説明

人工皮膚

【課題】表皮基底膜を介して表皮・真皮間のコミュニケーションが十分に達成されている天然皮膚の構造に限りなく近い人工皮膚を提供する。
【解決手段】ヒト表皮由来のケラチノサイト及びヒト真皮由来の線維芽細胞を含んで成る人工皮膚形成培地中にマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを添加し、該人工皮膚形成培地中の細胞を培養し、そして人工皮膚を形成させることを特徴とする、人工皮膚の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤を用いることによる人工皮膚の新規な製造方法、ならびに該方法によって製造される新規な人工皮膚に関する。
【背景技術】
【0002】
人類を始めとする様々な動物の身体全体を覆う皮膚は、日光、乾燥、酸化、環境によるストレス、精神的ストレスなどの外的因子及び加齢によるしわの形成、硬化、しみ、くすみ、弾力性の低下等の変化に曝されている。
【0003】
天然皮膚においては、大きく分けて、表皮と真皮の二つの層から構成されており、表皮と真皮の間には表皮基底膜と呼ばれる薄くて繊細な膜が存在する。表皮基底膜は、約0.1 μm 程度の非常に薄い構造体であり、表皮と真皮の接合部にシート状に存在する。表皮基底膜は、基本構造であるラミナデンサ(lamina densa)とラミナルシダ(lamina densa)に加えて、ケラチノサイトのヘミデスモソーム、アンカリングフィラメント、アンカリング線維などから構成されており、特に該基本構造はIV型コラーゲン、各種ラミニン、及びプロテオグリカンなどで構成されている。表皮基底細胞と基本構造、特にラミナデンサを結合しているアンカリングフィラメントの主要な成分はラミニン5であり、基本構造と真皮のコラーゲン線維は、VII型コラーゲンを主成分とするアンカリング線維によって連結されている。またアンカリングフィラメントとアンカリング線維は互いに結合でき、これらはアンカリング複合体と称される複合体を形成する。このような構造によって、生体の最外層に存在する皮膚は外界からの力学的なストレスに負けない強度を保っている(化粧品事典, 日本化粧品技術者会編, p405-406)。
【0004】
しかしながら、何らかの原因により生来の皮膚(すなわち、天然皮膚)が損傷を受けた場合には、その代替物としての人工皮膚の需要が高まっている。また、皮膚に対する医薬や化粧品の作用や薬物を試験するための実験材料としても人工皮膚の開発が極めて重要であり、いずれの用途においても、天然の皮膚の構造を可能な限り模倣した人工皮膚が強く望まれている。
【0005】
従来の人工皮膚の製造方法としては、ヒト線維芽細胞を含む収縮I型コラーゲンゲルの上に正常ヒト表皮ケラチノサイトを培養して表皮層を形成せしめる方法が知られている。しかしながら、この方法においては、真皮を模倣するコラーゲンゲルと表皮を模倣する表皮層との間に基底膜が十分に形成されないため、このような人工皮膚を用いる場合には、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、又はマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とマトリックスタンパク質産生亢進剤の両者を投与することで皮膚基底膜構造の再形成を促進させてきた(特開 2001-269398 号公報)。また、セリンプロテアーゼを阻害する物質及び表皮基底膜成分の主要構成成分であるIV型、VII型コラーゲン又はラミニン5の産生量を高める物質が、マトリックスプロテアーゼ阻害剤による基底膜形成促進効果を促進させることが知られている(特開 2004−75661 号公報)。しかしながら、このような従来技術により製造された人工皮膚においては、依然として、表皮基底膜と真皮との高次構造の形成が未成熟であり、表皮基底膜と真皮間のコミュニケーションが十分に達成されているとはいえない。
【0006】
また、ヘパラナーゼ活性を阻害する化合物が皮膚のしわ形成過程において生体内の基底膜機能を改善し、これによりしわの形成を抑制することが知られているが(WO 2009/123215 号)、かかる化合物とマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とを組み合わせることで、人工皮膚の表皮基底膜と真皮の再形成を促進することについては知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−269398号公報
【特許文献2】特開2004−75661号公報
【特許文献3】WO2009/123215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、表皮基底膜と真皮間のコミュニケーションが十分に達成されており、天然皮膚の構造に限りなく近い人工皮膚を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このたび、本発明者は、ヒト表皮由来のケラチノサイト及びヒト真皮由来の線維芽細胞を含んで成る人工皮膚形成培地中にマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを添加し、該培地中の細胞を培養することにより人工皮膚を形成させたところ、表皮基底膜及び真皮の高次構造が天然皮膚に極めて近似した人工皮膚を得ることに成功した。
