説明

人工透析用血液検知装置

【課題】汗によって誤作動を起こすことなく、抜針による出血及び抜針の蓋然性を確実に検知することができる人工透析用血液検知装置の提供。
【解決手段】この水分センサ11は、電極シート15、フィルターシート16及び通水性シート17を備える。電極シート15は、三層構造のベースシート18を有し、補強シート22を備える。補強シート22は、多数の微細孔を有し、水蒸気を通過させる通気性を備えるが水滴の通過を阻止する防水性をも備える。コネクタ14は、レバー34及びクリップ41とを備える。レバー34及びクリップ41は、それぞれ水分センサ11の一端部61及び他端部62を挟持する。クリップ41は、ノーマルクローズ型のスイッチ55を備える。クリップ41が水分センサ11を保持したときにスイッチ55がOFFとなり、クリップ41が水分センサ11から外れると、スイッチ55がONとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析処置の最中に発生した血液の漏れを検知する装置に関する。なお、この装置は、輸液中に発生した輸液の漏れを検知する装置としても使用される。
【背景技術】
【0002】
水分を検知する装置が従来から提供されている。たとえば、引用文献1は、成人用オムツに適用され、水分(尿)を検知することによって、オムツの交換時期を報知する。この水分検知装置は、一対の電極を備えたセンサーシートを備えており、各電極間に所定の低電圧が印加されている。そして、一定量以上の水分(尿)がセンサーシートに付着することによって、上記電極間に流れる電流が変動し、これにより、オムツの交換時期が報知されるようになっている。このセンサーシートは、上記電極間に特殊な導電材を配置している。この導電材は、乾燥状態では上記電極間の導電率をきわめて小さくするが、吸水時には上記電極間の導電率を高める。これにより、センサーシートは、水分の存在により電気的に導通する水分検知スイッチとして構成されている。そして、この水分検知スイッチがオンになると、ブザーその他の報知手段により水分の存在、すなわち成人用オムツの交換時期が報知されるようになっている。
【0003】
上記センサーシートは、医療現場における血液透析治療においても使用される。血液透析治療では、透析液の濃度異常等を検出する透析監視装置が使用されており、治療中の透析液濃度が監視されている。また、治療中の抜針を原因とする出血事故が従来から生じているが、抜針が原因となる出血の有無は、医療関係者の目視等のチェックに委ねられていた。抜針による出血事故の原因は、患者の意識障害、かゆみ、肩腰痛等による体動、治療中の昏睡等さまざまであり、事故の危険が回避されるためには、例えば看護師による巡回見回りが繰り返し必要になる。人工透析中の出血事故は確実に防止されなければならないが、そもそも人間の注意力に頼る方法には限界がある。そのため、人工透析中における血液の漏れをより正確に検知することができる水分検知装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
図19は、人工透析治療に使用される従来の水分検知装置の模式図である。図20は、この水分検知装置に備えられた水分センサの部分拡大断面図である。
【0005】
水分検知装置1に採用されている水分センサ2は、吸水材5を備えている。この吸水材5は、乾燥状態で電気絶縁性を示す上敷3及び下敷4を有する。これら上敷3及び下敷4は、吸水性を備えている。下敷4と上敷3との間に電気抵抗素子6を含む電極7が挟まれている。また、下敷4と上敷3との間に、吸水時に導電率を高める導電性接着剤8が介在されている。この水分センサ2では、上記電気抵抗素子6の抵抗値は、例えば20kΩ程度に設定されている。そして、上記導電性接着剤8が使用されていることから、比較的多量の水分(すなわち、透析治療中における抜針による出血)が存在する場合には、上記電極7間が当該水分により導通され、当該電極7間の導電率が高められる。具体的には、上記抵抗値は、数kΩまで低下するように設定されている。
【0006】
このように、従来の水分センサ2では、少量の水分(例えば治療中に発する汗)は検出せずに、抜針による出血が確実に検知され、報知装置Sによってその旨が報知される。また、前述のように水分が存在しない場合であっても電極7間が完全に絶縁されていないので、水分検知装置1の接触不良その他の不具合の有無が確認される。
【0007】
水分センサー2が出血を検知したときは、所要の処置が施され、水分センサー2が交換されなければならない。水分センサー2の交換作業が迅速に行われるために、従来から上記報知装置8と水分センサー2との間にコネクタCが設けられている。そして、水分センサー2へのコネクタCの着脱が容易且つ確実なものとするために、種々の提案がなされている(たとえば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−55074号公報
【特許文献2】特開2004−177120号公報
【特許文献3】特開2007−132703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、人間の体質は非常に多様であり、汗の中の塩分濃度も一定ではなく、人によって0.3質量%から1.7質量%程度である。さらに、発汗量も少ない人から異常に多い人までさまざまである。上記水分センサ2が例えば腕に巻き付けられて使用されるとき、長時間が経過すると、上記下敷4に汗が多量に溜まってしまうことがある。このような場合には、当該汗によって上記電極7間が導通され、水分検知装置1が誤作動を起こすという問題があった。
【0010】
また、人工透析治療は、数時間を要する処置である。そのため、処置中に患者が腕を意識的にあるいは無意識に動かすことにより抜針事故が発生することがある。このような抜針事故は、特に痴呆症状が現れた患者に多く発生するものであり、もし、このような抜針事故が発生すると、水分センサー2の取替作業に時間を要し、人工透析治療になお長時間を要することになる。
【0011】
加えて、この水分センサ2は人工透析治療に際し使用されるものであるから、新品の状態において確実に滅菌されている必要がある。したがって、従来では、水分センサの製造工程において、上記水分センサ2が滅菌袋に収容された後に当該滅菌袋に滅菌ガスが封入されていた。ところが、この滅菌工程では、滅菌ガスが滅菌袋に供給された後に当該滅菌袋が封止されなければならず、完全な滅菌の実現は困難であった。そのため、滅菌ガスの封入作業が滅菌された空間内で行われる必要があり、その結果、水分センサの製造コストが上昇するという問題もあった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、人工透析治療中に汗による誤作動を防止して抜針による出血を確実に検知することができ、しかも抜針事故の蓋然性をも検知することができる人工透析用血液検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1) 上記目的が達成されるため、本発明に係る人工透析用血液検知装置は、乾燥状態で絶縁性を呈すると共に水分を含んだ状態で導電性を呈することによって血液の存在を検出する水分センサーと、少なくとも当該水分センサーが血液の存在を検出したことを報知する報知器と、当該報知器及び上記水分センサーを接続するコネクタとを有する。上記水分センサーは、通気性を有するベースシート及び当該ベースシートに配置された一対の電極を有する電極シートと、当該電極シートに重ね合わされ、多数の小孔が穿設された撥水性を有するフィルタシートと、当該フィルタシートに重ね合わされた一定の保水性を備えた通水性シートとを備える。上記コネクタは、ケーシングと、当該ケーシングに設けられ、上記水分センサーの一端部を挟み込むことによって上記一対の電極間に架け渡すように配置される導電性電極接続部材と、上記ケーシングに設けられ、上記水分センサーの他端部を挟み込んで一定の保持力で保持し得るクリップとを有する。上記導電性電極接続部材は、上記電極シートを突き刺す突刺刃を備え、上記クリップは、上記水分センサーを挟み込んだ状態でOFFとなるノーマルクローズ型スイッチを備えている。
【0014】
この水分センサは、人工透析治療において患者の腕の下に敷かれ、患者の腕は、上記通水性シートの上に配置される。もし、治療中に抜針により患者の腕から出血した場合は、当該血液が上記通水性シートによって一旦保持されるが、一定量以上の出血があった場合は、当該血液が上記電極シートを濡らし、上記一対の電極間が導通される。この電極間の導通を所定の入力信号とし、当該入力信号が上記コネクタを介して上記報知器に伝達される。これにより、当該報知器が作動し、血液の漏れが報知される。
【0015】
透析治療が長時間にわたった場合、患者の腕が発汗し、患者の体質によって多量の汗が出ることも考えられる。しかし、患者の腕は、上記通気性シート上に配置され、上記フィルターシートが多数の小孔を有し、さらに、上記電極シートを構成するベースシートが通気性を有することから、上記汗は水蒸気となって水分センサを通過するので、上記汗が電極シートに溜まることはない。
【0016】
上記コネクタが上記水分センサーに取り付けられるときは、当該水分センサーの一端部が上記導電性電極接続部材によって挟み込まれる。これにより、上記突刺刃が上記電極シートを突き刺し、上記導電性電極接続部材が上記一対の電極間に架け渡される。この突刺刃が上記電極シートを突き刺すので、このコネクタは、簡単に且つ確実に上記水分センサーに固定される。また、上記突刺刃は、上記電極シートを突き刺しているだけである(すなわち、上記水分センサーを挟み込んでいるだけである)から、当該突刺刃は、簡単に水分センサーから抜き取られる。したがって、上記コネクタを上記水分センサに対して着脱する作業が簡単である。
