説明

伝動ベルト及びその製造方法

【課題】 エチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含むゴム組成物と補強用繊維材との接着力が大きく、該接着力の不足に起因する破壊が抑制され、比較的長時間走行できる伝動ベルト及びその製造方法を提供することを課題としている。
【解決手段】 エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材とが加硫一体化されてなる伝動ベルトであって、フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種と、硫黄系加硫剤とが前記ゴム組成物に含まれていることを特徴とする伝動ベルト及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、VベルトやVリブドベルト等の伝動ベルトにおいては、ゴム成分として、天然ゴム(NR)、スチレン/ブタジエン共重合ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、水素化ニトリル/ブタジエンゴム(H−NBR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)が広く用いられている。
しかし、これらのゴム成分を用いた伝動ベルトは、ベルト走行時の摩擦等により高温となった場合に軟化しやすく、高温における走行性能を満足するものではない。つまり、耐熱性の面で問題を有している。
これに対し、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムは耐熱性の面で優れているため、伝動ベルトのゴム成分として用いられてきている。
ところが、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムをゴム成分として用いた伝動ベルトにおいては、伝動ベルトを補強するために伝動ベルトに備えられている補強用繊維材(例えば、心線、帆布など)とゴムとの接着力が上記ゴム成分を用いた場合と比較して小さいため、走行中に心線とゴムとの界面で剥離を生じたり、帆布がゴムから剥がれたりするといった現象が起きやすい。
そこで、ゴム成分としてエチレン−α-オレフィン共重合ゴムを用い、補強用繊維材である心線の表面をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)接着剤で処理し、ゴムと心線との接着力を高めた伝動ベルトが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−003991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1のごとく、単に心線をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)接着剤で処理しただけの伝動ベルトでは、ゴム成分であるエチレン−α-オレフィン共重合ゴムとの接着力が実使用時の高負荷に長時間耐え得るものではなく、比較的短い走行時間で前記接着力の不足に起因するベルトの破壊を生じるという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含むゴム組成物と補強用繊維材との接着力が大きく、該接着力の不足に起因する破壊が抑制され、比較的長時間走行できる伝動ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明に係る伝動ベルトは、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材とが加硫一体化されてなる伝動ベルトであって、フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種と、硫黄系加硫剤とが前記ゴム組成物に含まれていることを特徴とする。
【0006】
上記構成からなる伝動ベルトによれば、前記ゴム組成物にフェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種と、硫黄系加硫剤とが配合されているため、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材との接着力が大きくなる。
【0007】
また、本発明に係る伝動ベルトは、前記ゴム組成物がスルフェンアミド系加硫促進剤及びチウラム系加硫促進剤を含有していることが好ましい。前記ゴム組成物がスルフェンアミド系加硫促進剤及びチウラム系加硫促進剤を含有していることにより、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材との接着力がより大きくなる。
【0008】
さらに、前記接着剤がレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)接着剤であることが好ましい。
【0009】
また、前記補強用繊維材が心線又は帆布であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る伝動ベルトの製造方法は、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材とを加硫処理中に一体化させる加硫工程を実施する伝動ベルトの製造方法であって、フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種と、硫黄系加硫剤とが含まれている前記ゴム組成物を用いて前記加硫工程を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る伝動ベルトは、前記ゴム組成物にフェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種と、硫黄系加硫剤とが配合されているため、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含むゴム組成物と補強用繊維材との接着力が大きくなる。従って、本発明の伝動ベルトはエチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含むゴム組成物と補強用繊維材との接着力不足に起因する破壊が抑制され、比較的長時間走行できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る伝動ベルトは、複数のプーリにかけ渡されて動力を伝えるように、帯状、かつ、無端ベルト状に形成されている。また、本発明に係る伝動ベルトは、複数の層が積層されて形成されている。
