説明

代謝性症候群を予防し又は治療するための方法

本発明は、哺乳動物対象における代謝性症候群を予防し、又は治療する方法を提供する。この方法は、代謝性症候群の予防又は治療を要する該対象に、有効量の芳香族−カチオン性ペプチドを投与する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本件特許出願は、2009年8月12日付で出願された、米国仮特許出願第61/233,275号に関する優先権を主張するものである。この特許出願の内容全体を、参照することによりここに組入れるものとする。
【0002】
本件特許出願に係る技術は、一般的には代謝性症候群を予防し又は治療する方法に関する。特に、本件特許出願に係る技術は、哺乳動物対象における、代謝性症候群又は関連する状態を予防し又は治療するのに有効な量で、芳香族カチオン性ペプチドを投与することに関する。
【背景技術】
【0003】
以下の説明は、読者の理解を助けるために与えられるものである。ここに与えられる情報又は引用される参考文献の何れも、本発明に対する公知技術として是認されるものではない。
【0004】
代謝性症候群は、心臓疾患、発作、及び糖尿病に罹患する公算を高める健康上の障碍又は危険性の集合である。この状態は、また他の名称、例えば症候群X及び代謝不全症候群によっても知られている。代謝性症候群は、様々な、インシュリン抵抗性を包含する潜在的な代謝表現型及び/又は肥満体質表現型の何れかを含む可能性がある。
【0005】
代謝性症候群は、しばしば多数の代謝疾患又は危険因子の何れかによって特徴付けられ、該因子は、一般的に、これら因子の2以上が、単一の個体内に存在した場合には、最も代謝性症候群を典型付けるものと考えられる。これらの因子は、中心性肥満(腹部内及びその周辺の脂肪組織を不均衡化する)、アテローム発生性脂質異常症(これらは、一群の血液脂肪疾患を含み、これは、例えば高トリグリセライド、低HDLコレステロール、及び高LDLコレステロール(これは、動脈壁を含む脈管系におけるプラーク蓄積を促進する恐れがある))、高血圧、インシュリン抵抗性又はグルコース不耐性(インシュリン又は血糖の適切利用不能性)、慢性前血栓症状態(例えば、血中における高いフィブリノーゲン又はプラスミノーゲン活性化阻害剤濃度によって特徴付けられる)、及び慢性前炎症状態(例えば、血中における正常なレベルよりも高い、高感受性C−反応性タンパク質濃度により特徴付けられる)を包含する。代謝性症候群に罹っている人々は、冠動脈性心疾患、動脈壁におけるプラーク蓄積と関連する他の疾患(例えば、発作及び末梢血管障害)及びII型糖尿病に罹患する高い危険性を持つ。
【0006】
代謝性症候群の潜在的な原因は不明である(しかし、肥満及び身体的活動の不足等の障害の幾つかの作用が、事実上しばしば原因となっている)。該疾患に関する遺伝的なパターンが与えられる場合には、この症候群の基となる遺伝的なファクタがあるものと思われる。
【発明の概要】
【0007】
本件技術は、一般的に、治療又は予防を要する対象に対して、治療上有効な量の芳香族−カチオン性ペプチドを投与することによる、哺乳動物における代謝性症候群及び関連する状態の治療又は予防に係る。特定の態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、脂質異常症、中心性肥満、血液脂肪疾患、又はインシュリン抵抗性の重篤度又は発生を低下することにより、代謝性症候群を治療又は予防する。
【0008】
一局面において、本開示は、治療又は予防を要する哺乳動物対象における、代謝性症候群及び関連する状態を治療又は予防する方法を提供するものであり、該方法は、該哺乳動物対象に、治療上有効な量の芳香族−カチオン性ペプチドを投与する工程を含む。幾つかの態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、
少なくとも一つの正味の正電荷;
最低4個のアミノ酸;
最大約20個のアミノ酸;
該最小数の正味の正電荷(pm)と全アミノ酸残基数(r)との間の所定の関係、ここでは3pmは、r+1に等しいか又はそれ未満の最大数となる;及び芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間の所定の関係、ここで2aはpt+1に等しいか又はそれ未満の最大数となる、を持つペプチドであって、aが1である場合には、ptも1であり得ることを条件とする。特定の態様において、該哺乳動物対象はヒトである。
【0009】
一態様においては、2pmが、r+1に等しいか又はそれ未満の最大数であり、またaはptに等しくてもよい。該芳香族−カチオン性ペプチドは、最低2個又は最低3個の正電荷をもつ水溶性ペプチドであり得る。
【0010】
一態様において、該ペプチドは、1種又はそれ以上の天然産以外のアミノ酸、例えば1種又はそれ以上のD−アミノ酸を含む。幾つかの態様において、該アミノ酸のC−末端における、C−末端カルボキシル基は、アミド化されている。幾つかの態様において、該ペプチドは、最低4個のアミノ酸を持つ。該ペプチドは、最大約6個、最大約9個、又は最大約12個のアミノ酸を持つことができる。
【0011】
一態様において、該ペプチドは、チロシン又は2',6'−ジメチルチロシン(Dmt)残基を、そのN−末端位置に含む。例えば、該ペプチドは、以下の式:Tyr−D−Arg−Phe−Lys−NH2(SS−Ol)又は2',6'−Dmt−D−Arg−Phe−Lys−NH2(SS−02)を持つことができる。別の態様において、該ペプチドは、フェニルアラニン又は2',6'−ジメチルフェニルアラニン残基を、そのN−末端位置に含む。例えば、該ペプチドは、以下の式:Phe−D−Arg−Phe−Lys−NH2(SS−20)又は2',6'−Dmp−D−Arg−Phe−Lys−NH2を持つことができる。特定の一態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、以下の式:D−Arg−2',6'−Dmt−Lys−Phe−NH2(ここでは、SS−31、MTP−131、又はベンダビア(BendaviaTM)と呼ぶ)を有する。
一態様において、該ペプチドは、以下の式によって規定される:
【0012】
【化1】

【0013】
ここで、R1及びR2は、各々独立に以下に列挙するものから選択される:
(i) 水素原子;
(ii) 直鎖又は分岐鎖のC1−C6アルキル基;
(iii) 次式で表される基:
【0014】
【化2】

【0015】
(iv) 次式で表される基:
【0016】
【化3】

【0017】
(v) 次式で表される基:
【0018】
【化4】

【0019】
R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は、各々独立に以下に列挙するものから選択される:
(i) 水素原子;
(ii) 直鎖又は分岐鎖のC1−C6アルキル基;
(iii) C1−C6アルコキシ基;
(iv) アミノ基;
(v) C1−C4アルキルアミノ基;
(vi) C1−C4ジアルキルアミノ基;
(vii) ニトロ基;
(viii) ヒドロキシル基;
(ix) ハロゲン原子、ここで「ハロゲン」とは、クロロ、フルオロ、ブロモ、及びヨードを包含する;及び
nは1〜5なる範囲の整数である。
【0020】
特定の一態様において、上記置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は、全て水素原子であり、かつnは4である。もう一つの態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR11は、全て水素原子であり、R8及びR12は、メチル基であり、R10はヒドロキシル基であり、かつnは4である。
一態様において、上記ペプチドは、以下の式IIで定義される:
【0021】
【化5】

【0022】
ここで、R1及びR2は、各々独立に以下に列挙するものから選択される:
(i) 水素原子;
(ii) 直鎖又は分岐鎖のC1−C6アルキル基;
(iii) 次式で表される基:
【0023】
【化6】