【0017】
人工透析が行われるときは、上記水分センサーが患者の腕に巻かれ、当該水分センサーの他端部が上記クリップにより挟持される。このクリップはノーマルクローズ形スイッチを備えているため、上記水分センサーが上記クリップに保持された状態で当該スイッチがOFFとなる。このクリップは、一定の保持力で上記水分センサーを保持しているだけであるから、たとえば、患者が当該水分センサーを引っ張ったりすれば、当該水分センサーが上記クリップから離脱し、上記ノーマルクローズ形スイッチがONとなる。
【0018】
(2) 上記ベースシートは、炭酸カルシウムが混成されることにより通気性且つ防水性を呈する多数の微細工が貫通形成されたポリエチレンフィルムを備えているのが好ましい。
【0019】
上記ベースシートの主体がポリエチレンからなるので、水分センサの製造コストが大幅に上昇することはない。
【0020】
(3) 上記電極シートと上記通水性シートとを接着する接着層が上記フィルターシートを兼ねているのが好ましい。
【0021】
これにより、水分センサの構造が簡略化され、一層製造コストが削減されるという利点がある。
【0022】
(4) 上記ノーマルクローズ型スイッチは、上記クリップが上記水分センサーを挟み込む方向に沿って配置された一対の電極板を有しているのが好ましい。一方の電極板は、他方の電極板に接触するように弾性的に付勢される。上記クリップが上記水分センサーを保持した状態で、当該水分センサーに押圧されることによって、上記一方の電極板を上記他方の電極板から離反させる接触解除バーが設けられている。
【0023】
この構成では、上記クリップが上記水分センサーを挟持していないときは、一方の電極板が他方の電極板に接触している。つまり、上記ノーマルクローズ形スイッチがONの状態となる。上記水分センサーが上記クリップに挟み込まれると、当該水分センサーが上記接触解除バーを押圧する。これにより、当該接触解除バーが一方の電極板を押し、当該一方の電極板が他方の電極板から離反する。つまり、上記ノーマルクローズ形スイッチがOFFの状態となる。この状態から上記水分センサーが上記クリップから外れると、上記一方の電極板が他方の電極板に弾性的に付勢されているから、両電極板が接触して上記ノーマルクローズ形スイッチがONの状態となる。
【0024】
また、本発明に係る水分センサは、上記電極シート、フィルターシート及び通水性シートを包む包装用袋体をさらに備えているのが好ましい。当該包装用袋体は、通気性を有する本体シートと、本体シートの内側に積層された一定の保水性を備えた通水性シートとを有するのが好ましい。
【0025】
この場合、上記電極シート、フィルターシート及び通水性シートは、包装用袋体に包まれる。この包装用袋体は通気性を備えているから、上記電極シート、フィルターシート及び通水性シートは、この包装用袋体に包まれた状態で滅菌され得る。なぜなら、包装用袋体の外部から滅菌ガスが供給されることにより、当該滅菌ガスは包装用袋体の内部に進入し、上記電極シート、フィルターシート及び通水性シートに対して滅菌作用を及ぼすことができるからである。すなわち、上記電極シート、フィルターシート及び通水性シートは、包装用袋体に密封包装された状態で滅菌され得る。
【0026】
水分センサが上記包装用袋体を備えていることから、当該水分センサが使用されるとき、すなわち、人工透析治療が開始されるにあたって上記包装用袋体が開封されたときは、当該包装用袋体は、人工透析用注射針が患者の腕に刺される際のナプキンとして機能し得る。すなわち、上記包装用袋体が開封された後に、患者は、その腕を当該開封された包装用袋体の上に載置する。人工透析用注射針が患者の腕に刺される際に血液が漏れる可能性があるが、その場合であっても、上記包装用袋体の内側に上記通水性シートが積層されていることから、漏れた血液は、上記包装用袋体の通水性シートに吸収される。これにより、人工透析用注射針が患者の腕に刺される際に漏れた血液によって、上記電極シート等が濡れてしまうことが防止される。
【0027】
さらに、上記包装用袋体は、上記電極シート、フィルターシート及び通水性シートを内側に包み込むように周縁部が接着されているのが好ましい。
【0028】
この構成では、包装用袋体は、略二つ折り状態とされることによって上記電極シート、フィルターシート及び通水性シートを包み込むことができる。しかも、このときに、包装用袋体の周縁部が接着されているだけであるから、当該周縁部が離反されることによって包装用袋体が簡単に展開される。したがって、人工透析治療が開始されるにあたって包装用袋体が簡単且つ迅速に開封され得る。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、人工透析中に患者の腕から汗が出た場合であっても、この汗は水蒸気の状態のまま水分センサを通過するので、当該汗が原因となる水分センサの誤作動が確実に防止される。 しかも、上記水分センサーの一端部が導電性電極接続部材により挟持されると共に他端部がクリップにより仮保持されるので、この水分センサーに引張力が作用すると、当該水分センサーの他端部がクリップから容易に外れる。したがって、たとえば人工透析が行われている現場において、患者が上記水分センサーを引っ張った場合、当該水分センサーがクリップから外れて、このことがノーマルクローズ形スイッチにより検知される。すなわち、抜針事故の前兆が検知され、抜針事故が未然に防止される。
【0030】
なお、本発明では、上記包装用袋体が設けられることにより、上記水分センサの滅菌が簡単且つ確実にしかも安価に行われる。加えて、人工透析用注射針が患者の腕に刺される際に、万一血液が漏れた場合であっても、当該血液が包装用袋体に吸収されるから、当該血液によって新品の水分センサの電極シート等が濡れてしまうことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る人工透析用血液検知装置10の模式図である。
【図2】図2は、水分センサ11の断面図である。
【図3】図3は、水分センサ11の構造を模式的に示す分解斜視図である。
【図4】図4は、補強シート22の断面構造を模式的に示す図である。
【図5】図5は、人工透析用血液検知装置10の配線図である。
【図6】図6は、コネクタ14の斜視図である。
【図7】図7は、コネクタ14の斜視図である。
【図8】図8は、ケーシング33内に配置された電極接続部材40とレバー34の脚部35との位置関係を示す図である。
【図9】図9は、コネクタ14の拡大斜視図である。
【図10】図10は、コネクタ14の要部拡大斜視図である。
【図11】図11は、コネクタ14の拡大分解斜視図である。
【図12】図12は、クリップ41の拡大斜視図である。
【図13】図13は、人工透析用血液検知装置10の使用状態を示す斜視図である。
【図14】図14は、本発明の一実施形態の第1の変形例に係る水分センサの分解斜視図である。
【図15】図15は、第1の変形例に係る水分センサに使用されている接着層91の形成装置を模式的に示す図である。
【図16】図16は、本発明の一実施形態の第2の変形例に係る水分センサの分解斜視図である。
【図17】図17は、第2の変形例に係る包装用袋体101の断面構造を示す模式図である。
【図18】図18は、包装用袋体101の使用要領を(a)から(c)の順に示す図である。
【図19】図19は、人工透析治療に使用される従来の水分検知装置が示された概念図である。
【図20】図20は、従来の水分検知装置の検知部である水分センサの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態に係る人工透析用血液検知装置を模式的に示す図である。
【0034】
この人工透析用血液検知装置10は、主として人工透析治療において患者からの出血を監視する。この人工透析用血液検知装置10は、水分センサ11を備えている。治療中において、患者の腕が水分センサ11上に載置され、万一血液が漏れた場合には、水分センサ11がそのことを検知する。水分センサ11は、後に詳述されるコネクタ14を介して報知器13と連結されている。報知器13はブザー12を備えており、水分センサ11が血液漏れを検知したときにブザー12が鳴るようになっている。なお、本実施形態では、人工透析用血液検知装置10が人工透析中における血液の漏れを監視するために使用されるが、この人工透析用血液検知装置10は、一般に輸液中における輸液の漏れを監視する装置として使用され得ることは言うまでもない。
【0035】
1.水分センサの構造
【0036】
図2は、水分センサ11の断面図である。また、図3は、水分センサ11の構造を模式的に示す分解斜視図である。図3において上方が、この水分センサ11が用いられる状態で患者の腕が載置される側である。
【0037】
図3が示すように、水分センサ11は、電極シート15と、フィルターシート16と、通水性シート17とを備えている。この通水性シート17は、透水性及び一定の保水性を備えている。電極シート15は、乾燥状態で絶縁性を呈すると共に水分を含んだ状態で導電性を呈するように形成されている。この電極シート15は、ベースシート18(図3参照)と、このベースシート18に配置された一対の電極19(19a、19b)とを備えている。電極シート15は、電極シート15に水分が含まれたときに導電率が高められるように親水性が高い電解質物質を含んでいる。
【0038】