【0010】
したがって、本願は以下の発明を包含する:
[1] ヒト表皮由来のケラチノサイト及びヒト真皮由来の線維芽細胞を含んで成る人工皮膚形成培地中にマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを添加し、該人工皮膚形成培地中の細胞を培養し、そして人工皮膚を形成させることを含む、人工皮膚の製造方法。
[2] 連続したラミナデンサ及び該ラミナデンサから生じるアンカリング線維を含む表皮基底膜とコラーゲン線維を含む真皮とを含んで成る人工皮膚であって、上記表皮基底膜中に存在する連続したラミナデンサから生じるアンカリング線維と真皮中に存在するコラーゲン線維とが結合することにより、表皮基底膜と真皮が強固に接着されていることを特徴とする、人工皮膚。
[3] 前記真皮がフィブリポジトー(fibripositor)を更に含んで成る、上記[2]に記載の人工皮膚。
[4] 前記真皮においてエラスチン線維が形成されることを特徴とする、上記[2]又は[3]に記載の人工皮膚。
[5] 上記[1]に記載の方法により製造されることを特徴とする、上記[2]〜[4]のいずれかに記載の人工皮膚。
[6] マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを含んで成る培地中で形成される人工細胞であって、該人工細胞が連続したラミナデンサ及び該ラミナデンサから生じるアンカリング線維を含む表皮基底膜とコラーゲン線維を含む真皮とを含んで成り、上記表皮基底膜中に存在する連続したラミナデンサから生じるアンカリング線維と真皮中に存在するコラーゲン線維とが結合することにより、表皮基底膜と真皮が強固に接着されていることを特徴とする、人工皮膚。
【発明の効果】
【0011】
驚くべきことに、本発明の方法によって得られた人工皮膚の表皮基底膜内において、従来の人工皮膚では観察されなかった連続した均一なラミナデンサ及び該ラミナデンサに結合するアンカリング線維の形成が確認された。さらに、該人工皮膚の真皮内においては、これまでに天然皮膚でしか報告されていないフィブリポジトー(fibripositor)が観察され、さらに従来の方法では再構築が極めて困難であったエラスチン線維の形成が確認された。これらの表皮基底膜及び真皮の高次構造は、天然皮膚のものと極めて近似するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】コントロール群、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤のみを培養液に添加し培養した皮膚モデル(A群)、ヘパラナーゼ阻害剤のみを培養液に添加し培養した皮膚モデル(B群)、MMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の両方を培養液に添加し培養した皮膚モデル(C群)の基底膜の構造を示す写真である。
【図2】コントロール群、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤のみを培養液に添加し培養した皮膚モデル(A群)、ヘパラナーゼ阻害剤のみを培養液に添加し培養した皮膚モデル(B群)、MMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の両方を培養液に添加し培養した皮膚モデル(C群)の基底膜直下の真皮に存在する繊維芽細胞を示す写真である。コントロール群、A群、B群は通常の繊維芽細胞であるのに対して、C群はフィブリポジトーを含む繊維芽細胞を示している。
【図3】MMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の両方を培養液に添加し培養した皮膚モデル(C群)の真皮内に形成されたエラスチン線維を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤
本発明において使用するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤としては、マトリックスメタロプロテアーゼに対して阻害活性を有する物質であればよく、特に制限はない。マトリックスメタロプロテアーゼとしては、例えばゼラチナーゼ、コラゲナーゼ、ストロメライシン、マトリライシン等が挙げられる。従って、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤は、例えばゼラチナーゼ、コラゲナーゼ、ストロメライシン、マトリライシン等を阻害する物質として選択することができる。
【0014】
マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤の具体例としては、CGS27023A物質(N−ヒドロキシ−2−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル]3−ピコリル)アミノ]−3−メチルブタンアミド塩酸塩)(J. Med. Chem. 1997, Vol. 40, p. 2525-2532)、MMP−インヒビター(p-NH2-Bz-Gly-Pro-D-Leu-Ala-NHOH)(FN-437)(BBRC, 1994, Vol. 199, p. 1442-1446)などが挙げられる。好適には、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤はCGS27023A物質である。
【0015】
ヘパラナーゼ阻害剤
本発明において使用するヘパラナーゼ阻害剤としては、ヘパラナーゼに対して阻害活性を有する物質であればよく、特に制限はない。ヘパラナーゼは種々の細胞に存在し、様々なヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸鎖を特異的に分解する酵素である。皮膚では、表皮を構成する表皮角化細胞及び真皮の線維芽細胞、血管内皮細胞などが産生する。
【0016】
ヘパラナーゼ阻害剤の具体例としては、1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレアが挙げられる。
【0017】
人工皮膚
本発明における人工皮膚の製造に用いる基礎培地としては、人工皮膚の製造に従来から使用されている任意の培地を用いることができ、これらの培地としては10%の牛胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM);10%の牛胎児血清、トランスフェリン5μg/ml、インシュリン5μg/ml、tri−ヨードチロニン2nM、コレラトキシン0.1nM、ヒドロコーチゾン0.4μg/mlを含むDMEM−Ham’sF12(3:1);ケラチノサイト増殖培地(KGM)と10%牛胎児血清を含むDMEMとを1:1に混合した培地、等が挙げられる。これらの基礎培地に添加されるマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤の量は、その種類により異なるが、典型的には約10μg/L〜10g/Lであり、好適には約100μg/L〜1g/Lであり、そして最適には約1mg/L〜100mg/Lである。また基礎培地に添加されるヘパラナーゼ阻害剤の量は、その種類により異なるが、典型的には約10μg/L〜100g/Lであり、好適には約100μg/L〜10g/Lであり、そして最適には約1mg/L〜1g/Lである。
【0018】
本発明の人工皮膚の製造においてはまず、金網の上にヒト線維芽細胞を含む収縮I型コラーゲンゲルを静置する。ヒト線維芽細胞を含む収縮I型コラーゲンゲルは、例えば次のようにして調製することができる。線維芽細胞懸濁コラーゲン溶液を氷上にて作製後、ペトリ皿内にてコラーゲンをゲル化させて調製する。その後、ペトリ皿壁面からゲルを剥離し、コラーゲンゲルをCO2インキュベーター内にて収縮させる。
【0019】
次に、上記コラーゲンゲルの上に、表皮細胞、例えばヒト正常表皮ケラチノサイトを培養し、表皮を形成する。皮膚細胞の培養による表皮層の形成は次のようにして行うことができる。収縮コラーゲンゲルを金網の上にのせ、さらにガラスリングをこのゲルの上にのせる。このガラスリング内に液漏れをさせないようにヒト包皮由来の表皮ケラチノサイト懸濁液を入れる。CO2インキュベーター内にてケラチノサイトを接着させ、リングを外す。上記培地を表皮層の境界まで満たし、表皮層を空気に曝しながら、培養を継続し、角層を形成させる。
【0020】
この方法によれば、培養から約1日〜4週間、典型的には約4日〜2週間という極めて短期間で、天然皮膚の構造に極めて近い人工皮膚を得ることができる。具体的には、本発明の人工皮膚の表皮基底膜内においては、従来の人工皮膚では観察されなかった連続した均一のラミナデンサ及び該ラミナデンサに結合するアンカリング線維の形成が確認された。
【0021】
ラミナデンサはIV型コラーゲン、各種ラミニン及びプロテオグリカンなどで構成される表皮基底膜の基本構造であり、そしてVII型コラーゲンを主成分とするアンカリング線維は該基本構造であるラミナデンサから生じており、これが真皮のコラーゲン線維と絡み合うことによって、表皮基底膜と真皮とを強固につなぐ機能を有する。したがって、本発明の人工皮膚の表皮基底膜中の連続したラミナデンサ及び該ラミナデンサから生じるアンカリング線維の形成は、本発明の人工皮膚が、天然皮膚と同様に外界からの力学的なストレスに対して極めて強い強度を有することを意味する。
【0022】
