説明

人工股関節用器具

【課題】試験整復時にライナーの摺動面を保護することができる人工股関節用器具を提供する。
【解決手段】骨盤の寛骨臼に装着可能であって、凹状の内壁8を有するカップたるライナー7と、内壁8に摺動する骨頭とを備えた人工股関節の選定に用いられる。前記内壁8内に試験整腹用骨頭を嵌めて大腿骨コンポーネントを選定する人工股関節用器具において、内壁8内に着脱可能に設けられ試験整腹用骨頭が摺動可能に嵌る試験用カップ21を備える。内壁8の摺動面8Sに試験用カップ21を取り付けた状態で、試験用カップ21に試験整腹用骨頭を嵌め、関節運動を負荷することにより頚部の長さなどを選定する。このように試験整復用骨頭を試験用カップ21に嵌めて試験を行うから、内壁8の摺動面8Sを傷つけることがなく、人工股関節1の耐久性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、人工股関節101は、骨盤の寛骨臼102に取り付ける寛骨臼コンポーネント103と、大腿骨104側の大腿骨コンポーネント105からなる(例えば特許文献1〜6)。人工股関節の構造は多種にわたるが、多くのものでは、寛骨臼コンポーネント103のカップ106は、寛骨臼102に固定する金属シェル107Aとその内部に設置するライナー107から構成され、大腿骨コンポーネント105はステム108と骨頭109から構成され、この骨頭109はステム108から延び出る頚部110に固定される。関節運動は、骨頭109がライナー107の内面と摺動運動をすることで行われる。
【0003】
図5〜図6は、寛骨臼コンポーネント103の一例を示し、寛骨臼コンポーネント103はポリエチレン製からなる凹状のライナー107を有し、このライナー107の内壁107Nが摺動面となり、その整復には合成樹脂製の試験整復用大腿骨コンポーネント111が用いられる。この試験整復用大腿骨コンポーネント111は、試験整復用ステム112と、前記内壁107Nに摺動する試験整復用骨頭113と、これら試験整復用ステム112と試験整復用骨頭113とを連結する試験整復用頚部114を有する。尚、試験整復用大腿骨コンポーネント111は少なくとも試験整復用骨頭113を合成樹脂製とすることが好ましい。
【0004】
そして、前記寛骨臼コンポーネント103を患者の体内に埋め込み、骨盤に固定した後、試験整復用骨頭113を用いて仮整復を行い、大腿骨コンポーネント105の適切な頚部110の長さを決めることがある。なお、図7には、試験整復用頚部114の長さが異なる3種類の試験整復用大腿骨コンポーネント111を示している。この際、筋肉などの軟部組織が収縮する力によって試験整復用骨頭113は内壁107Nに押し付けられ、術者によって関節運動が負荷される。すなわち、試験整復において内壁107Nは保護されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−136470号公報
【特許文献2】特開2005−278876号公報
【特許文献3】特開2004−230175号公報
【特許文献4】特開2004−65873号公報
【特許文献5】特表2009−514614号公報
【特許文献6】特表2002−521127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような試験整復用骨頭113は、反復して使用されるため、他の複数の患者に対して行ってきた過去の試験整復により、その表面が磨耗等して多数の凹凸が表面に発生する虞がある。このため、表面に凹凸がある試験整復用骨頭113を用いて、他の患者に対して試験整復を行うと、研磨された内壁107Nの摺動面に傷がつく虞があるという欠点があった。骨盤に金属シェル107Aを固定し、その内部にライナー107を固定するセメントレス方式では、試験整復用ライナーを使用することで、この欠点を回避することが可能である。しかし、ライナー107を骨セメントで寛骨臼102に固定するセメント固定法では、試験整復用ライナーは使用できないため、この欠点は避けられない。そして、傷がつくと、摺動面が磨耗し易くなり、人工股関節の耐久性が低下する問題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題点に鑑み、試験整復時にライナーの摺動面を保護することができる人工股関節用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、骨盤の寛骨臼に装着可能であって、凹状の内壁を有するカップと、大腿骨に装着可能なステムと、前記内壁に摺動する骨頭と、これらステムと前記骨頭とを連結する頚部を有する大腿骨コンポーネントと、を備えた人工股関節の選定に用いられ、前記内壁内に試験整腹用骨頭を嵌めて前記大腿骨コンポーネントを選定する人工股関節用器具において、前記内壁内に着脱可能に設けられ前記試験整腹用骨頭が摺動可能に嵌る試験用カップを備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、前記試験用カップの外縁に前記カップの外縁に当接する当接部を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、前記当接部に位置決め突起部を設けると共に、この位置決め突起部が係合する突起受け部を前記カップの外縁に設けたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、前記カップに前記試験用カップを取り付けた状態で前記内壁の摺動面と前記試験用カップの外面との間に隙間が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、内壁の摺動面に試験用カップを取り付けた状態で、試験用カップに試験整腹用骨頭を嵌め、関節運動を負荷することにより頚部の長さなどを選定する。このように試験整復用骨頭を試験用カップに嵌めて試験を行うから、内壁の摺動面を傷つけることがなく、人工股関節の耐久性を確保することができる。
