説明

人工腐植土による緑化工法

【目的】
一般的に法面緑化に用いられるバーク堆肥等の有機質堆肥が短期的な堆積、養生によって作られているため十分に腐植化が進行しておらず、法面で分解が起こり数年で堆肥としての効果を失っている現状に対して、未熟な有機物資材を極強酸性化させた人工的な腐植土を早期に形成させ、バーク堆肥等の資材に混合することによって可能にした。
【解決手段】
有機物が70%程度の含有量を有し、完全には腐植化が進行していない有機質資材となるバーク堆肥、おが屑、稲わら、もみ殻、脱水ケーキ等のモル濃度1.0〜18.0molL-1の硫酸溶液、塩酸、酢酸等で酸性処理したもの又は有機質資材を130℃程度の温度で加熱処理して粉状若しくは粗粒状の燻製資材を作成し、この処理した有機質資材をバーク堆肥や有機質チップに5%〜60%の割合で混合して遅速的に腐植化を進行させ、土壌環境を構築して人工腐植土による緑化工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工腐植土による緑化工法に関し、一般的に法面緑化に用いられるバーク堆肥等の有機質堆肥が短期的な堆積、養生によって作られているため十分に腐植化が進行しておらず、法面で分解が起こり数年で堆肥としての効果を失っている現状に対して、未熟な有機物資材を極強酸性化させた人工的な腐植土を早期に形成させ、バーク堆肥等の資材に混合することによって中長期的に安定な緑化資材を緑化対象地に吹き付け荒廃地を復元することを可能としたものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に荒廃地を自然復元する緑化工では,植物を成育させる植生基盤としてバーク堆肥、バーク堆肥+ピートモス等が用いられてきた経緯がある。このような極強酸性資材を混入することによって、土壌の団粒化を図ることを期待してきたのである。しかし、泥炭地のその90%が北半球の寒冷地に分布していることから、北米、欧州、アジア地区での採掘に頼っているのが現状である。このような資材については、有限性の資源であることは否定できず、有限性の資源に頼らずに市場に無限的に存在している未熟な有機質資材を人工腐植土化する技術が求められてきている。また、一方で極強酸性となる有限資材を用いずに土壌の団粒化を進行させる方法について提案されているものの強アルカリ型の資材を用いる仕様であることから、荒廃地を緑化によって復元するために日本の土壌環境である弱酸性型へ移行するものとは、かけ離れている。
【特許文献1】特開1998− 98938号公報の発明
【特許文献2】特開2000−178978号公報の発明
【特許文献3】特開2006− 46号公報の発明
【特許文献4】特開1994− 32688号公報の発明
【特許文献5】特開2001−303056号公報の発明
【特許文献6】特開2003−052241号公報の発明
【特許文献7】特開2007−196172号公報の発明
【特許文献8】特許第 3902817号の発明
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記の従来工法では、対象となる荒廃地等を緑化する際にピートモス等をバーク堆肥等に混合する目的が、緑化対象面へ吹き付けると分解が進行していくバーク堆肥の熟成度を高めて腐植土化させるというよりは、植生基盤の透水性や水持ちの良さ等の物理性改善のために混合しているのが現状であった。これらの混合量については、バーク堆肥やピートモスのpH、EC、陽イオン交換容量、塩基飽和度等の化学性を評価して配合しているものとはなっていなかった。また、吹き付け易さ(施工性)が高くなるか、そうでないのかにも大きなウエイトが置かれていた。
【0004】
このことから、養生期間が短い植生基盤で未熟なバーク堆肥の機能を維持、腐植土化を進めるものとなっていなかった。また、中長期的に植生基盤が維持されることが難しく、緑化の初期段階で成長の早い外来性の草本類を生やして早期緑化を行うことが目的となっているので、どの植物でもいいから生やしている状態であった。
