説明

人工鼻およびその製造方法

【課題】比較的単純な構造を用いて圧力損失の低減および湿分放出機能の向上を実現することにより、患者の負担が少なく、生産性に優れ、低コストで製造可能な人工鼻およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】呼気に含まれる湿分を捕捉し吸気を加湿する多孔質フィルターと、多孔質フィルターを収容するハウジングからなり、多孔質フィルターの内部に、患者側流路と人工呼吸器側流路とを直行的に連通する直行連通孔が設けられていることを特徴とする人工鼻。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工鼻およびその製造方法に関し、より詳しくは、圧力損失の低減および湿分放出機能の向上が実現され生産性に優れた人工鼻およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の吸気の温度および湿度を好適な状態に保つ人工鼻の構造として、患者の呼気に含まれる湿気および熱を捕捉し、この捕捉された湿気および熱によって吸気の加湿および加熱を行う構造が知られている。このような人工鼻においては、一般に、多孔質体や紙を用いて呼気の湿分を捕捉する。例えば、特許文献1には、円柱形状のセルローススポンジからなる湿分交換体層を設けた呼吸用湿熱交換器が開示されている。また、特許文献2には、湿熱交換ユニットとして円筒形にらせん巻きされた紙の層を設けた湿熱交換器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−49776号公報
【特許文献2】特許第3707791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セルローススポンジからなる湿分交換体層が円柱形状である場合、乾燥時には湿分交換体層の周囲とハウジングとの隙間によって低い圧力損失を実現するが、加湿で膨張するにつれて隙間が失われ、圧力損失が高くなってしまうという問題が生じる。また、吸湿によって加湿空気がハウジング内に滞留し、質量が増加するという問題もある。これらの圧力損失および質量増加はいずれも患者の負担増大につながる。一方、乾燥した状態では、収縮した湿分交換体層がハウジング内で動いてしまい、性能が不安定になる。
【0005】
さらに、セルローススポンジからなる湿分交換体層を打ち抜き工程によって製造する場合、円柱形状は廃棄部分が大きく収率が低いため、製造コストが上昇してしまうという懸念がある。
【0006】
また、紙はセルローススポンジと比較して吸水性が低いため、十分な湿分保持性能を実現するためには湿熱交換ユニットの体積を大きくする必要があり、装置が大型化してしまう問題がある。
【0007】
そこで本発明の課題は、比較的単純な構造を用いて圧力損失の低減および湿分放出機能の向上を実現することにより、患者の負担が少なく、生産性に優れ、低コストで製造可能な人工鼻およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明に係る人工鼻は、呼気に含まれる湿分を捕捉し吸気を加湿する多孔質フィルターと、該多孔質フィルターを収容するハウジングからなり、前記多孔質フィルターの内部に、患者側流路と人工呼吸器側流路とを直行的に連通する直行連通孔が設けられていることを特徴とするものからなる。
【0009】
このような本願発明に係る人工鼻によれば、患者側流路と人工呼吸器側流路とを直行的に連通する直行連通孔が設けられているので、呼気および吸気がスムーズに流通でき、圧力損失が低減される。また、その直行連通孔の通気性によって多孔質フィルターからの湿分放出が促進されるため、吸気が適切に加湿されるとともに、水分滞留による人工鼻の重量増加が抑制される。その結果、従来のものと比較してより自然呼吸に近い状態を実現することができ、患者への負担が最小限に抑えられる。
【0010】
このような直行連通孔の数は、特に限定されるものではないが、10個から1000個の範囲内であることが好ましく、100個から500個の範囲内であることがさらに好ましい。直行連通孔の数を1000個以下に抑えて各直行連通孔の開口部面積を確保することにより、多孔質フィルターの通気性が維持され、圧力損失の増加が防止される。また、10個以上の直行連通孔を設けることにより多孔質フィルターの表面積が増大し、優れた湿分捕捉機能および吸気加湿機能を有する人工鼻を実現することができる。なお、多孔質フィルターが呼気内の湿分を吸収して膨潤する材質からなる場合、直行連通孔の一部が膨潤によって閉塞されてもよい。
