伝熱解析方法及びその装置とプログラム
【課題】 従来の方法では、補完による誤差が生じる虞れがある。
【解決手段】 部材の形状及び寸法、物性値及び境界条件を入力し、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する(S101,S102)。複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を等分割した分割領域の分割長Δxを決定し(S106)、各分割時間毎に複数の部材のそれぞれの分割長単位の過渡伝熱計算を行ない(S107)、その計算結果を前記部材の移動方向に隣接する分割領域の初期値とし(S110)、計算時間が経過するまで、その計算を繰り返し実行する(S108)。
【解決手段】 部材の形状及び寸法、物性値及び境界条件を入力し、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する(S101,S102)。複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を等分割した分割領域の分割長Δxを決定し(S106)、各分割時間毎に複数の部材のそれぞれの分割長単位の過渡伝熱計算を行ない(S107)、その計算結果を前記部材の移動方向に隣接する分割領域の初期値とし(S110)、計算時間が経過するまで、その計算を繰り返し実行する(S108)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材間での熱伝導による熱的挙動の時間微分を差分近似することによって解析する伝熱解析方法及びその装置とプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
相対的に移動する物体間の伝熱を考慮して設計する必要がある装置としては、紙等のシート材をフィルムでコーティングするためのラミネートフィルムの加熱装置、複写機やレーザビームプリンタ(LBP)の紙等のシート材表面に形成された画像を定着させるための定着装置等がある。これら装置の設計に際して、種々の条件で、その装置で使用される各部材の機能を検討することは、その装置の試作品の製造及び試験に要する工数を低減でき、開発期間及び費用を低減できるため好ましいものである。
【0003】
このような目的で、定着装置を実際と同じ条件で動作させてその熱的挙動をシミュレーションする技術が提案されている。これによれば、連続体である装置の部品やフィルムや紙等の媒体を有限個の要素で表現し、これらが接触することにより要素間で熱の移動が生じる部分には、各要素間に熱抵抗を考慮した熱移動の条件を与える。こうした条件を基に熱伝導方程式を解くことにより、その装置全体における伝熱状態を求めている。
【0004】
このとき、相対的に移動する要素間の熱伝導を正確に計算しようとすると、各要素の移動に伴って熱伝導領域を時々刻々変化させていく必要がある。その一手法として、物体を移動させずに、熱伝導計算の時間を区切り、その区切りごとに物体が移動する方向へ温度を移動する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2816507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この方法では、モデル化した物体を移動させるのではなく、そのモデルの各点(解析点)の温度を計算するごとにその物体の進行方向に移動していき、その温度値から、そのモデル上の移動後の各解析点の温度を補完によって求めている。この方法では、補完するときに誤差が生じる虞れがある。例えば、各点間の長さが大きく変化しているところで補完を行なうとき、或いは各点間で温度分布に急激な変化がある場合などでは、その補完から求めた温度では、温度分布を正確に表現できないことが考えられる。
【0006】
図10は、従来の手法による一次元で等間隔に並ぶ解析点のモデルを説明する図である。
【0007】
位置0から部分的に山形の温度分布を持つ初期温度分布を、熱の移動が全く無い条件で、各解析点間の距離(10)の半分(5)ずつ移動させ、その移動した後の各解析点の両側に位置する温度2点から線形で値を補完した場合に、温度分布がどのように変化するかを示している。この図10から分かるように、従来の補完による方法では、移動する距離が長くなるほど(グラフの右側に行くほど)、その波形のピークが下がって山の裾野が広がっている。
【0008】
本発明は、上記従来技術の欠点を解決することにある。
【0009】
また本願発明の特徴は、移動する部材を含む系における部材間の熱伝導を正確に計算することができる伝熱解析方法及びその装置とプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記特徴は、独立クレームに記載の特徴の組み合わせにより達成され、従属項は発明の単なる有利な具体例を規定するものである。
【0011】
本発明の一態様に係る伝熱解析方法は以下のような工程を備える。即ち、
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析方法であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する工程と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する工程と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する工程と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する工程と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割工程と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する工程と、
前記分割工程で決定された前記分割時間毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算工程と、
前記計算工程による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算工程を繰り返し実行するように制御する制御工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る伝熱解析方法は以下のような工程を備える。即ち、
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析方法であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する工程と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する工程と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する工程と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する工程と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割工程と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する工程と、
前記分割工程で分割された分割領域のうち、伝熱計算の対象となる分割領域を選択する選択工程と、
前記選択工程で選択された前記分割領域毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算工程と、
前記計算工程での計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算工程を繰り返し実行するように制御する制御工程とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る伝熱解析装置は以下のような構成を備える。即ち、
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析装置であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する手段と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する手段と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する手段と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と前記移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を設定する手段と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割手段と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する手段と、
前記分割手段で決定された前記分割時間毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算手段と、
前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算手段を繰り返し実行するように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る伝熱解析装置は以下のような構成を備える。即ち、
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析装置であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する手段と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する手段と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する手段と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する手段と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割手段と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する手段と、
前記分割手段で分割された分割領域のうち、伝熱計算の対象となる分割領域を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された前記分割領域毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算手段と、
前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算手段を繰り返し実行するように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0015】
尚、この発明の概要は、必要な特徴を全て列挙しているものでなく、よって、これら特徴群のサブコンビネーションも発明になり得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の部材間で熱の移動がある装置の熱的挙動を高精度に計算することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳しく説明する。尚、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施の形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0018】
まず最初に図11を参照して、本発明の実施の形態に係る熱伝導解析を実行する装置の構成について説明する。
【0019】
図11は、本実施の形態に係る伝熱解析を実行する装置(コンピュータ機器)1100のハードウェア構成を説明するブロック図である。
【0020】
このコンピュータ機器1100は、CPU1101と、ROM1102と、RAM1103と、入力装置としてのキーボード(KB)1109と、そのインターフェースを制御するキーボードコントローラ(KBC)1105と、CRTや液晶などの表示部1110と、そのインターフェースを制御するCRTコントローラ(CRTC)1106と、ハードディスク(HD)1111及びフレキシブルディスク(FD)1112のディスクコントローラ(DKC)1107と、ネットワーク1120との接続のためのネットワークインターフェースコントローラ(NIC)1108とを有する。そしてこれらの構成がシステムバス1104を介して互いに通信可能に接続されている。
【0021】
CPU1101は、ROM1102、或いはHD1111に記憶されたソフトウェア、或いはFD1112より供給されるソフトウェアをRAM1103にロードして実行することで、システムバス1104に接続された各構成部を総括的に制御する。即ち、CPU1101は、所定の処理シーケンスに従った処理プログラムを、ROM1102、或いはHD1111、或いはFD1112から読み出して実行することで、後述する本実施の形態に係る処理や動作を実現するための制御を行う。なお、図示していないがハードディスク、フレキシブルディスク以外にも光学的記録装置などの他のデバイスが接続されて良いのは言うまでもない。
【0022】
RAM1103は、CPU1101の主メモリ或いはワークエリア等として機能する。KBC1105は、KB1109や図示していないポインティングデバイス等からの指示入力を制御する。CRTC1106は、表示部1110への表示を制御する。DKC1107は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム、及び本実施の形態における所定の処理プログラム等を記憶するHD1111及びFD1112とのアクセスを制御する。NIC1108は、ネットワーク1120上の装置或いはシステムと双方向にデータをやりとりする。
【0023】
尚、本発明の実施の形態に係るコンピュータ機器の構成は、この図に示したコンピュータの構成に限定されることがないことは言うまでもない。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートで、この処理を実行するプログラムは、例えばHD1111にインストールされており、実行時にRAM1103にロードされ、CPU1101の制御の下に実行される。
【0025】
尚、図12は、このような処理を実行する際、RAM1103に記憶される後述する各変数や、初期値などの配列を示すメモリマップ図である。以下、図1と図12を参照して、この処理を説明する。
【0026】
まずステップS101で、計算対象の熱伝達装置或いは器具(熱伝達系)等の形状、材質、境界条件、その装置を構成する各部材間の熱伝達条件を入力する。続いてステップS102で、この熱伝達系の中で移動する部材を指定し、その部材の移動方向と速度Vを入力する。ここで移動する部材が複数存在し、かつそれぞれ移動速度が異なる場合には、それぞれの部材ごとに速度Viを入力する(iは、各部材を示す番号)。続いてステップS103で、この熱伝達系における伝熱状態を計算するための計算条件として、最大限許容できる微小領域の分割幅ΔXを入力する。尚、このステップS103の工程は、予め許容値を定めてROM1102に記憶しておくことにより省略可能である。
【0027】
次にステップS104で、計算モデルの作成に入り、まず計算に必要な時間差分の分割時間Δtを、分割幅ΔXを速度Vで移動するのに要する時間(Δt=ΔX/V)とする。ここで移動する部材が複数存在し、かつそれぞれ移動速度が異なる場合には、各部材に対応する速度Viの内、最も早い速度(Vimax)を用いてΔtを算出する。そしてステップS105で、過渡伝熱現象を計算するトータルの時間Stと、この熱伝達モデルの各解析点(後のステップS106でモデルを分割して得られる各分割領域に対応)の初期温度(T0ini,T1ini,...,Tnini))を入力する。尚、この各解析点毎の初期値はそれぞれ異なっていても、或いは常温のような一定の温度であっても良い。
【0028】
次にステップS106で、移動する部材ごとに、その速度Viと、ステップ104で求めた分割時間Δtとから、分割幅ΔXiをVi×Δtにより求める。こうして求めた分割幅ΔXiで、その部材の移動方向の長さを等分割する。ここで部材の長さにより等分割ができない場合は、最も分割幅ΔXiに近い値(ΔXiよりも大)で、その部材の移動方向の長さを等分割する。また移動しない部材や、移動する部材の移動方向以外の分割については適宜、要素のアスペクト比などを考慮して分割すればよい。
【0029】
こうしてステップS107で、実際の伝熱計算に入る。この計算は分割時間Δtごとの過渡計算を1ステップとして繰り返し行なう。各ステップでの温度計算は、部材が静止した状態とし、有限要素法や有限差分法などの数値計算手法を用いて行なう。こうして得られた温度計算結果は、ここではTiで表される。次にステップS108で、各ステップにおける温度計算の終了後、その計算対象となる過渡伝熱現象の時間がステップ105で決定した計算時間Stに達しているかどうかを判定し、達していれば(計算時間Stの間、過渡伝熱計算を行った)計算を終了するが、そのトータルの計算時間Stに達していなければステップS109で、時刻tをΔtだけ進め、次にステップS110で、移動する部材の各解析点の温度を、その移動方向側の隣の解析点に移して(図3に示すマトリクス演算を行う)再度ステップS107に進み、時間Δtにおける過渡伝熱計算を行なって次の時刻での温度分布を求める。こうして、過渡計算の合計計算時間がトータル時間Stに達するまでステップ107〜110を繰り返す。
