説明

人工芝用充填材および人工芝構造体

【課題】長時間にわたって温度上昇を抑制し快適なプレーを維持することができる人工芝構造体を提供する。
【解決手段】人工芝3のパイル4間に充填される人工芝用充填材5の表面に保水処理剤として親水性材料をコーティングし、さらに人工芝用充填材5の表面にディンプルおよび/またはサイプを施すことによって保水力を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工芝のパイル間に充填する人工芝用充填材に関し、さらに詳しく言えば、人工芝の温度上昇を抑制し、プレーヤーにかかる負担を軽減する人工芝構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、ロングパイル人工芝は、通常の人工芝よりも長いパイルが植設された基布のパイル間に充填材を充填したものからなり、天然芝に近い弾力特性を持つ人工芝サーフェイスとして、サッカーやラグビー、野球場などの各種運動競技施設に普及している。
【0003】
この種の人工芝用の充填材としては、例えばゴムチップ(廃タイヤやEPDM等の工業用ゴムの破砕品)や熱可塑性エラストマー(PEベースの弾力性のある樹脂など)の弾性粒状物が用いられる。
【0004】
ところで、廃タイヤを用いたゴムチップは、カーボンによってチップ自体が黒色に着色されているため、太陽光を吸収しやすく、夏場などの炎天下では、人工芝の表面温度が60℃以上になることがある。
【0005】
そのため、夏場の人工芝での運動は、プレーヤーにとって大きな負荷となり、快適性が悪くなる。そこで、例えば特許文献2および3には、充填材を熱を吸収しにくい色に着色したり、光反射特性のある酸化チタンを添加するなどして、光を反射させて人工芝表面の温度上昇を抑えるようにしている。
【0006】
しかしながら、この充填材の表面を着色したり、酸化チタンを添加する方法は、黒色ゴムチップを用いた場合よりは、多少の温度上昇抑制効果が得られるが、十分に温度上昇を抑制できているとは言い難い。
【0007】
また、これ以外の方法として、特許文献4では、人工芝の基布の一部に吸水性材料を含有させて、吸水性材料に水を蓄えておき、長時間にわたって気化熱による温度上昇を抑制する方法が開示されている。
【0008】
この特許文献4によれば、プレー前に人工芝に散水することで、基布に含まれる吸水性樹脂が水を吸い込み、気化することで、表面温度を下げるようにしている。しかしながら、散水はあくまで一時的な処置であり、数時間の持続効果が得られるわけでもなかった。さらには、基布に吸水性樹脂が含まれているため、もっとも高温となる充填材層の表面での温度上昇抑制効果は、それほど得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−138644号公報
【特許文献2】特許第4417903号公報
【特許文献3】特開2010−59659号公報
【特許文献4】特開2007−126850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、長時間にわたって温度上昇を抑制し快適なプレーを維持することができる人工芝構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明は以下に示すいくつかの特徴を備えている。請求項1に記載の発明は、人工芝のパイル間に充填される粒状物からなる人工芝用充填材において、上記粒状物の表面に保水処理剤が施されていることを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1において、上記保水処理剤として、上記粒状物の表面に親水性材料がコーティングされていることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2において、上記保水処理剤に加え、上記粒状物の表面積を増やす処理として、表面にディンプルおよび/またはサイプが施されていることを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載の発明は、上記請求項1,2または3において、上記保水処理剤に加え、上記粒状物の表面積を増やす処理として、中空部を有することを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載の発明は、上記請求項1ないし4のいずれか1項において、上記粒状物の平均粒径が2mm以下であることを特徴としている。
【0016】
請求項6記載の発明は、上記請求項1ないし5のいずれか1項において、上記粒状物がゴムまたは熱可塑性エラストマーがベース材からなることを特徴としている。
