説明

伝送路変換器

【課題】 加工バラツキなどによる特性のバラツキが生じても、設計周波数にて確実に動作する伝送路変換器を高歩留まりにて提供する。
【解決手段】 マイクロストリップ線路からなる給電線パターン15に接続された導波管励振アンテナ18を、片端が短絡された導波管の短絡位置から所定間隔s(≒λgw/4)だけ離れた位置に挿入する。また、給電線パターン15は、上面基板露出部13の長辺方向(Y軸方向)の中心からずれ量dだけY軸方向に外れた位置に配設され、誘電体基板10の上面グランドパターン14は、基板露出部13の長辺に沿った一方の境界部分が導波管の固定部位より突出量pだけ導波管の中空部側に突出するように形成されている。これら突出量p及びずれ量dを、MSL−WG変換器の反射特性に二つの共振点を生じ広い動作周波数帯域が得られるような大きさに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体基板上に形成された平面線路と導波管とを接続する伝送路変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量高速通信や自動車レーダなどにおいて、ミリ波を用いた各種システムの開発が進められている。このようなミリ波システムの実現に必要な要素技術の一つとして、導波管とマイクロストリップ線路等の誘電体基板上に形成された平面線路とを接続し、導波管により伝送される電力と平面線路により伝送される電力とを相互に変換する伝送路変換器が知られている。
【0003】
具体的には、導波管を、誘電体基板を挟んで一体に固定される短絡用部分導波管と伝送用部分導波管とで構成し、これら両部分導波管を、誘電体基板に形成されたストリップ線路の先端(開放端)が、導波管の内部に位置するように配置し、これにより導波管内に突出したストリップ線路の先端を、導波管励振用アンテナとして用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−261312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ミリ波を扱うシステムでは、システムを構成する各構成部品が非常に小さなものとなるため、装置を小型化ができる反面、部品製造時や部品組立時の加工バラツキにより、特性のばらつきが生じやすい。
【0005】
しかも、上述した伝送路変換器は一般的に動作周波数帯域が狭いため、製造時や部品組立時の加工バラツキ等によって動作周波数帯域がばらつくと、伝送すべき信号の周波数(設計周波数)が、動作周波数帯域から外れてしまい、設計周波数にて必要な性能を得ることができない場合があるという問題があった。
【0006】
これに対して、加工バラツキを小さくすることが考えられるが、そのためには、部品製造や部品組立を非常に高い加工精度で行うことが要求され、膨大な手間とコストを要するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するために、加工バラツキなどによる特性のバラツキが生じても、設計周波数にて確実に動作する伝送路変換器を高歩留まりにて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の伝送路変換器は、誘電体基板上に形成される平面線路と、一端が短絡された導波管と、前記平面線路に接続されると共に前記導波管の短絡端から予め設定された所定間隔だけ離れた前記導波管内部のアンテナ設定位置に配置される導波管励振アンテナとを備えている。
【0009】
そして、導波管励振アンテナの先端部とその先端部に対向する導波管の内壁との間隔が予め設定された設定長となるように、前記アンテナ設定位置での導波管の内部空間の断面形状を整形する整形用グランド板を設けると共に、前記導波管励振アンテナを、前記導波管の中心から予め設定されたずれ量だけ外れた位置に配置している。
【0010】
このように構成された本発明の伝送路変換器では、導波管を伝搬する高周波が短絡端で反射することにより、導波管内に定在波が生じる。そして、この定在波の腹の部分がアンテナ設定位置となるように導波管励振アンテナを配置することにより、導波管を伝搬する電力は 平面線路を伝搬する電力へと効率良く変換され、また、その逆も同様に効率良く変換される。
【0011】
また、本発明の伝送路変換器では、設定長およびずれ量を調整することにより、導波管励振アンテナや導波管のインピーダンスが変化し、ひいては、導波管と平面線路との間の変換特性(特に反射特性)が変化する。具体的には、反射特性において共振点を二つ発生させること、及び、その二つの共振点間の周波数幅を適宜調整することが可能となる。
【0012】