【0013】
以下、本発明に係る伝動ベルトの一実施形態を、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物で形成されており、該ゴム組成物と補強用繊維材とが加硫一体化されてなるVリブドベルトを例に、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本実施形態にかかるVリブドベルト8を幅方向に横断するように切断した場合の断面を示す断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態にかかるVリブドベルト8は、ベルト内周面側から外周面側に向かって、圧縮ゴム層10、接着ゴム層20、背面層30の3層の積層構造が形成されている。
【0016】
前記圧縮ゴム層10、前記接着ゴム層20、前記背面層30には、いずれも補強用繊維材が用いられている。前記圧縮ゴム層10には、耐側圧性を高めるため、ベルトの幅方向に配向するように前記補強用繊維材である短繊維6が分散されて用いられている。前記接着ゴム層20には、Vリブドベルトの張力を維持するため、略一定間隔をおいて前記補強用繊維材である心線2がベルト長手方向に埋設されて用いられている。前記背面層30には、幅方向への強度付与、ベルト背面をプーリに当接させて用いる場合の摩耗の防止等のため、前記補強用繊維材である帆布1が用いられている。
【0017】
前記圧縮ゴム層10は、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と前記補強用繊維材とで形成されている。また、前記接着ゴム層20は、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と前記補強用繊維材とで形成されている。一方、前記背面層30は、前記補強用繊維材である帆布1で形成されている。
【0018】
前記補強用繊維材である短繊維6、心線2、帆布1は、接着剤処理液によって処理されることにより、接着剤が担持されていることが好ましい。接着剤が担持されていることにより、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物との接着性を高めることができる。
【0019】
エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物は、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムの他に、フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種を含有している。また、硫黄系加硫剤も含有している。さらに、スルフェンアミド系加硫促進剤及びチウラム系加硫促進剤を含有していることが好ましく、その他、他のゴム成分、カーボンブラック、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤等の架橋剤、加硫遅延剤、添加剤等を含有し得る。
【0020】
以下、各層についてより詳しく説明する。
【0021】
前記圧縮ゴム層10には、ベルト長手方向に連続する断面略V字状の溝5が2条形成されており、該溝5により互いに分離された3条のリブ4がベルト長手方向に延在された状態となるように形成されている。このリブ4は、内周側ほど狭幅となるように形成されている。
【0022】
前記圧縮ゴム層10は、接着剤が担持された短繊維6がゴム組成物に分散されて形成されている。前記短繊維6の長軸方向の長さとしては、例えば、0.1〜8mmが挙げられる。太さに対する長さの比の範囲(L/D)としては、例えば、30〜300が挙げられる。前記短繊維6の材質としては、特に限定されるものではなく、分子中に脂肪族骨格を有するポリアミド、全芳香族ポリアミド系樹脂であるアラミド、アセタール化ポリビニルアルコール、ポリエステル等が挙げられる。
【0023】
前記圧縮ゴム層10に用いられている前記補強用繊維材である短繊維6としては、例えば、通常の方法によって接着剤が担持された後、ゴム組成物と接着されているものが挙げられる。通常の方法によって接着剤が担持された短繊維6としては、例えば、所望の接着剤を溶媒で所望の濃度に調整した接着剤処理液に浸漬された後に、取り出されて乾燥され、あるいは、さらに加熱処理が施されたものなどが挙げられる。なお、短繊維6と圧縮ゴム層10との接着力をより向上させ得る点において、前記短繊維6には接着剤が担持されていることが好ましい。この接着剤の担持方法については、接着剤処理液を用いる方法に限定されるものではないが、容易に接着剤を担持させることができる点において接着剤処理液を用いることが好ましい。
【0024】
前記接着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤(以下、RFL接着剤ともいう)、加硫接着剤(商品名 ケムロック等)等を挙げることができる。
前記接着剤には、商品名「ケムロック」に代表される加硫接着剤に比べて一般的に安価であり、伝動ベルトの製造コストを低減させ得る点においてRFL接着剤を用いることが好ましい。しかも加硫接着剤には塩素化合物を含有するものが多く、例えば廃棄時に焼却処分されたりするとダイオキシンなどの塩素系有害物質を発生させるおそれがある。一方RFL接着剤は塩素化合物を含まない組成を容易に選定し得る。従って、RFL接着剤を用いることで塩素系有害物質を環境中への排出させるおそれを低減することができ、環境に優しい伝動ベルトを提供し得る。
【0025】