【0030】
説明のため、ステップS107で、時刻t0までの計算が終了し、時刻t0までの温度分布(T0)が求まっているとし、ステップS108でトータルの計算時間Stに到達していないときはステップS109で、時刻t0をΔtだけ進めて、次の時刻t1=t0+Δtとする。そして、この時刻t1での計算に当たって、その温度の初期値を、前回求めた、時刻t0までの温度分布(T0)とする。以下、同様である。
【0031】
こうすることにより、モデルを変更せずに、時間Δtだけ進んだ状態の部材の温度分布を求めることができる。これにより補完などのような、実際の温度分布との誤差が発生するような手法を用いることなく伝熱状態を計算できるので、各解析点での温度分布は各部材の分割幅ごとに正確に次に解析点に引き継がれる。
【0032】
図2は、移動する部材の温度移動を説明する概念図である。
【0033】
図において、V・Δtは、各部材の分割幅ΔXに相当している。
【0034】
実際の計算においては、各解析点の温度分布(T0〜Tn)は、温度ベクトルの形でコンピュータ機器1100のメモリ(RAM1103)に保持されている。このベクトルの温度を順次移動させるには、所定の部分の温度を移動させるマトリクス(図6の600参照)を作成しておく。そして、温度移動を行なう毎に、このマトリクス600を温度ベクトル(T0,T1,T2,...,Tn)の左側から乗算することで容易に変換できる。
【0035】
図3は、温度ベクトルT0からTnまでの解析点を持つ、例えば、後述する実施の形態2に係るローラのような回転部材におけるマトリクス演算(温度移動)の一例を示す図である。尚、このマトリクス300は、301で示す斜め方向の要素が全て「1」であり、また1行目の302で示す部分が「1」に設定されており、その他の要素は全て「0」である。
【0036】
尚、このマトリクス300は、全てのステップ間の移動において共通であるため、計算の始めに作成し、コンピュータ機器1100のメモリ(RAM1103)に格納しておくことで、計算時間を節約することができる。
【0037】
以下に本実施の形態について説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるわけではなく、本発明の主旨の範囲内において、適宜変形または組み合わせが可能であることはいうまでもない。
【0038】
[実施の形態1]
この実施の形態1では、紙等のシート材の表面にヒータから輻射熱を与えて加熱する非接触型の加熱装置の場合で説明する。
【0039】
図4は、本実施の形態1に係るシート材の加熱装置の構成を説明する概念図である。
【0040】
この加熱装置は、移動するシート材401の上方から輻射熱404を供給するヒータ402、シート材401を保持し、滑らせて搬送させるガイド403を有している。
【0041】
尚、この実施の形態1では、説明を簡略にするため二次元の場合で説明するが、三次元に展開しても、各移動断面で同じ処理を行なうだけで基本的に二次元の場合と同様に構成できる。
【0042】
この場合の計算処理も図1のフローチャートに従って実行される。
【0043】
最初に、シート材401及びガイド403の寸法と、各部材の材料、ヒータ402の輻射熱量、部材間の熱伝達範囲と熱抵抗の大きさ等の条件を入力する(S101,実際には、計算データに記述することにより入力するが、以下単に入力すると記述する)。次に各部材の寸法を基に、その部材の形状データを作成してRAM1103に記憶する。これらはRAM1103の領域1201に記憶される。尚、この場合は、移動する部材はシート材401のみである。ステップS102でシート材401の移動速度vを入力し、ステップS103で、温度変化をみるために最大必要な分割幅Δxを入力する。次にステップS104で、各分割幅に相当する時間差分の分割時間Δtを、Δx/vにより求める。尚、ここで全ての部材は、移動方向に応じて分割幅Δxで等分割される。この時、分割方向に温度を移動することで部材の移動を表現する。
【0044】
図5は、図4に示す各部材を分割した各分割領域ごとの伝熱状態をモデル化して説明する図で、シート材401は連続して続いているが、熱計算を行なう必要がある部分のみをモデル化してある。
【0045】
各分割幅Δxを示す格子と、その格子点(解析点)を入力する。ここでは、ヒータ402からの輻射熱404を、シート材401の表面への投入熱流束504に置き換えて、熱荷重の境界条件としてモデル化する。またシート材401とガイド403の間には熱のやり取りがあると考えられるため、熱伝達504を設定する。そして最後に、計算するトータル時間Stと、各解析点の計算開始時の初期温度を入力する(ステップS105)。
【0046】
ここで1ステップの数値計算(ステップS107)と温度の移動(ステップS110)とを交互に行なって計算を進めていく。このモデルでは、シート材401の部分は接触部分の付近のみをモデル化しているため、シート材401が入ってくる側は前の解析点がない。従って、常に一定温度が入ってくるとし、出て行く側は、それ以降は計算に使用しないので捨ててしまう。計算上それぞれの時点での各解析点の温度は、前述したように温度ベクトルの形で保持されている。
【0047】
図6は、実施の形態1に係る温度ベクトルT0からTnまでの解析点を持つ移動部材におけるマトリクス演算(温度移動)の一例を示す図である。
【0048】
図6に示すように、温度を移動させるためのマトリクス600を予め作成しておき、温度ベクトル(T0,T1,T2,...,Tn)に対して左側から、このマトリクス600を乗算することにより、次ステップの初期温度を計算することができる。図中のTiniは、系の外から入ってくる初期温度で初期化される。これを繰り返して、合計の時間がStに達したら計算を終了する。
【0049】
以上説明したように本実施の形態1によれば、ガイド上を移動するシート材に対する、ヒータからの輻射熱の伝導状態を正確に求めることができる。
【0050】
[実施の形態2]
図7は、本発明の実施の形態2に係る定着装置を説明する概念図である。ここでは、複写機の定着装置の場合で説明する。
【0051】
この定着装置は、内部に加熱用のヒータ703を内蔵する加熱ローラ701と、加熱ローラ701と対となり、定着したいシート材704を挟んで圧力をかける加圧ローラ702とを有している。加熱したいシート材704がローラ対701,702に挟まっている状態を初期状態と考えて、ここから加熱ローラ701を回転させてシート材704を搬送する際の伝熱状態を計算して求める。
【0052】
この場合の計算処理も図1のフローチャートに従って実行される。
【0053】
最初に、シート材704及び両ローラ701,702の寸法と、各部材の材料、ヒータ703の輻射熱量、部材間の熱伝達範囲と熱抵抗の大きさ、などの条件を入力する。次に各部材の寸法を基に形状データを作成する(S101)。この例の場合、移動する部材はシート材704と両ローラ701,702になる。まずシート材704の移動速度をv1、温度変化をみるために最大必要な分割幅をΔxとすると(S102,S103で入力される)、シート材704に対する時間差分の分割時間Δt1は、Δt1=Δx/v1となる(S104)。次に加熱ローラ701の表面の速度をv2とし、温度変化を見るために最大必要な分割幅Δxとし、シート材704の速度が加熱ローラ701の表面の速度v2と同じと考える。このとき、加熱ローラ701に対する時間差分の分割時間Δt2は、Δt2=Δx/v2となる(S104)。最後に、加圧ローラ702についても、加熱ローラ701と同様に、加圧ローラ702の表面の速度v3から分割時間Δt3を求める(S104)。即ち、Δt3=Δx/v3となる。ここで、これら3つのΔt(Δt1〜Δt3)を比較して、最も小さい分割時間Δtiを、この系全体で用いる時間差分の微小時間Δtと定める。本実施の形態2では、シート材704がローラ701,702に挟まれ、その摩擦力で送られていくことから、全ての速度v1〜v3は同じと考えられるため、Δtは全て同じになる。
【0054】
次にシート材704及びローラ701,702表面の移動方向を分割幅Δxで等分割する。この時、この実施の形態2では、既にローラ701,702の寸法が決まっているため、この分割幅Δxで割り切れない場合もあり得る。この場合は、等分割にすることを優先し、分割幅Δxに最も近い値(分割幅Δxよりも大)で分割する。この後の計算で、この分割幅Δxで分割された分割領域の移動方向に温度が順次移動することで部材の移動を表現する。
【0055】
図8は、図7に示す各部材を分割した各分割領域ごとの伝熱をモデル化して説明する図である。
【0056】
ここでローラ701,702は、これらが回転しているため、その温度移動は循環することになる。これら各分割領域の格子と、その格子点(解析点)を入力する。シート材704の扱いについて、前述の実施の形態1と同様なので割愛する。ヒータ703からの輻射熱は、加熱ローラ701内面への投入熱流束804に置き換え、境界条件としてモデル化する。また、シート材704と各ローラ701,702の間には接触による熱伝達805を定義する。こうして最後に、計算するトータル時間Stと、各解析点の計算開始時の初期温度を入力する(S105)。
【0057】
ここで1ステップの数値計算と温度の移動を交互に行なって計算を進めていく(ステップS107)。ローラの温度移動については、前述の実施の形態1のシート材の場合と同様に、図3のようなマトリクス300を作成しておき、このマトリクス300を温度ベクトルに左から乗算する(ステップS110)。これによって、次のステップの初期温度を計算することができる。尚、この実施の形態2では、シート材の場合と異なり温度が循環するようになっている。これを繰り返して、ステップS108で、計測時間がStに達したら計算を終了する。
【0058】
この実施の形態2によれば、ローラ対の間に記録シート材を通過させ、加熱による定着を行う定着装置において、加熱ローラからシート材への熱伝導を精度良く計算することができる。
【0059】
[実施の形態3]
実施の形態2と同じ図7の定着装置のモデルを用いて、計算開始時刻t0から計算時刻t1までローラ701,702の回転を停止したままヒータ703により加熱駆動を行い、時刻t1からローラの回転が開始される場合の計算例を考える。この場合、図1に示すステップS101から時間分割Δtの決定(ステップS104)までは、前述の実施の形態2と同じなので、その説明を割愛する。この後、ステップS105から終了までの部分を図9のフローチャートで置き換える。
【0060】
図9は、本実施の形態3に係る計算処理を説明するフローチャートで、この処理を実行するプログラムはRAM1103にロードされ、CPU1101の制御の下で実行される。
【0061】
この処理は図1のステップS104に続いて実行され、まずステップS901で、前述のステップS105の処理に加えて、計算条件として、ローラの回転が始まる時刻の入力を追加する。次にステップS902で、前述のステップS106と同様にモデル分割を行ない、そのモデルを用いて1ステップ分の過渡伝熱計算を行なう(ステップS903)。次にステップS904で、計算時間がトータルの計算時間Stに達しているかを判定し、達していれば計算を終了し、達していなければステップS905に進み、現在時刻tをΔtだけ進めて次のステップの計算準備に入る。ここまでのステップS902からS905は、前述の図1のステップS106〜S109と全く同じであるため、その詳細な説明を省略する。
【0062】
この後ステップS906で、温度を移動する処理の前に、現在の時刻がローラの回転が開始される時刻t1に達しているかどうかを判定する。達していればステップS907に進み、前述のステップS110と同様にして温度移動を行ない、再びステップS903へ戻って次のステップの計算を開始する。一方、ステップS906で、ローラの回転が開始される時刻t1に達していなければステップS903に進み、次ステップの伝熱計算を行う。
【0063】
このように、ステップS906の判定処理を加えることにより、シートの移動/ローラの回転と停止とに応じた伝熱計算を行うことが可能になる。またこの処理により、移動(回転)駆動から停止までの間、或いは断続的に駆動(回転)と停止を繰り返すような場合であっても、ステップS901の初期条件に、ローラの回転が開始時刻、停止時刻を入力することにより、より細かい設定を行って対処できる。
【0064】
また、時間によるシーケンスだけでなく、一定の条件、例えば特定の位置の温度、などでシートの移動/ローラの回転と停止を制御する場合であっても、同様な手順で容易に実現できる。
【0065】
[実施の形態4]
次に本発明の実施の形態4について説明する。尚、この実施の形態4に係る加熱装置の構成は前述の実施の形態1の場合と同様であるため、その説明を省略する。また以下の実施の形態に係る伝熱解析を実行する装置(コンピュータ機器)1100のハードウェア構成は前述の図11と同じであるため、その説明を省略する。
【0066】
図13は、本実施の形態4に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートで、この処理を実行するプログラムは、例えばHD1111にインストールされており、実行時にRAM1103にロードされ、CPU1101の制御の下に実行される。
【0067】
まずステップS1301で、計算対象の熱伝達装置或いは器具(熱伝達系)等の形状、寸法、材質、物性値、境界条件、更に複数の部材からなる場合には、その装置を構成する各部材間の熱伝達条件を入力する。続いてステップS1302で、この熱伝達系の中で移動する部材を指定し、その部材の移動方向と速度Vを入力する。ここで移動する部材が複数存在し、かつそれぞれ移動速度が異なる場合には、それぞれの部材ごとに速度Viを入力する(iは、各部材を示す番号)。続いてステップS1303で、この熱伝達系における伝熱状態を計算するための計算条件として、最大限許容できる微小領域の分割幅ΔXを入力する。尚、このステップS1303の工程は、予め許容値を定めてROM1102に記憶しておくことにより省略可能である。次にステップS1304で、過渡伝熱現象がおこる時間を計算時間Tとして入力し、モデルの初期条件として、各解析点の初期温度を入力する。こうして、これら入力されたデータに基づいて、以下、計算モデルの作成を行なう。
【0068】
まずステップS1305で、計算に必要な時間差分の分割時間ΔtはΔX/Vとなる。ここで、移動する部材が複数あり、かつそれぞれ移動速度が違う場合には、各部材に対応するViの内、最も早い速度(Vimax)を用いて、分割幅分を移動する時間Δtを算出する。そしてステップS1306で、移動部材ごとに、速度Viと、ステップS1305で求めたΔtから微小分割幅ΔXiをVi×Δt(ΔXi=Vi×Δt)で求める。こうして求めた分割幅ΔXiで、その部材の移動方向の長さを等分割して解析点を設定する。ここで部材の寸法によって等分割できない場合は、最もΔXiに近い値(ΔXiよりも大)でその部材の移動方向の長さを等分割する。また移動しない部材や、移動する部材の移動方向以外の分割については適宜、要素のアスペクト比などを考慮して分割すればよい。
【0069】
次にステップS1307で、ステップS1306で作成された等分割の解析点の内、過渡伝熱計算から除外する点を選択し、その選択した解析点を温度保持点に変更する。
【0070】
ここで解析点と温度保持点の関係について、図14を参照して説明する。
【0071】
図14は、本実施の形態4に係る温度保持点を説明するための説明図である。
【0072】
図において、1401を始めとする黒丸で表示した点が解析点であり、モデル1403が、モデルの解析点によって等分割されたステップS1306での状態を表わす。次に、解析点1401を、解析点から伝熱計算には利用しない温度保持点として変更したのが、モデル1404の点1402で、白丸で表わしている。このモデル1404において、1402以外の白丸も、解析点から温度保持点に変更された点を示している。これがステップS1307における温度保持点の設定処理で実行される。
【0073】
次にステップS1308で、解析点のみから過渡伝熱計算に用いる計算用格子を作成する。
【0074】
再び図14を用いて説明すると、モデル格子の分割はモデル1404の格子1405及び1406のように表わされる。即ち、解析点(黒丸)は、計算格子を構築する点であり、温度保持点(白丸)は、解析点として使われなかった等間隔の点であり、進行方向に移動する際に温度を保持するために設定されている。格子1405では一つ置きに解析点が配置され(解析点の間に1つの温度保持点がある)、格子1406では二つ置きに解析点が配置された(解析点の間に2つの温度保持点がある)例を示している。
【0075】
また、どの解析点を温度保持点に変更するかは、ステップS1306における解析点の決定結果を一旦画面に表示し、その表示に基づいて、ユーザがマウスやキーボードからの入力によって選択しても良い。また或は、外部や他部品との熱のやりとりがない部分を自動的に一つ置きに温度保持点とする等のルールに従って自動的に設定してもよい。
【0076】
こうして構築された計算モデルに基づいて、実際の伝熱計算が実行される。ステップS1309での計算は、分割時間Δtごとの過渡計算を1ステップとして繰り返し行なう。各ステップの計算は、静止した状態で、有限要素法や有限差分法などの数値計算手法を用いて行う。そして各ステップの計算が終了した後ステップS1310に進み、計算時間がステップS1305で決定した計算時間Tに達しているかどうかを判定し、達していれば計算を終了してステップS1314に進み、その結果を出力する。
