人工関節用コンポーネント
【課題】ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことを容易とし、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現する。
【解決手段】ステム部12の側面には、その表面12aに対して内側に凹み、先端側から連結部側にかけてステム部12の軸方向に沿って延びる溝13が少なくとも2本設けられる。溝13は、ステム部12の軸中心Pを中心とする周方向において軸中心Pに対して均等角度となる位置に配置される。溝13のそれぞれは、ステム部12の軸方向に対して垂直な断面における表面12aに対する凹み領域である溝断面の断面積が、ステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように、形成されている。
【解決手段】ステム部12の側面には、その表面12aに対して内側に凹み、先端側から連結部側にかけてステム部12の軸方向に沿って延びる溝13が少なくとも2本設けられる。溝13は、ステム部12の軸中心Pを中心とする周方向において軸中心Pに対して均等角度となる位置に配置される。溝13のそれぞれは、ステム部12の軸方向に対して垂直な断面における表面12aに対する凹み領域である溝断面の断面積が、ステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように、形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、股関節、膝関節、肘関節、肩関節、指関節、足関節等の関節に異常が認められた患者に対して、人工股関節、人工膝関節、人工肘関節、人工肩関節、人工指関節、人工足関節等の人工関節が適用される手術が行われている。そして、上述したような人工関節においては、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントが用いられる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1においては、上述した人工関節用コンポーネントとして、人工股関節において用いられる人工股関節用大腿骨コンポーネントが開示されている。この特許文献1の人工関節用コンポーネントは、先端側が大腿骨に挿入されて骨セメントを用いてあるいは用いずに固定されるとともに、骨盤の寛骨臼側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材として設けられた他のコンポーネントに連結するように構成されている。そして、特許文献1に開示されたような人工関節用コンポーネントには、他のコンポーネントに連結される連結部と、この連結部と一体に形成されるステム部とが備えられている。ステム部は、連結部側とは反対側の先端側において骨の髄腔部に挿入されて固定される軸状の部分として形成されている。尚、特許文献1に開示された人工関節用コンポーネントにおいては、ステム部の側面における中途部分に、このステム部の曲げ剛性を調整するために部分的に切り欠かれるように凹み形成された溝が1つ形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−503859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたような人工関節用コンポーネントのステム部が骨の髄腔部へ挿入されて骨セメントにより固定される場合、まず、髄腔部に骨セメントが充填される。そして、手術を行う術者は、ステム部の先端側を髄腔部に挿入する。このとき、術者は、挿入されるステム部によって押しのけられる体積相当分の骨セメントを髄腔部から流出させながら、ステム部の先端側を髄腔部に挿入することになる。
【0006】
骨セメントによる人工関節用コンポーネントの固定状態を強固に安定して固定された良好な状態にするためには、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが望ましい。しかしながら、骨セメントが充填された髄腔部において、挿入されるステム部が到達していない奥側の領域では骨セメントの圧力が相当に高くなるが、ステム部の側面と髄腔部との間で骨セメントが流動する領域では、骨セメントの流動の際における流動抵抗の増大によって骨セメントの圧力が大幅に低下することになる。このため、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが難しく、骨セメントによる固定を良好な状態にすることが困難となる。とくに、ステム部が円柱状の部分として形成さ
れ、ステム部の側面と髄腔部との間で骨セメントが流動する流路面積が略一定の場合、この傾向が顕著となり易い。
【0007】
尚、特許文献1に開示された人工関節用コンポーネントの場合、前述のように、ステム部の側面における中途部分に、曲げ剛性調整用に部分的に凹み形成された溝が1つ形成されている。この場合、ステム部の側面の1箇所に部分的に設けられた溝の側方の領域では、骨セメントの流動の際の流動抵抗が低下することになる。しかし、ステム部の側面の周囲における他の領域では、骨セメントの流動の際の流動抵抗は増大するため、骨セメントの圧力低下が生じることになる。このため、前記と同様に、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが難しく、骨セメントによる固定を良好な状態にすることが困難となる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる人工関節用コンポーネントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工関節用コンポーネントは、人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントであって、人工関節における他のコンポーネントに連結される連結部と、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定される軸状の部分として形成されるとともに、先端側とは反対側の端部において、前記連結部と一体に形成され又は前記連結部が固定されるステム部と、を備えている。そして、第1発明に係る人工関節用コンポーネントは、前記ステム部の側面には、その側面の表面に対して内側に凹むように形成されるとともに、先端側から前記連結部に連なる連結部側にかけて当該ステム部の軸方向に沿って延びるように形成された溝が少なくとも2本設けられ、前記溝は、前記ステム部の軸中心を中心とする周方向において当該軸中心に対して均等角度となる位置に配置され、前記溝のそれぞれは、前記ステム部の軸方向に対して垂直な断面における前記側面の表面に対する凹み領域である溝断面の断面積が、前記ステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように、形成されていることを特徴とする。
【0010】
この発明によると、術者がステム部の先端側を骨の髄腔部に挿入すると、ステム部の挿入に伴って押しのけられる骨セメントは、ステム部の側面と髄腔部との間で流動するとともに、ステム部において軸方向に沿って形成された溝内も通過しながら流動する。そして、これらの溝は、その溝断面の断面積がステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように形成されている。このため、ステム部の先端側の側方の領域では、骨セメントが流動する流路面積が大きくなり、骨セメントの流速が小さくなって剪断速度も小さくなり、これにより、骨セメントの流動の際における流動抵抗が小さくなる。一方、ステム部の連結部側の側方の領域では、上記とは逆に、骨セメントが流動する流路面積が小さくなり、骨セメントの流速が大きくなって剪断速度も大きくなり、これにより、骨セメントの流動の際における流動抵抗が大きくなる。このため、挿入されるステム部が到達しておらず骨セメントの圧力の高い奥側の領域に近いステム部の先端側の側方の領域において骨セメントの圧力を低下させ、ステム部の連結部側にかけてその側方の領域において徐々に骨セメントの圧力を上昇させることができる。よって、ステム部の側面と髄腔部との間の領域において、ステム部の先端側から連結部側にかけて全体に亘って効率よく圧力を分散させて作用させることができる。
【0011】
また、本発明によると、上述した溝によって、挿入されるステム部が到達していない奥側の領域やステム部の先端側の領域での骨セメントの圧力を低下させ、これらの領域での従来のような圧力の増大を抑制できる。これにより、上記の領域において、骨セメントの流動抵抗の積算量、即ち、人工関節用コンポーネントを髄腔部の骨セメント内に挿入する際の抵抗である挿入抵抗を小さくすることができる。そして、上記の領域での骨セメントの流動抵抗による挿入抵抗を小さくする一方で、前述のように、ステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に骨セメントの流動抵抗を増大させて効率よく圧力を分散することができる。このため、挿入抵抗の総量が増大してしまうことを抑制しつつ、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままで容易にステム部を髄腔部へ挿入していくことができる。これにより、骨セメントによる固定状態を強固に安定して固定された良好な状態にすることができる。従来であれば、ステム部が到達していない奥側の領域やステム部の先端側の領域での挿入抵抗が大きすぎるため、髄腔部に充填した骨セメントの粘度の高さが十分な水準まで上昇するのを待って挿入作業を行うことが難しいという問題があった。しかしながら、上述のように、挿入抵抗の総量が増大してしまうことを抑制しつつ、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままで容易にステム部を髄腔部へ挿入していくことができるため、十分な高さの水準の粘度に達するまで待ってから挿入作業を行うことができる。
【0012】
また、ステム部の溝は、少なくとも2本設けられ、これらは、ステム部の軸中心に対してその周方向で均等角度の位置に配置されている。このため、ステム部の髄腔部への挿入の際に、ステム部の側面に対して作用する骨セメントの圧力が、周方向において偏って作用してしまうことが抑制される。これにより、安定した姿勢を保ったまま、髄腔部の深さ方向に対して真っ直ぐにステム部を挿入する作業を容易に行うことができる。また、ステム部が髄腔部に挿入されて固定された後は、複数の溝に入り込んで固まった骨セメントによって人工関節用コンポーネントが骨に対して固定されることになる。このため、骨内で人工関節用コンポーネントが回旋方向に変位してしまうことも抑制でき、人工関節用コンポーネントの回旋方向の固定性も向上させることができる。尚、単に、人工関節用コンポーネントの回旋方向の固定性の向上を目的として、ステム部に本発明とは異なる構成の溝を形成することもできる。しかし、この場合は、従来と同様に、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことは難しく、骨セメントによる固定を良好な状態にすることが困難である。
【0013】
従って、本発明によると、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる人工関節用コンポーネントを提供することができる。
【0014】
第2発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明の人工関節用コンポーネントにおいて、前記溝のそれぞれは、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、溝深さが徐々に浅くなるように形成されることで、前記溝断面の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする。
【0015】
この発明によると、溝深さをステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に浅くすることで、溝断面の断面積を徐々に減少させる溝形状を容易に形成することができる。また、溝深さの勾配を調整することで、ステム部の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメントからの圧力の分布を容易に所望の分布となるように調整することができる。
【0016】
第3発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明又は第2発明の人工関節用コンポーネントにおいて、前記溝のそれぞれは、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、溝幅が徐々に狭くなるように形成されることで、前記溝断面の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする。
【0017】
この発明によると、溝幅をステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に狭くすることで、溝断面の断面積を徐々に減少させる溝形状を容易に形成することができる。また、溝幅寸法の変化の傾きを調整することで、ステム部の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメントからの圧力の分布を容易に所望の分布となるように調整することができる。
【0018】
第4発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明乃至第3発明のいずれかの人工関節用コンポーネントにおいて、前記ステム部の軸方向に対して垂直な断面における前記溝の形状は、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成されていることを特徴とする。
【0019】