前記RFL接着剤は、通常、レゾルシンとホルマリンとをレゾルシン/ホルマリンのモル比1/3〜3/1にて塩基性触媒の存在下にて縮合させて、レゾルシン−ホルマリン樹脂(レゾルシン−ホルマリン初期縮合物、以下、RFという)の5〜80重量%濃度の水溶液を調製し、これとゴムラテックスとを混合することによって調製されたものである。RFL接着剤において、固形分濃度は、特に限定されるものではなく、通常、10〜50重量%である。ゴムラテックスとしては、特に限定されるものではなく、ビニルピリジンスチレンブタジエン、ブタジエン、スチレンブタジエン、2,3−ジクロロブタジエン、クロロスルホン化ポリエチレン、アルキルクロロスルホン化ポリエチレン、これら共重合体の混合物等が好ましい。また、ビニルピリジンスチレンブタジエン、ブタジエン、スチレンブタジエンからなる群より選ばれた1種以上のゴムラテックスがさらに好ましい。積層し複数のRFL層を形成させたり、2種類以上のラテックスを混合させたりすることも可能である。また、好適なレゾルシン・ホルマリン混合物とラテックスとの重量比率としては、レゾルシン・ホルマリン混合物/ラテックス=0.5〜0.1/1が挙げられる。
【0026】
また、例えば、前記補強用繊維材をRFL接着剤処理液によって処理する前に、前処理として、エポキシ及び/又はイソシアネートを含有する接着剤処理液で処理して、前記補強用繊維材に2層構造の接着剤を担持させることも可能である。
エポキシとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールやポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールと、エピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物が挙げられる。また、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類とハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物なども挙げられる。
イソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン2,4−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリアリールポリイソシアネート等が挙げられる。また、上記イソシアネートにフェノール類、第3級アルコール類、第2級アルコール類等のブロック化剤を反応させてポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化したブロック化ポリイソシアネートも挙げられる。
【0027】
さらに、例えば、2層構造の接着剤が担持された前記補強用繊維材を、その後接着されることとなるゴム層の組成と同じ組成を有する組成物の接着剤処理液で後処理して、前記補強用繊維材に3層構造の接着剤を担持させることも可能である。
【0028】
前記圧縮ゴム層10のゴム組成物としては、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物が挙げられる。
【0029】
前記エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物としては、エチレン−α-オレフィン共重合体及びこの一部ハロゲン置換物のうちの少なくとも1種を含むゴム組成物が挙げられる。本実施形態のVリブドベルトを廃棄して燃焼する場合、ダイオキシン等の有害物質が環境中に排出されるのを抑制するためには、前記エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物にはハロゲン置換物を含有させないことが好ましい。
【0030】
前記エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムとしては、例えば、エチレン−α-オレフィン−ジエン重合体ゴムが挙げられる。この重合体ゴムは、エチレンを除くα-オレフィンとエチレンとジエン(非共役ジエン)との共重合体ゴムである。より具体的には、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0031】
前記α-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテンから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記α-オレフィンとしては、プロピレンが好ましい。
【0032】
前記ジエン(非共役ジエン)としては、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)、1,4−ヘキサジエン(HD)が挙げられる。
前記エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムの組成中における前記ジエンの割合は5〜12重量%が好ましい。前記ジエンの割合が5重量%以上であることにより、補強用繊維材とこれに隣接するゴム組成物との接着力がより大きくなる。なお、前記ジエンの割合が12重量%を超えるエチレン−α-オレフィン共重合体ゴムの市販品については、現段階では入手するのが困難である。
【0033】
前記ゴム組成物は、フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種を含有している。フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種を含有していることにより、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材との接着力不足に起因する伝動ベルトの破壊が抑制され、伝動ベルトが長時間走行できる。
【0034】
前記フェニレンジマレイミドとしては、具体的には、N,N’−1,2−フェニレンジマレイミド、N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド、N,N’−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N’−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビスマレイミド、1,1’−(メチレンジ−1,4−フェニレン)ビスマレイミド等が挙げられる。なかでもN,N’−1,3−フェニレンジマレイミドが好適に用いられる。前記フェニレンジマレイミドの配合量としては、通常、前記ゴム組成物100に対して1〜15重量部が挙げられる。
