説明

人工骨材及びその製造方法

【課題】2CaO・Al・SiOで表されるゲーレナイトを主成分とした新規な組成を有する人工骨材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】人工骨材は、2CaO・Al・SiOで表されるゲーレナイトを含み、Alはアルミナ換算で10〜22質量%で、CaO/SiOが1.2以下である。さらに、NaO及び/又はMgOが含有されてもよく、NaOは8質量%以下、MgOは5質量%以下としてもよい。人工骨材には、Fe、P及びTiOから成る群より選ばれた少なくとも1種が、さらに含有されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工骨材及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、2CaO・A1・SiOからなるゲーレナイトを主成分とする人工骨材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活ごみ等の一般廃棄物の燃えがら、つまり焼却灰が人工骨材等の原料として使用されている。具体的には、一般廃棄物の焼却灰が再度溶融されて溶融液とされ、この溶融液が冷却されることで、溶融スラグが得られる。この溶融スラグが人工骨材として利用される。一般廃棄物の焼却灰を溶融スラグとすることによって、焼却灰に含まれる重金属類や還元可能な酸化物を溶融還元して除去すると共に、SiOやAl等の鉱物質を主成分とする溶融スラグが得られる。このような溶融スラグから天然岩石に極めて近い組成のコンクリート用人工骨材が製造されている(特許文献1参照)。人工骨材の原料となる焼却灰としては、上記した一般廃棄物に加えて、産業廃棄物や下水道で回収される汚泥等の焼却灰も使用されている。
【0003】
人工骨材の製造において、従来は、一般廃棄物由来の燃えがらを原料としていたので、原料の安定性は確保されていた。しかしながら、近年、原料となる一般廃棄物由来の焼却灰に対して添加される産業廃棄物由来の焼却灰の比率が増加している。このため、産業廃棄物由来の焼却灰に含まれるNaやMg等が混入するようになり、原料の組成変動が大きくなってきている。
【0004】
このため、人工骨材となる溶融スラグの原料として、一般廃棄物由来の焼却灰に産業廃棄物由来の焼却灰が混入された原料を使用した場合、処理後の融液を水冷あるいは空冷して得られる溶融スラグはガラス質となることが多かった。
【0005】
得られた溶融スラグを砂、砂利、平板等の建設資材として再利用する場合、溶融スラグがガラス質の溶融スラグでは強度が低い。このため、ガラス質の溶融スラグは結晶質の溶融スラグに比較して再利用の範囲が狭い。このように様々な組成を持つ廃棄物に対して、安定して高い強度を持つ、結晶性の高い溶融スラグを得ることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−194240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の一般廃棄物由来の原料を用いた人工骨材の製造方法では、製造管理の指標として原料となる焼却灰の組成分析を行い、CaO/SiOの重量比、所謂塩基度を基準として人工骨材の組成管理を行ってきた。しかしながら、NaやMgといった他の元素のバラツキも大きくなってきているため、結晶化されずにガラス質の人工石ができてしまう場合が増えているという課題がある。
【0008】
さらに、操業時の溶融液の粘性変動が大きいため、出滓の安定性が保てなくなってきているという課題がある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み、2CaO・Al・SiOで表されるゲーレナイトを主成分とした組成を有する人工骨材を提供することを第1の目的とし、人工骨材の製造方法を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的を達成するために、本発明の人工骨材は、2CaO・Al・SiOで表されるゲーレナイトを含み、Alはアルミナ換算で10〜22質量%を含有し、CaO/SiOを1.2以下で含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成において、NaO及び/又はMgOが含有され、NaOは8質量%以下で含有し、MgOは5質量%以下で含むようにしてもよい。
さらに、Fe、P及びTiOから成る群より選ばれた少なくとも1種が含有されていてもよい。
Feは、好ましくは10質量%以下含有されている。Pは、好ましくは3質量%以下含有されている。TiOは、好ましくは5質量%以下含有されている。
【0012】