【0017】
本発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の人工芝用充填材を、少なくとも表層に充填してなる人工芝構造体も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、人工芝用充填材の表面に保水処理剤が施されていることにより、充填材自体が水を蓄えておくことができ、その気化熱による温度上昇抑制効果が長時間にわたって持続することができ、ひいてはプレーヤへの負担を軽減させることができる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、人工芝用充填材の表面に、保水処理剤として親水性材料をコーティングすることにより、コーティング層に水が吸収されるため、人工芝自体の性能を落とさずに、保水力を高めることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、人工芝用充填材の表面にディンプルおよび/またはサイプを施すことにより、表面積が増えるため、より保水力を高めることができる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、人工芝用充填材の表面積を増やす手段として、中空部を形成することにより、中空部内に水が蓄えられるため、より保水力を高めることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、充填材の平均粒径を2mm以下としたことにより、パイル間に充填しやすく、風雨による飛散も効果的に抑えることができる。
【0023】
請求項6および7に記載の発明によれば、既存製品の多くに用いられるゴムまたは熱可塑性エラストマーをベース材として用いる充填材に本発明の保水処理を施すことで、人工芝の温度上昇抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工芝構造体の要部断面図。
【図2】(a)人工芝用充填材の断面図、(b)人工芝用充填材の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1に示すように、この人工芝構造体1は、基盤2上に敷設された人工芝3を有し、人工芝3のパイル4の間には、粒状の充填材5が充填されている。この実施形態において、基盤2は、地面を平坦に均した簡易舗装面が用いられるが、これ以外に、砂利などを敷き詰めてあってもよいし、アスファルトなどで舗装された既設舗装面を用いてもよい。
【0026】
さらには、基盤2の上に弾性舗装などを設けてもよいし、既設の人工芝を残したまま、その上に新たに人工芝構造体1を敷設するような態様であってもよく、本発明において、基盤2の構成は、仕様に応じて変更可能であり、任意的事項である。
【0027】
人工芝3は、基布31に所定間隔でパイル4が植設されている。基布31は、例えばポリプロピレン,ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好適に選択されるが、リサイクル性を考慮して、溶融性のよい低密度ポリエチレンがより好ましい。
【0028】
この例において、基布31は、ポリプロピレンやポリエチレンなどの合成樹脂製の平織り布が用いられているが、これ以外に、平織り布に合成樹脂の綿状物をパンチングにより植え付けたものであってもよい。なお、基布31の色は、仕様に応じて任意に決定されるが、充填材に作り替えられたときに、太陽の熱を吸収しにくいように黒色以外の色に着色されていることが好ましい。
【0029】
パイル4は、基布31の表面から先端までのパイル長さH1が40〜75mmと長い、いわゆるロングパイルであることが好ましい。パイル4は、ポリプロピレン,ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好適に選択されるが、リサイクル性を考慮して、溶融性のよい低密度ポリエチレンがより好ましい。パイル4は緑色に着色されているが、黒色以外であれば任意の色が用いられる。
【0030】
パイル4には、モノテープヤーンまたはモノフィラメントヤーンを複数本束ねたもの、あるいは、帯状のスプリットヤーンが用いられてよい。この例において、パイル4は、太さが8000〜16000dtexであって、植え付け量1000〜2000g/mで基布31に植え付けられている。
【0031】
また、基布31の裏面には、タフティングされたパイル4の抜け落ちを防止するため、裏止め材32(バッキング材)が一様に塗布されている。裏止め材32には、例えばSBRラテックスやウレタンなどの熱硬化性樹脂が用いられるが、必要に応じて例えば炭酸カルシウムなどの増量剤が添加される。
