説明

人形毛髪用合成繊維

【課題】 良好な櫛通り性を有してフライアウェイなどが発生しにくく、かつ表面のべとつきが発生しにくくて良好な手触り感が得られる塩化ビニリデン系の人形毛髪用合成繊維を提供する。
【解決手段】 塩化ビニリデン系樹脂と、グリセリン脂肪酸エステルを0.01〜0.3重量%と、脂肪酸アミドを0.01〜0.3重量%とを含有する人形毛髪用合成繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人形の頭部に植えて毛髪とした場合に帯電性が低くて櫛通り性がよく、しかも手触り感にも優れた塩化ビニリデン系の人形毛髪用合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
人形の頭部等に植えられる人形毛髪は、人間の毛髪に近い外観や手触り感さらには風合い等を有することが求められる。このような人形毛髪用繊維としては、材料に合成線状ポリアミドやアクリル樹脂等を用いたものも知られているが、特に毛髪の外観、風合い、耐水性、難燃性等に優れることから、塩化ビニリデン系樹脂製の人形毛髪(例えば、特許文献1参照)が主流となっている。
【0003】
しかし、塩化ビニリデン系繊維は、樹脂自体の密着性が強くてブラッシングの際の櫛通り性が低いうえに、帯電性も強いため静電気の発生により繊維の絡まりが生じやすく、櫛通り性がさらに低下する。そのためヘアセット性が問題とされる。特に、塩化ビニリデン系繊維を中空繊維にすることで軽量化して、人形毛髪としてのボリューム感を得られやすくした場合に、静電気により毛髪が容易に逆立って絡まる現象(以下、フライアウェイと称することがある。)が生じやすくなり、へアセット性が問題となる。特に乾燥した気候条件の下では、しばしばフライアウェイを生じる問題点が指摘されている。
【0004】
そこで、静電気の発生を防止するために、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホネート、第4級アンモニウム塩のごとき、従来から塩化ビニリデン系繊維に適した帯電防止剤として知られているものを用い、また、モンタン酸エステルワックス、ステアリン酸、流動パラフィンのごとき、従来から塩化ビニリデン系繊維に適した滑剤として知られているものを用い、これらを適宜組み合わせて塩化ビニリデン系繊維の帯電性と櫛通り性とを改善しようと試みたところ、理由は不明であるが、櫛通り性改善に必要な量の滑剤を用いると帯電防止剤の機能が妨害されてしまう現象が生じた。そのため、帯電防止剤量を増加したところ、今度は時間の経過と共に帯電防止剤が繊維表面に急激に析出し、表面のべとつきが発生して繊維の手触り感が悪化してしまう問題点が顕在化した。
【特許文献1】特開昭61−113814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、良好な櫛通り性を有してフライアウェイなどが発生しにくく、かつ表面のべとつきが発生しにくくて良好な手触り感が得られる塩化ビニリデン系の人形毛髪用合成繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塩化ビニリデン系樹脂と、グリセリン脂肪酸エステルを0.01〜0.3重量%と、脂肪酸アミドを0.01〜0.3重量%とを含有する人形毛髪用合成繊維である。ここで、前記塩化ビニリデン系樹脂が90〜99.98重量%であることは好ましい。また、上記の繊維が、中空率が3〜30%の中空糸であり、かつ、平均外径が0.01〜0.2mmであることは好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の人形毛髪用合成繊維は、繊維表面のべとつきが生じにくく、櫛通り性がよくて良好な手触り感が得られ、同時に静電気の発生が少なくてフライアウェイなどが生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、特にその好ましい形態を中心に、以下具体的に説明する。本発明の人形毛髪用合成繊維は、塩化ビニリデン系樹脂を含む特定の組成物を紡糸することで得られる。この組成物は、塩化ビニリデン系樹脂に、グリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸アミドとをそれぞれ特定量混合して得られる。
【0009】
塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデンモノマー単独を重合することで得ても良いが、繊維の物性をより改善するために、塩化ビニリデンモノマーを主体とし、塩化ビニリデンモノマーと共重合可能な少なくとも1種類のエチレン誘導体モノマーを含めたモノマー混合物を重合して得るのが好ましい。ここで主体とするとは、塩化ビニリデンモノマーがモノマー混合物全体の50重量%以上を占めることを言う。
