説明

伝染性膿痂疹の診断方法および診断キット、ならびにこれらに用いるポリペプチドおよび抗体

【課題】 表皮剥脱毒素を定量的に検出して伝染性膿痂疹を診断するための方法およびキットを提供する。
【解決手段】 表皮剥脱毒素を簡易迅速定量的に検出するための基質タンパク質を取得する。特に、特定のアミノ酸配列の240〜385位を含むヒトDsg1ポリペプチドを発現する発現ベクターを構築して、E.coliにおいて大量発現し得るヒトDsg1ポリペプチドを取得する。該ポリペプチド並びにその抗体を用いた表皮剥脱毒素の測定方法および測定キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮剥脱毒素の標的基質タンパク質Dsg1を用いる毒素の簡易迅速測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黄色ブドウ球菌は、ヒトにおいて化膿性炎などの多様な疾患を引き起こす代表的な病原性細菌の1つである。黄色ブドウ球菌に基づく疾患の1つとして、伝染性膿痂疹が知られている。伝染性膿痂疹は、水疱形成を特徴とする皮膚疾患であり、一般的に「飛び火」と呼ばれている。「飛び火」という呼称は、掻痒感のために患部を掻くと、主に手指を介して水疱形成が広がっていくことに起因している。罹患するのは主に新生児、幼児から小児までであり、成人が罹患する例は稀である。しかし、免疫不全症もしくは基礎疾患の起因して抵抗力が低下した成人、または老人にも感染することが知られている。「飛び火」は、皮膚科または小児科において、梅雨時期から秋口までの間に特に多く見られる非常に主要な疾患である。
【0003】
皮膚に水疱が生じる疾患は数多く認められ、例えば、感染症、自己免疫性疾患、アレルギーなどが挙げられる。これらの疾患に応じて治療方針が異なる。飛び火の場合、抗菌治療が中心であるが、そのためには他の疾患との識別が重要である。
【0004】
黄色ブドウ球菌感染による水疱形成は、菌が産生するタンパク質毒素である「表皮剥脱毒素(Exfoliative Toxin(ET))」の作用によって表皮内で剥離が生じることに起因することが明らかになっている。ETの表皮剥脱活性は、1970年代に米国において見出された。黄色ブドウ球菌の培養濾液を新生児マウスに投与すると、ヒトで観察される表皮剥脱と同様の症状が観察された。その後、表皮剥脱活性を有するタンパク質が分離、精製されて表皮剥脱毒素と名付けられた。
【0005】
表皮剥脱毒素は、分子量約27,000のポリペプチドであり、古典的には、血清型に基づいてETAおよびETBに分類されている。表皮剥脱毒素のアミノ酸配列が同定され、その配列相同性からキモトリプシン様タンパク質分解酵素であることが示唆された。また、表皮剥脱毒素は、公知のセリンプロテアーゼにおいて保存されている活性基(Ser、His、Aspの3つのアミノ酸からなる触媒トライアッド(catalytic triad))を保有する。さらに、ETAおよびETBの結晶構造解析は、表皮剥脱毒素がタンパク質分解酵素として機能することを支持する。
【0006】
近年、本発明者らの研究室において、新たな血清型を有するETDが見出され、現在までに、ヒトに感染する黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素として3種類の血清型が存在することが知られている。
【0007】
2000年には、ETAの標的基質タンパク質が表皮細胞デスモゾームタンパク質デスモグレイン(Desmoglein)1(Dsg1)であることが明らかにされ、ETAがインビトロでDsg1を切断する活性(タンパク質分解酵素活性)を有することが示された(非特許文献1を参照のこと)。デスモグレインは、表皮細胞の細胞間接着に関与し、Dsg1およびDsg3が知られているが、表皮剥脱毒素は、Dsg1のみを基質とし、選択的に消化および切断する。また本発明者らは、ETAだけではなくETBおよびETDもまた、Dsg1の同一部位(VLNVIE*GPVFRP(配列番号37):*は切断部位を示す)を消化および切断することを示した(非特許文献2を参照のこと)。
【0008】
現在までに、この表皮の剥離を引き起こす表皮剥脱毒素のタンパク質分解酵素活性は、極めて特異性が高いこと、および、表皮細胞の細胞間接着に関与するタンパク質Dsg1を消化および切断して、表皮細胞の細胞間接着に異常を引き起こすことが知られてきた。また、従来の表皮剥脱毒素(ETAおよびETB)に関する識別診断には、患部から菌体を採取して培養し、当該毒素に対する抗体によって毒素を検出する診断方法が用いられてきた。
【非特許文献1】「Toxin in bullous impetigo and staphylococcal scalded skin syndrome targets desmoglein 1.」、Amagai,M.,Matsuyoshi,N.,Wang,Z.H.,Andl,C.,Stanley,J.R.:Nat.Med.6,1275−1277(2000)
【非特許文献2】「Identification of the Staphylococcus aureus etd pathogenicity island which encodes a novel exfoliative toxin,ETD,and EDIN−B.」(Yamaguchi,T.,Nishifuji,K.,Sasaki,M.,Fudaba,Y.,Aepfelbacher,M.,Takata,T.,Ohara,M.,Komatsuzawa,H.,Amagai,M.,Sugai,M.:Infect.Immun.70,5835−5845(2002))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、新規毒素ETDが発見されたことは、さらなる未知の毒素の存在が存在する可能性を示唆するので、従来の診断方法の適用範囲は限定される危険性がある。上記の従来の診断方法の欠点を補うための新たな診断アッセイとして、表皮剥脱毒素の基質タンパク質であるヒトDsg1タンパク質を用いる酵素アッセイが提案されているが、当該アッセイを実施するためには十分量の基質Dsg1タンパク質が必要である。しかし、基質タンパク質であるヒトDsg1タンパク質を大量生成することは困難であった。つまり、表皮剥脱毒素を迅速かつ簡便に検出する方法、および定量的に表皮剥脱毒素を測定する方法は、存在しなかった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、表皮剥脱毒素感受性が高く大量生産可能なヒトDsg1ポリペプチドを見出すことである。このようなポリペプチドを用いることによってヒトDsg1タンパク質を用いる酵素アッセイの感度を向上させることができる。
【0011】
また本発明は、基質タンパク質であるヒトDsg1ポリペプチドを大量生成する方法、表皮剥脱毒素によるヒトDsg1タンパク質の切断を効率よく検出する方法、および被験体中に存在する表皮剥脱毒素を定量的に測定する方法を提供することを目的とする。換言すれば、本発明の目的は、表皮剥脱毒素の基質タンパク質であるヒトDsg1タンパク質を用いる酵素アッセイを利用する、より感度の高い伝染性膿痂疹の診断方法および診断キットを供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むことを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るという効果を奏する。さらに、本発明に係るポリペプチドは、表皮剥脱毒素感受性が高いという効果を奏する。
【0014】
本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位;または
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなるポリペプチドあるいはそのフラグメントでありかつ配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むことを特徴としている。
【0015】
本発明に係るポリペプチドは、
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位からなるポリペプチドまたはそのフラグメントでありかつ配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むことを特徴とするポリペプチド;あるいは
(B)上記(A)のポリペプチドのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、E.coli組換え発現系において発現し得ることを特徴としている。
【0016】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位からなるポリペプチドまたはそのフラグメントでありかつ配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むことを特徴としている。
【0017】
本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位;
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列の190〜545位;
(D)配列番号1に示されるアミノ酸配列の190〜545位において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;
(E)配列番号1に示されるアミノ酸配列の221〜545位;
(F)配列番号1に示されるアミノ酸配列の221〜545位において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;
(G)配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜545位;
(H)配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜545位において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;
(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜385位;または
(J)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜385位において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴としている。
【0018】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号9、11、13、15または17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなることを特徴としている。
【0019】
本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含むポリヌクレオチドによってコードされることを特徴としている。
【0020】
上記の構成によれば、本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るという効果を奏する。さらに、本発明に係るポリペプチドは、表皮剥脱毒素感受性が増大するという効果を奏する。
【0021】
本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、
(A)配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位;または
(B)配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列;
からなるポリヌクレオチドあるいはそのフラグメントでありかつ配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含むポリヌクレオチド
によってコードされることを特徴としている。
【0022】
本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、
(A)配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位からなるポリヌクレオチドまたはそのフラグメントでありかつ配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含むポリヌクレオチド;あるいは、
(B)上記(A)のポリヌクレオチドの塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされることを特徴としている。
【0023】
本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、
配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位からなるポリヌクレオチドあるいはそのフラグメントであり、かつ配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含むポリヌクレオチド
によってコードされることを特徴としている。
【0024】
本発明に係るポリペプチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、
(A)配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位;
(B)配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列;
(C)配列番号2に示される塩基配列の645〜1712位;
(D)配列番号2に示される塩基配列の645〜1712位において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列;
(E)配列番号2に示される塩基配列の708〜1712位;
(F)配列番号2に示される塩基配列の708〜1712位において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列;
(G)配列番号2に示される塩基配列の795〜1712位;
(H)配列番号2に示される塩基配列の795〜1712位において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列;
