説明

介護用衣服

【課題】医療機器を導入するときに着用した介護衣服を大きく開放する。
【解決手段】内側前縁(5)の上部に設けられた襟(7)の下端部(7a)又は襟(7)の下端部(7a)から下方に離間する襟下部(7c)に内側前縁(5)から内側に一定の長さでスリット(9)を延伸させ、スリット(9)の上縁(9a)と下縁(9b)の一方に釦(10)を取り付け、スリット(9)の上縁(9a)と下縁(9b)の他方に釦(10)を留める釦孔(11)を設ける。内側前縁(5)を身体側に密着させた状態で、襟(7)及び襟(7)の下端部(7a)の内側にありかつスリット(9)の内端部(9c)と襟(7)の上端部(7b)を結ぶ折れ線(15)に沿って襟(7)及び襟(7)の下端部(7a)又は襟下部(7c)を内側前縁(5)から離間して外側に折り曲げられるので、介護用衣服を着用した後に、前身頃(2)及び襟(7)を開放して医療機器(20)を身体の所定の部位に取り付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器を容易に取り付けられる介護用衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
在宅で寝たきりの人又は入院患者が着衣を脱着する際に介護することは、短期長期にかかわらず、多くの労苦を必要とする。例えば、下記特許文献1は、袖無し上衣と筒状の両袖部分からなる2種類の上衣からなり、それぞれの上側部分をホックで前身ごろと後身ごろを完全に展開可能にし、又ズボンの両わきと両足部分の内側の上部をホックで取り外せるようにすることで、前身ごろと後身ごろを展開できるようにし、両袖部分からなる上衣はズボンと組み合わせパジャマとして、袖無し上衣は必要に応じて着られる介護服を示す。
【0003】
下記特許文献2は、上着とズボンに複数のファスナと複数の面ファスナを各々に着脱可能に設け尚全体構成に於いて、ポケット付き前胸当て布が、スペアとしていつでも着脱ができるように、係設配備して成る介護ウエアーを示す。この介護ウエアーは、軽度の障害者から要介護状態の方々の着用を目的として上着本体とズボン本体とから成り、上着本体は、前脇身頃胸部から袖口数センチ手前までファスナを開口自在に左右に設け、尚取り替えのきく前胸あて布と前脇身頃の接触面に、押し付けるだけで簡単に密着する面ファスナを複数個所に配設固定する。また、ズボン本体は、前中央から数センチ脇に当たるウエスト中心から数センチ脇よりの所より、足首数センチ手前までファスナを開口自在に左右に設け、尚後ズボンと前ズボンがウエストで係止固着させる接触面に、押し付けるだけで簡単に密着する面ファスナを配設固定した構成から成る取り換えのきく前胸あて布が上着本体の両前脇身頃に面ファスナで着脱自在に設けられる。
【0004】
下記特許文献3は、痴呆やねたきり患者用介護服で、着脱させやすく介護内容にあわせて部分的な開放も無理なく行える構造とし、腕が硬直して曲がった患者に対しても着脱の際の袖通しがスムーズに行え、栄養摂取や排尿などのための医療チューブの処哩も考慮し、安全かつ清潔感とファッション性のある介護服を示す。この介護服は、上下つなぎで、ネックライン、左足裾線、右足裾線のそれぞれから胸部に配置したファスナ寄せに向かって閉じられるように3本のオープンファスナを取り付け、ファスナ寄せの部分には、ファスナ隠しを設け、袖付寸法を袖口寸法に比べて大きな比率にとり、栄養摂取や排尿などのための医療チューブの引込口が後身頃の左右に設けられる。
【0005】
下記特許文献4は、介護人を補佐でき、要介護人の障害を補填しながら着脱と、患部の手当てが容易にできる介護服及び介護用ズボン&介護用スカートを示す。この介護用スカートは、前後袖山に変化をつけた開閉式の袖付けと、肩あきを作り前面、背面、側面が容易に露出できるようにし、肩あきは片手で開閉できるように磁気を使用する。略方形状の二枚の布縦端に、一対の全開ファスナを縫いつけ、ファスナの組み合わせ方でズボン&スカートを構成する。
【0006】
下記特許文献5は、被介護者による着脱が容易でありかつ腕が通る袖口端で皮膚がファスナ端に当たって擦れることを回避する上下繋ぎ式の介護服を示す。この介護服は、脇部ファスナと股部ファスナとで介護服を大きく開いて簡単に着脱でき、被介護者の肘と袖口端までの中間位置をファスナの明き止まり部としてファスナが袖口端まで至らない。
【0007】
下記特許文献6は、上着の前身頃の縦方向に延伸する各脇合わせ縁部と上着の後見頃の縦方向に延伸する脇合わせ縁部との間及び各袖部の一対の側縁との間を開閉する上着開閉手段を設けて、容易に着脱できる介護用衣服を示す。この介護用衣服は、上着開閉手段が胴部と袖部との間に隠れて、外観上上着開閉手段を直ちに目視できず、来客用又は外出用衣服として使用できる。また、閉鎖した上着開閉手段を再閉鎖可能に完全に開放して、前身頃の脇合わせ縁部と後見頃の脇合わせ縁部とを分離しかつ袖部の一対の側縁を分離できるので、介護衣服として容易に着脱することができる。また、特許文献6では、医療チューブ等の医療機器を上着内に挿入するスリットが縦方向に設けられる。