【0010】
モノマー混合物に含めても良いエチレン誘導体モノマーとしては、アクリルニトリルやメタクリロニトリルのごときエチレン性不飽和カルボン酸のニトリル、メチルアクリレートやメチルメタクリレートのごときアクリル酸やメタクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシプロピルアクリレートやヒドロキシエチルアクリレートやヒドロキシブチルアクリレートのごときヒドロキシアルキルエステル、酢酸ビニルのごとき飽和カルボン酸のビニルエステル、アクリルアミドのごときエチレン性不飽和カルボン酸のアミド、アクリル酸のごときエチレン性不飽和カルボン酸、アリルアルコールのごときエチレン性不飽和アルコール、塩化ビニルのごときハロゲン化ビニルなどが例示される。これらの中で熱安定性が良い点でメチルアクリレートまたは塩化ビニルが好ましく、より好ましくは塩化ビニルである。
【0011】
モノマー組成物における塩化ビニリデンモノマーとエチレン誘導体モノマーの好ましい重量比は、使用されるエチレン誘導体モノマーによって異なるものの、例えば、エチレン誘導体モノマーが塩化ビニルの場合には、塩化ビニリデンモノマー/塩化ビニルモノマーの好ましい重量比は65/35以上98/2以下である。塩化ビニルモノマーを35重量%以下とすることで得られる塩化ビニリデン系樹脂の透明度が維持され、塩化ビニルモノマーを2重量%以下とすることで塩化ビニリデン系樹脂の溶融粘度が低く維持されて、溶融押出がより容易になる。より好ましくは、塩化ビニリデンモノマー/塩化ビニルモノマーの重量比が80/20以上95/5以下である。また、例えば、エチレン誘導体モノマーがメチルアクリレートの場合には、塩化ビニリデンモノマー/メチルアクリレートモノマーの重量比は、80/20〜99/1の範囲とするのが好ましい。
【0012】
塩化ビニリデン系樹脂を得るには、まず、上記のモノマー類を、攪拌翼を備えた反応槽に投入して、これを一定の重合条件下、攪拌しながら重合する。重合は、上記の条件を満たすようにし、その他は常法に従って行えばよい。これにより、5万〜8万の重量平均分子量を有し、かつ一定量の低分子量成分を含有する塩化ビニリデン系樹脂が得られる。
【0013】
塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、5万〜8万と小さくするのが好ましい。重量平均分子量を小さくすることで、得られる繊維の強度が従来より低下するものの人形毛髪として必要な強度は維持しつつ、生産性を向上することが可能になる。重量平均分子量を5万以上とすることで、人形毛髪に必要な強度が確保され、人形頭部への植毛時における植毛加工性やブラッシング時の非脱毛性が良好となる。また、重量平均分子量を8万以下とすることで、紡糸時における押出機内部における熱分解や紡口の詰まりが生じにくく重量平均分子量は、5万5千以上7万5千以下であることが好ましく、6万以上7万以下であることがより好ましい。
【0014】
次に、塩化ビニリデン系樹脂は、分子量が1万以下の低分子量成分を、塩化ビニリデン系樹脂の全量のうちの3%以上10%以下の範囲内で含有することが好ましい。ここで、分子量が1万以下の低分子量成分の割合は、標準的条件で行われるゲルパーミエイションクロマトグラフィ法により得られたGPCチャートにおいて、ピークの全面積に対する分子量が1万以下の低分子量成分が占める面積の比率を求めるにより測定することができる。
【0015】
塩化ビニリデン系の分子量が1万以下の低分子量成分を3%以上含有することにより、紡糸時における気泡(塩酸ガス)の発生や紡口の詰まりが生じにくくなり、紡口を交換せずに連続的に紡糸できる時間が長くなる。また、分子量が1万以下の低分子量成分を10%以下とすることで、人形毛髪に必要な強度は確保され、人形頭部への植毛時における植毛加工性やブラッシング時の非脱毛性が良好となる。分子量が1万以下の低分子量成分は、3%以上9%以下であることが好ましく、4%以上8%以下であることがより好ましく、5%以上7%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