【0077】
一方、ステップS1310で、計算時間に達していなければ、次のステップの計算を行う準備のためにステップS1311に進む。
【0078】
ここでは説明のために、時刻T0までの計算が終了し、時刻T0での温度分布が求まっているとする。まずステップS1311で、計算時刻をΔt進め、次の時刻T1=T0+Δtとする。次にステップS1312で、計算されずに前のステップから移動されたままの温度保持点の温度を、前ステップでの変化や前後の解析点の変化に基づいて補正する。次にステップS1313に進み、移動する部材の各解析点の温度を、移動方向側の隣の解析点に順次移動する。このとき時間Δtだけ進んだ位置に解析点がない場合には、その位置に割り当てられている温度保持点に解析点の温度を移す。同様に、温度保持点の温度もΔtだけ進んだ位置の解析点、或は温度保持点に移動する。こうすることにより、解析点及び温度保持点でモデルを変更せずに、時間Δtだけ進んだ状態の温度分布を求めることができる。
【0079】
図15は、このような温度移動のイメージ図を示している。
【0080】
点1501から1506は、温度の移動方向に配列した解析点(黒丸)及び温度保持点(白丸)を表わしている。解析点1501,1503,1506と、温度保持点1502,1504,1505が図のように配列しているとき、各計算ステップごとに解析点1501の温度を、矢印1507方向に沿って温度保持点1502に移動する。またこれと同時に、温度保持点1502の温度を解析点1503に移動し、解析点1503の温度を温度保持点1504に移動するという様に、順次、各点の温度を矢印方向1507の1つ前の点に移動する。この温度の移動は、計算上マトリクス演算により容易に実行できる。
【0081】
図16は、このマトリクス演算のイメージ図である。
【0082】
いまモデルの解析点の数をn個、温度保持点の数をm個とすると、解析点の温度ベクトル1602はn項、温度保持点の温度ベクトル1603はm項となる。そして、これらを連結した列ベクトル1604は(n+m)項になる。これに対して、次の時刻の温度列ベクトル1605を求めるには、ベクトル1604の各項を、進行方向の一つ先の解析点或は温度保持点に移動すればよい。これはどの計算ステップにおいても同じ処理である。またベクトル内の値を並べ替えるだけの処理である。よって、この処理は「1」と「0」からなる(n+m)×(n+m)のマトリクス1601の形で表わせる。このマトリクス1601を最初のモデル作成時に用意しておく。これにより、温度移動の処理の度にこのマトリクスを乗算するだけで、次ステップの初期温度状態を作ることができる。
【0083】
こうして移動が完了した温度分布を次のステップの初期状態としてステップ1309に戻り、時間Δtの過渡伝熱計算を行って、次の時刻T2=T1+Δtにおける温度分布を求める。こうして時刻Tに達するまで、ステップS1309〜S1313を繰り返す。そしてステップS1310で最終ステップに到達したら、ステップS1314で、計算結果をファイルとしてディスクなどの記憶装置(HD1111)に出力、又はディスプレイなどの表示部1110に出力して、この計算を終了する。
【0084】
ここでステップS1312での温度保持点の温度補正には、次の2つ場合が考えられる。
【0085】
まず移動中の補正については、その温度保持点に移動してくる直前の解析点での温度変化をそのまま引き継いで補正する。また直前の点が温度保持点である場合は、その点で使った温度変化をそのまま引き継ぐ。この方法のメリットは、補正計算が簡単であり、計算時間が短縮できることにある。
【0086】
図17は、この温度補正の適用例を説明する図である。尚、この図17は、構築された計算モデルの一部分を示したもので、解析点1701、温度保持点1702,1703が順に並んでおりこの順に温度を移動していく部分を取り出している。図17の上段は、時刻tの計算ステップ、下段はその次の時刻(t+Δt)の計算ステップでの温度変化量を示している。また、各解析点及び温度保持点から垂直に上に伸びる矢印は、各ステップでの温度上昇値を示している。
【0087】
時刻tでの計算の結果、解析点1701は温度ΔT1(t)だけ変化している。そしてこの温度が温度保持点1702に移動され、次のステップの計算が行なわれる。しかし、この温度保持点1702の温度は計算には使われないため、時刻(t+Δt)での温度保持点1702の温度補正には、時刻tでの解析点1701の温度変化量ΔT1(t)が用いられる。同様に、時刻tでの温度保持点1702の温度補正には、その前のステップ、即ち、時刻(t−Δt)での解析点1701の温度変化ΔT1(t-Δt)が用いられる。また時刻(t+Δt)では、温度保持点1703にも、時刻tでの温度保持点1702の温度変化量ΔT1(t-Δt)が利用される。また温度保持点から解析点へ移動する場合には、その解析点の温度が計算に利用されるため、その温度保持点からの温度変化がそのまま用いられる。
【0088】
一方、この補完が利用できないケース、例えば一回目の計算のステップや移動部材の停止状態などを計算する際には、温度保持点の前後の解析点の現ステップでの計算結果から、解析点の温度変化を線形補完等によって求めて補正する。
【0089】
図18は、この温度補正の適用例を説明する図である。
【0090】
図のように、解析点1801と1802との間に温度保持点1803がある場合を考える。いま計算による解析点1801の温度変化がΔT1、解析点1802の温度変化がΔT2とすると、温度保持点1803の温度変化は、線形補完により(ΔT1+ΔT2)/2で求められる。
【0091】
図13のステップS1307の温度保持点の設定は、計算時間や精度を決定する重要な部分になる。温度保持点を設定する判断基準としては、計算の出力として着目していない部分で、かつ境界条件による熱の出入りに急激な変化がないと判断できる部分が挙げられる。具体的には、境界条件が断熱や一定の熱流である接触領域に設定されていない、或は移動による急な条件変化がない等が挙げられる。これらの判断基準を基に、手作業で温度保持点を設定しても良い。或は、予めこれらの条件を設定しておくことにより、温度保持点を自動的に設定するようにしても良い。
【0092】
このように本実施の形態4では、有限要素法等の数値計算を、温度保持点を除いた解析点のみで実施している。このため温度保持点を用いずに全てを解析点として計算した場合に較べて自由度が減少し、各ステップにおける数値計算の量を節約できる。例えば、反復法等の演算を繰り返して収束判定を行なう手法では、自由度の減少による計算量の節約効果が大きくなる。一方、この実施の形態4では、温度保持点の補正計算が新たに必要になる。しかし、この補正計算は、前の時刻のステップでの温度変化量を記憶しておき、それを加える処理を、後続の各ステップで各温度保持点に対して一回ずつ実行すればよい。よって、全てを解析点として計算を行う場合に較べて計算負荷はかなり小さくなる。
【0093】
以下に本実施の形態4の具体例について説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるわけではなく、本発明の主旨の範囲内において、適宜変形又は組み合わせが可能であることはいうまでもない。ここでは前述の図7に示すような複写機の定着装置の場合で考える。
【0094】
最初に、シート材704及び両ローラ701,702の寸法と、各部材の材料、ヒータの輻射熱量、部材間の熱伝達範囲と熱抵抗の大きさ、計算する時間T、各解析点の計算開始時の初期温度等の条件を計算データに記述する。
【0095】
図19は、本実施の形態4に係る装置(コンピュータ機器)1100の表示部1110に表示される入力画面の一例を示す図である。
【0096】
この例では、表示部1110に表示されるウインドウの左側にローラ対の模式図が表示されている。いまウインドウの右側の入力欄で、上側の(図7では701)の「ローラ1」タブ1903が選択されているので、ローラ1901がハイライト表示されている。ここで各寸法の入力欄1902に、それぞれ対応する値を入力し、ヒータの熱量も入力欄1904に入力する。ローラ2(図7では702)についても同様な入力欄(不図示)があり、同じようにして数値が入力される。
【0097】
図20は、本実施の形態4に係る装置(コンピュータ機器)1100の表示部1110に表示されるシート材の入力画面の具体例を示す図である。この画面の構成は図19とほぼ同じである。
【0098】
ここでは「シート」タブ2002が選択されているため、シート材に関する情報を入力するための入力欄2001が表示されている。ここで、シートの長さ、厚さのほかに、ローラとのニップ幅、及び接触熱伝達係数も入力する。各部材の物性値については、個別に入力欄を設けることも可能であるが、ある程度構成の決まっているものであれば、予め物性値のデータベースを用意しておいて、そこから自動的に取得しても良い。
【0099】
こうして両ローラ(701,702)とシート材(704)に関するデータの入力が完了すると、メッシュ分割ボタン1905がクリックされる。これによりコンピュータ機器1100内部で、各部材の寸法を基に形状データを作成する。まずシート材704の速度がv1、温度変化を見るために最大必要な分割幅がΔxと入力された場合を考える。この場合のシート材704に対する時間差分の分割時間Δt1は、Δx/v1となる。次に加熱ローラ701の表面の速度をv2とし、かつその加熱ローラ701の温度変化をみるために最大必要な分割幅Δxは、シート材704と同じとすると、加熱ローラ701に対する時間差分の分割時間Δt2は、Δx/v2となる。更に、加圧ローラ702の表面の速度をv3とし、かつその加圧ローラ702の温度変化をみるために最大必要な分割幅Δxはシート材704と同じとする。この場合、加圧ローラ702に対する時間差分の分割時間Δt3は、Δx/v3となる。ここで、これら3つの分割時間Δt1,Δt2,Δt3を互いに比較し、最も小さい分割時間を、この系全体で用いる時間差分の微小時間Δtと定める。本実施の形態4の場合は、シート材704が両ローラ701,702に挟まれ、その回転による摩擦力で搬送されるため、全ての速度は同じと考えられる。よって、分割時間Δt1,Δt2,Δt3は全て同じになる。
【0100】
次にシート材704及び両ローラ701,702の表面の移動方向を、分割幅Δxで等分割する。この時、この実施例では既に両ローラ701,702の寸法が決まっているため、幅Δxで割り切れない場合も有り得る。この場合は、等分割にすることを優先し、等分割にした場合の分割幅が、この幅Δxに最も近い値をとるように分割数を調整する。
【0101】
図21は、以上の計算が終了した時点での画面出力例を示す図である。
【0102】
図の左側のローラ及びシート材の表示が、分割幅Δxに基づいて等分割されて表示されている。また右側の入力欄の表示は、ローラ701に相当する表示における複数の解析点の内、温度保持点として指定するための画面に変更されている。尚、この入力欄は、ローラ702及びシート材704に対しても、同様に温度保持点を指定するために表示される。この例では、そのままローラ701,702の全周に亘って幅Δxで解析点を設けるのではなく、詳細な計算が必要なニップ部分(ローラ701,702とシート材704の接触部分)以外の外周部分では、分割を粗くして計算負荷を軽減している。即ち、ニップ部分以外の外周部分では、解析点を一つ置きに温度保持点として指定し、残りを解析点に設定している。このような温度保持点の設定方法は、個別選択2103をチェックし、KB1109のマウスを使用して、左側に表示されている複数の解析点の中から、温度保持点に変更する解析点を選択する。こうして温度保持点に変更したい解析点を全て選択し終わると、温度保持点作成ボタン2107をクリックする。これにより、コンピュータ機器1100における格子点の再構築、即ち、解析点から温度保持点への変更が実行される。この際、温度保持点に指定された点が格子を生成する点にならないよう結合される。
【0103】
図22は、解析点を温度保持点に変更した結果を表示する表示例を示す図である。
【0104】
図22の左側には、解析点に基づいて新たに設定された新しい格子と、温度保持点2201とが表示される。これにより温度保持点が選択された外周部分で格子の密度が粗くなり、全体として格子の数(解析点の数)が減っている。またローラの同心円上に解析点及び温度保持点が並ぶ関係は保持されている。またウインドウの右側には、最初に入力した計算を行なう時間の入力欄2202が表示される。ここで計算時間を確認し、必要なら再入力し、計算開始ボタン2203をクリックすることで計算がスタートする。このときコンピュータ機器1100では、入力データの漏れや、有りえない値などが入力されていないかをチェックした後、有限要素法等の数値計算法の手法に従って、格子から計算用のマトリクスやベクトルを生成して計算の前準備を行なう。
【0105】
ここから1ステップの数値計算と温度の移動を交互に行なって計算を進めていく。この数値計算は、解析点から生成した格子に基づいて行ない、温度保持点のデータは使わない。ローラにおける温度移動については、分割幅Δxで等分割に並んでいる解析点及び温度保持点を合わせて、各々進行方向に間隔Δxの位置の点に温度を受け渡す。この時、温度保持点の温度は、そのままでは一つ前の解析点であって、一つ前のステップに計算された温度変化量のままになる。よって、一つ前のステップでの計算時の温度変化と同じ変化が今回のステップでもあったと考え、その温度変化量ΔTにより温度を補正してから次の解析点或は温度保持点に、その温度を引き渡す。尚、温度保持点から温度保持点へ移動した場合は、前の温度保持点でのΔTをもう一度適用する。更に、各ステップの計算から求まったΔTは、次のステップで温度保持点の補正に利用するため、別に保持しておく。これを繰り返して、時刻がTに達したら計算を終了し、計算の結果として、各ステップの温度分布や移動熱量をファイルに出力する。
【0106】
以上説明したように本実施の形態5によれば、部材が移動しながら熱境界条件が変化していく系における熱的挙動も、高精度かつ高速に解析することができる。
【0107】
また単独或は複数の部材で構成され、かつ各部材内部及び部材間に熱の移動があり、かつ部材が移動しながら熱境界条件が変化していくような系からなる装置の熱的挙動であっても、計算対象を微小領域に分割して近似的に表わし、かつ時間微分を差分近似することによって、移動する部材を含む系における熱伝達をより少ない計算負荷で計算できる。
【0108】
[実施の形態5]
次に本発明の実施の形態5について説明する。尚、この実施の形態5では、前述の実施の形態4と同じ定着器のモデルを考える。またこの実施の形態5に係る加熱装置の構成は前述の実施の形態1の場合と同様であり、実施の形態5に係る伝熱解析を実行する装置(コンピュータ機器)1100のハードウェア構成は前述の図11と同じであるため、その説明を省略する。
【0109】
この実施の形態5では、移動する部材の動作シーケンスで停止している時間があるというケースを計算する場合を考える。この場合、図13に示すステップS1301からS1308までは実施の形態4と同じなので割愛する。
【0110】
図23は、本発明の実施の形態5に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートで、前述の図13のステップS1308以降の処理ステップを示している。尚、図13と共通する処理には同じ記号を示している。
【0111】
ステップS2301では、計算の前に新たに追加される回転と停止の条件を入力する。次にステップS1309で、1ステップの最初の計算を行ない、計算が終了するとステップS1310で、これが最終ステップであるかどうか判定する。最終ステップでないときはステップS1311に進み、時刻をΔtだけ進める。次にステップS2302で、次のステップで、対象部材が回転しているか、停止しているかを判定する。これはステップS2301で入力された回転と停止の条件に基づいて判定される。ここで回転していると判断した場合は前述の図13と同様に、ステップS1312に進んで温度保持点の温度を補正し、ステップS1313で温度の移動を行う。
【0112】
一方、ステップS2302で、回転が停止していると判断した場合はステップS2303に進み、温度保持点の温度の補正のみを行ない、温度の移動を行わずに次の計算へ進む。回転が停止していると判断した場合には、まず温度保持点の補正方法を変える必要がある。この停止状態が長く続くような場合、前ステップの温度変化を引き継いだままでは誤差がどんどん増えていく可能性が大きい。また、計算開始の時点で停止状態になっている場合には、前ステップでの温度変化自体が存在しない。そこで、このような場合には、その温度保持点の前後にある解析点における、現ステップでの温度変化量から空間的に補正した値を用いて補正する。例えばある解析点の中間に温度保持点がある場合、その点の温度変化ΔTは、前後の解析点の温度変化をΔT1,ΔT2とすると、(ΔT1+ΔT2)/2となる(図18参照)。この後、ステップS1313をスキップして、即ち、温度移動を行わずにステップS1309に進んで、次のステップの計算を行うことで、停止状態を表現することができる。
【0113】
以上説明したように本実施の形態5によれば、部材が移動及び停止しながら熱境界条件が変化していく系における熱的挙動も高精度かつ高速に解析することができる。
【0114】
[実施の形態6]
次に本発明の実施の形態6について説明する。この実施の形態6では、図13の行程のステップS1307にある等分割により作られた解析点から温度保持点を選び出す作業において、図24のような手順による自動化を考える。