【0024】
(iv) 次式で表される基:
【0025】
【化7】

【0026】
(v) 次式で表される基:
【0027】
【化8】

【0028】
R3及びR4は、各々独立に以下に列挙するものから選択され:
(i) 水素原子;
(ii) 直鎖又は分岐鎖のC1−C6アルキル基;
(iii) C1−C6アルコキシ基;
(iv) アミノ基;
(v) C1−C4アルキルアミノ基;
(vi) C1−C4ジアルキルアミノ基;
(vii) ニトロ基;
(viii) ヒドロキシル基;
(ix) ハロゲン原子、ここで「ハロゲン」とは、クロロ、フルオロ、ブロモ、及びヨードを包含し、
R5、R6、R7、R8及びR9は、各々独立に以下に列挙するものから選択され:
(i) 水素原子;
(ii) 直鎖又は分岐鎖のC1−C6アルキル基;
(iii) C1−C6アルコキシ基;
(iv) アミノ基;
(v) C1−C4アルキルアミノ基;
(vi) C1−C4ジアルキルアミノ基;
(vii) ニトロ基;
(viii) ヒドロキシル基;
(ix) ハロゲン原子、ここで「ハロゲン」とは、クロロ、フルオロ、ブロモ、及びヨードを包含し;及び
nは1〜5なる範囲の整数である。
【0029】
特定の一態様において、R1及びR2は水素原子であり;R3及びR4はメチル基であり;R5、R6、R7、R8及びR9は、全て水素原子であり;かつnは4である。
【0030】
幾つかの態様において、上記代謝性症候群は、グルコース不耐性、高インシュリン血症、高LDL−コレステロール、高VLDL、高トリグリセライド、低HDL−コレステロール、高プラスミノーゲン活性化剤阻害剤−1(PAI−1)レベル、高血圧及びインシュリン−媒介グルコール摂取抵抗性と関連している。一例示的態様において、該代謝性症候群は、以下の基準:
(a) 腹部肥満:男性におけるウエスト周〉102cm、女性におけるウエスト周〉88cm;
(b) 高トリグリセライド血症:≧150mg/dL(1.695mM/L);
(c) 低HDLコレステロール:男性において〈40mg/dL(1.036mM/L)及び女性において〈50 mg/dL(1.295mM/L)、
(d) 高血圧:≧130/85mmHg;及び
(e) 高い空腹時のグルコース濃度:≧110mg/dL(〉6.1mM/L)
の内の3つ又はそれ以上によって特徴付けられる。
【0031】
一例示的態様において、該代謝性症候群は、糖尿病、不十分なグルコース耐性、不十分な空腹時のグルコース濃度、又はインシュリン抵抗性プラス以下に列挙する異常性:
(a) 高血圧:≧160/90mmHg;
(b) 高脂血症:トリグリセライド濃度≧150mg/dL(1.695mM/L)及び/又はHDLコレステロール濃度:男性において〈35mg/dL(0.9mM/L)及び女性において〈39mg/dL(1.0mM/L);
(c) 中心性肥満:男性において〉0.90又は女性において〉0.85なるウエスト対ヒップ比又はBMI:〉30kg/m2;及び
(d) ミクロアルブミン尿症:尿アルブミン排出率:≧20μg/分又はアルブミン対クレアチニン比:≧20mg/g
の内の2つ又はそれ以上によって特徴付けられる。
【0032】
一例示的態様において、該代謝性症候群は、以下の基準:
(a) トリグリセライド:〉150mg/dL;
(b) 収縮期血圧(BP):≧130mmHg又は拡張期血圧:≧85mmHg又は抗−高血圧症薬による治療中であること;
(c) 高密度リポタンパク質コレステロール:〈40mg/dL;
(d) 空腹時血糖値(FBS):〉110mg/dL;及び
(e) ボディマス指数:〉28.8kg/m2
の内の3つ又はそれ以上によって特徴付けられる。
【0033】
一態様において、該代謝性症候群は、上記ペプチドを投与する前の上記対象における脂質代謝に比して、該脂質代謝性を改善することを通して治療される。一態様において、該脂質代謝性の改善は、該ペプチドを投与する前の該対象の血中トリグリセライドレベルに対する、該血中トリグリセライドレベルの低減である。一態様において、該脂質代謝性の改善は、該ペプチドを投与する前の該対象の血中HDL/LDLコレステロール比に対する、該血中HDL/LDLコレステロール比の改善である。一態様において、該代謝性症候群は、該ペプチドを投与する前の該対象の血糖レベルに比して、その血糖レベルを減じることにより治療される。一態様において、該代謝性症候群は、該ペプチドを投与する前の該対象の体重に比して、その体重を減じることにより治療される。
【0034】
幾つかの態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、哺乳動物対象における代謝性症候群と関連する状態を治療又は予防するために使用され、該代謝性症候群は、中心性肥満、脂質異常症、高インスリン血症、II型糖尿病、異常な脈管内皮機能、網膜症、冠動脈疾患、心血管疾患、腎臓機能不全、高血圧症、脂肪肝、神経障害、及び高尿酸血症を含むが、これらに限定されない。潜在的に代謝性症候群及びその関連状態によって引起される、心血管疾患の具体的な例は、心筋梗塞、出血性又は虚血性発作(脳梗塞)を含む。
【0035】
上記芳香族−カチオン性ペプチドは、様々な方法で投与することができる。幾つかの態様において、該ペプチドは、経口、局所、鼻内、静脈内、皮下、又は経皮(例えば、イオン導入法)によって投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、体重に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。各値は、平均±S.E.M.で表されている。ここで、#:正常なラット飼料(NRC)+ビヒクルに対してP〈0.001;HFD/STZ+ビヒクルに対して、*:P〈0.05;**:P〈0.01。四角:ビヒクルで処理されたNRCラット、n=5;三角:ビヒクルで処理されたHFD/STZラット、n=7;黒丸:10mg/kgのSS−31で治療されたHFD/STZラット、n=7;白丸:10mg/kgのSS−20で治療されたHFD/STZラット、n=7。
【図2】図2は、4週間に渡る治療における、血中グルコース濃度に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。各値は、平均±S.E.M.で表されている。ここで、#:HFD/STZ+ビヒクルに対してP〈0.001;HFD/STZ+ビヒクルに対して、*:P〈0.031;**:P〈0.006。四角:ビヒクルで処理されたNRCラット、n=5;三角:ビヒクルで処理されたHFD/STZラット、n=7;黒丸:10mg/kgのSS−31で治療されたHFD/STZラット、n=7;白丸:10mg/kgのSS−20で治療されたHFD/STZラット、n=7。
【図3】図3は、10週間の治療に渡る、全グリセライド濃度に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。
【図4】図4Aは、治療の14週間後の、ダイエット−誘発肥満のあるハツカネズミモデルにおける、トリグリセライド濃度に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。図4Bは、治療の14週間後の、ダイエット−誘発肥満のあるハツカネズミモデルにおける、全コレステロール濃度に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。図4Cは、治療の14週間後の、ダイエット−誘発肥満のあるハツカネズミモデルにおける、HDLコレステロール濃度に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。
【図5】図5Aは、治療の14週間後の、ダイエット−誘発肥満のあるハツカネズミモデルにおける、腹部肥満に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。図5Bは、治療の14週間後の、ダイエット−誘発肥満のあるハツカネズミモデルにおける、皮下肥満に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。
【図6】図6は、代謝性症候群のSTZラットモデルにおける、グリセライド濃度に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の幾つかの局面、モード、態様、変法及び特徴は、本発明を実質的に理解するために、細部を、様々なレベルにて以下に説明するものであることは明らかである。
【0038】
本発明を実施するに際して、分子生物学、タンパク質生化学、細胞生物学、免疫学、微生物学及び組換えDNA分野における、多くの公知技術を利用する。これらの技術は周知であり、また例えば夫々、分子生物学における一般的なプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology), VoIs. I−III, Ausubel編(1997);Sambrook等, モレキュラークローニング (Molecular Cloning):ラボラトリーマニュアル(A Laboratory Manual), 第2版(コールドスプリングハーバーラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)刊, コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor), NY, 1989);DNAクローニング(DNA Cloning):実際的方法(A Practical Approach), VoIs. I及びII, Glover編(1985); オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis), Gait編(1984);核酸のハイブリッド化(Nucleic Acid Hybridization), Hames & Higgins編(1985);転写及び翻訳(Transcription and Translation), Hames & Higgins編(1984);動物細胞培養(Animal Cell Culture), Freshney編(1986);固定化細胞及び酵素(Immobilized Cells and Enzymes)(IRLプレス(IRL Press)刊, 1986);Perbal, モレキュラークローニングへの実際的指針(A Practical Guide to Molecular Cloning);the series, Meth. Enzymol., (アカデミックプレス社(Academic Press, Inc.)刊, 1984);哺乳動物細胞に対する遺伝子導入ベクター(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells), Miller & Calos編(コールドスプリングハーバーラボラトリー社, NY, 1987);及びMeth. Enzymol, VoIs. 154及び155, Wu & Grossman, and Wu編において説明されている。
【0039】
本明細書において使用する幾つかの用語の定義は、以下に与えられている。特に定義されていない場合には、ここで使用する全ての技術用語及び科学用語は、一般的に、本発明の属する分野における当業者によって、通常理解されているものと同一の意味を持つ。
【0040】
本明細書及び添付した特許請求の範囲において使用されているような、単数形「ア(a)」、「アン(an)」及び「ザ(the)」は、その内容がその他の意味で明確に述べられていない限り、複数の対象物を含むものとする。例えば、「単一細胞(a cell)」と述べた場合は、2又はそれ以上の細胞の組合せ等を含む。
【0041】
ここで使用する様な用語「約」とは、当業者により理解されるものであり、またこの用語が使用されている内容に依存して、ある程度変動するであろう。当業者には不明瞭なこの用語の使用があり、この用語が使用されている内容が与えられた場合には、用語「約」とは、該与えられた数値の±10%までを意味するものとする。
【0042】
ここで使用されているような、薬剤、薬物、又はペプチドの、対象に対する「投与」なる用語は、意図された機能を果たす化合物を、対象に導入し又は放出する任意の経路を含む。投与は、経口、鼻内、非−経口(静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下経路)、又は局所投与を含む、任意の適当な経路によって行うことができる。投与は、自己−投与及び他人による投与を含む。
【0043】
ここで使用する用語「アミノ酸」とは、天然産のアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに該天然産のアミノ酸と類似する様式で機能する、アミノ酸類似体及びアミノ酸擬似体を包含する。天然産のアミノ酸は、遺伝子コードによりコード化されたもの、並びに後に変性されたこれらアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、及びO−ホスホセリン等である。アミノ酸類似体とは、天然産のアミノ酸と同一の基本的化学構造を持つ化合物、即ち水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムと結合しているα−炭素を持つ化合物を意味する。このような類似体は、変性R基(例えば、ノルロイシン)又は変性ペプチド主鎖を持つが、天然産のアミノ酸と同一の基本的化学構造を維持している。アミノ酸擬似体とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を持つが、天然産のアミノ酸と類似する様式で機能する化学的な化合物を意味する。ここでは、アミノ酸は、一般的に知られている3−文字記号、又はIUPAC−IUBバイオケミカルノーメンクラチャーコミッション(IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commission)によって推奨されている1−文字記号によって表すことができる。
【0044】
ここで使用する様な用語「有効量」とは、所望の治療及び/又は予防効果を達成するのに十分な量、例えば代謝性症候群と関連する症状の予防又は低減を結果する量を意味する。前記対象に投与される組成物の量は、目的とする該疾患の型及び重篤度及び各個体の諸特性、例えば一般的な健康状態、年齢、性別、体重及び薬物耐性等に依存するであろう。該組成物の量は、また疾患の程度、重篤度及び型にも依存するであろう。当業者は、これら及びその他のファクタに依存して、適切な用量を決定することができるであろう。上記組成物は、また1種又はそれ以上の付随的な治療用化合物と組合せて投与することができる。本明細書において記載する方法において、上記芳香族−カチオン性ペプチドは、代謝性症候群の1又はそれ以上を持つ対象に投与することができる。有効量の該芳香族−カチオン性ペプチドの投与は、該対象における代謝性症候群の徴候又は症状、例えば体重、空腹時のグルコース/インシュリン/遊離脂肪酸、グルコース許容度(OGTT)、筋肉のインシュリン感受性、インシュリンシグナル発生マーカー(例えば、Akt−P、IRS−P)、血清トリグリセライドレベル、HDL及びLDLコレステロールレベル、血圧、血清フィブリノーゲン又はプラスミノーゲン活性化剤−阻害剤レベル、C−反応性タンパク質のレベル、ミトコンドリア機能(例えば、呼吸又はH2O2放出)、細胞内酸化ストレスのマーカー(例えば、脂質過酸化、GSH/GSSG比、又はアコニターゼ活性)及びミトコンドリア酵素活性の少なくとも一つを改善することを可能とする。例えば、該芳香族−カチオン性ペプチドの「治療上有効な量」は、最低でも、代謝性症候群の生理的な作用を改善するレベルを意味する。
【0045】
「単離された」又は「精製された」ポリペプチド又はペプチドは、細胞性の物質又は該薬剤が誘導された、細胞又は組織を起源とする他の汚染性ポリペプチドを実質的に含まず、あるいは化学的に合成された場合には、化学的なプリカーサ又は他の化学物質を実質的に含まない。例えば、単離された芳香族−カチオン性ペプチドは、該薬剤の診断又は治療的使用を妨害する恐れのある物質を含まないであろう。このような妨害性物質は、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性及び非−タンパク質性の溶質を含むことができる。
【0046】
ここで使用する様な用語「代謝性症候群」とは、代謝障害又は危険因子の組合せを意味し、これは単一の個体において存在する場合には、該固体にとって、心疾患、発作、又は糖尿病を発症する素因となる恐れがある。
【0047】
ここで使用する用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、ここではペプチド結合又は変性ペプチド結合、即ちペプチドアイソスターによって相互に結合された、2又はそれ以上のアミノ酸を含むポリマーを意味するものとして、互換的に使用される。ポリペプチドとは、通常ペプチドと称されている単鎖のポリペプチド、グリコペプチド又はオリゴマー、及び一般的にタンパク質と呼ばれている長鎖のポリペプチドを意味する。ポリペプチドは、20種の遺伝子−コード化アミノ酸以外のアミノ酸を含むことができる。ポリペプチドは、自然の過程、例えば翻訳後の処理により、あるいは当分野において周知の化学的変性技術によって変性されたアミノ酸配列を含む。
【0048】
ここで使用する用語「対象」とは、任意の脊椎動物種の一員を意味する。本発明において開示される課題である上記方法は、温血脊椎動物に対して特に有用である。本明細書においては、ヒト並びにヒトにとって、絶滅の危機に瀕する故に重要な哺乳動物、経済的に重要な哺乳動物(ヒトによる消費の目的で農場で育成されている動物)及び/又は社会的な意味で重要な哺乳動物(ペットとして又は動物園において飼育されている動物)等の哺乳動物の処置が提供される。特別な態様において、該対象は、ヒトである。
【0049】
ここで使用する用語「治療(処置)(treating)」又は「治療(処置)(treatment)」又は「軽減」とは、治療的な処置及び予防又は防止的手段の両者を意味し、ここでその目的は、標的とする病理的な状態又は障害を回避し又は進行速度の減速(軽減)することにある。ここに記載される方法に従って、治療的な量の上記芳香族−カチオン性ペプチドの投与を受けた後に、対象が、代謝性症候群の1又はそれ以上における観測可能な及び/又は測定可能な低下を示すか、あるいは該対象において、これらが存在しない場合には、該対象は首尾よく「治療されて」いる。例えば、治療は、空腹時の血中グルコール又はインシュリンレベルの低下、体重の低下、血清トリグリセライドレベル又はHDL及びLDLコレステロールレベルの低下を含むことができる。また、記載されたような治療又は予防の様々なモードは、「実質的」であることを意味するものであることは明らかであり、この実質的とは、全体的な治療又は予防だけではなく、部分的な治療又は予防をも含み、また幾分かの生物学的又は医学的に関連する結果が達成される。