(I)配列番号2に示される塩基配列の555〜1232位;または
(J)配列番号2に示される塩基配列の555〜1232位において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列、
からなるポリヌクレオチド
によってコードされることを特徴としている。
【0025】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号10、12、14、16または18のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされる
ことを特徴としている。
【0026】
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドをコードすること、あるいは、上記ポリペプチドをコードする特徴とするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつE.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドをコードすること、を特徴としている。
【0027】
上記の構成によれば、本発明に係るポリヌクレオチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドをコードするという効果を奏する。さらに、本発明に係るポリヌクレオチドは、表皮剥脱毒素感受性が増大したヒトDsg1ポリペプチドをコードするという効果を奏する。
【0028】
本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含むことを特徴としている。
【0029】
上記の構成によれば、本発明に係るポリヌクレオチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドをコードするという効果を奏する。さらに、本発明に係るポリヌクレオチドは、表皮剥脱毒素感受性が高いヒトDsg1ポリペプチドをコードするという効果を奏する。
【0030】
本発明に係るポリヌクレオチドは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位からなるポリヌクレオチドあるいはそのフラグメントでありかつ配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含むことを特徴としている。
【0031】
本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号10、12、14、16または18のいずれか1つに示される塩基配列からなることを特徴としている。
【0032】
本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号23〜34のいずれか1つに示される塩基配列を含むことを特徴としている。
【0033】
上記の構成によれば、本発明に係るポリヌクレオチドは、PCRプライマーとして使用した場合にE.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを増幅するという効果を奏する。
【0034】
本発明に係るベクターは、上記ポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
【0035】
上記の構成によれば、本発明に係るベクターは、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドを作製することができるという効果を奏する。
【0036】
本発明に係るベクターは、発現ベクターであることが好ましい。
【0037】
本発明に係るベクターは、E.coli発現ベクターであることが好ましい。
【0038】
本発明に係る細胞は、上記ベクターを含有することを特徴としている。
【0039】
上記の構成によれば、本発明に係る細胞は、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドを作製することができるという効果を奏する。
【0040】
本発明に係る細胞は、E.coliであることが好ましい。
【0041】
本発明に係るポリペプチド生成方法は、上記ベクターを用いることを特徴としている。
【0042】
上記の構成によれば、本発明に係るポリペプチド生成方法は、E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドを作製することができるという効果を奏する。
【0043】
本発明に係るポリペプチド生成方法において、上記ベクターが、ヒスチジンタグおよびチオレドキシンタグを付加させることが好ましい。
【0044】
本発明に係るポリペプチド生成方法は、Hisタグとの親和性樹脂を用いて精製する工程をさらに包含し、当該工程においてイミダゾールを使用しないことが好ましい。
【0045】
本発明に係るポリペプチド生成方法は、インビトロ翻訳に必要な酵素をさらに用いることが好ましい。
【0046】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットは、上記ポリペプチドを備えることを特徴としている。
【0047】
上記の構成によれば、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットを用いれば、被験体(特に、水疱形成を生じる患者)が黄色ブドウ球菌を保有するか否かを簡便に同定できるという効果を奏する。
【0048】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットは、上記ポリペプチドに対する抗体または上記ポリペプチドに連結した標識に対する抗体をさらに備えることが好ましい。
【0049】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法は、
(1)被験体サンプルを上記ポリペプチドとインキュベートする工程;および
(2)当該インキュベートする工程において切断された当該ポリペプチドを検出する工程、
を包含することを特徴としている。
【0050】
上記の構成によれば、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法は、被験体(特に、水疱形成を生じる患者)が黄色ブドウ球菌を保有するか否かを簡便に同定できるという効果を奏する。
【0051】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法は、上記検出する工程が、上記ポリペプチドに対する抗体または上記ポリペプチドに連結した標識に対する抗体を用いることが好ましい。
【0052】
本発明に係る抗体は、上記ポリペプチドと特異的に結合することを特徴としている。
【0053】
本発明に係る抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の377〜381位と特異的に結合することが好ましい。
【0054】
上記の構成によれば、本発明に係る抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の377〜381位に特異的に結合できるという効果を奏する。
【0055】
本発明に係る抗体を生成する方法は、追加免疫を5回以上行なうことを特徴としている。
【0056】
上記の構成によれば、本発明に係る抗体を生成する方法は、上記ポリペプチドと特異的に結合する抗体を生成することができるという効果を奏する。
【0057】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットは、上記抗体を備えることを特徴としている。
【0058】
上記の構成によれば、本発明に係るを用いれば、被験体(特に、水疱が形成した患者)が黄色ブドウ球菌を保有するか否かを簡便に同定できるという効果を奏する。
【0059】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットは、上記抗体に対する抗体または上記抗体に連結した標識に対する抗体をさらに備えることが好ましい。
【0060】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法は、
(1)被験体サンプルを上記抗体とインキュベートする工程;および
(2)上記抗体と結合した物質を検出する工程、
を包含することを特徴としている。
【0061】
上記の構成によれば、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法は、被験体(特に、水疱形成を生じる患者)が黄色ブドウ球菌を保有するか否かを簡便に同定できるという効果を奏する。
【0062】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法において、上記検出する工程が、上記抗体に対する抗体または上記抗体に連結した標識に対する抗体を用いることが好ましい。
【0063】
本発明に係る細菌検出器具は、上記ポリペプチドが支持体上に固定化されていることを特徴としている。
【0064】
上記の構成によれば、本発明に係る細菌検出器具を用いれば、複数の被験体をスクリーニングして表皮剥脱毒素を産生する黄色ブドウ球菌を保有する被験体を同定することができるという効果を奏する。さらに他種の細菌を網羅的に検査する場合は、表皮剥脱毒素を産生する黄色ブドウ球菌がどのような細菌種と共存する傾向があるかを知ることができるという効果を奏する。
【0065】
本発明に係る表皮剥脱毒素のスクリーニング方法は、
(1)被験体サンプルを上記ポリペプチドとインキュベートする工程;および
(2)当該インキュベートする工程において切断された当該ポリペプチドを検出する工程、
を包含することを特徴としている。
【0066】
上記の構成によれば、本発明に係る表皮剥脱毒素のスクリーニング方法は、被験体(特に、水疱形成を生じる患者)に存在する黄色ブドウ球菌の産生する表皮剥脱毒素が新規であるか否かを簡便に同定できるという効果を奏する。
【0067】
本発明に係る表皮剥脱毒素のスクリーニング方法は、
(1)被験体サンプルを上記抗体とインキュベートする工程;および
(2)上記抗体と結合した物質を検出する工程、
を包含することを特徴としている。
【0068】
上記の構成によれば、本発明に係る表皮剥脱毒素のスクリーニング方法は、表皮剥脱毒素の存在を検出するとともに、既知の表皮剥脱毒素と比較することによって新たな表皮剥脱毒素を見出すことができるという効果を奏する。
【0069】
本発明に係る表皮剥脱毒素のスクリーニング方法は、切断されたポリペプチドが検出された被験体サンプルを表皮剥脱毒素に対する抗体とインキュベートする工程をさらに包含することが好ましい。
【0070】
本発明に係る表皮剥脱毒素のスクリーニング方法は、被験体サンプルから単離した表皮剥脱毒素を配列決定して既知の表皮剥脱毒素の配列と比較する工程をさらに包含することが好ましい。
【発明の効果】
【0071】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法によれば、迅速かつ簡便に表皮剥脱毒素を検出および定量的に測定することができ、その結果、伝染性膿痂疹の進行度を数値化することができるので、伝染性膿痂疹の処置に用いる抗生物質の量を容易に設定することができるという効果を奏する。
【0072】
本発明に係るポリペプチドは、E.coliで大量生成することができるという効果を奏する。また本発明に係るポリペプチドは、表皮剥脱毒素の基質タンパク質として優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
本発明者らは、表皮剥脱毒素の検出手段を探索した結果、従来方法の問題点を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、表皮剥脱毒素の標的基質タンパク質Dsg1を用いる毒素の簡易迅速測定方法に関する。
【0074】
(1)ヒトDsg1
(A)ポリペプチド
本発明者らは、ヒトDsg1タンパク質を用いる酵素アッセイの感度を向上させることを目的として、表皮剥脱毒素との反応に重要なヒトDsg1タンパク質の領域、および表皮剥脱毒素の基質としてより良好なヒトDsg1ポリペプチドを見出した。さらにこのヒトDsg1ポリペプチドが、E.coli発現系において大量調製可能であることを見出した。
【0075】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0076】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0077】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0078】
1つの局面において、本発明は、ヒトDsg1ポリペプチドを提供する。本明細書中で使用される場合、「ヒトDsg1ポリペプチド」は、表皮剥脱毒素を検出および/または測定するアッセイに最適なポリペプチドであって、表皮剥脱毒素との反応に重量な領域を有しかつE.coliにおいて発現することができるポリペプチドが意図される。
【0079】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるヒトDsg1タンパク質は、その細胞外ドメインにEC1領域(配列番号1のアミノ酸54〜135位)、EC2領域(配列番号1のアミノ酸162〜260位)、EC3領域(配列番号1のアミノ酸274〜356位)、およびEC4領域(配列番号1のアミノ酸403〜484位)などの分子間相互作用に関与する領域を有する。表皮剥脱毒素によって切断される部位は、381位のグルタミン酸のC末端側であり、EC3領域内に存在する。
【0080】
本発明者らは、ヒトDsg1タンパク質の細胞外ドメイン(配列番号1のアミノ酸50〜548位)の種々の欠失変異体(図1を参照のこと)を構築して、表皮剥脱毒素に対する感受性を検討した。その結果、ヒトDsg1タンパク質の細胞外ドメインの特定の領域を有するヒトDsg1ポリペプチドが、表皮剥脱毒素による切断反応が有意に増強されし、かつE.coli発現系で大量生産が可能であることを見出した。具体的には、ヒトDsg1タンパク質のアミノ酸112〜385を含むポリペプチドは、E.coliにおいて大量生産できることがわかった。また、ヒトDsg1タンパク質のアミノ酸160〜385を含むポリペプチドは、表皮剥脱毒素に対する感受性が高く、酵素アッセイにおいて良好な基質となることがわかった。
