説明

伸びフランジ性に優れたDP鋼板およびその製造方法

【課題】 DP鋼板が具備する高強度特性等を維持しながら、伸びフランジ性に優れたDP鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、Al:0.01%以下、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であって、鋼板中に存在する円相当直径が1μm以上の介在物について、長径が20μm以下、短径が5μm以下であることを特徴とする伸びフランジ性に優れたDP鋼板およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用足回り部材の素材として好適な、伸びフランジ性に優れたフェライト相とマルテンサイト相を複合させた鋼板(以降、「DP鋼板」と記載する場合がある)およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全性向上と環境保全につながる燃費向上の観点から、自動車用熱延鋼板の高強度軽量化に対する要求が高まっている。自動車用部品の中でも特に足回り系と呼ばれるフレーム類やアーム類等の質量は、車体全体に占める割合が高いため、こうした部位に用いられる素材を高強度化、薄肉化することにより、軽量化を実現することが可能となる。また、最近ではデザインの多様化ニーズなどに対応するため、複雑な形状へ加工する必要があり、加工性が重要視されている。さらに、足回り系に使用される材料は、走行中の振動に対する耐久性の観点から、良好な疲労特性も具備していることが重要である。
【0003】
高強度と良加工性を両立させながら良好な疲労特性も具備している材料としては、鋼板組織としてフェライト相とマルテンサイト相を複合させた低降伏比DP鋼板やフェライト相と残留オーステナイト相を複合させたTRIP鋼板が知られている。しかしながら、これらの鋼板は強度と延性、および疲労特性には優れているものの、伸びフランジ性を示す穴拡げ性に優れているとは言えず、伸びフランジ性を要求される場合には延性ではやや劣るものの、ベイナイト系鋼板を使用しているのが一般的である。
【0004】
DP鋼板等の複合組織鋼板の伸びフランジ性が劣る大きな理由として、軟質のフェライト相と硬質のマルテンサイト相との複合体であるため、穴拡げ加工時に両相の境界部が変形に追従できず、破断の基点となり易いためであると考えられている。
【0005】
こうした問題点を克服するため、DP鋼板のような複合組織鋼板においては、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織鋼板中に微細分散粒子の導入による応力集中緩和を志向した技術がある。例えば、特許文献1ではフェライト相とマルテンサイト相の複合組織鋼板中に微細なCuの析出または固溶体を分散させた鋼板が提案されている。この特許文献1に示す開示技術においては、固溶しているCuもしくはCu単独で構成される粒子サイズが2nm以下のCu析出物が疲労特性向上に非常に有効であり、かつ加工性も損なわないことを見出して、各種成分の組成比を限定している。
【0006】
しかしながら、こうしたDP鋼板においても、強度と延性のバランスや疲労特性には優れるものの、穴拡げ試験で評価される伸びフランジ性は依然として劣ることが知られている。その理由の一つは、DP鋼板は軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相の複合体であるがゆえ、穴拡げ加工時に両相の境界部が変形に追随できず破断の起点になり易いからであると考えられている。
【0007】
一方、穴拡げ試験で評価される伸びフランジ性に優れる熱延鋼板として、鋼片中に存在するMnSの析出・変形制御の視点にたって伸びフランジ性を改善した技術が開示されている。例えば、特許文献2の技術は、鋼片中に微細なMnSとして析出させ、さらに圧延時に変形を受けず、割れ発生の起点となり難い微細球状介在物として鋼板中に微細分散させることにより、伸びフランジ性を向上させるものである。
【0008】
しかしながら、この技術において開示されているのは、ベイニティック・フェライトを主相とする組織であるため、DP鋼板ほどの疲労特性が要求される場合は対応できない。また、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合が20%以下の範囲に制御された鋼板において、必ずしも伸びフランジ性が向上しない場合があることがわかった。これは穴拡げ試験では、鋼板にポンチ穴を開けてその穴を押し広げるために、ポンチ穴破面の円周方向全ての伸びフランジ性が問題となるため、介在物が延伸する一方向の延伸割合が所定の個数割合に制御されていても、鋼板破面に亀裂が伝播するような大きな寸法の介在物が含有されている場合、依然として、伸びフランジ性が向上しないことが懸念される。。