【0050】
ここで使用するような、障害又は状態を「予防」又は「予防する」とは、統計的なサンプルにおいて、未処置のコントロールサンプルに対して、処置されたサンプルにおける該障害又は状態の発生を減じる、又は該未処置のコントロールサンプルに対して、1又はそれ以上の該障害又は状態の発生を遅らせ、あるいはその重篤度を低減する、化合物の作用を意味する。
【0051】
代謝性症候群
代謝性症候群(症候群Xとも呼ばれる)は、幾つかの基準、例えばインシュリン−刺激性グルコール摂取に対する抵抗性、グルコース不耐性、高インシュリン血症、高LDL−コレステロール、高VLDLトリグリセライド、低HDLコレステロール、高プラスミノーゲン活性化剤−阻害剤−1(PAI−1)レベル、及び高血圧と関連している可能性のある症候群である。該症候群の一部であると考えられている他の代謝異常は、異常な体重又は体重分布、炎症、ミクロアルブミン尿症、高尿酸血症、及びフィブリン溶解作用及び凝固作用における異常性を含む。
【0052】
グルコース不耐性は、空腹時の血漿グルコースレベルが、140mg/dL未満であり、またグルコース耐性テストの30分、60分、又は90分後の血漿グルコース濃度が、200mg/dLを越えるような病理的状態によって特徴付けられる。
【0053】
高インシュリン血症は、血中のインシュリンレベルが、正常値よりも高い状態である。高インシュリン血症は、身体によるインシュリンの過剰生産によって引起され、またインシュリン抵抗性に関連している。
【0054】
インシュリン抵抗性は、身体が膵臓によって製造されたインシュリンに応答せず、またグルコースが細胞内に入り難い場合に起る。インシュリン抵抗性を持つ対象は、2型糖尿病の発症へと進行することも、また進行しないこともある。一般的に使用されている様々なテストの何れかを使用して、インシュリン抵抗性を決定することができ、そのようなテストは、経口グルコース耐性テスト(Oral Glucose Tolerance Test)(OGTT)、空腹時血中グルコース(Fasting Blood Glucose)(FBG)、正常グルコース耐性(Normal Glucose Tolerance)(NGT)、低下したグルコース耐性(Impaired Glucose Tolerance)(IGT)、低下した空腹時グルコース(Impaired Fasting Glucose)(IFG)、ホメオスタシスモデルアセスメント(Homeostasis Model Assessment)(HOMA)、定量的インシュリン感受性チェックインデックス(the Quantitative Insulin Sensitivity Check Index)(QUICKI)及び静脈内インシュリン耐性テスト(the Intravenous Insulin Tolerance Test)(IVITT)を含む。同様に、De Vegtの、「異常グルコース許容度の診断に関する1985年の世界保健機構の基準に対する、1997年の米国糖尿病連合の基準:ホーンの研究における低い一致性(The 1997 American Diabetes Association criteria versus the 1985 World Health Organization criteria for the diagnosis of abnormal glucose tolerance: poor agreement in the Hoorn Study)」, Diab Care 1998, 21 :1686−1690;Matthews,「ホメオスタシスモデルアセスメント:ヒトにおける空腹時結晶グルコース及びインシュリン濃度に基くインシュリン抵抗性及びB−細胞機能(Homeostasis model assessment:insulin resistance and B−cell function from fasting plasma glucose and insulin concentrations in man)」, Diabetologia, 1985, 28:412−419;Katz,「定量的インシュリン感受性チェックインデックス:ヒトにおけるインシュリン感受性を評価するための簡単かつ正確な方法(Quantitative Insulin Sensitivity Check Index: A Simple, Accurate Method for Assessing Insulin Sensitivity In Humans)」, JCE & M, 2000, 85:2402−2410をも参照のこと。
【0055】
高トリグリセライド血症は、血液中における高いトリグリセライド濃度により定義される。高脂質血症は、血中における過剰量の脂質の存在により特徴付けられる。IIa型を除くあらゆる高脂質血症(I型、IIb型、III型、IV型及びV型)は、高いトリグリセライド濃度により特徴付けられる。I型高脂質血症は、カイロミクロンにおける著しい上昇及び高いトリグリセライドにより特徴付けられる。カイロミクロンは、少量のコレステロールをも含むので、血清コレステロール濃度も極めて高い。IIb型高脂質血症は、低密度リポタンパク質(LDL)及び極低密度リポタンパク質(VLDL)両者の上昇により引起される、古典的な混合型高脂質血症(高コレステロール及び高トリグリセライド)である。III型高脂質血症も、ベータリポタンパク質異常、レムナントリムーバル疾患(remnant removal disease)、又は広域ベータ病として知られている。典型的に、これらの患者は、高い全体としてのコレステロール及びトリグリセライドレベルを持ち、またIIb型高脂質血症患者との混同を生じ易い。III型高脂質血症に罹っている患者は、中間的密度のリポタンパク質(IDL)、VLDLレムナントにおける上昇を示す。IV型高脂質血症は、VLDL及びトリグリセライドの異常な上昇により特徴付けられる。血清コレステロールレベルは正常である。V型高脂質血症は、I型及びIV型の組合せである(カイロミクロン及びVLDL両者における上昇)。血清コレステロールレベルは、典型的に高いが、LDLコレステロールレベルは、正常である。I型疾患が稀であることが知られているので、高いトリグリセライド濃度が認められた場合には、最も起り易いのは、V型高脂質血症である。
【0056】
極低密度リポタンパク質(VLDL)は、トリグリセライドに富む大きなリポタンパク質であり、これは、血中を循環して、該VLDLレムナントが変性され、またLDLに転化されるまで、脂肪及び筋肉組織にそのトリグリセライドを引き渡す。高密度リポタンパク質(HDL)は、血液中でコレステロールを輸送するリポタンパク質であり、高い割合のタンパク質と比較的僅かなコレステロールで構成され、この濃度が高いことは、冠動脈性心疾患及びアテローム性動脈硬化症の低い危険率と関連しているものと考えられている。
【0057】
代謝性症候群に罹っている人々は、心血管疾患の高い危険率、及び心血管疾患及びその他の原因両者による高い死亡率を持つ。研究は、また該代謝性症候群の一部であるものと提案されたリスクファクタの集合が、冠動脈性心疾患の危険率を高める恐れがあることを見出した。さらに、該代謝性症候群の構成要素は、糖尿病に関するリスクファクタでもある。代謝性症候群は、しばしば、以下の基準の内の3又はそれ以上によって特徴付けられる:
1. 腹部肥満:男性におけるウエスト周〉102cm、女性におけるウエスト周〉88cm;
2. 高トリグリセライド血症:≧150mg/dL(1.695mM/L);
3. 低HDLコレステロール:男性において〈40mg/dL(1.036mM/L)及び女性において〈50mg/dL(1.295mM/L);
4. 高血圧:≧130/85mmHg;
5. 高い空腹時のグルコース濃度:≧110mg/dL(≧6.1mM/L);及び
6. BMI:〉28.8kg/m2
【0058】
代謝性症候群は、同様に糖尿病、低グルコース耐性、低空腹時グルコース、又はインシュリン抵抗性プラス以下に列挙する異常性の内の2又はそれ以上によって特徴付けることもできる:
1. 高血圧:≧160/90mmHg;
2. 高脂血症:トリグリセライド濃度≧150mg/dL(1.695mM/L)及び/又はHDLコレステロール濃度:男性において〈35mg/dL(0.9mM/L)及び女性において〈39mg/dL(1.0mM/L);
3. 中心性肥満:男性において〉0.90又は女性において〉0.85なるウエスト対ヒップ比及び/又はボディマス指数(BMI):〉30kg/m2;及び
4. ミクロアルブミン尿症:尿アルブミン排泄率:≧90μg/分又はアルブミン対クレアチニン比:≧90mg/g。
【0059】
本発明者等は、芳香族−カチオン性ペプチドが、哺乳動物対象における代謝性症候群の予防あるいは治療を可能とすることを見出した。幾つかの場合において、該代謝性症候群は、高い脂肪分の食事、又はより一般的には栄養過多及び運動不足によるものである可能性がある。該芳香族−カチオン性ペプチドは、脂質異常症、中心性肥満、血液脂肪疾患、及びインシュリン抵抗性を含むが、これらに限定されない、代謝性症候群の1又はそれ以上の徴候又は症状を減じることを可能とする。
【0060】
本発明を、特定の作用メカニズムに限定するつもりはないが、ミトコンドリアの完全性及びインシュリン感受性の欠如は、通常の代謝障害、即ち酸化性のストレスに由来するものと考えられる。栄養過多、特に高脂肪分食事による栄養過多は、ミトコンドリア性の反応性酸素種(ROS)放出及び全体的な酸化性ストレスを高める可能性があり、これは、急性及び慢性の、ミトコンドリア性の機能不全及び代謝性症候群両者へと導く可能性がある。該芳香族−カチオン性ペプチドは、これらの効果を和らげ、それによって様々な体組織のミトコンドリア機能を改善し、結果として代謝性症候群と関連する上記リスクファクタの1又はそれ以上を改善する。
【0061】
本件技術は、幾つかの芳香族−カチオン性ペプチドの投与により代謝性症候群の症状の低減に関する。該芳香族−カチオン性ペプチドは、水溶性で高い極性を持つものである。これらの特性にも拘らず、該ペプチドは、細胞膜を容易に透過し得る。該芳香族−カチオン性ペプチドは、典型的に、ペプチド結合によって共有結合により結合された、最低3個のアミノ酸、又は最低4個のアミノ酸を含む。該芳香族−カチオン性ペプチド中に存在するアミノ酸の最大数は、ペプチド結合によって共有結合により結合された、約20個のアミノ酸である。適切には、該アミノ酸の最大数は、約12、約9又は約6個である。
【0062】
該芳香族−カチオン性ペプチドの該アミノ酸は、任意のアミノ酸であり得る。ここで使用する用語「アミノ酸」とは、少なくとも一つのアミノ基及び少なくとも一つのカルボキシル基を含む任意の有機分子を意味するものとして使用される。典型的には、少なくとも一つのアミノ基は、カルボキシル基に対してα−位にある。該アミノ酸は、天然産のものであり得る。天然産のアミノ酸は、例えば20種の最も一般的な、哺乳動物のタンパク質中に見られる左旋性(L)アミノ酸、即ちアラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、及びバリン(Val)を含む。その他の天然産のアミノ酸は、例えばタンパク質合成と関係のない代謝過程において合成されるアミノ酸を包含する。例えば、アミノ酸であるオルニチン及びシトルリンは、尿素の製造中、哺乳動物の代謝において合成される。天然産のアミノ酸のもう一つの例は、ヒドロキシプロリン(Hyp)を含む。
【0063】
該ペプチドは、場合により1種又はそれ以上の非−天然産のアミノ酸を含む。場合により、該ペプチドは、天然産のアミノ酸を含まない。該非−天然産のアミノ酸は、左旋性(L−)、右旋性(D−)、又はこれらの混合物であり得る。該非−天然産のアミノ酸は、典型的には、生きた生物における正常な代謝過程において合成されることのない、非−天然産のアミノ酸であり、また当然タンパク質中には存在しない。その上、該非−天然産のアミノ酸は、適切には、通常のプロテアーゼによって認識されることもない。該非−天然産のアミノ酸は、該ペプチドの任意の位置に存在し得る。例えば、該非−天然産のアミノ酸は、N−末端、C−末端、又は該N−末端と該C−末端との間の任意の位置に存在し得る。
【0064】
該非−天然アミノ酸は、例えば、天然アミノ酸には見られないアルキル、アリール、又はアルキルアリール基を含むことができる。非−天然アルキルアミノ酸の幾つかの例は、α−アミノ酪酸、β−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、δ−アミノ吉草酸、及びε−アミノカプロン酸を包含する。非−天然アリールアミノ酸の幾つかの例は、o−、m−、及びp−アミノ安息香酸を含む。非−天然アルキルアリールアミノ酸の幾つかの例は、o−、m−、及びp−アミノフェニル酢酸、及びγ−フェニル−β−アミノ酪酸を含む。非−天然産のアミノ酸は、天然産アミノ酸の誘導体を含む。該天然産アミノ酸の誘導体は、例えば、該天然産アミノ酸に対する、1種又はそれ以上の化学基の付加を含むことができる。
【0065】
例えば、1種又はそれ以上の化学基は、フェニルアラニン又はチロシン残基の芳香族リングの2'、3'、4'、5'、又は6'−位、又はトリプトファン残基のベンゾリングの4'、5'、6'、又は7'−位の、1又はそれ以上の位置に付加することができる。該基は、芳香族リングに付加することのできる任意の化学基であり得る。このような基の幾つかの例は、分岐した又は分岐していないC1−C4アルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、又はt−ブチル基、C1−C4アルキルオキシ基(即ち、アルコキシ基)、アミノ基、C1−C4アルキルアミノ基及びC1−C4ジアルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基)、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(即ち、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨード)を含む。天然産アミノ酸の非−天然産アミノ酸誘導体の幾つかの具体的な例は、ノルバリン(Nva)及びノルロイシン(Nle)を含む。
【0066】
ペプチド内のアミノ酸の変性に係るもう一つの例は、該ペプチドのアスパラギン酸又はグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化である。誘導体化の一例は、アンモニア又は一級又は二級アミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン又はジエチルアミンによるアミド化である。誘導体化のもう一つの例は、例えばメチル又はエチルアルコールによるエステル化である。もう一つのこのような変性は、リジン、アルギニン、又はヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化を含む。例えば、このようなアミノ基はアシル化することができる。幾つかの適当なアシル基は、例えば上記の如きC1−C4アルキル基の何れかを含む、ベンゾイル基又はアルカノイル基、例えばアセチル又はプロピオニル基を含む。
【0067】
該非−天然産アミノ酸は、通常のプロテアーゼに対して、好ましくは抵抗性であり、及びより好ましくは非−感受性である。プロテアーゼに対して抵抗性又は非−感受性である非−天然産アミノ酸の例は、任意の上記天然産のL−アミノ酸の右旋性(D−)形状のもの、並びにL−及び/又はD−非−天然産アミノ酸を包含する。該D−アミノ酸は、通常タンパク質中に存在しないが、これらは、細胞の通常のリボソームタンパク質合成装置以外の手段によって合成される、幾つかのペプチド抗生物質中に見られる。ここで使用するような該D−アミノ酸は、非−天然産のアミノ酸であると考えられる。
【0068】
プロテアーゼ感受性を最小化するために、これらのペプチドは、該アミノ酸が天然産又は非−天然産の何れであるかとは無関係に、5個未満、4個未満、3個未満、又は2個未満の、通常のプロテアーゼにより認識される隣接アミノ酸を持つべきである。一態様において、該ペプチドは、D−アミノ酸のみを含み、L−アミノ酸を含まない。該ペプチドが、プロテアーゼ感受性のアミノ酸配列を含む場合、該アミノ酸の少なくとも一つは、非−天然産のD−アミノ酸であって、結果としてプロテアーゼ抵抗性を付与することができる。プロテアーゼ感受性配列の一例は、エンドペプチダーゼ及びトリプシン等の通常のプロテアーゼによって容易に開裂される、2又はそれ以上の隣接塩基性アミノ酸を含む。塩基性アミノ酸の例は、アルギニン、リジン及びヒスチジンを包含する。
【0069】
本発明の芳香族−カチオン性ペプチドは、該ペプチド内の全アミノ酸残基数に対して、生理的pHにおいて、最小数の正味の正電荷を持つべきである。生理的pHにおける該最小の正味の正電荷数は、以下において「pm」と呼ぶことにする。該ペプチド中の全アミノ酸残基数は、以下において「r」と呼ぶことにする。以下において論じる該最小の正味の正電荷数は、全て生理的pHにおける値である。ここで使用する用語「生理的pH」とは、前記哺乳動物体の組織及び器官の細胞内における正常なpHを意味する。例えば、ヒトの生理的pHは、通常約7.4であるが、哺乳動物における正常な生理的pHは、約7.0〜約7.8なる範囲内の任意のpHであり得る。
【0070】
ここで使用する「正味の電荷」とは、該ペプチド中に存在するアミノ酸の担持する、正電荷数と負電荷数との差を意味する。本明細書において、正味の電荷は、生理的pHの下で測定されたものと理解される。生理的pHにおいて正に帯電した上記天然産のアミノ酸は、L−リジン、L−アルギニン及びL−ヒスチジンを含む。生理的pHにおいて負に帯電した上記天然産のアミノ酸は、L−アスパラギン酸及びL−グルタミン酸を含む。
【0071】
典型的に、ペプチドは、正に帯電したN−末端アミノ基及び負に帯電したC−末端カルボキシル基を持つ。これら電荷は、生理的pHにおいて相互に打消し合っている。正味の電荷算出の一例として、ペプチド:Tyr−D−Arg−Phe−Lys−Glu−His−Trp−D−Argは、一つの負に帯電したアミノ酸(即ち、Glu)と、4個の正に帯電したアミノ酸(即ち、2つのArg残基、一つのLys及び一つのHis)を持つ。従って、上記ペプチドは、3という正味の正電荷を持つ。
一態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、生理的pHにおける該最小の正味の正電荷数「pm」と、上記全アミノ酸残基数「r」との間にある関連性を有しており、ここでは3pmが最大数であり、これはr+1に等しいか、あるいはそれ未満である。この態様において、該最小の正味の正電荷数「pm」と、該全アミノ酸残基数「r」との間の関係は、以下の通りである:
【0072】
【表1】