電極シート15のベースシート18を構成する材料は、特に限定されるものではない。要するに、ベースシート18は、通気性を有し、電極19が安定して支持され、小さな力で容易に破れることなく、空気中の水分を自己吸湿して膨潤又は溶解することがない耐水性を具備していればよい。このベースシート18は、上敷ベースシート20と下敷ベースシート21とからなる。上敷ベースシート20は、患者の血液が先に接する側に位置し、下敷ベースシート21は、電極19を下方から支持する側に位置する。
【0039】
電極19が配設されるベースシート18は、乾燥状態において電気的に略絶縁性を呈する。また、ベースシート18は、親水性を有し柔軟性のあるものが好ましい。ベースシート18の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニデン、ポリイミド、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、布、紙等の材料が採用され得る。特に、ベースシート18の材料として、親水性であるセルロース繊維からなる紙、布、不織布等が好ましく用いられる。本実施形態では、ベースシート18は、和紙からなる。和紙は、丈夫で薄く親水性を備えており、環境にも優しいからである。
【0040】
本実施形態に係る下敷ベースシート21は、三層構造を有し、補強シート22と、上側シート23及び下側シート24とを備えている。補強シート22を挟んでベースシート18の表面側に上側シート23が配置され、裏面側に下側シート24が配置されている。これら上側シート23、下側シート24及び補強シート22は、一体的に形成されている。この下敷ベースシート21は、後述のように電極19が印刷される場合にも柔軟性を維持しつつ、皺にならず安定している。
【0041】
図4は、補強シート22の断面構造を模式的に示す図である。
【0042】
補強シート22は、基布25と、基布25の上方に積層された不織布26とを有する。同図において上側に上記電極19(図3参照)が存在し、この水分センサ11において患者が腕を載置する側である。補強シート22は、通気性を備えている。上記基布25は、シート状のポリエチレンを主体として構成され、これに炭酸カルシウムが混成されている。この炭酸カルシウムの粒子が混入されることによって、シート状のポリエチレンに多数の微細孔27が貫通形成されている。この微細孔27の直径は、1μm〜100μm程度に設定されている。また、上記不織布26は、パルプ繊維が不規則に絡み合うことにより構成されており、十分な通気性を有する。したがって、水蒸気は上記不織布26及び基布25を通過することができるが、水滴は基布25を通過することができない。補強シート22の厚み寸法は、特に限定されるものではない。基布25を構成する材料は、上記ポリエチレンに代えてポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂フィルムが用いられ得る。これらの材料が採用されることによって、補強シート22は、比較的剛性が高く、且つ柔軟性も備えることができるからである。なお、上記不織布26は、省略されていてもよい。
【0043】
この下敷ベースシート21が前述のような積層構造を備えているから、後述のように電極19を取り付ける作業が容易になる。本実施形態では、上側シート23及び下側シート24は、和紙からなる。もっとも、上側シート23及び下側シート24が他の材料から構成されていてもよい。上側シート23と下側シート24とは、接着剤により固着されている。この接着剤は、上記補強シート22の上下面に塗布され、この補強シート22に対して上側シート23及び下側シート24が張り付けられる。これにより、これらの密着性が確保されている。
【0044】
なお、ベースシート18の大きさは、特に限定されるものではないが、普通紙のA4版程度のものが標準的である。ベースシート18の厚さは、0.5mm以上3mm以下に設定され得る。ベースシート18の厚さがこの程度であれば、ベースシート18の柔軟性が確保され、取り扱いに便利だからである。もっとも、ベースシート18の厚みは、電極19、ベースシート18の材質及び積層構造によって異なる。このベースシート18は、全体として親水性を呈するように形成される。
【0045】
図3が示すように、電極シート15は、ベースシート18に上記一対の電極19a、19bが配置されることにより構成される。具体的には、上敷ベースシート20及び下敷ベースシート21に所定の電解質溶液が浸透された後、これら上敷ベースシート20及び下敷ベースシート21が乾燥される。さらに、上記上側シート23上に上記一対の電極19a、19bが平行に並べられ、上敷ベースシート20が下敷ベースシート21に合わせられる。つまり、電極19a、19bが下敷ベースシート21と上敷ベースシート20とによって挟み込まれる。なお、電極シート15は、上記一対の電極19a、19bが上記上側シート23上に平行に並べられ、当該上側シート23と上敷ベースシート20との間に挟み込まれた後に、当該ベースシート18に所定の電解質溶液が浸透され、乾燥されることにより形成されてもよい。
【0046】
上記電解質溶液は、後述されるように親水性ポリマを含むことが好ましい。上記電解質溶液の電解質としては、食塩、塩化カリウム、硝酸ナトリウム等の無機塩類、アンモニウム塩 、脂肪酸のアルカリ金属塩又はグルタミン酸のアルカリ金属塩が例示される。これらの塩は、水に溶けてイオン化するので導電性を呈する。これらの電解質のなかでも、特に食塩が好ましい。食塩は、強電解質であり、温度による溶解度の違いが少なく、安価で安定した導電率が得られるからである。この食塩は、10質量%以上21質量%以下の水溶性液とされることがより好ましい。
【0047】
ところで、一般に電極シート15に水分が含まれた場合において、仮に少量の水分であっても電極19a、19bの局部間を導通させてしまうとすれば、水分センサ11として誤検知が発生する可能性がある。例えば、水分センサ11が人工透析治療における血液の漏れを検知するセンサとして使用される場合に、患者の腕からの少量の発汗に起因して直ちに電極19a、19b間が導通されるならば、血液の漏れを監視する装置としては誤作動を起こすことになる。したがって、人工透析治療における出血を正確に検知するためには、一定量の、例えば5ccないし10cc程度の水分(血液)が電極シート15に比較的広範囲に拡散された状態で電極19a、19b間が導通されることが必要である。本実施形態では、電極シート15に上記親水性ポリマが含まれた電解質溶液が使用されているので、一定量の出血があったことを条件に、上記電極19a、19b間が導通される。その結果、水分センサ11の誤検知が確実に防止される。
【0048】
さらに、上記親水性ポリマーを含む電解質溶液が使用されているので、電極シート15が水分を吸収すると、当該電極シート15が均一に濡れやすい。また、水分が乾燥すると、電極シート15において上記電極19a、19b間が電気的に略絶縁状態となる。この親水性ポリマは水溶性であることが好ましい。親水性ポリマーとしては、セルロース、澱粉、ペクチン等が挙げられる。特に、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ等の澱粉が好ましい。これらは、接着剤としても機能するからである。
【0049】
この澱粉のなかでも、粘着度が高い点から馬鈴薯澱粉がより好ましく用いられる。電解質を含む水溶性接着剤28(図2及び図3参照)としては、具体的には、例えば馬鈴薯1質量%以上5質量%以下、食塩15質量%以上21質量%以下及び水が74質量%以上84質量%以下程度からなる糊がより好適である。この食塩の量は、常温で水に溶解しうる飽和溶解度付近の量でもよい。この糊は、材料である水、食塩及び馬鈴薯澱粉を加えて混合され、加熱しながら撹拌される。この撹拌生成物が均一な粘稠性を呈したら冷却されて導電性の糊になる。
【0050】
電極19が別部材として形成され、ベースシート18に挟み込まれる場合には、電極19は、例えば、厚みが0.3mm以下で柔軟な細い導電線が所定の間隔で平行に配線されてもよい。電極19は、フィルム状に形成され、可撓性を有するものが好ましい。電極19は、導電性の糸や細径の金属線によって形成されてもよい。導電性の糸としては、金属繊維をよりあわせたものも含む。例えばベースシート18が織布、不織布等からなる場合は、電極19がベースシート18に直接縫い込まれていてもよい。その他、電極19は、薄く延ばされたテープ状の導電板、例えばアルミ箔等により構成されていてもよい。
【0051】
電極シート15は、具体的に次のようにして形成される。
【0052】
図3が示すように、下敷ベースシート21の上に電極19が配線される。その後、上敷ベースシート20が下敷ベースシート21の上に被せられる。このとき、上記導電性接着剤28が用いられ、電極19は、下敷ベースシート21及び上敷ベースシート20に確実に密着される。これにより、水分センサ11の安定した作動が実現される。この導電性接着剤28にポリマー成分が含まれているから、電極シート15に吸収される水の量に比例して一対の電極19a、19b間が湿らされ、電極シート15に吸収された水が一定の量に達したときに電極19a、19b間が導通される。電極19a、19b間が導通されることによって、電極19a、電極19b間の導電率が急激に低下する。したがって、水分センサ11は、血液の存在(治療中における出血の有無)を確実に検知することができる。
【0053】
上記導電性接着剤28は、親水性シートである上敷ベースシート20に塗布され又は浸透させられている。上敷ベースシート20、電極19及び下敷ベースシート21が一体化されるために、上敷ベースシート20は、その電極19に面する側の表面が上記導電性接着剤28で被覆されていることが好ましい。上敷ベースシート20の下側面の全体に上記導電性接着剤28が塗布され、電極19が取り付けられた下敷ベースシート21に上敷ベースシート20が貼り合わされることにより、ベースシート18が一体化されやすい。さらに具体的には、上記導電性接着剤28がほぼ飽和量の食塩入り澱粉糊として構成され、これが上敷ベースシート20に吹きつけられ又は塗布されているのが好ましい。そして、この上敷ベースシート20が下敷ベースシート21に貼り付けられる。