【特許文献1】特開平11−199973号公報
【特許文献2】特開2007−146280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した問題点を克服するために案出されたものであり、その目的とするところは、DP鋼板が具備する高強度特性等を維持しながら、伸びフランジ性に優れたDP鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、Al:0.01%以下、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であって、鋼板中に存在する円相当直径が1μm以上の介在物について、長径が20μm以下、短径が5μm以下であることを特徴とする伸びフランジ性に優れたDP鋼板。
(2)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、Al:0.01%以下、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる溶鋼を連続鋳造し、得られた鋳片より鋼板を製造する際に、圧下比を30以下で圧延することを特徴とする前記(1)に記載の伸びフランジ性に優れたDP鋼板の製造方法。
【0011】
ここで圧下比とは、圧下比=鋳片厚/鋼板厚で算出される比率を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、DP鋼板が具備する高強度特性等を維持しながら、伸びフランジ性に優れたDP鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、DP鋼のような軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相からなる複合組織鋼板中において、複合組織以外の影響として、穴拡げ加工時に破断の基点となりうる介在物に着目し、介在物を適正に制御すれば穴拡げ加工を行った場合においても亀裂の進展を抑えられるのではないかと考え、本発明に想到した。
【0014】
その結果、鋳片中に粗大なMnSが存在すると、鋳片を熱間圧延および冷間圧延して鋼板を製造する際に、MnSは変形し易いため、延伸したMnS介在物となり、これが繰り返し変形を受けると、表層またはその近傍に存在する延伸したMnS介在物周辺に内部欠陥が発生して亀裂として伝播し、穴拡げ加工時の割れ発生の起点となって、伸びフランジ性を低下させる原因となることがわかった。
【0015】
しかしながら、Mnは、CやSiとともに材料の高強度化に有効に寄与する元素であり、高強度鋼板では強度確保のためMnの濃度を高く設定するのが一般的である。さらに精錬工程では加工性の向上を主目的として脱S処理を行うが、S濃度は数10ppm程度は必ず含まれてしまい、鋳片中にはMnSが存在するのが普通である。
【0016】
そのため、鋳片中に微細なMnSとして析出させ、さらに圧延時に変形を受けにくく、割れ発生の起点となり難い微細介在物として鋼板中に分散させる方法を検討したところ、Ce、Laの添加による脱酸により生成した微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド上にMnSが析出し、圧延時にもこの析出したMnSの変形が起こり難いため、伸びフランジ性を改善できる場合があることが確認された。
【0017】
以下、本発明の伸びフランジ性に優れたDP鋼板について、詳細に説明をする。以下、組成における質量%は、単に%と記載する。
【0018】
先ず、本発明を完成するに至った実験について説明する。
【0019】
本発明者は、C:0.06%、Si:0.7%、Mn:1.3%、P:0.01%以下、S:0.005%以下、N:0.003%を含有し残部がFeである溶鋼に対して様々な元素を用いて脱酸を行い、鋼塊を製造した。得られた鋼塊を熱間圧延して3mmの熱延鋼板とした。これら製造した熱延鋼板を穴拡げ試験に供すると共に、鋼板中の介在物個数密度、形態および平均組成を調査した。
【0020】
