説明

伸展構造物

【課題】 構造体としても機械的な強度を確保でき、しかも真直性を確保しし得る伸展構造物を提供する。
【解決手段】弾力性を有する長尺の伸展材10と、伸展材10を巻き取って収納する収納部20と、を有し、伸展材10の先端が収納部20から一次元的に伸展し、伸展した伸展部が中空筒構造となる伸展構造物において、伸展材10を、中空筒構造の伸展部15を3つ割りとした3つの分割伸展材11,12,13によって構成し、各分割伸展材11,12,13の先端を連結すると共に、基端側を独立して各分割収納部21,22,23に巻き取る構造とし、各分割伸展材11,12,13の側辺に、伸展時に互いに結合して伸展部15を閉断面の中空構造とする面ファスナ30を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、人工衛星のアンテナのように宇宙空間で伸展させて使用するような伸展構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の伸展構造物としては、たとえば、特許文献1に記載のようなSTEM(Storable Tubular Extendible Member)と呼ばれる構造物が知られている。
【0003】
この伸展構造物は、弾力性を有する長尺の伸展材と、伸展材を巻き取って収納する収納部と、を有し、伸展材の先端が収納部から一次元的に伸展し、伸展した伸展部が中空筒構造となるように構成されている。
【0004】
この特許文献1では、一枚の長尺伸展材の横断面形状(伸展方向に対して直交方向の断面)を予め円形となるように成形し、これを平らに弾性変形させた状態で収納部に巻き取り、先端部を引き出すことにより、横断面形状を円形に弾性復帰させ、伸展部を中空筒構造とするものであった。以下、このような一枚の伸展材を用いた構造を、ユニ-ステム(
Uni−STEM)構造というものとする。
【特許文献1】特開2006−130988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このユニ-ステム(Uni−STEM)構造の伸展構造物は、伸展時に
、フラットな収納形態から伸展部の丸筒形状の伸展形態に至る途中で、重心位置が変化してしまい、安定して伸展させることが難しい。特に宇宙空間では、重心位置を安定させることが重要である。
【0006】
また、一次元に伸展しているといっても、反りが出やすく、高精度の真直性が得られない。真直性を確保するためには、根元部を拘束すればよいが、根元部は、形状的にフラットに開いた形態から円筒状の伸展形態に複雑に変化するので、根元部を拘束することが難しく、根本形状は自由状態とならざるを得ず、真直性を確保することが困難である。
また、伸展部が筒状断面となっているとはいっても、伸展材の側辺が単に重なり合うだけの開断面構造なので、曲げ剛性が低く、また、圧縮強度も弱い。
【0007】
さらに、根元形状がフラットな部分から円筒形状に移り変わる過程の長さ分だけ、長さ方向にスペースが必要となり、結果的に長さ方向の収納性が悪くなる。
【0008】
また、収納部において、伸展材をフラットに展開するために幅広になり、幅方向の収納性も悪くある。さらに、伸展材の横断面方向の曲率が大きくなるため、材料がヘタリやすく、また、エッジに負担が掛かり傷みやすい。
【0009】
一方、伸展材を、中空筒構造の伸展部を2つ割りとするように2つの分割伸展材によって構成し、各分割伸展材の先端を連結すると共に、基端側を独立して収納部に巻き取る構造としたバイ-ステム(Bi−STEM)構造の伸展構造物も検討されている。
【0010】
このようなバイ-ステム構造とすれば、収納形態から伸展形態に至る途中での重心位置
の変化は小さくなり有利であるが、程度の差はあれ、やはり根元形状の拘束が難く、不安
定になり、真直性を確保することが難しい。
そこで、2つの分割伸展材を固定手段によって結合して閉断面構造とすることを検討したが、固定手段のバランスによって2つの分割伸展材のいずれかの側に反ってしまい、あまり真直性の改善とはならない。
【0011】
また、バイ−ステム構造としても、根元の形状がフラットな部分から円筒に移り変わる過程において、やはり、一定の長さを要し、長さ方向の収納性が悪い。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、構造体としても機械的な強度を確保でき、しかも真直性を確保し得る伸展構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、弾力性を有する長尺の伸展材と、該伸展材を巻き取って収納する収納部と、を有し、該伸展材の先端が収納部から一次元的に伸展し、伸展した伸展部が中空筒構造となる伸展構造物において、