【0115】
図24は、本実施の形態6に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートで、前述の図13のステップS1307,S1308の処理ステップを示している。
【0116】
まずステップS2401で、判定基準の指定として、温度移動を適用している解析点の内、どのような条件の解析点を温度保持点に変更するか、その条件を指定する。温度保持点に変更することにより計算を省略、或は補正に置き換えられるので、次のような条件が考えられる。
【0117】
・他部品との接触部分以外の部分
・境界条件が断熱や、ゆるやかな放熱、一定な熱流である等、部材の進行方向において大きく条件が変化しない部分
・その他、極端な条件変化がない部分(ニップ出口直後など)
また、どの程度の間隔で解析点を温度保持点に変更するのかも指定する。
【0118】
これらの条件を設定しておき、ステップS2402で、その条件を基に該当する領域を抽出する。条件設定の入力画面例は図21に示すようになる。この実施の形態6では、接触域外2101と倍率2102とをチェックした場合を考える。
【0119】
図25は、その結果を説明する図である。
【0120】
ローラ2501とシート材2502が接触するモデルで、ニップ部には接触熱抵抗2503が設定されている。図において、黒丸は、ステップS1306で得られた、等分割された解析点を示す。この形状の場合、ローラ2501の外周のニップ以外の領域が条件を満たしており、図左側の領域2504が温度保持点を指定する領域として認識される。
【0121】
この領域2504に対し、一つおきの間隔で解析点を温度保持点(2505の白丸)に変更する。残った解析点から格子を生成した例が図25の右側に示されている(ステップS2403)。
【0122】
この実施の形態6では、モデルの格子が一層だけであるが、ローラの内部が何層か放射状に分割されている場合は、それぞれの温度移動する解析点のグループに対しても表層と同様な間隔で温度保持点を設定できることは言うまでもない。
【0123】
このように本実施の形態6によれば、解析点を自動的に温度保持点に変更して解析格子を作成し、それに従って熱伝達を解析できる。
【0124】
なお本発明は、前述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを、システム或いは装置に直接或いは遠隔から供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータが、その供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。その場合、プログラムの機能を有していれば、その形態はプログラムである必要はない。従って、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明には、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等、プログラムの形態を問わない。
【0125】
プログラムを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO,CD−ROM,CD−R,CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM,DVD(DVD−ROM,DVD−R)などがある。その他のプログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続し、該ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記憶媒体にダウンロードすることによっても供給できる。また本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることによっても実現可能である。つまり本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明のクレームに含まれるものである。
【0126】
また、本発明のプログラムを暗号化してCD−ROM等の記憶媒体に格納してユーザに配布し、所定の条件を満足するユーザに対してインターネットを介してホームページから暗号化を解く鍵情報をダウンロードさせ、その鍵情報を使用することにより暗号化されたプログラムを実行してコンピュータにインストールさせて実現することも可能である。
【0127】
またコンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施形態の機能が実現される他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部又は全部を行ない、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現され得る。
【0128】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行ない、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の実施の形態に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートである。
【図2】速度Vで移動する部材の温度移動を説明する概念図である。
【図3】温度ベクトルT0からTnまでの解析点を持つ、例えばローラのような回転部材におけるマトリクス演算(温度移動)の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るシート材の加熱装置の構成を説明する概念図である。
【図5】図4に示す各部材を分割した各分割領域ごとの伝熱をモデル化して説明する図である。
【図6】温度ベクトルT0からTnまでの解析点を持つ移動部材におけるマトリクス演算(温度移動)の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る加熱装置を説明する概念図である。
【図8】図7に示す各部材を分割した各分割領域ごとの伝熱をモデル化して説明する図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る計算処理を説明するフローチャートである。
【図10】従来の手法による一次元で等間隔に並ぶ解析点のモデルを説明する図である。
【図11】本実施の形態に係る伝熱解析を実行する装置(コンピュータ機器)のハードウェア構成を説明するブロック図である。
【図12】本実施の形態に係るコンピュータ機器のRAMのメモリマップを示す図である。
【図13】本実施の形態4に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートである。
【図14】本実施の形態4に係る温度保持点のイメージを説明するための説明図である。
【図15】本実施の形態4における温度移動のイメージ図を示している。
【図16】本実施の形態4におけるマトリクス演算のイメージ図である。
【図17】本実施の形態4における温度補正の適用例を説明する図である。
【図18】本実施の形態4における温度補正の適用例を説明する図である。
【図19】実施の形態4に係る入力画面の一例を示す図である。
【図20】本実施の形態4に係る装置の表示部に表示されるシート材の入力画面の具体例を示す図である。
【図21】実施の形態4において温度保持点の設定による計算が終了した時点での画面出力例を示す図である。
【図22】実施の形態4における解析点を温度保持点に変更した結果を表示する表示例を示す図である。
【図23】本発明の実施の形態5に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートである。
【図24】本発明の実施の形態6に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートである。
【図25】実施の形態6に係るモデル構築の結果を説明する図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材間での熱伝導による熱的挙動の時間微分を差分近似することによって解析する伝熱解析方法及びその装置とプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
相対的に移動する物体間の伝熱を考慮して設計する必要がある装置としては、紙等のシート材をフィルムでコーティングするためのラミネートフィルムの加熱装置、複写機やレーザビームプリンタ(LBP)の紙等のシート材表面に形成された画像を定着させるための定着装置等がある。これら装置の設計に際して、種々の条件で、その装置で使用される各部材の機能を検討することは、その装置の試作品の製造及び試験に要する工数を低減でき、開発期間及び費用を低減できるため好ましいものである。
【0003】
このような目的で、定着装置を実際と同じ条件で動作させてその熱的挙動をシミュレーションする技術が提案されている。これによれば、連続体である装置の部品やフィルムや紙等の媒体を有限個の要素で表現し、これらが接触することにより要素間で熱の移動が生じる部分には、各要素間に熱抵抗を考慮した熱移動の条件を与える。こうした条件を基に熱伝導方程式を解くことにより、その装置全体における伝熱状態を求めている。
【0004】
このとき、相対的に移動する要素間の熱伝導を正確に計算しようとすると、各要素の移動に伴って熱伝導領域を時々刻々変化させていく必要がある。その一手法として、物体を移動させずに、熱伝導計算の時間を区切り、その区切りごとに物体が移動する方向へ温度を移動する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2816507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この方法では、モデル化した物体を移動させるのではなく、そのモデルの各点(解析点)の温度を計算するごとにその物体の進行方向に移動していき、その温度値から、そのモデル上の移動後の各解析点の温度を補完によって求めている。この方法では、補完するときに誤差が生じる虞れがある。例えば、各点間の長さが大きく変化しているところで補完を行なうとき、或いは各点間で温度分布に急激な変化がある場合などでは、その補完から求めた温度では、温度分布を正確に表現できないことが考えられる。
【0006】
図10は、従来の手法による一次元で等間隔に並ぶ解析点のモデルを説明する図である。
【0007】
位置0から部分的に山形の温度分布を持つ初期温度分布を、熱の移動が全く無い条件で、各解析点間の距離(10)の半分(5)ずつ移動させ、その移動した後の各解析点の両側に位置する温度2点から線形で値を補完した場合に、温度分布がどのように変化するかを示している。この図10から分かるように、従来の補完による方法では、移動する距離が長くなるほど(グラフの右側に行くほど)、その波形のピークが下がって山の裾野が広がっている。
【0008】
本発明は、上記従来技術の欠点を解決することにある。
【0009】
また本願発明の特徴は、移動する部材を含む系における部材間の熱伝導を正確に計算することができる伝熱解析方法及びその装置とプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記特徴は、独立クレームに記載の特徴の組み合わせにより達成され、従属項は発明の単なる有利な具体例を規定するものである。
【0011】
本発明の一態様に係る伝熱解析方法は以下のような工程を備える。即ち、
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析方法であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する工程と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する工程と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する工程と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する工程と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割工程と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する工程と、
前記分割工程で決定された前記分割時間毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算工程と、
前記計算工程による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算工程を繰り返し実行するように制御する制御工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る伝熱解析方法は以下のような工程を備える。即ち、
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析方法であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する工程と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する工程と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する工程と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する工程と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割工程と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する工程と、
前記分割工程で分割された分割領域のうち、伝熱計算の対象となる分割領域を選択する選択工程と、
前記選択工程で選択された前記分割領域毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算工程と、
前記計算工程での計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算工程を繰り返し実行するように制御する制御工程とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る伝熱解析装置は以下のような構成を備える。即ち、
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析装置であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する手段と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する手段と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する手段と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と前記移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を設定する手段と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割手段と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する手段と、
前記分割手段で決定された前記分割時間毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算手段と、
前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算手段を繰り返し実行するように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る伝熱解析装置は以下のような構成を備える。即ち、
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析装置であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する手段と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する手段と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する手段と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する手段と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割手段と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する手段と、
前記分割手段で分割された分割領域のうち、伝熱計算の対象となる分割領域を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された前記分割領域毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算手段と、