【0035】
前記ポリジニトロソベンゼンとしては、具体的には、ポリ1,2−ジニトロソベンゼン、ポリ1,3−ジニトロソベンゼン、ポリ1,4−ジニトロソベンゼン等が挙げられる。なかでもポリ1,4−ジニトロソベンゼンが好適に用いられる。前記ポリジニトロソベンゼンの配合量としては、通常、前記ゴム組成物100に対して0.2〜2重量部が挙げられる。
【0036】
前記ゴム組成物は、硫黄系加硫剤を含有している。硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等が挙げられる。硫黄系加硫剤を含有していることにより、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材との接着力不足に起因する伝動ベルトの破壊が抑制され、伝動ベルトが長時間走行できる。前記硫黄系加硫剤の配合量としては、通常、前記ゴム組成物100に対して0.5〜4重量部が挙げられる。
【0037】
前記ゴム組成物は、スルフェンアミド系加硫促進剤及びチウラム系加硫促進剤を含有していることが好ましい。
これらの加硫促進剤を含有していることにより、エチレン−α-オレフィン共重合ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材との接着力不足に起因する伝動ベルトの破壊がさらに抑制され、伝動ベルトがより長時間走行できる。
【0038】
前記スルフェンアミド系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−べンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等が挙げられる。前記スルフェンアミド系加硫促進剤の配合量としては、通常、前記ゴム組成物100に対して0.5〜5重量部が挙げられる。
【0039】
前記チウラム系加硫促進剤としては、具体的には、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド等が挙げられる。このうち、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィドなどの分子量が400以上のチウラム系加硫促進剤が特に好ましい。分子量が400以上の上記チウラム系加硫促進剤においては、加硫時における反応速度が適度に遅くなるため、ゴム成分と接着剤成分との接着反応が確実に進行するという利点がある。前記チウラム系加硫促進剤の配合量としては、通常、前記ゴム組成物100に対して0.5〜5重量部が挙げられる。
【0040】
前記ゴム組成物は、本実施形態のVリブドベルトの性能を損なわない範囲で、他のゴム成分を含有することができる。具体的なゴム成分として、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン系ゴム(NBR、NIR等)等が挙げられる。
【0041】
前記ゴム組成物は、カーボンブラックを含有することができる。カーボンブラックとしては、例えば、一般呼称で分類されるFEF系、ISAF系、HAF系等のゴム用カーボンブラックが挙げられる。
【0042】
前記ゴム組成物は、上記成分の他に、他の加硫剤、他の加硫促進剤、加硫助剤等の架橋剤、加硫遅延剤を含有することができ、さらに、本発明の目的を損わない範囲で、添加剤を含有することができる。
【0043】
前記他の加硫剤としては、例えば、有機過酸化物系の加硫剤が挙げられる。有機過酸化物系の加硫剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が挙げられる。
【0044】
前記他の加硫促進剤としては、例えば、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チオウレア系、チアゾール系、ジチオカルバミン酸塩系等の加硫促進剤が挙げられる。
【0045】
加硫助剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ステアリン酸やオレイン酸およびこれらの亜鉛塩等が挙げられる。
【0046】
加硫遅延剤としては、例えば、有機酸、ニトロソ化合物、ハロゲン化物の他、2−メルカプトベンツイミダゾール、N−シクロヘキシルチオフタルイミド等が挙げられる。
【0047】
前記ゴム組成物には、その他、ゴム工業で通常用いられている添加剤を配合することができる。例えば、前述したカーボンブラック、シリカなどの補強剤、炭酸カルシウム、タルクなどの充填剤(フィラー)、マイクロクリスタリンワックス等のワックス類、アロマオイル等のオイル類、ポリマー類、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変成付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤、加工助剤等が挙げられる。
これらの添加剤、配合剤は、ゴム用組成物用の一般的なものを用いることができる。それらの配合量も特に制限されず、任意に選択できる。
【0048】
前記接着ゴム層20は、通常、厚さ0.1〜10mmのゴム組成物で形成されている。前記接着ゴム層20には、厚さ方向中央部に補強用繊維材である心線が埋設されている。
【0049】
前記接着ゴム層20に用いられている前記心線2は、通常、横断面の直径が0.2〜5mmの紐状体であり、ベルト長手方向に埋設されて用いられているものである。その材質による種類としては、特に限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートといったポリエステル、分子中に脂肪族骨格を有するポリアミド、全芳香族ポリアミド系樹脂であるアラミド、アセタール化ポリビニルアルコール等の合成繊維、ガラス繊維、スチールコード等が挙げられる。
前記心線の太さに対する接着ゴム層20の厚さ割合の範囲としては、通常、(接着ゴム層の厚さ/心線の太さ)=0.5〜2が挙げられる。
【0050】