【0013】
また、請求項2の構成によれば、試験用カップの当接部がカップの外縁に当接することにより、内壁の深さに対して試験用カップを位置決めすることができる。
【0014】
また、請求項3の構成によれば、当接部の位置決め突起部を、前記内壁の外縁の突起受け部に係合することにより、内壁に試験用カップを位置決めして仮固定することができる。
【0015】
また、請求項4の構成によれば、カップの摺動面と試験用カップが接触しないため、摺動面を確実に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1を示し、図1(A)はライナーの側面図、図1(B)はライナーの正面図である。
【図2】同上、図2(A)は試験用カップの正面図、図2(B)は試験用カップの側面図である。
【図3】同上、ライナーに試験用カップを取り付けた状態の側面図である。
【図4】従来例を示す人工股関節の使用状態の斜視図である。
【図5】同上、ライナーの斜視図である。
【図6】同上、ライナーの正面図である。
【図7】同上、頸部の異なる複数の試験整復用大腿骨コンポーネントの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる人工股関節用器具を採用することにより、従来にない人工股関節用器具が得られ、その人工股関節用器具を夫々記述する。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して説明する。尚、上記図4と同一部分に同一符号を付して説明する。図1〜図3は本発明の実施例1を示し、人工股関節は、前記寛骨臼102(図4)に固定される寛骨臼コンポーネント3と、図4に示したように前記大腿骨104の近位端に固定される前記大腿骨コンポーネント105とから構成されている。尚、寛骨臼コンポーネント3は、金属シェル107Aを使用しないでセメント固定法により寛骨臼3に固定される。
【0019】
前記寛骨臼コンポーネント3は、寛骨臼102に固定するカップたるライナー7から構成され、前記ライナー7の内壁8に摺動面8Sが形成され、この摺動面8Sはほぼ半球面状をなす。尚、前記ライナー7は合成樹脂などからなる。
【0020】
因みに、寛骨臼コンポーネント3と伴に術者に用いられる図4に示す前記大腿骨コンポーネント105は、前記ステム108と、前記骨頭109と、これらステム108と骨頭109とを連結する前記頚部110とを有し、この頚部110は前記ステム108の端部より細く、前記骨頭109を前記ライナー7に嵌め込んで摺動させることにより、股関節として機能する。
【0021】
人工股関節用器具は、図2に示す合成樹脂製の試験用カップ21と図7に示す前記試験整復用大腿骨コンポーネント111と図1に示す寛骨臼コンポーネント3とを備える。前記試験用カップ21は、前記摺動面8Sとほぼ相似形の内外面を備えたカップ本体22と、このカップ本体22の外縁に周設した鍔状の当接部23とを一体に備える。前記カップ本体22の内部には前記試験整復用骨頭113を嵌め入れる球面状の摺動面22Sが設けられている。尚、カップ本体22はライナー7より薄い。また、前記当接部23の内面側に複数の位置決め突起部24を突設し、これら位置決め突起部24は前記カップ本体22を中心として円周方向等ほぼ間隔に設けられている。前記当接部23は前記ライナー7の外縁9に当接し、この外縁9には前記位置決め突起部24が嵌入する突起受け部たる孔部25が設けられている。尚、前記位置決め突起部24と前記孔部25により、前記試験用カップ21のカップ本体22を前記内壁8内に着脱可能に設ける着脱手段を構成している。
【0022】
そして、前記孔部25に位置決め突起部24を挿入することにより、図3に示すように、ライナー7に試験用カップ21を仮固定することができ、この状態で、当接部23が外縁9に当接すると共に、前記試験用カップ21の外面と摺動面8Sの間に隙間26が形成される。尚、外縁9は、内壁8の開口部の周囲に位置する。仮固定状態で摺動面22Sに対する試験整復用骨頭113の回転中心と、摺動面8Sに対する骨頭109の回転中心とが等しい。したがって、試験整復用骨頭113は骨頭109より小さい。
【0023】
なお、この試験用カップ21に用いられる試験整復用大腿骨コンポーネント111は、試験整復用骨頭113が試験用カップ21のカップ本体22内に嵌め込まれるため、従来のようにライナーそのものに直接嵌め込まれる試験整復用大腿骨コンポーネントと比べて、試験整復用骨頭113の大きさが小さく選定されている。
【0024】
前記つば状の当接部23は、カップ本体22の円周全体あるいはその一部に設けられる。また、カップ本体2の外径D1はライナー7の摺動面8Sの直径D2より小さく、この摺動面8Sは研磨されている。さらに、当接部23の外径(最大外側寸法)D3は摺動面8Sの直径D2より大きい(D3>D2>D1)。
【0025】