【0073】
もう一つの態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、該最小数の正味の正電荷「pm」と、上記全アミノ酸残基数「r」との間にある関連性を有しており、ここでは2pmが最大数であり、これはr+1に等しいか、あるいはそれ未満である。この態様において、該最小の正味の正電荷数「pm」と、該全アミノ酸残基数「r」との間の関係は、以下の通りである:
【0074】
【表2】

【0075】
一態様において、該最小の正味の正電荷数「pm」及び該全アミノ酸残基数「r」は等しい。もう一つの態様において、該ペプチドは、3又は4個のアミノ酸残基、及び最低1個の正味の正電荷、好ましくは最低2個の正味の正電荷及びより好ましくは最低3個の正味の正電荷を含む。
【0076】
該芳香族−カチオン性ペプチドが、全正味の正電荷数「pt」に比して、最小の芳香族基数を持つことも重要である。該最小の芳香族基数は、以下において「a」と呼ぶことにする。一つの芳香族基を持つ天然産のアミノ酸は、以下のアミノ酸、即ちヒスチジン、トリプトファン、チロシン、及びフェニルアラニンを包含する。例えば、ヘキサペプチド:Lys−Gln−Tyr−D−Arg−Phe−Trpは、2個の正味の正電荷(リジン及びアルギニン残基による寄与)及び3個の芳香族基(チロシン、フェニルアラニン及びトリプトファン残基による寄与)を有する。
該芳香族−カチオン性ペプチドも、また該最小の芳香族基数「a」と、生理的pHにおける該全正味の正電荷「pt」との間に、ある関連性を持つはずであり、ここでは3aが最大数であり、これはpt+1に等しいか、あるいはそれ未満である。但し、ptが1である場合には、aも1であり得る。この態様において、該最小の芳香族基数「a」と、該全正味の正電荷数「pt」との間の関係は、以下の通りである:
【0077】
【表3】

【0078】
もう一つの態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、該最小の芳香族基数「a」と、該全正味の正電荷「pt」との間に、ある関連性を持ち、ここでは2aが最大数であり、これはpt+1に等しいか、あるいはそれ未満である。この態様において、該最小の芳香族アミノ酸残基数「a」と、該全正味の正電荷数「pt」との間の関係は、以下の通りである:
【0079】
【表4】

【0080】
もう一つの態様において、該芳香族基数「a」と、該全正味の正電荷数「pt」とは、相互に等しい。
カルボキシル基、特にC−末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、好ましくは、例えばアンモニアでアミド化されて、C−末端アミドを形成する。あるいはまた、該C−末端アミノ酸の該末端カルボキシル基は、任意の一級又は二級アミンでアミド化することができる。該一級又は二級アミンは、例えばアルキル、特に分岐した又は分岐していないC1−C4アルキル、又はアリールアミンであり得る。従って、上記ペプチドのC−末端におけるアミノ酸は、アミド、N−メチルアミド、N−エチルアミド、N,N−ジメチルアミド、N,N−ジエチルアミド、N−メチル−N−エチルアミド、 N−フェニルアミド又はN−フェニル−N−エチルアミド基に転化することができる。該芳香族−カチオン性ペプチドのC−末端には現れないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸残基の遊離カルボキシレート基も、これらが該ペプチド内に存在する場合には、何れにおいてもアミド化することができる。これらの内部位置における該アミド化は、アンモニア又は任意の上記の如き一級又は二級アミンを用いて行うことができる。
【0081】
一態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、2個の正味の正電荷を持ち、かつ少なくとも一つの芳香族アミノ酸を含むトリペプチドである。特定の一態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドは、2個の正味の正電荷を持ち、かつ2つの芳香族アミノ酸を含むトリペプチドである。
【0082】
芳香族−カチオン性ペプチドの例は、以下に列挙するものを含むが、これらに限定されない:
Lys−D−Arg−Tyr−NH2
Phe−D−Arg−His
D−Tyr−Trp−Lys−NH2
Trp−D−Lys−Tyr−Arg−NH2
Tyr−His−D−Gly−Met
Phe−Arg−D−His−Asp
Tyr−D−Arg−Phe−Lys−Glu−NH2
Met−Tyr−D−Lys−Phe−Arg
D−His−Glu−Lys−Tyr−D−Phe−Arg
Lys−D−Gln−Tyr−Arg−D−Phe−Trp−NH2
Phe−D−Arg−Lys−Trp−Tyr−D−Arg−His
Gly−D−Phe−Lys−Tyr−His−D−Arg−Tyr−NH2
Val−D−Lys−His−Tyr−D−Phe−Ser−Tyr−Arg−NH2
Trp−Lys−Phe−D−Asp−Arg−Tyr−D−His−Lys
Lys−Trp−D−Tyr−Arg−Asn−Phe−Tyr−D−His−NH2
Thr−Gly−Tyr−Arg−D−His−Phe−Trp−D−His−Lys
Asp−D−Trp−Lys−Tyr−D−His−Phe−Arg−D−Gly−Lys−NH2
D−His−Lys−Tyr−D−Phe−Glu−D−Asp−D−His−D−Lys−Arg−Trp−NH2
Ala−D−Phe−D−Arg−Tyr−Lys−D−Trp−His−D−Tyr−Gly−Phe
Tyr−D−His−Phe−D−Arg−Asp−Lys−D−Arg−His−Trp−D−His−Phe
Phe−Phe−D−Tyr−Arg−Glu−Asp−D−Lys−Arg−D−Arg−His−Phe−NH2
Phe−Try−Lys−D−Arg−Trp−His−D−Lys−D−Lys−Glu−Arg−D−Tyr−Thr
Tyr−Asp−D−Lys−Tyr−Phe−D−Lys−D−Arg−Phe−Pro−D−Tyr−His−Lys
Glu−Arg−D−Lys−Tyr−D−Val−Phe−D−His−Trp−Arg−D−Gly−Tyr−Arg−D−Met−NH2
Arg−D−Leu−D−Tyr−Phe−Lys−Glu−D−Lys−Arg−D−Trp−Lys−D−Phe−Tyr−D−Arg−Gly
D−Glu−Asp−Lys−D−Arg−D−His−Phe−Phe−D−Val−Tyr−Arg−Tyr−D−Tyr−Arg−His−Phe−NH2
Asp−Arg−D−Phe−Cys−Phe−D−Arg−D−Lys−Tyr−Arg−D−Tyr−Trp−D−His−Tyr−D−Phe−Lys−Phe
His−Tyr−D−Arg−Trp−Lys−Phe−D−Asp−Ala−Arg−Cys−D−Tyr−His−Phe−D−Lys−Tyr−His−Ser−NH2
Gly−Ala−Lys−Phe−D−Lys−Glu−Arg−Tyr−His−D−Arg−D−Arg−Asp−Tyr−Trp−D−His−Trp−His−D−Lys−Asp
Thr−Tyr−Arg−D−Lys−Trp−Tyr−Glu−Asp−D−Lys−D−Arg−His−Phe−D−Tyr−Gly−Val−Ile−D−His−Arg−Tyr−Lys−NH2
【0083】
芳香族−カチオン性ペプチドの一例は、Phe−D−Arg−Phe−Lys−NH2(ここでは、「SS−20」と称する)である。もう一つの芳香族−カチオン性ペプチドの例は、D−Arg−2'6'−Dmt−Lys−Phe−NH2(SS−31)である。
【0084】
該ペプチドの適当な置換変異型は、同類アミノ酸置換体を含む。アミノ酸は、その物理化学的諸特性に従って、以下のように分類し得る:
(a) 非−極性アミノ酸:Ala(A)、Ser(S)、Thr(T)、Pro(P)、Gly(G)、Cys(C);
(b) 酸性アミノ酸:Asn(N)、Asp(D)、Glu(E)、Gln(Q);
(c) 塩基性アミノ酸:His(H)、Arg(R)、Lys(K);
(d) 疎水性アミノ酸:Met(M)、Leu(L)、Ile(I)、Val(V);及び
(e) 芳香族アミノ酸:Phe(F)、Tyr(Y)、Trp(W)、His(H)。
【0085】
ペプチド中の1個のアミノ酸の、同一群内の他のアミノ酸による置換は、同類置換と呼ばれ、また該元のペプチドの物理化学的諸特性を維持できる。これとは対照的に、ペプチド中の1個のアミノ酸の、異なる群内の他のアミノ酸による置換は、一般的に、該元のペプチドの物理化学的諸特性を、より一層変更し易い。
μ−オピオイドレセプタを活性化する類似体の例は、以下の表5に示す芳香族−カチオン性ペプチドを含むが、これらに限定されない:
【0086】
【表5】