【0054】
本実施形態では、電極19は、ベースシート18に印刷されている。この印刷の際に導電性インクが用いられている。電極19を構成する導電性インクとしては、導電性金属ペーストが好適である。導電性金属ペーストとしては、金、銀、白金、パラジウム、銅等の微粒子がバインダー樹脂に分散され、ペースト化されて作成される。この導電性金属ペーストが上記ベースシート18に印刷される。このため、ベースシート18は、和紙、ポリイミド等の耐熱性を備えた材料から構成されているのが好ましい。図1及び図3が示すように、電極19a、電極19bは、等間隔で並行している。これら電極19a、19bの端部は、同じ金属ペーストからなる電極端子30を構成している。電極19a、19bは、ベースシート18のほぼ全面に均一に配置されるように蛇行されている。このように、電極19が導電性インクにより印刷されることにより構成されているから、構造上均一な電極シート15が容易に製造され得る。
【0055】
上記金属ペーストの金属粒子が超微粒子で均一に分散されているならば、電極19は、およそ120℃から240°C程度の温度で焼成される。これにより、電極19は、ベースシート18を傷めることなくベースシート18上に印刷形成されることができる。図3が示すように、本実施形態では、ベースシート18に銀ペーストからなる電極19が印刷されている。印刷される電極19の幅寸法は、約2mmに設定されている。
【0056】
また、本実施形態では、一対の電極19a、19b間に架け渡すように電気抵抗素子31が設けられている。これにより、電極19a、19b間が電気的に接続される。この電気抵抗素子31が配置されることにより、電極シート15に水分が含まれていないときであっても電極19a、19b間が通電される。この電気抵抗素子31については、後に詳述される。この電気抵抗素子31によって電極19a、19b間が導通されることにより、水分センサ11が作動可能状態(電極19に断線等が発生していないこと)であることが、高い電圧の印加を必要とすることなく容易に確認され得る。
【0057】
上記電気抵抗素子31の抵抗値は通常、20kΩから5kΩ程度に設定される。このため、電極シート15が乾燥状態にあるときは、電極19a、19b間の電気抵抗がきわめて大きく、電極シート15に水分が存在するときは、電極19a、19b間の電気抵抗が急激に低下することになる。したがって、水分センサ11は、水分の存在、すなわち、出血の有無を確実に検知することができる。
【0058】
この電気抵抗素子31も導電性インクを用いて印刷形成され得る。電気抵抗素子31を構成する導電性インクには、カーボンインクが好適に用いられる。このカーボンインクに用いられるカーボンとしては、フェノール樹脂、フルフリルアルコール、塩化ビニリデン、セルロース、木等の難黒鉛化性材料が好ましい。この導電性インクは、カーボン粉末とフェノール、エポキシ等の樹脂からなるバインダとが混練されてペースト化されて作成される。電気抵抗素子31を構成する導電性インクは、上記下敷ベースシート21の上側シート23の表面に印刷される。図3が示すように、この電気抵抗素子31は、上記上側シート23上で上記電極端子30が配置されている側の辺と相対する他方の辺の端部付近に印刷されている。この電気抵抗素子31は、上側シート23の幅方向全体にわたって印刷されている。電気抵抗素子31の幅寸法は、約3mmから5mmに設定され得る。なお、本実施形態では、この電気抵抗素子31の上に交差するように重ねて上記電極19が印刷されている。
【0059】
このようにして作成された電極シート15の上に上記フィルターシート16が配置される。このフィルターシート16は、撥水性を有するとともに多数の小孔32を備えている。フィルターシート16は、この小孔32からのみ水分を通過させることができる。したがって、このフィルターシート16上の一定の範囲を濡らすために十分な量の水分(血液)が存在するときに、当該血液がフィルターシート16の小孔32を通過しやすい。このフィルターシート16は、電極シート15の有効領域の全体を覆うように配置されている。ここで、電極シート15の有効領域とは、水分の検知が可能な領域であって、導電性を呈しない余白の端部等は、上記有効領域から除外される。
【0060】
上記フィルターシート16は、電極シート15と通水性シート17との間に単に挿入されていてもよいが、フィルターシート16は、電極シート15及び通水性シート17と一体化されていることが好ましい。これにより、フィルターシート16の取り扱いが容易となる。フィルターシート16は、電極シート15と通水性シート17との間に接着剤を介して接着されていてもよい。ただし、フィルターシート16が電極シート15等と一体化された場合であっても、フィルターシート16は、電極シート15等の変形に追随できるように柔軟性を備えていることが好ましい。
【0061】
フィルターシート16は、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体フィルムから構成され得る。このエチレン酢酸ビニル共重合体フィルムは、柔軟性に富むと共にベースシート18等に加熱接着させることができる。この加熱接着は、フィルターシート16を電極シート15等に良好に一体化させることができる。エチレン酢酸ビニル共重合体フィルムに代えてポリテトラフルオロエチレンフィルムもフィルターシート16の材質として採用され得る。フィルターシート16の肉厚寸法は、薄すぎると破損しやすくなるため10μm以上であることが好ましい。より好ましくは20μm以上であり、さらには30μm以上である。フィルターシート16が厚すぎると柔軟性が乏しくなるため、100μm以下程度であることが好ましい。この観点からフィルターシート16の厚さは、80μm以下であることがより好ましい。さらに好ましくは60μm以下である。
【0062】
フィルターシート16に設けられた小孔32の形状及び大きさは、一定量の水分が存在したときにこれを通過させるとの目的が達せられる限り、特に制限はない。この小孔32は、繊維が格子状に編まれて形成された目により構成されていてもよい。多数の小孔32は、通常、均等の間隔で分散して配置されている。小孔32は、小さすぎると異物その他により埋まりやすくなるため、小孔32の内径寸法は1.0mm以上であることが好ましい。より好ましくは、1.2mm以上であり、さらに好ましくは、1.5mm以上である。
【0063】
この小孔32が大きすぎると、フィルターシート16は、被検知液(血液)以外の水分(汗等)を容易に通過させてしまう確率が高くなる。このため、小孔32の内径寸法は4.0mm以下であることが好ましい。より好ましくは、小孔32の内径寸法が3.5mm以下、さらに好ましくは3.0mm以下である。隣接する小孔32間の間隔は、内径寸法が2.0mmの小孔32の場合に10mm程度を標準として適宜設定される。上記小孔32の密度は、小さすぎると血液が通過しにくく検知が遅れる。このため、フィルターシート16の面積100cmあたりの小孔31の個数は、50個以上500個以下程度に設定されていることが好ましい。
【0064】
このフィルターシート16の上に配置される通水性シート17は、網目状、微小孔等の組織により保水性を備えつつ水分を通過させ得ることが好ましい。この透水性及び保水性を備えた通水性シート17は、一定量の保水が可能であるが、その保水量を超える量の水分を通過させるものである。この通水性シート17の材質としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエステル等の合成繊維又はセルロース、綿、麻、羊毛等の天然繊維が挙げられる。通水性シート17を構成する材料としては、これらの織布又は不織布又は紙が用いられる。特に、通水性シート17の材料としては、綿、パルプ繊維又はセルロース繊維からなる不織布がより好適に用いられる。この通水性シート17は、被検知液体である血液に対しては、その一部を保持又は分散させるバッファー効果を発揮する。一方、患者の腕からの発汗等は、人工透析用注射針からの出血に比べて比較的広い範囲で生じるので、通水性シート17は、この汗等の水分を保持すると同時に気体として発散させることによりフィルターシート16に水分を送り込まないようにすることができる。
【0065】
図5は、この水分センサ11が用いられた人工透析用血液検知装置10の基本構成が示された配線図である。
【0066】
この人工透析用血液検知装置10は、分割された抵抗回路C1、C2、C3を備えている。この人工透析用血液検知装置10では、各抵抗回路C1〜C3の出力値が比較されて、その結果に基づいて、後述されるように択一的に5種類の信号が発せられる。
【0067】
図5において、水分センサ11の抵抗R0は20kΩに設定されている。抵抗回路C1は、電源及び抵抗r1(=20kΩ)からなり、抵抗回路C2は、抵抗r2(=100kΩ)と可変抵抗R1(=10kΩから20kΩ)からなり、抵抗回路C3は、抵抗r3(=20kΩ)及び可変抵抗R2(=50kΩから100kΩ)からなる。人工透析用血液検知装置10の配線が正常に接続されている場合は、電源の電圧V0が、可変抵抗R1に作用する電圧と抵抗r1に作用する電圧とに分散され、比較器H1の負の信号入力端子及び比較器H2の正の信号入力端子に入力する。水分センサ11が未接続又は接触不良を起こしている場合には、電源の電圧V0の抵抗r1による電圧降下分だけの値が比較器H1及び比較器H2に入力される。抵抗回路C2では、比較器H2の負の信号入力端子に、例えば、可変抵抗R1が20kΩの場合、V0×R1/(r2+R1)=V0/6の電圧が印加される。抵抗回路C3では、比較器H1の正の信号入力端子に、可変抵抗R2が100kΩの場合、V0×R2/(r3+R2)=V0×5/6の電圧が印加される。