【0081】
1つの実施形態において、本発明のヒトDsg1ポリペプチドは、表皮剥脱毒素による切断部位を含んで表皮剥脱毒素の基質として機能するポリペプチドが意図される。好ましくは、本実施形態に係るヒトDsg1ポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含む。
【0082】
特定の実施形態において、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位からなるポリペプチドまたはそのフラグメントであって、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含む。最も好ましくは、本実施形態に係るヒトDsg1ポリペプチドは、配列番号9、11、13、15または17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなる。本実施形態に係るヒトDsg1ポリペプチドは表皮剥脱毒素切断部位を含むので、表皮剥脱毒素による切断アッセイにおける基質タンパク質として使用することができる。
【0083】
本発明は、さらに、実質的なヒトDsg1ポリペプチド活性を示すヒトDsg1ポリペプチドの変異体を含む。本明細書中で使用される場合、用語「ヒトDsg1ポリペプチド活性」は、従来不可能であった大腸菌における発現を可能とするヒトDsg1ポリペプチドの新規特性が意図される。
【0084】
このような変異体は、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む。小さな変化、またはこのような「中性」アミノ酸置換は、一般的にほとんど活性に影響しない。
【0085】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0086】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望の活性を有するか否かを容易に決定し得る。
【0087】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、ヒトDsg1ポリペプチド活性を変化しない。
【0088】
代表的に保存的置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0089】
上記に詳細に示されるように、どのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントでありそうか(すなわち、機能に対して有意に有害な効果を有しそうにないか)に関するさらなるガイダンスは、Bowie, J.U.ら「Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions」,Science 247:1306−1310 (1990)(本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。
【0090】
好ましい実施形態において、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列を含むポリペプチド変異体を提供する。好ましくは、本実施形態に係るヒトDsg1ポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなるポリペプチドであって配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含む。本実施形態に係るヒトDsg1ポリペプチドはまた、配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位からなるポリペプチドまたはそのフラグメントであって配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むポリペプチド、あるいは当該ポリペプチドのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、E.coli組換え発現系において発現し得ることを特徴とするポリペプチドである。
【0091】
別の局面において、本発明に係るポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間の、または続く操作および保存の間の、安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端に付加され得る。
【0092】
特定の局面において、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドは、例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)にN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821−824(1989)(本明細書中に参考として援用される)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、Wilsonら、Cell 37:767(1984)(本明細書中に参考として援用される)によって記載されている。他のそのような融合タンパク質は、NまたはC末端にてFcに融合される本実施形態に係るヒトDsg1ポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。
【0093】
本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドは、下記で詳述されるように組換え生成されても、化学合成されてもよい。
【0094】
組換え生成は、当該分野において周知の方法を使用して行なうことができ、例えば、以下に詳述されるようなベクターおよび細胞を用いて行なうことができる。
【0095】
合成ペプチドは、化学合成の公知の方法を使用して合成され得る。例えば、Houghtenは、4週間未満で調製されそして特徴付けられたHA1ポリペプチドセグメントの単一アミノ酸改変体を示す10〜20mgの248の異なる13残基ペプチドのような多数のペプチドの合成のための簡単な方法を記載している。Houghten,R.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131−5135(1985)。この「Simultaneous Multiple Peptide Synthesis(SMPS)」プロセスは、さらにHoughtenら(1986)の米国特許第4,631,211号に記載される。この手順において、種々のペプチドの固相合成のための個々の樹脂は、別々の溶媒透過性パケットに含まれ、固相法に関連する多くの同一の反復工程の最適な使用を可能にする。完全なマニュアル手順は、500〜1000以上の合成が同時に行われるのを可能にする(Houghtenら、前出、5134)。これらの文献は、本明細書中に参考として援用される。
【0096】
下記に詳細に記載するように、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドは、表皮剥脱毒素の検出および測定、ならびに伝染性膿痂疹(飛び火)の診断において有用である。
【0097】
このように、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドは、少なくとも、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含んでいればよいといえる。すなわち、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位とヒトDsg1タンパク質における他の任意の領域とからなるポリペプチドも本発明に含まれることに留意すべきである。また、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位とヒトDsg1タンパク質における他の任意の領域は、それぞれの機能を阻害しないように適切なリンカーペプチドで連結されていてもよい。
【0098】
つまり、本発明の目的は、E.coli組換え発現系において発現し得るヒトDsg1ポリペプチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリペプチド作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得されるヒトDsg1ポリペプチドも本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0099】
(B)ポリヌクレオチド
1つの局面において、本発明は、配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含むポリヌクレオチドを提供する。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。
【0100】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0101】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化合合成されてもよい。
【0102】
本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントは、少なくとも12nt(ヌクレオチド)、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図される。少なくとも20ntの長さのフラグメントによって、例えば、配列番号2に示される塩基配列からの20以上の連続した塩基を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号2に示される塩基配列が提供されるので、当業者は,配列番号2に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
【0103】
ヒトDsg1ポリペプチドをコードする本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0104】
本発明はさらに、ヒトDsg1ポリペプチドをコードする本発明に係るポリヌクレオチドの変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0105】
このような変異体としては、ヒトDsg1ポリペプチドをコードする本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0106】
別の局面において、本発明は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、上記の本発明に係るポリヌクレオチド(例えば、配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位からなるポリヌクレオチド)またはその一部にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドを提供する。用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30〜70ntにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドは、本明細書中においてより詳細に考察されるような診断用プライマーおよび診断用プローブとしても有用である。
【0107】
ヒトDsg1ポリペプチドをコードする本発明に係るポリヌクレオチドは、宿主細胞における増殖のための選択マーカーを含有するベクターに結合され得る。一般的に、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿物のような沈殿物中か、または荷電された脂質との複合体中で導入される。また、下記で詳述するように、DEAEデキストラン法やエレクトロポレーション法を用いてもよい。ベクターがウイルスである場合、ベクターは、適切なパッケージング細胞株を用いてインビトロでパッケージングされ得、次いで宿主細胞に形質導入され得る。
【0108】
さらに、本発明は、ヒトDsg1ポリペプチドをコードするか否かに関係なく、配列番号2に示される塩基配列の少なくとも12個連続する配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)に関する。このようなオリゴヌクレオチドとしては、配列番号23〜34に示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドが好ましい。このようなオリゴヌクレオチドは、特定のポリヌクレオチドがヒトDsg1ポリペプチドをコードしない場合でさえ、当業者は、本発明に係るポリヌクレオチドが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のプライマーとして本発明に係るポリペプチドを作製するために使用され得ることを容易に理解する。
【0109】
このように、本発明に係るヒトDsg1ポリヌクレオチドは、少なくとも、配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含んでいればよいといえる。すなわち、配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位とヒトDsg1タンパク質の他の任意の領域をコードするポリヌクレオチド塩基配列からなるポリヌクレオチドも本発明に含まれることに留意すべきである。また、配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位とヒトDsg1タンパク質の他の任意の領域をコードするポリヌクレオチド塩基配列は、適切なリンカーペプチドをコードするポリヌクレオチドで連結されていてもよい。
【0110】
つまり、本発明の目的は、E.coli組換え発現系において発現し得るヒトDsg1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリヌクレオチド作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得されるヒトDsg1ポリヌクレオチドも本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0111】
(C)ベクターおよび細胞