前記伸展材を、中空筒構造の伸展部を3つ割りとした3つの分割伸展材によって構成し、各分割伸展材の先端を連結すると共に、基端側を独立して収納部に巻き取る構造とし、
各分割伸展材の側辺に、伸展時に互いに結合して伸展部を閉断面の中空構造とする固定手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の伸展構造物によれば、伸展時に、3つの分割伸展材が互いに結合されながら伸展するので、収納形態から伸展部に至る過程で、重心位置の変化はほとんど無く、安定して伸展させることができる。
【0015】
また、3つの分割伸展材の側辺同士が固定手段によって固定されつつ伸展するので、反りが出にくく、高精度の真直性を得ることができる。
また、固定手段によって、分割伸展材を根元部において固定することにより、根元部において形状が拘束することができ、真直性を確実に確保することができる。
伸展部は固定手段によって閉断面構造としているので、曲げ剛性を大きくすることができる。
【0016】
さらに、根元部分において固定手段によって固定することにより、フラットな部分から円筒形状に移り変わる過程の長さを可及的に小さくすることができ、長さ方向の収納性がよい。
【0017】
また、収納部において、3分割となっているので、各分割伸展材の幅は狭く、幅方向の収納性もよい。さらに、伸展材の横断面方向の曲率も、ユニ-ステムやバイ-ステム構造に比べて小さくできるので、材料のヘタリを可及的に小さく抑えることができ、また、エッジにかかる負担も小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1乃至図4は、本発明の実施例に係る伸展構造物を示す図である。
【0020】
すなわち、この伸展構造物1は、弾力性を有する長尺の伸展材10と、この伸展材10を巻き取って収納する収納部20と、を有し、伸展材10の先端が収納部20から一次元的に伸展し、伸展した伸展部15が中空筒構造となる構成となっている。
伸展材10は、中空筒構造の伸展部15を3つ割りとする3つの分割伸展材11,12,13によって構成され、各分割伸展材11,12,13の先端をキャップ状の先端部材16によって連結すると共に、基端側を独立して各分割収納部21,22,23に巻き取る構造となっている。
各分割伸展材11,12,13の側辺には、伸展時に互いに結合して伸展部15を閉断面の中空構造とする固定手段としての面ファスナ30が設けられている。
【0021】
この例では、中空筒構造の伸展部15は断面円形の円筒形状で、各分割伸展材11,12,13は、図4に示すように、円周を120度ずつ3分割した円弧状の長尺体によって構成され、面ファスナ30は各分割伸展材11,12,13の側辺に長手方向全長にわたって設けられた耳部14に設けられている。この耳部14は、中空筒形状の伸展部15において、周方向に互いに接合され、伸展部15に対して外向きに張り出している。
【0022】
分割伸展材11,12,13は、繊維性の基材で強化した繊維強化プラスチック、この例では、三軸織物単層複合材料によって構成されている。
繊維性の基材としては、織物、編み物、さらに、炭素繊維を一方向にのみ揃えたユニダイレクショナル材を用いることができる。織物としては、三軸織物だけでなく、二軸織物を適用してもよい。
【0023】
また、基材の繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、高強力高耐熱のポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、石英ガラス繊維等の、高強度・高弾性・低熱膨張性の繊維が用いられる。
また、繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂など熱硬化性樹脂が好適である。
【0024】
分割収納部21、22,23は、中央の内側ガイド24を中心に、3方向に放射状に配置され、内側ガイド24に沿って、分割伸展材11を収納部の出口側に向けて引き出すようになっている。内側ガイド24はパイプ状で、インフレータチューブが収納される。3つの分割収納部21,22,23は同一の構造なので、一つの分割収納部21についてのみ説明すると、図3に示すように、分割収納部21は、分割伸展材11を巻き取る巻き取りドラム25と、巻き取りドラム25を回転自在に指示するガイド壁26と、巻き取りドラム25から分割伸展材11を引き出す根元ガイドローラ27と、収納部の出口側に設けられ伸展方向に延びる伸展ガイド28と、伸展ガイド28に設けられた面ファスナ30を押さえる弾力のある押さえ部材29とを備えている。
