説明

伸展装置並びに伸展方法

【課題】作業者にかかる負担を極力減らしながら、包埋ブロックから作製された薄切片を、浮遊物を付着させることなく確実に伸展させること。
【解決手段】生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製された薄切片Mを、基板G上に掬い取られるまでの間、液体W1に浮かばせた状態で伸展させる装置であって、底面と側壁とで囲まれた空間に液体が貯留され、該液体内に上方から基板を挿入可能とされた伸展バス2と、薄切片が基板上に掬い取られた後、伸展バスに液体を供給して該伸展バスから液体を溢れ出させると共に、底面から一定距離離間した所定高さに液面が位置するように液体の量を調整する液量調整手段3と、伸展バスから溢れ出た液体を回収すると共に、回収した液体を外部に排出する液体排出手段4とを備えている伸展装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して薄切片を作製した後、該薄切片を伸展させる際に使用する伸展装置並びに伸展方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、理化学実験や顕微鏡観察に用いられる薄切片標本を作製する装置として、ミクロトームが一般的に知られている。この薄切片標本は、厚さが数μm(例えば、3μm〜5μm)の薄切片を、スライドガラス等の基板上に固定させたものである。ここで、ミクロトームを利用して薄切片標本を作製する一般的な方法について説明する。
【0003】
まず、ホルマリン固定された生物や動物等の生体試料をパラフィン置換した後、更に周囲をパラフィンで固めて強固にして、ブロック状態の包埋ブロックを作製する。次に、この包埋ブロックを専用の薄切り装置であるミクロトームにセットして、粗削りを行う。この粗削りによって、包埋ブロックの表面が平滑面となると共に、実験や観察の対象物である包埋された生体試料の観察したい面が表面に露出した状態となる。
【0004】
粗削りが終了した後、本削りを行う。これは、ミクロトームが有する切断刃により、包埋ブロックを上述した厚みで極薄にスライスする工程である。これにより、目的の面を持った薄切片を得ることができる。この際、包埋ブロックをミクロンオーダで制御し、薄くスライスすることで、薄切片の厚みを細胞レベルの厚みに近付けることができるので、より観察し易い薄切片標本を得ることができる。よって、可能な限り厚さが制御された薄い薄切片を作製することが求められている。なお、この本削りは、必要枚数の薄切片が得られるまで連続して行う。
【0005】
次いで、本削りによって得られた薄切片を伸展させる伸展工程を行う。つまり、本削りによって作製された薄切片は、上述したように極薄の厚みでスライスされたものであるので、皺がついた状態や、丸まった状態(例えば、Uの字状)となってしまう。そこで、この伸展工程によって、皺や丸みを取って伸ばす必要がある。
一般的には、水とお湯を利用して伸展させている。始めに、本削りによって得られた薄切片を水に浮かべる。これにより、生体試料を包埋しているパラフィン同士のくっつきを防止しながら、薄切片の大きな皺や丸みを取ることができる。その後、薄切片を、パラフィンの融点よりも10度程度低い温度に保ったお湯に浮かべる。これにより、薄切片が伸び易くなるので、水による伸展では取りきれなかった残りの皺や、切削時に受けた圧力によって生じた歪を取ることができる。
【0006】
そして、お湯による伸展が終了した薄切片をスライドガラス等の基板で掬って該基板上に載置する。なお、この時点で仮に伸展が不十分であった場合には、基板ごとホットプレート等に乗せてさらに熱を加える。これにより、薄切片をより伸展させることができる。最後に、薄切片を乗せた基板を乾燥器内に入れて乾燥させる。この乾燥により、伸展で付着した水分が蒸発すると共に、薄切片が基板上に固定される。
その結果、薄切片標本を作製することができる。また、作製された薄切片標本は、主に生物、医学分野等で使用されている。
【0007】
上述した工程は、そのほとんどの工程を、経験を積んだ熟練の作業者が行っているのが一般的であるが、一部の工程を自動で行う薄切片の収拾保持装置(例えば、特許文献1参照)も知られている。この収拾保持装置は、長尺のテープを水中に案内した後、水中からテープを引き上げる工程と、包埋ブロックを切断して水面に薄切片を浮かべると共に、該薄切片を引き上げたテープで掬い上げる工程とを、自動的に行う装置である。この収拾保持装置を利用することで、作業者の負担を若干減らすことができる。
【特許文献1】特開平6−323967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の方法ではまだ以下の課題が残されていた。