この発明によると、溝の断面形状が、ステム部における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成される。このため、円弧状の刃型形状を有する汎用の工具をステム部の軸中心に対する相対位置を変化させながら軸方向に沿って移動させることで、溝深さ及び溝幅を徐々に変化させた溝を加工することができる。そして、溝の断面形状が円弧形状で変化するため、軸状の部分として形成されたステム部の内側の領域を効率よく活用して溝深さ及び溝幅が徐々に変化する溝をステム部に形成することができる。よって、ステム部の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメントの圧力分布を所望の分布とする溝を容易に形成することができる。
【0020】
第5発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明乃至第4発明のいずれかの人工関節用コンポーネントにおいて、前記ステム部は、円柱軸状の部分として形成されていることを特徴とする。
【0021】
この発明によると、円柱軸状の部分として形成されたステム部において、軸方向に沿って、先端側から連結部側にかけて徐々に溝断面の断面積が減少する複数の溝が形成されることになる。このため、ステム部の側面と髄腔部との間で骨セメントが流動する流路面積が略一定となってしまうことがなく、骨セメントの流動の際における流動抵抗をステム部の先端側の領域で小さくして連結部側の領域にかけて徐々に大きくすることができる。これにより、円柱軸状の部分として形成されたステム部を有する人工関節用コンポーネントであっても、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる。
【0022】
第6発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明乃至第4発明のいずれかの人工関節用コンポーネントにおいて、人工股関節において用いられ、先端側が大腿骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに、骨盤の寛骨臼側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材として設けられた他のコンポーネントに前記連結部が連結する、人工股関節用大腿骨コンポーネントとして設けられ、前記溝は、前記ステム部が大腿骨に埋植された状態における人体の前後方向及び内外側方向のうちの少なくともいずれかにおいて当該ステム部の軸中心を中心として点対称な位置に配置されていることを特徴とする。
【0023】
この発明によると、人工股関節用大腿骨コンポーネントにおいて、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持した
ままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる。そして、人工股関節用大腿骨コンポーネントの場合、ステム部の軸方向に対して連結部が斜めに突出するように配置されており、人体の前後方向及び内外側方向に適切に対応して配置される必要がある。これに対し、本発明によると、複数の溝が、人体の前後方向及び内外側方向のうちの少なくともいずれかにおいてステム部の軸中心を中心として点対称の位置に配置される。このため、ステム部の髄腔部への挿入の際に、ステム部の側面に対して作用する骨セメントの圧力が、前後方向及び内外側方向において偏って作用してしまうことが抑制される。これにより、安定した姿勢を保ったまま、大腿骨の髄腔部の深さ方向に対して真っ直ぐにステム部を挿入する作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる人工関節用コンポーネントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る人工関節用コンポーネントを示す断面図であって、模式的に示す大腿骨及び骨盤の断面の一部とともに図示した図である。
【図2】図1に示す人工関節用コンポーネントの正面図である。
【図3】図2に示す人工関節用コンポーネントの側面図である。
【図4】図2に示す人工関節用コンポーネントの底面図である。
【図5】図2のA−A線矢視断面図、B−B線矢視断面図、及びC−C線矢視断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る人工関節用コンポーネントを分解した状態で示す正面図であり、他のコンポーネントとともに図示した図である。
【図7】図6に示す工関節用コンポーネントと他のコンポーネントとが組み立てられた状態を示す正面図である。
【図8】図7の側面図である。
【図9】図6に示す人工関節用コンポーネントの底面図である。
【図10】試験用の模擬ステム部の正面図及び底面図である。
【図11】試験用の模擬ステム部の正面図、底面図及び側面図である。
【図12】試験用の模擬ステム部の正面図、底面図及び側面図である。
【図13】試験用の模擬髄腔部を構成する骨モデルに模擬ステム部が挿入されている状態を示す正面図である。
【図14】図10に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図15】図10に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図16】図10に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図17】図11に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図18】図11に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図19】図11に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図20】図12に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図21】図12に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図22】図12に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図23】図10に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における押し込み荷重についての試験結果を示した図である。
【図24】図11に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における押し込み荷重についての試験結果を示した図である。
【図25】図12に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における押し込み荷重についての試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントとして広く適用することができるものである。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る人工関節用コンポーネント1を示す断面図であり、模式的に示す大腿骨100及び骨盤101の断面の一部とともに図示している。人工関節用コンポーネント1は、人工股関節において用いられる人工股関節用大腿骨コンポーネントとして設けられている。この人工関節用コンポーネント1は、先端側が大腿骨100の髄腔部100aに挿入されて骨セメント104により固定される。そして、人工関節用コンポーネント1は、骨盤101の寛骨臼101a側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材102として設けられた他のコンポーネントに連結される。即ち、人工関節用コンポーネント1は、骨頭ボール部材102と組み合わされた状態で人工股関節の大腿骨100側の要素として適用される。
【0028】
尚、股関節を人工股関節に置換する人工股関節置換術においては、髄腔部100aは、手術用のやすりやのみを用いて形状が整えられ、人工関節用コンポーネント1が挿入されて埋植される。また、骨盤101の寛骨臼101a側に配置される骨頭ボール部材102は、寛骨臼101aに配置されるとともにシェル103a及びライナー103bを有する二層構造のカップ103に対して、外形の球面部分において摺動するように配置される。
【0029】
図2は、人工関節用コンポーネント1の正面図を示したものである。また、図3は人工関節用コンポーネント1の側面図を、図4は人工関節用コンポーネント1の底面図をそれぞれ示したものである。図1乃至図4に示す人工関節用コンポーネント1は、連結部11とステム部12とを備えて構成されている。尚、人工関節用コンポーネント1は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成される。
【0030】
連結部11は、人工股関節における他のコンポーネントである骨頭ボール部材102に連結される部分として形成されている。この連結部11は、図1に例示するように、緩やかにテーパ状にすぼまる円錐曲面の一部を成すように側面が形成された端部を有し、この端部において骨頭ボール部材102に開口形成された嵌合用穴102aに対して嵌合することで、骨頭ボール部材102と連結される。
【0031】
ステム部12は、先端側が大腿骨100の髄腔部100aに挿入されて骨セメント104により固定される軸状の部分として形成されるとともに、先端側とは反対側の端部において、連結部11と一体に形成されている。尚、人工股関節用大腿骨コンポーネントとし
て設けられたこの人工関節用コンポーネント1においては、ステム部12は、先端側から連結部11に連なる連結部側にかけて、ステム部12の軸方向に対して垂直な断面における断面積が徐々に大きくなるように形成されている。また、連結部11は、ステム部12に対して、ステム部12の軸方向に対して斜めに突出して延びるように一体に形成されている。
【0032】
図5は、図2のA−A線矢視断面図(図5(a))、B−B線矢視断面図(図5(b))、及びC−C線矢視断面図(図5(c))である。図2乃至図5によく示すように、ステム部12の側面には、その側面の表面12a(図5参照)に対して内側に凹むように形成されるとともに、先端側から連結部側にかけてこのステム部12の軸方向に沿って延びるように形成された溝13が4本設けられている。これらの溝13は、ステム部12の軸中心P(図5(a)〜(c)において点Pで示す)を中心とする周方向において軸中心Pに対して均等角度となる位置に配置されている。即ち、ステム部12に設けられた4本の溝13は、軸中心Pを中心とする周方向において軸中心Pに対して90度ずつずれた位置に配置されている。
【0033】
また、ステム部12においては、4本の溝13のうちの半分の2本の溝13aについては、ステム部12が大腿骨100に埋植された状態における人体の前後方向(図5中の両端矢印E方向)において軸中心Pを中心として点対称な位置に配置されている。そして、4本の溝13のうちの残り半分の2本の溝13bについては、ステム部12が大腿骨100に埋植された状態における人体の内外側方向(図5中の両端矢印F方向)において軸中心Pを中心として点対称な位置に配置されている。
【0034】
また、溝13のそれぞれは、図5によく示すように、ステム部12の軸方向に対して垂直な断面における側面の表面12aに対する凹み領域である溝断面の断面積が、ステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように、形成されている。そして、溝13のそれぞれは、ステム部12における先端側から連結部側にかけて、溝深さが徐々に浅くなるように形成されるとともに、溝幅が徐々に狭くなるように形成されることで、上記の溝断面の断面積が減少するように形成されている。
【0035】
従って、図5(c)に示す断面における溝13の溝深さ寸法Dcと、図5(b)に示す断面における溝13の溝深さ寸法Dbと、図5(a)に示す断面における溝13の溝深さ寸法Daとにおいては、Dc>Db>Daの関係が成立している。そして、図5(c)に示す断面における溝13の溝幅寸法Wcと、図5(b)に示す断面における溝13の溝幅寸法Wbと、図5(a)に示す溝幅寸法Waとにおいては、Wc>Wb>Waの関係が成立している。尚、図5では、溝13bの溝深さ寸法と溝13aの溝幅寸法とを図示しているが、溝13aの溝深さ寸法と溝13bの溝幅寸法も同様に構成される。
【0036】
また、ステム部12の軸方向に対して垂直な断面における溝13の形状は、ステム部12における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成されている。従って、図5(a)に示す断面における溝13を区画する円弧部分の曲率半径寸法Raと、図5(b)に示す断面における溝13を区画する円弧部分の曲率半径寸法Rbと、図5(c)に示す断面における溝13を区画する円弧部分の曲率半径寸法Rcとにおいては、Ra=Rb=Rcの関係が成立している。尚、図5では、溝13bを区画する円弧部分の曲率半径寸法を図示しているが、溝13aを区画する円弧部分の曲率半径寸法も同様に構成される。
【0037】
次に、人工股関節用置換術において人工関節用コンポーネント1の先端側が大腿骨100の髄腔部100aに挿入されて骨セメント104により固定される場合における作用効果について説明する。この場合、まず、髄腔部100aに骨セメント104が充填される
。そして、術者は、所望する高さの水準の粘度に骨セメント104の粘度が達した状態で、ステム部12の先端側を髄腔部100aに挿入する。
【0038】