上記第2の目的を達成するために、本発明の人工骨材骨材の製造方法は、上記の何れかに記載の人工骨材を製造するに当たり、人工骨材の原料及び還元剤を所定の溶融温度まで昇温して溶融液とする還元溶融工程と、溶融液を溶融温度で所定時間保持する工程と、所定時間保持した後溶融液を徐冷して溶融液を結晶化する工程と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
上記構成において、原料は、好ましくは、一般廃棄物の焼却灰、又は一般廃棄物及び産業廃棄物を混合した焼却灰からなる。還元剤は、好ましくはコークスである。原料にさらにCa化合物を添加してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゲーレナイトを主成分とし結晶性が高く、強度が高い人工骨材を提供することができる。
【0015】
本発明の人工骨材の製造方法によれば、溶融スラグの原料を一般廃棄物由来の焼却灰だけではなく、産業廃棄物由来の焼却灰等も使用して、強度が高い人工骨材を製造することができる。従来の溶融スラグでは、原料となる焼却灰のCaO/SiOの重量比、所謂塩基度を基準にして組成管理を行ってきた。本発明の人工骨材の製造方法によれば、Na、Mg、Fe、P、Ti等の結晶化に寄与する原料を考慮した組成管理を行うことで、結晶質の人工骨材を再現性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の人工骨材の基本組成を説明する2CaO・Al・SiOの3元系相図であり、(A)は全体図、(B)は部分拡大図である。
【図2】本発明の人工骨材を製造するための温度プログラムの一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の溶融スラグを作製する際の温度プログラムを示す図である。
【図4】実施例1の還元溶融した場合における溶融スラグのXRDの測定結果を示す図である。
【図5】比較例1の酸化溶融した場合における溶融スラグのXRDの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の人工骨材は、2CaO・Al・SiOで表されるゲーレナイトを含み、Alの質量%(wt%と表記する)がアルミナ換算で10〜25wt%で含有され、CaO/SiOが1.2以下で含有される。Alは、好ましくは、10〜22.5質量%、より好ましくは10〜20質量%、さらに好ましくは10〜15質量%で含有される。人工骨材には、上記の組成に、さらに、NaO、MgOのいずれか一方又は双方を、NaOを8質量%以下、MgOを5質量%以下の割合で含めることが好ましい。人工骨材には、上記ゲーレナイト又はゲーレナイトにNaO及び又はMgOに、さらに、Fe、P及びTiOからなる群より選ばれた少なくとも1種が含有されることが好ましい。本発明の人工骨材は、主成分がゲーレナイトであり、結晶性の溶融スラグからなる。以下、本発明では、質量%はwt%とも表記する。
なお、ゲーレナイトの組成は、CaAlSiOとも表記される。CaO/SiOは、塩基度とも呼ばれている。
【0018】
本発明の人工骨材において、NaOは、ゲーレナイトにさらに結晶化のために含有される原料である。NaOを8wt%以下とすれば、本発明の人工骨材の結晶化ができ、人工骨材の強度を増加することができる。NaOが8wt%より多い場合は、結晶化を阻害するため好ましくない。
【0019】
MgOは、人工骨材の結晶化のためにゲーレナイトに含有される原料である。MgOを5wt%以下とすれば、本発明の人工骨材の結晶化ができ、人工骨材の強度を増すことができる。MgOが5wt%より多い場合は、結晶化を阻害するため好ましくない。
なお、上記の人工骨材の組成においては、NaOとMgOの組成分析をしたとき、NaOとMgOの含有量が定量限界以下程度の値であるときにはNaOとMgOを共に0wt%とする。この場合、人工骨材の組成はゲーレナイトに近い組成となるが、結晶性であるので、人工骨材としての使用には支障がない。さらに、人工骨材の組成分析をしたときにNaO又はMgOが定量の限界以下程度の場合も、NaO又はMgOの含有量を0wt%とする。この場合の人工骨材の組成は、ゲーレナイトを主成分として、さらにNaO又はMgOが含有されている組成であり、本発明の人工骨材の組成に含まれる。
【0020】
上記人工骨材には、Fe、P及びTiOから成る群より選ばれた少なくとも1種が含有されてもよい。Feは、好ましくは10wt%以下であり、この範囲内であれば、本発明の人工骨材の結晶化ができ、人工骨材の強度を増すことができる。Feが10wt%より多い場合は、結晶化を阻害するため好ましくない。
【0021】
は、好ましくは3wt%以下であり、この範囲内であれば本発明の人工骨材のガラス化を効果的に防止することができる。Pが3wt%より多い場合は、結晶化を阻害するため好ましくない。