つまり、伝送路変換器では、反射特性に現れる共振点を中心として、反射量が予め設定された閾値以下となる周波数領域を動作周波数領域とするため、二つの共振点を発生させ、その共振点を中心とする二つの動作周波数領域が一体となった反射特性が得られるように、設定長及びずれ量を調整することにより、広い動作周波数帯域を実現することができるのである。なお、ここで言う反射特性は、導波管の短絡端に向けて入力した高周波と、その反射波との入出力電力比のことを表す。
【0013】
そして、伝送路変換器が広い動作周波数帯域を有することにより、設計周波数に対する動作周波数領域のシフト、即ち、加工バラツキ等に基づく反射特性のバラツキの許容範囲が広がるため、加工精度を向上させるという膨大な手間とコストを要する手法を使用しなくても、設計周波数にて確実に動作する伝送路変換器を高歩留まりにて提供することができる。
【0014】
また、換言すれば、動作周波数領域がシフトしないように高い加工精度で製造することが可能である場合には、設計周波数帯を広く設定することができるため、広帯域を用いた高速通信に好適な伝送路変換器を提供することができる。
【0015】
ところで、導波管として、断面形状が長方形の方形導波管を用いた場合、その長方形の長辺を形成する一対の導波管壁面のうち、一方の側から導波管内に向けて導波管励振アンテナを挿入し、他方の側から整形用グランド板を延設すると共に、導波管励振アンテナの配置は、導波管の長辺方向の中心から外れるように構成することが望ましい。
【0016】
この場合、整形用グランド板の突出量を調整することにより、設定長(導波管励振アンテナの先端部とその先端部に対向する導波管の内壁との間隔)を調整することができる。
ここで、図6(a),図7(a)は、反射特性における共振周波数を計算(シミュレーション)と実験とにより求めた結果を示したグラフである。但し、図6(b),図7(b)に示すように、整形用グランド板の突出量をp、導波管励振アンテナのずれ量をdとして、方形導波管の長辺が3.1mm、短辺が1.55mmのもの(EIA規格WR−12)を使用し、導波管励振アンテナの長さ(長辺に沿った壁面からの突出量)lを0.7mmとして求めたものである。
【0017】
図6に示すように、ずれ量をd=0.45mmに固定して突出量pを変化させた場合、突出量pをある程度大きく(即ち、設定長をある程度小さく)すると、二つの共振点が現れ、突出量pを更に大きくすると、二つの共振点間の周波数幅が広がる。また、図7に示すように、突出量をp=0.5mmに固定してずれ量dを変化させた場合、すこしずらしただけで共振点が二つ発生し、ずれ量dを更に大きくしていくと、二つの共振点間の周波数幅が狭くなり、共振点が一つになることがわかる。
【0018】
これらの測定結果からわかるように、整形用グランド板の突出量pは、0.48mm〜0.56mmの範囲、即ち、導波管の短辺方向の内寸の30〜40%程度であることが望ましく、また、導波管励振アンテナのずれ量dは、0.30mm〜0.45mmの範囲、即ち、導波管の長辺方向の内寸の10〜15%程度であることが望ましい。
【0019】
また、二つの共振点間の周波数幅は、ずれ量dを調整する方が突出量pを調整するより変化の割合が小さく、より細かな調整が可能となるため、簡易的な調整方法としては、まず、共振点が二つ発生するように突出量pを調整し、その後、ずれ量dを調整することで、二つの共振点間の周波数幅を最適化することが考えられる。
【0020】
次に、アンテナ設定位置を規程する所定間隔は、定在波の腹となる位置であればよいため、導波管内波長をλとして、λ/4+n×λ/2とすればよい。但し、伝送路変換器の小型化のためには、導波管が必要最小限の大きさとなること、即ち、所定間隔は、伝送信号の導波管内波長の1/4であることが望ましい。但し、必ずしも正確に1/4である必要はない。
【0021】
また、平面線路は、例えば、スロット線路、コプレナ線路、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、トリプレート型の線路など、誘電体基板上に形成されるものであれば何でもよいが、特に、構造が簡単なマイクロストリップ線路であることが望ましい。
【0022】
ところで、導波管励振アンテナが、平面線路と共に誘電体基板上に形成されている場合、導波管は、誘電体基板を挟んで一体に固定される短絡用部分導波管と伝送用部分導波管とで構成し、平面線路の形成面に固定される一方の部分導波管には、誘電体基板への固定端に、平面線路を通過させるための切欠きを形成し、更に、誘電体基板の両面には、短絡導波管及び伝送用導波管を固定する部位に、互いに導通する一対のグランド板を設け、これら一対のグランド板のうち、導波管励振アンテナの形成面に形成された側のグランド板が、整形用グランド板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