術者がステム部12の先端側を大腿骨100の髄腔部100aに挿入すると、ステム部12の挿入に伴って押しのけられる骨セメント104は、ステム部12の側面と髄腔部100aとの間で流動するとともに、ステム部12において軸方向に沿って形成された溝13内も通過しながら流動する。そして、これらの溝13は、その溝断面の断面積がステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように形成されている。このため、ステム部12の先端側の側方の領域では、骨セメント104が流動する流路面積が大きくなり、骨セメント104の流速が小さくなって剪断速度も小さくなり、これにより、骨セメント104の流動の際における流動抵抗が小さくなる。一方、ステム部12の連結部側の側方の領域では、上記とは逆に、骨セメント104が流動する流路面積が小さくなり、骨セメント104の流速が大きくなって剪断速度も大きくなり、これにより、骨セメント104の流動の際における流動抵抗が大きくなる。このため、挿入されるステム部12が到達しておらず骨セメント104の圧力の高い奥側の領域に近いステム部12の先端側の側方の領域において骨セメント104の圧力を低下させ、ステム部12の連結部側にかけてその側方の領域において徐々に骨セメント104の圧力を増大させることができる。よって、人工関節用コンポーネント1によると、ステム部12の側面と髄腔部100aとの間の領域において、ステム部12の先端側から連結部側にかけて全体に亘って効率よく圧力を分散させて作用させることができる。
【0039】
また、人工関節用コンポーネント1によると、溝13によって、挿入されるステム部12が到達していない奥側の領域やステム部12の先端側の領域での骨セメント104の圧力を低下させ、これらの領域での従来のような圧力の増大を抑制できる。これにより、上記の領域において、骨セメント104の流動抵抗の積算量、即ち、人工関節用コンポーネント1を髄腔部100aの骨セメント104内に挿入する際の抵抗である挿入抵抗を小さくすることができる。そして、上記の領域での骨セメント104の流動抵抗による挿入抵抗を小さくする一方で、前述のように、ステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に骨セメント104の流動抵抗を増大させて効率よく圧力を分散することができる。このため、挿入抵抗の総量が増大してしまうことを抑制しつつ、ステム部12における髄腔部100aに挿入される側面の全体に亘って骨セメント104から高い圧力が作用する状態に維持したままで容易にステム部12を髄腔部100aへ挿入していくことができる。これにより、骨セメント104による固定状態を強固に安定して固定された良好な状態にすることができる。また、人工関節用コンポーネント1によると、挿入抵抗の総量が増大してしまうことを抑制しつつ、ステム部12における髄腔部100aに挿入される側面の全体に亘って骨セメント104から高い圧力が作用する状態に維持したままで容易にステム部12を髄腔部100aへ挿入していくことができるため、十分な高さの水準の粘度に達するまで待ってから挿入作業を行うことができる。
【0040】
また、ステム部12の溝13は、2本以上である4本設けられ、これらは、ステム部12の軸中心Pに対してその周方向で均等角度の位置に配置されている。このため、ステム部12の髄腔部100aへの挿入の際に、ステム部12の側面に対して作用する骨セメント104の圧力が、周方向において偏って作用してしまうことが抑制される。これにより、安定した姿勢を保ったまま、髄腔部100aの深さ方向に対して真っ直ぐにステム部12を挿入する作業を容易に行うことができる。また、ステム部12が髄腔部100aに挿入されて固定された後は、複数の溝13に入り込んで固まった骨セメント104によって人工関節用コンポーネント1が大腿骨100に対して固定されることになる。このため、大腿骨100内で人工関節用コンポーネント1が回旋方向に変位してしまうことも抑制でき、人工関節用コンポーネント1の回旋方向の固定性も向上させることができる。
【0041】
従って、人工関節用コンポーネント1によると、ステム部12における髄腔部100aに挿入される側面の全体に亘って骨セメント104から高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部12を髄腔部100aへ挿入していくことが容易となり、骨セメント104による固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる。
【0042】
また、人工関節用コンポーネント1によると、ステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に溝深さを浅くするとともに溝幅を狭くことで、溝断面の断面積を徐々に減少させる溝形状を容易に形成することができる。また、溝深さの勾配や溝幅寸法の変化の傾きを調整することで、ステム部12の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメント104からの圧力の分布を容易に所望の分布となるように調整することができる。
【0043】
また、人工関節用コンポーネント1によると、溝13の断面形状が、ステム部12における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成される。このため、円弧状の刃型形状を有する汎用の工具をステム部12の軸中心に対する相対位置を変化させながら軸方向に沿って移動させることで、溝深さ及び溝幅を徐々に変化させた溝13を加工することができる。そして、溝13の断面形状が円弧形状で変化するため、軸状の部分として形成されたステム部12の内側の領域を効率よく活用して溝深さ及び溝幅が徐々に変化する溝13をステム部12に形成することができる。よって、ステム部12の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメント104の圧力分布を所望の分布とする溝13を容易に形成することができる。
【0044】
また、人工関節用コンポーネント1は、人工股関節用大腿骨コンポーネントとして設けられているため、ステム部12の軸方向に対して連結部11が斜めに突出するように配置されており、人体の前後方向及び内外側方向に適切に対応して配置される必要がある。これに対し、人工関節用コンポーネント1によると、複数の溝13が、人体の前後方向及び内外側方向においてステム部12の軸中心Pを中心として点対称の位置に配置される。このため、ステム部12の髄腔部100aへの挿入の際に、ステム部12の側面に対して作用する骨セメント104の圧力が、前後方向及び内外側方向において偏って作用してしまうことが抑制される。これにより、安定した姿勢を保ったまま、大腿骨100の髄腔部100aの深さ方向に対して真っ直ぐにステム部12を挿入する作業を容易に行うことができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る人工関節用コンポーネント2を分解した状態で示す正面図であり、この人工関節用コンポーネント2に連結される他のコンポーネントであるプレート部材105とともに図示している。また、図7は、人工関節用コンポーネント2とプレート部材105とが組み立てられた状態を示す正面図を示したものであり、図8は、図7の側面図を示したものである。
【0046】
図6乃至図8に示す人工関節用コンポーネント2は、人工膝関節において用いられる人工膝関節用脛骨コンポーネントとして設けられている。この人工関節用コンポーネント2は、先端側が図示しない脛骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定される。そして、人工関節用コンポーネント2は、図示しない大腿骨に取り付けられる人工膝関節用大腿骨コンポーネントの端部と摺動するように配置されるプレート部材105として設けられた他のコンポーネントに連結される。即ち、人工関節用コンポーネント2は、プレート部材105と組み合わされた状態で人工膝関節の脛骨側の要素として適用される。
【0047】
尚、膝関節を人工膝関節に置換する人工膝関節置換術においては、脛骨の髄腔部は、手術用のやすりやのみを用いて形状が整えられ、人工関節用コンポーネント2が挿入されて
埋植される。また、プレート部材105は、例えば、ポリエチレン等の樹脂で形成され、プレート状に形成されたプレート部分105aとこのプレート部分105aから突出する突起状に形成された突起部分105bとが設けられている。そして、プレート部材105は、プレート部分105aにおける突起部分105bが設けられている側と反対側の端部において、人工関節用コンポーネント2に対して、例えば、ネジ、嵌め合せ(図示せず)によって結合されて連結される。また、プレート部材105は、プレート部分105aにおける突起部分105bが設けられている側の端部と突起部分105bとにおいて、人工膝関節用大腿骨コンポーネント(図示せず)の端部と摺動するように配置される。
【0048】
図6乃至図8に示す人工関節用コンポーネント2は、連結部21とステム部22とを備えて構成されている。尚、人工関節用コンポーネント2は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成される。
【0049】
連結部21は、人工膝関節における他のコンポーネントであるプレート部材105に連結される部分として形成されている。この連結部21には、平板状に形成されたトレー部分21aと、このトレー部分21aにおける一方の端面から垂直方向に向かって軸状に突出する突起状に形成された突起軸部分21bと、が設けられている。そして、連結部21には、トレー部分21aにおける突起軸部分21bが設けられている側と反対側の端面において、前述したように、プレート部材105が図示しないネジによって結合されて連結される。また、突起軸部分21bにおけるトレー部分21aに一体化されている側と反対側の端部には、後述するステム部22の端部に形成された雄ネジ部分22aと螺合する雌ネジ部分が内周に形成されたネジ穴(図示せず)が開口形成されている。尚、人工関節用コンポーネント2においては、脛骨の端部への係合状態をより強固に適切な状態に調整するための別体のブロック部材(図示せず)が更に設けられていてもよい。このブロック部材は、連結部21に対して、突起軸部分21bの根元側において、トレー部分21aにネジ等によって取り付けられる。
【0050】
ステム部22は、先端側が脛骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定される軸状の部分として形成されている。そして、ステム部22の先端側とは反対側の端部には、突起軸部分21bに形成されたネジ穴に螺合する雄ネジ部分22aが設けられている。この雄ネジ部分22aが突起軸部分21bと螺合することで、ステム部22に連結部21がネジ結合により固定される。また、人工膝関節用脛骨コンポーネントとして設けられたこの人工関節用コンポーネント2においては、ステム部22は、その側面の表面がこのステム部22の軸方向と垂直な断面において円周に沿って配置される円柱軸状の部分として形成されている。そして、ステム部22と連結部21とは、それらが固定された状態では、ステム部22の軸方向と突起軸部分21bの軸方向とが一致するように配置される。
【0051】
図9は、ステム部22の底面図を示したものである。図6乃至図9に示すように、ステム部22の側面には、その側面の表面22b(図9参照)に対して内側に凹むように形成されるとともに、先端側から連結部21に連なる連結部側にかけてこのステム部22の軸方向に沿って延びるように形成された溝23が4本設けられている。これらの溝23は、ステム部22の軸中心Q(図9において点Qで示す円柱軸中心)を中心とする周方向において軸中心Qに対して均等角度となる位置に配置されている。即ち、ステム部22に設けられた4本の溝23は、軸中心Qを中心とする周方向において軸中心Qに対して90度ずつずれた位置に配置されている。
【0052】
また、ステム部22においては、溝23のそれぞれは、第1実施形態のステム部12の溝13と同様に、ステム部22の軸方向に対して垂直な断面における側面の表面22aに対する凹み領域である溝断面の断面積が、ステム部22の先端側から連結部側にかけて徐
々に減少するように、形成されている。そして、溝23のそれぞれは、第1実施形態の溝13と同様に、ステム部22における先端側から連結部側にかけて、溝深さが徐々に浅くなるように形成されるとともに、溝幅が徐々に狭くなるように形成されることで、上記の溝断面の断面積が減少するように形成されている。また、ステム部22の軸方向に対して垂直な方向における溝23の形状は、第1実施形態の溝13と同様に、ステム部22における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成されている。
【0053】
以上説明した人工関節用コンポーネント2によると、円柱軸状の部分として形成されたステム部22において、軸方向に沿って、先端側から連結部側にかけて徐々に溝断面の断面積が減少する複数の溝23が形成されることになる。このため、ステム部22の側面と髄腔部との間で骨セメントが流動する流路面積が略一定となってしまうことがなく、骨セメントの流動の際における流動抵抗をステム部22の先端側の領域で小さくして連結部側の領域にかけて徐々に大きくすることができる。これにより、円柱軸状の部分として形成されたステム部22を有する人工関節用コンポーネント2であっても、第1実施形態の人工関節用コンポーネント1と同様に、ステム部22における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部22を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる。
【0054】
(試験結果)
次に、本発明に係る人工関節用コンポーネントの効果を検証するための試験を行った結果について説明する。この試験においては、試験用の人工関節用コンポーネントのステム部を模擬ステム部として3種類作成し、それらの模擬ステム部を試験用の骨モデルの模擬髄腔部に対して挿入し、模擬髄腔部内の骨セメントの圧力と挿入抵抗である模擬ステム部の押し込み荷重とを測定することで、本発明の効果の検証を行った。
【0055】
尚、試験用の模擬ステム部は、Ti−6Al−4V合金を素材として作成し、表面粗度(Ra)を0.2μm〜0、4μm程度に調整したものを用いた。模擬髄腔部を構成する骨モデルについては、アクリル製のものを用いた。また、骨セメントについては、1分間混練した後にセメントガンシリンジに充填し、その3分後に模擬髄腔部にセメントを充填した。そして、更にその1分後から、一定速度で押し込む試験機を用いて、模擬ステム部を模擬髄腔部内に100mm/minの速度で挿入して押し込む試験を行った。
【0056】