前記心線2としては、前記短繊維6と同様にして、接着剤処理液によって処理され、接着剤が担持されたものを挙げることができる。なお、必ずしも接着剤処理液によって処理され、接着剤が担持されたものである必要はないが、心線2とゴム組成物との接着力をより大きくするため、前記心線2には接着剤が担持されていることが好ましい。
【0051】
前記接着ゴム層20のゴム組成物としては、前記圧縮ゴム層10と同様にエチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物が挙げられる。
【0052】
前記背面層30は、通常、厚さ0.1〜1mmの帆布1により形成されている。前記帆布1としては、前記短繊維6と同様にして、接着剤処理液によって処理され、接着剤が担持されたものを挙げることができる。なお、帆布1と接着ゴム層20との接着力をより向上させ得る点において、前記帆布1には接着剤が担持されていることが好ましい。この接着剤の担持方法については、接着剤処理液を用いる方法に限定されるものではないが、容易に接着剤を担持させることができる点において接着剤処理液を用いることが好ましい。
また、前記背面層30は、前記帆布1のみで形成されているものに限られない。
【0053】
前記背面層30に用いられている前記帆布1としては、例えば、糸を用いて、平織、綾織、朱子織等に製織した布を挙げることができる。その材質としては、特に限定されるものではなく、ポリエステル、綿、分子中に脂肪族骨格を有するポリアミド、全芳香族ポリアミド系樹脂であるアラミド、アセタール化ポリビニルアルコール、ポリエステル等が挙げられる。
【0054】
本実施形態においては、補強用繊維材である前記短繊維6、前記心線2及び前記帆布1のすべてに接着剤が担持されており、かつ、前記圧縮ゴム層10及び前記接着ゴム層20の両方が前記エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物で形成されているVリブドベルト8に基づいて説明した。前記エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と前記補強用繊維材との接着性をより向上させる点において、前記補強用繊維材には接着剤が担持されていることが好ましい。少なくとも、前記心線2に接着剤が担持されており、前記接着ゴム層20が前記エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物で形成されていることが好ましい。
【0055】
なお、他の実施形態として、例えば、前記圧縮ゴム層10、前記接着ゴム層20、前記背面層30の区別なく単一組成物で一体化されたゴム層の中に前記心線2が配列されているVリブドベルトが挙げられる。
また、例えば、心線2ではなく帆布1が前記接着ゴム層20に埋設されたVリブドベルトの実施形態も挙げられる。
【0056】
次に、本発明の伝動ベルトの一実施形態であるVリブドベルトの製造方法を示す。
【0057】
本実施形態のVリブドベルトの製造方法は、背面層30と、接着ゴム層20と、圧縮ゴム層10とをそれぞれ形成するための未加硫ゴムシートを作製する未加硫ゴムシート作製工程と、心線2などの補強用繊維材にレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)などの接着剤による前処理を施す補強用繊維材前処理工程と、前記未加硫ゴムシートと前記前処理された心線などの補強用繊維材とを用いて円筒形状の予備成形体を形成する予備成形体作製工程と、該予備成形体を加硫一体化させて円筒状の一次成形体を作製する加硫工程と、前記一次成形体に断面略V字状の溝を形成させてリブ形状を形成させるリブ形成工程と、前記一次成形体からVリブドベルトを所定幅に切り出す切断工程とで構成されている。
【0058】
前記未加硫ゴムシート作製工程は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサーなどを用いて所定の配合でゴム組成物を混練した後に、カレンダー成形するなどして実施することができる。
【0059】
前記未加硫ゴムシート作製工程で用いるゴム組成物は、フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種と硫黄系加硫剤とを含有している。
【0060】
また、前記未加硫ゴムシート作製工程で用いるゴム組成物は、他に、スルフェンアミド系加硫促進剤及びチウラム系加硫促進剤を含有していることが好ましい。
【0061】
前記補強用繊維材前処理工程は、予め作製しておいたRFL処理液などの接着剤処理液に心線2などの補強用繊維材を浸漬して焼き付けを実施し、必要に応じて、この接着剤処理液への浸漬、焼き付けを複数回繰り返して実施することができる。また、この補強用繊維材前処理工程を実施した後に、例えば、接着ゴム層20を構成するゴム組成物に用いられているゴムと同様のゴムをトルエンなどに溶解してなる接着剤処理液に浸漬して加熱乾燥することなども可能である。また、前記補強用繊維材をRFL処理液によって処理する前に、前処理として、エポキシ及び/又はイソシアネートを含有する接着剤処理液で処理し、前記補強用繊維材に2層構造の接着剤を担持させることも可能である。2層構造の接着剤を担持させた後、さらに、後処理として、その後接着されることとなるゴム層の組成と同じ組成を有する組成物の処理液で処理して、前記補強用繊維材に3層構造の接着剤を担持させることも可能である。
なお、補強用繊維材とエチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物との接着力をより向上させ得る点において、前記補強用繊維材前処理工程は実施することが好ましい。接着剤の担持方法については、接着剤処理液を用いる方法に限定されるものではないが、容易に接着剤を担持させることができる点において接着剤処理液を用いることが好ましい。
【0062】
前記補強用繊維材前処理工程では、接着剤処理液として少なくともRFL処理液を用いることが好ましい。
【0063】
前記予備成形体作製工程は、例えば、表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周面に前記背面層30を形成する未加硫ゴムシートを巻き付け、次いで接着ゴム層20を形成する未加硫ゴムシートを巻き付け、次いで前処理された心線40を螺旋状にスピニングし、さらに接着ゴム層20を形成する未加硫ゴムシートを巻き付け、最後に圧縮ゴム層10の内の内層14を形成する未加硫ゴムシートを巻き付けて円筒状の予備積層体を作製するなどして実施することができる。