【0005】
しかし、平成17年に制定された外来生物規制法の影響から、近年成長の遅い在来種主体型の緑化工法が進められてきた。このような現状においても、養生期間が1〜2年と少ないバーク堆肥等の植生基盤での緑化で対応していることから、導入した植生基盤であるバーク堆肥の分解が進行してしまい緑化が成功しない箇所が多くなってきたことが問題となってきた。
【0006】
そこで,本発明では、未熟な有機物資材を極強酸性の溶液及び個体に浸透、混合することによって急速に酸化させて人工的に腐植土を形成し、この人工腐植土とバーク堆肥に代表される未熟な有機物資材に混合することによって中長期的に機能低下しない植生基盤を作ったものを緑化対象面へ吹き付けることによって荒廃地の自然復元が可能とし、従来技術の課題を解決し、且つ発明の目的を達成するようにした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、人工腐植土による緑化工法において、有機物が70%程度の含有量を有し、完全には腐植化が進行していない有機質資材となるバーク堆肥、おが屑、稲わら、もみ殻をモル濃度1.0〜18.0molL-1の硫酸溶液、塩酸、酢酸等で酸性処理したもの又は有機質資材を130℃程度の温度で加熱処理して粉状若しくは粗粒状の燻製資材を作成し、この処理した有機質資材をバーク堆肥や有機質チップに5%〜60%の割合で混合することにより遅速的に腐植化を進行させて、森林土壌に近い土壌環境を構築して緑化するようにしたものである。
【0008】
本発明の第2は、人工腐植土による緑化工法において、完全には腐植化が進行していない有機質資材となるバーク堆肥、おが屑、稲わら、もみ殻をモル濃度1.0〜18.0molL-1の硫酸溶液、塩酸、酢酸等で酸性処理したもの又は有機質資材を130℃程度の温度で加熱処理して粉状若しくは粗粒状の燻製資材を作成し、この処理した有機質資材をバーク堆肥や有機質チップに5%〜60%の割合で混合して遅速的人工腐植土化を進行させた腐植土をハイドロシーダー又はモルタル・コンクリート吹付機等の客土吹付機中で混合して客土を作成し、当該客土吹付機によって対象荒廃地への吹き付けを行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記の構成であることから、次の効果がある。すなわち、極強酸性溶液で処理した有機物及び極強酸性の燻製炭をバーク堆肥等の未熟な有機物に混合することにより、未熟な有機物単独では分解が進んで単粒構造となってしまう植生基盤に対して人工腐植土を混合することで分解に強く、土壌の団粒化を助ける機能を永続的に発揮する効果が期待できる。
【0010】
また、今まで用いてきた有限資源であるピートモス等の高位泥炭を混合する必要がなくなり、資源保護の観点からの有用である。これに加えて、人工腐植土化の過程は、未熟な有機物全般を対象としていることから資源の有効活用からの観点からも評価できる。この土壌改良効果の発現によって、荒廃地に吹き付けられた植生基盤が降雨等の外的ストレスによって流亡し難い植生基盤の環境を構築することが可能となり、酸性雨に対しても耐性を持つ環境中長期的に保持することが可能となる。沖縄のように珊瑚礁が隆起した島嶼においては、強アルカリ性を示す石灰岩が分布しているものであるが、このような石灰岩の結晶化を緩めて、土壌化させていくのにも効果を発揮する。植生基盤の吹き付けについては、通常の緑化工法で利活用されている機械の利用が可能となっている。
【0011】
また、本発明にあっては、人工腐植土を混合した植生基盤の塩基飽和度を有機質資材であるバーク堆肥や有機質チップへの人工腐植土を混合する量を可変することにより変更できることから、荒廃地周辺の植物の成育環境に合った植生基盤環境とすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(1)土壌の団粒化を維持できる森林土壌の環境で、土壌pHが5〜6となる比較すると、現在の緑化工の植生基盤に用いられているバーク堆肥では、pHが7以上となっている箇所が多くなり、土壌の腐植が形成され易い植生基盤環境であるpH6程度まで低下していないことを全国の緑化対象地を調査して確認している。このような植生基盤の環境では、雨等の外的ストレスや紫外線劣化に対して非常に弱くなることから,数年で植生基盤としての機能を損なってしまう。