その結果、溶鋼中のフリー酸素をAlで脱酸し、その他必要なSi、Mn等を添加した後、Ce、Laの一方または両方を添加して脱酸した鋼板が伸びフランジ性に優れることが分かった。その理由は、Ce、Laの添加による脱酸により生成した微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド上にMnSが析出し、圧延時にもこの析出したMnSの変形が起こり難いため、鋼板中には延伸した粗大なMnSがあまり見られなかった。その結果、繰り返し変形時や穴拡げ加工時において、これらのMnS系介在物が割れ発生の起点や亀裂伝播の経路となり難くなり、伸びフランジ性の向上につながったものと考えられる。
【0021】
なお、Ce酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイドおよびランタンオキシサルファイドが微細化する理由は、最初にSi脱酸で生成したSiO2系介在物を後から添加したCe、Laが還元分解して微細なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイドおよびランタンオキシサルファイドを形成すること、さらに生成したCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイドおよびランタンオキシサルファイド自体と溶鋼との界面エネルギーが低いため生成後の凝集合体が抑制されたものと思われる。
【0022】
しかし、DP鋼板のような伸びフランジ性が劣る材料では、必ずしも、伸びフランジ性が改善されるわけではなく、依然として、伸びフランジ性が改善されない場合があった。
【0023】
そこで、本発明者が検討したところ、Ce、Laの添加による脱酸により生成した微細で硬質な酸化物にMnSを析出させた場合であっても、併行してMnS介在物も多少は生成しており、従って、MnS介在物の生成を完全に防ぐことはできないため、このMnS介在物が圧延時に延伸し、その結果、特にDP鋼板の様な伸びフランジ性が劣る材料では、併行して生成したMnS介在物が延伸することで、伸びフランジ性を良好にできない原因となっていると考えた。
【0024】
また、Ce、Laの添加による脱酸により生成した微細で硬質な酸化物にMnSが析出した介在物であっても、圧延時に多少は延伸している可能性もあり、その場合、介在物のアスペクト比が小さい場合であっても、長径が大きいと、やはり、伸びフランジ性を良好にできない原因となっていると考えた。
【0025】
そこで、Ce、Laの添加による脱酸により生成した微細で硬質な酸化物にMnSを析出させることに加えて、圧延時の圧下比を小さくすることに着目し、鋼中のMnS介在物をできる限り延伸させないように、延伸抑制、粗大化抑制を図ることを検討した。その結果、得られる鋼板中の介在物の長径の寸法が、20μm以下の場合に、繰り返し変形時や穴拡げ加工時において、介在物が割れ発生の起点や亀裂伝播の経路となり難くなり、DP鋼板であっても、伸びフランジ性を向上させることが可能であることを実験的に知見した。
【0026】
これら実験的検討から得られた知見に基づいて、本発明者は、以下に説明するように、鋼板の化学成分条件の検討を行い、本発明を完成させるに至った。
【0027】
以下、本発明において化学成分を限定した理由について説明をする。なお、各化学成分の含有量は質量%を示す。
【0028】
C:0.03〜0.20%
Cは、鋼の焼き入れ性と強度を制御する最も基本的な元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて疲労強度の向上に対して有効に寄与する。即ち、このCは、鋼板の強度を確保するために必須の元素であり、高強度鋼板を得るためには少なくとも0.03%が必要である。しかし、このCが過剰に含まれると、加工性や溶接性が劣化する。このため、加工性、溶接性を確保する観点からCの濃度を0.20%以下とする。
【0029】
Si:0.08〜1.5%
Siは本発明のようにAlを極力添加しない溶鋼においては主要な脱酸元素となるため、本発明において極めて重要である。また、Siは、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイト数を増加させ、オーステナイトの粒成長を抑制するとともに、焼入れ硬化層の粒径を微細化させる機能を担う。このSiは、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。さらに、このSiは材料全体の強度確保の観点において重要な役割を担う。溶鋼中の溶存酸素濃度を低下させ、一旦SiO2系介在物を生成させるためには(このSiO2系介在物を後から添加するCe、Laで還元することにより介在物を微細化させるため)、Siを0.08%以上添加する必要がある。このため、本発明においては、Siの下限を0.08%とした。これに対して、Siの濃度が高すぎると、溶接性や延性に悪影響を及ぼす。このため、本発明においては、Siの上限を1.5%とした。