Dab = ジアミノ酪酸基
Dap = ジアミノプロピオン酸
Dmt = ジメチルチロシン
Mmt = 2'−メチルチロシン
Tmt = N,2',6'−トリメチルチロシン
Hmt = 2'−ヒドロキシ−6'−メチルチロシン
dnsDap = β−ダンシル−L−α,β−ジアミノプロピオン酸
atnDap = β−アントラニロイル−L−α,β−ジアミノプロピオン酸
Bio = ビオチン
【0087】
μ−オピオイドレセプタを活性化しない類似体の例は、以下の表6に示す芳香族−カチオン性ペプチドを含むが、これらに限定されない:
【0088】
【表6】

Cha = シクロヘキシルアラニン
【0089】
表5及び6に示したペプチドのアミノ酸は、L−又はD−配置の何れであってもよい。
これらのペプチドは、当分野において周知の任意の方法によって合成し得る。該タンパク質を化学的に合成するための適当な方法は、例えばStuart & Youngにより、固相ペプチド合成(Solid Phase Peptide Synthesis), 第2版, ピアースケミカル社(Pierce Chemical Company)(1984)及びMethods Enzymol. 289, アカデミックプレス社(Academic Press, Inc)刊, NY (1997)に記載されているものを含む。
【0090】
芳香族−カチオン性ペプチドの予防及び治療的な使用
一般的原則:本明細書において記載される芳香族−カチオン性ペプチドは、疾患の予防並びに治療のために有用である。具体的に言えば、本開示は、代謝性症候群の恐れのある(又はこれに罹り易い)対象を治療するための予防的及び治療的方法両者を提供する。代謝性症候群は、一般的にII型糖尿病、冠動脈疾患、腎機能不全、アテローム性動脈硬化症、肥満、脂質異常症、本態性高血圧と関連している。従って、本発明の方法は、有効量の芳香族−カチオン性ペプチドを、代謝性症候群又は関連する状態の予防及び/又は治療を要する対象に投与することによって、該対象における該症候群又は状態を予防及び/又は治療する目的で提供される。例えば、対象には、代謝性症候群に寄与する上記ファクタの1又はそれ以上を改善するために、芳香族−カチオン性ペプチドを投与することができる。
【0091】
一局面において、本発明の技術は、哺乳動物における代謝性症候群と関連する特定の疾患、例えば肥満、糖尿病、高血圧、及び高脂質血症を、芳香族−カチオン性ペプチドを投与することにより治療し又は予防する方法を提供する。幾つかの態様において、該特定の疾患は、肥満である。幾つかの態様において、該特定の疾患は、脂質異常症(即ち、高脂質血症)である。
【0092】
該芳香族−カチオン性ペプチドを主成分とする治療薬の生物学的効果の測定:様々な態様において、適当なインビトロ又はインビボアッセイを、特定の芳香族−カチオン性ペプチドを主成分とする治療薬の効果及びその投与が、代謝性症候群の治療にとって必要か否かを決定するために行う。様々な態様において、インビトロアッセイは、上記対象の疾患に関与している型の代表的な細胞を用いて行い、与えられた芳香族−カチオン性ペプチドを主成分とする治療薬が、該細胞型に対して所定の効果を及ぼすか否かを決定することができる。治療において使用するための化合物は、ヒト対象におけるテストに先立って、適当な動物モデル系、例えばラット、マウス、家禽、ウシ、サル、ウサギ等を含むがこれらに限定されない動物モデル系において、テストすることができる。同様に、インビボテストのために、当分野において公知の任意の動物モデル系を、ヒト対象に投与する前に、使用することができる。代謝性症候群と関連する状態は、体重、空腹時グルコース/インシュリン/遊離脂肪酸、グルコース耐性(OGTT)、コレステロール及びトリグリセライドレベル、血圧、インビトロ筋肉インシュリン感受性、インシュリンシグナル発生マーカー(例えば、Akt−P、IRS−P)、ミトコンドリア機能(例えば、呼吸又はH2O2放出)、細胞内酸化ストレスマーカー(例えば、脂質過酸化、GSH/GSSG比又はアコニターゼ活性)又はミトコンドリア酵素活性を定量することにより、容易に決定することができる。該空腹時グルコース/インシュリン/遊離脂肪酸、グルコース許容度(OGTT)、コレステロール及びトリグリセライドレベルは、標準的な臨床実験技術、例えば臨床化学におけるティーツの教科書(Tietz Textbook of Clinical Chemistry),第4版. Burtis CA及びAshwood ER編, 2005において見出すことのできる技術を用いて測定することができる。
【0093】
一態様において、1又はそれ以上の代謝性症候群に関連する状態を呈する対象に対する、芳香族−カチオン性ペプチドの投与は、これら状態の1又はそれ以上を改善するであろう。例えば、対象は、該芳香族−カチオン性ペプチドの投与を受ける前の該対象に比して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、又は少なくとも約50%の体重における減少を示す可能性がある。一態様において、対象は、該芳香族−カチオン性ペプチドの投与を受ける前の該対象に比して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、又は少なくとも約50%のHDLコレステロール濃度における低下及び/又は少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、又は少なくとも約50%のLDLコレステロール濃度における増加を示す可能性がある。一態様において、対象は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、又は少なくとも約50%の血清トリグリセライド濃度における低下を示す可能性がある。一態様において、対象は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、又は少なくとも約50%の経口グルコース耐性(OGTT)における改善を示す可能性がある。幾つかの態様において、対象は、2以上の代謝性症候群に関連する状態における、観測し得る改善性を示す可能性がある。
【0094】
予防法:一局面において、本発明は、対象における、骨格筋組織における代謝性症候群と関連する疾患又は状態を、該対象に芳香族−カチオン性ペプチドを投与することによって、予防する方法を提供するものであり、該ペプチドは代謝性症候群の1又はそれ以上の徴候又はマーカー、例えば体重、血清トリグリセライド又はコレステロール濃度、空腹時グルコース/インシュリン/遊離脂肪酸、グルコース耐性(OGTT)、インビトロ筋肉インシュリン感受性、インシュリンシグナル発生マーカー(例えば、Akt−P、IRS−P)、ミトコンドリア機能(例えば、呼吸又はH2O2放出)、細胞内酸化ストレスマーカー(例えば、脂質過酸化、GSH/GSSG比又はアコニターゼ活性)又はミトコンドリア酵素活性を調節する。該空腹時グルコース/インシュリン/遊離脂肪酸、グルコース耐性(OGTT)、コレステロール又はトリグリセライド濃度等は、標準的な臨床実験技術、例えば臨床化学におけるティーツの教科書(Tietz Textbook of Clinical Chemistry),第4版. Burtis CA及びAshwood ER編, 2005において見出すことのできる技術を用いて測定することができる。
【0095】
代謝性症候群に関する危険性を持つ対象は、例えば、本明細書に記載される診断又は予後的なアッセイの何れか又はこれらの組合せによって確認することができる。予防的な用途においては、芳香族−カチオン性ペプチドを含む薬理組成物又は医薬を、疾患又は状態に罹り易い、あるいはさらにこれに罹る危険性のある対象に、該疾患の生化学的、組織学的及び/又は行動科学的症状を包含する該疾患、その合併症及びこれらの疾患の発現中に示される、中間的な病理学的表現型の危険率を排除又は低下し、その重篤度を軽減し、あるいは発症を遅延させるのに十分な量で投与する。予防的な芳香族−カチオン性ペプチドの投与は、該異常性の特徴である症状の出現前に、疾患又は障害が防止され、あるいはまたその進行を遅らせるように、行うことができる。異常性の型に依存して、例えばミトコンドリア機能を増強又は改善するように機能する芳香族−カチオン性ペプチドを、該対象の治療の目的で使用することができる。適当な化合物は、ここに記載されるスクリーニングアッセイに基いて決定することができる。
【0096】
治療法:本発明の技術のもう一つの局面は、治療の目的で、対象における代謝性症候群と関連する症状を軽減する方法を含む。治療的用途においては、上記組成物又は医薬は、このような疾患に罹っている恐れのある、又は既に罹っている対象に、該疾患の合併症及び該疾患の発症中の、中間的な病理学的表現型を含む該疾患の症状を治癒させ、あるいは少なくとも部分的に抑えるのに十分な量で投与される。故に、本発明は、代謝性症候群又は代謝性症候群−関連疾患又は障害に罹っている個体の治療方法を提供する。
【0097】
本発明の開示は、該芳香族−カチオン性ペプチドの治療と、血圧、血中トリグリセライドレベル、又は高コレステロールレベルに対する1又はそれ以上の治療との組合せを意図している。代謝性症候群、肥満、インシュリン抵抗性、高血圧、脂質異常症等の治療は、また体重減及び運動、及び食事の変更等を包含する、様々な他の方法を含むことができる。これらの食事上の変更は、以下に列挙するものを含む:炭水化物を、全カロリーの50%又はそれ未満に制限した食事;複合炭水化物として定義されている食物、例えば全粒粉製のパン(精白小麦粉製のパンの代わりに)、玄米(白米の代わりに)、精白されていない砂糖の摂取;豆類(例えば、インゲン)、全粒、果物及び野菜を食することによる食物繊維消費量の増大;赤身の肉及びトリ肉摂取量の低減、「健康的な」脂肪、例えばオリーブオイル、亜麻仁油及びナッツ中の脂肪の消費、アルコール摂取量の低減等。さらに、血圧、及び血中トリグリセライドレベルの治療は、凝固、塞栓性疾患(例えば、アスピリン療法による)及び一般的にはプロトロンビン性又は前炎症性の状態の治療におけるように、様々な利用可能な薬物(例えば、コレステロール調節性薬物)によって調節し得る。代謝性症候群が糖尿病に導く場合には、勿論この疾患に対して利用可能な多くの治療法がある。
【0098】
投与方法及び有効投与量
細胞、器官又は組織とペプチドとを接触させるために、当業者には公知の任意の方法が利用できる。適当な方法は、インビトロ、エクスビボ、又はインビボ法を含む。インビボ法は、典型的には、上記の如き芳香族−カチオン性ペプチドを、哺乳動物、好ましくはヒトに投与する工程を含む。治療のためにインビボで使用する場合、該芳香族−カチオン性ペプチドは、その有効量(即ち、所定の治療効果を示す量)で、該対象に投与される。その用量及び投薬法は、該対象における該代謝性症候群の程度、使用する特定の芳香族−カチオン性ペプチドの諸特性、例えばその治療指数、該対象及び該対象の病歴に依存するであろう。
【0099】
該有効量は、予備臨床的試行及び臨床的試行中に、医師及び臨床医にはなじみの方法によって決定することができる。本発明の方法において、好ましくは薬理組成物において有用なペプチドの有効量は、その投与が必要とされる哺乳動物に、薬理的化合物を投与するための、多数の周知方法の何れかによって投与することができる。該ペプチドは、全身的に又は局所的に投与することができる。
【0100】
ここに記載した該芳香族−カチオン性ペプチドは、単独で又は組合せて、ここに記載の疾患を治療又は予防するために、対象に投与するための薬理組成物に配合することができる。このような組成物は、典型的に活性薬剤及び製薬的に許容される担体を含む。ここで使用する用語「製薬的に許容される担体」とは、薬学的投与に適合性の、生理食塩水、溶媒、分散用媒体、被覆、抗菌並びに抗真菌薬、等張及び吸収遅延剤等を含む。補助的な活性化合物も、該組成物に配合することができる。
【0101】
薬理組成物は、典型的には、その意図された投与経路と適合するように処方される。投与経路の例は、非−経口(例えば、静脈内、皮内、腹腔内又は皮下投与)、経口、吸入、経皮(局所)、及び経粘膜投与経路を含む。非−経口、皮内、又は皮下投与経路での適用のために使用される液剤又は懸濁剤は、以下の成分を含むことができる:無菌希釈剤、例えば注射用の水、塩溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌薬、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;酸化防止剤、例えばアスコルビン酸又はナトリウムビスルフィット;キレート化剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;バッファー、例えばアセテート、シトレート又はリン酸塩及び張性調節用薬剤、例えば塩化ナトリウム又はデキストロース。pHは酸又は塩基、例えば塩酸又は水酸化ナトリウムで調節することができる。上記非−経口投与用の調剤は、ガラス又はプラスチックで作られたアンプル、使い捨て注射器又は多重投与用のバイアル中に封入することができる。該患者及び治療医師の便宜のために、該投与処方物は、治療クール(例えば、7日間に渡る治療クール)のために必要な、あらゆる器具(例えば、薬物を含むバイアル、希釈剤を含むバイアル、注射器及び注射針)を含むキットとして提供し得る。
【0102】
注射用途に適した薬理組成物は、無菌水性溶液(水溶性である場合)又は分散液及び無菌注射溶液又は分散液をその場で調製するための無菌粉末を含むことができる。静脈内投与のために、適当な担体は、生理食塩水、静菌化水、クレモフォア(Cremophor) ELTM(N.J.シュウパーシパニー(Parsippany)の、バスフ(BASF)社)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。全ての場合において、非−経口投与用の組成物は、滅菌されている必要があり、また注入容易性を持つ程度まで、流動性であるべきである。該組成物は、製造並びに保存条件下で安定であるべきであり、また細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。
【0103】