前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算手段を繰り返し実行するように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0015】
尚、この発明の概要は、必要な特徴を全て列挙しているものでなく、よって、これら特徴群のサブコンビネーションも発明になり得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の部材間で熱の移動がある装置の熱的挙動を高精度に計算することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳しく説明する。尚、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施の形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0018】
まず最初に図11を参照して、本発明の実施の形態に係る熱伝導解析を実行する装置の構成について説明する。
【0019】
図11は、本実施の形態に係る伝熱解析を実行する装置(コンピュータ機器)1100のハードウェア構成を説明するブロック図である。
【0020】
このコンピュータ機器1100は、CPU1101と、ROM1102と、RAM1103と、入力装置としてのキーボード(KB)1109と、そのインターフェースを制御するキーボードコントローラ(KBC)1105と、CRTや液晶などの表示部1110と、そのインターフェースを制御するCRTコントローラ(CRTC)1106と、ハードディスク(HD)1111及びフレキシブルディスク(FD)1112のディスクコントローラ(DKC)1107と、ネットワーク1120との接続のためのネットワークインターフェースコントローラ(NIC)1108とを有する。そしてこれらの構成がシステムバス1104を介して互いに通信可能に接続されている。
【0021】
CPU1101は、ROM1102、或いはHD1111に記憶されたソフトウェア、或いはFD1112より供給されるソフトウェアをRAM1103にロードして実行することで、システムバス1104に接続された各構成部を総括的に制御する。即ち、CPU1101は、所定の処理シーケンスに従った処理プログラムを、ROM1102、或いはHD1111、或いはFD1112から読み出して実行することで、後述する本実施の形態に係る処理や動作を実現するための制御を行う。なお、図示していないがハードディスク、フレキシブルディスク以外にも光学的記録装置などの他のデバイスが接続されて良いのは言うまでもない。
【0022】
RAM1103は、CPU1101の主メモリ或いはワークエリア等として機能する。KBC1105は、KB1109や図示していないポインティングデバイス等からの指示入力を制御する。CRTC1106は、表示部1110への表示を制御する。DKC1107は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム、及び本実施の形態における所定の処理プログラム等を記憶するHD1111及びFD1112とのアクセスを制御する。NIC1108は、ネットワーク1120上の装置或いはシステムと双方向にデータをやりとりする。
【0023】
尚、本発明の実施の形態に係るコンピュータ機器の構成は、この図に示したコンピュータの構成に限定されることがないことは言うまでもない。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートで、この処理を実行するプログラムは、例えばHD1111にインストールされており、実行時にRAM1103にロードされ、CPU1101の制御の下に実行される。
【0025】
尚、図12は、このような処理を実行する際、RAM1103に記憶される後述する各変数や、初期値などの配列を示すメモリマップ図である。以下、図1と図12を参照して、この処理を説明する。
【0026】
まずステップS101で、計算対象の熱伝達装置或いは器具(熱伝達系)等の形状、材質、境界条件、その装置を構成する各部材間の熱伝達条件を入力する。続いてステップS102で、この熱伝達系の中で移動する部材を指定し、その部材の移動方向と速度Vを入力する。ここで移動する部材が複数存在し、かつそれぞれ移動速度が異なる場合には、それぞれの部材ごとに速度Viを入力する(iは、各部材を示す番号)。続いてステップS103で、この熱伝達系における伝熱状態を計算するための計算条件として、最大限許容できる微小領域の分割幅ΔXを入力する。尚、このステップS103の工程は、予め許容値を定めてROM1102に記憶しておくことにより省略可能である。
【0027】
次にステップS104で、計算モデルの作成に入り、まず計算に必要な時間差分の分割時間Δtを、分割幅ΔXを速度Vで移動するのに要する時間(Δt=ΔX/V)とする。ここで移動する部材が複数存在し、かつそれぞれ移動速度が異なる場合には、各部材に対応する速度Viの内、最も早い速度(Vimax)を用いてΔtを算出する。そしてステップS105で、過渡伝熱現象を計算するトータルの時間Stと、この熱伝達モデルの各解析点(後のステップS106でモデルを分割して得られる各分割領域に対応)の初期温度(T0ini,T1ini,...,Tnini))を入力する。尚、この各解析点毎の初期値はそれぞれ異なっていても、或いは常温のような一定の温度であっても良い。
【0028】
次にステップS106で、移動する部材ごとに、その速度Viと、ステップ104で求めた分割時間Δtとから、分割幅ΔXiをVi×Δtにより求める。こうして求めた分割幅ΔXiで、その部材の移動方向の長さを等分割する。ここで部材の長さにより等分割ができない場合は、最も分割幅ΔXiに近い値(ΔXiよりも大)で、その部材の移動方向の長さを等分割する。また移動しない部材や、移動する部材の移動方向以外の分割については適宜、要素のアスペクト比などを考慮して分割すればよい。
【0029】
こうしてステップS107で、実際の伝熱計算に入る。この計算は分割時間Δtごとの過渡計算を1ステップとして繰り返し行なう。各ステップでの温度計算は、部材が静止した状態とし、有限要素法や有限差分法などの数値計算手法を用いて行なう。こうして得られた温度計算結果は、ここではTiで表される。次にステップS108で、各ステップにおける温度計算の終了後、その計算対象となる過渡伝熱現象の時間がステップ105で決定した計算時間Stに達しているかどうかを判定し、達していれば(計算時間Stの間、過渡伝熱計算を行った)計算を終了するが、そのトータルの計算時間Stに達していなければステップS109で、時刻tをΔtだけ進め、次にステップS110で、移動する部材の各解析点の温度を、その移動方向側の隣の解析点に移して(図3に示すマトリクス演算を行う)再度ステップS107に進み、時間Δtにおける過渡伝熱計算を行なって次の時刻での温度分布を求める。こうして、過渡計算の合計計算時間がトータル時間Stに達するまでステップ107〜110を繰り返す。
【0030】
説明のため、ステップS107で、時刻t0までの計算が終了し、時刻t0までの温度分布(T0)が求まっているとし、ステップS108でトータルの計算時間Stに到達していないときはステップS109で、時刻t0をΔtだけ進めて、次の時刻t1=t0+Δtとする。そして、この時刻t1での計算に当たって、その温度の初期値を、前回求めた、時刻t0までの温度分布(T0)とする。以下、同様である。
【0031】
こうすることにより、モデルを変更せずに、時間Δtだけ進んだ状態の部材の温度分布を求めることができる。これにより補完などのような、実際の温度分布との誤差が発生するような手法を用いることなく伝熱状態を計算できるので、各解析点での温度分布は各部材の分割幅ごとに正確に次に解析点に引き継がれる。
【0032】
図2は、移動する部材の温度移動を説明する概念図である。
【0033】
図において、V・Δtは、各部材の分割幅ΔXに相当している。
【0034】
実際の計算においては、各解析点の温度分布(T0〜Tn)は、温度ベクトルの形でコンピュータ機器1100のメモリ(RAM1103)に保持されている。このベクトルの温度を順次移動させるには、所定の部分の温度を移動させるマトリクス(図6の600参照)を作成しておく。そして、温度移動を行なう毎に、このマトリクス600を温度ベクトル(T0,T1,T2,...,Tn)の左側から乗算することで容易に変換できる。
【0035】
図3は、温度ベクトルT0からTnまでの解析点を持つ、例えば、後述する実施の形態2に係るローラのような回転部材におけるマトリクス演算(温度移動)の一例を示す図である。尚、このマトリクス300は、301で示す斜め方向の要素が全て「1」であり、また1行目の302で示す部分が「1」に設定されており、その他の要素は全て「0」である。
【0036】
尚、このマトリクス300は、全てのステップ間の移動において共通であるため、計算の始めに作成し、コンピュータ機器1100のメモリ(RAM1103)に格納しておくことで、計算時間を節約することができる。
【0037】
以下に本実施の形態について説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるわけではなく、本発明の主旨の範囲内において、適宜変形または組み合わせが可能であることはいうまでもない。
【0038】
[実施の形態1]
この実施の形態1では、紙等のシート材の表面にヒータから輻射熱を与えて加熱する非接触型の加熱装置の場合で説明する。
【0039】
図4は、本実施の形態1に係るシート材の加熱装置の構成を説明する概念図である。
【0040】
この加熱装置は、移動するシート材401の上方から輻射熱404を供給するヒータ402、シート材401を保持し、滑らせて搬送させるガイド403を有している。
【0041】
尚、この実施の形態1では、説明を簡略にするため二次元の場合で説明するが、三次元に展開しても、各移動断面で同じ処理を行なうだけで基本的に二次元の場合と同様に構成できる。
【0042】
この場合の計算処理も図1のフローチャートに従って実行される。
【0043】
最初に、シート材401及びガイド403の寸法と、各部材の材料、ヒータ402の輻射熱量、部材間の熱伝達範囲と熱抵抗の大きさ等の条件を入力する(S101,実際には、計算データに記述することにより入力するが、以下単に入力すると記述する)。次に各部材の寸法を基に、その部材の形状データを作成してRAM1103に記憶する。これらはRAM1103の領域1201に記憶される。尚、この場合は、移動する部材はシート材401のみである。ステップS102でシート材401の移動速度vを入力し、ステップS103で、温度変化をみるために最大必要な分割幅Δxを入力する。次にステップS104で、各分割幅に相当する時間差分の分割時間Δtを、Δx/vにより求める。尚、ここで全ての部材は、移動方向に応じて分割幅Δxで等分割される。この時、分割方向に温度を移動することで部材の移動を表現する。
【0044】
図5は、図4に示す各部材を分割した各分割領域ごとの伝熱状態をモデル化して説明する図で、シート材401は連続して続いているが、熱計算を行なう必要がある部分のみをモデル化してある。
【0045】
各分割幅Δxを示す格子と、その格子点(解析点)を入力する。ここでは、ヒータ402からの輻射熱404を、シート材401の表面への投入熱流束504に置き換えて、熱荷重の境界条件としてモデル化する。またシート材401とガイド403の間には熱のやり取りがあると考えられるため、熱伝達504を設定する。そして最後に、計算するトータル時間Stと、各解析点の計算開始時の初期温度を入力する(ステップS105)。
【0046】
ここで1ステップの数値計算(ステップS107)と温度の移動(ステップS110)とを交互に行なって計算を進めていく。このモデルでは、シート材401の部分は接触部分の付近のみをモデル化しているため、シート材401が入ってくる側は前の解析点がない。従って、常に一定温度が入ってくるとし、出て行く側は、それ以降は計算に使用しないので捨ててしまう。計算上それぞれの時点での各解析点の温度は、前述したように温度ベクトルの形で保持されている。
【0047】
図6は、実施の形態1に係る温度ベクトルT0からTnまでの解析点を持つ移動部材におけるマトリクス演算(温度移動)の一例を示す図である。
【0048】
図6に示すように、温度を移動させるためのマトリクス600を予め作成しておき、温度ベクトル(T0,T1,T2,...,Tn)に対して左側から、このマトリクス600を乗算することにより、次ステップの初期温度を計算することができる。図中のTiniは、系の外から入ってくる初期温度で初期化される。これを繰り返して、合計の時間がStに達したら計算を終了する。
【0049】
以上説明したように本実施の形態1によれば、ガイド上を移動するシート材に対する、ヒータからの輻射熱の伝導状態を正確に求めることができる。
【0050】
[実施の形態2]
図7は、本発明の実施の形態2に係る定着装置を説明する概念図である。ここでは、複写機の定着装置の場合で説明する。
【0051】
この定着装置は、内部に加熱用のヒータ703を内蔵する加熱ローラ701と、加熱ローラ701と対となり、定着したいシート材704を挟んで圧力をかける加圧ローラ702とを有している。加熱したいシート材704がローラ対701,702に挟まっている状態を初期状態と考えて、ここから加熱ローラ701を回転させてシート材704を搬送する際の伝熱状態を計算して求める。
【0052】
この場合の計算処理も図1のフローチャートに従って実行される。
【0053】
最初に、シート材704及び両ローラ701,702の寸法と、各部材の材料、ヒータ703の輻射熱量、部材間の熱伝達範囲と熱抵抗の大きさ、などの条件を入力する。次に各部材の寸法を基に形状データを作成する(S101)。この例の場合、移動する部材はシート材704と両ローラ701,702になる。まずシート材704の移動速度をv1、温度変化をみるために最大必要な分割幅をΔxとすると(S102,S103で入力される)、シート材704に対する時間差分の分割時間Δt1は、Δt1=Δx/v1となる(S104)。次に加熱ローラ701の表面の速度をv2とし、温度変化を見るために最大必要な分割幅Δxとし、シート材704の速度が加熱ローラ701の表面の速度v2と同じと考える。このとき、加熱ローラ701に対する時間差分の分割時間Δt2は、Δt2=Δx/v2となる(S104)。最後に、加圧ローラ702についても、加熱ローラ701と同様に、加圧ローラ702の表面の速度v3から分割時間Δt3を求める(S104)。即ち、Δt3=Δx/v3となる。ここで、これら3つのΔt(Δt1〜Δt3)を比較して、最も小さい分割時間Δtiを、この系全体で用いる時間差分の微小時間Δtと定める。本実施の形態2では、シート材704がローラ701,702に挟まれ、その摩擦力で送られていくことから、全ての速度v1〜v3は同じと考えられるため、Δtは全て同じになる。
【0054】
次にシート材704及びローラ701,702表面の移動方向を分割幅Δxで等分割する。この時、この実施の形態2では、既にローラ701,702の寸法が決まっているため、この分割幅Δxで割り切れない場合もあり得る。この場合は、等分割にすることを優先し、分割幅Δxに最も近い値(分割幅Δxよりも大)で分割する。この後の計算で、この分割幅Δxで分割された分割領域の移動方向に温度が順次移動することで部材の移動を表現する。
【0055】
図8は、図7に示す各部材を分割した各分割領域ごとの伝熱をモデル化して説明する図である。
【0056】
ここでローラ701,702は、これらが回転しているため、その温度移動は循環することになる。これら各分割領域の格子と、その格子点(解析点)を入力する。シート材704の扱いについて、前述の実施の形態1と同様なので割愛する。ヒータ703からの輻射熱は、加熱ローラ701内面への投入熱流束804に置き換え、境界条件としてモデル化する。また、シート材704と各ローラ701,702の間には接触による熱伝達805を定義する。こうして最後に、計算するトータル時間Stと、各解析点の計算開始時の初期温度を入力する(S105)。
【0057】
ここで1ステップの数値計算と温度の移動を交互に行なって計算を進めていく(ステップS107)。ローラの温度移動については、前述の実施の形態1のシート材の場合と同様に、図3のようなマトリクス300を作成しておき、このマトリクス300を温度ベクトルに左から乗算する(ステップS110)。これによって、次のステップの初期温度を計算することができる。尚、この実施の形態2では、シート材の場合と異なり温度が循環するようになっている。これを繰り返して、ステップS108で、計測時間がStに達したら計算を終了する。
【0058】
この実施の形態2によれば、ローラ対の間に記録シート材を通過させ、加熱による定着を行う定着装置において、加熱ローラからシート材への熱伝導を精度良く計算することができる。
【0059】
[実施の形態3]
実施の形態2と同じ図7の定着装置のモデルを用いて、計算開始時刻t0から計算時刻t1までローラ701,702の回転を停止したままヒータ703により加熱駆動を行い、時刻t1からローラの回転が開始される場合の計算例を考える。この場合、図1に示すステップS101から時間分割Δtの決定(ステップS104)までは、前述の実施の形態2と同じなので、その説明を割愛する。この後、ステップS105から終了までの部分を図9のフローチャートで置き換える。
【0060】
図9は、本実施の形態3に係る計算処理を説明するフローチャートで、この処理を実行するプログラムはRAM1103にロードされ、CPU1101の制御の下で実行される。
【0061】