塩化ビニリデン系樹脂における分子量が1万以下の低分子量成分の含有量を上記の範囲に調整するには、重合率を高く設定すればよいし、また、重合開始剤の量を多くしてもよいし、また、重合開始剤の種類を変更してもよい。さらにはこれらを併用してもよい。ここで、重合率とは、重合に用いた全モノマーに対して重合反応により生成したポリマーの重量比率を言う。重合率を高く設定すると低分子量成分の量が増加するのは、重合前段から中段における重合率が比較的低い範囲では比較的高分子量のポリマーが多く生成し、重合終段で重合率が高くなると比較的低分子量のポリマーが多く生成する特性があることによる。また、重合開始剤の種類を変更する方法による場合は、従来比較的多く使用されているジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジラウロイルパーオキサイド等ではなく、ターシャリブチルパーオキシピパレイドのような比較的特殊な重合開始剤を用いればよい。
【0017】
塩化ビニリデン系樹脂の分子量分布は、上記の条件を満たしていれば、一山の分布でも良いし、比較的低分子量の成分と比較的高分子量の成分との二山の分布でも良いし、さらに多くの山の集合でも良いが、製造の容易さの観点からは一山とするのが好ましい。塩化ビニリデン系樹脂における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比である分散度(Mw/Mn)は、2.0〜5.0の範囲であることが好ましく、2.1〜4.0の範囲であることがより好ましく、2.2〜3.0の範囲がさらに好ましい。
【0018】
塩化ビニリデン系繊維は、上記の塩化ビニリデン系樹脂とグリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸アミドとを、それぞれ特定量混合した樹脂組成物を用いて紡糸することで得られる。この樹脂組成物における塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、90重量%以上99.98重量%以下である。塩化ビニリデン系樹脂を90重量%以上とすることで、人形毛髪に必要な強度と外観とが得られると共に、表面のベタツキが生じにくく手触りの良い人形毛髪が得られやすくなる。また、99.98重量%以下とすることで、静電気が発生しにくくフライアウェイが発生しにくくて櫛通りの良い人形毛髪が得られやすくなる。樹脂組成物における塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、91重量%以上97重量%以下であることがより好ましく、92重量%以上95重量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
次に、グリセリン脂肪酸エステルは、主として帯電防止剤として機能すると考えられ、樹脂組成物において0.01〜0.3重量%となるように添加する。0.01重量%以上添加することにより、帯電防止の効果が得られやすくなる。また、0.3重量%以下とすることで、グリセリン脂肪酸エステルの繊維表面への析出が少なくて透明性が高く、繊維表面のベタツキが生じにくくて手触りの良い人形毛髪が得られやすくなる。好ましくは0.03重量%以上0.20重量%以下であり、さらに好ましくは0.05重量%以上0.1重量%以下である。
【0020】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド、脂肪酸トリグリセライドのいずれでも良く、例えば、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、酢酸グリセライド、ステアリン酸グリセライド、オレイン酸グリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシルイン酸エステル等が挙げられる。中でも脂肪酸モノグリセライドが好ましく、さらには、ステアリン酸グリセライド、オレイン酸グリセライドがより好ましい。
【0021】
次に、脂肪酸アミドは、主として滑剤として機能すると考えられ、組成物において0.01〜0.3重量%となるように添加する。0.01重量%以上添加することにより、繊維表面の滑り性が高くなってサラサラとした手触り感が得られやすくなる。また、0.3重量%以下とすることで、脂肪酸アミドの繊維表面への析出が少なく透明性が高い繊維が得られる。また、繊維表面のベタツキが生じにくく手触りの良い人形毛髪が得られやすくなる。好ましくは0.03重量%以上0.20重量%以下であり、さらに好ましくは0.05重量%以上0.1重量%以下である。
【0022】
脂肪酸アミドとしては、N,N’−エチレンビス(ステアロアミド)、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、N,N’−メチレンビス(ステアロアミド)、メチロール・ステアロアミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、N−オレイルパルミトアミド、N−ステアリルエルカアミド、硬化牛脂アミド等が挙げられる。好ましくは、炭素数18以上の脂肪酸アミドであり、さらに好ましくは硬化牛脂アミドである。