該芳香族−カチオン性ペプチド組成物は、担体を含むことができ、該担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液状ポリエチレングリコール等)、及び適当なこれらの混合物を含む、溶媒又は分散媒体であり得る。上記の適当な流動性は、例えばレシチン被膜等の被膜の使用により、分散液の場合には所望の粒径を維持することにより、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の阻害は、様々な抗菌及び抗真菌薬、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チオメラゾール(thiomerasol)等によって達成し得る。グルタチオン及び他の酸化防止剤を含めて、酸化を防止することができる。多くの場合においては、等張剤、例えば砂糖、ポリアルコール、例えばマニトール、ソルビトール、又は塩化ナトリウムを、該組成物中に含めることが好ましいであろう。該注射し得る組成物の長期に渡る吸収性は、該組成物中に、吸収を遅延する薬剤、例えばアルミニウムモノステアレート又はゼラチンを含めることによって、該組成物に付与することができる。
【0104】
無菌注射溶液は、必要に応じて、上に列挙した成分の一種又はその組合せと共に、必要量の上記活性化合物を配合し、次いで滅菌濾過することにより調製し得る。一般に、分散液は、無菌賦形剤に該活性化合物を配合することにより調製され、ここで該無菌賦形剤は、基本的な分散媒及び上に列挙したものから選ばれる必要な他の成分を含む。無菌注射溶液を製造するための無菌粉末の場合、典型的な製法は、真空乾燥及び凍結乾燥を含み、これは該活性成分と、前もって滅菌濾過処理された、所望成分の溶液由来の全ての追加の成分との粉末を生成し得る。
【0105】
経口投与用の組成物は、一般に不活性な希釈剤又は食用担体を含む。経口による治療目的での投与のためには、該活性化合物は、賦形剤と共に配合でき、また錠剤、トローチ、又はカプセル、例えばゼラチンカプセルとして使用し得る。経口投与用組成物は、また口内洗剤として使用するための流体状の担体を用いて製造し得る。製薬的に適合性の結合剤、及び/又は添加剤物質を、該組成物の一部として含めることができる。該錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等は、以下の成分の何れか、又は同様な特性を持つ化合物を含むことができる:即ち、バインダ、例えばミクロクリスタリンセルロース、トラガカンスゴム又はゼラチン;賦形剤、例えばデンプン又はラクトース、崩壊剤、例えばアルギン酸、プリモゲル(Primogel)、又はコーンスターチ;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム又はステロート(Sterotes);グリダント、例えばコロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、例えばスクロース又はサッカリン;又は香味剤、例えばペパーミント、メチルサリチレート、又はオレンジ香料。
【0106】
吸入による投与に対しては、該化合物は、適当な噴射剤、例えば二酸化炭素等のガスを含む、加圧容器又はディスペンサー、あるいはネブライザーからのエーロゾルスプレイとして送達することができる。このような方法は、米国特許第6,468,798号に記載されているものを含む。
【0107】
本明細書に記載するような治療化合物の全身的な投与は、また経粘膜又は経皮手段によるものであり得る。経粘膜又は経皮投与のためには、透過すべきバリアにとって適した浸透剤が、該処方物において使用される。このような浸透剤は、一般に当分野において公知であり、また例えば経粘膜投与に対しては、洗浄剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体を包含する。経粘膜投与は、鼻スプレイの使用を通して達成することができる。経皮投与のためには、該活性化合物は、当分野において一般的に公知である如く、軟膏剤、膏剤、ゲル剤、又はクリームとして処方される。一態様において、経皮投与は、イオン導入により行うことができる。
【0108】
治療用タンパク質又はペプチドは、担体系内に処方することができる。該担体は、コロイド系であり得る。該コロイド系は、リポソーム、リン脂質二層媒介物であり得る。一態様において、該治療用ペプチドをリポソーム内に封入し、一方でペプチドの完全性を維持する。当業者には理解されるように、リポソームを製造するための様々な方法がある(例えば、Lichtenberg等, Methods Biochem. Anal., 1988, 33:337−462;Anselem等, リポソーム技術(Liposome Technology), CRCプレス刊, 1993)を参照のこと)。リポソーム処方物は、クリアランスを遅延させることができ、また細胞による取込み率を高めることを可能とする(Reddy, Ann. Pharmacother., 34 (7−8):915−923 (2000)を参照のこと)。
【0109】
該担体は、またポリマー、例えば生分解性、生体適合性ポリマーマトリックスであり得る。一態様においては、該治療用ペプチドを該ポリマーマトリックス内に包埋し、かつペプチドの完全性を維持することができる。該ポリマーは、天然ポリマー、例えばポリペプチド、タンパク質又は多糖、あるいは合成ポリマー、例えばポリ(α−ヒドロキシ酸)であり得る。その例は、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、多糖、フィブリン、ゼラチン、及びこれらの組合せで作られた担体を含む。一態様において、該ポリマーは、ポリ(乳酸)(PLA)又はコポリ(乳酸/グリコール酸)(PGLA)である。該ポリマーマトリックスは、微小球及びナノ球を包含する様々な形状及びサイズで製造し、また単離することができる。ポリマー処方物は、治療効果の長期持続性をもたらす(これについては、Reddy, Ann. Pharmacother., 34 (7−8):915−923 (2000)を参照のこと)。ヒト成長ホルモン(hGH)に関するポリマー処方物は、臨床的な試みにおいて使用されている(これについては、Kozarich & Rich, Chemical Biology, 2:548−552 (1998)を参照のこと)。
【0110】
幾つかの態様において、該治療用化合物は、身体からの迅速な排除に対して、該治療化合物を保護する担体と共に処方されて、例えばインプラント及びマイクロカプセル化送達系を含む、制御放出処方物等を与える。生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ酢酸等を使用することができる。このような処方物は、公知技術を利用して製造することができる。これらの材料は、また市販品として、例えばアルザ社(Alza Corporation)及びノバファーマシューティカルズ社(Nova Pharmaceuticals, Inc.)から得ることもできる。リポソーム懸濁液(細胞−特異的抗原に対するモノクローナル抗体を含む、特定の細胞を標的とするリポソームを包含する)も、製薬上許容される担体として使用することができる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号に記載されているような、当業者には公知の方法に従って製造することができる。
【0111】
該治療化合物は、また細胞内放出を増強するように処方することもできる。例えば、リポソーム放出系は、当分野において公知である。これについては、例えばChonn & Cullis,「リポソーム薬物放出系における最近の進歩(Recent Advances in Liposome Drug Delivery Systems)」, Current Opinion in Biotechnology, 6:698−708 (1995);Weiner,「タンパク質放出用リポソーム:選択的製造並びに発現方法(Liposomes for Protein Delivery: Selecting Manufacture and Development Processes)」, Immunomethods, 4 (3) 201−9 (1994);及びGregoriadis,「薬物放出のためのリポソーム処理:進歩及び問題点(Engineering Liposomes for Drug Delivery: Progress and Problems)」, Trends Biotechnol. 13 (12):527−37 (1995)を参照することができる。Mizguchi等は、Cancer Lett. 100:63−69 (1996)において、インビボ及びインビトロ両者において、細胞にタンパク質を送達するための、融合誘導リポソームの使用を記載している。
【0112】
該治療薬の投与量、毒性及び治療上の効力は、例えばLD50(個体群の50%に対する致死用量)及びED50(個体群の50%において治療上有効な用量)を決定するための、細胞培養又は実験動物技術における標準的な製薬学的手順によって、測定することができる。毒性及び治療効果間の用量比は、治療指数であり、またこれは、比:LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。有毒の副作用を呈する化合物を使用することができるが、このような化合物が患部組織を標的とし、影響を受けていない細胞に対する起り得る損傷を最小化し、結果として副作用を減じるような放出系を設計すべく注意を払うべきである。
【0113】
該細胞培養及び実験動物研究から得たデータは、ヒトにおいて使用するための用量範囲を公式化する上で利用できる。このような化合物の用量は、好ましくは、殆ど又は全く毒性を伴うことのない、ED50を含む、循環濃度範囲内にある。該投与量は、使用する投与剤形及び利用する投与経路に依存して、上記範囲内で変えることができる。本発明の方法において使用する任意の化合物に対して、その治療上有効な用量は、初めに細胞培養アッセイから見積もることができる。用量は、動物モデルにおいて、細胞培養において決定された如きID50(即ち、症状の1/2最大阻害率を達成する、該テスト化合物の濃度)を含む、循環血漿濃度を達成するように処方し得る。このような情報は、ヒトにおける有用な用量を、より正確に決定するために利用することができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィー法によって測定することができる。
【0114】
典型的には、治療又は予防効果を達成するのに十分な、芳香族−カチオン性ペプチドの有効量は、約0.000001mg/kg体重/日〜約10,000mg/kg体重/日なる範囲内にある。好ましくは、該投与量範囲は、約0.0001mg/kg体重/日〜約100mg/kg体重/日なる範囲内にある。例えば、投与量は毎日、2日目毎に、3日目毎に1mg/kg体重又は10mg/kg体重なる値、又は毎週、2週目毎に又は3週目毎に1−10mg/kgなる範囲の値であり得る。一態様において、ペプチドの一回の用量は、0.1−10,000μg/kg体重なる範囲にある。一態様において、担体中の芳香族−カチオン性ペプチドの濃度は、0.2〜2,000μg/放出体積(mL)なる範囲内にある。一例示的治療方式は、1日当たり1回又は1週当たり1回の投与を、必然的に伴う。治療目的の用途において、しばしば、該疾患の進行を減じ、あるいは終結させるまで、また好ましくは該対象が、疾患の症状の部分的又は完全な改善を示すまで、比較的短期間にて、比較的高い投与量が必要とされる。その後、該患者は、予防的処置方式により処理される。
【0115】
幾つかの態様において、芳香族−カチオン性ペプチドの治療上有効な量は、10−11〜10−6モルなる範囲、例えば約10−7モルなる、該ターゲット組織における該ペプチドの濃度として定義することができる。この濃度は、0.001〜100mg/kg又は身体表面積に対して等価な用量なる、全身的な用量で放出することができる。投与スケジュールは、該ターゲット組織における治療濃度を、最も好ましくは毎日又は毎週1回の投与によって維持するように最適化され、さらに該スケジュールは、連続的な投与(例えば、腸管外輸液又は経皮経路での適用)をも含むであろう。
【0116】
幾つかの態様において、該芳香族−カチオン性ペプチドの投薬量は、「低」、「中」又は「高」用量レベルで与えられる。一態様において、該低用量は、約0.0001〜約0.5mg/kg/hなる範囲、適切には約0.01〜約0.1mg/kg/hなる範囲で与えられる。一態様において、該中−用量は、約0.1〜約1.0mg/kg/hなる範囲、適切には約0.1〜約0.5mg/kg/hなる範囲で与えられる。一態様において、該高用量は、約0.5〜約10mg/kg/hなる範囲、適切には約0.5〜約2mg/kg/hなる範囲で与えられる。
【0117】
当業者は、幾つかのファクタが、該投薬量及び対象を効果的に治療するのに要するタイミングに影響を及ぼす可能性があり、該ファクタは、該疾患又は障害の重篤度、従前の治療、該対象の一般的健康及び/又は年齢、及び存在する他の疾患を含むが、これらに限定されない。その上、ここに記載した治療組成物の治療上有効な量での対象の治療は、1回の治療又は一連の治療を含むことができる。
【0118】
本発明の方法に従って処置された哺乳動物は、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、及びウマ等の家畜;ペット動物、例えばイヌ及びネコ;実験動物、例えばラット、マウス及びウサギ等を包含する任意の哺乳動物であり得る。好ましい一態様において、該哺乳動物はヒトである。
【0119】
本発明を、さらに以下の実施例により例示する。以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
実施例1:高脂肪食餌を与えたラットにおける代謝性症候群の治療
代謝性症候群に罹っている対象の治療における芳香族−カチオン性ペプチドの効果を、4週間の期間に渡り、スプラーグ−ダウレイ(Sprague−Dawley)ラットモデルにおいて検討した。本実施例では、このような実験の結果を説明する。
【0120】
インビボモデル:代謝性症候群のラットモデルを、SDラットにおいて、6−週間のHFD及び低−用量STZ(40mg/kg)の組合せにより確立した。通常の飼料の給餌(NRC)を行った同一バッチのラットを、コントロールとして使用した。
研究群:群A:NRC + PBS s.c. q.d.(月−金*)、n=5;群B:HFD + STZ + PBS s.c. q.d.(月−金)、n=8;群C:HFD + STZ + SS−31 10 mg/kg s.c. q.d.(月−金)、n=8;群D:HFD + STZ + SS−20 10 mg/kg s.c. q.d.(月−金)、n=8。治療スケジュールを以下の表7に示す。
【0121】
【表7】