さらに驚くべきことに、本発明の人工皮膚の真皮内においては、粗面小胞体が発達した繊維芽細胞及び内部にフィブリポジトー(fibripositor)を有する繊維芽細胞の存在が確認された。粗面小胞体では、その内部に存在する膜結合リボソームによって分泌タンパク質が合成されることが知られている。また、フィブリポジトーはその内部にコラーゲン原線維を有しており、繊維芽細胞から突き出ているアクチンリッチな原形質膜突起として知られており、フィブリポジトーによって、隣接する繊維芽細胞により形成される細胞外チャネルにコラーゲン原線維が沈着されることが報告されている(Elizabeth G. Canty et al., The Journal of Cell Biology, Vol. 165, No. 4, 2004, pp. 553-563, Elizabeth G. Canty et al., The Journal of Biological Chemistry, Vol. 281- No. 50, December 15, 2006, Sally M. Humphries et al., The Journal of Biological Chemistry, Vol. 283, No. 18, pp. 12129-12135, 及びZoher Kapacee et al., Matrix Biology 27(2008)371-375)。したがって、本発明の人工皮膚の真皮内において、粗面小胞体が発達した繊維芽細胞及び内部にフィブリポジトー(fibripositor)を有する繊維芽細胞が存在するという事実は、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤によって、再形成された人工皮膚の真皮内に存在する繊維芽細胞の機能が有意に活性化されたことを示し、本発明の人工皮膚においては、天然皮膚と同様に、分泌タンパク質の合成やコラーゲン線維といった細胞マトリックスの産生が盛んに行われていることを意味する。
【0023】
さらに重要なことに、本発明の人工皮膚の真皮内においては、従来の人工皮膚では再構築が極めて困難であったエラスチン線維の形成が確認された。エラスチン線維は、主成分としてミクロフィブリルと無定型エラスチンから構成されており、天然皮膚においては、成熟したエラスチン線維は網状層のコラーゲン線維の間に分布している。エラスチン線維の主な機能は皮膚に弾力性を与え、皮膚のはりを保つことである。また、基底膜直下に垂直に走行しているミクロフィブリルは、基底膜を真皮につなぐ重要な役割を果たしている。したがって、本発明の人工皮膚の真皮内におけるエラスチン線維の形成は、本発明の人工皮膚が天然皮膚と同様の機能を有することを示す極めて重要な証拠である。
【0024】
本発明の人工皮膚は、生体の天然皮膚が何らかの原因による病変又は損傷を伴う場合には、その代替物として臨床的に移植することができる。また、本発明の人工皮膚は、火傷によるケロイド跡、植皮跡、手術跡、深いしわ、深い傷跡、ニキビ跡、大きな毛穴、小じわ等を補正するために、皮膚上の凹凸表面に美容学的に適用することも可能である。さらに、本発明の人工皮膚は、研究用又は試験用モデルとして、例えば医薬又は化粧料の皮膚透過試験又は効能もしくは毒性を試験するために、あるいは創傷治癒、細胞遊走、癌細胞の侵入、癌細胞の転移又は癌の進行等を研究するために用いることができる。
【0025】
上述のとおり、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の組み合わせは、人工皮膚において正常な天然皮膚と極めて近似する表皮基底膜及び真皮の高次構造をもたらすことから、これらの組み合わせは本発明の人工皮膚を形成させるための培養液としても有用である。したがって、本発明のほかの態様として、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤を含んで成る人工皮膚培養液が供される。また、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤及びヘパラナーゼ阻害剤を生体の皮膚に適用した場合には、表皮基底膜及び真皮の再生・修復が有意に促進されるものと考えられる。したがって、本発明のさらなる態様においては、1又は複数のマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを含んで成る皮膚基底膜及び/又は真皮の再生・修復を促進するための皮膚賦活用組成物が提供される。ここで「皮膚賦活」とは、例えば加齢等による基底膜及び/又は神秘の構造変化に伴う皮膚の機能低下、具体的には皮膚のしわ、硬化などを防御・改善することを意味する。
【0026】
上記の人工皮膚培養液又は皮膚賦活組成物には、活性成分としてマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤が皮膚基底膜及び真皮の再生・修復を促進するために十分な濃度において含有され、典型的には培養液又は組成物に対して各々0.0000001〜10重量%、好適には0.000001〜10重量%で含有される。
【0027】
また、上記の人工皮膚培養液又は皮膚賦活組成物には、これらを調製する際に常用されている賦形剤等をはじめ、香料、油脂類、界面活性剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子、増粘剤、粉末成分、紫外線防御剤、保湿剤、薬効成分、酸化防止剤、pH調整剤、洗浄剤、乾燥剤、乳化剤等を適宜配合できる。これら各種成分を本発明の人工皮膚培養液又は皮膚賦活組成物に配合する場合には、本発明の所期の効果を損なわない範囲内で行う必要がある。
【実施例】
【0028】
1.皮膚モデルの培養方法