この処理は図1のステップS104に続いて実行され、まずステップS901で、前述のステップS105の処理に加えて、計算条件として、ローラの回転が始まる時刻の入力を追加する。次にステップS902で、前述のステップS106と同様にモデル分割を行ない、そのモデルを用いて1ステップ分の過渡伝熱計算を行なう(ステップS903)。次にステップS904で、計算時間がトータルの計算時間Stに達しているかを判定し、達していれば計算を終了し、達していなければステップS905に進み、現在時刻tをΔtだけ進めて次のステップの計算準備に入る。ここまでのステップS902からS905は、前述の図1のステップS106〜S109と全く同じであるため、その詳細な説明を省略する。
【0062】
この後ステップS906で、温度を移動する処理の前に、現在の時刻がローラの回転が開始される時刻t1に達しているかどうかを判定する。達していればステップS907に進み、前述のステップS110と同様にして温度移動を行ない、再びステップS903へ戻って次のステップの計算を開始する。一方、ステップS906で、ローラの回転が開始される時刻t1に達していなければステップS903に進み、次ステップの伝熱計算を行う。
【0063】
このように、ステップS906の判定処理を加えることにより、シートの移動/ローラの回転と停止とに応じた伝熱計算を行うことが可能になる。またこの処理により、移動(回転)駆動から停止までの間、或いは断続的に駆動(回転)と停止を繰り返すような場合であっても、ステップS901の初期条件に、ローラの回転が開始時刻、停止時刻を入力することにより、より細かい設定を行って対処できる。
【0064】
また、時間によるシーケンスだけでなく、一定の条件、例えば特定の位置の温度、などでシートの移動/ローラの回転と停止を制御する場合であっても、同様な手順で容易に実現できる。
【0065】
[実施の形態4]
次に本発明の実施の形態4について説明する。尚、この実施の形態4に係る加熱装置の構成は前述の実施の形態1の場合と同様であるため、その説明を省略する。また以下の実施の形態に係る伝熱解析を実行する装置(コンピュータ機器)1100のハードウェア構成は前述の図11と同じであるため、その説明を省略する。
【0066】
図13は、本実施の形態4に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートで、この処理を実行するプログラムは、例えばHD1111にインストールされており、実行時にRAM1103にロードされ、CPU1101の制御の下に実行される。
【0067】
まずステップS1301で、計算対象の熱伝達装置或いは器具(熱伝達系)等の形状、寸法、材質、物性値、境界条件、更に複数の部材からなる場合には、その装置を構成する各部材間の熱伝達条件を入力する。続いてステップS1302で、この熱伝達系の中で移動する部材を指定し、その部材の移動方向と速度Vを入力する。ここで移動する部材が複数存在し、かつそれぞれ移動速度が異なる場合には、それぞれの部材ごとに速度Viを入力する(iは、各部材を示す番号)。続いてステップS1303で、この熱伝達系における伝熱状態を計算するための計算条件として、最大限許容できる微小領域の分割幅ΔXを入力する。尚、このステップS1303の工程は、予め許容値を定めてROM1102に記憶しておくことにより省略可能である。次にステップS1304で、過渡伝熱現象がおこる時間を計算時間Tとして入力し、モデルの初期条件として、各解析点の初期温度を入力する。こうして、これら入力されたデータに基づいて、以下、計算モデルの作成を行なう。
【0068】
まずステップS1305で、計算に必要な時間差分の分割時間ΔtはΔX/Vとなる。ここで、移動する部材が複数あり、かつそれぞれ移動速度が違う場合には、各部材に対応するViの内、最も早い速度(Vimax)を用いて、分割幅分を移動する時間Δtを算出する。そしてステップS1306で、移動部材ごとに、速度Viと、ステップS1305で求めたΔtから微小分割幅ΔXiをVi×Δt(ΔXi=Vi×Δt)で求める。こうして求めた分割幅ΔXiで、その部材の移動方向の長さを等分割して解析点を設定する。ここで部材の寸法によって等分割できない場合は、最もΔXiに近い値(ΔXiよりも大)でその部材の移動方向の長さを等分割する。また移動しない部材や、移動する部材の移動方向以外の分割については適宜、要素のアスペクト比などを考慮して分割すればよい。
【0069】
次にステップS1307で、ステップS1306で作成された等分割の解析点の内、過渡伝熱計算から除外する点を選択し、その選択した解析点を温度保持点に変更する。
【0070】
ここで解析点と温度保持点の関係について、図14を参照して説明する。
【0071】
図14は、本実施の形態4に係る温度保持点を説明するための説明図である。
【0072】
図において、1401を始めとする黒丸で表示した点が解析点であり、モデル1403が、モデルの解析点によって等分割されたステップS1306での状態を表わす。次に、解析点1401を、解析点から伝熱計算には利用しない温度保持点として変更したのが、モデル1404の点1402で、白丸で表わしている。このモデル1404において、1402以外の白丸も、解析点から温度保持点に変更された点を示している。これがステップS1307における温度保持点の設定処理で実行される。
【0073】
次にステップS1308で、解析点のみから過渡伝熱計算に用いる計算用格子を作成する。
【0074】
再び図14を用いて説明すると、モデル格子の分割はモデル1404の格子1405及び1406のように表わされる。即ち、解析点(黒丸)は、計算格子を構築する点であり、温度保持点(白丸)は、解析点として使われなかった等間隔の点であり、進行方向に移動する際に温度を保持するために設定されている。格子1405では一つ置きに解析点が配置され(解析点の間に1つの温度保持点がある)、格子1406では二つ置きに解析点が配置された(解析点の間に2つの温度保持点がある)例を示している。
【0075】
また、どの解析点を温度保持点に変更するかは、ステップS1306における解析点の決定結果を一旦画面に表示し、その表示に基づいて、ユーザがマウスやキーボードからの入力によって選択しても良い。また或は、外部や他部品との熱のやりとりがない部分を自動的に一つ置きに温度保持点とする等のルールに従って自動的に設定してもよい。
【0076】
こうして構築された計算モデルに基づいて、実際の伝熱計算が実行される。ステップS1309での計算は、分割時間Δtごとの過渡計算を1ステップとして繰り返し行なう。各ステップの計算は、静止した状態で、有限要素法や有限差分法などの数値計算手法を用いて行う。そして各ステップの計算が終了した後ステップS1310に進み、計算時間がステップS1305で決定した計算時間Tに達しているかどうかを判定し、達していれば計算を終了してステップS1314に進み、その結果を出力する。
【0077】
一方、ステップS1310で、計算時間に達していなければ、次のステップの計算を行う準備のためにステップS1311に進む。
【0078】
ここでは説明のために、時刻T0までの計算が終了し、時刻T0での温度分布が求まっているとする。まずステップS1311で、計算時刻をΔt進め、次の時刻T1=T0+Δtとする。次にステップS1312で、計算されずに前のステップから移動されたままの温度保持点の温度を、前ステップでの変化や前後の解析点の変化に基づいて補正する。次にステップS1313に進み、移動する部材の各解析点の温度を、移動方向側の隣の解析点に順次移動する。このとき時間Δtだけ進んだ位置に解析点がない場合には、その位置に割り当てられている温度保持点に解析点の温度を移す。同様に、温度保持点の温度もΔtだけ進んだ位置の解析点、或は温度保持点に移動する。こうすることにより、解析点及び温度保持点でモデルを変更せずに、時間Δtだけ進んだ状態の温度分布を求めることができる。
【0079】
図15は、このような温度移動のイメージ図を示している。
【0080】
点1501から1506は、温度の移動方向に配列した解析点(黒丸)及び温度保持点(白丸)を表わしている。解析点1501,1503,1506と、温度保持点1502,1504,1505が図のように配列しているとき、各計算ステップごとに解析点1501の温度を、矢印1507方向に沿って温度保持点1502に移動する。またこれと同時に、温度保持点1502の温度を解析点1503に移動し、解析点1503の温度を温度保持点1504に移動するという様に、順次、各点の温度を矢印方向1507の1つ前の点に移動する。この温度の移動は、計算上マトリクス演算により容易に実行できる。
【0081】
図16は、このマトリクス演算のイメージ図である。
【0082】
いまモデルの解析点の数をn個、温度保持点の数をm個とすると、解析点の温度ベクトル1602はn項、温度保持点の温度ベクトル1603はm項となる。そして、これらを連結した列ベクトル1604は(n+m)項になる。これに対して、次の時刻の温度列ベクトル1605を求めるには、ベクトル1604の各項を、進行方向の一つ先の解析点或は温度保持点に移動すればよい。これはどの計算ステップにおいても同じ処理である。またベクトル内の値を並べ替えるだけの処理である。よって、この処理は「1」と「0」からなる(n+m)×(n+m)のマトリクス1601の形で表わせる。このマトリクス1601を最初のモデル作成時に用意しておく。これにより、温度移動の処理の度にこのマトリクスを乗算するだけで、次ステップの初期温度状態を作ることができる。
【0083】
こうして移動が完了した温度分布を次のステップの初期状態としてステップ1309に戻り、時間Δtの過渡伝熱計算を行って、次の時刻T2=T1+Δtにおける温度分布を求める。こうして時刻Tに達するまで、ステップS1309〜S1313を繰り返す。そしてステップS1310で最終ステップに到達したら、ステップS1314で、計算結果をファイルとしてディスクなどの記憶装置(HD1111)に出力、又はディスプレイなどの表示部1110に出力して、この計算を終了する。
【0084】
ここでステップS1312での温度保持点の温度補正には、次の2つ場合が考えられる。
【0085】
まず移動中の補正については、その温度保持点に移動してくる直前の解析点での温度変化をそのまま引き継いで補正する。また直前の点が温度保持点である場合は、その点で使った温度変化をそのまま引き継ぐ。この方法のメリットは、補正計算が簡単であり、計算時間が短縮できることにある。
【0086】
図17は、この温度補正の適用例を説明する図である。尚、この図17は、構築された計算モデルの一部分を示したもので、解析点1701、温度保持点1702,1703が順に並んでおりこの順に温度を移動していく部分を取り出している。図17の上段は、時刻tの計算ステップ、下段はその次の時刻(t+Δt)の計算ステップでの温度変化量を示している。また、各解析点及び温度保持点から垂直に上に伸びる矢印は、各ステップでの温度上昇値を示している。
【0087】
時刻tでの計算の結果、解析点1701は温度ΔT1(t)だけ変化している。そしてこの温度が温度保持点1702に移動され、次のステップの計算が行なわれる。しかし、この温度保持点1702の温度は計算には使われないため、時刻(t+Δt)での温度保持点1702の温度補正には、時刻tでの解析点1701の温度変化量ΔT1(t)が用いられる。同様に、時刻tでの温度保持点1702の温度補正には、その前のステップ、即ち、時刻(t−Δt)での解析点1701の温度変化ΔT1(t-Δt)が用いられる。また時刻(t+Δt)では、温度保持点1703にも、時刻tでの温度保持点1702の温度変化量ΔT1(t-Δt)が利用される。また温度保持点から解析点へ移動する場合には、その解析点の温度が計算に利用されるため、その温度保持点からの温度変化がそのまま用いられる。
【0088】
一方、この補完が利用できないケース、例えば一回目の計算のステップや移動部材の停止状態などを計算する際には、温度保持点の前後の解析点の現ステップでの計算結果から、解析点の温度変化を線形補完等によって求めて補正する。
【0089】
図18は、この温度補正の適用例を説明する図である。
【0090】
図のように、解析点1801と1802との間に温度保持点1803がある場合を考える。いま計算による解析点1801の温度変化がΔT1、解析点1802の温度変化がΔT2とすると、温度保持点1803の温度変化は、線形補完により(ΔT1+ΔT2)/2で求められる。
【0091】
図13のステップS1307の温度保持点の設定は、計算時間や精度を決定する重要な部分になる。温度保持点を設定する判断基準としては、計算の出力として着目していない部分で、かつ境界条件による熱の出入りに急激な変化がないと判断できる部分が挙げられる。具体的には、境界条件が断熱や一定の熱流である接触領域に設定されていない、或は移動による急な条件変化がない等が挙げられる。これらの判断基準を基に、手作業で温度保持点を設定しても良い。或は、予めこれらの条件を設定しておくことにより、温度保持点を自動的に設定するようにしても良い。
【0092】
このように本実施の形態4では、有限要素法等の数値計算を、温度保持点を除いた解析点のみで実施している。このため温度保持点を用いずに全てを解析点として計算した場合に較べて自由度が減少し、各ステップにおける数値計算の量を節約できる。例えば、反復法等の演算を繰り返して収束判定を行なう手法では、自由度の減少による計算量の節約効果が大きくなる。一方、この実施の形態4では、温度保持点の補正計算が新たに必要になる。しかし、この補正計算は、前の時刻のステップでの温度変化量を記憶しておき、それを加える処理を、後続の各ステップで各温度保持点に対して一回ずつ実行すればよい。よって、全てを解析点として計算を行う場合に較べて計算負荷はかなり小さくなる。
【0093】
以下に本実施の形態4の具体例について説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるわけではなく、本発明の主旨の範囲内において、適宜変形又は組み合わせが可能であることはいうまでもない。ここでは前述の図7に示すような複写機の定着装置の場合で考える。
【0094】
最初に、シート材704及び両ローラ701,702の寸法と、各部材の材料、ヒータの輻射熱量、部材間の熱伝達範囲と熱抵抗の大きさ、計算する時間T、各解析点の計算開始時の初期温度等の条件を計算データに記述する。
【0095】
図19は、本実施の形態4に係る装置(コンピュータ機器)1100の表示部1110に表示される入力画面の一例を示す図である。
【0096】
この例では、表示部1110に表示されるウインドウの左側にローラ対の模式図が表示されている。いまウインドウの右側の入力欄で、上側の(図7では701)の「ローラ1」タブ1903が選択されているので、ローラ1901がハイライト表示されている。ここで各寸法の入力欄1902に、それぞれ対応する値を入力し、ヒータの熱量も入力欄1904に入力する。ローラ2(図7では702)についても同様な入力欄(不図示)があり、同じようにして数値が入力される。
【0097】
図20は、本実施の形態4に係る装置(コンピュータ機器)1100の表示部1110に表示されるシート材の入力画面の具体例を示す図である。この画面の構成は図19とほぼ同じである。
【0098】
ここでは「シート」タブ2002が選択されているため、シート材に関する情報を入力するための入力欄2001が表示されている。ここで、シートの長さ、厚さのほかに、ローラとのニップ幅、及び接触熱伝達係数も入力する。各部材の物性値については、個別に入力欄を設けることも可能であるが、ある程度構成の決まっているものであれば、予め物性値のデータベースを用意しておいて、そこから自動的に取得しても良い。
【0099】
こうして両ローラ(701,702)とシート材(704)に関するデータの入力が完了すると、メッシュ分割ボタン1905がクリックされる。これによりコンピュータ機器1100内部で、各部材の寸法を基に形状データを作成する。まずシート材704の速度がv1、温度変化を見るために最大必要な分割幅がΔxと入力された場合を考える。この場合のシート材704に対する時間差分の分割時間Δt1は、Δx/v1となる。次に加熱ローラ701の表面の速度をv2とし、かつその加熱ローラ701の温度変化をみるために最大必要な分割幅Δxは、シート材704と同じとすると、加熱ローラ701に対する時間差分の分割時間Δt2は、Δx/v2となる。更に、加圧ローラ702の表面の速度をv3とし、かつその加圧ローラ702の温度変化をみるために最大必要な分割幅Δxはシート材704と同じとする。この場合、加圧ローラ702に対する時間差分の分割時間Δt3は、Δx/v3となる。ここで、これら3つの分割時間Δt1,Δt2,Δt3を互いに比較し、最も小さい分割時間を、この系全体で用いる時間差分の微小時間Δtと定める。本実施の形態4の場合は、シート材704が両ローラ701,702に挟まれ、その回転による摩擦力で搬送されるため、全ての速度は同じと考えられる。よって、分割時間Δt1,Δt2,Δt3は全て同じになる。
【0100】
次にシート材704及び両ローラ701,702の表面の移動方向を、分割幅Δxで等分割する。この時、この実施例では既に両ローラ701,702の寸法が決まっているため、幅Δxで割り切れない場合も有り得る。この場合は、等分割にすることを優先し、等分割にした場合の分割幅が、この幅Δxに最も近い値をとるように分割数を調整する。
【0101】
図21は、以上の計算が終了した時点での画面出力例を示す図である。
【0102】