【0068】
比較器H1の出力端子には、抵抗r4(=470kΩ)、赤色発光ダイオードLR1及びブザーBZ1を介して上記電源V0が接続されている。比較器H2の出力端子には、抵抗r4(=470kΩ)、赤色発光ダイオードLR2及びブザーBZ2を介して上記電源が接続されている。上記電源の電圧V0は、抵抗r4及び抵抗r5(=470kΩ)を介して接地されている。比較器H1及び比較器H2の出力端子は、二入力アンドゲートAGの各信号入力端子に入力されている。二入力アンドゲートAGの出力端子は、青色発光ダイオードLBに接続されている。
【0069】
水分センサ11が未接続の場合、比較器H1の出力が低レベルになる。この比較器H1の低レベルの出力が赤色ダイオードLR1を発光させ、ブザーBZ1を鳴らす。水分センサ11が接続された場合、比較器H1及び比較器H2の二つ出力が高レベルになる。これら二つの信号が入力される二入力アンドゲートAGの出力が高レベルに切り換り、青色発光ダイオードLBを発光させる。水分センサ11が血液を含み、電極19間の抵抗が数十Ωにまで低下した場合、比較器H2の出力が低レベルになり、赤色発光ダイオードLR2及びブザーBZ2を作動させる。
【0070】
2.コネクタの構造
【0071】
図6及び図7は、コネクタ14の斜視図である。
【0072】
図6が示すように、このコネクタ14は、水分センサ11に着脱されるものであり、上記報知器13と接続されるコード29を有している。
【0073】
コネクタ14は、ケーシング33と、ケーシング33に設けられたレバー34及びクリップ41とを備えている。レバー34は、ケーシング33に対して回動することができるようになっており、後述のように、ケーシング33と協働して水分センサ11の一端部を挟持すると共に水分センサ11の電極19と電気的に接続されるようになっている。
【0074】
クリップ41は、水分センサ11の他端部を挟むことができる。クリップ41は、水分センサ11の他端部を挟んで一定の保持力で保持することができる。具体的には、患者の腕の下に敷かれた水分センサ11が患者の腕に巻回され、当該水分センサ11の他端部がクリップ41によって挟み込まれる。このコネクタ14の特徴とするところは、このクリップ41が設けられている点である。もし、クリップ41から水分センサ11が外れたことが検知されれば、患者が人工透析中に水分センサ11を引っ張るなどしたことが予想される。このことが予想されるならば、看護者等はその後に抜針事故が発生する可能性を把握することができ、抜針事故を未然に防ぐことができる。
【0075】
図7は、上記レバー34が開いた状態を示している。同図が示すように、レバー34は、一対の脚部35を備えている。この脚部35は、支持軸36を介してケーシング33に取り付けられている。脚部35は、支持軸36を中心に回動することができ、ケーシング33に対して回動自在となっている。すなわち、レバー34は、図6が示すようにケーシング33に対して倒伏した姿勢と、図7が示すようにケーシング33に対して起立した姿勢との間で姿勢変化自在となっている。レバー34がケーシング33に対して倒伏した姿勢は、「倒伏姿勢」と定義され、ケーシング33に対して起立した姿勢は、「起立姿勢」と定義される。
【0076】
ケーシング33は、樹脂からなる。ケーシング33は、全体として矩形の板状に形成されている。ただし、ケーシング33の角部に面取加工が施されており、ケーシング33の角部は滑らかな曲面に形成されている。このため、看護者、介護者及び患者は、ケーシング33を触ったときに滑らかで肌に優しい感触が得られるようになっている。図7が示すように、ケーシング33の手前側に段部37が形成されている。そして、この段部37に連続してケーシング33の内奥部に一対の端子収容部38が設けられている。この端子収容部38は、上記段部37の壁面39に連続してケーシング33の内奥側に形成された収容空間から構成されている。レバー34の一対の脚部35は、この端子収容部38に嵌め込まれている。
【0077】
各端子収容部38に、それぞれ、電極接続部材40(本発明における「導電性電極接続部材」の一例)が嵌め込まれている。この電極接続部材40は、上記レバー34の下方に配置されている。具体的には、電極接続部材40は、レバー34の脚部35の下方に配置され、この脚部35に常時接触している。後に詳述されるが、この電極接続部材40は、細長帯状の部材が略U字状に屈曲ないし湾曲されることにより構成されており、その先端部分が上記端子収容部38から上記段部37側に突出し露出している(図7参照)。
【0078】
図8は、ケーシング33内に配置された電極接続部材40とレバー34の脚部35との位置関係を示す図である。
【0079】
図7及び図8が示すように、上記端子収容部38に嵌め込まれた電極接続部材40は、ステンレス鋼板からなる。もっとも、電極接続部材40を構成する材料は、ステンレス鋼板に限定されるものではなく、金属板その他の導電性を有するものであれば他のものが採用され得る。本実施形態では、細長帯状のステンレス鋼板が略中央部で湾曲され、全体として略U字状に形成されている。
【0080】
電極接続部材40は、一対のアーム42、43を備えた本体44と、一方のアーム42の先端部に設けられた突刺刃45とを有する。前述のように電極接続部材40が略U字状に形成されていることから、上記一対のアーム42、43は、互いに対向している。本実施形態では、上記突刺刃45は、4本の鋭利な針状部を備えている。この突刺刃45は、一方のアーム42から他方のアーム43側へ突出している。また、他方のアーム43は、図7が示すように、孔46を備えている。本体44が弾性的に変形し、一方のアーム42が他方のアーム43側へ変位したときは、上記突刺刃45は、後述のようにして孔46に挿入するようになっている。この突刺刃45もステンレス鋼からなる。本実施形態では、突刺刃45は、スポット溶接により本体44に固着されている。もっとも、突刺刃45が本体44と一体的に設けられていてもよい。
【0081】
電極接続部材40がステンレス鋼からなるので、この電極接続部材40は弾性変形が可能である。すなわち、対向するアーム42、43は、図8の実線が示すように互いに離反した離反姿勢と、図8の二点差線が示すように互いに近接した近接姿勢との間で自由に姿勢変化することができる。そして、対向するアーム42、43が近接姿勢となったときに、上記突刺刃45が上記孔46に嵌め込まれるようになっている。なお、一対の電極接続部材40に上記コード29が接続されている。したがって、各電極接続部材40間が絶縁状態であるか又は導通状態であるかの判断は、両者間に所定の電圧が印加されることによって容易に行われる。
【0082】
上記レバー34も樹脂からなる。レバー34は、全体として薄肉の板状に形成されている。ただし、レバー34の角部もケーシング33と同様に面取加工がなされ、滑らかな曲面に形成されている。このため、看護者、介護者あるいは被介護者は、レバー34を触ったときに滑らかで肌に優しい感触が得られるようになっている。
【0083】
レバー34は、前述のように倒伏姿勢と起立姿勢との間で姿勢変化する。そして、レバー34が起立姿勢にあるときは、すなわち、図8においてレバー34の脚部35が実線で示される姿勢にあるときは、一方のアーム42が他方のアーム43から離反している。また、レバー34が倒伏姿勢にあるときは、すなわち、図8においてレバー34の脚部35が二点差線で示される姿勢にあるときは、一方のアーム42が他方のアーム43に近接している。
【0084】
脚部35は、アーム42に接触する接触面47、48を備えている。レバー34が起立姿勢にあるときは、接触面47がアーム42に接触する。このとき、接触面47は、アーム42から所定の弾性力を受けることになる。図8が示すように、レバー34を支持する支持軸36は、接触面47がアーム42に接触している状態で、当該接触面47の中央よりも後方側に配置されている。したがって、レバー34が起立姿勢にあるときは、当該レバー34は、支持軸36を中心として左回りに回動する方向に付勢されることになる。つまり、レバー34は、当該起立姿勢に保持される。一方、レバー34が倒伏姿勢にあるときは、接触面48がアーム42に接触する。このとき、接触面48は、アーム42から所定の弾性力を受けることになる。レバー34を支持する上記支持軸36は、図8が示すように接触面48がアーム42に接触している状態で、当該接触面48の中央よりも前方側に配置されている。したがって、レバー34は、支持軸36を中心として右回りに回動する方向に付勢されることになる。つまり、レバー34は、当該倒伏姿勢に保持される。
【0085】
図6及び図7が示すように、レバー34の中央部に指掛部49が形成されている。この指掛部49は、レバー34の上縁部50が膨出されることにより構成されている。この指掛部49が設けられることにより、レバー34が倒伏姿勢にあるときでも(図6参照)、看護者等が容易に指をレバー34に掛けることができる。したがって、レバー34の操作が簡単になる。
【0086】
図9は、コネクタ14の拡大斜視図であって、ケーシング33の裏面51の構造が詳細に示されている。
【0087】