【0013】
(2)未熟な有機物資材であるバーク堆肥に対して、ピートモス等の酸性資材を入れている植生基盤も見られるがピートモス自体が未熟な高位泥炭地で出来たものであることから、バーク堆肥を腐植土化するまでに至っていない。また、ピートモス自体が、植物の堆積物で有限資源であることから資源の利用については限界がある。
【0014】
(3)有機物資材であるバーク系堆肥は,樹皮や廃材等を1〜2年程度養生した後に製品化されるので、初期の段階ではpHが8程度となり、アルカリ性となる。
このような資材単独では、単粒化した土壌粒子を結びつける腐植の形成が行われないことから、人工腐植土を混合して植生基盤を作ることによって早期にバーク堆肥全体の腐植化を促し、土壌の団粒化を図る。また、荒廃地復元を行いたい箇所の周辺からの種子及び種子の混入した土壌を混合することで、郷土植物が成育することから団粒化のスピードは飛躍的に増加する。
【0015】
(4)人工腐植土及び未熟な有機物であるバーク系資材は、降雨が連続すると流亡してしまうことが懸念される。このように導入した客土が流亡しないようにするために酢酸ビニール系粘結剤や中性の無機系固化剤を酢酸ビニール系では、1m3に対して1kg、無機系固化剤では10〜20kg添加することで問題を解決している。
【0016】
(5)上記の仕様によって降雨に対しての耐性は高いものとなるが、急勾配等で降雨の流速が早い箇所においては、人工腐植土及び未熟な有機物であるバーク系資材の全面に養生マットを張り付けることで、植生基盤の流亡を防ぎ問題を解決している。養生マットについては、透過性があり、植物の成長を妨げないものとし、素材についてはナイロン、ポリエステル、麻、ヤシ等を用いてマット状に形成したものとする。
【実施例1】
【0017】
次に,本発明の実施例を図面に沿って説明する。図2において、1は未熟な有機質資材であり、バーク堆肥、おが屑、稲わら、籾殻、脱水ケーキ等を材料としている。2はその未熟な有機質資材を腐植化する極々強酸性資材であり、当該資材には極強酸性溶液又は極強酸性固体である。その極強酸性溶液としては、モル濃度1.0〜18.0molL-1の硫酸溶液(H2SO4 モル濃度1.0〜18.0molL-1)、塩酸(HCl モル濃度1.0〜18.0moL-1)及び酢酸(CHCOOH モル濃度1.0〜18.0molL-1)を用いる。また極強酸性固体としては、130℃程度の温度で処理して燻製した粉状又は粗粒状の燻製資材を用いる。3は前記の未熟な有機質資材1と極強酸性溶液又は固体2を混合して養生することによってできる人工腐植土である。4は人工腐植土の混合基盤材、5は種子6にバーク堆肥7と人工腐植土8を混合して撹拌してできる客土である。前記のバーク堆肥は、C/N比で35以下、有機物含有量70%以上の資材を用いることとし、pH(H2O)で5.5〜7.5、電気伝導度が0.9mS/cm以下の値のものを利活用する。また、前記の人工腐植土は,極強酸性の溶液に浸透したものは養生時間が5時間以上、極強酸性の固体に混合したものは100時間以上養生したものを用いる。9は客土を後述の吹付機に搬送するベルトコンベア、10〜12は客土5に加えて吹付基盤材を作るための部材である。すなわち、客土5を吹き付ける緑化対象面Gから流亡し難くするために、酢酸ビニール系粘結剤又は無機系中性固化剤等を可とし、接合剤11を用水12と混合してなる混合物10である。
【0018】