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第3,066,456号公報
【特許文献2】実用新案登録第3,066,252号公報
【特許文献3】特開平11−61522号公報
【特許文献4】特開2001−303321公報
【特許文献5】特開2001−262410公報
【特許文献6】実用新案登録第3,103,462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3には、介護服の後身頃の左右に縦方向の医療チューブ引込口を設け、特許文献6には、前身頃に縦方向のスリットが設けられる。このように、縦方向に形成される引込口に直角に医療チューブを挿入する場合にはあまり問題を生じないが、引込口に並行に医療チューブを挿入するとき、引込口を大きく開放できないので、医療チューブを挿入し難い欠点がある。
本発明は、医療機器を導入するときに大きく開放できかつ医療機器を取り付けた後に着用できる介護衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の介護用衣服は、内側前縁(5)及び内側前縁(5)を覆う外側前縁(6)並びに内側前縁(5)及び外側前縁(6)の上部に設けられた襟(7)を備えた前身頃(2)と、前身頃(2)と共に胴部(4)を形成する後身頃(3)と、胴部(4)の両側に取り付けられた一対の袖(8)とを有する。内側前縁(5)の上部に設けられた襟(7)の下端部(7a)又は襟(7)の下端部(7a)から下方に離間する襟下部(7c)に内側前縁(5)から内側に一定の長さでスリット(9)を延伸させ、スリット(9)の上縁(9a)と下縁(9b)の一方に釦(10)を取り付け、スリット(9)の上縁(9a)と下縁(9b)の他方に釦(10)を留める釦孔(11)を設ける。内側前縁(5)を身体側に密着させた状態で、襟(7)及び襟(7)の下端部(7a)の内側にありかつスリット(9)の内端部(9c)と襟(7)の上端部(7b)を結ぶ折れ線(15)に沿って襟(7)及び襟(7)の下端部(7a)又は襟下部(7c)を内側前縁(5)から離間して外側に折り曲げられるので、医療チューブ等の医療機器(20)を身体の所定の部位に取り付けた後に、本発明の介護用衣服を着用するか又は介護用衣服を着用した後に、前身頃(2)及び襟(7)を開放して医療機器(20)を身体の所定の部位に取り付ける。その後、スリット(9)の下方の内側前縁(5)を医療機器(20)の上に被せると共に、スリット(9)の上方の襟(7)及び襟(7)の下端部(7a)を医療機器(20)の下に通すことができるので、従来のように、着用する介護用衣服のスリット内に医療機器(20)を通過させ又は介護用衣服を脱ぐ必要がない。
【発明の効果】
【0011】
介護用衣服を着用したまま医療機器を容易に取り付けることができ、被介護者による着脱動作又は介護者による着脱介護動作の困難性を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明による介護用衣服の実施の形態を図1〜図3について説明する。
図1及び図2に示すように、本発明の介護用衣服である上着(1)は、前身頃(2)と、前身頃(2)に接続されて上着を形成する後身頃(3)と、前身頃(2)と後身頃(3)とに取り付けられた襟(7)及び一対の袖(8)とを有する。前身頃(2)は、内側前縁(5)及び内側前縁(5)を覆う外側前縁(6)を有する。襟(7)は、内側前縁(5)及び外側前縁(6)の上部に設けられる。内側前縁(5)から内側に一定の長さでほぼ水平に延伸するスリット(9)は、胴部(4)の両側内側前縁(5)の上部に設けられた襟(7)の下端部(7a)から下方に離間する襟下部(7c)に延伸して形成される。図示の実施の形態では、スリット(9)の下縁(9b)に釦(10)が取り付けられ、釦(10)を留める釦孔(11)は、スリット(9)の上縁(9a)に取り付けられる。釦(10)は、内側前縁(5)に取り付けた他の釦(31)と同一の形態を有する。
【0013】
本発明の介護用衣服(1)は、図3に示すように、内側前縁(5)を身体側に密着させた状態で、襟(7)及び襟(7)の下端部(7a)の内側にありかつスリット(9)の内端部(9c)と襟(7)の上端部(7b)を結ぶ折れ線(15)に沿って襟(7)及び襟(7)の下端部(7a)又は襟下部(7c)を内側前縁(5)から離間して外側に折り曲げられる点に特徴がある。
【0014】