【0064】
前記加硫工程においては、例えば、前記予備積層体を加硫缶内で加熱、及び、加圧することで積層されたそれぞれの未加硫ゴムシートを一体化させて一次成形体を作製する方法を採用することができる。
【0065】
前記加硫工程においては、フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種及び硫黄系加硫剤が含まれているゴム組成物でなる未加硫ゴムシートと、補強用繊維材とが接している場合、加硫処理中にゴム組成物と補強用繊維材とが接着される。具体的には、図1に示されるVリブドベルトにおいては、心線2と接着ゴム層3とが接着され、また、帆布1と接着ゴム層3とが接着される。
【0066】
前記リブ形成工程においては、例えば、加硫された一次成形体を駆動ロールと従動ロールとを備える駆動システムに取り付け、張力をかけてこれらのロールを走行させながら研削ホイールによって前記一次成形体の表面(内層の表面)に複数条の溝を形成させて、該溝により互いに分離された複数条のリブ形状を一次成形体の表面に形成させる方法を採用することができる。
【0067】
前記切断工程においては、例えば、表面層が形成された一次成形体を駆動ロールと従動ロールとを備える駆動システムに取り付け、張力をかけてロールを走行させながら所定リブ数ごとに一次成形体を輪切りにしてVリブドベルトを切り出す方法を採用することができる。
【0068】
ここで、本発明の別の一実施形態としてのVベルト9について説明する。
【0069】
図2は、別の一実施形態であるVベルト9を幅方向に横断するように切断した場合の断面を示す断面図である。
【0070】
図2に示すように、本実施形態にかかるVベルト9は、ベルト内周面側から外周面側に向かって、圧縮ゴム層10、接着ゴム層20、背面層30の3層の積層構造が形成されている。圧縮ゴム層10には、耐側圧性を高めるためにベルトの幅方向に配向するように短繊維6が分散されている。また、圧縮ゴム層10のベルト内周側には、2層の帆布1が形成されている。接着ゴム層20には、略一定間隔をおいて心線2がベルト長手方向に埋設されている。背面層30には、ベルトの最も外周面側に帆布1が形成されており、この帆布1の内周面側に接して上ゴム層7が形成されている。
【0071】
前記Vベルト9の前記圧縮ゴム層10、前記接着ゴム層20、前記背面層30に用いられる、短繊維6、心線2、帆布1などの補強用繊維材の形状、材質としては、前述の一実施形態であるVリブドベルト8で用いられるものと同様のものが挙げられる。
【0072】
前記Vベルト9の前記圧縮ゴム層10、前記接着ゴム層20、前記背面層30に用いられるゴム組成物としては、前述の一実施形態であるVリブドベルト8で用いられるものと同様のものが挙げられる。
【実施例】
【0073】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
Vリブドベルトの接着ゴム層の組成を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示す配合成分の詳細は以下の通りである。
エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム1(EPDM):
JSR社製、商品名「EP25」組成中ENB量5.1重量%
エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム2(EPDM):
JSR社製、商品名「EP22」組成中ENB量4.5重量%
エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム3(EPDM):
JSR社製、商品名「EP33」組成中ENB量8.1重量%
カーボンブラック:東海カーボン社製、商品名「シースト3」
パラフィン系プロセスオイル:サンオイル社製、商品名「サンパー2280」
ステアリン酸:日本油脂社製、商品名「ビーズステアリン酸椿」
酸化亜鉛:堺化学社製、商品名「亜鉛華1号」
硫黄:鶴見化学工業社製、商品名「オイルサルファー」
ジクミルパーオキサイド:日本油脂社製、商品名「パークミルD」
チウラム系加硫促進剤1:
大内新興化学社製、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド
商品名「ノクセラーTOT−N」(有効成分67重量%)
スルフェンアミド系加硫促進剤1:
大内新興化学社製、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
商品名「ノクセラーCZ」
チウラム系加硫促進剤2:大内新興化学社製、テトラブチルチウラムジスルフィド
商品名「ノクセラーTBT」
スルフェンアミド系加硫促進剤2:大内新興化学社製、
N,N'-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
商品名「ノクセラーDZ」
チウラム系加硫促進剤3:大内新興化学社製、テトラエチルチウラムジスルフィド
商品名「ノクセラーTET」
ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤:大内新興化学社製、
ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛 商品名「ノクセラーEZ」
チアゾール系加硫促進剤:大内新興化学社製、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド
商品名「ノクセラーDM」
フェニレンジマレイミド:大内新興化学社製、N,N'-1,3-フェニレンジマレイミド
商品名「バルノックPM」
ポリジニトロソベンゼン:大内新興化学社製、ポリ-1,4-ジニトロソベンゼン
商品名「バルノックDNB」(有効成分25重量%)
なお、表1において配合量の数値は純分換算ではなく、配合量そのものの重量部を表す。
【0077】