図の左側のローラ及びシート材の表示が、分割幅Δxに基づいて等分割されて表示されている。また右側の入力欄の表示は、ローラ701に相当する表示における複数の解析点の内、温度保持点として指定するための画面に変更されている。尚、この入力欄は、ローラ702及びシート材704に対しても、同様に温度保持点を指定するために表示される。この例では、そのままローラ701,702の全周に亘って幅Δxで解析点を設けるのではなく、詳細な計算が必要なニップ部分(ローラ701,702とシート材704の接触部分)以外の外周部分では、分割を粗くして計算負荷を軽減している。即ち、ニップ部分以外の外周部分では、解析点を一つ置きに温度保持点として指定し、残りを解析点に設定している。このような温度保持点の設定方法は、個別選択2103をチェックし、KB1109のマウスを使用して、左側に表示されている複数の解析点の中から、温度保持点に変更する解析点を選択する。こうして温度保持点に変更したい解析点を全て選択し終わると、温度保持点作成ボタン2107をクリックする。これにより、コンピュータ機器1100における格子点の再構築、即ち、解析点から温度保持点への変更が実行される。この際、温度保持点に指定された点が格子を生成する点にならないよう結合される。
【0103】
図22は、解析点を温度保持点に変更した結果を表示する表示例を示す図である。
【0104】
図22の左側には、解析点に基づいて新たに設定された新しい格子と、温度保持点2201とが表示される。これにより温度保持点が選択された外周部分で格子の密度が粗くなり、全体として格子の数(解析点の数)が減っている。またローラの同心円上に解析点及び温度保持点が並ぶ関係は保持されている。またウインドウの右側には、最初に入力した計算を行なう時間の入力欄2202が表示される。ここで計算時間を確認し、必要なら再入力し、計算開始ボタン2203をクリックすることで計算がスタートする。このときコンピュータ機器1100では、入力データの漏れや、有りえない値などが入力されていないかをチェックした後、有限要素法等の数値計算法の手法に従って、格子から計算用のマトリクスやベクトルを生成して計算の前準備を行なう。
【0105】
ここから1ステップの数値計算と温度の移動を交互に行なって計算を進めていく。この数値計算は、解析点から生成した格子に基づいて行ない、温度保持点のデータは使わない。ローラにおける温度移動については、分割幅Δxで等分割に並んでいる解析点及び温度保持点を合わせて、各々進行方向に間隔Δxの位置の点に温度を受け渡す。この時、温度保持点の温度は、そのままでは一つ前の解析点であって、一つ前のステップに計算された温度変化量のままになる。よって、一つ前のステップでの計算時の温度変化と同じ変化が今回のステップでもあったと考え、その温度変化量ΔTにより温度を補正してから次の解析点或は温度保持点に、その温度を引き渡す。尚、温度保持点から温度保持点へ移動した場合は、前の温度保持点でのΔTをもう一度適用する。更に、各ステップの計算から求まったΔTは、次のステップで温度保持点の補正に利用するため、別に保持しておく。これを繰り返して、時刻がTに達したら計算を終了し、計算の結果として、各ステップの温度分布や移動熱量をファイルに出力する。
【0106】
以上説明したように本実施の形態5によれば、部材が移動しながら熱境界条件が変化していく系における熱的挙動も、高精度かつ高速に解析することができる。
【0107】
また単独或は複数の部材で構成され、かつ各部材内部及び部材間に熱の移動があり、かつ部材が移動しながら熱境界条件が変化していくような系からなる装置の熱的挙動であっても、計算対象を微小領域に分割して近似的に表わし、かつ時間微分を差分近似することによって、移動する部材を含む系における熱伝達をより少ない計算負荷で計算できる。
【0108】
[実施の形態5]
次に本発明の実施の形態5について説明する。尚、この実施の形態5では、前述の実施の形態4と同じ定着器のモデルを考える。またこの実施の形態5に係る加熱装置の構成は前述の実施の形態1の場合と同様であり、実施の形態5に係る伝熱解析を実行する装置(コンピュータ機器)1100のハードウェア構成は前述の図11と同じであるため、その説明を省略する。
【0109】
この実施の形態5では、移動する部材の動作シーケンスで停止している時間があるというケースを計算する場合を考える。この場合、図13に示すステップS1301からS1308までは実施の形態4と同じなので割愛する。
【0110】
図23は、本発明の実施の形態5に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートで、前述の図13のステップS1308以降の処理ステップを示している。尚、図13と共通する処理には同じ記号を示している。
【0111】
ステップS2301では、計算の前に新たに追加される回転と停止の条件を入力する。次にステップS1309で、1ステップの最初の計算を行ない、計算が終了するとステップS1310で、これが最終ステップであるかどうか判定する。最終ステップでないときはステップS1311に進み、時刻をΔtだけ進める。次にステップS2302で、次のステップで、対象部材が回転しているか、停止しているかを判定する。これはステップS2301で入力された回転と停止の条件に基づいて判定される。ここで回転していると判断した場合は前述の図13と同様に、ステップS1312に進んで温度保持点の温度を補正し、ステップS1313で温度の移動を行う。
【0112】
一方、ステップS2302で、回転が停止していると判断した場合はステップS2303に進み、温度保持点の温度の補正のみを行ない、温度の移動を行わずに次の計算へ進む。回転が停止していると判断した場合には、まず温度保持点の補正方法を変える必要がある。この停止状態が長く続くような場合、前ステップの温度変化を引き継いだままでは誤差がどんどん増えていく可能性が大きい。また、計算開始の時点で停止状態になっている場合には、前ステップでの温度変化自体が存在しない。そこで、このような場合には、その温度保持点の前後にある解析点における、現ステップでの温度変化量から空間的に補正した値を用いて補正する。例えばある解析点の中間に温度保持点がある場合、その点の温度変化ΔTは、前後の解析点の温度変化をΔT1,ΔT2とすると、(ΔT1+ΔT2)/2となる(図18参照)。この後、ステップS1313をスキップして、即ち、温度移動を行わずにステップS1309に進んで、次のステップの計算を行うことで、停止状態を表現することができる。
【0113】
以上説明したように本実施の形態5によれば、部材が移動及び停止しながら熱境界条件が変化していく系における熱的挙動も高精度かつ高速に解析することができる。
【0114】
[実施の形態6]
次に本発明の実施の形態6について説明する。この実施の形態6では、図13の行程のステップS1307にある等分割により作られた解析点から温度保持点を選び出す作業において、図24のような手順による自動化を考える。
【0115】
図24は、本実施の形態6に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートで、前述の図13のステップS1307,S1308の処理ステップを示している。
【0116】
まずステップS2401で、判定基準の指定として、温度移動を適用している解析点の内、どのような条件の解析点を温度保持点に変更するか、その条件を指定する。温度保持点に変更することにより計算を省略、或は補正に置き換えられるので、次のような条件が考えられる。
【0117】
・他部品との接触部分以外の部分
・境界条件が断熱や、ゆるやかな放熱、一定な熱流である等、部材の進行方向において大きく条件が変化しない部分
・その他、極端な条件変化がない部分(ニップ出口直後など)
また、どの程度の間隔で解析点を温度保持点に変更するのかも指定する。
【0118】
これらの条件を設定しておき、ステップS2402で、その条件を基に該当する領域を抽出する。条件設定の入力画面例は図21に示すようになる。この実施の形態6では、接触域外2101と倍率2102とをチェックした場合を考える。
【0119】
図25は、その結果を説明する図である。
【0120】
ローラ2501とシート材2502が接触するモデルで、ニップ部には接触熱抵抗2503が設定されている。図において、黒丸は、ステップS1306で得られた、等分割された解析点を示す。この形状の場合、ローラ2501の外周のニップ以外の領域が条件を満たしており、図左側の領域2504が温度保持点を指定する領域として認識される。
【0121】
この領域2504に対し、一つおきの間隔で解析点を温度保持点(2505の白丸)に変更する。残った解析点から格子を生成した例が図25の右側に示されている(ステップS2403)。
【0122】
この実施の形態6では、モデルの格子が一層だけであるが、ローラの内部が何層か放射状に分割されている場合は、それぞれの温度移動する解析点のグループに対しても表層と同様な間隔で温度保持点を設定できることは言うまでもない。
【0123】
このように本実施の形態6によれば、解析点を自動的に温度保持点に変更して解析格子を作成し、それに従って熱伝達を解析できる。
【0124】
なお本発明は、前述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを、システム或いは装置に直接或いは遠隔から供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータが、その供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。その場合、プログラムの機能を有していれば、その形態はプログラムである必要はない。従って、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明には、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等、プログラムの形態を問わない。
【0125】
プログラムを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO,CD−ROM,CD−R,CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM,DVD(DVD−ROM,DVD−R)などがある。その他のプログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続し、該ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記憶媒体にダウンロードすることによっても供給できる。また本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることによっても実現可能である。つまり本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明のクレームに含まれるものである。
【0126】
また、本発明のプログラムを暗号化してCD−ROM等の記憶媒体に格納してユーザに配布し、所定の条件を満足するユーザに対してインターネットを介してホームページから暗号化を解く鍵情報をダウンロードさせ、その鍵情報を使用することにより暗号化されたプログラムを実行してコンピュータにインストールさせて実現することも可能である。
【0127】
またコンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施形態の機能が実現される他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部又は全部を行ない、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現され得る。
【0128】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行ない、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の実施の形態に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートである。
【図2】速度Vで移動する部材の温度移動を説明する概念図である。
【図3】温度ベクトルT0からTnまでの解析点を持つ、例えばローラのような回転部材におけるマトリクス演算(温度移動)の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るシート材の加熱装置の構成を説明する概念図である。
【図5】図4に示す各部材を分割した各分割領域ごとの伝熱をモデル化して説明する図である。
【図6】温度ベクトルT0からTnまでの解析点を持つ移動部材におけるマトリクス演算(温度移動)の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る加熱装置を説明する概念図である。
【図8】図7に示す各部材を分割した各分割領域ごとの伝熱をモデル化して説明する図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る計算処理を説明するフローチャートである。
【図10】従来の手法による一次元で等間隔に並ぶ解析点のモデルを説明する図である。
【図11】本実施の形態に係る伝熱解析を実行する装置(コンピュータ機器)のハードウェア構成を説明するブロック図である。
【図12】本実施の形態に係るコンピュータ機器のRAMのメモリマップを示す図である。
【図13】本実施の形態4に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートである。
【図14】本実施の形態4に係る温度保持点のイメージを説明するための説明図である。
【図15】本実施の形態4における温度移動のイメージ図を示している。
【図16】本実施の形態4におけるマトリクス演算のイメージ図である。
【図17】本実施の形態4における温度補正の適用例を説明する図である。
【図18】本実施の形態4における温度補正の適用例を説明する図である。
【図19】実施の形態4に係る入力画面の一例を示す図である。
【図20】本実施の形態4に係る装置の表示部に表示されるシート材の入力画面の具体例を示す図である。
【図21】実施の形態4において温度保持点の設定による計算が終了した時点での画面出力例を示す図である。
【図22】実施の形態4における解析点を温度保持点に変更した結果を表示する表示例を示す図である。
【図23】本発明の実施の形態5に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートである。
【図24】本発明の実施の形態6に係る伝熱解析処理の概要を説明するフローチャートである。
【図25】実施の形態6に係るモデル構築の結果を説明する図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析方法であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する工程と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する工程と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する工程と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する工程と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割工程と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する工程と、
前記分割工程で決定された前記分割時間毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算工程と、
前記計算工程による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算工程を繰り返し実行するように制御する制御工程と、
を有することを特徴とする伝熱解析方法。
【請求項2】
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析方法であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する工程と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する工程と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する工程と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する工程と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割工程と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する工程と、
前記分割工程で分割された分割領域のうち、伝熱計算の対象となる分割領域を選択する選択工程と、
前記選択工程で選択された前記分割領域毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算工程と、
前記計算工程での計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算工程を繰り返し実行するように制御する制御工程と、
を有することを特徴とする伝熱解析方法。
【請求項3】