【0022】
TiOは、好ましくは5wt%以下であり、この範囲内であれば本発明の人工骨材のガラス化を効果的に防止することができる。TiOが5wt%より多い場合は、結晶化を阻害するため好ましくない。
【0023】
図1は、本発明の人工骨材の基本組成を説明する2CaO・Al・SiOの3元系相図であり、(A)が全体図、(B)は部分拡大図である。
図1(A)に示すように、略5角形の領域Aは、1400℃の液相範囲である。図1(B)の部分拡大した図中に示す上記領域A内の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)は、Al組成を10〜25wt%とした基本組成を示している。さらに、塩基度が0.7、0.8、0.9、1.0、1、2となる領域を点線で示している。
【0024】
本発明の人工骨材によれば、ゲーレナイトを主成分とするので強度が高い。この人工骨材は、建設資材等として利用することができる。
【0025】
次に、本発明の人工骨材の製造方法について説明する。
人工骨材は、人工骨材の原料及び還元剤を、所定の溶融温度まで昇温して溶融液とする還元溶融工程と、
溶融液を溶融温度で所定時間保持する工程と、
所定時間保持した後溶融液を徐冷して、溶融液を結晶化する工程と、
を順に行うことによって製造することができる。
【0026】
具体的には、人工骨材の原料と還元剤を調製し、この原料及び還元剤を溶融炉に投入した後昇温して溶融液とし、この溶融液を所定の溶融温度で所定時間溶融した後、金属製の型に流し入れ、冷却することで、結晶化した溶融スラグが得られる。この溶融スラグが本発明の人工骨材となる。必要に応じて、溶融スラグの粉砕処理を行うことによって所定の粒径をもった人工骨材としてもよい。原料としては、一般廃棄物や、一般廃棄物の焼却灰に産業廃棄物の焼却灰が一部混合された焼却灰を用いることができる。原料の組成は、人工骨材の上記組成、つまりゲーレナイトを主成分として、Alはアルミナ換算で10〜22wt%であり、CaO/SiOが1.2以下である。さらに、添加剤として、NaO、MgOのいずれか一方又は双方を、NaOを8質量%以下、MgOを5質量%以下となる組成が得られるように調製できる。原料には、上記したFe、P、TiOの何れかの含有物を添加剤として添加してもよい。さらに、原料には、CaO/SiOを調整するために調整剤としてCa又はCaを含む化合物を添加してもよい。調整剤として生石灰(CaO)等を用いることができる。
【0027】
原料の組成は、周知の元素分析装置によって測定することができる。このような元素分析装置としては、蛍光X線測定装置等を用いることができる。
【0028】
還元剤としてはコークスを用いることができる。還元剤の添加量としては、原材料1トン(t)に対して50kg以上とすればよい。還元剤の添加量が50kgよりも少ない場合には、還元が十分されないので好ましくない。
【0029】
溶融温度は原料が液相となる温度であり、1300〜1700℃の範囲とすることができる。溶融温度で保持する時間、つまり溶融時間は、30分〜180分の範囲とすることができる。
【0030】
図2は、本発明の人工骨材を製造するための温度プログラムの一例を示す図である。図2の横軸は時間(分)であり、縦軸は溶融炉の温度(℃)である。
図2に示すように、20℃から1600℃まで30分で昇温した。このときの昇温速度は約53℃/分である。次に、昇温開始30分から60分迄は1600℃で30分保持し、次に最初から90分経過後迄、つまり30分で1400℃まで徐冷した後、出滓した。出滓までの降温速度は−6.7℃/分である。出滓の後、270分経過後までに430℃まで徐冷した。型ばらしは、165分経過後の870℃で行った。
【0031】
本発明の人工骨材の製造方法によれば、一般廃棄物由来の焼却灰だけではなく、産業廃棄物由来の焼却灰等も原料の一部として使用することができる。従来の一般廃棄物由来の焼却灰だけを原料とした溶融スラグの製造方法では、CaO/SiOの重量比、つまり、塩基度だけで組成管理を行ってきた。本発明の人工骨材の製造方法によれば、さらにNa、Mg、Fe、P、Ti等の結晶化に寄与する原料を考慮した組成管理を行うことで、結晶質の溶融スラグからなる人工骨材を再現性良く製造することができる。
【実施例1】
【0032】
以下、本発明の実施例についてさらに詳細に説明する。