【0030】
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、製綱段階での脱酸に有用な元素であり、C、Siとともに鋼板の高強度化に有効な元素である。このような効果を得るためには、このMnを1.0%以上は含有させる必要がある。しかしながら、Mnを、3.0%を超えて含有させるとMnの偏析や固溶強化の増大により延性が低下する。また、溶接性や母材靭性も劣化することが考えられるのでこのMnの上限を3.0%とする。
【0031】
P:0.05%以下
PはFe原子よりも小さな置換型固溶強化元素として作用する点において有効であるが、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、ねじり疲労強度を低下させて加工性の劣化が懸念されるので、0.05%以下とする。また固溶強化の必要がなければPを添加する必要はなく、Pの下限値は0%を含むものとする。
【0032】
S:0.002%以上
Sは、不純物として偏析し、MnSの粗大な延伸介在物を形成して伸びフランジ性を劣化させるため、極力低濃度であることが望ましい。従来は、伸びフランジ性を確保すべく、Sの濃度を0.002%未満まで抑える必要があった。しかし、本発明では微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド上にMnSを析出させているので、圧延時にも変形が起こり難く、また圧下比を制限していることにより、延伸しやすいMnSが生成していても、MnS介在物の延伸を防止しているため、Sの濃度の上限値は特に規定しない。また、S濃度を従来並の0.002%未満に低減するためには、精錬工程での脱硫処理を相当強化する必要があり、その濃度を実現させるための脱硫処理コストが高くなり過ぎること、且つMnSを形態制御した効果が発現し難くなるためS濃度の下限値は0.002%とする。
【0033】
N:0.0005〜0.01%
Nは、溶鋼処理中に空気中の窒素が取り込まれることから、鋼中に不可避的に混入する元素である。Nは、Al、Ti等と窒化物を形成して母材組織の細粒化を促進する。しかしながら、このNを添加し過ぎると、微量Alや微量Tiであっても粗大な析出物を生成し、伸びフランジ性を劣化させる。このため、本発明においては、Nの濃度の上限を0.01%とする。一方、Nの濃度を0.0005%未満とするには工業的にはコスト高となり実現性に乏しいため0.0005%を下限とする。
【0034】
Al:0.01%以下
Alはその酸化物がクラスター化して粗大になり易く、伸びフランジ性を劣化させるため極力抑制することが望ましい。しかしながら、精錬工程における予備的な脱酸材として0.01%までは用いることが許容される。これは、Al濃度が0.01%超になると、介在物中のAl2O3含有率が増加し、介在物のクラスター化が起こるためである。クラスター化防止の観点からAl濃度は低い方が良く、下限値は0%を含む。
【0035】
CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%
Ce、LaはSi脱酸により生成したSiO2を還元し、MnSの析出サイトとなり易く、且つ硬質、微細で圧延時に変形し難いCe酸化物(例えば、Ce2O3、CeO2)、セリュウムオキシサルファイド(例えば、Ce2O2S)、La酸化物(例えば、La2O3、LaO2)、ランタンオキシサルファイド(例えば、La2O2S)、Ce酸化物−La酸化物、或いはセリュウムオキシサルファイド−ランタンオキシサルファイドを主相(50%以上を目安とする。)とする介在物を形成する効果を有している。 ここで、上記介在物中には、脱酸条件によりMnO、SiO2、或いはAl2O3を一部含有する場合もあるが、主相が上記酸化物であればMnSの析出サイトとして十分機能し、且つ介在物の微細・硬質化の効果も損なわれることはない。このような介在物を得るためには、CeもしくはLaの1種または2種の合計濃度を0.0005%以上0.04%以下にする必要がある。CeもしくはLaの1種または2種の合計濃度が0.0005%未満ではSiO2介在物を還元できず、0.04%超ではセリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイドが多量に生成し、粗大な介在物となり伸びフランジ性を劣化させる。