13は発電機、14はコンプレッサ、15は湿式の緑化基盤材の吹付機であり、ハイドロシーダー又はモルタル吹付機を用いるものとする。16は揚水ポン、17は水槽、18は配電盤、19は基盤材4を緑化対象面Gに吹き付ける噴射ノズルを示す。また、緑化対象面Gに吹き付けた人工腐植土混合基盤材4が流亡しないように、緑化対象面Gが急斜面の場合には養生マット20で植生基盤Aを保護することも可とする。図1において、21は単粒化した植生基盤、22は団粒化した植生基盤を示す。
【0019】
「具体的な施工例における施工順序」
(1) 種子6にバーク堆肥7と人工腐植土8を混合撹拌してなる客土5を人工腐植土混合植生基盤材4とする。
(2) 人工腐植土混合植生基盤材の補強材として利用する接合剤11を用水12と混合して混合物10を得る。
(3) 荒廃地を緑化復元しようとする目的の緑化対象面Gに人工腐植土混合植生基盤材4を湿式の緑化基盤材の吹付機15を使って吹き付ける。
(4) 緑化対象面Gの目的に応じて厚さ1.0〜10.0cm程度に吹き付けて人工腐植土混合植生基盤材Aを形成する。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、緑化工に一般的に用いられているものの、養生期間が短いことによって完全に腐植化が進行していないバーク堆肥等の植生基盤に極強酸性の溶液、固体で処理した人工腐植土を混合することによって腐植化の進行をアップさせる効果がある。また、ピートモス等の堆積した資源を用いる必要がないことから、資源の保護という立場からも有効である。未熟な有機質資材を極強酸性溶液及び個体で人工腐植土化できることから、おが屑、稲わら等の有機質資源の有効活用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】人工腐植土を未熟な有機質資材に混入して荒廃地の緑化対象面に吹付けることによる、吹き付けられた植生基盤の土壌構造が変化することの効果模式図である。
【図2】本発明の実施工程を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1……未熟な有機質資材
2……極強酸性溶液及固体
3……人工腐植土
4……人工腐植土混合基盤材
5……客土
6……種子
7……バーク堆肥
8……人工腐植土
9……コンベア
10……混合物
11……接合剤
12……用水
13……発電機
14……コンプレッサ
15……基盤材の吹付機
16……水汲み上げポンプ
17……水槽
18……配電盤
19……噴射ノズル
20……養生マット
21……単粒化した植生基盤
22……団粒化した植生基盤
A……植生基盤
G……緑化対象面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物が70%程度の含有量を有し、完全には腐植化が進行していない有機質資材となるバーク堆肥、おが屑、稲わら、もみ殻をモル濃度1.0〜18.0molL-1の硫酸溶液、塩酸、酢酸等で酸性処理したもの又は有機質資材を130℃程度の温度で加熱処理して粉状若しくは粗粒状の燻製資材を作成し、この処理した有機質資材をバーク堆肥や有機質チップに5%〜60%の割合で混合して遅速的人工腐植土化を進行させ、土壌環境を構築して緑化することを特徴とする人工腐植土による緑化工法。
【請求項2】
完全には腐植化が進行していないバーク堆肥、おが屑、稲わら、もみ殻、脱水ケーキ等のモル濃度1.0〜18.0molL-1の硫酸溶液、塩酸、酢酸等で酸性処理したもの又は有機質資材を130℃程度の温度で加熱処理して粉状若しくは粗粒状の燻製資材を作成し、この処理した有機質資材をバーク堆肥や有機質チップに5%〜60%の割合で混合して遅速的に腐植化を進行させた人工腐植土をハイドロシーダー又はモルタル・コンクリート吹付機等の客土吹付機中で混合して客土を作成し、当該客土吹付機によって対象荒廃地への吹き付けを行うようにしたことを特徴とする人工腐植土による緑化工法。


【図1】
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【図2】
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