【0011】
本願発明における多孔質フィルターは、帯状の多孔質体を巻回した略円筒形状に形成されていることが好ましい。帯状形状は打ち抜きやせん断による製造が容易であり加工ロスが少ないため、このような多孔質フィルターは低コストで容易に生産可能であり、生産性の向上およびコスト削減が実現される。また、帯状の多孔質体を巻回して略円筒形状に形成された多孔質フィルターは、同一体積を有する円柱形状のフィルターと比較してフィルターの表面積が大きく、高い吸湿性能および加湿性能を発揮することができる。なお、略円筒形状の多孔質フィルターは、単一の帯状の多孔質体が巻回されることによって形成されてもよく、複数の帯状の多孔質体が巻回されることによって形成されてもよい。また、ハウジング内に収容される多孔質フィルターの数は一つであってもよいし、複数の多孔質フィルターが呼気流通方向に直列に積層されていてもよい。
【0012】
さらに、多孔質体が弾性を有している場合、巻回された帯状の多孔質体である多孔質フィルターには、径方向外側に弾性復元力が作用する。その結果、ハウジング内に収容された多孔質フィルターは弾性力により径方向外側に伸長されてハウジング内に充填されるので、多孔質フィルターの大きさおよび形状はハウジングに合わせて自動的に調整される。また、多孔質フィルターの外周部がハウジング内周壁に押しつけられて密着するため、多孔質フィルターの位置ずれが防止される。
【0013】
このような帯状の多孔質体の表面には、多孔質体を巻回することにより直行連通孔を形成可能な波形構造が形成されていることが好ましい。波形構造が表面に形成された帯状の多孔質体が巻回されると、波形構造の凸部は多孔質体自身と当接し、波形構造の凹部の位置には隙間(孔)が形成される。したがって、この隙間が患者側流路と人工呼吸器側流路とを直行的に連通する連通路となるように波形構造をあらかじめ加工形成しておくことにより、単に多孔質体を巻回するだけで連通孔を形成することが可能となり、製造工程の複雑化および製造コストの上昇が最小限に抑えられる。このような波形構造は多孔質体の一つの面にのみ形成されていてもよいし、複数の面に形成されていてもよい。
【0014】
上記波形構造の断面は、略鋸歯形状をなしていることが好ましい。一般に、波形構造は凸部と凹部とが交互に配置された構造であり、凸部が変形する程度の強い力が凸部に対して波形方向に加えられた場合、凸部に隣接する凹部が変形した凸部によって埋塞されてしまう可能性がある。これに対し、断面が略鋸歯形状をなしている波形構造は波形方向に作用する力に対する耐性が高く、比較的強い力が加えられた場合においても凹部の形状が維持される。したがって、このような断面が略鋸歯形状をなす波形構造を帯状の多孔質体の表面に設け、この波形構造の凹部からなる直行連通孔を多孔質フィルター内に形成することにより、加湿膨張時においても直行連通孔の閉塞が防止され、優れた通気性が維持される。
【0015】
前記多孔質フィルターは、湿潤状態において膨潤して前記ハウジングとの隙間を密封可能に形成されていることが好ましい。このような構造によれば、呼気および吸気が多孔質フィルター内に設けられた直行連通孔を確実に通過するため、呼気の湿分が多孔質フィルターに十分に捕捉されるとともに、捕捉された湿分が吸気中に放出されて吸気への適切な加湿が実現される。
【0016】
前記多孔質フィルターの材質は、とくに限定されないが、セルローススポンジからなることが好ましい。セルローススポンジは吸水率が高いため、小型でも十分な吸湿性能を発揮することができ、多孔質フィルターの体積を大幅にコンパクト化することが可能である。その結果、小型軽量の人工鼻を提供することができ、患者の負担がさらに軽減される。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本願発明に係る人工鼻の製造方法は、湿分を捕捉可能な多孔質材料からなるシートをシート面と垂直な方向に打ち抜くことにより、長辺の少なくとも一方が波形構造を有する帯状の多孔質体を形成し、該多孔質体を巻回した状態にて筒状のハウジング内に挿入することを特徴とする方法からなる。