【0023】
樹脂組成物にグリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸アミドとを、上記の特定量の範囲で合わせて用いることにより、静電気の発生が少なくてフライアウェイなどが生じにくく、櫛通り性が良好でありながら、繊維表面のべとつきが生じにくく、良好な手触り感の繊維が得られる。この理由は不明であるが、これらを特定量の範囲内で用いることで、脂肪酸アミドによるグリセリン脂肪酸エステルの帯電防止機能に対する妨害が比較的小さい範囲に留まって両者の機能が同時に確保され、また、グリセリン脂肪酸エステルの表面への析出も小さい範囲に留まって、繊維の手触り感に悪影響を及ぼさないと考えられる。
【0024】
樹脂組成物には、上記の成分以外に、本発明の効果を妨げない範囲で他の成分を添加しても良い。例えば、可塑剤、熱安定剤、塩化ビニリデン系樹脂以外の他の樹脂、界面活性剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、顔料等を挙げることができる。
【0025】
可塑剤としては、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、クエン酸アセチルトリブチル、セバチン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジオクチル等を例示することができ、得られる繊維の手触り感の改善の観点から、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、クエン酸アセチルトリブチルとするのが好ましく、ジイソブチルアジペートまたはジブチルアジペートとするのがさらに好ましい。可塑剤を用いることで溶融押出しの加工性が改良され、繊維の生産性をさらに向上させることができるが、一方で、繊維表面のベタツキが生じ易くなり、人形毛髪とした場合の手触り感が低下する。可塑剤量は、樹脂組成物において5重量%以下とするのが好ましく、より好ましくは2重量%以上5重量%以下である。
【0026】
熱安定剤としては、エポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](以下、A060という)、エポキシ化ステアリン酸ブチル、エポキシ化ステアリン酸オクチル、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、パラフィン等を例示することができる。好ましくはエポキシ化安定剤であり、最も好ましいのはエポキシ化アマニ油である。熱安定剤を用いることで塩化ビニリデン系樹脂の熱分解を低減することができるが、一方で、可塑剤と同様に繊維表面のベタツキが生じ易くなり手触り感が低下する。熱安定剤は、樹脂組成物において5重量%以下とするのが好ましく、より好ましくは1重量%以上4重量%以下である。
【0027】
可塑剤と熱安定剤は、共に繊維表面のベタツキ感を増大させて手触り感を低下させるため、可塑剤と熱安定剤の合計含有量は、樹脂組成物において10重量%以下とするのが好ましく、より好ましくは8重量%以下である。
【0028】
紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’ジ−tert−ブチルフェニル)−5’−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス{4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール}、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタアクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2,4−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ジヒドロキシ−4,4’−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤等を例示する事ができる。
【0029】
顔料としては、有機顔料、無機顔料、蛍光顔料、感温変色顔料を例示する事が出来る。更にこれらの顔料の分散性を高め、顔料の二次凝集をふせぐ為、スチレン系樹脂やアクリル系樹脂等をベースにした加工顔料や液体可塑剤中に顔料分散させたペースト顔料を用いる事もできる。
【0030】
本発明の人形毛髪用繊維は、上記の塩化ビニリデン系樹脂組成物を、常法に従って、塩化ビニリデン系樹脂用押出機に供給し、溶融押出しして紡口より紡出した後、冷水槽で冷却し、目的に応じた延伸温度や延伸倍率で延伸してからボビン等に巻き取ることで製造できる。