図10は、比較用の模擬ステム部30の正面図(図10(a))及び底面図(図10(b))を示したものである。また、図11に示す模擬ステム部31及び図12に示す模擬ステム部32は、本発明に係る人工関節用コンポーネントのステム部に対応する模擬ステム部を示したものである。尚、図11は、模擬ステム部31の正面図(図11(a))、底面図(図11(b))及び側面図(図11(c))を示している。また、図12は、模擬ステム部32の正面図(図12(a))、底面図(図12(b))及び側面図(図12(c))を示している。
【0057】
図10に示す模擬ステム部30は、その側面に溝が設けられていない円柱軸状の部分として形成されている。図11に示すステム部31は、その側面に2本の溝31aが設けられた円柱軸状の部分として形成されている。2本の溝31aのそれぞれは、第1及び第2実施形態に係る各溝(13、23)と同様の形状に形成されている。そして、2本の溝31aは、模擬ステム部31の軸中心を中心として点対称な位置に配置されている。図12に示すステム部32は、その側面に4本の溝32aが設けられた円柱軸状の部分として形成されている。4本の溝32aのそれぞれは、第1及び第2実施形態に係る各溝(13、23)と同様の形状に形成されている。そして、4本の溝32aは、模擬ステム部32の軸中心を中心とする周方向においてその軸中心に対して均等角度となる位置に(即ち、9
0度ずつずれた位置に)配置されている。
【0058】
図13は、模擬髄腔部33aを構成する骨モデル33に模擬ステム部(30、31、32)が挿入されている状態を示す正面図である。骨モデル33は、軸方向に亘って同一径の円形断面を有する模擬髄腔部33aを区画する円筒状部分33bと、この円筒部分33bの下端に設けられる基台部33cと、を備えて構成されている。尚、模擬髄腔部33aの直径と模擬ステム部(30、31、32)の直径との寸法差は、実際の髄腔部とステム部との寸法関係に対応させることを考慮して、1mmに設定した。
【0059】
また、骨モデル33においては、円筒部分33aの軸方向における3箇所の位置に、模擬髄腔部33a内に充填された骨セメントの圧力を検知する圧力ゲージ(34a、34b、34c)を取り付けた。圧力ゲージ34aは、模擬髄腔部33aにおいて模擬ステム部(30、31、32)が挿入される挿入口側に配置した。圧力ゲージ34cは、模擬髄腔部33aにおける奥側(即ち、基台部33c側)に配置した。圧力ゲージ34bは、圧力ゲージ34aの位置と圧力ゲージ34cの位置との中間位置に配置した。これらの圧力ゲージ(34a、34b、34c)による検知結果に基づいて、骨セメントを充填した模擬髄腔部33aに模擬ステム部(30、31、32)を挿入する際における模擬髄腔部33aの挿入口側、中間位置、奥側のそれぞれの位置における骨セメントの圧力の推移を測定した。
【0060】
また、模擬髄腔部33aに挿入される模擬ステム部(30、31、32)には、前述の試験機(図示せず)を用いて、図13中において矢印Gで示す方向に向かって押し込み荷重を付与した。この押し込み荷重については、図示しない試験機に設けられたロードセルによって検知した。このロードセルの検知結果に基づいて、骨セメントを充填した模擬髄腔部33aに模擬ステム部(30、31、32)を挿入する際における模擬ステム部(30、31、32)の押し込み荷重の推移を測定した。
【0061】
上述した模擬ステム部(30、31、32)及び模擬髄腔部33aを用いた試験については、骨セメントの粘度条件において若干のばらつきが生じることを考慮して、各模擬ステム部(30、31、32)についてそれぞれ3回ずつ行った。そして、それぞれの試験ごとに、上述のように、模擬ステム部(30、31、32)を模擬髄腔部33aへ挿入した際における骨セメントの圧力と押し込み荷重とを測定した。
【0062】
図14乃至図16は、模擬ステム部30の模擬髄腔部33aへの挿入の際における模擬髄腔部33aの挿入口側、中間位置、奥側のそれぞれの位置における骨セメントの圧力の推移を示した図である。図14が1回目の試験結果を、図15が2回目の試験結果を、図16が3回目の試験結果をそれぞれ示している。また、図17乃至図19は、模擬ステム部31の模擬髄腔部33aへの挿入の際における模擬髄腔部33aの挿入口側、中間位置、奥側のそれぞれの位置における骨セメントの圧力の推移を示した図である。図17が1回目の試験結果を、図18が2回目の試験結果を、図19が3回目の試験結果をそれぞれ示している。また、図20乃至図22は、模擬ステム部32の模擬髄腔部33aへの挿入の際における模擬髄腔部33aの挿入口側、中間位置、奥側のそれぞれの位置における骨セメントの圧力の推移を示した図である。図20が1回目の試験結果を、図21が2回目の試験結果を、図22が3回目の試験結果をそれぞれ示している。尚、図14乃至図22においては、模擬髄腔部33aの挿入口側の位置における骨セメントの圧力(以下、単に「挿入口側の圧力」という)の推移をピッチの細かい破線で図示している。また、模擬髄腔部33aの中間位置における骨セメントの圧力(以下、単に「中間位置の圧力」という)の推移を挿入口側の圧力の推移の破線よりもピッチの粗い破線で図示している。また、模擬髄腔部33aの奥側の位置における骨セメントの圧力(以下、単に「奥側の圧力」という)の推移を実線で図示している。
【0063】
また、図23乃至図25は、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入の際における押し込み荷重の推移を示した図である。図23が模擬ステム部30の模擬髄腔部33aへの挿入時の押し込み荷重を、図24が模擬ステム部31の模擬髄腔部33aへの挿入時の押し込み荷重を、図25が模擬ステム部32の模擬髄腔部33aへの挿入時の押し込み荷重を、それぞれ示している。尚、図23乃至図25においては、1回目の試験結果をピッチの細かい破線で、2回目の試験結果を1回目の試験結果の破線よりもピッチの粗い破線で、3回目の試験結果を実線で、それぞれ図示している。
【0064】
図14乃至図22に示すように、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入を開始すると、挿入口側の圧力、中間位置の圧力及び奥側の圧力が、いずれも同じ立ち上がり方で上昇を開始する。そして、挿入される模擬ステム部(30、31、32)の先端側が挿入口側の位置に配置された圧力ゲージ34aの側方を通過すると、挿入口側の圧力が中間位置の圧力及び奥側の圧力とは異なる圧力で推移を始めることになる。更に、模擬ステム部(30、31,32)の先端側が中間位置に配置された圧力ゲージ34bの側方を通過すると、中間位置の圧力が奥側の圧力とは異なる圧力で推移を始めることになる。
【0065】
そして、試験の結果、図14乃至図22に示すように、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入開始後における骨セメントの圧力の立ち上がり方については、模擬ステム部30、模擬ステム部31、模擬ステム部32の順で段々と緩やかな立ち上がり方になることが確認できた。即ち、溝のない模擬ステム部30の場合は最も急激な圧力の立ち上がり方となり、溝31aが2本設けられた模擬ステム部31の場合はより緩やかな圧力の立ち上がり方となり、溝32aが4本設けられた模擬ステム部32の場合は最も緩やかな立ち上がり方となることが確認できた。尚、溝のない模擬ステム部30の場合、奥側の圧力については、圧力ゲージ34cが測定可能な上限圧力(5.5MPa)を超えてしまう結果となった。
【0066】
また、図23乃至図25に示すように、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入中の押し込み荷重については、模擬ステム部30、模擬ステム部31、模擬ステム部32の順で段々と小さくなることが確認できた。即ち、溝のない模擬ステム部30の場合は最も押し込み荷重が大きくなり、溝31aが2本設けられた模擬ステム部31の場合はより押し込み荷重を小さくでき、溝32aが4本設けられた模擬ステム部32の場合は最も押し込み荷重を小さくできることが確認できた。
【0067】
また、図14乃至図22に示すように、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入中に達する骨セメントの最大圧力については、溝のない模擬ステム部30に対して、溝(31a、32a)が設けられた模擬ステム部(31、32)では、奥側の圧力を低下させるとともに挿入口側の圧力を上昇させることができることが確認できた。即ち、挿入される模擬ステム部(31、32)の先端側(模擬髄腔部33の奥側)の領域において骨セメントの圧力を低下させ、模擬ステム部(31、32)の連結部側(模擬髄腔部33の挿入口側)の領域において骨セメントの圧力を上昇させることができることを確認できた。よって、模擬ステム部(31、32)の側面と模擬髄腔部33aとの間の領域において、模擬ステム部(31、32)の先端側から連結部側にかけて全体に亘って効率よく圧力を分散させて作用させることができることが確認できた。また、奥側の圧力を低下させるとともに挿入口側の圧力を上昇させる傾向については、溝31aが2本設けられた模擬ステム部31の場合よりも溝32aが4本設けられた模擬ステム部32の場合において、より明瞭に確認することができた。
【0068】
以上のように、上述した試験を行って本発明の効果について検証した結果、本発明によ
ると、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる人工関節用コンポーネントを提供することができることが確認できた。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施することができる。
【0070】
(1)本実施形態では、人工股関節用大腿骨コンポーネント及び人工膝関節用脛骨コンポーネントとして本発明が適用された場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、人工膝関節用大腿骨コンポーネントとして本発明が適用されてもよく、また、人工股関節及び人工膝関節以外の人工関節(人工肘関節、人工肩関節、人工指関節、人工足関節、等)における人工関節用コンポーネントとして本発明が適用されてもよい。
【0071】
(2)本実施形態では、ステム部の側面において、先端側から連結部側にかけて溝断面の断面積が減少する溝が周方向の均等角度の位置に4本設けられた場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、ステム部の側面において、先端側から連結部側にかけて溝断面の断面積が減少する溝が周方向の均等角度の位置に少なくとも2本設けられていれば本発明の効果を奏することができる。
【0072】
(3)ステム部の側面に設けられる溝の形状については、本実施形態で例示した形状に限らず、先端側から連結部側にかけて溝断面の断面積が減少する溝の形状であれば、種々変更して実施することができる。また、溝断面の断面積が先端側から連結部側にかけて徐々に減少する中途において、断面積が変化しない部分が部分的に設けられているものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントとして、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 人工関節用コンポーネント
11 連結部
12 ステム部
13、13a、13b 溝
100 大腿骨(骨)
100a 髄腔部
102 骨頭ボール部材(他のコンポーネント)
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、股関節、膝関節、肘関節、肩関節、指関節、足関節等の関節に異常が認められた患者に対して、人工股関節、人工膝関節、人工肘関節、人工肩関節、人工指関節、人工足関節等の人工関節が適用される手術が行われている。そして、上述したような人工関節においては、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントが用いられる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1においては、上述した人工関節用コンポーネントとして、人工股関節において用いられる人工股関節用大腿骨コンポーネントが開示されている。この特許文献1の人工関節用コンポーネントは、先端側が大腿骨に挿入されて骨セメントを用いてあるいは用いずに固定されるとともに、骨盤の寛骨臼側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材として設けられた他のコンポーネントに連結するように構成されている。そして、特許文献1に開示されたような人工関節用コンポーネントには、他のコンポーネントに連結される連結部と、この連結部と一体に形成されるステム部とが備えられている。ステム部は、連結部側とは反対側の先端側において骨の髄腔部に挿入されて固定される軸状の部分として形成されている。尚、特許文献1に開示された人工関節用コンポーネントにおいては、ステム部の側面における中途部分に、このステム部の曲げ剛性を調整するために部分的に切り欠かれるように凹み形成された溝が1つ形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−503859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたような人工関節用コンポーネントのステム部が骨の髄腔部へ挿入されて骨セメントにより固定される場合、まず、髄腔部に骨セメントが充填される。そして、手術を行う術者は、ステム部の先端側を髄腔部に挿入する。このとき、術者は、挿入されるステム部によって押しのけられる体積相当分の骨セメントを髄腔部から流出させながら、ステム部の先端側を髄腔部に挿入することになる。
【0006】
