特徴とする人工毛髪の製造方法。
【請求項4】
モノフィラメント延伸時の延伸倍率が2.0〜4.0倍であることを特徴とする請求の範囲第3項記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項5】
モノフィラメント延伸の際の温度が、延伸ゾーンでは35〜100℃であることを特徴とする請求の範囲第4項記載の人工毛髪の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/004652
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511493(P2005−511493)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008705
【国際出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(502332991)富士ケミカル株式会社 (20)
【Fターム(参考)】