【0031】
繊維の断面構造は、用途、目的に応じて均一構造、中空構造、多層構造等のいずれであってもよいし、断面形状は、通常の円形状であってもよいし、三角形、多角形、Y字形、星形、扁平形状等の異形形状であってもよい。人形毛髪とした場合の軽い滑らかな手触り感が得られることから、特に、円形形状の中空構造とするのが好ましい。また、繊維は、これらの様々な構造や形状の単糸を組み合わせたマルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントとして用いる場合、本発明の繊維以外の他の繊維と混繊してもよい。
【0032】
繊維を中空糸とする場合、繊維の中空率は3〜30%であることが好ましい。ここで中空率とは、繊維の長さ方向に直角となる面の断面形状を顕微鏡で観察した場合に、繊維外径で画される断面積に対して、繊維の中空部分の断面積が占める割合を言う。この中空率が3%以上で、人形毛髪に求められる軽い手触り感とボリューム感とが得られやすくなり、30%以下で人形毛髪に必要とされる強度が確保されて糸割れ等が発生しにくく、人形頭部への植毛時における植毛加工性やブラッシング時の非脱毛性も良好となる。
【0033】
繊維の平均外径は、0.01〜0.2mmであることが好ましい。ここで平均外径とは、繊維の長さ方向に直角となる面の断面形状を顕微鏡で観察した場合に、繊維断面の外接円の直径を複数の断面に関して求め、それらの数平均により得られる値を言う。平均外径が0.01mm以上で人形毛髪に必要とされる強度が確保され、0.2mm以下で天然毛髪に類似する柔らかい手触り感が得られる。
【0034】
得られた繊維は、人形頭部に植毛されて人形毛髪となる。図1は、人形頭部に繊維を植毛する植毛ミシンの一例の概略構成を示した図である。繊維が巻回されたボビン1から、繊維2が引き出されてミシン本体3の懸垂部に設けられた回転パイプ糸道4を経由して人形頭部5の上に導かれる。ミシン針6が上向きに人形頭部5を貫通して、繊維2を引っかけて人形頭部5内に引き込むようにして植毛する。人形頭部5の位置と回転パイプ糸道4の出口とを相対的に移動させることで、人形頭部5の必要部分全体に植毛して人形毛髪7とする。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例や比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の具体的態様に限定されるものではない。なお、各種物性の評価方法は下記の通りである。
《平均外径、中空率》
【0036】
10本の中空単糸をエポキシ樹脂で固め、長さ方向に直角の断面を切り出して顕微鏡観察により測定した。測定は、各断面の外周の長径と短径とを計測して単純平均して単糸外径とし、さらに内周の長径と短径とを測定して単糸内径とし、単糸外径と単糸内径とから各単糸の中空部分の割合を計算した。最後に、これらの値の10本の平均値をそれぞれ求めて、平均外径と中空率とした。
《帯電防止性能評価》
【0037】
実施例、比較例で得られた繊維をそれぞれ45mm×45mmの厚紙に均一に300回糸巻きした試験片を作成し、湿度65%の調湿下でJIS L 1094(1997)半減期測定法に準じ半減期測定機(商品名:STATIC HONESTOMETER TYPE S−4104、宍戸商会株式会社製)を用い帯電圧の半減期を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:10秒未満
△:10秒以上30秒未満
×:30秒以上
【0038】
なお、半減期が10秒未満では、ブラッシングで毛髪は逆立たず、人形毛髪として良好である。10秒以上30秒未満では、ブラッシングで毛髪が逆立ち、人形毛髪として問題がある。30秒以上では、ブラッシングで毛髪が激しく逆立ち、人形毛髪として使用できない。
《耐脱毛性能評価》
【0039】
塩化ビニルシート(厚さ1mm)から成形した直径2.5cmの球形の人形ヘッドに、図1に示したものと同様の人形植毛用ミシン(DOLLY CO.LTD社製、型名:TUNF−28B)を用い、植毛速度1000RPM、繊維カット長20cmの条件で、実施例、比較例で得られた繊維ごとに、頭頂部から後頭部(垂直部分)と側頭部(垂直部分)にかけて約7cm2の面積でそれぞれの繊維を植毛した人形ヘッドを作成した。
【0040】
さらに地面から垂直に立てた長さ30cmの固定棒の頂部に、植毛した上記の人形ヘッドを1つずつ固定し、室温23℃、湿度65%RHの条件下で、毛髪を市販の犬猫ペット用スリッカーブラシで真下に20回ブラッシングした後、脱毛した毛髪の重量を測定し、脱毛比率を求めた。評価基準は以下の通りである。