始めに、高品質な薄切片標本を作製するためには、上述した伸展工程を行う際に、薄切片の破片やゴミ等の浮遊物がない場所を選んで、薄切片を水やお湯に浮かべる必要がある。通常、この作業は作業者が目で確認しながら行っているが、いくら注意を払っていたとしても、浮遊物が薄切片にくっついて取り込まれてしまう場合があった。このように、薄切片に浮遊物が取り込まれてしまうと、該浮遊物が汚染源となるので、粗悪な薄切片標本となってしまい、その後使用することができなくなってしまう。特に、取り扱う薄切片の数が膨大であるうえ、水面の揺らぎ等の影響を受けて浮遊物が液面を移動するので、作業者にかかる負担が大きいものであった。
【0009】
また、特許文献1に記載されている装置を利用することで、作業者の負担を若干減らすことができるが、水面に浮かんだ薄切片を単にテープで掬い取るだけであるので、やはり薄切片に浮遊物がくっついてしまう恐れがあった。つまり、この装置は、仮に水面に浮遊物が浮かんでしまったとしても、これら浮遊物を除去する等の考慮が何らされていない。そのため、浮遊物がくっついた薄切片をテープに掬い取ってしまう恐れがあった。
【0010】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、作業者にかかる負担を極力減らしながら、包埋ブロックから作製された薄切片を、浮遊物を付着させることなく確実に伸展させることができる伸展装置並びに伸展方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る伸展バスは、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を、基板上に掬い取られるまでの間、液体に浮かばせた状態で伸展させる伸展装置であって、底面と側壁とで囲まれた空間に前記液体が貯留され、該液体内に上方から前記基板を挿入可能とされた伸展バスと、前記薄切片が前記基板上に掬い取られた後、前記伸展バスに前記液体を供給して該伸展バスから液体を溢れ出させると共に、前記底面から一定距離離間した所定高さに液面が位置するように液体の量を調整する液量調整手段と、前記伸展バスから溢れ出た前記液体を回収すると共に、回収した液体を外部に排出する液体排出手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
この発明に係る伸展装置においては、伸展バスに液体が貯留されているので、作業者は包埋ブロックから薄切して作製された薄切片を伸展バスに移動させた後、液体に浮かべることで薄切片の皺や丸み等を取り除く伸展作業を行うことができる。この伸展バスは、底面と側壁とで囲まれた構造で上方が開口しているので、上方から基板を液体内に挿入することができる。これにより作業者は、薄切片を容易に液体に浮かべることができると共に、伸展が終了した薄切片を基板上に掬い取って固定することができ、薄切片標本を作製することができる。
【0013】
また、液量調整手段及び液体排出手段を備えているので、上述した薄切片の伸展を行った後に、薄切片の破片やゴミ等の浮遊物が液面に浮いていたとしても、次の薄切片を伸展させる前にこれらを取り除くことができる。
つまり、薄切片を基板上に掬い取った後、液量調整手段によって伸展バスにさらに液体を供給して、貯留された液体を伸展バスから溢れ出させる(オーバーフローさせる)。これにより、液面に浮いていた浮遊物を液体と一緒に伸展バスの外部に流すことができる。また、伸展バスから液体と一緒に流された浮遊物は、液体排出手段によって回収された後、排出される。従って、次の薄切片を浮かばせる前に、伸展バス内の液体を浮遊物が存在しない清浄な状態にすることができる。
そして、オーバーフローが終了した後、伸展バスの底面から一定距離離間した所定高さに液面が位置するように、液体の量を調整する。これにより、次の薄切片を伸展バス内で確実に浮かべることができる。
【0014】
上述したように、薄切片を液体に浮かべる前にオーバーフローを行って、伸展バスから浮遊物を排除することができるので、常に清浄な液体で伸展を行うことができる。よって、従来とは異なり、薄切片に浮遊物が付着することがない。そのため、高品質な薄切片標本を作製することができる。また、従来のように、作業者が注意深く液面を目視して、浮遊物の有無や位置を確認する必要がないので、作業者の負担を大幅に軽減でき、作業効率を向上することができる。
【0015】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明の伸展装置において、前記側壁の上端面が、内面から外面に向かって斜めに形成された斜面となっており、内面側が外面側よりも高くなっていることを特徴とするものである。
【0016】