本発明は、ヒトDsg1ポリペプチドを生成するために使用されるベクターに関する。本発明に係るベクターは、インビトロ翻訳に用いるベクターであっても組換え発現に用いるベクターであってもよい。
【0112】
本発明はまた、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドを組換え的に生成するための本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換え構築物で形質転換された宿主細胞、および組換え技術によるヒトDsg1ポリペプチドまたはそのフラグメントの産生方法に関する。
【0113】
組換え構築物は、感染、形質導入、トランスフェクション、エレクトロポレーション、および形質転換のような周知の技術を用いて宿主細胞に導入され得る。組換え構築物としてのベクターは、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、またはレトロウイルスベクターであり得る。レトロウイルスベクターは、複製可能かまたは複製欠損であり得る。後者の場合、ウイルスの増殖は、一般的に、相補宿主細胞においてのみ生じる。
【0114】
発現させる目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、当該分野において周知の方法を用いて取得することができる。公知のタンパク質の部分配列は、所望の部位の対してプライマーを設計してPCR増幅することによって対応するポリヌクレオチドを取得し、発現ベクターに挿入して細胞内で容易に得られる。
【0115】
目的の挿入ポリヌクレオチドに対するシス作用性制御領域を含有するベクターが好ましい。適切なトランス作用性因子は、宿主によって供給され得るか、相補ベクターによって供給され得るか、または宿主への導入の際にベクター自体によって供給され得る。
【0116】
特定の実施態様において、ベクターは、誘導性および/または細胞型特異的であり得る特異的な発現を提供するベクターが好ましい。このようなベクターの中で特に好ましいベクターは、温度および栄養添加物のような操作することが容易である環境因子によって誘導性のベクターである。
【0117】
本発明において有用な発現ベクターとしては、染色体ベクター、エピソームベクター、およびウイルス由来ベクター(例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメント、ウイルス(例えば、バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、およびレトロウイルス)、ならびにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミドおよびファージミド)が挙げられる。
【0118】
DNA挿入物は、適切なプロモーター(例えば、ファージλPLプロモーター、E.coli lacプロモーター、trpプロモーター、およびtacプロモーター、SV40初期プロモーターおよび後期プロモーター、ならびにレトロウイルスLTRのプロモーター)に作動可能に連結されるべきである。他の適切なプロモーターは、当業者に公知である。発現構築物は、さらに、転写開始、転写終結のための部位、および、転写領域中に翻訳のためのリボゾーム結合部位を含む。構築物によって発現される成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチドの始めに転写開始AUGを含み、そして終わりに適切に位置される終止コドンを含む。
【0119】
発現ベクターは、好ましくは少なくとも1つの選択マーカーを含む。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性、およびE.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。適切な宿主の代表的な例としては、細菌(例えば、E.coli細胞、Streptomyces細胞、およびSalmonella typhimurium細胞);真菌細胞(例えば酵母細胞);昆虫細胞(例えば、Drosophila S2細胞およびSpodoptera Sf9細胞);動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、およびBowes黒色腫細胞);ならびに植物細胞が挙げられる。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で公知である。
【0120】
好ましい実施形態において、本発明に係るベクターは、細菌(特に、E.coli)において本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドを発現し得る。細菌における使用に好ましいベクターの中には、pQE70、pQE60、およびpQE−9(Qiagenから入手可能);pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A(Stratageneから入手可能);ならびにptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(Phrmaciaから入手可能)が含まれる。
【0121】
本発明における使用に適した公知の細菌プロモーターの中には、E.coli lacIおよびlacZプロモーター、T3プロモーターおよびT7プロモーター、gptプロモーター、λPRプロモーターおよびλPLプロモーター、ならびにtrpプロモーターが含まれる。適切な真核生物プロモーターとしては、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期SV40プロモーターおよび後期SV40プロモーター、レトロウイルスLTRのプロモーター(例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーター)、ならびにメタロチオネインプロモーター(例えば、マウスメタロチオネインIプロモーター)が挙げられる。
【0122】
別の実施形態において、本発明に係るベクターは、高等真核生物細胞において本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドを発現し得る。高等真核生物細胞によるDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大させ得る。エンハンサーは、所定の宿主細胞型におけるプロモーターの転写活性を増大するように働く、通常約10〜300bpのDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーの例としては、SV40エンハンサー(これは、複製起点の後期側上の100〜270bpに位置される)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側上のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
【0123】
好ましい真核生物ベクターとしては、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、およびpSG(Stratageneから入手可能);ならびにpSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVL(Phrmaciaから入手可能)が挙げられる。他の適切なベクターは、当業者に容易に明らかである。
【0124】
宿主細胞への構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染または他の方法によってもたらされ得る。このような方法は、Davisら、Basic Methods In Molecular Biology(1986)(本明細書中に参考として援用される)のような多くの標準的研究室マニュアルに記載されている。
【0125】
このように、本発明に係るベクターは、少なくとも、本発明に係るポリヌクレオチドを含めばよいといえる。すなわち、発現ベクター以外のベクターも、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0126】
また、本発明に係る細胞は、少なくとも、本発明に係るベクターを含めばよいといえる。すなわち、市販の細胞以外の初代培養細胞も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0127】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリヌクレオチドを含有するベクターおよび当該ベクターを含有する細胞を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法を用いて取得したベクターおよび細胞も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0128】
(D)抗体
本発明は、ヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体を提供する。好ましい局面において、本発明に係る抗体は、表皮剥脱毒素に切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する。より好ましい局面において、本発明に係る抗体は、表皮剥脱毒素によって切断されたヒトDsg1ポリペプチドの切断部位と特異的に結合する。
【0129】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されない。本発明に係る抗体は、従来の免疫方法では取得し得なかったが、本発明者らが免疫方法に創意工夫を重ねることによって取得された。好ましい実施形態において、本発明に係る抗体は、ヒトDsg1ポリペプチドの表皮剥脱毒素による切断部位であるペプチド断片を抗原に用いて作製される。本実施形態に係る抗体は、黄色ブドウ球菌の産生する表皮剥脱毒素の検出および/または伝染性膿痂疹(飛び火)診断に有用であり得る。
【0130】
ペプチド抗体は、当該分野に周知の方法によって作製される。例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910−914;およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347−2354(1985)(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。一般には、動物は遊離ペプチドで免疫化され得る;しかし、抗ペプチド抗体力価はペプチドを高分子キャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または破傷風トキソイド)にカップリングすることにより追加免疫され得る。例えば、システインを含有するペプチドは、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)のようなリンカーを使用してキャリアにカップリングされ得、一方、他のペプチドは、グルタルアルデヒドのようなより一般的な連結剤を使用してキャリアにカップリングされ得る。ウサギ、ラット、およびマウスのような動物は、遊離またはキャリア−カップリングペプチドのいずれかで、例えば、約100μgのペプチドまたはキャリアタンパク質およびFreundのアジュバントを含むエマルジョンの腹腔内および/または皮内注射により免疫化される。いくつかの追加免疫注射が、例えば、固体表面に吸着された遊離ペプチドを使用してELISAアッセイにより検出され得る有用な力価の抗ペプチド抗体を提供するために、例えば、約2週間の間隔で必要とされ得る。免疫化動物からの血清における抗ペプチド抗体の力価は、抗ペプチド抗体の選択により、例えば、当該分野で周知の方法による固体支持体上のペプチドへの吸着および選択された抗体の溶出により増加され得る。
【0131】
本明細書中で使用される場合、用語「ヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体」または「ヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体」は、ヒトDsg1ポリペプチド抗原と特異的に結合し得る完全な抗体分子および抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメント)を含むことを意味する。FabおよびF(ab’)2フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ない(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983)(本明細書中に参考として援用される))。従って、これらのフラグメントが好ましい。
【0132】
さらに、ヒトDsg1ポリペプチドのペプチド抗原と結合し得るさらなる抗体が、抗イディオタイプ抗体の使用を通じて二工程手順で産生され得る。このような方法は、抗体それ自体が抗原であるという事実を使用し、従って、二次抗体に結合する抗体を得ることが可能である。この方法に従って、ヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体は、動物(好ましくは、マウス)を免疫するために使用される。次いで、このような動物の脾細胞はハイブリドーマ細胞を産生するために使用され、そしてハイブリドーマ細胞は、ヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体に結合する能力がヒトDsg1ポリペプチド抗原によってブロックされ得る抗体を産生するクローンを同定するためにスクリーニングされる。このような抗体は、ヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体に対する抗イディオタイプ抗体を含み、そしてさらなるヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体の形成を誘導するために動物を免疫するために使用され得る。
【0133】
FabおよびF(ab’)2ならびに本発明に係る抗体の他のフラグメントは、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることが、明らかである。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)2フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生される。あるいは、ヒトDsg1ポリペプチド結合フラグメントは、組換えDNA技術の適用または合成化学によって産生され得る。