【0018】
このような人工鼻の製造方法によれば、多孔質材料からなるシートを打ち抜いて帯状の多孔質体を形成する打ち抜き工程、帯状の多孔質体を巻回する巻回工程、および巻回された帯状の多孔質体を筒状のハウジング内に挿入する充填工程という単純な工程の組合せによって人工鼻が製造されるので、低コストで効率よく人工鼻を量産することができる。また、長辺の少なくとも一方が波形構造を有する帯状の多孔質体を巻回することにより、波形構造の凹部に隙間(孔)が形成されて通気性が確保されるので、圧力損失が少ない人工鼻を提供することができ、患者への負担が軽減される。
【0019】
上記人工鼻の製造方法において、波形構造の断面は略鋸歯形状をなすことが好ましい。上述のとおり、断面が略鋸歯形状をなしている波形構造は波形方向に作用する力に対する耐性が高いため、多孔質体が吸湿により膨潤した場合においても直行連通孔の閉塞が防止され、優れた通気性が維持される。
【0020】
上記人工鼻の製造方法において、波形構造は、ハウジング内において患者側流路と人工呼吸器側流路とを直行的に連通する直行連通孔の一部を形成することが好ましい。このような構造によれば、直行連通孔を形成するために多孔質体を穿孔する必要がないため、製造工程の複雑化や加工ロスの増加を避けることができ、直行連通孔の形成による生産コストの上昇が最小限に抑えられる。また、直行連通孔により優れた通気性が確保されるので、水分滞留による重量増加を防止しつつ、圧力損失の低減および吸気への適切な加湿が実現され、患者への負担がさらに軽減される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る人工鼻によれば、圧力損失が少なく重量変化の小さい人工鼻によって、従来のものと比較してより自然呼吸に近い状態を実現することができ、患者への負担が最小限に抑えられる。
【0022】
また、本発明に係る人工鼻の製造方法によれば、圧力損失が少ない人工鼻を低コストで量産できるため、患者への負担が少ない人工鼻を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施態様に係る人工鼻の製造方法を示す概略工程図である。
【図2】図1に示した人工鼻の製造方法において、多孔質材料からなるシートの打ち抜き方法の一例を示す概略平面図である。
【図3】図2に示した打ち抜き方法によって形成された帯状の多孔質体を、筒状のハウジング内に挿入する方法の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1〜3は、本発明の一実施態様に係る人工鼻の製造方法を示しており、とくに、多孔質材料としてセルローススポンジを使用した場合の製造方法を示している。図1は、セルローススポンジからなる多孔質フィルターの製造工程を示す概略工程図である。図1において、(A)は多孔質フィルター1の原材料となるセルローススポンジの原反1aを示しており、セルローススポンジの原反1aをスライスすることにより、(B)に示すシート状のセルローススポンジ1bが製造される。(C)は打ち抜き工程を示しており、シート状のセルローススポンジ1bをシート面と垂直な方向に打ち抜くことにより、一方の長辺に波形構造を有する帯状のセルローススポンジ1cが形成される。(D)に示す帯状のセルローススポンジ1cが、乾燥後、巻回された状態にて筒状のハウジング2内に挿入されることにより、(E)に示す人工鼻3が製造される。
【0025】
図2は、図1の(C)に示した打ち抜き工程において、シート状のセルローススポンジ1bから帯状のセルローススポンジ1cが打ち抜かれた状態をシート打ち抜き方向から見た概略平面図であり、帯状のセルローススポンジ1cの形状の一例を示している。図2において、各帯状のセルローススポンジ1cの一方の長辺には波形構造4が形成されており、波形構造4の断面は略鋸歯状をなしている。また、図2に示した打ち抜き方法は、隣接する帯状のセルローススポンジ1c同士の波形構造4がかみ合わされた状態にて複数の帯状のセルローススポンジ1cが同時に形成されるようになっており、加工ロスが十分に低減されている。
【0026】