骨セメントによる人工関節用コンポーネントの固定状態を強固に安定して固定された良好な状態にするためには、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが望ましい。しかしながら、骨セメントが充填された髄腔部において、挿入されるステム部が到達していない奥側の領域では骨セメントの圧力が相当に高くなるが、ステム部の側面と髄腔部との間で骨セメントが流動する領域では、骨セメントの流動の際における流動抵抗の増大によって骨セメントの圧力が大幅に低下することになる。このため、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが難しく、骨セメントによる固定を良好な状態にすることが困難となる。とくに、ステム部が円柱状の部分として形成さ
れ、ステム部の側面と髄腔部との間で骨セメントが流動する流路面積が略一定の場合、この傾向が顕著となり易い。
【0007】
尚、特許文献1に開示された人工関節用コンポーネントの場合、前述のように、ステム部の側面における中途部分に、曲げ剛性調整用に部分的に凹み形成された溝が1つ形成されている。この場合、ステム部の側面の1箇所に部分的に設けられた溝の側方の領域では、骨セメントの流動の際の流動抵抗が低下することになる。しかし、ステム部の側面の周囲における他の領域では、骨セメントの流動の際の流動抵抗は増大するため、骨セメントの圧力低下が生じることになる。このため、前記と同様に、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが難しく、骨セメントによる固定を良好な状態にすることが困難となる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる人工関節用コンポーネントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工関節用コンポーネントは、人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントであって、人工関節における他のコンポーネントに連結される連結部と、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定される軸状の部分として形成されるとともに、先端側とは反対側の端部において、前記連結部と一体に形成され又は前記連結部が固定されるステム部と、を備えている。そして、第1発明に係る人工関節用コンポーネントは、前記ステム部の側面には、その側面の表面に対して内側に凹むように形成されるとともに、先端側から前記連結部に連なる連結部側にかけて当該ステム部の軸方向に沿って延びるように形成された溝が少なくとも2本設けられ、前記溝は、前記ステム部の軸中心を中心とする周方向において当該軸中心に対して均等角度となる位置に配置され、前記溝のそれぞれは、前記ステム部の軸方向に対して垂直な断面における前記側面の表面に対する凹み領域である溝断面の断面積が、前記ステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように、形成されていることを特徴とする。
【0010】
この発明によると、術者がステム部の先端側を骨の髄腔部に挿入すると、ステム部の挿入に伴って押しのけられる骨セメントは、ステム部の側面と髄腔部との間で流動するとともに、ステム部において軸方向に沿って形成された溝内も通過しながら流動する。そして、これらの溝は、その溝断面の断面積がステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように形成されている。このため、ステム部の先端側の側方の領域では、骨セメントが流動する流路面積が大きくなり、骨セメントの流速が小さくなって剪断速度も小さくなり、これにより、骨セメントの流動の際における流動抵抗が小さくなる。一方、ステム部の連結部側の側方の領域では、上記とは逆に、骨セメントが流動する流路面積が小さくなり、骨セメントの流速が大きくなって剪断速度も大きくなり、これにより、骨セメントの流動の際における流動抵抗が大きくなる。このため、挿入されるステム部が到達しておらず骨セメントの圧力の高い奥側の領域に近いステム部の先端側の側方の領域において骨セメントの圧力を低下させ、ステム部の連結部側にかけてその側方の領域において徐々に骨セメントの圧力を上昇させることができる。よって、ステム部の側面と髄腔部との間の領域において、ステム部の先端側から連結部側にかけて全体に亘って効率よく圧力を分散させて作用させることができる。
【0011】
また、本発明によると、上述した溝によって、挿入されるステム部が到達していない奥側の領域やステム部の先端側の領域での骨セメントの圧力を低下させ、これらの領域での従来のような圧力の増大を抑制できる。これにより、上記の領域において、骨セメントの流動抵抗の積算量、即ち、人工関節用コンポーネントを髄腔部の骨セメント内に挿入する際の抵抗である挿入抵抗を小さくすることができる。そして、上記の領域での骨セメントの流動抵抗による挿入抵抗を小さくする一方で、前述のように、ステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に骨セメントの流動抵抗を増大させて効率よく圧力を分散することができる。このため、挿入抵抗の総量が増大してしまうことを抑制しつつ、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままで容易にステム部を髄腔部へ挿入していくことができる。これにより、骨セメントによる固定状態を強固に安定して固定された良好な状態にすることができる。従来であれば、ステム部が到達していない奥側の領域やステム部の先端側の領域での挿入抵抗が大きすぎるため、髄腔部に充填した骨セメントの粘度の高さが十分な水準まで上昇するのを待って挿入作業を行うことが難しいという問題があった。しかしながら、上述のように、挿入抵抗の総量が増大してしまうことを抑制しつつ、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままで容易にステム部を髄腔部へ挿入していくことができるため、十分な高さの水準の粘度に達するまで待ってから挿入作業を行うことができる。
【0012】
また、ステム部の溝は、少なくとも2本設けられ、これらは、ステム部の軸中心に対してその周方向で均等角度の位置に配置されている。このため、ステム部の髄腔部への挿入の際に、ステム部の側面に対して作用する骨セメントの圧力が、周方向において偏って作用してしまうことが抑制される。これにより、安定した姿勢を保ったまま、髄腔部の深さ方向に対して真っ直ぐにステム部を挿入する作業を容易に行うことができる。また、ステム部が髄腔部に挿入されて固定された後は、複数の溝に入り込んで固まった骨セメントによって人工関節用コンポーネントが骨に対して固定されることになる。このため、骨内で人工関節用コンポーネントが回旋方向に変位してしまうことも抑制でき、人工関節用コンポーネントの回旋方向の固定性も向上させることができる。尚、単に、人工関節用コンポーネントの回旋方向の固定性の向上を目的として、ステム部に本発明とは異なる構成の溝を形成することもできる。しかし、この場合は、従来と同様に、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことは難しく、骨セメントによる固定を良好な状態にすることが困難である。
【0013】
従って、本発明によると、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる人工関節用コンポーネントを提供することができる。
【0014】
第2発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明の人工関節用コンポーネントにおいて、前記溝のそれぞれは、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、溝深さが徐々に浅くなるように形成されることで、前記溝断面の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする。
【0015】
この発明によると、溝深さをステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に浅くすることで、溝断面の断面積を徐々に減少させる溝形状を容易に形成することができる。また、溝深さの勾配を調整することで、ステム部の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメントからの圧力の分布を容易に所望の分布となるように調整することができる。
【0016】
第3発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明又は第2発明の人工関節用コンポーネントにおいて、前記溝のそれぞれは、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、溝幅が徐々に狭くなるように形成されることで、前記溝断面の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする。
【0017】
この発明によると、溝幅をステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に狭くすることで、溝断面の断面積を徐々に減少させる溝形状を容易に形成することができる。また、溝幅寸法の変化の傾きを調整することで、ステム部の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメントからの圧力の分布を容易に所望の分布となるように調整することができる。
【0018】
第4発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明乃至第3発明のいずれかの人工関節用コンポーネントにおいて、前記ステム部の軸方向に対して垂直な断面における前記溝の形状は、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成されていることを特徴とする。
【0019】
この発明によると、溝の断面形状が、ステム部における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成される。このため、円弧状の刃型形状を有する汎用の工具をステム部の軸中心に対する相対位置を変化させながら軸方向に沿って移動させることで、溝深さ及び溝幅を徐々に変化させた溝を加工することができる。そして、溝の断面形状が円弧形状で変化するため、軸状の部分として形成されたステム部の内側の領域を効率よく活用して溝深さ及び溝幅が徐々に変化する溝をステム部に形成することができる。よって、ステム部の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメントの圧力分布を所望の分布とする溝を容易に形成することができる。
【0020】
第5発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明乃至第4発明のいずれかの人工関節用コンポーネントにおいて、前記ステム部は、円柱軸状の部分として形成されていることを特徴とする。
【0021】
この発明によると、円柱軸状の部分として形成されたステム部において、軸方向に沿って、先端側から連結部側にかけて徐々に溝断面の断面積が減少する複数の溝が形成されることになる。このため、ステム部の側面と髄腔部との間で骨セメントが流動する流路面積が略一定となってしまうことがなく、骨セメントの流動の際における流動抵抗をステム部の先端側の領域で小さくして連結部側の領域にかけて徐々に大きくすることができる。これにより、円柱軸状の部分として形成されたステム部を有する人工関節用コンポーネントであっても、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる。
【0022】
第6発明に係る人工関節用コンポーネントは、第1発明乃至第4発明のいずれかの人工関節用コンポーネントにおいて、人工股関節において用いられ、先端側が大腿骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに、骨盤の寛骨臼側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材として設けられた他のコンポーネントに前記連結部が連結する、人工股関節用大腿骨コンポーネントとして設けられ、前記溝は、前記ステム部が大腿骨に埋植された状態における人体の前後方向及び内外側方向のうちの少なくともいずれかにおいて当該ステム部の軸中心を中心として点対称な位置に配置されていることを特徴とする。
【0023】
この発明によると、人工股関節用大腿骨コンポーネントにおいて、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持した
ままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる。そして、人工股関節用大腿骨コンポーネントの場合、ステム部の軸方向に対して連結部が斜めに突出するように配置されており、人体の前後方向及び内外側方向に適切に対応して配置される必要がある。これに対し、本発明によると、複数の溝が、人体の前後方向及び内外側方向のうちの少なくともいずれかにおいてステム部の軸中心を中心として点対称の位置に配置される。このため、ステム部の髄腔部への挿入の際に、ステム部の側面に対して作用する骨セメントの圧力が、前後方向及び内外側方向において偏って作用してしまうことが抑制される。これにより、安定した姿勢を保ったまま、大腿骨の髄腔部の深さ方向に対して真っ直ぐにステム部を挿入する作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる人工関節用コンポーネントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る人工関節用コンポーネントを示す断面図であって、模式的に示す大腿骨及び骨盤の断面の一部とともに図示した図である。
【図2】図1に示す人工関節用コンポーネントの正面図である。
【図3】図2に示す人工関節用コンポーネントの側面図である。
【図4】図2に示す人工関節用コンポーネントの底面図である。
【図5】図2のA−A線矢視断面図、B−B線矢視断面図、及びC−C線矢視断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る人工関節用コンポーネントを分解した状態で示す正面図であり、他のコンポーネントとともに図示した図である。