皮膚モデル(EFT-400、MatTeK 社製)を専用培地(EFT-400-ASY、MatTeK 社製)中で培養した。コントロール群として、ジメチルスルホキシド(DMSO)とエタノールを終濃度が0.1%となるように専用培地に添加し、ヘパラナーゼ阻害剤群として、終濃度が50μMとなるように50mMの1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレア(DMSO溶媒)を専用培地に添加し、MMP阻害剤群として、終濃度が10μMとなるように10mMのN−ヒドロキシ−2−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル]3−ピコリル)アミノ]−3−メチルブタンアミド塩酸塩(CGS27023A, エタノール溶媒)を専用培地に添加し、そしてヘパラナーゼ阻害剤+MMP阻害剤群として、各々終濃度が50μM及び10μMとなるように50mMの1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレア(DMSO溶媒)及び10mMのCGS27023A(エタノール溶媒)を専用培地に添加して、これらを培養した。
【0029】
2.電子顕微鏡観察
半分にカットした培養後の上記皮膚モデルをザンボーニ固定液にて固定し、オスミウム酸にて後固定後、定法に従って樹脂に包埋した。組織の観察は超薄切片を作成し、酢酸ウラニウムによって染色したのち電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JEM-1230)を用いて行った。通常の培養液に溶媒を添加して培養した皮膚モデル(コントロール群)、MMP阻害剤としてN−ヒドロキシ−2−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル]3−ピコリル)アミノ]−3−メチルブタンアミド塩酸塩(CGS27023A)のみを培養液に添加し培養した皮膚モデル(A群)、ヘパラナーゼ阻害剤として1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレアのみを培養液に添加し培養した皮膚モデル(B群)、及びN−ヒドロキシ−2−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル]3−ピコリル)アミノ]−3−メチルブタンアミド塩酸塩(CGS27023A)と1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレアの両方を培養液に添加し培養した皮膚モデル(C群)の比較を微細形態学的に行った。その結果を以下の表に示す。
【表1】

◎ 明らかな連続性が観察される;△ 弱い連続性が観察される;× 連続性がない;― 観察されない
【0030】
正常ヒト皮膚にて観察される構造の内、係留線維構造の形成はC群、すなわちMMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の両方を添加した場合のみ観察された。またこれまでに報告された皮膚モデルでは出現させることはできなかった、皮膚のマトリックス形成に重要な役割を担っていると考えられているフィブリポジトーの出現もC群にのみ観察された。さらに皮膚モデルの基底膜直下において構造形成されたエラスチンの出現がC群のみで観察された。これらの結果はこの皮膚モデルC群がこれまでになく生体皮膚に類似していることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト表皮由来のケラチノサイト及びヒト真皮由来の線維芽細胞を含んで成る人工皮膚形成培地中にマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを添加し、該人工皮膚形成培地中の細胞を培養し、そして人工皮膚を形成させることを含む、人工皮膚の製造方法。
【請求項2】
連続したラミナデンサ及び該ラミナデンサから生じるアンカリング線維を含む表皮基底膜とコラーゲン線維を含む真皮とを含んで成る人工皮膚であって、上記表皮基底膜中に存在する連続したラミナデンサから生じるアンカリング線維と真皮中に存在するコラーゲン線維とが結合することにより、表皮基底膜と真皮が強固に接着されていることを特徴とする、人工皮膚。
【請求項3】
前記真皮がフィブリポジトー(fibripositor)を更に含んで成る、請求項2に記載の人工皮膚。
【請求項4】
前記真皮においてエラスチン線維が形成されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の人工皮膚。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により製造されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の人工皮膚。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−182823(P2011−182823A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48159(P2010−48159)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】