説明

人工舌

【課題】 自然な嚥下補助を可能とする人工舌を提供すること。
【解決手段】 中舌部材4と口蓋500との間に食塊を入れて下顎503を閉じると、中舌部材4と口蓋500との間に食塊Sが挟まれ、中舌部材4が全体的に下がり、食塊Sが一時的に保持される。中舌部材4の揺動により、前記L字部材6の短手部分64先端の円柱突起65が前記奥舌部材5の受側円柱突起56に引っ掛かり、奥舌部材5が中舌部材4に係止された状態で一緒に前方に移動し、食塊Sが奥に移動されると共に、咽頭501が開かれ、食塊Sを嚥下する。このようにすれば、嚥下口腔相初期の舌形態を再現できるので、自然な嚥下補助を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舌癌等により舌の切除をした患者の嚥下補助に用いる人工舌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、舌を切除した後の空間を埋めるための人工舌が知られている。この人工舌は、嚥下補助に用いられるもので、下顎歯列内に設置されるものと、口蓋に設置されるものとが存在する。なお、人工舌に関する関連技術としては、非特許文献1に記載されているようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Mounir Kharchaf、“Maxillofacial Prosthetics, GeneralPrinciples”、[online][平成22年11月15日検索]、インターネット<URL:http://emedicine.medscape.com/article/846915-overview>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の人工舌による嚥下補助は、人工舌と口蓋もしくは残存した舌による圧力により、食塊を人工舌に設けた溝を経て咽頭へ流し込むものである。このため、自然な嚥下補助ができないという問題点があった。この発明は、係る問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の人工舌は、口腔内の下顎歯列内の形状に適合する外形を有するサポート部と、サポート部の中央かつ前後方向に設けられた可動部とからなり、前記可動部は、サポート部の筐体に固定され且つその上面が前舌の上面と似た形状の前舌部材と、前舌部材にアームを介して揺動可能に接続され且つ当該アームとの間で揺動可能に接続されると共にアームとの間に弾性部材が渡され、前記アームの一部には係止部が設けられ、また、その上面が中舌の上面と似た形状の中舌部材と、下端がサポート部の筐体に揺動可能に接続されると共にサポート部の筐体との間に弾性部材が渡され、その上面が奥舌の上面に似た形状でその後面が舌根の上面に似た形状となり、且つ、前記係止部と係止する受側係止部が設けられた奥舌部材とを備えたことを特徴とする。
【0006】
また、本発明の人工舌は、上記発明において、前記係止部は、中舌部材の揺動方向に略垂直に形成した円柱突起であり、前記受側係止部は、奥舌部材の揺動方向に略垂直に形成した受側円柱突起であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】この発明の実施の形態にかかる人工舌を示す斜視図である。
【図2】図1に示した人工舌を示す機構図である。
【図3】人工舌の動作を示す説明図である。
【図4】人工舌の動作を示す説明図である。
【図5】人工舌の動作を示す説明図である。
【図6】人工舌の動作を示す説明図である。
【図7】人工舌の動作を示す説明図である。
【図8】人工舌の動作を示す部分詳細説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、この発明の実施の形態にかかる人工舌100を示す斜視図である。図2は、図1に示した人工舌100を示す機構図である。この人工舌100は、印象採取による模型、或いはMRI等による画像撮影により取得した口腔内の形状に合わせて外形を決定したサポート部1と、サポート部1の中央に設けた可動部2とからなる。
【0009】
サポート部1は、上記のように、舌を切除した後の口腔内の下顎歯列内の形状に適合する外形を備えており、この外形は患者毎に異なるものである。このサポート部1は、可動部2の動作により食塊が移動する際にその食塊の通路を形成する側壁11を左右に有する。このサポート部1は、摂取する食物の種類等により適切な材料により製作するものとし、例えばシリコンやレジン等の材料からなる。
【0010】
可動部2は、その上面が口蓋に沿った形状をしており、サポート部1の中央かつ前後方向に設けられ、前舌部材3、中舌部材4及び奥舌部材5に分割した構造である。当該可動部2の上面とサポート部1の上面とは、なるべく段差が少なくなるような平坦な面とするのが好ましい。可動部2は、摂取する食物の種類等により適切な材料により製作するものとし、例えばシリコンやレジン等の材料からなる。
【0011】
前舌部材3は、下部がサポート部1の筐体12の底部13に固定されており、前面31及び上面32が湾曲面となる。換言すれば、前舌部材3の前面31は舌端に似た形状となり、上面32は前舌の上面形状に似た形状となる。なお、前舌部材3は固定されているので厳密には可動ではないが、後述の中舌部材4による食塊保持に関与するため、説明上は可動部2に含まれるものとする。
【0012】
前舌部材3の後面33の下側には、L字に折り曲げられたプレート状のL字部材6(アーム)が設けられている。このL字部材6の長手部分61の先端は、前舌部材3の後面33下側に回転軸62をもって揺動可能に軸止される。L字部材6の長手部分61と前舌部材3の後面33との間には、シリコンゴムやコイルスプリング等の弾性部材63が渡されている。この弾性部材63の弾性率や張り具合は、後述の中舌部材4による食塊の保持力等を考慮して設計する。
【0013】