本実施形態では、ケーシング33の裏面51に複数の突起52が形成されている。この突起52の外面は滑らかな曲面に形成されており、これにより、看護者等が突起52に触れたときに、肌に優しい感触が得られるようになっている。もっとも、突起52の形状は特に限定されるものではなく、要するに、看護者等が触ることにより、強い刺激を受けることがない形状であればよい。また、本実施形態では、突起52は、上記裏面51に略均等に配置されているが、突起52の数量も特に限定されるものではない。
【0088】
図6が示すように、ケーシング33の外形寸法は、縦寸法aが35mm、横寸法bが44mm、高さ寸法cが10mmに設定されている。もっとも、上記縦寸法aは、25mm以上45mm以下に設定され、横寸法bは、35mm以上60mm以下、高さ寸法cは、5mm以上15mm以下に設定され得る。ケーシング33がかかる寸法に設定されることによる作用効果については後述される。
【0089】
図1が示すように、報知器13は、上記コネクタ14と接続されている。報知器13は、従来から一般的に使用されている既知のものである。報知器13は、図示されていない電圧装置を内蔵しており、この電圧装置は、上記一対の電極接続部材40(図8参照)間に一定の電圧を印加する。そして、報知器13は、一対の電極接続部材40間に流れる電流を測定し、この電流の大きさが予め定められた所定値以上となったときに上記ブザー12を作動させる信号を出力する。また、報知器13は、一対の電極接続部材40間に流れる電流がゼロになったときにも上記ブザー12を作動させる信号を出力する。
【0090】
図10は、コネクタ14の要部拡大斜視図であって、クリップ41が開いた状態を示している。図11は、コネクタ14の拡大分解斜視図であって、コネクタ14からクリップ41が取り外された状態を示している。図12は、クリップ41の拡大斜視図である。
【0091】
図12が示すように、クリップ41は、ケーシング53と、挟持板54と、スイッチ55とを備えている。
【0092】
ケーシング53は、上記ケーシング33を構成する樹脂と同様の樹脂からなる。ケーシング53は、全体として矩形の板状に形成されている。ケーシング53は、基部56と、この基部56に連続する嵌合部57とを有する。基部56は、一対の支持板58を有する。この支持板58は、基部56の両端に突設されており、後述のように挟持板54を支持する。なお、ケーシング53の裏面にも突起52が設けられている(図4参照)。
【0093】
基部56は、背面側に傾斜面59を備えている。挟持板54が後述の開き姿勢となったときに、挟持板54が傾斜面59に当接する。嵌合部57は、矩形の板状に形成されており、基部56から前方に突出している。図11が示すように、嵌合部57が上記ケーシング33の後方に設けられた座部60に嵌め込まれている。この座部60は、上記ケーシング33が切り欠かれることにより形成された凹部からなる。なお、本実施形態では、上記電極接続部材40の一部が座部60内に露出している。
【0094】
図10及び図11が示すように、挟持板54は、平板部70と、一対の脚部71とを備えている。挟持板54は、ケーシング53を構成する樹脂と同様の樹脂からなる。平板部70の上面に突起72が設けられている。この突起72は、上記ケーシング33に設けられた突起52と同様の構成である。上記脚部71は、平板部70の略中央部に突設されている。各脚部71は、支持軸73を介して上記支持板58に支持されている。一対の脚部71は、一対の支持板58の間に嵌め込まれている。
【0095】
脚部71は、支持軸73を中心に回動することができる。したがって、挟持板54は、嵌合部57に対して姿勢を変化させることができる。すなわち、挟持板54は、図11及び図6が示すように、嵌合部57に当接する閉じ姿勢と、図10が示すように嵌合部57から離反する開き姿勢との間で姿勢変化可能となっている。本実施形態では、基部56に上記傾斜面59が設けられているから、挟持板54が開き姿勢となったときに、当該挟持板54が上記傾斜面59に当接して、当該開き姿勢が維持される。また、本実施形態では、支持板58と挟持板54との間にねじりコイルバネ74が設けられている。これにより、挟持板54は、常時において、一定の弾性力によって閉じ姿勢側に付勢されている。たとえば、看護者等が挟持板54の後端部を押圧することによって、挟持板54は、閉じ姿勢から開き姿勢へと変化する。
【0096】
挟持板54の内面中央部に凹部75が設けられている。本実施形態では、この凹部75は円形であり、所定の内径と深さを有する。図10が示すように、挟持板54が開き姿勢から閉じ姿勢に変化すると、後述の接触解除バー76が凹部75内に進入するようになっている。なお、この凹部75の形状は特に限定されるものではなく、要するに、挟持板54が閉じ姿勢となったときに、接触解除バー76が凹部75内に進入することができる形状であればよい。
【0097】
スイッチ55は、上記嵌合部57に設けられている。スイッチ55は、一対の金属薄板77、78(本発明における「電極板」の一例)と、上記接触解除バー76とを備えている。金属薄板77、78は、それぞれ、上記嵌合部57の右端及び左端に配置されている。金属薄板77は、細長帯状のステンレス鋼板からなる。図10が示すように、金属薄板77は、嵌合部57の右端部の上面及び側面を覆い、図12が示すように、嵌合部57の下面に回り込んでいる。金属薄板77の下面側端部に接点部79が形成されている。この接点部79は、金属薄板77の一部が隆起することによって形成されている。
【0098】
金属薄板78は、金属薄板77と同様に細長帯状のステンレス鋼板からなる。金属薄板78は、図10が示すように、嵌合部57の左端部の上面及び側面を覆い、図12が示すように、嵌合部57の下面に回り込んでいる。金属薄板78は、金属薄板77に重ね合わされるように嵌合部57の右端側へ延びている。金属薄板78の下面側端部は、上記接点部79に当接しており、当該接点部79において各金属薄板77、78の接点が形成されている。金属薄板77、78は薄肉のステンレス鋼板からなるので、弾性に富む。したがって、常時は、金属薄板78が金属薄板77の接点部79に当接するように弾性付勢されている。つまり、スイッチ55は、ノーマルクローズタイプのスイッチとして構成されている。
【0099】
なお、本実施形態では、金属薄板77、78の材料はステンレス鋼板であるが、これに限定されないことは勿論である。要するに、導電性を有し、弾性に富む材料であれば、金属薄板77、78の材料として好適である。
【0100】
この金属薄板78は、上記接触解除バー76を備えている。この接触解除バー76は、金属薄板78の略中央部に立設され、図10が示すように、嵌合部57を貫通して当該嵌合部57の上面80に露出している。後述のように、水分センサ11は、嵌合部57と挟持板54との間に挟み込まれるが、その状態で、接触解除バー76が水分センサ11に押圧される。水分センサ11に押圧された接触解除バー76は、図10において下方にスライドし、金属薄板78を押圧する。これにより、金属薄板78と金属薄板77との接触が断たれる。つまり、スイッチ55がOFFの状態となる。挟持板54が開き姿勢に変化すると(図10の状態)、金属薄板78の弾性力によって接触解除バー76が押され、両金属薄板77、78が接点部79において接触する。つまり、スイッチ55がONの状態となる。なお、クリップ41が水分センサ11を挟持している状態において、水分センサ11がクリップ41から外れた場合は、上記接触解除バー76が上記凹部75に進入し、スイッチ55がONの状態となる。すなわち、金属薄板78の弾性力によって接触解除バー76が押され、両金属薄板77、78が接点部79において接触する。
【0101】
本実施形態では、図10が示すように、金属薄板77、78の端部(嵌合部57の上面80に配置される部分)に複数の突起81が設けられている。これにより、水分センサ11は、クリップ41に確実に挟み込まれ、容易に水分センサ11がクリップ41から外れることなく、一定の保持力で保持されている。なお、上記突起81は省略されてもよい。その場合、一定の保持力が達成されるために、ねじりコイルバネ74のバネ力が大きく設定されてもよいし、嵌合部57の上面80が粗面に形成されてもよい。
【0102】
3.人工透析用血液検知装置の使用要領
【0103】
この人工透析用血液検知装置10は、次の要領で使用される。図13は、人工透析用血液検知装置10の使用状態を示している。
【0104】
同図が示すように、水分センサ11は、人工透析治療において血液の漏れを監視するために使用される。水分センサ11は、人工透析用チューブ83、84の先端に設けられた注射針から血液が漏れた場合に、この血液を受け止めることができる範囲に敷かれている。この水分センサ11は、前述のように厚みが薄くフレキシブルであるため、2本の人工透析用のチューブ83、84が取り付けられた患者の腕に巻き付けることもできる。
【0105】
まず、水分センサ11が人工透析を受ける患者の腕の下に敷かれる。コネクタ14が水分センサ11の一端部61に取り付けられる。この水分センサ11は、患者の腕に巻かれ、当該水分センサ11の他端部62がクリップ41に挟み込まれる。
【0106】
コネクタ14は、水分センサ11を電極接続部材40によって挟み込んで保持する。具体的には、例えば看護者がコネクタ14のレバー34を操作して起立姿勢に変化させる。看護者は、水分センサ11を電極接続部材40のアーム42、43間に配置し、レバー34を倒伏姿勢へ変化させる。これにより、突刺刃45が水分センサ11の電極19(すなわち銀ペースト)を突き刺し、電極接続部材40が電極シート15に印刷された一対の電極19a、19b間に架け渡される。このように、突刺刃45が電極シート15を突き刺すので、コネクタ14は、簡単に且つ確実に水分センサ11に固定される。また、突刺刃45は水分センサ11を突き刺しているだけであるから、この突刺刃45は、簡単に水分センサ11から抜き取られる。したがって、コネクタ14は、水分センサ11から容易に取り外されるので、水分センサ11の交換作業が簡単且つ迅速に行われる。