介護用衣服(1)を着用した状態で医療チューブ等の医療機器(20)を身体の所定の部位に取り付ける場合に、釦孔(11)から全ての釦(10)を外した後に、内側前縁(5)と外側前縁(6)とを開き、前身頃(2)及び襟(7)を開放して医療機器(20)を身体の所定の部位に取り付ける。その後、スリット(9)の下方の内側前縁(5)を医療機器(20)の上に被せると共に、スリット(9)の上方の襟(7)及び襟(7)の下端部(7a)を医療機器(20)の下に通すことができる。従って、従来のように、着用する介護用衣服のスリット内に医療機器(20)を通過させ又は介護用衣服を脱ぐ必要がない。介護用衣服を着用したまま医療機器を容易に取り付けることができ、被介護者による着脱動作又は介護者による着脱介護動作の困難性を軽減することができる。
本発明の前記実施の形態は、変更が可能である。例えば、スリット(9)の上縁(9a)に釦(10)を取り付け、下縁(9b)に釦孔(11)を設けてもよい。また、釦(10)と釦孔(11)の代わりに、上縁(9a)と下縁(9b)に取り付けたホックとホック受、一対の紐部等の分離可能な固定手段を使用してもよい。襟(7)の下端部(7a)から下方に離間する襟下部(7c)にスリット(9)を設ける代わりに、襟(7)の下端部(7a)にスリット(9)を形成して、着用時にスリット(9)を襟(7)により覆ってもよい。釦(10)と釦孔(11)の代わりに、スリット(9)の上縁(9a)と下縁(9b)とに一対のファスナを設け、スライダにより一対のファスナを開閉して、スリット(9)を開放又は閉鎖してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の介護用衣服では、医療機器を配置するスリットを水平に設けることができるから、デザインに違和感のない介護用衣服を外出着、ジャケット、背広、コート、ワンピース、寝間着として仕立てることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】介護用上着に適用した本発明による介護用衣服の正面図
【図2】図1に示す介護用上着の前身頃の外側前縁の上部を開いた状態を示す正面図
【図3】図1に示す介護用上着の前身頃の襟の下端部を開いた状態を示す正面図
【符号の説明】
【0017】
(1)・・上着、 (2)・・前身頃、 (3)・・後身頃、 (4)・・胴部、 (5)・・内側前縁、 (6)・・外側前縁、 (7)・・襟、 (7a)・・下端部、 (7b)・・上端部、 (8)・・袖、 (9)・・スリット、 (9a)・・上縁、 (9b)・・下縁、 (9c)・・内端部、 (10)・・釦、 (11)・・釦孔、 (15)・・折れ線、 (30)・・釦孔、 (31)・・釦、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側前縁及び内側前縁を覆う外側前縁並びに内側前縁及び外側前縁の上部に設けられた襟を備えた前身頃と、前身頃と共に胴部を形成する後身頃と、胴部の両側に取り付けられた一対の袖とを有する介護用衣服において、
内側前縁の上部に設けられた襟の下端部又は襟の下端部から下方に離間する襟下部に内側前縁から内側に一定の長さでスリットを延伸させ、
内側前縁を身体側に密着させた状態で、襟及び襟の下端部の内側にありかつスリットの内端部と襟の上端部を結ぶ折れ線に沿って襟及び襟の下端部又は襟下部を内側前縁から離間して外側に折り曲げられることを特徴とする介護用衣服。
【請求項2】
スリットの上縁と下縁の一方に釦を取り付け、
スリットの上縁と下縁の他方に釦を留める釦孔を設けた請求項1に記載の介護用衣服。
【請求項3】
釦孔に留めた釦を更に外側前縁の上部に設けた釦孔に留められる請求項2に記載の介護用衣服。
【請求項4】
釦は、内側前縁に取り付けた他の釦と同一の形態を有する請求項2又は3に記載の介護用衣服。
【請求項5】
スリットは、内側前縁から内側にほぼ水平に延伸する請求項1〜4の何れか1項に記載の介護用衣服。
【請求項6】
スリットの上縁と下縁とのそれぞれに設けた一対のファスナと、一対のファスナを開閉するスライダとを設けて、スライダによりスリットを開閉する請求項1に記載の介護用衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−101323(P2008−101323A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316201(P2007−316201)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3112935号
【原出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(504063596)
【Fターム(参考)】