つまり、伝送路変換器の変換特性(反射特性ひいては動作周波数帯域)は、図6に示すように、整形用グランド板の突出量、換言すれば導波管励振アンテナの先端から整形用グランド板までの間隔(設定長)に依存して大きく変化するため、安定した変換特性を得るためには、アンテナ設定位置における導波管の内部空間の断面形状が常に一定となるように、部分導波管を高い精度で誘電体基板に組み付ける必要がある。
【0024】
これに対して、本発明の伝送路変換器によれば、グランド板が整形用グランド板を兼ねているため、部分導波管の固定位置(部品組立精度)がばらつくことにより、整形用グランド板を突出させた側で、部分導波管の位置が内部空間側に多少ずれて固定されたとしても、導波管励振アンテナと整形用グランド板との間隔(設定長)は全く変化しないため、安定した変換特性を得ることができる。
【0025】
なお、誘電体基板の両面に形成される一対のグランド板は、導波管の内部空間を形成する部位を囲うように配置された複数のスルーホールを介して導通していることが望ましい。
【0026】
この場合、部分導波管に挟まれた誘電体基板からの電磁界の漏出を抑制できるため、伝送路変換器の変換効率が低下してしまうことを防止できる。
なお、上記発明では、整形用グランド板を設け、且つ導波管励振アンテナを、導波管の中心から外れた位置に配置するものとして説明したが、本発明は、導波管励振アンテナを導波管の中心(ずれ量がゼロ)に配置したもの、即ち、整形用グランド板を設けことのみを特徴とするものであってもよい。
【0027】
即ち、導波管励振アンテナのずれ量がゼロであっても、整形用グランド板によって、導波管励振アンテナの先端部と、その先端部に対向する導波管の内壁との間隔を調整することで、反射特性に二つの共振点を発生させ、しかも、その共振点間の周波数幅を調整することができるため、上記発明と同様に、広い動作周波数帯域を実現することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明が適用されたマイクロストリップ線路−導波管変換器(以下、「MSL−WG変換器」と称する。)の構造を示す斜視図、図2は、図1中に点線で示したy−z平面の断面を、図1中の手前方向から見た断面図、図3は、図2におけるA−A断面図である。但し、図2,3において、誘電体基板の厚さや誘電体基板上に形成されたパターンの厚さは、図面を見易くして構造を理解し易くするために、実際のものより強調(厚く)して示している。
【0029】
図1乃至図3に示すように、MSL−WG変換器1は、導電性材料(例えば金属薄膜等)からなるパターンが両面に形成された誘電体基板10と、誘電体基板を挟んで固定される短絡用部分導波管20a及び伝送用部分導波管20bからなる導波管20とを備えている。
【0030】
このうち、導波管20は、一端が短絡し他端が開放された断面長方形の方形導波管を、予め設定された所定間隔sだけ離れた位置で切断した形状を有している。なお、これら二つの部分導波管のうち、短絡端を含む側が短絡用部分導波管20a、他方の側が伝送用部分導波管20bである。また、本実施形態において、所定間隔sは、伝送信号(設計周波数)の導波管管内波長(以下単に「管内波長」と称する。)をλgwとして、s≒λgw/4となるように設定されている。
【0031】
また、短絡用部分導波管20aには、誘電体基板10上に形成された後述する給電線パターン15と接触することがないように、誘電体基板10への固定端に切欠部21が形成されている。
【0032】
ここで、図4は、(a)が誘電体基板10を短絡用部分導波管20aの固定側から見た上面図、(b)が誘電体基板10を伝送用部分導波管20bの固定側から見た下面図である。
【0033】
図4(b)に示すように、誘電体基板10の下面には、導波管20の中空部に対応する長方形の部位(下面基板露出部)11を除く全面に、グランド板としての下面グランドパターン12が形成されている。
【0034】
また、図4(a)に示すように、誘電体基板10の上面において、導波管20が固定される部位の周辺(以下「導波管固定部」と称する。)10aには、導波管20の中空部に相当する長方形の部位(上面基板露出部)13を除くほぼ全面に、グランド板としての上面グランドパターン14が形成され、また、導波管固定部10a以外の部位(以下「給電線配線部」と称する。)10bには、下面グランドパターン12と共にマイクロストリップ線路を構成し、上面基板露出部13の短辺方向(以下「Z軸方向」とも称する。)に沿って配線された給電線パターン15が形成されている。