○:2wt%未満
△:2wt%以上5wt%未満
×:5wt%以上
《ベタツキ性》
【0041】
長さ約200mmの多数の糸を、合計の糸量が約20gになるように房状に束ねて試料を作成した。この試料を54℃の恒温槽中に3日間保管した後、繊維表面のベタツキの程度を、20人のモニターの手触りにより官能評価した。各モニターにおける評価基準は以下の通りである。
4点:さらっとした手触り感を感じる。
3点:少し粘着性を感じる。
2点:ベタツキ感を感じる。
1点:油のようなベトベトした感触を感じる。
【0042】
次に、20人のモニターがそれぞれつけた点数を単純平均して評価点数を求め、以下の基準で糸のベタツキ性評価とした。
4.0点以下3.5点以上:◎
3.5点未満3.0点以上:○
3.0点未満2.0点以上:△
2.0点未満1.0点以上:×
[実施例1〜5]
【0043】
塩化ビニリデン87重量%と塩化ビニル13重量%とからなるモノマー混合物を重合して得られた塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体樹脂と、可塑剤としてのクエン酸アセトトリブチルと、熱安定剤としてのエポキシ化アマニ油と、硬化牛脂アミド〔ライオンアクゾ株式会社製、商品名:アーマイドHT−P〕と、ステアリン酸グリセライド〔松本油脂製薬株式会社製、商品名:ブリアンM−1〕とを、それぞれ表1に示した配合処方で配合し、V型ブレンダーでそれぞれ混合した。該混合物をスクリュー径50mmφサイズの単軸押出機(押出量25kg/hr)で押出温度180℃で中空繊維用紡口(C型ノズル外径:1.2mm、ノズル孔数:120)から溶融紡出し、冷水槽で急冷した後、速度差ローラーで4倍延伸して断面円形の平均外直径0.07mmで中空率15%の単糸10本よりなるマルチフィラメント繊維12本を得て、12台の巻取機で巻き取った。当該繊維について帯電防止性能、耐脱毛性能、手触り感を評価した結果を表2に示す。得られた繊維は、帯電防止性、耐脱毛性においていずれについても優れており、手触り感も優れていることが確かめられた。
[比較例1]
【0044】
硬化牛脂アミドを用いなかった以外は、実施例2と同様にしてマルチフィラメント繊維を得た。当該繊維について実施例1と同様にして帯電防止性能、耐脱毛性能を評価した。結果を表1に示す。得られた繊維は、滑性がわるく植毛した部分での糸切れが多く耐脱毛性能に劣り、人形毛髪としては実用に不向きなものであった。
[比較例2]
【0045】
硬化牛脂アミドに代えて、モンタン酸エステルワックスとフルオロポリマーとのワックス混合物〔クラリアントジャパン株式会社製、商品名:ワックスG431L〕を混合するようにした以外は実施例2と同様にしてマルチフィラメント繊維を得た。当該繊維について帯電防止性、耐脱毛性を評価した結果を表1に示す。得られた繊維は、帯電防止性能が悪くブラッシングによる静電気で毛髪が逆立ち、人形毛髪としては実用に不向きなものであった。
[比較例3]
【0046】
ステアリン酸グリセライドを用いないようにした以外は、実施例2と同様にしてマルチフィラメント繊維を得た。当該繊維について帯電防止性能、耐脱毛性能を評価した結果を表2に示す。得られた繊維は、帯電防止性能が悪くブラッシングによる静電気で毛髪が逆立ち、人形毛髪としては実用に不向きなものであった。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】植毛ミシンの概略構成を示した模式図である。
【符号の説明】
【0050】
1 ボビン
2 繊維
3 植毛ミシン本体
4 回転パイプ糸道
5 人形頭部
6 ミシン針
7 人形毛髪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂と、グリセリン脂肪酸エステルを0.01〜0.3重量%と、脂肪酸アミドを0.01〜0.3重量%とを含有する人形毛髪用合成繊維。
【請求項2】
前記塩化ビニリデン系樹脂を90〜99.98重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の人形毛髪用合成繊維。
【請求項3】
中空率が3〜30%の中空糸であり、かつ、平均外径が0.01〜0.2mmである請求項1または2に記載の人形毛髪用合成繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2007−332468(P2007−332468A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161917(P2006−161917)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】