【0134】
ヒトにおける診断のために、インビボでのイメージングを用いて、切断されたヒトDsg1ポリペプチドの上昇レベルを検出する場合、「ヒト化」キメラモノクローナル抗体を使用することが好ましくあり得る。このような抗体は、上記のモノクローナル抗体を生成するハイブリドーマ細胞由来の遺伝構築物を用いて生成され得る。キメラ抗体を生成するための方法は、当該分野で公知である。総説については、Morrison,Science 229:1202(1985);Oiら、BioTechniques 4:214(1986);Cabillyら、米国特許第4,816,567号;Taniguchiら、EP 171496;Morrisonら、EP 173494;Neubergerら、WO 8601533;Robinsonら、WO 8702671;Boulianneら、Nature 312:643(1984);Neubergerら、Nature 314:268(1985)(これらは、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
【0135】
このように、本発明に係る抗体は、少なくとも、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドの表皮剥脱毒素による切断断片を認識する抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメント)を備えていればよいといえる。すなわち、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドの表皮剥脱毒素による切断断片を認識する抗体フラグメントと、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
【0136】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドの表皮剥脱毒素による切断断片を認識する抗体を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、キメラ抗体作製方法、ペプチド抗原作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0137】
(2)表皮剥脱毒素の測定方法および伝染性膿痂疹の診断方法
感染因子、または、代謝産物、核酸、およびタンパク質を含む病気の指標となる分子の検出および測定は、医学的疾患の診断および治療、ならびに研究における基本的な要素である。現在、多くの方法論が検出に使用されている。これらの方法論は、一般に、病気を引き起こす因子の成分をコードする遺伝物質のような、核酸に対する診断アッセイ、および病気を引き起こす因子または病気の副産物のいずれかの成分であるタンパク質に対する抗体をベースにした診断アッセイに分けられる。
【0138】
本発明は、表皮剥脱毒素の測定方法および伝染性膿痂疹の診断方法を提供する。本発明に係る黄色ブドウ球菌の産生する表皮剥脱毒素の測定方法および伝染性膿痂疹の診断方法は、伝染性膿痂疹を引き起こす黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素によって切断されたヒトDsg1ポリペプチドを検出する方法である。
【0139】
本明細書中で使用される場合、用語「表皮剥脱毒素の測定」は、「表皮剥脱毒素の検出」を包含することが意図される。当業者は、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法が、表皮剥脱毒素を検出するとともに存在する表皮剥脱毒素の量を定量的に測定することができることを、容易に理解する。
【0140】
本発明に従うと、被験体から得られたサンプル中に黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素が存在するか否かを、有効かつ効率的に判定し得る。また、本発明に従うと、被験体が黄色ブドウ球菌を保有するか否かを判定し得る。さらに、他の主要な細菌同定法と組み合わせることによって、より詳細な細菌感染チャートを作製することが可能である。
【0141】
1つの局面において、本発明は、生物学的サンプル(特に、被験体から得られた組織または他の細胞または体液である被験体サンプル)とヒトDsg1ポリペプチドとをインキュベートした後に、切断されたヒトDsg1ポリペプチドの有無を検出することに基づく表皮剥脱毒素を測定する方法、および黄色ブドウ球菌関連障害(特に、伝染性膿痂疹)を診断する方法を提供する。
【0142】
本明細書中で使用される場合、用語「生物学的サンプル」は、個体、体液、細胞株、組織培養物もしくは組織切片、または黄色ブドウ球菌を含む他の供給源から得られる、任意の生物学的サンプルが意図される。生物学的サンプルとしては、黄色ブドウ球菌を含む体液(例えば、血液、唾液、歯垢、血清、血漿、尿、滑液、および随液)あるいは組織供給源が挙げられる。好ましい生物学的サンプルは、被験体サンプルである。好ましい被験体サンプルは、被験体から得た皮膚病変部、喀痰、咽頭粘液、鼻腔粘液、膿、または分泌物であり、最も好ましくは、皮膚病変部である。本明細書中で使用される場合、用語「組織サンプル」は、組織供給源より得られた生物学的サンプルが意図される。哺乳動物から組織生検および体液を得るための方法は当該分野で周知である。本明細書中で使用される場合、用語「サンプル」としては、上記生物学的サンプルおよび上記組織サンプル以外に、上記生物学的サンプルおよび上記組織サンプルより抽出したゲノムDNAサンプルおよび/または総RNAサンプルも挙げられる。
【0143】
好ましくは、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むポリペプチドを用いて、切断されたヒトDsg1ポリペプチドを検出することに基づいて表皮剥脱毒素を測定、または伝染性膿痂疹を診断することを特徴とする。
【0144】
1つの実施形態において、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性膿痂疹の診断方法は、(1)被験体サンプルをヒトDsg1ポリペプチドとインキュベートする工程;および、(2)当該インキュベートする工程において切断された当該ポリペプチドを検出する工程、を包含する。
【0145】
上記検出する工程は、抗原抗体反応に基づいた免疫学的な結合反応を利用して検出することが意図される。免疫学的な結合反応を利用した検出アッセイとしては、サンドイッチELISAアッセイ、ウエスタンブロット、放射性イムノアッセイ、および免疫拡散アッセイのような抗体アッセイが挙げられる。これらのアッセイは、分子の固定化および検出のためにアビジンおよびビオチンのような分子を用いる。これらの試薬を調製する技術およびそれを使用する方法は、当業者に公知である。さらに、多くの結合アッセイは、染料、酵素、または放射性もしくは蛍光物質による標識を用いて検出が増強される。
【0146】
好ましくは、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性膿痂疹の診断方法において、上記検出する工程が、上記ポリペプチドに連結したタグ標識に対する抗体を用いる。上記タグ標識がヒトDsg1ポリペプチドのC末端に連結されている場合、表皮剥脱毒素によってヒトDsg1ポリペプチドが切断されて当該タグ標識が遊離する。上記タグ標識がヒトDsg1ポリペプチドのN末端に連結されている場合、表皮剥脱毒素によってヒトDsg1ポリペプチドが切断されても当該タグ標識は遊離せず長いN末端切断フラグメント中に存在する。
【0147】
好ましい実施形態において、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性伝染性膿痂疹の診断方法において、上記ヒトDsg1ポリペプチドとして、表皮剥脱毒素切断部位を含むポリペプチドと毒素切断部位を含まないポリペプチドを併用する。
【0148】
別の局面において、本発明は、黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素によって切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体を用いて免疫反応を行う工程を包含する表皮剥脱毒素を測定する方法または伝染性膿痂疹の診断方法を提供する。
【0149】
1つの実施形態において、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性膿痂疹の診断方法は、(1)被験体サンプルを切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体とインキュベートする工程;および、(2)当該抗体を検出する工程、を包含する。好ましい被験体サンプルは、被験体由来の生検サンプルまたは組織切片である。本方法に従えば、生体内で表皮剥脱毒素が有意に産生する部位を同定して有効な局所治療を行なうことができる。本方法において、切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体を標識することによって、より効果的に検出することができる。
【0150】
生物学的サンプル中の表皮剥脱毒素レベルのアッセイは、任意の当該分野で公知の方法を使用して行われ得る。抗体に基づく技術が、生物学的サンプル中の表皮剥脱毒素レベルをアッセイするために好ましい。例えば、組織中での表皮剥脱毒素の同定は、伝統的な免疫組織学的方法(ウェスタンブロットアッセイまたはドットブロットアッセイを含む)を用いて研究され得る。これらの場合、特異的認識は一次抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)によって提供されるが、二次検出系は、蛍光、酵素、または他の結合された二次抗体を利用し得る。結果として、病理検査のための組織切片の免疫組織学的染色が得られる。
【0151】
切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する本発明に係る抗体に適切な標識は、以下に提供される。適切な酵素標識の例としては、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。より適切な酵素標識としては、例えば、基質との反応による過酸化水素の生成を触媒するオキシダーゼ群由来のものが挙げられる。グルコースオキシダーゼは、それが良好な安定性を有し、そしてその基質(グルコース)が容易に入手できるために、特に好ましい。オキシダーゼ標識の活性は、酵素−標識抗体/基質反応によって形成される過酸化水素の濃度を測定することによってアッセイされ得る。
【0152】
切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する本発明に係る抗体に適切な放射性同位体標識の例としては、3H、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc、109Pdなどが挙げられる。
【0153】
適切な非放射性同位体標識の例としては、157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、および56Feが挙げられる。
【0154】
適切な蛍光標識の例としては、152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリトリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、o−フタルアルデヒド標識、およびフルオレサミン標識が挙げられる。
【0155】
適切な毒素標識の例としては、ジフテリア毒素、リシン、およびコレラ毒素が挙げられる。
【0156】
化学発光標識の例としては、ルミナール標識、イソルミナール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、シュウ酸エステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、およびエクオリン標識が挙げられる。
【0157】
上記の標識を抗体に結合するための代表的な技術は、Kennedyら(Clin.Chim.Acta 70:1−31(1976))およびSchursら(Clin.Chim.Acta 81:1−40(1977))(これらは、本明細書中に参考として援用される)により提供される。後者において言及されるカップリング技術は、グルタルアルデヒド方法、過ヨウ素酸方法、ジマレイミド方法、m−マレイミドベンジル−N−ヒドロキシ−スクシンイミドエステル方法であり、これらの方法は全て本明細書中に参考として援用される。
【0158】
このように、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性膿痂疹の診断方法は、少なくとも、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドを用いればよいといえる。また、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性膿痂疹の診断方法は、切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する本発明に係る抗体を用いればよいといえる。すなわち、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドと、切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する本発明に係る抗体とを用いる表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性膿痂疹の診断方法もまた本発明に含まれることに留意すべきである。
【0159】
つまり、本発明の目的は、表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性膿痂疹の診断方法を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したサンプル種およびサンプル採取方法、個々の標識の種類、標識方法、インキュベートの温度および時間等の条件に存するのではない。したがって、上記ポリペプチドまたは抗体を用いる各工程以外の工程を包含する測定方法または診断方法も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0160】