【0035】
なお、短絡用部分導波管20aを誘電体基板10に固定した際に、短絡用部分導波管20aの切欠部21に対応する誘電体基板10上の部位には、上面基板露出部13と給電線配線部10bの基板露出部16とが上面グランドパターン14によって遮られることなく、互いに連通するように、上面グランドパターン14が形成されていない連通部17が設けられており、この連通部17を介して、給電線パターン15は上面基板露出部13内に至るように配線されている。そして、上面基板露出部13内に突出した給電線パターン15の先端部分が、導波管励振アンテナ18を形成するようにされている。
【0036】
但し、給電線パターン15は、上面基板露出部13の長辺方向(Y軸方向)の中心ではなく、この中心から、予め設定されたずれ量dだけY軸方向に外れた位置に配設されている。
【0037】
また、上面グランドパターン14は、上面基板露出部13の長辺に沿った部分のうち、連通部17が形成された側とは反対側の部分が、導波管20の固定部位より予め設定された突出量pだけ導波管20の中空部側に突出して形成されている。以下では、この突出部位、即ち、図中点線で区切られた上面グランドパターン14の一部をグランドはみ出し部14aとも称する。
【0038】
このグランドはみ出し部14aは、誘電体基板10の上面(以下「アンテナ設定位置」とも称する。)における導波管20中空部の断面形状を整形(制限)するものであり、グランドはみ出し部14aを設けることによって、導波管励振アンテナ18の先端と、上面グランドパターン14との設定長gが短くなるようにされている。
【0039】
なお、グランドはみ出し部14aの突出量pと、導波管励振アンテナ18のずれ量dとは、MSL−WG変換器1の反射特性に二つの共振点が発生し、しかも、各共振点を中心とした反射特性が良好な周波数領域(反射量が予め設定された閾値以下の周波数領域)が一体となるような大きさに設定され、即ち、広い動作周波数帯域が得られるように設定されている。
【0040】
なお、導波管20内において、導波管励振アンテナ18のX軸方向における配置位置(アンテナ設定位置)での局所的な電界と磁界との比は、Y軸方向の中心で高く、その中心から離れるに従って低くなる。つまり、導波管励振アンテナ18をY軸方向の中心からずらすと、導波管20の特性インピーダンスは、導波管励振アンテナ18をY軸方向の中心に配置した場合(数百Ω程度)より低下することになるため、マイクロストリップ線路の特性インピーダンス(59.5Ω)を有する給電線パターン15との整合も取り易くなる。
【0041】
また、下面グランドパターン12と上面グランドパターン14とは、下面基板露出部11及び上面基板露出部13とグランドはみ出し部14aとからなる部分を囲うように配置された複数のスルーホール19によって、互いに導通するように構成されている。
【0042】
このスルーホール19の配置間隔は、上面グランドパターン14と下面グランドパターン12との間からの電磁界の漏洩が効果的に抑制されるように、伝送信号の基板内波長をλpとして、使用周波数の電波がカットオフになるλp/2以下となるように設定されている。
【0043】
そして、短絡用部分導波管20aは、その中空部が上面基板露出部13とグランドはみ出し部14aとからなる長方形部分と一致するように、上面グランドパターン14上にハンダ付け等によって固定され、また、伝送用部分導波管20bは、その中空部分が下面基板露出部11と一致するように、下面グランドパターン12上にハンダ付け等によって固定される。
【0044】
なお、図4(a)中の一点鎖線は、誘電体基板10に固定された短絡用部分導波管20aの外周の位置を示すものであり、また、図4(b)中の一点鎖線は、誘電体基板10に固定された伝送用部分導波管20bの外周の位置を示すものである。
【0045】
このように構成されたMSL−WG変換器1は、マイクロストリップ線路(MSL)からなる給電線パターン15に接続された導波管励振アンテナ18を、片端が短絡された導波管20の短絡位置から所定間隔s(≒λgw/4)だけ離れた位置(アンテナ設定位置)に挿入した構造を有することになる。
【0046】
このため、導波管20を伝搬し短絡端で反射した高周波が導波管20内で定在波を発生させ、その腹の部分に導波管励振アンテナ18が位置することになるため、導波管を伝搬する電力は 平面線路を伝搬する電力へと効率良く変換され、また、その逆も同様に効率良く変換される。
【0047】