この発明に係る伸展装置においては、伸展バスの側壁の上端面が斜面となっているので、液体をオーバーフローさせる際に該液体が斜面を伝わって零れ落ち易い。従って、よりスムーズに液体を伸展バスから溢れ出させることができ、浮遊物を伸展バスから排除し易い。
【0017】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明の伸展装置において、前記上端面が、前記液体に対して親和性を有する親水面とされていることを特徴とするものである。
【0018】
この発明に係る伸展装置においては、伸展バスの側壁の上端面が親水面となっているので、液体をオーバーフローさせる際に、積極的に該液体を斜面となった上端面側に引っ張り込むことができる。即ち、表面張力で踏ん張る前に、液体を上端面側に引き寄せることができる。従って、さらにスムーズに液体を伸展バスから溢れ出させることができ、浮遊物をより排除し易い。
【0019】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明のいずれかの伸展装置において、前記側壁の内面には、前記液体に対して疎水性を有する疎水面が前記所定高さにおいて該内面を一周囲むように形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
この発明に係る伸展装置においては、通常時における液面位置(薄切片を浮かべる際の液面位置)において、伸展バスの側壁の内面を一周囲むように疎水面が形成されている。そのため、液面に浮かんで伸展がなされている薄切片が側壁に近づいたとしても、該側壁に貼り付いて付着してしまうことを極力防止することができる。よって、薄切片を無駄にすることなく、確実に伸展させることができる。また、薄切片が側壁に付着し難いので、伸展バスのサイズをできるだけ小さく設計することができる。これにより、伸展バスの小型化を図ることができる。また、伸展バスの内部に貯留する液体の量をできるだけ少量にすることができるので、ランニングコストを抑えることができる。
【0021】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明のいずれかの伸展装置において、前記液量調整手段が、前記液体が予め貯えられた貯液タンクと、該貯液タンクと前記伸展バスの底面との間に接続され、内部を前記液体が流れる管路と、該管路を介して前記貯液タンクから前記伸展バス内に前記液体を供給して該液体を伸展バスから溢れ出させる供給部と、前記液体を溢れ出させた後、前記伸展バス内の液体の量を調整して液面の位置を前記所定高さに位置させる調整部とを備えていることを特徴とするものである。
【0022】
この発明に係る伸展装置においては、供給部によって貯液タンクに予め貯えられた液体を、管路を介して伸展バスに供給することで、オーバーフローを確実に行うことができる。特に、伸展バスの底面側から液体を供給できるので、水面が泡立ってしまうことをできるだけ防止することができる。これにより、液面に浮かんでいる浮遊物が液体内に混入してしまうことを防ぐことができ、液体と一緒に確実に伸展バスの外部に排除することができる。また、オーバーフローを行った後、調整部によって液体の量を自在に調整でき、液面の位置を決められた所定高さに確実に位置させることができる。
【0023】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明の伸展装置において、前記伸展バス内に供給した前記液体の量に応じて前記貯液タンク内に液体を給水して、貯液タンク内に貯えられている液体の量を一定量に維持する給水手段を備えていることを特徴とするものである。
【0024】
この発明に係る伸展装置においては、給水手段が、オーバーフローによって伸展バス内に供給した液体の量に応じて貯液タンク内に液体を給水するので、貯液タンクに貯えられる液体の量を常に一定量に維持することができる。つまり、いかなる場合であっても、貯液タンク内に液体を同じ量だけ確保することができる。よって、貯液タンクのサイズをできるだけ小さく設計することができる。これにより、貯液タンクの小型化を図ることができる。
【0025】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明の伸展装置において、前記貯液タンク内に貯えられた前記液体を、所定温度に加温する加温手段を備え、前記貯液タンク、前記管路及び前記伸展バスが、断熱体によってそれぞれ周囲が保温されていることを特徴とするものである。
【0026】
この発明に係る伸展装置においては、加温手段によって貯液タンクに貯えられた液体を所定温度に加温できるので、薄切片の伸展をより温かい温度の液体を利用して行うことができる。よって、薄切片がより伸び易くなるので、皺や丸みをより効果的に取り除くことができる。従って、さらに高品質な薄切片標本を作製することができる。