【図7】図6に示す工関節用コンポーネントと他のコンポーネントとが組み立てられた状態を示す正面図である。
【図8】図7の側面図である。
【図9】図6に示す人工関節用コンポーネントの底面図である。
【図10】試験用の模擬ステム部の正面図及び底面図である。
【図11】試験用の模擬ステム部の正面図、底面図及び側面図である。
【図12】試験用の模擬ステム部の正面図、底面図及び側面図である。
【図13】試験用の模擬髄腔部を構成する骨モデルに模擬ステム部が挿入されている状態を示す正面図である。
【図14】図10に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図15】図10に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図16】図10に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図17】図11に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図18】図11に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図19】図11に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図20】図12に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図21】図12に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図22】図12に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における骨セメントの圧力についての試験結果を示した図である。
【図23】図10に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における押し込み荷重についての試験結果を示した図である。
【図24】図11に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における押し込み荷重についての試験結果を示した図である。
【図25】図12に示す模擬ステム部を模擬髄腔部へ挿入する際における押し込み荷重についての試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントとして広く適用することができるものである。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る人工関節用コンポーネント1を示す断面図であり、模式的に示す大腿骨100及び骨盤101の断面の一部とともに図示している。人工関節用コンポーネント1は、人工股関節において用いられる人工股関節用大腿骨コンポーネントとして設けられている。この人工関節用コンポーネント1は、先端側が大腿骨100の髄腔部100aに挿入されて骨セメント104により固定される。そして、人工関節用コンポーネント1は、骨盤101の寛骨臼101a側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材102として設けられた他のコンポーネントに連結される。即ち、人工関節用コンポーネント1は、骨頭ボール部材102と組み合わされた状態で人工股関節の大腿骨100側の要素として適用される。
【0028】
尚、股関節を人工股関節に置換する人工股関節置換術においては、髄腔部100aは、手術用のやすりやのみを用いて形状が整えられ、人工関節用コンポーネント1が挿入されて埋植される。また、骨盤101の寛骨臼101a側に配置される骨頭ボール部材102は、寛骨臼101aに配置されるとともにシェル103a及びライナー103bを有する二層構造のカップ103に対して、外形の球面部分において摺動するように配置される。
【0029】
図2は、人工関節用コンポーネント1の正面図を示したものである。また、図3は人工関節用コンポーネント1の側面図を、図4は人工関節用コンポーネント1の底面図をそれぞれ示したものである。図1乃至図4に示す人工関節用コンポーネント1は、連結部11とステム部12とを備えて構成されている。尚、人工関節用コンポーネント1は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成される。
【0030】
連結部11は、人工股関節における他のコンポーネントである骨頭ボール部材102に連結される部分として形成されている。この連結部11は、図1に例示するように、緩やかにテーパ状にすぼまる円錐曲面の一部を成すように側面が形成された端部を有し、この端部において骨頭ボール部材102に開口形成された嵌合用穴102aに対して嵌合することで、骨頭ボール部材102と連結される。
【0031】
ステム部12は、先端側が大腿骨100の髄腔部100aに挿入されて骨セメント104により固定される軸状の部分として形成されるとともに、先端側とは反対側の端部において、連結部11と一体に形成されている。尚、人工股関節用大腿骨コンポーネントとし
て設けられたこの人工関節用コンポーネント1においては、ステム部12は、先端側から連結部11に連なる連結部側にかけて、ステム部12の軸方向に対して垂直な断面における断面積が徐々に大きくなるように形成されている。また、連結部11は、ステム部12に対して、ステム部12の軸方向に対して斜めに突出して延びるように一体に形成されている。
【0032】
図5は、図2のA−A線矢視断面図(図5(a))、B−B線矢視断面図(図5(b))、及びC−C線矢視断面図(図5(c))である。図2乃至図5によく示すように、ステム部12の側面には、その側面の表面12a(図5参照)に対して内側に凹むように形成されるとともに、先端側から連結部側にかけてこのステム部12の軸方向に沿って延びるように形成された溝13が4本設けられている。これらの溝13は、ステム部12の軸中心P(図5(a)〜(c)において点Pで示す)を中心とする周方向において軸中心Pに対して均等角度となる位置に配置されている。即ち、ステム部12に設けられた4本の溝13は、軸中心Pを中心とする周方向において軸中心Pに対して90度ずつずれた位置に配置されている。
【0033】
また、ステム部12においては、4本の溝13のうちの半分の2本の溝13aについては、ステム部12が大腿骨100に埋植された状態における人体の前後方向(図5中の両端矢印E方向)において軸中心Pを中心として点対称な位置に配置されている。そして、4本の溝13のうちの残り半分の2本の溝13bについては、ステム部12が大腿骨100に埋植された状態における人体の内外側方向(図5中の両端矢印F方向)において軸中心Pを中心として点対称な位置に配置されている。
【0034】
また、溝13のそれぞれは、図5によく示すように、ステム部12の軸方向に対して垂直な断面における側面の表面12aに対する凹み領域である溝断面の断面積が、ステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように、形成されている。そして、溝13のそれぞれは、ステム部12における先端側から連結部側にかけて、溝深さが徐々に浅くなるように形成されるとともに、溝幅が徐々に狭くなるように形成されることで、上記の溝断面の断面積が減少するように形成されている。
【0035】
従って、図5(c)に示す断面における溝13の溝深さ寸法Dcと、図5(b)に示す断面における溝13の溝深さ寸法Dbと、図5(a)に示す断面における溝13の溝深さ寸法Daとにおいては、Dc>Db>Daの関係が成立している。そして、図5(c)に示す断面における溝13の溝幅寸法Wcと、図5(b)に示す断面における溝13の溝幅寸法Wbと、図5(a)に示す溝幅寸法Waとにおいては、Wc>Wb>Waの関係が成立している。尚、図5では、溝13bの溝深さ寸法と溝13aの溝幅寸法とを図示しているが、溝13aの溝深さ寸法と溝13bの溝幅寸法も同様に構成される。
【0036】
また、ステム部12の軸方向に対して垂直な断面における溝13の形状は、ステム部12における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成されている。従って、図5(a)に示す断面における溝13を区画する円弧部分の曲率半径寸法Raと、図5(b)に示す断面における溝13を区画する円弧部分の曲率半径寸法Rbと、図5(c)に示す断面における溝13を区画する円弧部分の曲率半径寸法Rcとにおいては、Ra=Rb=Rcの関係が成立している。尚、図5では、溝13bを区画する円弧部分の曲率半径寸法を図示しているが、溝13aを区画する円弧部分の曲率半径寸法も同様に構成される。
【0037】
次に、人工股関節用置換術において人工関節用コンポーネント1の先端側が大腿骨100の髄腔部100aに挿入されて骨セメント104により固定される場合における作用効果について説明する。この場合、まず、髄腔部100aに骨セメント104が充填される
。そして、術者は、所望する高さの水準の粘度に骨セメント104の粘度が達した状態で、ステム部12の先端側を髄腔部100aに挿入する。
【0038】
術者がステム部12の先端側を大腿骨100の髄腔部100aに挿入すると、ステム部12の挿入に伴って押しのけられる骨セメント104は、ステム部12の側面と髄腔部100aとの間で流動するとともに、ステム部12において軸方向に沿って形成された溝13内も通過しながら流動する。そして、これらの溝13は、その溝断面の断面積がステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように形成されている。このため、ステム部12の先端側の側方の領域では、骨セメント104が流動する流路面積が大きくなり、骨セメント104の流速が小さくなって剪断速度も小さくなり、これにより、骨セメント104の流動の際における流動抵抗が小さくなる。一方、ステム部12の連結部側の側方の領域では、上記とは逆に、骨セメント104が流動する流路面積が小さくなり、骨セメント104の流速が大きくなって剪断速度も大きくなり、これにより、骨セメント104の流動の際における流動抵抗が大きくなる。このため、挿入されるステム部12が到達しておらず骨セメント104の圧力の高い奥側の領域に近いステム部12の先端側の側方の領域において骨セメント104の圧力を低下させ、ステム部12の連結部側にかけてその側方の領域において徐々に骨セメント104の圧力を増大させることができる。よって、人工関節用コンポーネント1によると、ステム部12の側面と髄腔部100aとの間の領域において、ステム部12の先端側から連結部側にかけて全体に亘って効率よく圧力を分散させて作用させることができる。
【0039】
また、人工関節用コンポーネント1によると、溝13によって、挿入されるステム部12が到達していない奥側の領域やステム部12の先端側の領域での骨セメント104の圧力を低下させ、これらの領域での従来のような圧力の増大を抑制できる。これにより、上記の領域において、骨セメント104の流動抵抗の積算量、即ち、人工関節用コンポーネント1を髄腔部100aの骨セメント104内に挿入する際の抵抗である挿入抵抗を小さくすることができる。そして、上記の領域での骨セメント104の流動抵抗による挿入抵抗を小さくする一方で、前述のように、ステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に骨セメント104の流動抵抗を増大させて効率よく圧力を分散することができる。このため、挿入抵抗の総量が増大してしまうことを抑制しつつ、ステム部12における髄腔部100aに挿入される側面の全体に亘って骨セメント104から高い圧力が作用する状態に維持したままで容易にステム部12を髄腔部100aへ挿入していくことができる。これにより、骨セメント104による固定状態を強固に安定して固定された良好な状態にすることができる。また、人工関節用コンポーネント1によると、挿入抵抗の総量が増大してしまうことを抑制しつつ、ステム部12における髄腔部100aに挿入される側面の全体に亘って骨セメント104から高い圧力が作用する状態に維持したままで容易にステム部12を髄腔部100aへ挿入していくことができるため、十分な高さの水準の粘度に達するまで待ってから挿入作業を行うことができる。
【0040】
また、ステム部12の溝13は、2本以上である4本設けられ、これらは、ステム部12の軸中心Pに対してその周方向で均等角度の位置に配置されている。このため、ステム部12の髄腔部100aへの挿入の際に、ステム部12の側面に対して作用する骨セメント104の圧力が、周方向において偏って作用してしまうことが抑制される。これにより、安定した姿勢を保ったまま、髄腔部100aの深さ方向に対して真っ直ぐにステム部12を挿入する作業を容易に行うことができる。また、ステム部12が髄腔部100aに挿入されて固定された後は、複数の溝13に入り込んで固まった骨セメント104によって人工関節用コンポーネント1が大腿骨100に対して固定されることになる。このため、大腿骨100内で人工関節用コンポーネント1が回旋方向に変位してしまうことも抑制でき、人工関節用コンポーネント1の回旋方向の固定性も向上させることができる。
【0041】
従って、人工関節用コンポーネント1によると、ステム部12における髄腔部100aに挿入される側面の全体に亘って骨セメント104から高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部12を髄腔部100aへ挿入していくことが容易となり、骨セメント104による固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる。
【0042】
また、人工関節用コンポーネント1によると、ステム部12の先端側から連結部側にかけて徐々に溝深さを浅くするとともに溝幅を狭くことで、溝断面の断面積を徐々に減少させる溝形状を容易に形成することができる。また、溝深さの勾配や溝幅寸法の変化の傾きを調整することで、ステム部12の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメント104からの圧力の分布を容易に所望の分布となるように調整することができる。