【0032】
この例において、裏止め材32は、塗布量が600〜800g/m(乾燥時)となるように一様に塗布されている。なお、裏止め材32は、再生する充填材の再生時の色を考慮して、黒色以外の色に着色されていることが好ましい。
【0033】
本発明において、基布31およびパイル4は、リサイクル性を考慮して、ポリプロピレンやポリエチレンなどの加熱、溶融が容易な熱可塑性樹脂で構成されているが、それ以外の材質であってもよい。また、裏止め材5は、作業性などを考慮して、SBRラテックスなどの熱硬化性樹脂が用いられているが、これも仕様に応じて任意に変更可能である。
【0034】
このように作成された人工芝3のパイル4の間には、充填材5が充填されている。充填材5は、熱可塑性樹脂、ゴムチップなどの弾性粒状物であることが好ましい。パイル4に充填することができる粒状であれば、その材質は特に限定されない。
【0035】
図2(a)に示すように、充填材5は、上述した粒状に形成されており、その表面には保水処理剤としての親水性材料6がコーティングされている。本発明の言う親水性材料6とは、水に対して濡れにくい疎水性材料からなるベース部材に対して、水に濡れやすい性質を付与することができる材料をいう。
【0036】
親水性材料6には、市販の親水性コーティング剤を用いることができる。コーティング剤としては、いわゆる界面活性剤を主成分とする分子構造に親油基と親水基とを併せ持つ高分子ポリマーであり、例えば市販の窓ガラス用結露剤が用いられる。この例において、親水性材料6は、ガラス窓用結露防止剤が用いられているが、これ以外に親水性および超親水性を示す材料があれば、仕様に応じて適宜選択されてよい。
【0037】
親水性コーティング剤の塗布方法は、液状の親水性コーティング剤を充填材5の表面に吹き付けてスプレー塗布する方法や、親水性コーティング剤の中に充填材を漬け込む方法などがあり、親水性コーティング剤の仕様や、コーティング層の形成条件などによって適宜選択されてよい。
【0038】
コーティング層の厚さは、保水量や時間などの目的に応じて任意に選択されてよいが、プレーなどの衝撃によって容易に剥がれ落ちないよう少なくとも20μm程度に形成されていることが好ましい。
【0039】
この例において、充填材5は粒状に形成されているが、より好ましくは、表面積を増やすための処理が施されていることが好ましい。充填材5の表面積を増やす方法としては、ディンプル加工(微細な凹凸加工)や、サイプ加工(微細な溝加工)を施すことで、表面積を増やすことができる。このような態様も本発明に含まれる。
【0040】
さらには、図2(b)に示すように、充填材5を中心に中空部51を備える円筒状に形成してもよい。これによれば、中空部51内に水が入り込んで蓄えられるため、より保水力を高めることができる。さらには、中空部51の表面にも親水性材料6がコーティングされるため、その分の保水力も高めることができる。
【0041】
充填材5は、平均粒径が2mm以下に形成されている。すなわち、平均粒径が2mm以下であることにより、パイル間に充填しやすく、かつ、収まりもよい。
【0042】
充填材5の層厚さは、要求される弾力性により任意に選択されるが、充填材4の流出や飛散を防止するうえで、パイルの突出高さH2(充填材層の表面からパイル先端までの長さ)が10mm以上となる厚さであることが好ましい。本発明において、充填材5の構成は任意的事項である。
【0043】
この例において、充填材5は、ゴムチップなどのいわゆる弾性粒状物のみからなるが、これ以外に目砂などの硬質粒状物が含まれていてもよい。さらには、充填材5は、単層構造で充填されているが、種類の異なる弾性粒状物を積層しても良いし、弾性粒状物と硬質粒状物の積層構造であってもよい。
【0044】
本発明において、上述した親水性材料6がコーティングされた充填材6は、基布31の表面から全層にわたって充填されているが、表面から少なくとも10mm厚となるように充填されていればよい。すなわち、最も高温となる充填材層の表層に親水性材料6を有する充填材5が充填されていれば、高い温度抑制効果が得られる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の具体的な実施例について比較例とともに検討する。まず、以下の方法で充填材および人工芝を作製した。
【0046】
〔充填材の作製〕
高密度ポリエチレン(東ソー社製の「ニポロン5700A」)を60phr、オレフィン系高機能エラストマー(AESジャパン社製の「サントプレーン8201−60」)を40phr、炭酸カルシウム(日本粉化工業社製の「カルペットA」)を100phr、着色剤(ポリコール興業社製の「EPP−G25370」)を1phr配合したものをベース樹脂として、これを所定の押し出し機によって押し出し、外径φ2mm、内径φ1mm、長さ2mmの円筒チップ状に成形した。phrとは、ゴム重量100重量部に対する各配合剤の重量部をいう。