【0107】
前述のように、電極接続部材40が電極シート15を突き刺すが、このとき、一方のアーム42に設けられた突刺刃45が他方のアーム23に設けられた孔46に嵌め込まれるので(図7参照)、電極接続部材40は、一層確実に上記電極シート15を貫き、水分センサ11に固定される。しかも、この電極接続部材40は、弾性的に変形し、一対のアーム42、43が離反姿勢又は近接姿勢に変化する。したがって、看護者が上記レバー34を起立姿勢に変化させたときは、電極接続部材40は、直ちに上記電極シート15から離反するという利点がある。
【0108】
本実施形態では、コネクタ14が樹脂から構成されるので、コネクタ14は、人の肌に対して優しく接することができる。しかも、看護者等は、レバー34を起立させ又は倒伏させる動作のみによって、きわめて簡単にコネクタ14を水分センサ11に対して着脱することができるという利点もある。
【0109】
前述のように、レバー34は、起立姿勢であるときは電極接続部材40の弾性力によって当該起立姿勢に保持され、一方、倒伏姿勢であるときは電極接続部材40の弾性力によって当該倒伏姿勢に保持される(図8参照)。すなわち、レバー34は、上記接触面47、48が形成されることによってトグルを構成する。したがって、電極接続部材40の姿勢変化が容易且つ確実なものとなるうえ、看護者等が意図しないときにレバー34が起立姿勢となってコネクタ14が水分センサ11から外れてしまうことが防止される。しかも、上記レバー34が指掛部49を備えているので、看護者等は、レバー34の操作をより簡単に行うことができる。
【0110】
コネクタ14のケーシング33の裏面51に複数の突起72が形成されているから、ケーシング33の裏面51の通気性が向上する。このコネクタ14は、人工透析処置を受ける患者に取り付けられるものであるから、人工透析中にケーシング33が人体に触れることも考えられる。その場合、上記突起72が形成されることによって、ケーシング33と人体との間に隙間が形成され、通気性が向上する。これにより、長時間にわたってケーシング33が人体に触れていても、皮膚がかぶれたりすることが防止される。
【0111】
前述のように、ケーシング33及びレバー34の角部が曲面状に形成されていることから、看護者等にとってコネクタ14を触ったときに滑らかな感触が得られるという利点がある。しかも、ケーシングの外形寸法が前述のように設定されているから、例えば患者に痴呆の症状があっても、コネクタ14は、容易に口内に挿入等されることがなく、安全性が高い。加えて、上記アーム42に設けられた突刺刃45は、上記本体44にスポット溶接されているから、当該突刺刃45は、簡単且つ確実にしかも安価に本体44に固定されるという利点がある。
【0112】
水分センサ11の他端部62はクリップ41により挟持されるが、このクリップ41に備えられたスイッチ55は、ノーマルクローズ形である。したがって、水分センサ11がクリップ41に保持される前はスイッチ55がONの状態であり、水分センサ11がクリップ41に保持された状態でスイッチ55がOFFとなる。クリップ41は、一定の保持力で水分センサ11を仮保持しているだけであるから、たとえば、患者が水分センサ11を意識的にあるいは無意識に引っ張ったりすれば、水分センサ11は、クリップ41から離脱し、スイッチがONとなる。すなわち、人工透析中に抜針事故の前兆が検知され、抜針事故が未然に防止される。
【0113】
仮に、治療中に注射針が抜けてしまう等の事故により患者の腕から出血した場合は、当該血液が水分センサ11の通気性シート17(図3参照)によって一旦保持される。ただし、図3が示すように、出血が一定量以上となれば、当該血液が電極シート15を濡らし、上記電極19a、19b間が導通される。この電極19a、19b間の導通により、前述のようにブザー12が作動される。
【0114】
また、透析治療が長時間にわたった場合、患者の腕が発汗し、患者の体質によって多量の汗が出ることも考えられる。しかし、患者の腕は、上記通水性シート17上に配置され、上記フィルターシート16が上記小孔32を有し、さらに、電極シート15を構成するベースシート18が通気性を有することから、上記汗は水蒸気となって水分センサ11を通過する。したがって、上記汗が電極シート15に溜まることはなく、その結果、人工透析用血液検知装置10の誤作動が防止される。
【0115】
特に、上記ベースシート18は、主としてポリエチレンからなることに加えて、これに炭酸カルシウムが混成されることにより通気性且つ防水性が実現されているので、電極シート15ひいては水分センサ11の製造コストが大幅に上昇することはない。
【0116】
4.実施形態の変形例について
【0117】
次に、本実施形態の変形例について説明される。
【0118】
<第1の変形例>
【0119】
図14は、本実施形態の第1の変形例に係る水分センサの分解斜視図である。同図においても、同図の上方が水分センサ90が用いられる状態で被検知液(すなわち血液)が接触する側である。
【0120】
本変形例に係る水分センサ90が上記実施形態に係る水分センサ11と異なるところは、上記水分センサ11では、図3が示すように、通水性シート17及び上敷ベースシート20と異なる別個の部材としてフィルターシート16が通水性シート17と上敷ベースシート20との間に配設されていたのに対し、本変形例に係る水分センサ90では、図14が示すように、通水性シート17と上敷ベースシート20との間に接着層91が形成されている点である。換言すれば、この接着層91が上記フィルターシート16と同様の機能を有するフィルターシートを兼ねている。なお、水分センサ90のその他の構成は、上記水分センサ11と同様である。
【0121】
上記接着層91は、典型的にはウレタン樹脂からなる。ただし、接着層91は、撥水性を有する材料であれば、他の種々の材料が採用され得る。接着層91としてウレタン樹脂が採用されることによって、通水性シート17と上敷ベースシート20とが確実に接着される。この接着層91には、多数の小孔92が設けられている。接着層91を構成するウレタン樹脂は撥水性を有することから、この小孔92が設けられることによって、通水性シート17側から浸透した血液は、直ちに上敷ベースシート20側に移動することはできず、一定量以上の血液が存在する場合に、上記小孔92を通って上敷ベースシート20側に移動する。この接着層91は、上記電極シート15の有効領域全体をカバーするように配置される。
【0122】
この接着層91の小孔92の形状及び大きさには特に制限はないが、この小孔92は、小さすぎると異物その他のものによりが埋まりやすくなる。このため、小孔92の内径寸法は1.0mm以上であることが好ましい。より好ましくは、1.2mm以上であり、さらに好ましくは、1.5mm以上である。また、この多数の小孔92は、通常、均等の間隔で分散して配置されている。
【0123】
この小孔92が大きすぎると血液以外の水分を通過させてしまう確率が高くなる。このため、小孔92の内径寸法は4.0mm以下であることが好ましい。より好ましくは、小孔92の内径が3.5mm以下、さらには3.0mm以下である。隣接する小孔92間の間隔は、内径寸法が2.0mmの小孔92の場合に10mm程度を標準として適宜設定される。上記小孔92の密度は、小さすぎると血液が通過しにくく検知が遅れる。このため、接着層91の面積100cmあたりの小孔92の個数は50個以上500個以下程度に設定されていることが好ましい。
【0124】
図15は、上記接着層91の形成装置を模式的に示す図である。
【0125】
同図が示すように、この形成装置93は、転写ローラー94及び押圧ローラー95を備えている。転写ローラー94は、図示されていない所定の駆動装置によって回転軸96の周りに回転される。転写ローラー94は、金属又は樹脂からなり、その周面97に多数の凹部48が設けられている。押圧ローラー95は、樹脂又はゴム等により構成され、転写ローラー94の径方向に隣接して配置されている。上記上敷ベースシート20は、これら転写ローラー94及び押圧ローラー95の間に送給される。転写ローラー94と押圧ローラー95との軸方向距離は、両者間に所定の隙間ができるように設定されており、これにより、転写ローラー94と押圧ローラー95との間を通過する上敷ベースシート20は、所定の押圧力で押圧されるようになっている。
【0126】
上記接着層91(図14参照)は、上記上敷ベースシート20にウレタン樹脂が転写されることによって形成される。具体的には、ウレタン樹脂が転写ローラー93の周面97に塗布される。このとき、上記凹部98が設けられているから、周面97のうち凹部98に対応する部分にはウレタン樹脂は塗布されないことになる。転写ローラー94が駆動され、転写ローラー94と押圧ローラー95との間に上敷ベースシート20が送給されると、転写ローラー94の周面に塗布されたウレタン樹脂は、上敷ベースシート20に転写される。このとき、転写ローラー94には上記凹部98が設けられているから、上敷ベースシート20の凹部98に対応する部分にはウレタン樹脂が転写されず、当該ウレタン樹脂が転写されない部分が、上記小孔92を構成する。このようにして、上記小孔92を有する接着層91は、上敷ベースシート20上に形成される。もっとも、接着層91は、これ以外の方法で形成され得ることは勿論である。
【0127】
この接着層91は、上記第1の実施形態に係るフィルターシート16の機能に加えて通水性シート17と上敷ベースシート20とを接着する接着剤としての機能を兼ね備えることになる。換言すれば、通水性シート17と上敷ベースシート20とを接着する接着剤が、上記フィルターシート16の機能を備えている。したがって、上記実施形態のように、フィルターシート16が別途構成される必要はなく、その結果、水分センサ90の部品点数が削減され、製造コストが抑えられるという利点がある。