入力した前記複数の部材の移動速度がそれぞれ異なる場合、最も早い移動速度を前記分割時間を決定するための移動速度とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の伝熱解析方法。
【請求項4】
前記分割工程では、前記分割時間と前記移動速度との積で、対応する部材の長さを等分割できない場合、前記積よりも大きくかつ前記積に最も近い等分割可能な分割長を決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の伝熱解析方法。
【請求項5】
前記計算工程では、前記部材が静止した状態であるとみなし、有限要素法或いは有限差分法を用いて前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なうことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の伝熱解析方法。
【請求項6】
前記移動する部材が移動しているか否かを示すタイミングデータを入力する工程を更に有し、
前記制御工程では、前記タイミングデータに応じて、前記計算工程による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とすることなく前記計算工程を繰り返し実行するように制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の伝熱解析方法。
【請求項7】
前記選択工程では、前記部材同士が接触している領域、或は前記境界条件が変化する領域の分割領域を選択することを特徴とする請求項2に記載の伝熱解析方法。
【請求項8】
前記選択工程で選択されなかった分割領域では、直前の分割時間において前記計算工程で計算された温度情報を、前記部材の移動方向の上流側に隣接する分割領域から受け取り、当該移動方向の下流側に隣接する分割領域に前記温度情報を受け渡すことを特徴とする請求項2又は7に記載の伝熱解析方法。
【請求項9】
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析装置であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する手段と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する手段と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する手段と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と前記移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を設定する手段と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割手段と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する手段と、
前記分割手段で決定された前記分割時間毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算手段と、
前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算手段を繰り返し実行するように制御する制御手段と、
を有することを特徴とする伝熱解析装置。
【請求項10】
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析装置であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する手段と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する手段と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する手段と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する手段と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割手段と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する手段と、
前記分割手段で分割された分割領域のうち、伝熱計算の対象となる分割領域を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された前記分割領域毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算手段と、
前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算手段を繰り返し実行するように制御する制御手段と、
を有することを特徴とする伝熱解析装置。
【請求項11】
入力した前記複数の部材の移動速度がそれぞれ異なる場合、最も早い移動速度を前記分割時間を決定するための移動速度とすることを特徴とする請求項9又は10に記載の伝熱解析装置。
【請求項12】
前記分割手段は、前記分割時間と前記移動速度との積で、対応する部材の長さを等分割できない場合、前記積よりも大きくかつ前記積に最も近い等分割可能な分割長を決定することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の伝熱解析装置。
【請求項13】
前記計算手段は、前記部材が静止した状態であるとみなし、有限要素法或いは有限差分法を用いて前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なうことを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の伝熱解析装置。
【請求項14】
前記移動する部材が移動しているか否かを示すタイミングデータを入力する手段を更に有し、
前記制御手段は、前記タイミングデータに応じて、前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とすることなく前記計算手段を繰り返し実行するように制御することを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の伝熱解析装置。
【請求項15】
前記選択手段では、前記部材同士が接触している領域、或は前記境界条件が変化する領域の分割領域を選択することを特徴とする請求項10に記載の伝熱解析装置。
【請求項16】
前記選択手段で選択されなかった分割領域では、直前の分割時間において前記計算手段で計算された温度情報を、前記部材の移動方向の上流側に隣接する分割領域から受け取り、当該移動方向の下流側に隣接する分割領域に前記温度情報を受け渡すことを特徴とする請求項10又は15に記載の伝熱解析装置。
【請求項17】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の伝熱解析方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項18】
請求項17に記載のプログラムを記憶したことを特徴とする、コンピュータにより読取り可能な記憶媒体。
【請求項1】
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析方法であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する工程と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する工程と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する工程と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する工程と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割工程と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する工程と、
前記分割工程で決定された前記分割時間毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算工程と、
前記計算工程による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算工程を繰り返し実行するように制御する制御工程と、
を有することを特徴とする伝熱解析方法。
【請求項2】
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析方法であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する工程と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する工程と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する工程と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する工程と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割工程と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する工程と、
前記分割工程で分割された分割領域のうち、伝熱計算の対象となる分割領域を選択する選択工程と、
前記選択工程で選択された前記分割領域毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算工程と、
前記計算工程での計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算工程を繰り返し実行するように制御する制御工程と、
を有することを特徴とする伝熱解析方法。
【請求項3】
入力した前記複数の部材の移動速度がそれぞれ異なる場合、最も早い移動速度を前記分割時間を決定するための移動速度とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の伝熱解析方法。
【請求項4】
前記分割工程では、前記分割時間と前記移動速度との積で、対応する部材の長さを等分割できない場合、前記積よりも大きくかつ前記積に最も近い等分割可能な分割長を決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の伝熱解析方法。
【請求項5】
前記計算工程では、前記部材が静止した状態であるとみなし、有限要素法或いは有限差分法を用いて前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なうことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の伝熱解析方法。
【請求項6】
前記移動する部材が移動しているか否かを示すタイミングデータを入力する工程を更に有し、
前記制御工程では、前記タイミングデータに応じて、前記計算工程による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とすることなく前記計算工程を繰り返し実行するように制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の伝熱解析方法。
【請求項7】
前記選択工程では、前記部材同士が接触している領域、或は前記境界条件が変化する領域の分割領域を選択することを特徴とする請求項2に記載の伝熱解析方法。
【請求項8】
前記選択工程で選択されなかった分割領域では、直前の分割時間において前記計算工程で計算された温度情報を、前記部材の移動方向の上流側に隣接する分割領域から受け取り、当該移動方向の下流側に隣接する分割領域に前記温度情報を受け渡すことを特徴とする請求項2又は7に記載の伝熱解析方法。
【請求項9】
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析装置であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する手段と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する手段と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する手段と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と前記移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を設定する手段と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割手段と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する手段と、
前記分割手段で決定された前記分割時間毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算手段と、
前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算手段を繰り返し実行するように制御する制御手段と、
を有することを特徴とする伝熱解析装置。
【請求項10】
複数の部材間での熱伝導を解析する伝熱解析装置であって、
前記部材の形状及び寸法を入力する手段と、
前記部材の物性値及び境界条件を入力する手段と、
前記複数の部材の内、移動する部材を指示するデータと当該部材の移動速度を入力する手段と、
上記複数の部材のそれぞれの最小分割幅と移動速度とに基づいて、前記各部材を分割した領域ごとの分割時間を決定する手段と、
前記分割時間と前記移動速度とに基づいて前記各部材を等分割する分割領域の分割長を決定する分割手段と、
前記複数の部材のそれぞれの初期条件及び計算時間を入力する手段と、
前記分割手段で分割された分割領域のうち、伝熱計算の対象となる分割領域を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された前記分割領域毎に前記複数の部材のそれぞれの前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なう計算手段と、
前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とし、前記計算時間が経過するまで前記計算手段を繰り返し実行するように制御する制御手段と、
を有することを特徴とする伝熱解析装置。
【請求項11】
入力した前記複数の部材の移動速度がそれぞれ異なる場合、最も早い移動速度を前記分割時間を決定するための移動速度とすることを特徴とする請求項9又は10に記載の伝熱解析装置。
【請求項12】
前記分割手段は、前記分割時間と前記移動速度との積で、対応する部材の長さを等分割できない場合、前記積よりも大きくかつ前記積に最も近い等分割可能な分割長を決定することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の伝熱解析装置。
【請求項13】
前記計算手段は、前記部材が静止した状態であるとみなし、有限要素法或いは有限差分法を用いて前記分割長単位の過渡伝熱計算を行なうことを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の伝熱解析装置。
【請求項14】
前記移動する部材が移動しているか否かを示すタイミングデータを入力する手段を更に有し、
前記制御手段は、前記タイミングデータに応じて、前記計算手段による計算結果を前記部材の移動方向に隣接する前記分割領域の初期値とすることなく前記計算手段を繰り返し実行するように制御することを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の伝熱解析装置。
【請求項15】
前記選択手段では、前記部材同士が接触している領域、或は前記境界条件が変化する領域の分割領域を選択することを特徴とする請求項10に記載の伝熱解析装置。
【請求項16】
前記選択手段で選択されなかった分割領域では、直前の分割時間において前記計算手段で計算された温度情報を、前記部材の移動方向の上流側に隣接する分割領域から受け取り、当該移動方向の下流側に隣接する分割領域に前記温度情報を受け渡すことを特徴とする請求項10又は15に記載の伝熱解析装置。
【請求項17】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の伝熱解析方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項18】
請求項17に記載のプログラムを記憶したことを特徴とする、コンピュータにより読取り可能な記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2006−234805(P2006−234805A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19769(P2006−19769)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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