特に、貯液タンク、管路及び伸展バスは、それぞれ断熱体によって周囲が保温されているので、加温された液体の温度が低下し難い。そのため、加温手段を無駄に作動させることなく、長時間に亘って効率的に液体の温度を所定温度に維持することができる。
【0027】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明のいずれかの伸展装置において、前記伸展バスに貯留された前記液体の液面に対して一方向に向かって送風する送風手段を備えていることを特徴とするものである。
【0028】
この発明に係る伸展装置においては、送風手段によって液面に対して一方向に送風できるので、液体をオーバーフローさせた際に、液体を強制的に流動させて伸展バスの外部に押し流すことができる。従って、液面に浮いた浮遊物をより短時間で確実に排除することができる。
また、伸展が終了した薄切片を基板上に掬い取る際に、薄切片を基板に向けて移動させることができる。従って、基板に対して薄切片を押し付けることができ、容易且つ確実に薄切片を掬い取ることができると共に、作業効率を向上することができる。
【0029】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明のいずれかの伸展装置において、前記伸展バスの側壁の一部分が、他の部分よりも低く形成されており、前記液体を集中的に伸展バスから溢れ出させることを特徴とするものである。
【0030】
この発明に係る伸展装置においては、液体をオーバーフローさせた際に、液体が他の部分よりも低くなった側壁の一部分から積極的に伸展バスの外部に溢れ出る。つまり、液体をより強制的に流動させて、伸展バスの外部に流れ出させることができる。従って、液面に浮いた浮遊物をより短時間で確実に排除することができる。
【0031】
また、本発明に係る伸展装置は、上記本発明のいずれかの伸展装置において、前記伸展バスの底面の一部分には、挿入された前記基板が入り込む凹部が形成されていることを特徴とするものである。
【0032】
この発明に係る伸展装置においては、薄切片を掬い取る際に、凹部内に基板を挿入することができる。従って、凹部以外の伸展バスの深さをできるだけ浅くすることができ、貯留する液体の量を最小限に抑えることができる。よって、ランニングコストを抑えることができる。
【0033】
また、本発明に係る伸展方法は、生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を、基板上に掬い取るまでの間、伸展バスに貯留された液体に浮かばせて伸展させる方法であって、前記薄切片を前記液体に浮かばせる前に、前記伸展バス内に液体を供給して、貯留されている液体を伸展バスから溢れ出させるオーバーフロー工程と、該オーバーフロー工程後、前記伸展バスの底面から一定距離離間した所定高さに液面が位置するように前記液体の量を調整する調整工程と、該調整工程後、薄切が終了した前記薄切片を前記伸展バスに貯留された前記液体上に浮かばせて伸展を行う伸展工程とを行うことを特徴とするものである。
【0034】
この発明に係る伸展方法においては、オーバーフロー工程、調整工程及び伸展工程を順次繰り返し行うことで、浮遊物が付着してしまうことを防止しながら薄切片を伸展させることができる。
始めに、薄切片を伸展バスに貯留された液体に浮かばせる前に、伸展バス内にさらに液体を供給して、貯留された液体を伸展バスから溢れ出させる(オーバーフローさせる)。これにより、仮に液面に薄切片の破片やゴミ等の浮遊物が浮いていたとしても、液体と一緒に伸展バスの外部に流すことができる。従って、薄切片を浮かばせる前に、伸展バス内の液体を浮遊物が存在しない清浄な状態にすることができる。
【0035】
そして、オーバーフローが終了した後、伸展バスの底面から一定距離離間した所定高さに液面が位置するように、液体の量を調整する調整工程を行う。これにより、薄切片を液体に浮かばせた時に、伸展バス内で確実に浮かべることができる。
この調整工程が終了した後、作業者は包埋ブロックから薄切して作製された薄切片を伸展バスに移動させた後、伸展バス内に貯留された液体に浮かべる。これにより、薄切した際に生じた薄切片の皺や丸み等を取り除くことができ、薄切片を伸展させることができる。
【0036】
特に、薄切片を液体に浮かべる前にオーバーフローを行って、浮遊物を排除することができるので、常に清浄な液体で伸展を行うことができる。よって、従来とは異なり、薄切片に浮遊物が付着することがない。よって、伸展した薄切片を掬い取って基板上に固定することで、高品質な薄切片標本を作製することができる。また、従来のように、作業者が注意深く液面を目視して、浮遊物の有無や位置を確認する必要がないので、作業者の負担を大幅に軽減でき、作業効率を向上することができる。