【0128】
<第2の変形例>
【0129】
次に、第2の変形例について説明される。
【0130】
図16は、上記実施形態の第2の変形例に係る水分センサの分解斜視図である。
【0131】
本変形例に係る水分センサ100が上記実施形態に係る水分センサ11と異なるところは、この水分センサ100は、上記実施形態に係る水分センサ11を包む包装用袋体101を備えている点である。なお、その他の構成については、上記実施形態に係る水分センサ11と同様である。同図が示すように、この包装用袋体101は、シート状に形成されており、これが二つ折りにされることによって内部に上記水分センサ11が包み込まれるようになっている。なお、この水分センサ100は、上記電極シート15、フィルターシート16及び通水性シート17とを備えていることは言うまでもない。
【0132】
図17は、上記包装用袋体101の断面構造を示す模式図である。
【0133】
同図が示すように、この包装用袋体101は三層構造を有し、ベース102と、ベース102上に配置された通気性防水シート103と、これの上に配置された不織布104とを有する。これらベース102、通気性防水シート103及び不織布104は、接着等により一体化されている。同図において上側面が上記水分センサ11と接触する面であって、包装用袋体101の内面を構成する。
【0134】
上記ベース102は、本実施形態では和紙からなる。もっとも、ベース102を構成する材料は、通気性を有するものであれば他のものが採用され得る。通気性防水シート103は、シート状のポリエチレンを主体として構成され、これに炭酸カルシウムが混成されている。この炭酸カルシウムの粒子が混入されることによって、シート状のポリエチレンに多数の微細孔105が貫通形成されている。この微細孔105の直径は、1μm〜100μm程度に設定されている。また、上記不織布104は、パルプ繊維が不規則に絡み合うことにより構成されており、十分な通気性及び保水性を有する。
【0135】
したがって、気体は上記ベース102、通気性防水シート103及び不織布104を通過することができるが、水滴は通過することができない。通気性防水シート103の厚み寸法は、特に限定されるものではない。通気性防水シート103を構成する材料は、上記ポリエチレンに代えてポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂フィルムが用いられ得る。これらの材料が採用されることによって、通気性防水シート103は、一定の機械的強度を備えると共に柔軟性も備えることができる。
【0136】
前述のように、包装用袋体101は、二つ折りにされることによって上記水分センサ11を包み込むようになっている。図16が示すように、本実施形態では、包装用袋体101が二つ折りにされた状態で、その周縁105〜108が接着されている。この接着手段としては、接着剤が例示されるが、その他の種々の接着手段が採用され得る。このように、包装用袋体101の周縁106〜108が接着されることにより、上記水分センサ11は、包装用袋体101に密封される。
【0137】
この包装用袋体101は、前述のように通気性を備えているから、上記水分センサ11は、包装用袋体101に包まれた状態で滅菌され得る。なぜなら、包装用袋体101が通気性を備えているからである。具体的には、包装用袋体101の外部から滅菌ガスが供給されることにより、当該滅菌ガスは包装用袋体101を通過してその内部に進入する。これにより、上記水分センサ11に滅菌作用を及ぼすことができる。このように、本実施形態では、通気性を備えた包装用袋体101によって水分センサ11が包装されるので、この水分センサ11は、包装用袋体101に密封包装された状態で滅菌処理が施される。これにより、滅菌された製品としての水分センサ100の製造コストが低減されるという利点がある。
【0138】
また、上記水分センサ100が包装用袋体101を備えていることから、当該水分センサ100が使用されるとき、すなわち、人工透析治療が開始されるにあたって上記包装用袋体101がナプキンとして機能する。図18は、包装用袋体101の使用要領を(a)から(c)の順に示す図である。
【0139】
同図(a)が示すように、人工透析治療が開始されるときは、包装用袋体101に包まれた水分センサ11が例えばベッドの上に配置される。同図(b)が示すように、この包装用袋体101は、例えばその角部109から開封される。そして、同図(c)が示すように、完全に開封された状態では、上記不織布104が上面に露出する。このとき、水分センサ11は、一旦包装用袋体101から取り出される。
【0140】
患者は、開封された包装用袋体101の不織布104の上にそのまま腕を載置する。人工透析用注射針が患者の腕に刺される。このとき、患者の腕から血液が漏れる可能性がある。仮にこのときに血液が漏れたとしても、上記不織布104がこれを吸収することができるし、さらに、上記通気性防水シート103が配置されているから、血液が包装用袋体101から外に漏れることはない。これにより、人工透析用注射針が患者の腕に刺される際に漏れた血液によって、ベッドが汚れたり、上記水分センサ11が破損することはない。
【0141】
本実施形態では、上記包装用袋体101の周縁106〜108は、上記水分センサ11を内側に包み込むように接着されているだけであるから、当該周縁106〜108離反されることによって包装用袋体101が簡単に展開される。したがって、人工透析治療が開始されるにあたって包装用袋体101が簡単且つ迅速に開封され得るという利点がある。
【0142】
なお、本実施形態では、包装用袋体101に上記実施形態に係る水分センサ11が包まれているが、これに変えて上記第1の変形例に係る水分センサ90が包まれていてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0143】
10・・・人工透析用血液検知装置
11・・・水分センサ
13・・・報知器
14・・・コネクタ
15・・・電極シート
16・・・フィルターシート
17・・・通水性シート
18・・・ベースシート
19・・・電極
20・・・上敷ベースシート
21・・・下敷ベースシート
22・・・補強シート
23・・・上側シート
24・・・下側シート
25・・・基布
26・・・不織布
27・・・微細孔
28・・・水溶性接着剤
30・・・電極端子
31・・・電気抵抗素子
32・・・小孔
33・・・ケーシング
34・・・レバー
40・・・電極接続部材
41・・・クリップ
45・・・突刺刃
55・・・スイッチ
61・・・一端部
62・・・他端部
90・・・水分センサ
91・・・接着層
92・・・小孔
100・・・水分センサ
101・・・包装用袋体
102・・・ベース
103・・・通気性防水シート
104・・・不織布
105・・・微細孔
106〜108・・・周縁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥状態で絶縁性を呈すると共に水分を含んだ状態で導電性を呈することによって血液の存在を検出する水分センサーと、少なくとも当該水分センサーが血液の存在を検出したことを報知する報知器と、当該報知器及び上記水分センサーを接続するコネクタとを有する人工透析用血液検知装置であって、
上記水分センサーは、
通気性を有するベースシート及び当該ベースシートに配置された一対の電極を有する電極シートと、
当該電極シートに重ね合わされ、多数の小孔が穿設された撥水性を有するフィルタシートと、
当該フィルタシートに重ね合わされた一定の保水性を備えた通水性シートとを備えており、
上記コネクタは、
ケーシングと、
当該ケーシングに設けられ、上記水分センサーの一端部を挟み込むことによって上記一対の電極間に架け渡すように配置される導電性電極接続部材と、
上記ケーシングに設けられ、上記水分センサーの他端部を挟み込んで一定の保持力で保持し得るクリップとを有し、
上記導電性電極接続部材は、上記電極シートを突き刺す突刺刃を備え、
上記クリップは、上記水分センサーを挟み込んだ状態でOFFとなるノーマルクローズ型スイッチを備えている人工透析用血液検知装置。
【請求項2】
上記ベースシートは、炭酸カルシウムが混成されることにより通気性且つ防水性を呈する多数の微細工が貫通形成されたポリエチレンフィルムを備えている請求項1に記載の人工透析用血液検知装置。
【請求項3】
上記電極シートと上記通水性シートとを接着する接着層が上記フィルターシートを兼ねている請求項1または2に記載の人工透析用血液検知装置。
【請求項4】
上記ノーマルクローズ型スイッチは、
上記クリップが上記水分センサーを挟み込む方向に沿って配置された一対の電極板を有し、
一方の電極板は、他方の電極板に接触するように弾性的に付勢されており、
上記クリップが上記水分センサーを保持した状態で、当該水分センサーに押圧されることによって、上記一方の電極板を上記他方の電極板から離反させる接触解除バーが設けられている請求項1から3のいずれかに記載の人工透析用血液検知装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−196293(P2012−196293A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61859(P2011−61859)
【出願日】平成23年3月21日(2011.3.21)
【出願人】(502361979)株式会社アワジテック (8)
【Fターム(参考)】