また、MSL−WG変換器1は、グランドはみ出し部14aの突出量pと、導波管励振アンテナ18のずれ量dとが、広い動作周波数帯域が得られるような大きさに設定されている。このように広い動作周波数帯域を有することにより、設計周波数に対する動作周波数領域のシフト、即ち、加工バラツキ等に基づく反射特性のバラツキの許容範囲が広がるため、加工精度を向上させるという膨大な手間とコストを要する手法を使用しなくても、設計周波数にて確実に動作するMSL−WG変換器1を高歩留まりにて提供することができる。
【0048】
また、動作周波数領域がシフトしないように、高い加工精度で製造することが可能である場合には、設計周波数帯を広く設定することができるため、広帯域を用いた高速通信に好適なMSL−WG変換器1を提供することができる。
【0049】
更に、MSL−WG変換器1では、グランドはみ出し部14aが、導波管励振アンテナ18と共に、誘電体基板10上に予め形成されている。このため、グランドはみ出し部14a側で、部分導波管20a,20bの固定位置が内部空間側に多少ずれて固定されたとしても、導波管励振アンテナ18とグランドはみ出し部14aとの間隔(設定長)gは全く変化することがなく、即ち、加工バラツキによって変換特性(反射特性)が大きく劣化してしまうことがないため、安定した変換特性を得ることができる。
【0050】
また、MSL−WG変換器1では、上面グランドパターン14と下面グランドパターン12とを導通させる複数のスルーホール19が、導波管20の中空部に対応する部分、即ち、上面基板露出部13とグランドはみ出し部14aとからなる長方形部分、及び下面基板露出部11からなる長方形部分を包囲するように配置されている。このため、誘電体基板10を介して電磁界が漏洩すること、ひいては、MSL−WG変換器1での変換効率が漏れ損失によって低下してしまうことを防止することができる。
【0051】
なお、本実施形態において、下面グランドパターン12と共にマイクロストリップ線路を構成する給電線パターン15が平面線路、グランドはみ出し部14aが整形用グランド板、下面グランドパターン12及び上面グランドパターン14が一対のグランド板に相当する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例について説明する。
導波管20として、EIA規格WR−12の方形導波管(長辺内寸a=3.099mm,短辺内寸b=1.550mm)を使用し、誘電体基板10として、εγ=2.2のものを使用した。
【0053】
また、設計周波数を76.5GHz、グランドはみ出し部14aの突出量をp=0.5mmとして、導波管励振アンテナ18のアンテナ長l、導波管20の短絡端からアンテナ設定位置までの所定間隔s、導波管励振アンテナ18のずれ量dの3つのパラメータを、反射量が−20dB以下となる帯域幅が可能な限り大きくなり、且つ、その帯域幅のほぼ中央付近に設計周波数が位置するように計算(シミュレーション)によって最適化を行った。その結果として、l=0.70mm、s=0.50mm、d=0.45mmが得られた。
【0054】
このようにして最適化されたパラメータを適用したMSL−WG変換器1について、反射特性S11と透過特性S21とを求めた計算結果(破線で表示)、及び実物を使用した測定結果(実線で表示)を図5に示す。
【0055】
図示されているように、設計周波数における損失(透過特性)は、測定結果では0.35dB(計算では0.24dB)となり、低損失な特性が得られた。
また、反射量(反射特性)が−20dB以下の帯域幅は19.4GHz(66.8GHz〜87.0GHz、計算では、19.1GHz)となり、広帯域な特性が得られた。
[他の実施形態]
上記実施形態では、導波管励振アンテナ18が形成された誘電体基板10の上面に短絡用部分導波管20aを固定し、誘電体基板10の下面に伝送用部分導波管20bを固定しているが、上面と下面とを入れ替えて、これら部分導波管20a,20bを固定してもよい。但し、この場合、誘電体基板10の厚さも考慮して、所定間隔sを設定する必要がある。
【0056】
上記実施形態では、グランドはみ出し部14aを設けると共に、導波管励振アンテナ18をずれ量dだけY軸方向に中心から外れた位置に配設したが、導波管励振アンテナ18を中心(即ちずれ量d=0)に配置し、グランドはみ出し部14aの突出量pを(場合によっては、導波管励振アンテナ18のアンテナ長I,導波管20の短絡端からアンテナ設定位置までの所定間隔sも)最適化することにより、MSL−WG変換器1の反射特性に二つの共振点を発生させ、広い動作周波数帯域を得るように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施形態のMSL−WG変換器の構造を示す斜視図である。
【図2】図1中の点線で示すy−z平面を図中手前側から見た断面図である。
【図3】図2におけるA−A断面図である。