【0043】
また、人工関節用コンポーネント1によると、溝13の断面形状が、ステム部12における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成される。このため、円弧状の刃型形状を有する汎用の工具をステム部12の軸中心に対する相対位置を変化させながら軸方向に沿って移動させることで、溝深さ及び溝幅を徐々に変化させた溝13を加工することができる。そして、溝13の断面形状が円弧形状で変化するため、軸状の部分として形成されたステム部12の内側の領域を効率よく活用して溝深さ及び溝幅が徐々に変化する溝13をステム部12に形成することができる。よって、ステム部12の側面において先端側から連結部側にかけて作用する骨セメント104の圧力分布を所望の分布とする溝13を容易に形成することができる。
【0044】
また、人工関節用コンポーネント1は、人工股関節用大腿骨コンポーネントとして設けられているため、ステム部12の軸方向に対して連結部11が斜めに突出するように配置されており、人体の前後方向及び内外側方向に適切に対応して配置される必要がある。これに対し、人工関節用コンポーネント1によると、複数の溝13が、人体の前後方向及び内外側方向においてステム部12の軸中心Pを中心として点対称の位置に配置される。このため、ステム部12の髄腔部100aへの挿入の際に、ステム部12の側面に対して作用する骨セメント104の圧力が、前後方向及び内外側方向において偏って作用してしまうことが抑制される。これにより、安定した姿勢を保ったまま、大腿骨100の髄腔部100aの深さ方向に対して真っ直ぐにステム部12を挿入する作業を容易に行うことができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る人工関節用コンポーネント2を分解した状態で示す正面図であり、この人工関節用コンポーネント2に連結される他のコンポーネントであるプレート部材105とともに図示している。また、図7は、人工関節用コンポーネント2とプレート部材105とが組み立てられた状態を示す正面図を示したものであり、図8は、図7の側面図を示したものである。
【0046】
図6乃至図8に示す人工関節用コンポーネント2は、人工膝関節において用いられる人工膝関節用脛骨コンポーネントとして設けられている。この人工関節用コンポーネント2は、先端側が図示しない脛骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定される。そして、人工関節用コンポーネント2は、図示しない大腿骨に取り付けられる人工膝関節用大腿骨コンポーネントの端部と摺動するように配置されるプレート部材105として設けられた他のコンポーネントに連結される。即ち、人工関節用コンポーネント2は、プレート部材105と組み合わされた状態で人工膝関節の脛骨側の要素として適用される。
【0047】
尚、膝関節を人工膝関節に置換する人工膝関節置換術においては、脛骨の髄腔部は、手術用のやすりやのみを用いて形状が整えられ、人工関節用コンポーネント2が挿入されて
埋植される。また、プレート部材105は、例えば、ポリエチレン等の樹脂で形成され、プレート状に形成されたプレート部分105aとこのプレート部分105aから突出する突起状に形成された突起部分105bとが設けられている。そして、プレート部材105は、プレート部分105aにおける突起部分105bが設けられている側と反対側の端部において、人工関節用コンポーネント2に対して、例えば、ネジ、嵌め合せ(図示せず)によって結合されて連結される。また、プレート部材105は、プレート部分105aにおける突起部分105bが設けられている側の端部と突起部分105bとにおいて、人工膝関節用大腿骨コンポーネント(図示せず)の端部と摺動するように配置される。
【0048】
図6乃至図8に示す人工関節用コンポーネント2は、連結部21とステム部22とを備えて構成されている。尚、人工関節用コンポーネント2は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成される。
【0049】
連結部21は、人工膝関節における他のコンポーネントであるプレート部材105に連結される部分として形成されている。この連結部21には、平板状に形成されたトレー部分21aと、このトレー部分21aにおける一方の端面から垂直方向に向かって軸状に突出する突起状に形成された突起軸部分21bと、が設けられている。そして、連結部21には、トレー部分21aにおける突起軸部分21bが設けられている側と反対側の端面において、前述したように、プレート部材105が図示しないネジによって結合されて連結される。また、突起軸部分21bにおけるトレー部分21aに一体化されている側と反対側の端部には、後述するステム部22の端部に形成された雄ネジ部分22aと螺合する雌ネジ部分が内周に形成されたネジ穴(図示せず)が開口形成されている。尚、人工関節用コンポーネント2においては、脛骨の端部への係合状態をより強固に適切な状態に調整するための別体のブロック部材(図示せず)が更に設けられていてもよい。このブロック部材は、連結部21に対して、突起軸部分21bの根元側において、トレー部分21aにネジ等によって取り付けられる。
【0050】
ステム部22は、先端側が脛骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定される軸状の部分として形成されている。そして、ステム部22の先端側とは反対側の端部には、突起軸部分21bに形成されたネジ穴に螺合する雄ネジ部分22aが設けられている。この雄ネジ部分22aが突起軸部分21bと螺合することで、ステム部22に連結部21がネジ結合により固定される。また、人工膝関節用脛骨コンポーネントとして設けられたこの人工関節用コンポーネント2においては、ステム部22は、その側面の表面がこのステム部22の軸方向と垂直な断面において円周に沿って配置される円柱軸状の部分として形成されている。そして、ステム部22と連結部21とは、それらが固定された状態では、ステム部22の軸方向と突起軸部分21bの軸方向とが一致するように配置される。
【0051】
図9は、ステム部22の底面図を示したものである。図6乃至図9に示すように、ステム部22の側面には、その側面の表面22b(図9参照)に対して内側に凹むように形成されるとともに、先端側から連結部21に連なる連結部側にかけてこのステム部22の軸方向に沿って延びるように形成された溝23が4本設けられている。これらの溝23は、ステム部22の軸中心Q(図9において点Qで示す円柱軸中心)を中心とする周方向において軸中心Qに対して均等角度となる位置に配置されている。即ち、ステム部22に設けられた4本の溝23は、軸中心Qを中心とする周方向において軸中心Qに対して90度ずつずれた位置に配置されている。
【0052】
また、ステム部22においては、溝23のそれぞれは、第1実施形態のステム部12の溝13と同様に、ステム部22の軸方向に対して垂直な断面における側面の表面22aに対する凹み領域である溝断面の断面積が、ステム部22の先端側から連結部側にかけて徐
々に減少するように、形成されている。そして、溝23のそれぞれは、第1実施形態の溝13と同様に、ステム部22における先端側から連結部側にかけて、溝深さが徐々に浅くなるように形成されるとともに、溝幅が徐々に狭くなるように形成されることで、上記の溝断面の断面積が減少するように形成されている。また、ステム部22の軸方向に対して垂直な方向における溝23の形状は、第1実施形態の溝13と同様に、ステム部22における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成されている。
【0053】
以上説明した人工関節用コンポーネント2によると、円柱軸状の部分として形成されたステム部22において、軸方向に沿って、先端側から連結部側にかけて徐々に溝断面の断面積が減少する複数の溝23が形成されることになる。このため、ステム部22の側面と髄腔部との間で骨セメントが流動する流路面積が略一定となってしまうことがなく、骨セメントの流動の際における流動抵抗をステム部22の先端側の領域で小さくして連結部側の領域にかけて徐々に大きくすることができる。これにより、円柱軸状の部分として形成されたステム部22を有する人工関節用コンポーネント2であっても、第1実施形態の人工関節用コンポーネント1と同様に、ステム部22における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部22を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる。
【0054】
(試験結果)
次に、本発明に係る人工関節用コンポーネントの効果を検証するための試験を行った結果について説明する。この試験においては、試験用の人工関節用コンポーネントのステム部を模擬ステム部として3種類作成し、それらの模擬ステム部を試験用の骨モデルの模擬髄腔部に対して挿入し、模擬髄腔部内の骨セメントの圧力と挿入抵抗である模擬ステム部の押し込み荷重とを測定することで、本発明の効果の検証を行った。
【0055】
尚、試験用の模擬ステム部は、Ti−6Al−4V合金を素材として作成し、表面粗度(Ra)を0.2μm〜0、4μm程度に調整したものを用いた。模擬髄腔部を構成する骨モデルについては、アクリル製のものを用いた。また、骨セメントについては、1分間混練した後にセメントガンシリンジに充填し、その3分後に模擬髄腔部にセメントを充填した。そして、更にその1分後から、一定速度で押し込む試験機を用いて、模擬ステム部を模擬髄腔部内に100mm/minの速度で挿入して押し込む試験を行った。
【0056】
図10は、比較用の模擬ステム部30の正面図(図10(a))及び底面図(図10(b))を示したものである。また、図11に示す模擬ステム部31及び図12に示す模擬ステム部32は、本発明に係る人工関節用コンポーネントのステム部に対応する模擬ステム部を示したものである。尚、図11は、模擬ステム部31の正面図(図11(a))、底面図(図11(b))及び側面図(図11(c))を示している。また、図12は、模擬ステム部32の正面図(図12(a))、底面図(図12(b))及び側面図(図12(c))を示している。
【0057】
図10に示す模擬ステム部30は、その側面に溝が設けられていない円柱軸状の部分として形成されている。図11に示すステム部31は、その側面に2本の溝31aが設けられた円柱軸状の部分として形成されている。2本の溝31aのそれぞれは、第1及び第2実施形態に係る各溝(13、23)と同様の形状に形成されている。そして、2本の溝31aは、模擬ステム部31の軸中心を中心として点対称な位置に配置されている。図12に示すステム部32は、その側面に4本の溝32aが設けられた円柱軸状の部分として形成されている。4本の溝32aのそれぞれは、第1及び第2実施形態に係る各溝(13、23)と同様の形状に形成されている。そして、4本の溝32aは、模擬ステム部32の軸中心を中心とする周方向においてその軸中心に対して均等角度となる位置に(即ち、9
0度ずつずれた位置に)配置されている。
【0058】
図13は、模擬髄腔部33aを構成する骨モデル33に模擬ステム部(30、31、32)が挿入されている状態を示す正面図である。骨モデル33は、軸方向に亘って同一径の円形断面を有する模擬髄腔部33aを区画する円筒状部分33bと、この円筒部分33bの下端に設けられる基台部33cと、を備えて構成されている。尚、模擬髄腔部33aの直径と模擬ステム部(30、31、32)の直径との寸法差は、実際の髄腔部とステム部との寸法関係に対応させることを考慮して、1mmに設定した。
【0059】
また、骨モデル33においては、円筒部分33aの軸方向における3箇所の位置に、模擬髄腔部33a内に充填された骨セメントの圧力を検知する圧力ゲージ(34a、34b、34c)を取り付けた。圧力ゲージ34aは、模擬髄腔部33aにおいて模擬ステム部(30、31、32)が挿入される挿入口側に配置した。圧力ゲージ34cは、模擬髄腔部33aにおける奥側(即ち、基台部33c側)に配置した。圧力ゲージ34bは、圧力ゲージ34aの位置と圧力ゲージ34cの位置との中間位置に配置した。これらの圧力ゲージ(34a、34b、34c)による検知結果に基づいて、骨セメントを充填した模擬髄腔部33aに模擬ステム部(30、31、32)を挿入する際における模擬髄腔部33aの挿入口側、中間位置、奥側のそれぞれの位置における骨セメントの圧力の推移を測定した。
【0060】
また、模擬髄腔部33aに挿入される模擬ステム部(30、31、32)には、前述の試験機(図示せず)を用いて、図13中において矢印Gで示す方向に向かって押し込み荷重を付与した。この押し込み荷重については、図示しない試験機に設けられたロードセルによって検知した。このロードセルの検知結果に基づいて、骨セメントを充填した模擬髄腔部33aに模擬ステム部(30、31、32)を挿入する際における模擬ステム部(30、31、32)の押し込み荷重の推移を測定した。
【0061】
上述した模擬ステム部(30、31、32)及び模擬髄腔部33aを用いた試験については、骨セメントの粘度条件において若干のばらつきが生じることを考慮して、各模擬ステム部(30、31、32)についてそれぞれ3回ずつ行った。そして、それぞれの試験ごとに、上述のように、模擬ステム部(30、31、32)を模擬髄腔部33aへ挿入した際における骨セメントの圧力と押し込み荷重とを測定した。
【0062】
