説明

人工藻場材および人工藻場ユニット

【課題】
炭素繊維を用いた人工藻場材において、施工時の損傷が軽減される保護構造を有する人工藻場材を提供する。
【解決手段】
複数の炭素繊維フィラメントの少なくとも一端を非生分解性材料により結束した人工藻場の非結束部の少なくとも一部を覆うように生分解性材料を配置し棒状としたことを特徴とする人工藻場材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海や河川や湖沼等に設置される炭素繊維から構成された人工藻場に用いる人工藻場材および人工藻場ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
藻場には、一般に多数の海草や藻が繁茂しており、これらには無数の微生物が定着し、この微生物を餌とする小生物が藻場に自然と集まる。さらに小生物を餌にする小魚が集まると、小魚を餌にする大型の魚が集まる。そして小生物や大小の魚類の死骸は微生物にとっての栄養分となる。この様に、藻場は生物連鎖の場を提供している。
【0003】
しかし、近年、種々の理由により藻場は減少する傾向にあり、生物連鎖上における重大な問題を提起している。そこでこれまでにも、人工的な藻場や漁礁を提供して、生物連鎖の適正化を図ろうとする試みが成されている。特に炭素繊維を用いた人工藻場は、炭素繊維が炭素の極細繊維であることから、微生物が急速に付着するので、微生物膜を早期に成形し、高弾性糸がバラバラに分散して適宜揺らぐため嵩高い形状を保持し、長期にわたり活性を持続し、小生物や稚魚のすみ家となりやすいことが知られている。
【0004】
このような人工藻場として、炭素繊維ストランドが多数本の炭素繊維フィラメントに分散して房状に膨らむようにした炭素繊維人工藻場が開示されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特許第3080567号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような炭素繊維人工藻場は極細の炭素繊維が露出しているため、設置時に毛羽立ち易く、引きずったりすると簡単に糸がちぎれ、繊維が損傷しやすいとともに、極細の高弾性繊維が細かく飛散するため、皮膚に刺さるとちくちくと不快感がある。
【0006】
そこで本発明は、炭素繊維による人工藻場を設置するときには、炭素繊維の損傷、飛散を低減し、施工完了後は炭素繊維がバラバラに分散して長期にわたり活性を持続させる人工藻場材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明では下記の人工藻場材を提供する。
(1)複数の炭素繊維フィラメントの少なくとも一端を非生分解性材料により結束した人工藻場の非結束部の少なくとも一部を覆うように生分解性材料を配置し棒状としたことを特徴とする人工藻場材。
(2)前記生分解性材料は、繊維形態を有し、前記人工藻場の全長に渡って巻き付けたものである前記(1)に記載の人工藻場材。
(3)前記生分解性材料は、フィルム形態を有し、前記人工藻場の全長に渡って巻き付けたものである前記(1)に記載の人工藻場材。
(4)前記生分解性材料は、ポリ乳酸である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の人工藻場材。
(5)非生分解性材料からなり、いずれかの一端に浮体または水底固定具を有する紐状部材に、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の人工藻場材を、非生分解性材料により結束した側で複数個連結したことを特徴とする人工藻場ユニット。
【0008】
特許請求の範囲を含む本明細書において、「人工藻場」とは、多数の炭素繊維フィラメントが水中でばらけて自由に泳動することにより、藻草等の微生物付着担体となるものである。また、「人工藻場材」とは、設置までの人工藻場の取扱い性を改善するために、多数本の炭素繊維フィラメントを水溶性のサイジング剤の他、本発明の方法により棒状に束ねたものである。
【0009】
結束とは、多数の炭素繊維フィラメントが束ねられて非生分解性材料と結び付けたものであり、結び付ける方法としては、非生分解性材料を多数の炭素繊維フィラメントの束に結びつけても良いし、炭素繊維フィラメント自体を非生分解性材料に結び付けても良い。また、何らかの結束材により、多数の炭素繊維フィラメントと非生分解性材料を結びつけても良い。
【0010】
非結束部とは、多数の炭素繊維フィラメントが単に束ねられた部分で、水中で生分解性材料が分解した後に自由にばらける部分である。
【0011】
非生分解性材料とは、自然界の微生物が存在する環境においても長期に渡り、その性状を維持する材料である。ここで長期とは、10年以上、少なくとも3年以上を示す。
【0012】
生分解性材料とは自然界の微生物により比較的短期間に分解する材料であり、なかでも、人工藻場の要求特性に合わせて繊維の繊度、フィルムの膜厚を調整可能であることから、ポリ乳酸が好ましい。ここで比較的短期間とは、3ヶ月以内、好ましくは1週間から1ヶ月程度の期間である。
【0013】
生分解性材料の形態としては繊維形態、樹脂形態、フィルム形態、不織布形態、等が挙げられるが、多数の炭素繊維フィラメントに巻き付けるためには、繊維形態、または、フィルム形態が好ましい。繊維形態であれば、これを巻き付けた人工藻場材は柔軟性及び可撓性があり、取扱い易いため作業性の点で好ましく、フィルム形態であれば、少ない巻き回数で効率よく人工藻場の全長を覆うことができる点で好ましい。
【0014】
浮体とは、浮力を有する部材であり、中空部材、発泡部材等を用いることが出来る。
【0015】
水底固定具とは、水底に配置し、移動を抑制する部材であり、重りのような重量物を沈めても良いし、アンカーボルトにより水底に固定しても良い、また、既に水底に固定されている部材を用いても良い。
【0016】