【0122】
テスト化合物の製造及び投与:SS−31又はSS−20を、0.01M PBS (pH 7.0)に溶解した。該10−週間の治療は、s.c.(皮下)注射部位を交替しつつ、1日に1回(1週間に5日)行った。SS−31及びSS−20の濃度は、5.0mg/mLであった。各テスト動物に対する注射液体積(0.2mL/100g)を、各週の初めに測定した体重に従って調節した。STZを0.1Mクエン酸バッファー(pH 4.5)中に、20mg/mLなる濃度まで溶解した。STZは、腹腔内(i.p.)注射される。
【0123】
血中グルコース濃度:血中グルコース濃度は、ACCU−CHEKTMアドバンテージ(AdvantageTM)血中グルコースメータ及びロッシュ(Roche diagnostics)ダイアグノスティックスGmbH(ドイツ国、マンハイム)からのテストストリップによってテストされた。
【0124】
血液サンプルの取扱い:血液サンプルを、尾部の切取によって集めた。尾部の切取により十分な体積の血液を得るのに失敗した幾つかの場合においては、血液サンプルは、眼窩後静脈洞から集めた。集められた血液サンプルは、室温にて30分間静置して、1,200xgにて10分間遠心分離処理する前に、凝固させた。その上澄を集め、再度1,200xgにて5分間遠心分離処理して、血清を生成させた。血清サンプルを等分し、−20℃にて、分析において使用するまで保存した。
【0125】
統計:t−テスト及び一元アノバ(one−way ANOVA)の統計的分析を、SPSS[スタティスティカルパッケージフォーソーシャルサイエンス(Statistical Package for Social Science)]分析用ソフトウエアによって行った。
【0126】
今まさに説明した実験的プロトコールに従って、SDラットモデルにおける代謝性症候群と関連する状態を治療する際の、芳香族−カチオン性ペプチドの効果を立証した。結果は、以下の通りである:
【0127】
SS−31又はSS−20の、糖尿病ラットの体重に及ぼす効果:体重は、NRC群において約23.3%だけ増加し、また体重増は、10−週間の治療期間全体に渡り、HFD/STZコントロールラットにおいて、3.6%程度の低い値に留まっていた(図1)。これとは対照的に、SS−31により治療したラットは、体重における漸進的な回復(第6週目においてP〈0.05及び第7週目乃至第10週目においてP〈0.01)を示し、体重は、第10週目の終わりまでに16.3%だけ増大した。SS−20により治療したラットは、体重における改善の同様な傾向を示した(第10週目の終わりまでに9.0%)。
【0128】
SS−31又はSS−20の、糖尿病ラットの血中グルコース濃度に及ぼす効果:NRCラットと比較して、HFD/STZビヒクル投与ラットにおける血中グルコースは、該治療期間中著しく高い値を維持した。SS−31及びSS−20で処置したラットは、ペプチド治療の4週目において、血中グルコース濃度に及ぼすダウンレギュレーション効果を示した(夫々HFD/STZビヒクル投与ラットに対して、P〈0.05及びP〈0.01;図2を参照のこと)。
【0129】
要約すると、これらの発見は、全体として、芳香族−カチオン性ペプチドが、栄養過多により発現された代謝性症候群を予防するか、あるいは補償することが確立される。故に、該芳香族−カチオン性ペプチドの投与は、哺乳動物対象における代謝性症候群と関連する状態を予防し又は治療する方法において有用である。
【0130】
実施例2:代謝性症候群に及ぼすSS−31及びSS−20の効果
本研究は、10週間という期間に渡る、代謝性症候群のモデルにおける、SS−31及びSS−20の効果を検討するために開始した。ラットに、6週間に渡って高脂肪ダイエットを給餌し、次いで単一用量のSTZ(30mg/kg)を投与した。該ラットを、該STZ投与の14週後まで、HFDに維持した。6週間に渡り通常のラット用食餌(NRC)を与えたコントロールラットには、次にSTZの投与なしに、クエン酸バッファーを投与した。5ヶ月後に、糖尿病ラットを、SS−31(10mg/kg、3及び1mg/kgをs.c.経路で、毎日1回)、SS−20(10mg/kg、3mg/kgをs.c.経路で、毎日1回)あるいはビヒクル(生理食塩水)で、10週間に渡り、1週当たり5日間治療した。これらの研究群は、次の通りであった:
群A: HFD/STZ+SS−31 10 mg/kg s.c. q.d. (月−金), n=12;
群B: HFD/STZ+SS−31 3 mg/kg s.c. q.d. (月−金), n=12;
群C: HFD/STZ+SS−31 1 mg/kg s.c. q.d. (月−金), n=10;
群D: HFD/STZ+SS−20 10 mg/kg s.c. q.d. (月−金), n=10;
群E: HFD/STZ+SS−20 3 mg/kg s.c. q.d. (月−金), n=10;
群F: HFD/STZ+ビヒクル s.c. q.d. (月−金), n=10;
群G: NRC+ビヒクル s.c. q.d. (月−金), n=10.
【0131】
【表8】

【0132】
6週間に及ぶHFDの給餌は、明らかな体重増(425.5±7.1gに対して、HFD群においては452.9±3.8g、P〈0.01)をもたらし、またSTZ投与は、血中グルコース濃度(NRCラットにおける9.8±0.5mM/Lに対してHFD/STZラットにおいては26.5±0.5mM/L、P〈0.001)及び高脂質血症(P〈0.01)を増大させたが、このことは、これらテスト対象において代謝性症候群−様の障害があることを示す。故に、該実験モデルは、首尾よく代謝性症候群を確立した。
【0133】
この10−週間に及ぶペプチド治療中、SS−31又はSS−20投与群の何れにおいても、体重及び血中グルコース濃度における如何なる明確な変化も見られなかった。NRC投与群の血中グルコース濃度は、正常な範囲内に維持されていたが、STZ治療群の血中グルコース濃度は、ペプチド治療の10−週間全体を通して、20mM/Lを越える値に維持されていた(図3を参照のこと)。
【0134】
図3は、HFD/STZラットのTGレベルが、ペプチド治療前にはNRCラットのレベルよりもかなり高い値であることを示している。10−週間に及ぶペプチド治療後、TGレベルは、HFD/STZ処置群と比較して、SS−31及びSS−20処置群において減少した。SS−31及びSS−20処置群のラットにおけるTGレベルは、SS−31(10mg/kg)投与群においては3.77±0.38mMから1.75±0.33mMに減少し、SS−31(3mg/kg)投与群においては4.17±0.88mMから2.46±0.52mMに減少し、SS−20(lOmg/kg)投与群においては4.17±1.02mMから1.97±0.46mMに減少し、SS−20(3mg/kg)投与群においては4.66±1.40mMから2.43±0.47mMに減少し、SS−20(3mg/kg)投与群においては3.90±0.65mMから3.70±1.16mMに減少した。しかし、HFD/STZ投与群のラットにおけるTGレベルは、減少しなかった(3.70±1.16mMに対して3.90±0.65mM)。従って、SS−31及びSS−20は、脂質代謝に対して有利な効果を及ぼす。
実施例3:ダイエット−誘発肥満に及ぼすSS−31及びSS−20の効果
C57BL/6マウスにおける、食餌−誘発肥満(DIO)に対するSS−31及びSS−20の薬力学的効果を分析するために、テスト対象に、以下の表9に示された組成を持つ通常の食餌又は高脂肪食餌を給餌した。
【0135】
【表9】

【0136】
数日間の順化後、テスト動物の体重測定を行い、ランダムに以下の治療群に割振った:
【0137】
【表10】

【0138】
第一日目の治療から出発して、群B〜Iまでの動物を、HFDに切り替えた。全治療期間中に、特定の日に以下の活性測定を行った:
【0139】
【表11】

*: 第23日目に、全ての群から、4匹ずつの動物を屠殺した。残りの全ての動物を、生存状態での研究の最後の日(第109日目)に屠殺した。
【0140】
投与調剤及び投与:該治療は、注射部位を変更しつつ、1日当たり1回(1週間に5日)行った。3mg/kgにて投与されたSS−31及びSS−20の濃度は、0.6mg/mLであり、また10mg/kgにて投与されたこれらの濃度は、2mg/mLであった。各テスト動物に対する処置体積(s.c.に対して0.05mL/10g及びp.o.に対して0.2mL/10g)は、各週の初日に測定した該動物の体重に従って調節した。
【0141】
血液サンプルの収集:血液サンプルは、メディシロン/MPIプレクリニカルリサーチ(シャンハイ)LLC SOPオンブラッドコレクションテクニックス(Medicilon/MPI Preclinical Research (Shanghai) LLC SOP on Blood Collection Techniques)に従って、尾部の切取により集めた。尾部の切取による十分な体積の血液収集に失敗した幾つかの場合において、血液サンプルは、眼窩後静脈洞からも集めた。集められた血液サンプルは、室温にて1時間静置して、2,000xgにて10分間遠心分離処理する前に、凝固させた。その上澄を集め、再度2,000xgにて10分間遠心分離処理して、血清を生成させた。該血清サンプルの一部を、即座に、全コレステロール(TC)分析のために使用した。その残りは、インシュリン分析において使用するまで、−20℃にて保存した。
【0142】
血清インシュリン、トリグリセライド(TG)及び全コレステロール(TC):血清インシュリンレベルを、ミリポア社(Millipore Corporation)(米国、ミズーリ州セントチャールス;カタログ# EZRMI−13K)からの、ラット/マウスインシュリンELISAキット(Rat/Mouse Insulin ELISA Kit)を用いて測定した。血清TGレベルは、自動生化学アナライザーによって測定した。図5Aは、処置の14週後の、食餌−誘発性肥満に罹っているハツカネズミモデルにおける、トリグリセライドに及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。図5Bは、処置の14週後の、食餌−誘発性肥満に罹っているハツカネズミモデルにおける、全コレステロールに及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。図5Cは、処置の14週後の、食餌−誘発性肥満に罹っているハツカネズミモデルにおける、HDLコレステロールに及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。
【0143】
IPGTT:IPGTTは、僅かに改良を加えた、メディシロン−MPIプレクリニカルリサーチ(シャンハイ)LLC SOPオンイントラペリトネアル(IP)グルコーストレランステスト(Medicilon/MPI Preclinical Research (Shanghai) LLC SOP on Intraperitoneal (IP) Glucose Tolerance Test)に従って行った。マウスは、翌朝においてベースライングルコースレベルを評価する前に、一夜に渡り絶食状態に置いた。その後、1g/kgのD−グルコースのIP注射を、各動物に対して行い、次いで血中グルコールレベルを、該IP注射後の15、30、60及び120分後に測定した。得られた結果を、以下の表12に示すが、これらの結果は、SS−20及びSS−31が、該肥満マウスモデルにおいて、グルコール許容度を有意に改善することを示す。
【0144】
【表12】