(3)表皮剥脱毒素の測定キットおよび伝染性膿痂疹の診断キット
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットおよび伝染性膿痂疹の診断キットは、判定対象となる切断されているヒトDsg1ポリペプチドを検出するものである。本発明に係るキットは、疾患(特に、伝染性膿痂疹)の診断方法、疾患の病原因子(特に、表皮剥脱毒素)の検出方法および測定方法に使用され得るか、あるいは新規病原因子(特に、新規表皮剥脱毒素)を同定するためのスクリーニング方法に使用され得る。
【0161】
上述したように、本明細書中で使用される場合、用語「表皮剥脱毒素の測定」は、「表皮剥脱毒素の検出」を包含することが意図される。当業者は、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定方法が、表皮剥脱毒素を検出するとともに存在する表皮剥脱毒素の量を定量的に測定することができることを、容易に理解する。
【0162】
1つの局面において、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むポリペプチドを備える、切断されたヒトDsg1ポリペプチドを検出して表皮剥脱毒素を測定するためのキットを提供する。
【0163】
1つの実施形態において、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットまたは伝染性膿痂疹の診断キットは、必要に応じて以下の1つ以上を備え得る:(1)本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドに対する、標識された結合パートナー;(2)結合パートナーを検出するための試薬;(3)キットを使用するための指導書。ヒトDsg1ポリペプチドは、タグ標識されていても他の標識物質(例えば、アビジン)などで標識されていてもよい。
【0164】
好ましいタグ標識としては、HAおよびヘキサヒスチジンが挙げられるが、これらに限定されず、当業者は、種々のタグ標識を容易に選択して使用することができる。好ましい結合パートナーとしては、ヒトDsg1ポリペプチドに対する抗体(例えば、既知の抗Dsg1抗体など)、タグ標識に対する抗体(例えば、抗HA抗体などの二次抗体)、およびヒトDsg1ポリペプチドに結合した標識と特異的に結合する物質(例えば、ビオチン)が挙げられる。好ましくは、上記二次抗体は標識されている。本発明に係るキットを用いれば、被験体(特に、水疱形成を生じる患者)が黄色ブドウ球菌を保有するか否かを簡便に同定し得る。
【0165】
上記標識された結合パートナーは、支持体上に固定化されていても固定化されていなくてもよい。好ましい支持体としては、ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ)、固相(例えば、ガラスチューブ、試薬ストリップ、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートまたはアミノ基結合型のマイクロタイタープレート)などが挙げられるが、これらに限定されない。固定方法は、当業者に周知であり、例えばNature 357:519−520(1992)(本明細書中に参考として援用される)に記載される。
【0166】
別の局面において、本発明に係るキットは、切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗体を備える、切断されたヒトDsg1ポリペプチドを検出して表皮剥脱毒素を測定するためのキットを提供する。
【0167】
1つの実施形態において、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットまたは伝染性膿痂疹の診断キットは、必要に応じて以下の1つ以上を備え得る:(1)本発明に係る抗体に対する、標識された結合パートナー;(2)結合パートナーを検出するための試薬;(3)キットを使用するための指導書。本発明に係る抗体は、タグ標識されていても他の標識物質(例えば、アビジン)などで標識されていてもよい。
【0168】
好ましいタグ標識としては、HAおよびヘキサヒスチジンが挙げられるが、これらに限定されず、当業者は、種々のタグ標識を容易に選択して使用することができる。好ましい結合パートナーとしては、本発明に係る抗体に対する抗体(例えば、抗ウサギIgGなどの二次抗体)、タグ標識に対する抗体(例えば、抗HA抗体などの二次抗体)、および本発明に係る抗体に結合した標識と特異的に結合する物質(例えば、ビオチン)が挙げられる。好ましくは、上記二次抗体は標識されている。本発明に係るキットを用いれば、被験体(特に、水疱形成を生じる患者)が黄色ブドウ球菌を保有するか否かを簡便に同定し得る。
【0169】
上記標識された結合パートナーは、支持体上に固定化されていても固定化されていなくてもよい。好ましい支持体としては、ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ)、固相(例えば、ガラスチューブ、試薬ストリップ、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートまたはアミノ基結合型のマイクロタイタープレート)などが挙げられるが、これらに限定されない。固定方法は、当業者に周知であり、例えばNature 357:519−520(1992)(本明細書中に参考として援用される)に記載される。
【0170】
本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットおよび伝染性膿痂疹の診断キットは、上述した表皮剥脱毒素の測定方法および伝染性膿痂疹の診断方法において使用される種々の試薬、標識などを共に備え得る。また、本発明に係るキットは、梱包されていても梱包されていなくてもよい。梱包されている場合の本発明に係るキットは、臨床検査および基礎研究において用いるための試薬キットであり得る。
【0171】
本発明に係るキットを用いれば、複数の被験体をスクリーニングして表皮剥脱毒素を産生する黄色ブドウ球菌を保有する被験体を同定することができる。
【0172】
このように、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットまたは伝染性膿痂疹の診断キットは、少なくとも、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドを備えればよいといえる。また、本発明に係る表皮剥脱毒素の測定キットまたは伝染性膿痂疹の診断キットは、切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する本発明に係る抗体を備えればよいといえる。すなわち、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドと、切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する本発明に係る抗体とを共に備える表皮剥脱毒素の測定キットまたは伝染性膿痂疹の診断キットもまた本発明に含まれることに留意すべきである。
【0173】
つまり、本発明の目的は、表皮剥脱毒素の測定キットまたは伝染性膿痂疹の診断キットを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の試薬および標識の種類、標識方法、試薬とサンプルとのインキュベートの温度および時間等の条件に存するのではない。したがって、上記ポリペプチドまたは抗体以外の試薬を包含する測定キットまたは診断キットも本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0174】
(4)表皮剥脱毒素を産生する黄色ブドウ球菌の検出器具
本発明に係る細菌検出器具は、サンプル中の細菌を検出および/または同定するための器具であって、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドが支持体上に固定化されていることを特徴とし、当該ポリペプチドとサンプル中に存在する表皮剥脱毒素との反応によりサンプル中の細菌を検出および/または同定するものである。表皮剥脱毒素を産生する黄色ブドウ球菌の検出に用いる場合、上記ポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含む。本発明に係る細菌検出器具を用いれば、複数の被験体をスクリーニングして表皮剥脱毒素を産生する黄色ブドウ球菌を保有する被験体を同定することができる。
【0175】
さらに他種の細菌を網羅的に検査する場合は、当該他種の細菌(複数であってもよい)または細菌由来の酵素と特異的に反応するポリペプチドも固定化されていることが好ましい。このように、複数種の細菌を含むサンプルを使用するアッセイに供することによって、表皮剥脱毒素を産生する黄色ブドウ球菌がどのような細菌種と共存する傾向があるかを知ることができる。
【0176】
1つの実施形態において、本発明に係る細菌検出器具は、本発明に係るポリペプチドを固定化した支持体であることを特徴とする。好ましい支持体としては、ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ)、固相(例えば、ガラスチューブ、試薬ストリップ、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートまたはアミノ基結合型のマイクロタイタープレート)などが挙げられるが、これらに限定されない。固定方法は、当業者に周知であり、例えばNature 357:519−520(1992)(本明細書中に参考として援用される)に記載される。
【0177】
別の実施形態において、本発明に係る細菌検出器具は、ポリペプチドを固定化した支持体としての基板を備える。本実施形態に係る細菌検出器具に用いる基板の材質としては、ポリペプチドを安定して固定化することができるものであればよい。例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されない。基板の形態も特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。
【0178】
操作の簡便性および検査の迅速性の観点から、サンプル中から検出可能な細菌を1つの基板で網羅的に検出できることが好ましい。したがって、本発明に係る細菌検出器具も、1つの基板上に目的の細菌種または属に対応するポリペプチドを複数固定化した、いわゆるタンパク質チップと称されるマイクロアレイ型の器具とすることが好ましい。当業者は、ポリペプチドの基板表面への固定化法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して用いればよいことを理解する。
【0179】
このように、本発明に係る細菌検出器具は、少なくとも、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドが支持体上に固定化されていればよいといえる。また、本発明に係る細菌検出器具は、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドが固定化されている基板を備えていればよいといえる。すなわち、これらの支持体(基板を含む)以外の構成部材を備える場合も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0180】
つまり、本発明の目的は、黄色ブドウ球菌の検出器具を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の支持体の種類、固定化方法に存するのではない。したがって、上記支持体以外の構成部材を包含する細菌検出器具も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0181】
(5)新規表皮剥脱毒素のスクリーニング
本発明は、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドを用いることを特徴とする新規表皮剥脱毒素のスクリーニング方法を提供する。本発明はまた、本発明に係る抗体を用いることを特徴とする新規表皮剥脱毒素のスクリーニング方法を提供する。
【0182】
本発明者らは、従来知られていた血清型AおよびBの表皮剥脱毒素以外に新たな血清型Dの表皮剥脱毒素を見出した。このことは、未知の表皮剥脱毒素が存在することを示唆する。本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドまたは本発明に係る抗体を用いて被験体サンプルをスクリーニングすることによって表皮剥脱毒素の存在を検出するとともに、既知の表皮剥脱毒素と比較することによって新たな表皮剥脱毒素を見出すことができる。
【0183】
本発明に係るスクリーニング方法は、被験体サンプルを本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドまたは本発明に係る抗体とインキュベートする工程を包含する。被験体サンプルは、体液であっても組織であってもよく、好ましくは、被験体から得た皮膚病変部、喀痰、咽頭粘液、鼻腔粘液、膿または分泌物であり、最も好ましくは、皮膚病変部である。
【0184】
好ましい実施形態において、表皮剥脱毒素が検出された被験体サンプルにおいて、既知の表皮剥脱毒素に対する抗体を用いて当該表皮剥脱毒素の血清型を同定する。血清型不定の表皮剥脱毒素を見出した場合、その被験体サンプルから黄色ブドウ球菌を単離、培養した後、表皮剥脱毒素を精製する。精製した表皮剥脱毒素の配列決定を行なうことによって、新規表皮剥脱毒素を同定することができる。
【0185】
このように、本発明に係るスクリーニング方法は、上述の表皮剥脱毒素の測定方法または伝染性膿痂疹の診断方法を用いればよいといえる。すなわち、本発明に係るスクリーニング方法は、少なくとも、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドを用いればよいといえる。また、本発明に係るスクリーニング方法は、切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する本発明に係る抗体を用いればよいといえる。よって、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドと、切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する本発明に係る抗体とを用いるスクリーニング方法もまた本発明に含まれることに留意すべきである。