まず、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材である心線との接着力を評価した。
【0078】
<試験例1>
(1)接着剤処理液の作製
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをトルエンに溶解させ、固形分20重量%のイソシアネート溶液を調製した。
また、以下のようにしてRFL接着剤組成物を調製した。レゾルシン7.31重量部とホルマリン(37重量%濃度)10.77重量部とを混合、攪拌し、これに水酸化ナトリウム水溶液(固形分0.33重量部)を加えて攪拌し、その後、水160.91重量部を加え、5時間熟成して、レゾルシン・ホルマリン樹脂(レゾルシン−ホルマリン初期縮合物、以下RFともいう)R/F比0.5の水溶液を調製した。このRF水溶液にビニルピリジンラテックス(日本ゼオン株式会社 2518FS 固形分40重量%)をRF/L比が0.25になるように、ラテックス固形分量あわせて45.2重量部 加え、さらに水を加え、固形分が20重量%となるように調製した。攪拌し、12時間熟成して、RFL接着剤組成物を調製した。
さらに、表1の配合例1に示す接着ゴム層と同じ配合物をトルエンに溶解してなる固形分濃度20重量%の接着ゴム溶液を調製した。
【0079】
(2)前処理ポリエステル心線の調製
心線として直径1mmのポリエステル繊維(帝人社製、ポリエステルコード、1000デニール、/2×3 上撚り9.5T/10cm(Z)、下撚り2.19T/10cm)を用いた。
次に、上述のごとく調製したイソシアネート溶液に前述のポリエステル心線を浸漬した後、240℃で40秒間加熱乾燥した。
次いで、イソシアネート溶液で処理したポリエステル心線を、前記RFL接着剤組成物に浸漬し、200℃で80秒間加熱乾燥した。
このように処理したポリエステル心線を前記接着ゴム溶液に浸漬した後、60℃で40秒間加熱乾燥して、前処理ポリエステル心線を得た。
【0080】
(3)ポリエステル心線と接着ゴム層との接着物の調製
表1に示す配合例1の接着ゴム層用の配合に従い、バンバリーミキサーを用いて組成物を混練し、この組成物をカレンダーロールにてシート状に圧延し、厚さ5mmの接着ゴム未加硫シートを作製した(2枚)。
上記の前処理ポリエステル心線7本を前記接着ゴム未加硫シートの間に挟み、これを面圧3920kPa、温度160℃で35分間、加圧加熱し、プレス加硫した。このようにして、接着力を評価するためのサンプルを作製した。
【0081】
(4)接着力評価のための剥離試験1
接着力を評価するためのサンプルの心線のうち、両端を除き、1本おきに選択した3本のポリエステル心線を、上下のチャックで挟み、チャック間40mm、剥離速度50mm/分、剥離距離80mmの剥離条件下で同時に剥離させ、接着力を測定した。また、接着力を測定した時の破壊時の態様を観察した。結果を表2に示す。
【0082】
<試験例2〜12>
接着ゴム溶液及び接着ゴム層の組成を、それぞれ表1の配合例2〜12の組成とした点以外は、試験例1と同様にして接着力を評価するためのサンプル(心線埋設サンプル)を作製し、接着力を測定し、破壊時の態様を観察した。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
次に、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材である帆布との接着力を評価するため、ゴム組成物と帆布との接着力を測定した。また、接着力を測定した時の破壊時の態様を観察した。
【0085】
<試験例13>
(1)接着剤処理液の作製
試験例1と同様にして、RFL接着組成物と接着ゴム溶液とを調製した。
【0086】
(2)前処理ポリエステル綿帆布の調製
帆布としてポリエステル綿帆布[(広角に加工した時点での特性)糸の材質:ポリエステルと綿との混紡帆布;ポリエステルと綿との質量比 50:50;糸構成 経糸:20S/2(20番手を2本よりあわせたものの意味)、緯糸:20 S/2(20番手を2本よりあわせたものの意味);撚り数:経糸S撚り 59回/10cm、緯糸:59回/10cm;織り方:平織り物を、経糸と緯糸との交差角度が、120°になるように加工(90°でも可);糸密度 経糸:85本/5cm、緯糸:85本/5cm]を用いた。このポリエステル綿帆布を試験例1と同じRFL接着組成物に浸漬し、150℃で3分間加熱乾燥させた。このように処理したポリエステル綿帆布を試験例1と同様に表1の配合例1に示す接着ゴム層と同じ配合物をトルエンに溶解してなる接着ゴム溶液に浸漬した後、60℃で10秒間加熱乾燥して、ポリエステル綿帆布に処理を施した前処理ポリエステル綿帆布を得た。
【0087】
(3)ポリエステル綿帆布と接着ゴム層との接着物の調製
表1に示す配合例1の接着ゴム層用の配合に従い、バンバリーミキサーを用いて組成物を混練し、この組成物をカレンダーロールにてシート状に圧延し、厚さ5mmの接着ゴム未加硫シートを作製した。
上記のように処理した前処理ポリエステル綿帆布を前記接着ゴム未加硫シートの上に重ね、試験例1と同様なプレス条件でプレス加硫して、接着力を評価するためのサンプルを作製した。
【0088】
(4)接着力評価のための剥離試験2
得られたサンプルについて、JIS K 6256(1999)に準じて接着力を測定した。具体的には、サンプルを幅2.540cmに切断し、剥離試験機に入れ、ゴムシート部分とポリエステル綿帆布とを180°になるようにしながら、50mm/分の引張速度で剥離させることにより接着力を測定した。また、接着力を測定した時の破壊時の態様を観察した。結果を表3に示す。
【0089】
<試験例14〜24>
接着ゴム溶液及び接着ゴム層の組成を、それぞれ表1の配合例2〜12の組成とした点以外は、試験例13と同様にして接着力を評価するためのサンプル(帆布サンプル)を作製し、接着力を測定し、破壊時の態様を観察した。結果を表3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
次に、Vリブドベルトを製造し、製造したVリブドベルトのベルト破壊までの走行時間の評価試験を行った。
【0092】
Vリブドベルトの圧縮ゴム層の組成を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