原料の基本組成比(wt%)を、SiO:Al:CaO=40:20:40とした。CaO/SiOの重量比である塩基度は1である。溶融スラグ中に含まれるSiOの原料として、試薬SiO(無水ケイ酸、Pr.Gグレード)を用いた。溶融スラグ中に含まれるAlの原料としては、試薬Al(酸化アルミニウム、特級)を用いた。溶融スラグ中に含まれるCaOの原料としては、試薬Ca(OH)(水酸化カルシウム、特級)を用いた。これらの試薬と後述する試薬は何れも和光純薬工業製である。還元溶融の還元剤となるコークスとしては、試薬活性炭素(活性炭素、粉末)を用いた。ここで、原料として試薬を用いたのは、溶融スラグが結晶性及びガラス質になる組成を正確に把握するためである。NaO及びMgOの含有量は、他の添加剤等の効果を確かめるため上記試薬に含有される程度とした。蛍光X線測定装置によって測定した実施例1の原料のNaO及びMgOの含有量は、定量限界の0.1wt%以下であった。
【0033】
上記の各試薬をmg単位まで測定し、合計で約20gとなるように秤量した。これらの原料をチャック付きビニール袋内に封入し、10秒×5回の条件で振とう攪拌して混合した。
【0034】
上記原料を、容積が20ml(cm)のアルミナ製の坩堝(アズワン製、純度
99%、ARC−20、φ38mm×44mm)に充填し、空気中で昇温した。
【0035】
アルミナ製の坩堝は、ガス流通なしで電気炉(光洋サーモシステム製、KBF314N1)で加熱し、所定の溶融温度で所定時間加熱した後で徐冷した。電気炉の炉内寸法は、125mm(W)×123mm(H)×155mm(D)であった。電気炉の熱電対位置は、背面から50mm、上面から15mmの位置とした。
【0036】
溶融固化して得た溶融固化物、つまり溶融スラグの結晶性は、下記のようにして評価した。
溶融スラグの結晶性を、粉末X線回折(XRD)を用いて評価した。X線回折装置(リガク製、MiniFlex)を使用し、X線ターゲットは銅(Cu)を用いた。X線管は、管電圧40kV、管電流40mAで測定した。スキャンスピードは2度/分であり、スキャン範囲は2θ=20〜80度とした。
【0037】
溶融スラグの組成は、波長分散型の蛍光X線測定装置(リガク製、Rigaku Supermini、Ezscanモード)で評価した。
【0038】
図3は、本発明の実施例1の溶融スラグを作製する際の温度プログラムを示す図である。図3に示すように、20℃から1600℃まで80分で昇温した。このときの昇温速度は、約20℃/分である。1600℃で40分保持した後、第1の降温として、1600℃から1400℃迄30分で降温した。このときの第1の降温速度は、−6.7℃/分である。さらに、第2の降温として1400℃から500℃まで300分で降温した。このときの第2の降温速度は、−3℃/分である。第2の降温は、冷却速度の影響を排し、原料の組成の影響を明らかにするため、徐冷速度を十分低く設定した。
【0039】
Fe、P、TiOの何れの添加剤も添加しない場合の溶融スラグは、ゲーレナイトが主成分であった。XRDの測定から、このゲーレナイトのX線のピーク強度は2463であった。蛍光X線測定装置によって測定した実施例1の溶融スラグにおけるNaO及びMgOの含有量は、定量限界の0.1wt%以下であった。
【0040】
図4は、実施例1の還元溶融した場合における溶融スラグのXRDの測定結果を示す図である。図4の横軸は、X線の回折角度θの2倍である2θ(°)であり、縦軸は回折X線強度(cps)である。図4において、2θ=31.5°のピークがゲーレナイトからのX線回折を示している。
【実施例2】
【0041】
実施例2の溶融スラグの原料には、Feを5wt%添加した。これ以外の条件は実施例1と同様にした。溶融スラグ中に含まれるFeの原料として、試薬Fe(酸化鉄(III)、1級)を用いた。XRDの測定から、Feを5wt%添加した場合、溶融スラグは結晶性を有しており、Feを5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2100であった。
【実施例3】
【0042】
実施例3の溶融スラグの原料には、Feを10wt%添加した。これ以外の条件は実施例1と同様にした。XRDの測定から、Feを10wt%添加した実施例3の溶融スラグは結晶性を有しており、Feを10wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は1271であった。
【実施例4】
【0043】
実施例4の溶融スラグの原料には、Tiを5wt%添加した。これ以外の条件は実施例1と同様にした。溶融スラグ中に含まれるTiの原料としては、試薬TiO(酸化チタン(IV)、アナターゼ型)を用いた。XRDの測定から、Tiを5wt%添加した実施例4の溶融スラグは結晶性を有しており、Tiを5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は1050であった。
【実施例5】
【0044】
実施例5の溶融スラグの原料には、MgOを5wt%添加した。これ以外の条件は実施例1と同様にした。溶融スラグ中に含まれるMgOの原料としては、試薬MgO(酸化マグネシウム(重質)、特級)を用いた。XRDの測定から、MgOを5wt%添加した実施例5の溶融スラグは結晶性を有しており、MgOを5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は1701であった。