【0186】
つまり、本発明の目的は、新規表皮剥脱毒素のスクリーニング方法を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したサンプル種およびサンプル採取方法、個々の標識の種類、標識方法、インキュベートの温度および時間等の条件に存するのではない。したがって、上記ポリペプチドまたは抗体を用いる各工程以外の工程を包含するスクリーニング方法も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0187】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
【実施例】
【0188】
〔実施例1:ヒトケラチノサイト総RNAの抽出〕
10cmディッシュ中にて37℃で6日間培養してコンフルエントな状態になった正常皮膚ケラチノサイトK42細胞をディッシュから掻き取り、isogen(株式会社ニッポンジーン)を用いて細胞を溶解した。溶解した細胞を室温で5分間静置した後、この細胞にクロロホルムを加えて撹拌した。次いで、15000rpmで10分間遠心分離し、上清に対してイソプロパノール沈殿処理を行ってDNAおよびRNAの粗抽出を行った。この粗抽出サンプルからDNAおよびタンパク質を除去するために、DNase処理(最終濃度100μg/ml)を37℃で30分間行い、続いてフェノール/クロロホルム処理を3回行った後にエタノール沈殿処理を行って、RNA抽出サンプルを得た。RNA量の測定を、Genequant(Amersham Biosciences)を用いて行なった。
【0189】
〔実施例2:RT−PCRによるhDsg1 cDNAの調製〕
逆転写反応を、1st Strand cDNA Synthesis Kit For RT−PCR(Roche Diagnostics K.K.)を用いて行なった。具体的には、6.2μlの滅菌イオン交換水に、実施例1で得たRNA抽出サンプル(0.5μg/ul)を2μl、10×Reaction Bufferを2μl、25mM MgCl2を4μl、Deoxynucleotide Mixを2μl、Oligo−p(dT)15 primer(0.04A260 units)を2μl、RNase Inhibitorを1μl、AMV Reverse Transcriptase(≧20units)を0.8μl加え、反応を、25℃で10分間、42℃で60秒間、99℃で5分間、4℃で5分間で行った。逆転写されたcDNAの量をGenequant(Amersham Biosciences)を用いて測定した。
【0190】
PCR反応を、Gene Amp PCR system 9700(Applied Biosystems)を用いて行なった。具体的には、得られたcDNA(10ng/μl)を1μl、10μM プライマーを1μl、25mM dNTPを1μl、expand taq polymerase(3.5unit、Roche Diagnostics K.K.)を0.5μl、滅菌イオン交換水を40.5μlを混合して、PCR反応液を調製し、反応を、94℃で2分間の後、94℃で15秒間、50℃で30秒間、72℃で3分間を25サイクル、次いで72℃で7分間行い、最後に4℃で保持した。本実施形態におけるPCRに用いたプライマーを、表1に示す。なお、hDsg1上流に設計したプライマーの5'側には全てBamHI制限酵素部位を連結してある。TY2496のみ下流に設計したプライマーの5’側にEcoRI制限酵素部位を連結してある。
【0191】
【表1】

【0192】
〔実施例3:hDsg1 PCR産物のpGEMベクターへの挿入、および配列決定によるDNA配列確認〕
実施例2で得たhDsg1 PCR産物を、pGEM T−easy vector(Promega)に連結した後、Comptent cell E. coli XLII−blueにElectro cell manipulator 600(BTX)を用いて200Ω、25μF、2.0kVの条件下でエレクトロポレーションを行った。得られた形質転換株からMini−prep kit(Bio−Rad)を用いてプラスミドDNAを精製した。配列決定を、PRISM Dye Terminator cycle sequencing kit(Applied Biosystems)およびpGEMベクター配列決定用プラスミド(pGEM−F:GGGTTTTCCCAGTCACGAC(配列番号33)、pGEM−R:CACAGGAAACAGCTATGAC(配列番号34))を用い、96℃で2分間の後、96℃で10秒間、56℃で5秒間、60℃で4分間を30サイクル、次いで4℃で5分間の条件下で行った。反応後のサンプルを、ABI3100(Applied Biosystems)にアプライして配列決定した。得られた種々の長さのhDsg1 PCR増幅産物が、正しい塩基配列であることをGenebankに登録されてあるHomo sapiens desmoglein 1(アクセッション番号:NM001942)と比較することによって確認した。
【0193】
〔実施例4:hDsg1ポリヌクレオチドのpET32aベクターまたはpET32bベクターへの挿入〕
pGEM T−easy vectorに挿入したhDsg1ポリヌクレオチドを、制限酵素BamHI/EcoRIを用いて消化した後、1%アガロースゲルを用いて電気泳動を行ない、アガロースゲルから所望のバンドを切り出した後、Geneclean III kit(BIO101)を用いて回収した。hDsg1ポリヌクレオチドのBamHI/EcoRIによる断片を、Takara ligation kit ver.2(宝酒造株式会社)を用いて、クローニング部位をBamHI/EcoRIによって予め消化したpET32aベクター(TY2496のみpET32bベクター:メルク株式会社)(図5)に連結した。このベクターは、(1)T7プロモーター、(2)lacオペロン、(3)Trxタグ、(4)Hisタグ、(5)Thrombin切断部位、(6)Sタグ、(7)エンテロキナーゼ切断部位、および(8)制限酵素部位(BamHI部位およびEcoRI部位)を含む。この連結構築物をエレクトロポレーションによってコンピテント細胞(E.coli XLII−blue)に導入した。続いて、この形質転換細胞からMini−prep kit(Bio−Rad)を用いてプラスミドDNAを精製した後、この連結構築物を高タンパク質発現株であるE. coli BL21株にエレクトロポレーションによって導入した。本実施形態において取得したポリペプチドを、表2に示す。
【0194】
【表2】

【0195】
〔実施例5:hDsg1ポリペプチドの精製〕
E.coli TY2568株、TY2571株、TY2572株、TY2521株、TY2520株、TY2592株、TY2612株、TY2593株、およびTY2594株(それぞれhDsg1ポリペプチドのアミノ酸53〜545位、74〜545位、112〜545位、160〜545位、160〜385位、190〜545位、221〜545位、240〜545位、および272〜545位を発現する)を、500mlのLuria−Bertani培地(10g/lのTrypticase Peptone(BECTON DICKINSON)、5g/lのBacto Yeast Extract(BECTON DICKINSON)、10g/lのNaCl(和光純薬株式会社)を含有する)中にて25℃の恒温槽で培養した。
【0196】
次いで、これらの培養物が対数増殖期中期にある時点で、これらの培養培地に、最終濃度0.1mM IPTG(和光純薬株式会社)を添加した。添加5時間後、8,000×gで20分間遠心分離を行って集菌し、得られた菌体を、5mlのTBS−Ca緩衝液(50mM Tris(pH8.0)(シグマ株式会社)、150mM NaCl(和光純薬株式会社)、1mM CaCl2(和光純薬株式会社)、10mMDTT(シグマ株式会社)を含有する)中に懸濁した。
【0197】
菌体をFrench press(セントラル貿易株式会社)で破砕した後、8,000×gで20分間、次いで19,000×gで60分間遠心分離を行い、得られた上清をTBS−Ca緩衝液で平衡化したNi−NTA Agarose(500μl)(キアゲン株式会社)にアプライした。マイクロチューブローテーター(アズワン株式会社)を用いて4℃で1時間撹拌した後、3,000×gで10分間遠心分離を行ってNi−NTA Agaroseを回収した。
【0198】
回収したNi−NTA Agaroseを、10mlのTBS−Ca緩衝液で2回洗浄した後、20unitのThrombin protease(Amersham Biosciences)を添加したTBS−Ca緩衝液1ml中に懸濁した。マイクロチューブローテーター(アズワン株式会社)を用いて4℃で12時間撹拌した後、3,000×gで10分間遠心分離を行なって上清を回収した。
【0199】
得られた上清にTBS−Ca緩衝液で平衡化したBenzamidine SepharoseTM 4B(100μl)(Amersham Biosciences)を添加した後、マイクロチューブローテーター(アズワン株式会社)を用いて4℃で1時間撹拌し、次いで3,000×gで10分間遠心分離を行なって上清を回収した。この上清を、Amicom Centriprep YM−3(ミリポア株式会社)を用いて濃縮してhDsg1ポリペプチドの最終精製産物を得た。
【0200】
タンパク質量の測定を、Bio−Rad Protein Assay kit(Bradford法)を用いて行った。hDsg1ポリペプチドのうち、TY2568(アミノ酸53〜545位)およびTY2571(アミノ酸74〜545位)については、検出可能なポリペプチドの産生は見られなかった。しかし、TY2572(アミノ酸112〜545位)、TY2521(アミノ酸160〜545位)、TY2520(アミノ酸160〜385位)、TY2592(アミノ酸190〜545位)、TY2612(アミノ酸221〜545位)、TY2593(アミノ酸240〜545位)およびTY2594(アミノ酸272〜545位)においては、純度のよいポリペプチドが高収率(≧100μg/l)で得られた。特に、TY2593(アミノ酸240〜545位)においては、その収率が300μg/lであった(表3)。
【0201】
【表3】

【0202】
以上の結果より、E.coliにおけるヒトDsg1ポリペプチドの発現には、ヒトDsg1タンパク質のEC2領域が重要であること、およびEC1領域を欠失することがより好ましいことが示された。また、ヒトDsg1タンパク質のアミノ酸112〜385を含むポリペプチドは、E.coliにおいて大量生産できることがわかった。
【0203】
〔実施例6:表皮剥脱毒素によるヒトDsg1ポリペプチド切断〕
実施例5で精製した種々の長さのhDsg1ポリペプチド(10ng/μl)10μlに、2μlの表皮剥脱毒素(ETA:100ng/μl)、および8μlのTBS−Ca緩衝液を加えて25℃で1時間反応させた後、この反応混合液と等量のサンプル緩衝液(50mM Tris−HCl(pH6.5)、2% SDS、2% 2−メルカプトエタノール(片山化学工業)、10% グリセリン(和光純薬株式会社)、0.1% Bromophenol Blue溶液(和光純薬株式会社)を含有する)を加えて、反応を停止させた。
【0204】
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動をLaemmliの方法に従い、縦型電気泳動装置(Mini−PROTEAN、Bio−Rad)を用いて行った。分離ゲルとして、12%ポリアクリルアミドゲルを用いた。6.16mlの30%アクリルアミド−Bis溶液(30%アクリルアミド(第一化学株式会社)および0.8% N,N−methylene−Bis−acrylamide(シグマ株式会社)を含有する)、3.96mlの1.5M Tris−HCl(pH8.8)、0.16mlの10% SDS、16μlのN,N,N,N−Tetranethylethelenediamine(TEMED、シグマ株式会社)、および4.94mlのイオン交換水を混合し、さらに10% Ammonium Peroxodisulfate(APS、シグマ株式会社)を160μl添加して、この混合液を重合させた。濃縮ゲル(3枚分)を、30%アクリルアミド−Bis溶液を0.652ml、0.55M Tris−HCl(pH6.8)を1.24ml、10% SDSを52μl、TEMEDを5.3μl、イオン交換水を2.98mlを混合し、10% APSを52μl添加して重合させて作製した。作製したゲルを電極アッセンブリに取り付け、SDS−PAGE用緩衝液(25mM Tris−HCl(pH6.5)、192mMグリシン(和光純薬株式会社)、0.1% SDSを含有する)で満たした泳動槽内に静置した。hDsg1ポリペプチドサンプルを沸騰水中で5分間加熱処理し、各々25ng/wellのサンプルをゲルにアプライした。電気泳動の条件は、濃縮ゲルにおいて20mA、分離ゲルにおいて30mAの一定電流とした。泳動後のゲルの染色には、0.04%クーマシーブリリアントブルー(CBB)染色液(0.04% Brilliant Blue R(片山化学工業)、10% 酢酸、25%イソプロパノール)を用いた。1〜2時間染色した後、10%酢酸を用いて脱色した。
【0205】
ウエスタンブロッティング法を、Towbinらの方法に従って行った。SDS−PAGEゲルからnitrocellulose membrane(Schleicher&Schuell)へのタンパク質の転写を、mini−transblot system(Bio−Rad)を用いて行なった。タンパク質を転写した膜を、0.5%脱脂粉乳を用いて、37℃で1時間ブロッキング処理した後、TBS(50mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、0.05% Tween20)を用いて洗浄した。
【0206】
S−protein HRP Conjugate(メルク株式会社)を脱脂粉乳で5000倍希釈して、ブロッキング処理後の膜状にアプライし、37℃で1時間反応させた。続いて、目的のタンパク質を、ECL Western blotting reagents(Amersham Biosciences)を用いる化学発色によって検出した。