<実施例1>
まず、表1の配合例1に従い、試験例1と同様にして未加硫ゴムシートを作製する未加硫ゴムシート作製工程を実施し、厚さ0.5mmの接着ゴム層用未加硫ゴムシート2枚を作製した。また、表4の組成に従い、未加硫ゴムシート作製工程を実施し、厚さ0.5mmの圧縮ゴム層用未加硫ゴムシートを作製した。
次に、試験例1で用いたものと同じ心線に対して、試験例1と同様に前処理を行う補強用繊維材前処理工程を実施し、前処理ポリエステル心線を作製した。また、試験例13で用いたものと同じ帆布に対して、試験例13と同様に前処理を行う補強用繊維材前処理工程を実施し、ゴムコート帆布を作製した。
続いて、予備成形体作製工程を実施した。具体的には、表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周面にゴムコート帆布、及び、接着ゴム層用未加硫ゴムシートを巻き付けた後、この上に前処理ポリエステル心線を螺旋状にスピニングし、更に、その上にもう1つの接着ゴム層用未加硫ゴムシートを巻き付けた後、圧縮ゴム層用未加硫ゴムシートを4回巻き付けて予備積層体を作製した。
次に、加硫工程を実施した。具体的には、作製した予備積層体を内圧588kPa、外圧883kPa、温度165℃、時間35分間で加硫缶中にて加熱加圧し、蒸気加硫して、環状物となった一次成形体を作製した。
次いで、リブ形成工程を実施した。具体的には、一次成形体を駆動ロールと従動ロールとからなる第1の駆動システムに取り付けて、所定の張力の下で走行させながら、これに研削ホイールにて表面に3つのリブを形成した。
この後、切断工程を実施した。具体的には、リブが形成された一次成形体を更に別の駆動ロールと従動ロールとならなる第2の駆動システムに取り付けて、走行させながら、所定の幅に裁断した。
以上のようにして、リブ数3、周長さ1000mmのVリブドベルトを製造した。
【0095】
<実施例2〜8、比較例1〜4>
接着ゴム溶液及び接着ゴム層の組成において、実施例2〜8はそれぞれ表1の配合例2〜8の組成とし、比較例1〜4はそれぞれ表1の配合例9〜12の組成とした点以外は、実施例1と同様にしてVリブドベルトを製造した。
【0096】
(ベルト破壊までの走行時間の評価試験)
得られたVリブドベルトを図3に示すように駆動プーリ11(直径120mm)と従動プーリ12(直径120mm)とこれらのプーリの間に配置したアイドラープーリ13(直径70mm)とテンションプーリ14(直径55mm)とからなるベルト駆動システムに取り付けた。ただし、アイドラープーリにはベルト背面を係合させた。温度130℃の雰囲気温度の下で、従動プーリの負荷を16馬力とし、テンションプーリの初張力を834Nとし、駆動プーリを回転数4900rpmで駆動して、ベルトを走行させ、ベルトから心線が露出するか、帆布が剥離するか、又はゴム層に割れを生じるまでの走行時間を評価した。結果を表5に示す。
【0097】
【表5】

【0098】
表4によれば、フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種及び硫黄系加硫剤が含まれている、エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物を用いた実施例1〜8のVリブドベルトは、ゴム組成物と心線との接着力に起因する破壊が抑制されており、比較的長時間の走行が可能であることが認められる。また、ゴム組成物にスルフェンアミド系加硫促進剤及びチウラム系加硫促進剤が含有されている実施例3〜5のVリブドベルトは、さらに長時間の走行が可能であることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明に係る伝動ベルトの一実施形態であるVリブドベルトを示す断面図(幅方向に横断するように切断した場合の断面を示す断面図)。
【図2】本発明に係る伝動ベルトの一実施形態であるVベルトを示す断面図(幅方向に横断するように切断した場合の断面を示す断面図)。
【図3】ベルト走行試験のための走行試験機の概念図。
【符号の説明】
【0100】
1・・・帆布
2・・・心線
4・・・リブ
5・・・溝
6・・・短繊維
7・・・上ゴム層
8・・・Vリブドベルト
9・・・Vベルト
10・・・圧縮ゴム層
20・・・接着ゴム層
30・・・背面層
11・・・駆動プーリ
12・・・従動プーリ
13・・・アイドラープーリ
14・・・テンションプーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材とが加硫一体化されてなる伝動ベルトであって、
フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種と、硫黄系加硫剤とが前記ゴム組成物に含まれていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
前記ゴム組成物がスルフェンアミド系加硫促進剤及びチウラム系加硫促進剤を含有している請求項1記載の伝動ベルト。
【請求項3】
前記補強用繊維材にはレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)接着剤による処理が施されてなる請求項1又は2記載の伝動ベルト。
【請求項4】
前記補強用繊維材が心線又は帆布である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の伝動ベルト。
【請求項5】
エチレン−α-オレフィン共重合体ゴムを含有するゴム組成物と補強用繊維材とを加硫処理中に一体化させる加硫工程を実施する伝動ベルトの製造方法であって、
フェニレンジマレイミド及びポリジニトロソベンゼンのうちの少なくとも1種と、硫黄系加硫剤とが含まれている前記ゴム組成物を用いて前記加硫工程を実施することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−24757(P2009−24757A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187430(P2007−187430)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】