【実施例6】
【0045】
実施例6の溶融スラグの原料には、NaOを3.5wt%添加した。これ以外の条件は実施例1と同様にした。溶融スラグ中に含まれるNaOの原料としては、試薬NaHCO(炭酸水素ナトリウム、特級)を用いた。XRDの測定から、NaOを3.5wt%添加した実施例6の溶融スラグは結晶性を有しており、NaOを3.5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2515であった。
【0046】
(比較例1)
比較例1の溶融スラグの溶融においては、実施例1の還元溶融ではなく、還元剤を添加せず酸化溶融を行った。XRDの測定から、比較例1の溶融スラグはガラスが主成分であり、比較例1のゲーレナイトのピーク強度は428であった。
図5は、比較例1の酸化溶融した場合における溶融スラグのXRDの測定結果を示すもので、図の横軸及び縦軸は、図4と同じである。図4に示した実施例1で還元溶融した溶融スラグのXRDの測定結果と比較すると、結晶化の度合いが著しく弱いことが分かる。
【0047】
(比較例2)
比較例2の溶融スラグの原料にはFeを5wt%添加した。これ以外の条件は比較例1と同様にした。XRDの測定から、比較例2の溶融スラグはガラス質であった。
【0048】
(参考例1)
参考例1の溶融スラグの原料には、Feを15wt%添加した。これ以外の条件は実施例1と同様にした。XRDの測定から、参考例1の溶融スラグはガラス質であった。
【0049】
(比較例3)
比較例3の溶融スラグの原料には、TiOを5wt%添加した。これ以外の条件は比較例1と同様にした。XRDの測定から、比較例3の溶融スラグはガラス質であった。
【0050】
(参考例2)
参考例2の溶融スラグの原料には、MgOを10wt%添加した。これ以外の条件は実施例1と同様にした。XRDの測定から、参考例2の溶融スラグはガラス質であった。
【0051】
表1に、実施例1〜6、比較例1〜3及び参考例1,2で得たゲーレナイトのピーク強度等の結果を纏めて示す。
【表1】

【実施例7】
【0052】
実施例7では、溶融スラグの原料の基本組成比(wt%)を、SiO:Al:CaO=42.5:15:42.5とした。CaO/SiOの重量比である塩基度は1である。XRD測定から、添加剤を添加しない場合の溶融スラグは結晶性を有しており、ゲーレナイトのピーク強度は2171であった。
【実施例8】
【0053】
実施例8の溶融スラグの原料には、Feを10wt%添加した。これ以外の条件は実施例7と同様にした。XRD測定から、Feを10wt%添加した実施例8の溶融スラグは結晶性を有しており、Feを10wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2142であった。
【実施例9】
【0054】
実施例9の溶融スラグの原料には、TiOを5wt%添加した。これ以外の条件は実施例7と同様にした。XRD測定から、TiOを5wt%添加した実施例9の溶融スラグは結晶性を有しており、TiOを5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は361であった。
【実施例10】
【0055】
実施例10の溶融スラグの原料には、Pを3wt%添加した。溶融スラグ中に含まれるPの原料としては、試薬P(酸化リン(V) 無水リン酸 1級)を用いた。これ以外の条件は実施例7と同様にした。XRD測定から、Pを3wt%添加した実施例10の溶融スラグは結晶性を有しており、Pを3wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2061であった。
【実施例11】
【0056】
実施例11の溶融スラグの原料には、NaOを3.5wt%添加した。これ以外の条件は実施例7と同様にした。XRD測定から、NaOを3.5wt%添加した実施例11の溶融スラグは結晶性を有しており、NaOを3.5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2653であった。
【0057】
(比較例4)
比較例4の溶融スラグの溶融においては、実施例7の還元溶融ではなく、還元剤を添加せず酸化溶融を行った。これ以外の条件は実施例7と同様にした。XRD測定から、比較例4の溶融スラグはガラス質であった。
【0058】
(参考例3)
参考例3の溶融スラグの原料には、Feを15wt%添加した。これ以外の条件は実施例7と同様にした。XRD測定から、参考例3の溶融スラグはガラス質であった。
【0059】
(参考例4)