人工藻場ユニットとは、人工藻場を水中に分散配置することにより、小動物や魚類の生息場所を提供するものであり、具体的には非生分解性材料からなり、いずれかの一端に浮体または水底固定具を有する紐状部材に、本発明の人工藻場材を、非生分解性材料により結束した側で複数個連結したものである。典型的には、一端に浮体を、他の一端に水底固定具を連結したものが好ましく用いられるが、両端に浮体を連結したものや、両端に水底固定具を連結したもの等も人工藻場を設置する水中の状況に応じて適宜選択することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の人工藻場材は、生分解性材料により炭素繊維により構成された人工藻場材を覆う構造であるため、設置のときには炭素繊維がちぎれたり、毛羽立つことを低減することができ、設置後はしかるべき期間経過後に生分解性材料が分解することにより炭素繊維がバラバラに分散し、人工藻場としての機能を発現することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る人工藻場の水中での使用状況を示す図である。ロープ等の紐状部材3に非生分解性材料により結束された側の端部を固定された直径5μm〜15μmの極細の炭素繊維1が多数本(数万本)で水中をバラバラに分散することにより、長期にわたり活性を維持することができる構成となっている。なお、人工藻場となる炭素繊維1は水中でバラバラに分散する形態であれば、前記した形態に限るものではない。なお、該炭素繊維1は高強度ではあるが、直径5μm〜15μmの極細であるため、取扱い時の過大な外力により容易に切断する事があるが、水中では主に水に接触しているため、そのような外力が少なく、従って長期にわたり性能を維持することが出来る。
【0019】
図2は従来の技術で設置時の人工藻場材を示す図である。取扱い性を改善するため、多数本(数万本)の炭素繊維1は例えば水溶性のサイジング剤により棒状の炭素繊維ストランド2として束ねられ、水中に投入したときにサイジング剤が水中に溶ける事により炭素繊維1として分散する構成となっている。該炭素繊維ストランドは人手で容易に炭素繊維1にほぐすことが出来るため、設置時に引きずったり、引っかけたりする事により、炭素繊維1が容易に切断し、人工藻場材が損傷すると共に、作業者の皮膚に付着しチクチクするなどの不快感を与える。
【0020】
図3は本発明の一形態に係る人工藻場材を示す図である。生分解性繊維4により炭素繊維ストランド2の外面をカバーリングする事により取扱い時の外力より保護している。
【0021】
図4は本発明の他の一形態に係る人工藻場材を示す図である。生分解性フィルム5により炭素繊維ストランド2の外面をカバーリングする事により取扱い時の外力より保護している。フィルムで保護することにより、繊維で保護するよりも簡便にカバーリングすることができる。
【0022】
人工藻場材の保護材料として生分解性材料を用いるには、設置が完了するまでは炭素繊維ストランド2を保護し、水中では比較的短期間に分解するためであり、少なくとも1日以上は保護機能を維持する材料として生分解性材料が好ましい。例えば水溶性PVA繊維のような水溶性繊維では、設置時に水に濡れることにより溶け始め、ゲル状の性状と粘着性を呈する事により作業性を低下させてしまう。このような生分解性材料として天然繊維を用いることも出来るが、ポリ乳酸を用いることにより、繊維の繊度、フィルムの膜厚を調整することが可能となり。人工藻場の規模、形状に合わせた最適な材料選定を適宜おこなうことが可能となる。
【0023】
図5は、本発明の人工藻場ユニットの一例を示したものである。紐状部材3に結束された炭素繊維1が多数本で水中をバラバラに泳動することにより人工藻場としての機能を発現する。炭素繊維は水よりも重いため、紐状部材3に浮体7を取り付ける。また、水流により人工藻場ユニットが移動することを抑制するために水底固定具9を取り付ける。設置する地形、水流によっては、浮体7、水底固定具9がどちらか片方だけ紐状部材3に付いていても良かったり、紐状部材3の両端に浮体7または水底固定具9でも良かったりするが、水底が平面形状場合は、紐状部材3の片端が、浮体7もう一端が水底固定具9という構成が炭素繊維1が効果的に水中を泳動し、水流による人工藻場ユニットの移動を抑制する点で最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る人工藻場の水中での使用状況を示す図である。
【図2】従来の技術である人工藻場材を示す図である。
【図3】本発明の一形態に係る人工藻場材を示す図である。
【図4】本発明の他の一形態に係る人工藻場材を示す図である。
【図5】本発明の請求項5に係る人工藻場ユニットの水中での設置状況の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1:炭素繊維
2:炭素繊維ストランド
3:紐状部材
4:生分解性繊維
5:生分解性フィルム
6:水面
7:浮体
8:水底
9:水底固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素繊維フィラメントの少なくとも一端を非生分解性材料により結束した人工藻場の非結束部の少なくとも一部を覆うように生分解性材料を配置し棒状としたことを特徴とする人工藻場材。
【請求項2】
前記生分解性材料は、繊維形態を有し、前記人工藻場の全長に渡って巻き付けたものである請求項1に記載の人工藻場材。
【請求項3】
前記生分解性材料は、フィルム形態を有し、前記人工藻場の全長に渡って巻き付けたものである請求項1に記載の人工藻場材。
【請求項4】
前記生分解性材料は、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の人工藻場材。
【請求項5】
非生分解性材料からなり、いずれかの一端に浮体または水底固定具を有する紐状部材に、請求項1〜4のいずれかに記載の人工藻場材を、非生分解性材料により結束した側で複数個連結したことを特徴とする人工藻場ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−154548(P2008−154548A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349070(P2006−349070)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】