【0036】
ちなみに、鋼鈑中に存在するCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物の個数割合が大きいほど、MnSの生成量を相対的に減少させることができるため好ましい。ちなみに、上記の個数割合は特に規定するものではないが、目安としては60%以上とすることが好適であり、CeもしくはLaの1種または2種の合計量と、MnやSの量とのバランスを考慮して、実験的に添加量を確認しておくこと等により、実施することができる。なお、本願発明のDP鋼板の化学成分の残部は鉄および不可避的不純物からなる。
【0037】
次に、鋼板中に存在する介在物の大きさについて、説明する。
【0038】
介在物長径: 20μm以下、 介在物短径: 5μm以下
CeもしくはLaの1種または2種の合計濃度を0.0005%以上0.04%以下とした場合の介在物は、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態となっているものが大半である。まず、介在物寸法の下限については、本発明者らは円相当直径が1μm未満の介在物は割れ発生起点としては無害であり、伸びフランジ性を劣化させないことを実験的に知見しており、また、円相当直径が1μm以上の介在物は走査型電子顕微鏡(SEM)等による観察も容易であることから、鋼板における円相当直径が1μm以上の介在物を対象とした。
【0039】
介在物寸法の最大値については、上記の実験的知見により、DP鋼板であっても、鋼板中に存在する円相当直径が1μm未満の介在物のすべてについて、介在物長径が20μm以下であれば、伸びフランジ性を非常に良好とすることが可能であることがわかった。ちなみに、介在物短径は5μmより大きいものが認められなかったことから、介在物短径は5μm以下と規定している。
【0040】
さらに、本発明のDP鋼板の製造方法について説明する。
【0041】
まず、転炉で吹錬して脱炭し、或いは更に真空脱ガス装置を用いて脱炭し、C濃度を0.03〜0.20%にした溶鋼中に、Si、Mn、P等の合金を添加して、脱酸と成分調整を行うと共に、Alは添加しないか、或いは酸素調整を必要とする場合には鋼中フリー酸素分、もしくはAlが僅かに残る程度の少量のAlを添加し、その後CeもしくはLaの1種または2種を添加して成分調整を行う。このようにして溶製された溶鋼を連続鋳造して鋳片を製造する。
【0042】
得られた鋳片について、鋳片と鋼板の圧下比を30以下として圧延する。ちなみに、圧下比とは鋳片から鋼板を製造する際の鋳片厚を鋼板厚で除したものである。
【0043】
ここで、圧下比を30以下としたのは、圧延により得られた鋼板に存在する介在物を、調査したところ、圧下比を30を超えて圧延した場合に、圧下により介在物が延伸し、介在物の長径が20μmを超えたものが観察され、伸びフランジ性が劣る場合があることを、別途の実験により、確認していたことに基づいている。
【0044】
一方、圧下比の下限については特に規定しないが、鋳片における成分偏析、ザク、ポロシティーといった鋳片欠陥を無害化するためには、一般的に圧下比3以上とすることが好ましい。
【0045】
ちなみに、最終製品の鋼板板厚を考慮して鋳片厚を決定することが重要であり、例えば、要求される鋼板の厚みが薄い場合は、鋳造段階で薄スラブ連続鋳造機を用いて、通常よりも厚みが薄い鋳片を得ておくことで対応可能である。次に、DP鋼板を製造するための圧延条件については以下に述べる。
【0046】
熱延前のスラブの加熱温度は鋼中の炭窒化物などを固溶させるため1150℃以上とすることが好ましい。一方、熱延前のスラブの加熱温度が1250℃を超えるとスラブ表面の酸化が著しくなり、特に粒界が選択的に酸化されることに起因する楔状の表面欠陥がデスケーリング後に残り、それが圧延後の表面品位を損ねるので上限を1250℃とすることが好ましい。
【0047】
上記の温度範囲に加熱された後に、通常の熱間圧延を行うが、その工程の中で仕上げ圧延完了温度は鋼板の組織制御を行う場合に重要である。仕上げ圧延完了温度が、Ar3点+30℃未満では表層部の結晶粒径が粗大になり易く、疲労特性上好ましくない。一方、Ar3点+200℃超では圧延終了後のオーステナイト粒径が粗大になり、相の構成、及び分率が制御しずらくなるので、上限をAr3点+200℃とすることが好ましい。