参考例4の溶融スラグの原料には、Pを5wt%添加した。これ以外の条件は実施例7と同様にした。XRD測定から、参考例4の溶融スラグはガラス質であった。
【0060】
表2に、実施例7〜11、比較例4及び参考例3,4で得たゲーレナイトのピーク強度等の結果を纏めて示す。
【表2】

【実施例12】
【0061】
実施例12では、溶融スラグの原料の基本組成比(wt%)を、SiO:Al:CaO=44.3:20:35.7とした。CaO/SiOの重量比である塩基度は0.8である。さらに溶融スラグの原料には、NaOを8wt%添加した。XRD測定から、実施例12の溶融スラグは結晶性を有しており、NaOを8wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2491であった。
【0062】
表3に、実施例12のゲーレナイトで得たピーク強度等の結果を纏めて示す。
【表3】

【実施例13】
【0063】
実施例13では、溶融スラグの原料の基本組成比(wt%)を、SiO:Al:CaO=41.9:20:38.1とした。CaO/SiOの重量比である塩基度は0.9である。さらに溶融スラグの原料にはTiOを5wt%添加した。XRD測定から、実施例13の溶融スラグは結晶性を有しており、TiOを5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は776であった。
【実施例14】
【0064】
実施例14の溶融スラグの原料には実施例13のTiOではなく、NaOを8wt%添加した。これ以外の条件は実施例13と同様にした。XRD測定から、NaOを8wt%添加した実施例14の溶融スラグは結晶性を有しており、NaOを8wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は1611であった。
【0065】
表4に、実施例13及び14で得たゲーレナイトのピーク強度等の結果を纏めて示す。
【表4】

【実施例15】
【0066】
実施例15では、溶融スラグの原料の基本組成比(wt%)を、SiO:Al:CaO=50:15:35とした。CaO/SiOの重量比である塩基度は0.7である。XRD測定から、添加剤を添加しない場合の溶融スラグは結晶性を有しており、ゲーレナイトのピーク強度は2480であった。
【実施例16】
【0067】
実施例16の溶融スラグの原料には、Feを10wt%添加した。これ以外の条件は実施例15と同様にした。XRD測定から、Feを10wt%添加した実施例16の溶融スラグは結晶性を有しており、Feを10wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は3112であった。
【0068】
(参考例5)
参考例5の溶融スラグの原料には、Feを15wt%添加した。これ以外の条件は実施例15と同様にした。XRD測定から、参考例5の溶融スラグはガラス質であった。
【0069】
表5に、実施例15,16及び参考例5で得たゲーレナイトのピーク強度等の結果を纏めて示す。
【表5】

【実施例17】
【0070】
実施例17では、溶融スラグの原料の基本組成比(wt%)を、SiO:Al:CaO=45.6:22.5:31.9とした。CaO/SiOの重量比である塩基度は0.7である。原料には、Feを10wt%添加した。XRD測定から、Feを10wt%添加した実施例17の溶融スラグは結晶性を有しており、Feを10wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は3202であった。
【0071】
(参考例6)
参考例6の溶融スラグの原料には、Feを15wt%添加した。これ以外の条件は実施例17と同様にした。XRD測定から、参考例6の溶融スラグはガラス質であった。
【0072】
表6に、実施例17及び参考例6で得たゲーレナイトのピーク強度等の結果を纏めて示す。
【表6】

【実施例18】
【0073】
実施例18では、溶融スラグの原料の基本組成比(wt%)を、SiO:Al:CaO=38.5:15:46.5とした。CaO/SiOの重量比である塩基度は1.2である。XRD測定から、添加剤を添加しない場合の溶融スラグは結晶性を有しており、ゲーレナイトのピーク強度は1640であった。
【実施例19】
【0074】
実施例19の溶融スラグの原料には、Feを10wt%添加した。これ以外の条件は実施例18と同様にした。XRDの測定から、Feを10wt%添加した実施例19の溶融スラグは結晶性を有しており、Feを10wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2403であった。
【実施例20】
【0075】