中舌部材4は、その上面41が中舌の上面形状に似た湾曲面となり、その断面は略扇形状となる。中舌部材4の下端42は、前記L字部材6の角部に回転軸43をもって揺動可能に軸止されている。L字部材6の短手部分64と中舌部材4の後面43との間には、シリコンゴムやコイルスプリング等の弾性部材44が渡されている。弾性部材44の弾性率や張り具合は、中舌部材4による食塊の保持力等を考慮して設計する。L字部材6の短手部分64の端部には、揺動方向に対して垂直方向に円柱突起65(係止部)が設けられている。また、中舌部材4の下端には、L字部材6の回転を規制する突出部45が形成されている。この突出部45は、弾性部材44によりL字部材6の短手部分65に当接している。
【0014】
一方、前記弾性部材44によりL字部材6と共に中舌部材4が前舌部材3の側に引き寄せられ、これにより中舌部材4の先端部46が前舌部材3の後面33に弱い力で当接するか、或いは、多少の間隔をもって静止されるように、当該弾性部材44の弾性率や張り具合を調整する。
【0015】
奥舌部材5は、上面51が奥舌の上面に似た湾曲面となり、後面52が舌根の上面に似た湾曲面となる。下端53は、サポート部1の底部13に回転軸54をもって揺動可能に軸止されている。後面52の下部とサポート部1の底部との間には、シリコンゴムやコイルスプリング等の弾性部材55が渡され、この弾性部材55により後面52が咽頭501に付勢され、鼻咽腔502は閉鎖状態となる。また、前記L字部材6の短手部分64の円柱突起65に対応する受側円柱突起56(受側係止部)が揺動方向に対する垂直方向に設けられている。
【0016】
次に、この人工舌100の動作について説明する。図3から図7は、この人工舌100の動作を示す説明図である。図3に示すように、中舌部材4と口蓋500との間に食塊を入れて下顎503を閉じると、中舌部材4と口蓋500との間に食塊Sが挟まれ、中舌部材4がL字部材6の長手部分61を半径として揺動すると共にL字部材6の角部で中舌部材4が揺動し、中舌部材4が全体的に下がり、食塊Sが一時的に保持される。奥舌部材5は、咽頭501に付勢されて鼻咽腔502は閉鎖されているので、食塊Sが挟まれた初期段階で食塊Sの誤嚥や鼻咽腔502への食塊Sの流入が防止される。
【0017】
この中舌部材4の揺動により、前記L字部材6の短手部分64先端の円柱突起65が前記奥舌部材5の受側円柱突起56に引っ掛かり、当該中舌部材4が弾性部材63の作用により前方に戻るとき、図4、図5及び図8(b)に示すように、奥舌部材5が中舌部材4に係止された状態で一緒に前方に移動する。この動作により、食塊Sが奥(奥舌或いは軟口蓋側)に移動されると共に、咽頭501が開かれる。
【0018】
L字部材6の円柱突起65と受側円柱突起56との係止は、L字部材6がもとの位置に戻ることで外れ、図6に示すように、奥舌部材5が弾性部材55の作用により後方に動く。これにより、食塊Sが咽頭に移動させられ、図7に示すように、食道に至る。可動部2は、もとの状態に戻る。
【0019】
図8を用いて上記円柱突起65と受側円柱突起56との係止状態を詳述すると、(a)に示すように、L字部材6が長手部分61を半径として揺動することで円柱突起56が受側円柱突起56に当たり、(b)に示すように、奥舌部材5が動いて受側円柱突起56が少し逃げて円柱突起65が受側円柱突起56を乗り越え、その結果、円柱突起65と受側円柱突起56とが係止状態となる。この係止状態でL字部材6が元に戻ることで、(c)に示すように、奥舌部材5が持ち上げられる。次に、L字部材6の回転半径と奥舌部材5との回転半径とが異なることから、(d)に示すように、中舌部材4がもとの位置に戻るに従って円柱突起65と受側円柱突起56とが離れて係止が解かれ、奥舌部材5は、その弾性部材55の力によりもとの位置に戻る。
【0020】
以上、この人工舌100によれば、嚥下口腔相初期の舌形態を再現できるので、自然な嚥下補助を実現できる。また、残存した舌や軟口蓋が刺激されて、嚥下反射を惹起できる。また、鼻咽腔502を閉鎖しての口腔内での食塊の一時的な保持、鼻咽腔502への食塊の流入や誤嚥を防止できる。
【符号の説明】
【0021】
100 人口舌
1 サポート部
2 可動部
3 前舌部材
4 中舌部材
5 奥舌部材
6 L字部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内の下顎歯列内の形状に適合する外形を有するサポート部と、
サポート部の中央かつ前後方向に設けられた可動部と、
からなり、
前記可動部は、
サポート部の筐体に固定され且つその上面が前舌の上面と似た形状の前舌部材と、
前舌部材にアームを介して揺動可能に接続され且つ当該アームとの間で揺動可能に接続されると共にアームとの間に弾性部材が渡され、前記アームの一部には係止部が設けられ、また、その上面が中舌の上面と似た形状の中舌部材と、
下端がサポート部の筐体に揺動可能に接続されると共にサポート部の筐体との間に弾性部材が渡され、その上面が奥舌の上面に似た形状でその後面が舌根の上面に似た形状となり、且つ、前記係止部と係止する受側係止部が設けられた奥舌部材と、
を備えたことを特徴とする人工舌。
【請求項2】
前記係止部は、中舌部材の揺動方向に略垂直に形成した円柱突起であり、前記受側係止部は、奥舌部材の揺動方向に略垂直に形成した受側円柱突起であることを特徴とする請求項1に記載の人工舌。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−135392(P2012−135392A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289031(P2010−289031)
【出願日】平成22年12月25日(2010.12.25)
【出願人】(511000038)
【出願人】(511000049)
【出願人】(511000027)
【出願人】(511000050)有限会社横浜テクノス (1)
【Fターム(参考)】