図14乃至図16は、模擬ステム部30の模擬髄腔部33aへの挿入の際における模擬髄腔部33aの挿入口側、中間位置、奥側のそれぞれの位置における骨セメントの圧力の推移を示した図である。図14が1回目の試験結果を、図15が2回目の試験結果を、図16が3回目の試験結果をそれぞれ示している。また、図17乃至図19は、模擬ステム部31の模擬髄腔部33aへの挿入の際における模擬髄腔部33aの挿入口側、中間位置、奥側のそれぞれの位置における骨セメントの圧力の推移を示した図である。図17が1回目の試験結果を、図18が2回目の試験結果を、図19が3回目の試験結果をそれぞれ示している。また、図20乃至図22は、模擬ステム部32の模擬髄腔部33aへの挿入の際における模擬髄腔部33aの挿入口側、中間位置、奥側のそれぞれの位置における骨セメントの圧力の推移を示した図である。図20が1回目の試験結果を、図21が2回目の試験結果を、図22が3回目の試験結果をそれぞれ示している。尚、図14乃至図22においては、模擬髄腔部33aの挿入口側の位置における骨セメントの圧力(以下、単に「挿入口側の圧力」という)の推移をピッチの細かい破線で図示している。また、模擬髄腔部33aの中間位置における骨セメントの圧力(以下、単に「中間位置の圧力」という)の推移を挿入口側の圧力の推移の破線よりもピッチの粗い破線で図示している。また、模擬髄腔部33aの奥側の位置における骨セメントの圧力(以下、単に「奥側の圧力」という)の推移を実線で図示している。
【0063】
また、図23乃至図25は、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入の際における押し込み荷重の推移を示した図である。図23が模擬ステム部30の模擬髄腔部33aへの挿入時の押し込み荷重を、図24が模擬ステム部31の模擬髄腔部33aへの挿入時の押し込み荷重を、図25が模擬ステム部32の模擬髄腔部33aへの挿入時の押し込み荷重を、それぞれ示している。尚、図23乃至図25においては、1回目の試験結果をピッチの細かい破線で、2回目の試験結果を1回目の試験結果の破線よりもピッチの粗い破線で、3回目の試験結果を実線で、それぞれ図示している。
【0064】
図14乃至図22に示すように、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入を開始すると、挿入口側の圧力、中間位置の圧力及び奥側の圧力が、いずれも同じ立ち上がり方で上昇を開始する。そして、挿入される模擬ステム部(30、31、32)の先端側が挿入口側の位置に配置された圧力ゲージ34aの側方を通過すると、挿入口側の圧力が中間位置の圧力及び奥側の圧力とは異なる圧力で推移を始めることになる。更に、模擬ステム部(30、31,32)の先端側が中間位置に配置された圧力ゲージ34bの側方を通過すると、中間位置の圧力が奥側の圧力とは異なる圧力で推移を始めることになる。
【0065】
そして、試験の結果、図14乃至図22に示すように、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入開始後における骨セメントの圧力の立ち上がり方については、模擬ステム部30、模擬ステム部31、模擬ステム部32の順で段々と緩やかな立ち上がり方になることが確認できた。即ち、溝のない模擬ステム部30の場合は最も急激な圧力の立ち上がり方となり、溝31aが2本設けられた模擬ステム部31の場合はより緩やかな圧力の立ち上がり方となり、溝32aが4本設けられた模擬ステム部32の場合は最も緩やかな立ち上がり方となることが確認できた。尚、溝のない模擬ステム部30の場合、奥側の圧力については、圧力ゲージ34cが測定可能な上限圧力(5.5MPa)を超えてしまう結果となった。
【0066】
また、図23乃至図25に示すように、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入中の押し込み荷重については、模擬ステム部30、模擬ステム部31、模擬ステム部32の順で段々と小さくなることが確認できた。即ち、溝のない模擬ステム部30の場合は最も押し込み荷重が大きくなり、溝31aが2本設けられた模擬ステム部31の場合はより押し込み荷重を小さくでき、溝32aが4本設けられた模擬ステム部32の場合は最も押し込み荷重を小さくできることが確認できた。
【0067】
また、図14乃至図22に示すように、模擬ステム部(30、31、32)の模擬髄腔部33aへの挿入中に達する骨セメントの最大圧力については、溝のない模擬ステム部30に対して、溝(31a、32a)が設けられた模擬ステム部(31、32)では、奥側の圧力を低下させるとともに挿入口側の圧力を上昇させることができることが確認できた。即ち、挿入される模擬ステム部(31、32)の先端側(模擬髄腔部33の奥側)の領域において骨セメントの圧力を低下させ、模擬ステム部(31、32)の連結部側(模擬髄腔部33の挿入口側)の領域において骨セメントの圧力を上昇させることができることを確認できた。よって、模擬ステム部(31、32)の側面と模擬髄腔部33aとの間の領域において、模擬ステム部(31、32)の先端側から連結部側にかけて全体に亘って効率よく圧力を分散させて作用させることができることが確認できた。また、奥側の圧力を低下させるとともに挿入口側の圧力を上昇させる傾向については、溝31aが2本設けられた模擬ステム部31の場合よりも溝32aが4本設けられた模擬ステム部32の場合において、より明瞭に確認することができた。
【0068】
以上のように、上述した試験を行って本発明の効果について検証した結果、本発明によ
ると、ステム部における髄腔部に挿入される側面の全体に亘って骨セメントから高い圧力が作用する状態に維持したままでステム部を髄腔部へ挿入していくことが容易となり、骨セメントによる固定状態を良好な状態とすることを容易に実現することができる人工関節用コンポーネントを提供することができることが確認できた。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施することができる。
【0070】
(1)本実施形態では、人工股関節用大腿骨コンポーネント及び人工膝関節用脛骨コンポーネントとして本発明が適用された場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、人工膝関節用大腿骨コンポーネントとして本発明が適用されてもよく、また、人工股関節及び人工膝関節以外の人工関節(人工肘関節、人工肩関節、人工指関節、人工足関節、等)における人工関節用コンポーネントとして本発明が適用されてもよい。
【0071】
(2)本実施形態では、ステム部の側面において、先端側から連結部側にかけて溝断面の断面積が減少する溝が周方向の均等角度の位置に4本設けられた場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、ステム部の側面において、先端側から連結部側にかけて溝断面の断面積が減少する溝が周方向の均等角度の位置に少なくとも2本設けられていれば本発明の効果を奏することができる。
【0072】
(3)ステム部の側面に設けられる溝の形状については、本実施形態で例示した形状に限らず、先端側から連結部側にかけて溝断面の断面積が減少する溝の形状であれば、種々変更して実施することができる。また、溝断面の断面積が先端側から連結部側にかけて徐々に減少する中途において、断面積が変化しない部分が部分的に設けられているものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントとして、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 人工関節用コンポーネント
11 連結部
12 ステム部
13、13a、13b 溝
100 大腿骨(骨)
100a 髄腔部
102 骨頭ボール部材(他のコンポーネント)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントであって、
人工関節における他のコンポーネントに連結される連結部と、
先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定される軸状の部分として形成されるとともに、先端側とは反対側の端部において、前記連結部と一体に形成され又は前記連結部が固定されるステム部と、
を備え、
前記ステム部の側面には、その側面の表面に対して内側に凹むように形成されるとともに、先端側から前記連結部に連なる連結部側にかけて当該ステム部の軸方向に沿って延びるように形成された溝が少なくとも2本設けられ、
前記溝は、前記ステム部の軸中心を中心とする周方向において当該軸中心に対して均等角度となる位置に配置され、
前記溝のそれぞれは、前記ステム部の軸方向に対して垂直な断面における前記側面の表面に対する凹み領域である溝断面の断面積が、前記ステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように、形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項2】
請求項1に記載の人工関節用コンポーネントであって、
前記溝のそれぞれは、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、溝深さが徐々に浅くなるように形成されることで、前記溝断面の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工関節用コンポーネントであって、
前記溝のそれぞれは、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、溝幅が徐々に狭くなるように形成されることで、前記溝断面の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の人工関節用コンポーネントであって、
前記ステム部の軸方向に対して垂直な断面における前記溝の形状は、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の人工関節用コンポーネントであって、
前記ステム部は、円柱軸状の部分として形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の人工関節用コンポーネントであって、
人工股関節において用いられ、先端側が大腿骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに、骨盤の寛骨臼側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材として設けられた他のコンポーネントに前記連結部が連結する、人工股関節用大腿骨コンポーネントとして設けられ、
前記溝は、前記ステム部が大腿骨に埋植された状態における人体の前後方向及び内外側方向のうちの少なくともいずれかにおいて当該ステム部の軸中心を中心として点対称な位置に配置されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項1】
人工関節において用いられ、先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに先端側とは反対側で他のコンポーネントに連結される人工関節用コンポーネントであって、
人工関節における他のコンポーネントに連結される連結部と、
先端側が骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定される軸状の部分として形成されるとともに、先端側とは反対側の端部において、前記連結部と一体に形成され又は前記連結部が固定されるステム部と、
を備え、
前記ステム部の側面には、その側面の表面に対して内側に凹むように形成されるとともに、先端側から前記連結部に連なる連結部側にかけて当該ステム部の軸方向に沿って延びるように形成された溝が少なくとも2本設けられ、
前記溝は、前記ステム部の軸中心を中心とする周方向において当該軸中心に対して均等角度となる位置に配置され、
前記溝のそれぞれは、前記ステム部の軸方向に対して垂直な断面における前記側面の表面に対する凹み領域である溝断面の断面積が、前記ステム部の先端側から連結部側にかけて徐々に減少するように、形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項2】
請求項1に記載の人工関節用コンポーネントであって、
前記溝のそれぞれは、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、溝深さが徐々に浅くなるように形成されることで、前記溝断面の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工関節用コンポーネントであって、
前記溝のそれぞれは、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、溝幅が徐々に狭くなるように形成されることで、前記溝断面の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の人工関節用コンポーネントであって、
前記ステム部の軸方向に対して垂直な断面における前記溝の形状は、前記ステム部における先端側から連結部側にかけて、同一の曲率半径の円の円弧として形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の人工関節用コンポーネントであって、
前記ステム部は、円柱軸状の部分として形成されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の人工関節用コンポーネントであって、
人工股関節において用いられ、先端側が大腿骨の髄腔部に挿入されて骨セメントにより固定されるとともに、骨盤の寛骨臼側に配置されてボール状に形成された骨頭ボール部材として設けられた他のコンポーネントに前記連結部が連結する、人工股関節用大腿骨コンポーネントとして設けられ、
前記溝は、前記ステム部が大腿骨に埋植された状態における人体の前後方向及び内外側方向のうちの少なくともいずれかにおいて当該ステム部の軸中心を中心として点対称な位置に配置されていることを特徴とする、人工関節用コンポーネント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−72326(P2011−72326A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223697(P2009−223697)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
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