実施例20の溶融スラグの原料には、TiOを5wt%添加した。これ以外の条件は実施例18と同様にした。XRDの測定から、TiOを5wt%添加した実施例20の溶融スラグは結晶性を有しており、TiOを5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2578であった。
【実施例21】
【0076】
実施例21の溶融スラグの原料には、MgOを5wt%添加した。これ以外の条件は実施例18と同様にした。XRDの測定から、MgOを5wt%添加した実施例21の溶融スラグは結晶性を有しており、MgOを5wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は3353であった。
【実施例22】
【0077】
実施例22の溶融スラグの原料には、Pを3wt%添加した。これ以外の条件は実施例18と同様にした。XRDの測定から、Pを3wt%添加した実施例22の溶融スラグは結晶性を有しており、Pを3wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2438であった。
【実施例23】
【0078】
実施例23の溶融スラグの原料には、NaOを8wt%添加した。これ以外の条件は実施例18と同様にした。XRDの測定から、NaOを8wt%添加した実施例23の溶融スラグは結晶性を有しており、NaOを8wt%添加したゲーレナイトのピーク強度は2473であった。
【0079】
表7に、実施例18〜23で得たゲーレナイトのピーク強度等の結果を纏めて示す。
【表7】

【0080】
以上説明した実施例、比較例及び参考例では、人工骨材が結晶性の溶融スラグとなる条件を正確に求めるためにゲーレナイトを主成分とする人工骨材の原料としてはSiO、Ca(OH)、Al、NaO、MgO等の試薬を使用した。実際に溶融スラグを製造する場合には上述したように、原料となる焼却灰の組成は、本発明の人工骨材の組成が得られるように調製すればよい。原料の組成は蛍光X線分析装置によって測定することができる。このように調製した原料を、図2で説明した温度プログラムで還元溶融を行い、所定時間保持した後で冷却することによって本発明の人工骨材となる溶融スラグを製造できる。
【0081】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、人工骨材に含有されるFe、P、TiOの何れかの割合は上記範囲で得られる人工骨材の強度等を考慮して適宜に調整できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2CaO・Al・SiOで表されるゲーレナイトを含み、Alはアルミナ換算で10〜22質量%であり、CaO/SiOが1.2以下であることを特徴とする、人工骨材。
【請求項2】
NaO及び/又はMgOが含有され、NaOは8質量%以下であり、MgOは5質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の人工骨材。
【請求項3】
さらに、Fe、P及びTiOから成る群より選ばれた少なくとも1種が含有されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の人工骨材。
【請求項4】
前記Feが、10質量%以下含有されていることを特徴とする、請求項3に記載の人工骨材。
【請求項5】
前記Pが、3質量%以下含有されていることを特徴とする、請求項3に記載の人工骨材。
【請求項6】
前記TiOが、5質量%以下含有されていることを特徴とする、請求項3に記載の人工骨材。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れかに記載の人工骨材の製造方法であって、
人工骨材の原料及び還元剤を、所定の溶融温度まで昇温して溶融液とする還元溶融工程と、
該溶融液を溶融温度で所定時間保持する工程と、
所定時間保持した後上記溶融液を徐冷して、溶融液を結晶化する工程と、
を備えていることを特徴とする、人工骨材の製造方法。
【請求項8】
前記原料は、一般廃棄物の焼却灰、又は一般廃棄物及び産業廃棄物の焼却灰からなることを特徴とする、請求項7に記載の人工骨材の製造方法。
【請求項9】
前記還元剤は、コークスであることを特徴とする、請求項7に記載の人工骨材の製造方法。
【請求項10】
前記原料にさらにCa化合物を添加することを特徴とする、請求項7ないし9の何れかに記載の人工骨材の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−153557(P2012−153557A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13506(P2011−13506)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【Fターム(参考)】