【0145】
図5Aは、処置の14週後における、腹部脂肪に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。図5Bは、処置の14週後における、皮下脂肪に及ぼすペプチド治療の効果を示すチャートである。これらの結果は、SS−31及びSS−20による治療が、該テスト対象の腹部脂肪指数及び皮下脂肪指数を低減し得ることを示す。
【0146】
実施例4:STZ糖尿病モデルにおける代謝性症候群に及ぼすSS−31及びSS−20の効果
本研究の目的は、雄スプラーグ−ダウレイラットにおける、ストレプトゾトシン(STZ)−誘発糖尿病合併症及び代謝性症候群に対するSS−31又はSS−20の防御効果を検査することにあった。
【0147】
I型糖尿病のラットモデルは、高用量のSTZ(30mg/kg)の投与により樹立した。通常の食餌を与えた同一バッチのラットを、正常なコントロールとして使用した。研究群は以下の群を含んでいた:群A:STZ+SS−31 10 mg/kg s.c. q.d.(月−金), n=l1;群B:STZ+SS−20 10 mg/kg s.c. q.d.(月−金), n=l1;群C:STZ+ビヒクル s.c. q.d.(月−金), n=10;群D:NRC+ビヒクル s.c. q.d.(月−金), n=10。この治療スケジュールを以下の表13に示す。
【0148】
【表13】

【0149】
上記化合物は生理食塩水に溶解した。上記治療は、注射部位を変えつつ、1日1回(1週当たり5日)行った。10mg/kgにて投与されてSS−31及びSS−20の濃度は、5mg/mLである。各テスト動物に対する処置体積(s.c.に対して0.2mL/100g)は、各週の初めに測定された体重に従って調節された。STZは、20mg/mLなる濃度となるまで、0.1Mクエン酸バッファー(pH 4.5)に溶解した。STZは、腹腔内投与した。
【0150】
図6は、SS−31及びSS−20投与群におけるTGレベルが、2週間又は4週間に渡るペプチド処置後において、STZ/生理食塩水投与群よりも増加量が少ないことを示している。これは、SS−31及びSS−20が、脂質代謝の調節において効果を持つことを示している。
【0151】
実施例5:ツッカーラットモデル(Zucker Rat Model)における芳香族−カチオン性ペプチドによる代謝性症候群の予防及び治療
一方では、代謝性症候群の予防及び他方では代謝性症候群の治療をさらに明らかにするために、本発明の芳香族−カチオン性ペプチドを、食餌−誘発代謝性症候群の1モデルである、脂肪過多(fa/fa)のツッカー(Zucker)ラットについてテストした。6−週に及ぶ高脂肪飼料を給餌したスプラーグ−ダウレイラットモデル(実施例1で使用したものと同様な)と比較して、該脂肪過多のツッカーラットは、より一層程度の高い肥満及びインシュリン抵抗性を発現する。
【0152】
第一に、代謝性症候群の予防に及ぼす該芳香族−カチオン性ペプチドの効果を検討するために、若いツッカーラット(約3−4週齢)に、約6週間に渡って、芳香族−カチオン性ペプチド(例えば、SS−20又はSS−31)を投与する。これらの若いラットは、依然として代謝性症候群の徴候又は症状を示していないので、これらは、代謝性症候群の予防法の効力を評価するための有用なモデルを与える。SS−20又はSS−31(1.0−5.0mg/kg/体重)を、i.p.経路で又は経口投与により(即ち、水の飲用又は強制飼養により)投与する。
【0153】
SS−31の投与は、通常上記脂肪過多(fa/fa)のツッカーラットにおいて発現する代謝性症候群の症状を軽減又は防止するであろうことが予想される。測定された結果は、体重、空腹時グルコース/インシュリン/遊離脂肪酸、グルコース耐性(OGTT)、インビトロ筋肉インシュリン感受性(インキュベーション)、インシュリンシグナル発生マーカー(Akt−P、IRS−P)、透過性とされた繊維に関するミトコンドリア機能の研究(呼吸、H2O2放出)、細胞内酸化ストレスのマーカー(脂質過酸化、GSH/GSSG比、アコニターゼ活性)及びミトコンドリア酵素活性を含む。コントロールラットとSS−31の投与を受けたfa/faラットとの比較を行う。コントロールは、野生型及びSS−31の投与を受けていないfa/faラットを含む。本発明の芳香族−カチオン性ペプチドによる代謝性症候群の上首尾の防止が、上に列挙した代謝性症候群と関連するマーカーの1又はそれ以上における減少によって示される。
【0154】
第二に、本発明の芳香族−カチオン性ペプチドの、代謝性症候群の治療に及ぼす効果を検討するために、ツッカーラット(約12週齢)に、約6週間に渡り、SS−31を投与する。これらのラットは、肥満及び代謝性症候群の徴候を示すので、これらの動物は、インシュリン抵抗性の治療法に関する効力を評価するための有用なモデルを与える。SS−31(1.0−5.0mg/kg体重)を、i.p.経路又は経口投与により(即ち、水の飲用又は強制飼養により)、該ラットに投与する。
【0155】
SS−31の投与は、通常これらのより週齢の高い脂肪過多(fa/fa)のツッカーラットにおいて発現する代謝性症候群を改善若しくは軽減するであろうことが予想される。測定された結果は、体重、空腹時グルコース/インシュリン/遊離脂肪酸、グルコース耐性(OGTT)、インビトロ筋肉インシュリン感受性(インキュベーション)、インシュリンシグナル発生マーカー(Akt−P、IRS−P)、透過性とされた繊維に関するミトコンドリア機能の研究(呼吸、H2O2放出)、細胞内酸化ストレスのマーカー(脂質過酸化、GSH/GSSG比、アコニターゼ活性)及びミトコンドリア酵素活性を含む。コントロールラットとSS−31の投与を受けたfa/faラットとの比較を行う。コントロールは、野生型及びSS−31の投与を受けていないfa/faラットを含む。本発明の芳香族−カチオン性ペプチドによる代謝性症候群の上首尾の治療が、上に列挙した代謝性症候群と関連するマーカーの1又はそれ以上における減少によって示される。
【0156】
等価物
本発明は、本件特許出願明細書において記載した特定の態様によって何ら限定されるものではなく、該態様は、本発明の個々の局面の単なる例示として意図されているものである。当業者には明らかである如く、本発明の多くの改良並びに変更が、本発明の精神及び範囲を逸脱することなしに行うことが可能である。本明細書において列挙されたものに加えて、本発明の範囲内の、機能的に等価な方法及び装置が、上記説明から、当業者には明らかであろう。このような改良並びに変更は、添付した特許請求の範囲内に入るものとする。本発明は、添付した特許請求の範囲並びにこのような特許請求の範囲に権利が及ぶ等価物の全範囲によってのみ限定されるものである。本発明は、勿論のこととして変更することのできる、特定の方法、試薬、化合物、組成物又は生物学的系に限定されないものと理解すべきである。本明細書において使用した用語は、特定の態様を説明する目的のためにのみ使用されており、また限定するためのものではないことをも理解すべきである。
【0157】
さらに、本発明の特徴又は局面がマーカッシュ群によって記載されている場合、当業者は、これにより、該開示が、該マーカッシュ群の個々の任意の構成員又はサブグループによっても説明されているものと認識されるであろう。
【0158】
当業者には理解されるであろうように、任意の及び全ての目的にとって、特に記載された説明が与えられていることから、ここに記載した全ての範囲は、任意の及び全ての可能な小範囲及び該小範囲の組合せをも包含するものである。あらゆる列挙された範囲は、十分に説明されており、また同一の範囲が、少なくとも等価な1/2、1/3、1/4、1/5、1/10等に分割し得るものとして、容易に認識できる。非−限定的な例として、ここで論じる各範囲は、低位の1/3、中央部の1/3及び上位の1/3等に、容易に分割できる。同様に当業者には理解されるであろうように、全ての「…まで」、「少なくとも」、「…より大きい(高い)」、「…未満」等の用語は、列挙された数値を含み、また実質的に、上で論じた如き小範囲に分割し得る範囲を意味する。最後に、当業者には理解されるであろうように、ある範囲は、個々の構成員各々を含む。従って、例えば1−3個の細胞を含む群は1個、2個又は3個のセルを含む群を意味する。同様に、1−5個のセルを含む群は、1個、2個、3個、4個又は5個の細胞を含む群を意味する。
【0159】
本明細書において言及又は引用された全ての特許、特許出願、仮特許出願、及び刊行物は、本明細書の明確な教示と矛盾しない程度まで、全ての図及び表を含むその全内容を、言及することによりここに組入れる。
【0160】
その他の態様は、添付した特許請求の範囲に示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物対象における代謝性症候群を治療し、又は予防する方法であって、代謝性症候群の治療又は予防を必要とする該哺乳動物対象に、治療上有効な量のペプチド:D−Arg−2'6'−Dmt−Lys−Phe−NH2又はPhe−D−Arg−Phe−Lys−NH2を投与することを含む、前記治療又は予防方法。
【請求項2】
前記代謝性症候群が、インシュリン−媒介グルコース摂取、グルコース不耐性、高インシュリン血症、高LDL−コレステロール、高VLDL、高トリグリセライド、低HDL−コレステロール、高プラスミノーゲン活性化剤阻害剤−1(PAI−1)レベル又は高血圧と関連している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記代謝性症候群が、以下の基準:
(a) 腹部肥満:男性におけるウエスト周〉102cm、女性におけるウエスト周〉88cm;
(b) 高トリグリセライド血症:≧150mg/dL(1.695mM/L);
(c) 低HDLコレステロール:男性において〈40mg/dL(1.036mM/L)及び女性において〈50 mg/dL(1.295mM/L)、
(d) 高血圧:≧130/85mmHg;及び
(e) 高い空腹時のグルコース濃度:≧110mg/dL(〉6.1mM/L)
の内の3つ又はそれ以上によって特徴付けられる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記代謝性症候群が、糖尿病、不十分なグルコース耐性、不十分な空腹時のグルコース濃度、又はインシュリン抵抗性+以下に列挙する異常性:
(a) 高血圧:≧160/90mmHg;
(b) 高脂質血症:トリグリセライド濃度≧150mg/dL(1.695mM/L)及び/又はHDLコレステロール濃度:男性において〈35mg/dL(0.9mM/L)及び女性において〈39mg/dL(1.0mM/L);
(c) 中心性肥満:男性において〉0.90又は女性において〉0.85なるウエスト対ヒップ比又はBMI:〉30kg/m2;及び
(d) ミクロアルブミン尿症:尿アルブミン排泄率:≧20μg/分又はアルブミン対クレアチニン比:≧20mg/g
の内の2つ又はそれ以上によって特徴付けられる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記代謝性症候群が、以下の基準:
(a) トリグリセライド:〉150mg/dL;
(b) 収縮期血圧(BP):≧130mmHg又は拡張期血圧:≧85mmHg又は抗−高血圧症薬による治療中であること;
(c) 高密度リポタンパク質コレステロール:〈40mg/dL;
(d) 空腹時血糖値(FBS):〉110mg/dL;及び
(e) ボディマス指数:〉28.8kg/m2
の内の3つ又はそれ以上によって特徴付けられる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記代謝性症候群が、前記ペプチドを投与する前の前記対象の脂質代謝に比して、脂質代謝を改善することを通して治療される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記脂質代謝における改善が、前記ペプチドを投与する前の前記対象の血中トリグリセライド濃度に対する、血中トリグリセライド濃度の低減である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記脂質代謝における改善が、前記ペプチドを投与する前の前記対象の血中HDL/LDLコレステロール比に対する、血中HDL/LDLコレステロール比の改善である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記代謝性症候群が、前記ペプチドを投与する前の前記対象の血糖値レベルに比して、血糖値レベルを減じることにより治療される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記代謝性症候群が、前記ペプチドを投与する前の前記対象の体重に比して、体重を減じることにより治療される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記対象が、ヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドが、II型糖尿病の発症前に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチドが、経口、全身的、静脈内、皮下、又は筋肉内経路で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
さらに、前記哺乳動物が、代謝性症候群の治療又は予防を必要としているか否かを同定する工程をも含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
さらに、前記哺乳動物を、代謝性症候群の治療又は予防についてモニターする工程をも含む、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−501802(P2013−501802A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524836(P2012−524836)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/045160
【国際公開番号】WO2011/019809
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(508298488)コーネル ユニヴァーシティー (8)
【Fターム(参考)】