【0048】
また、仕上げ圧延後は、680℃程度まで空冷し、その後30℃/秒以上の冷却速度で冷却して400℃以下で巻取りすることで、多量のポリゴナル・フェライト相とマルテンサイト相の複合組織を持つDP鋼板を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0050】
表1に化学成分、鋳片から鋼板を製造する際の圧下比、及び製造した鋼板厚みを示す。
【0051】
この表1では、本発明に係わる化学成分、圧下比と、比較例1〜3として本発明の範囲外である化学成分、圧下比を記載した。
【0052】
表2に、本発明と比較例1〜3にて実施した熱延前の加熱温度(表2では「加熱温度」と略記)、仕上げ圧延完了温度(表2では「仕上温度」と略記)、仕上げ圧延後の空冷後の温度(表2では「空冷温度」と略記)、空冷後の強制冷却速度(表2では「冷却速度」と略記)、及び巻取り温度を記載した。本発明、比較例1〜3のいずれも同一の条件下で実施した。
尚、この製造条件にて製造した鋼板は、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相を有するDP鋼の複合組織であることを確認しており、マルテンサイト分率はいずれも10%程度であった。
【0053】
表3に強度、伸びフランジ性の指標として穴拡げ値を調査した。また、鋼板中の延伸介在物の存在状態として、すべて円相当直径1μm以上の介在物を対象として、介在物の長径最大値、介在物の短径最大値を調査した。
【0054】
強度については、圧延方向と直交する方向より採取したJIS13号B試験片の引張試験により求めた。伸びフランジ性は、鉄鋼連盟規格に準拠した方法で評価し、鋼板を100mm×100mmに切り出し、中央に開けた直径10mmの打ち抜き穴を60°の円錐パンチで押し広げ、板厚貫通亀裂が生じた時点での穴径D(mm)を測定し、穴拡げ値=(D−10)/10 より算出、評価した。
【0055】
介在物調査については、鋼板圧延方向の断面を研磨して板厚3mm×15mm長のサンプルより確認された介在物において長径最大値、及び短径最大値を測定した。
【0056】
表3から明らかなように、本発明の方法を適用した鋼板においては、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSを析出させ、圧下比を30以下とし、介在物長径は20μm以下、介在物短径は5μm以下となり、この結果伸びフランジ性に優れたDP鋼板を製造することができた。
【0057】
参考までに、鋼鈑中にCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物の個数割合は、本発明では60%以上となっていた。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03〜0.20%、
Si:0.08〜1.5%、
Mn:1.0〜3.0%、
P:0.05%以下、
S:0.002%以上、
N:0.0005〜0.01%、
Al:0.01%以下、
CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であって、
鋼板中に存在する円相当直径が1μm以上の介在物について、長径が20μm以下、短径が5μm以下であることを特徴とする伸びフランジ性に優れたDP鋼板。
【請求項2】
質量%で、
C:0.03〜0.20%、
Si:0.08〜1.5%、
Mn:1.0〜3.0%、
P:0.05%以下、
S:0.002%以上、
N:0.0005〜0.01%、
Al:0.01%以下、
CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる溶鋼を連続鋳造し、得られた鋳片より鋼板を製造する際に、圧下比を30以下で圧延することを特徴とする請求項1に記載の伸びフランジ性に優れたDP鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2009−299149(P2009−299149A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156063(P2008−156063)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】