図3は、図1に示した多孔質フィルターの製造工程によって製造された多孔質フィルター1がハウジング内に充填された状態を示す概略平面図である。図3において、巻回された帯状のセルローススポンジ1cからなる多孔質フィルター1が筒状のハウジング2内に挿入されることにより、人工鼻3が形成されている。図3に示すように、多孔質フィルター1においては、一方の長辺に形成された波形構造4が他方の長辺に当接することによって、波形構造4の凹部からなる直行連通孔5が形成され、患者側流路と人工呼吸器側流路との間の通気性が確保されている。
【0027】
セルローススポンジは弾性を有しているので、巻回された帯状のセルローススポンジ1cからなる多孔質フィルター1には、径方向外側に弾性回復力が作用する。その結果、多孔質フィルター1の外周部はハウジング内周壁に押しつけられて密着し、多孔質フィルター1の位置ずれが防止される。また、多孔質フィルター1は弾性力により変形して筒状のハウジング2内にほぼ均一に充填されるので、波形構造4の凹部からなる直行連通孔5もまたハウジング内にほぼ均一に配置され、良好な通気性が確保される。
【0028】
なお、本実施態様においては、波形構造4が径方向外側に配置されるように帯状のセルローススポンジ1cが略円筒形状に巻回されているが、本発明はこの実施態様に限定されるものではなく、例えば、波形構造が径方向内側に配置されるように帯状のセルローススポンジが巻回されていてもよい。また、両方の長辺に波形構造が形成された帯状のセルローススポンジを使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る人工鼻およびその製造方法は、あらゆる用途の人工鼻に適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 多孔質フィルター
1a、1b、1c セルローススポンジ
2 ハウジング
3 人工鼻
4 波形構造
5 直行連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気に含まれる湿分を捕捉し吸気を加湿する多孔質フィルターと、該多孔質フィルターを収容するハウジングからなり、前記多孔質フィルターの内部に、患者側流路と人工呼吸器側流路とを直行的に連通する直行連通孔が設けられていることを特徴とする人工鼻。
【請求項2】
前記多孔質フィルターが、帯状の多孔質体を巻回した略円筒形状に形成されている、請求項1に記載の人工鼻。
【請求項3】
前記多孔質体の表面に、前記多孔質体を巻回することにより前記直行連通孔を形成可能な波形構造が形成されている、請求項2に記載の人工鼻。
【請求項4】
前記波形構造の断面が略鋸歯形状をなす、請求項3に記載の人工鼻。
【請求項5】
前記多孔質フィルターが、湿潤状態において膨潤して前記ハウジングとの隙間を密封可能に形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の人工鼻。
【請求項6】
前記多孔質フィルターがセルローススポンジからなる、請求項1〜5のいずれかに記載の人工鼻。
【請求項7】
湿分を捕捉可能な多孔質材料からなるシートをシート面と垂直な方向に打ち抜くことにより、長辺の少なくとも一方が波形構造を有する帯状の多孔質体を形成し、該多孔質体を巻回した状態にて筒状のハウジング内に挿入することを特徴とする人工鼻の製造方法。
【請求項8】
前記波形構造の断面が略鋸歯形状をなす、請求項7に記載の人工鼻の製造方法。
【請求項9】
前記波形構造が、前記ハウジング内において患者側流路と人工呼吸器側流路とを直行的に連通する直行連通孔の一部を形成する、請求項7または8に記載の人工鼻の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−135481(P2012−135481A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290611(P2010−290611)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(591083299)東レ・メディカル株式会社 (28)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】