【0207】
用いたhDsg1ポリペプチドのうち、TY2521(アミノ酸160〜545位)、TY2520(アミノ酸160〜385位)、TY2592(アミノ酸190〜545位)、TY2612(アミノ酸221〜545位)、およびTY2593(アミノ酸240〜545位)が、表皮剥脱毒素(ETA)によって顕著に切断された。これに対して、TY2568(アミノ酸53〜545位)、TY2571(アミノ酸74〜545位)、TY2572(アミノ酸112〜545位)、およびTY2594(アミノ酸272〜545位)は、表皮剥脱毒素によってほとんど切断されなかった(図2および表4)。
【0208】
【表4】

【0209】
以上の結果より、表皮剥脱毒素によるヒトDsg1ポリペプチドの切断には、ヒトDsg1タンパク質のEC2領域が重要であること、およびEC1領域を欠失することによって表皮剥脱毒素に対する感受性が有意に増加することが示された。また、ヒトDsg1タンパク質のアミノ酸160〜385を含むポリペプチドは、表皮剥脱毒素に対する感受性が高く、酵素アッセイにおいて良好な基質となることがわかった。
【0210】
また、高収率(300μg/l)であったTY2593(アミノ酸240〜545位)を用いて行なった表皮剥脱毒素処理サンプルをSDS−PAGE後にCBB染色したゲルを、図3に示す。表皮剥脱毒素として血清型A、BおよびDを用いたが、いずれの血清型の表皮剥脱毒素に対してもヒトDsg1ポリペプチドが効率よく切断された。
【0211】
〔実施例7:ヒトDsg1ポリペプチドの切断部位を特異的に認識する抗血清の作製〕
hDsg1の表皮剥脱毒素による切断部位は381番目のグルタミン酸であるので、hDsg1のアミノ酸376〜381位(CLNVIE)に対応するペプチドを合成した。合成したペプチドを、TSK gel ODS−120Tカラム(4.6mm(I.D)×150mm:Tosoh)を用いたHPLCによって精製した。Imject Maleimide Activated Carrier Proteins(ピアス社)を、キャリアータンパク質として上記ペプチドへ結合させた。Ribi Adjuvant System(RAS、RIBI ImmunoChem Research,Inc.)を用いて、キャリアータンパク質を結合させたペプチドを含む抗原液を作製した。この抗原液(0.25mg/ml)500μlを、日本白色種ウサギ(北山ラベス、2kg、オス)に2週間おきに4回皮下注射した。続いて、異なる抗原液を調製した。具体的には、キャリアータンパク質を結合させたペプチド500μl(100μg)とフロイント完全アジュバント(Difco Laboratories)500μlとを混濁させた抗原液を調製した。この抗原液を2週間おきに6回目皮下注射した。続いて、hDsg1タンパク質精製標品500μl(100μg)をウサギに静脈内投与し、投与2日後に22Gサーフロー留置針(テルモ株式会社)を用いて耳下静脈より静脈血(20mlまたは100ml)を採取した。採取した静脈血は37℃、一時間静置した後に3,000rpmで30分間(4℃)で遠心分離を行なって、血清画分を抽出して目的の抗体(抗Dsg1切断抗体)を含む抗血清を得た。
【0212】
〔実施例8:表皮剥脱毒素によって切断された組換えヒトDsg1ポリペプチドの検出〕
実施例7で取得した抗血清(抗Dsg1切断抗体)の結合特異性を検討した。具体的には、実施例5で取得したTY2593(アミノ酸240〜545位)ポリペプチドと活性型または不活性型の表皮剥脱毒素とをインキュベートして、TY2593ポリペプチドのN末端側の切断フラグメントに対する上記抗血清の特異性を調べた。
【0213】
ウエスタンブロッティング法における検出に用いる抗体が異なることを除いて、実施例6と同様に行なった。
【0214】
実施例7で取得した抗Dsg1切断抗体を脱脂粉乳で1000倍に希釈して、ブロッキング処理後の膜上にアプライし、37℃で1時間反応させた。続いて、TBSを用いて洗浄した後、二次抗体として脱脂粉乳で1000倍に希釈したperoxidase標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Amersham Biosciences)を、洗浄後の膜上にアプライし、37℃で1時間反応させた。TBSを用いて洗浄した後、発色を行なった。目的のタンパク質を、ECL Western blotting reagents(Amersham Biosciences)を用いる化学発色によって検出した。検出にはFuji RX−U film(Fuji Film co.)を使用した。
【0215】
抗Eタグ抗体(Amersham Biosciences)を脱脂粉乳で500倍希釈して、ブロッキング処理後の膜状にアプライし、37℃で1時間反応させた。続いて、TBSを用いて洗浄した後、二次抗血清として脱脂粉乳で1000倍に希釈したperoxidase標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Amersham Biosciences)を、洗浄後の膜上にアプライし、37℃で1時間反応させた。二次抗体反応終了後の工程を、上記の抗Dsg1切断抗体の場合と同様に行なった。
【0216】
作製した抗血清(抗Dsg1切断抗体)は、表皮剥脱毒素によって切断されたヒトDsg1ポリペプチドを認識するが、切断されていないヒトDsg1ポリペプチドを全く認識しなかった(図4)。また、表皮剥脱毒素の酵素活性のない変異体を用いた場合には、ヒトDsg1ポリペプチドの切断は生じなかった。
【0217】
以上の結果より、取得した抗血清は、表皮剥脱毒素によって切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合することが示された。
【0218】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0219】
本発明を用いることによって、被験体が黄色ブドウ球菌を保有するか否かを簡便に同定し得る。特に、被験体が伝染性膿痂疹に罹患しているか否かを簡便に同定し得る。
【図面の簡単な説明】
【0220】
【図1】図1は、作製した種々のヒトDsg1ポリペプチド変異体の構造ダイアグラムを示す図である。
【図2】図2は、ヒトDsg1ポリペプチド変異体の表皮剥脱毒素感受性を示すウエスタンブロッティング分析の結果を示す図である。
【図3】図3は、ヒトDsg1ポリペプチドを基質として表皮剥脱毒素(ETA、ETBまたはETD)による切断実験の結果を示す図である。
【図4】図4は、表皮剥脱毒素によって切断されたヒトDsg1ポリペプチドと特異的に結合する抗血清を用いたウエスタンブロッティング解析の結果を示す図である。
【図5】図5は、本発明に係るヒトDsg1ポリペプチドをE.coliにおいて発現するために好ましい発現ベクターの概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むことを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位;または
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列の160〜545位において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなるポリペプチドあるいはそのフラグメントでありかつ配列番号1に示されるアミノ酸配列の240〜385位を含むことを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
配列番号9、11、13、15または17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなることを特徴とするポリペプチド。
【請求項4】
E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位を含むポリヌクレオチドによってコードされることを特徴とするポリペプチド。
【請求項5】
E.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドであって、
(A)配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位;または
(B)配列番号2に示される塩基配列の555〜1712位において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列、
からなるポリヌクレオチドあるいはそのフラグメントでありかつ配列番号2に示される塩基配列の795〜1232位を含むポリヌクレオチド
によってコードされることを特徴とするポリペプチド。
【請求項6】
配列番号10、12、14、16または18のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされることを特徴とするポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド、あるいは
請求項1〜6の何れか1項に記載のポリペプチドをコードする特徴とするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつE.coli組換え発現系において発現し得るポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号10、12、14、16または18のいずれか1つに示される塩基配列からなることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項9】
配列番号23〜34のいずれか1つに示される塩基配列を含むことを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項7または8に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項11】
発現ベクターであることを特徴とする請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
E.coli発現ベクターであることを特徴とする請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
請求項10に記載のベクターを含有することを特徴とする細胞。
【請求項14】
E.coliであることを特徴とする請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
請求項10〜12のいずれか1項に記載のベクターを用いることを特徴とするポリペプチド生成方法。
【請求項16】
上記ベクターが、ヒスチジンタグおよびチオレドキシンタグを付加させることを特徴とする請求項15に記載のポリペプチド生成方法。
【請求項17】
Hisタグとの親和性樹脂を用いて精製する工程をさらに包含し、当該工程においてイミダゾールを使用しないことを特徴とする請求項16に記載のポリペプチド生成方法。
【請求項18】
インビトロ翻訳に必要な酵素をさらに用いることを特徴とする請求項15に記載のポリペプチド生成方法。
【請求項19】
請求項1〜6の何れか1項に記載のポリペプチドを備えることを特徴とする表皮剥脱毒素の測定キット。
【請求項20】
上記ポリペプチドに対する抗体または上記ポリペプチドに連結した標識に対する抗体をさらに備えることを特徴とする請求項19に記載の測定キット。
【請求項21】
表皮剥脱毒素の測定方法であって、
(1)被験体サンプルを請求項1〜6の何れか1項に記載のポリペプチドとインキュベートする工程;および
(2)当該インキュベートする工程において切断された当該ポリペプチドを検出する工程、
を包含することを特徴とする測定方法。
【請求項22】
上記検出する工程が、上記ポリペプチドに対する抗体または上記ポリペプチドに連結した標識に対する抗体を用いることを特徴とする請求項21に記載の測定方法。
【請求項23】
請求項1〜6の何れか1項に記載のポリペプチドと特異的に結合する抗体。
【請求項24】
追加免疫を5回以上行なうことを特徴とする請求項23に記載の抗体を生成する方法。
【請求項25】
請求項23に記載の抗体を備えることを特徴とする表皮剥脱毒素の測定キット。
【請求項26】
上記抗体に対する抗体または上記抗体に連結した標識に対する抗体をさらに備えることを特徴とする請求項25に記載の測定キット。
【請求項27】
表皮剥脱毒素の測定方法であって、
(1)被験体サンプルを請求項23に記載の抗体とインキュベートする工程;および
(2)上記抗体と結合した物質を検出する工程、
を包含することを特徴とする測定方法。
【請求項28】
上記検出する工程が、上記抗体に対する抗体または上記抗体に連結した標識に対する抗体を用いることを特徴とする請求項27に記載の測定方法。
【請求項29】
請求項1〜6の何れか1項に記載のポリペプチドが支持体上に固定化されていることを特徴とする細菌検出器具。
【請求項30】
表皮剥脱毒素のスクリーニング方法であって、
(1)被験体サンプルを請求項1〜6の何れか1項に記載のポリペプチドとインキュベートする工程;および
(2)当該インキュベートする工程において切断された当該ポリペプチドを検出する工程、
を包含することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項31】
表皮剥脱毒素のスクリーニング方法であって、
(1)被験体サンプルを請求項23に記載の抗体とインキュベートする工程;および
(2)上記抗体と結合した物質を検出する工程、
を包含することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項32】
切断されたポリペプチドが検出された被験体サンプルを表皮剥脱毒素に対する抗体とインキュベートする工程をさらに包含することを特徴とする請求項30または31に記載のスクリーニング方法。
【請求項33】
被験体サンプルから単離した表皮剥脱毒素を配列決定して既知の表皮剥脱毒素の配列と比較する工程をさらに包含することを特徴とする請求項30〜32の何れか1項に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−6143(P2006−6143A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185180(P2004−185180)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】