【0047】
〔親水性材料の塗布〕
次に、上記で作製された充填材の表面に親水性材料をコーティングする。親水性材料は、親水性被覆ポリマー(TOTO社製の「結露水滴防止コート窓ガラス用」)を用い、充填材の上からスプレーでまんべんなく行き渡るように噴霧した。また、比較例としてコーティング処理を行わないものを用意した。
【0048】
〔保水性の測定〕
底部にメッシュを張った木枠(縦200mm×横200mm×高さ30mm)を用意し、そこに総重量700gの充填材を3層に分けて充填したのち、上から水1000gをまんべんなく散水する。散水後、一分間保持して、水滴が落ちきったのを確認してから、散水後の各層充填材の重量を計測する。また、各層の散水前の重量との差分を算出して、保水量を求める。さらに、〔総保水量(g)/散水量(1000g)×100〕からなる式によって保水増加率を算出した。
【0049】
〔温度抑制効果の測定〕
上記木枠に充填された充填材の表面にT型熱電対を設置したのち、上方から投光器で光を照射してサンプルの表面を温める。表面温度が70℃を超えた段階で上から水1000gをまんべんなく散水し、さらに同条件で光を3時間照射し続けて温度変化を測定する。3時間後の温度が60℃未満の場合を○、60℃以上の場合を×として評価を行った。
【0050】
以下に、実施例および比較例の測定結果を示す。
【0051】
《実施例》
〔浸漬前重量〕 700.0g
〔浸漬後重量〕 959.5g
〔総保水量〕 259.5g
〔保水量(上層)〕 76.1g
〔保水量(中層)〕 79.7g
〔保水量(下層)〕 103.7g
〔保水増加率〕 26.0%
〔温度抑制効果〕 ○
【0052】
〈比較例〉
〔浸漬前重量〕 700.0g
〔浸漬後重量〕 812.8g
〔総保水量〕 112.8g
〔保水量(上層)〕 43.8g
〔保水量(中層)〕 43.9g
〔保水量(下層)〕 39.5g
〔保水増加率〕 11.3%
〔温度抑制効果〕 ×
【0053】
実施例および比較例のまとめを表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
以上、本発明によれば、以下の知見を得た。すなわち、
(1)充填材の表面に親水性材料をコーティングすることにより、コーティングを施さない場合よりも倍以上の保水量を得ることができる。
(2)親水性材料を表面コーティングすることにより、温度上昇抑制効果が3時間以上持続する。
【符号の説明】
【0056】
1 人工芝構造体
2 基盤
3 人工芝
31 基布
32 裏止め材
4 パイル
5 充填材
51 円筒部
6 親水性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工芝のパイル間に充填される粒状物からなる人工芝用充填材において、
上記粒状物の表面に保水処理剤が施されていることを特徴とする人工芝用充填材。
【請求項2】
上記保水処理剤として、上記粒状物の表面に親水性材料がコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載の人工芝用充填材。
【請求項3】
上記保水処理剤に加え、上記粒状物の表面積を増やす処理として、表面にディンプルおよび/またはサイプが施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の人工芝用充填材。
【請求項4】
上記保水処理剤に加え、上記粒状物の表面積を増やす処理として、中空部を有することを特徴とする請求項1,2または3に記載の人工芝用充填材。
【請求項5】
上記粒状物の平均粒径が2mm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の人工芝用充填材。
【請求項6】
上記粒状物がゴムまたは熱可塑性エラストマーがベース材からなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の人工芝用充填材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の人工芝用充填材を、少なくとも表層に充填してなる人工芝構造体。

【図1】
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【図2】
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