【図4】(a)は誘電体基板を短絡用部分導波管の固定側から見た上面図、(b)は誘電体基板を伝送用部分導波管の固定側から見た下面図である。
【図5】実施例に示したMSL−WG変換について、反射特性と透過特性とを求めた計算結果及び測定結果を示すグラフである。
【図6】整形用グランド板の突出量と共振点との関係を示すグラフである。
【図7】導波管励振アンテナのずれ量と共振点との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1…MSL−WG変換器、10…誘電体基板、10a…導波管固定部、10b…給電線配線部、11…下面基板露出部、12…下面グランドパターン、13…上面基板露出部、14…上面グランドパターン、14a…グランドはみ出し部、15…給電線パターン、16…基板露出部、17…連通部、18…導波管励振アンテナ、19…スルーホール、20…導波管、20a…短絡用部分導波管、20b…伝送用部分導波管、21…切欠部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板上に形成される平面線路と、
一端が短絡された導波管と、
前記平面線路に接続されると共に前記導波管の短絡端から予め設定された所定間隔だけ離れた前記導波管内部のアンテナ設定位置に配置される導波管励振アンテナと、
を備え、前記導波管により伝送される電力と、前記給電線により伝送される電力とを相互に変換する伝送路変換器において、
前記導波管励振アンテナの先端部と該先端部に対向する前記導波管の内壁との間隔が予め設定された設定長となるように、前記アンテナ設定位置での前記導波管の内部空間の断面形状を整形する整形用グランド板を設けると共に、
前記導波管励振アンテナを、前記導波管の中心から予め設定されたずれ量だけ外れた位置に配置したことを特徴とする伝送路変換器。
【請求項2】
前記導波管は断面形状が長方形の方形導波管からなり、その長方形の長辺を形成する一対の導波管壁面のうち、一方の側から前記導波管内に向けて前記導波管励振アンテナが挿入され、他方の側から前記整形用グランド板が延設されていると共に、前記導波管励振アンテナの配置は、前記導波管の長辺方向の中心から外れていることを特徴とする請求項1に記載の伝送路変換器。
【請求項3】
前記所定間隔は、伝送信号の導波管内波長の1/4であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の伝送路変換器。
【請求項4】
前記平面線路は、マイクロストリップ線路であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の伝送路変換器。
【請求項5】
前記導波管励振アンテナを、前記平面線路と共に前記誘電体基板上に形成し、
前記導波管は、前記誘電体基板を挟んで一体に固定される短絡用部分導波管と伝送用部分導波管とからなり、前記平面線路の形成面に固定される一方の部分導波管には、前記誘電体基板への固定端に、前記平面線路を通過させるための切欠きを形成し、
更に、前記誘電体基板の両面には、前記短絡導波管及び伝送用導波管を固定する部位に、互いに導通する一対のグランド板を設け、
前記導波管励振アンテナの形成面に形成された側のグランド板が、前記整形用グランド板を兼ねていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の伝送路変換器。
【請求項6】
前記一対のグランド板は、前記導波管の内部空間を形成する部位を囲うように配置された複数のスルーホールを介して導通していることを特徴とする請求項5に記載の伝送路変換器。
【請求項7】
誘電体基板上に形成される平面線路と、
一端が短絡された導波管と、
前記平面線路に接続されると共に前記導波管の短絡端から予め設定された所定間隔だけ離れた前記導波管内部のアンテナ設定位置に配置される導波管励振アンテナと、
を備え、前記導波管により伝送される電力と、前記給電線により伝送される電力とを相互に変換する伝送路変換器において、
前記導波管励振アンテナの先端部と該先端部に対向する前記導波管の内壁との間隔が予め設定された設定長となるように、前記アンテナ設定位置での前記導波管の内部空間の断面形状を整形する整形用グランド板を設けることを特徴とする伝送路変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−81160(P2006−81160A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216042(P2005−216042)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)