【0025】
この例では、伸展材10は、特に図示しないが、ガス圧によって伸展方向に膨張するインフレータチューブによって伸展される。もっとも、分割伸展材をローラで挟んで同期して駆動するようなモータ駆動方式を採用してもよい。
【0026】
面ファスナ30は、特に図示しないが、多数のループを備えたメス側のファスナ片と、このループに係合する多数のフックを有するオス側のファスナ片とによって構成されるもので、各分割伸展材11,12,13の互いに隣接する側辺の耳部14,14に、オス側とメス側のファスナ片が取り付けられ、互いに係脱自在となっている。
【0027】
本実施例では、収納状態では、各分割伸展材11,12,13が各分割収納部21,22,23の巻き取りドラム25に巻き取られた状態で収納されている。収納時には、各分割伸展材11,12,13の先端を連結する先端部材16が、収納部20の出口に位置している。
この状態で、不図示のインフレータチューブを膨張させると、伸展材10の先端部材16がインフレータチューブに押され、分割伸展材11、12、13が根元ガイドローラ2
7に沿って中央側に引き出され、出口側の伸展ガイド28で外周側が案内されつつ、内周側が中央の内側ガイド24外周に沿って出口側に移動する。
【0028】
そして、互いに隣接する分割伸展材11,12,13側辺の耳部14が、押さえ部材29によって互いに押圧され、耳部14に取り付けられた面ファスナ30、特に図示しないが、オス側の面ファスナのフックがメス側の面ファスナのループに係合して接合される。したがって、分割収納部21,22,23を出た状態では、既に中空円筒形状の伸展部15の形態になって、一次元的に伸展していく。
【0029】
また、このような面ファスナ30を利用しているので、伸展と収納を可逆的に行うことができる。収納する場合には、たとえば、分割伸展材11,12,13に圧接されるローラを逆回転させることにより、巻き取り収納することができる。
このように、本発明の伸展構造物によれば、伸展時に、3つの分割伸展材11,12,13が互いに結合されながら伸展するので、収納形態から伸展部15に至る過程で、重心位置の変化はほとんど無く、安定して伸展させることができる。
【0030】
また、3つの分割伸展材11,12,13が、面ファスナ30によって、三方から中心に向けて互いに押し合う方向に接合されるので、バランスよく接合され、安定して軸方向に沿って傾くこと無く真直に延びる。
また、面ファスナ30によって、分割伸展材11,12,13が収納部20内の根元部において固定されるので、根元部において形状を拘束することができ、真直性を確実に確保することができる。
【0031】
また、従来のユニ−ステムあるいはバイ-ステム構造は開断面形状であるが、本発明は
、3つの分割伸展材を面ファスナ30で固定して閉断面化しており、真直性、さらに曲げ合成等の物性的な不安定さを無くすことができる。
すなわち、伸展部15は面ファスナ30によって閉断面構造となっているので、曲げ剛性が高く、曲げモーメントに強い。また、圧縮強度等の機械的強度が強い。
【0032】
さらに、根元部分において面ファスナ30によって固定することにより、フラットな部分から円筒形状に移り変わる過程の長さを可及的に小さくすることができ、長さ方向の収納性がよい。
【0033】
また、収納部20において、3分割となっているので、各分割伸展材11,12,13の幅は狭く、幅方向の収納性もよい。さらに、各分割伸展材11,12,13の横断面方向の曲率も、ユニ-ステムやバイ-ステム構造に比べて可及的に小さくでき、材料のヘタリを可及的に小さく抑えることができ、また、エッジにかかる負担も小さい。
【0034】
上記実施例では、伸展部の断面形状が断面円形状となっているが、断面円形状に限定されるものではなく、図5(A)乃至(F)に示すような、種々の断面形状を選択することができる。すなわち、図5(A)は三角形状としたもの、図5(B)は直角三角形状としたもの、図5(C)は3辺を中心に向かって凹状の曲線とした三角形状、図5(E)は、3辺を外側に向かって凸状に膨らませた三角形状、図5(D)は3辺が膨らんだ花弁形状、図5(F)は、直線、凸曲線、凹曲線よりなる3辺で構成される閉断面形状としたものである。もちろん、断面形状としては、これらの形状に限定されるものではなく、他の形態とすることができる。
【0035】