次に、前記人工股関節用器具の使用方法について説明する。ライナー7を患者の体内に埋め込み、骨盤の寛骨臼102に固定した後、前記試験用カップ21を装着させた状態で、試験整復用骨頭113を用いて仮整復を行い、大腿骨コンポーネント105の適切な頚部110の長さを決める。この際、ライナー7の摺動面8Sに対し、カップ本体22が僅かに離れた状態でライナー7の周縁に仮固定されていることで、試験整復時に摺動面8Sがカップ本体22により保護されている。この状態で試験用カップ21の摺動面22Sに試験整復用骨頭113を嵌め入れ、試験整復用大腿骨コンポーネント111を操作して大腿骨コンポーネント105の選定を行う。そして、試験整復後は、試験用カップ21をライナー7から取り外す。この場合、試験用カップ21は、他の試験整復に用いる他のライナー7にも装着できるので、繰り返して再利用することができる。
【0026】
このように試験用カップ21を用いることにより、試験整復時にライナー7の摺動面8Sに試験整復用骨頭113が直接当たることを回避でき、ライナー7の摺動面8Sを保護することができる。また、当接部23,位置決め突起部24及び孔部25により仮固定手段を構成し、この仮固定手段により試験用カップ21がライナー7の摺動面8Sに接触することなく、位置を安定して保持できる。
【0027】
このように本実施例では、骨盤の寛骨臼102に装着可能であって、凹状の内壁8を有するカップたるライナー7と、大腿骨104に装着可能なステム108と、内壁8に摺動する骨頭109と、これらステム108と骨頭109とを連結する頚部110を有する大腿骨コンポーネント105と、を備えた人工股関節の選定に用いられ、内壁8内に試験整腹用骨頭113を嵌めて大腿骨コンポーネント105を選定する人工股関節用器具において、内壁8内に着脱可能に設けられ試験整腹用骨頭113が摺動可能に嵌る試験用カップ21を備えるから、内壁8の摺動面8Sを隠すようにして試験用カップ21を取り付けた状態で、試験用カップ21に試験整腹用骨頭113を嵌め、関節運動を負荷することにより頚部110の長さなどを選定する。このように試験整復用骨頭113を試験用カップ21に嵌めて試験を行うから、内壁8の摺動面8Sが試験整復用骨頭113により傷つけられることがなく、人工股関節1の耐久性を確保することができる。
【0028】
また、このように本実施例では、試験用カップ21の外縁にカップたるライナー7の外縁9に当接する当接部23を設けたから、試験用カップ21の当接部23がライナー7の外縁9に当接することにより、内壁8の深さに対して試験用カップ21を位置決めすることができる。
【0029】
また、このように本実施例では、当接部23に位置決め突起部24を設けると共に、この位置決め突起部24が係合する突起受け部たる孔部25をライナー7の外縁9に設けたから、当接部23の位置決め突起部24を、内壁8の外縁9の孔部25に挿入係合することにより、内壁8に試験用カップ21を位置決めして仮固定することができる。
【0030】
また、このように本実施例では、カップたるライナー7に試験用カップ21を取り付けた状態で内壁8の摺動面8Sと試験用カップ21の外面との間に隙間26が設けられているから、ライナー7の摺動面8Sと試験用カップ21が接触しないため、摺動面8Sを確実に保護することができる。
【0031】
また、実施例上の効果として、位置決め突起部24を3個以上設けたから、位置決めと共に、試験整復用大腿骨コンポーネント111の使用時、試験用カップ21をライナー7に確実に固定することができる。
【0032】
尚、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、試験用カップの材質は適宜選定可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 人工股関節
2 寛骨臼
3 寛骨臼コンポーネント
4 大腿骨
5 大腿骨コンポーネント
7 ライナー(カップ)
8 内壁
8S 摺動面
9 外縁
21 試験用カップ
22 カップ本体
22S 摺動面
23 当接部
24 位置決め突起部(着脱手段)
25 孔部(突起受け部・着脱手段)
111 試験整復用大腿骨コンポーネント
112 試験整復用ステム
113 試験整復用骨頭
114 試験整復用頸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨盤の寛骨臼に装着可能であって、凹状の内壁を有するカップと、
大腿骨に装着可能なステムと、前記内壁に摺動する骨頭と、これらステムと前記骨頭とを連結する頚部を有する大腿骨コンポーネントと、
を備えた人工股関節の選定に用いられ、
前記内壁内に試験整腹用骨頭を嵌めて前記大腿骨コンポーネントを選定する人工股関節用器具において、
前記内壁内に着脱可能に設けられ前記試験整腹用骨頭が摺動可能に嵌る試験用カップを備えることを特徴とする人工股関節用器具。
【請求項2】
前記試験用カップの外縁に前記カップの外縁に当接する当接部を設けたことを特徴とする請求項1記載の人工股関節用器具。
【請求項3】
前記当接部に位置決め突起部を設けると共に、この位置決め突起部が係合する突起受け部を前記カップの外縁に設けたことを特徴とする請求項2記載の人工股関節用器具。
【請求項4】
前記カップに前記試験用カップを取り付けた状態で前記内壁の摺動面と前記試験用カップの外面との間に隙間が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の人工股関節用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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