また、上記実施例では、分割伸展材として、繊維強化プラスチックを用いた例について説明したが、これに限るものではなく、たとえば、ベリリウム銅合金等の弾力性を備えた金属を用いてもよい。
さらに、固定手段として、面ファスナを用いた例を示したが、いわゆる線ファスナ、レールファスナ、磁石、ラッチ、ホック、ボタン、粘着、接着等、閉断面構造とする固定手段であれば、種々の固定手段を利用することが可能である。線ファスナはいわゆるジッパーで、一対のテープに設けられた互いに噛み合うエレメント歯を、スライダによって係脱させるものである。また、レールファスナは、エレメント歯ではなく、スライダによって一対のレールが係脱されるものである。
【0036】
なお、本発明の伸展構造物は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は本発明の実施例1に係る伸展構造物の伸展状態の概略斜視図である。
【図2】図2は図1の伸展構造物の上面図である。
【図3】図3は図1の一つの収納部を分解して示す図である。
【図4】図4は図1の伸展構造物の伸展部の斜視図である。
【図5】図5(A)乃至(F)は図1の中空構造の伸展部の他の横断面形状例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 伸展構造物
10 伸展材
11,12,13 分割伸展材
14 耳部
15 伸展部
16 先端部材
20 収納部
21,22,23 分割収納部
24 内側ガイド
25 巻き取りドラム
26 ガイド壁
27 根元ガイドローラ
28 伸展ガイド
29 押さえ部材
30 面ファスナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力性を有する長尺の伸展材と、該伸展材を巻き取って収納する収納部と、を有し、該伸展材の先端が収納部から一次元的に伸展し、伸展した伸展部が中空筒構造となる伸展構造物において、
前記伸展材を、中空筒構造の伸展部を3つ割りとした3つの分割伸展材によって構成し、各分割伸展材の先端を連結すると共に、基端側を独立して収納部に巻き取る構造とし、
各分割伸展材の側辺に、伸展時に互いに結合して伸展部を閉断面の中空構造とする固定手段を設けたことを特徴とする伸展構造物。
【請求項2】
固定手段は、面ファスナである請求項1に記載の伸展構造物。
【請求項3】
固定手段は中空筒形状の伸展部から外向きに張り出す耳部に設けられている請求項1または2に記載の伸展構造物。
【請求項4】
分割伸展材は、繊維性の基材で強化した繊維強化プラスチックである請求項1乃至3のいずれかの項に記載の伸展構造物。
【請求項5】
繊維性の基材は織物である請求項1乃至4のいずれかの項に記載の伸展構造物。
【請求項6】
織物は三軸織物である請求項5に記載の伸展構造物。
【請求項7】
基材の繊維は、高強度・高弾性・低熱膨張性の繊維である請求項4に記載の伸展構造物。
【請求項8】
基材の繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、PBO繊維、石英ガラス繊維の内の少なくともいずれかの繊維が用いられる請求項7に記載の伸展構造物。
【請求項9】
繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂である請求項4乃至8のいずれかの項に記載の伸展構造物。
【請求項10】
分割伸展材は金属製である請求項1乃至3のいずれかの項に記載の伸展構造物。
【請求項11】
分割伸展材の金属は、ベリリウム銅合金である請求項10に記載の伸展構造物。
【請求項12】
固定手段は、線ファスナ、レールファスナ、磁石、ラッチ、ホック、ボタン、粘着、接着のうちの少なくともいずれか一つの手段である請求項1に記載の伸展構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−111203(P2010−111203A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284301(P2008−284301)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所 社団法人日本航空宇宙学会 刊行物名 第52回 宇宙科学技術連合講演会 アブストラクト集 発行日 平成20年11月5日 発行所 社団法人日本航空宇宙学会 刊行物名 第52回宇宙科学技術連合講演会 講演集のCD−ROM 発行日 平成20年11月5日
【出願人】(591051874)サカセ・アドテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】