【0037】
また、本発明に係る伸展方法は、上記本発明の伸展方法において、前記オーバーフロー工程を行う際に、所定時間の間前記液体を溢れ出させる、若しくは、所定量だけ前記液体を溢れ出させることを特徴とするものである。
【0038】
この発明に係る伸展方法においては、オーバーフロー工程を行う際に、所定時間の間、液体を伸展バスから溢れ出させる、若しくは、貯留されている液体を所定量、例えば、1/3の量だけ溢れ出させる。こうすることで、液面に浮かんでいる浮遊物を確実に伸展バスの外部に流して、伸展バスから排除することができる。
【0039】
また、本発明に係る伸展方法は、上記本発明の伸展方法において、前記オーバーフロー工程を行う際に、前記伸展バス内に貯留されている前記液体を全て溢れ出させて新たな液体に入れ替えることを特徴とするものである。
【0040】
この発明に係る伸展方法においては、オーバーフロー工程を行う際に、伸展バス内に貯留されている液体を全て溢れ出させて、新たな液体に入れ替える。こうすることで、液面に浮かんでいる浮遊物はもちろんのこと、液体内に仮に不純物等が混入していたとしても、これらを伸展バスから完全に排除することができる。
【0041】
また、本発明に係る伸展方法は、上記本発明のいずれかの伸展方法において、前記オーバーフロー工程を行う際に、前記液体の液面に対して一方向に向かって送風して、液体を強制的に流動させることを特徴とするものである。
【0042】
この発明に係る伸展方法においては、オーバーフロー工程を行う際に、伸展バスから溢れ出している液体の液面に対して一方向に向かって送風して、この送風によって液体をさらに強制的に流動させる。これにより、液体をより積極的に伸展バスの外部に流すことができ、より短時間で確実に浮遊物を排除することができる。
【0043】
また、本発明に係る伸展方法は、上記本発明のいずれかの伸展方法において、前記液体として、所定温度に加温した液体を用いることを特徴とするものである。
【0044】
この発明に係る伸展方法においては、薄切片の伸展をより温かい温度の液体を利用して行うことができる、よって、薄切片がより伸び易くなるので、皺や丸みをより効果的に取り除くことができる。従って、さらに高品質な薄切片標本を作製することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る伸展装置及び伸展方法によれば、作業者にかかる負担を極力減らしながら、包埋ブロックから作製された薄切片を、浮遊物を付着させることなく確実に伸展させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明に係る伸展装置及び伸展方法の一実施形態を、図1から図6を参照して説明する。
本実施形態の伸展装置1は、生体試料が包埋された包埋ブロックBを薄切して作製された薄切片Mを、スライドガラス(基板)G上に掬い取られるまでの間、温水(液体)W1に浮かばせた状態で伸展させる装置である。
【0047】
始めに、包埋ブロックBは、図1に示すように、ホルマリン固定された生体試料S内の水分をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィン等の包埋剤Nによってブロック状に固めたものである。これにより、生体試料Sがパラフィン内に包埋された状態となっている。なお、生体試料Sとしては、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器等の組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野等で適時選択させるものである。
また、薄切片Mは、この包埋ブロックBを図示しない切断刃によって例えば、3μm〜5μmの極薄に薄切することで矩形状に作製されたものである。
【0048】
本実施形態の伸展装置1は、図2に示すように、温水W1を貯留する伸展バス2と、温水W1の量を調整する液量調整手段3と、伸展バス2から溢れた温水W1を回収すると共に外部に排出する液体排出手段4とを備えている。
上記伸展バス2は、底面2aと側壁2bとで構成されており、この底面2aと側壁2bとで囲まれた空間に温水W1が貯留されている。また、本実施形態の伸展バス2は、横幅X1がスライドガラスGの幅X2よりも若干大きく、且つ、長さL1がスライドガラスGの長さL2よりも若干長くなるサイズで側壁2bが上面視矩形状に形成されている。これにより、伸展バス2の上方からスライドガラスGを温水W1の中に挿入できるようになっている。
【0049】
また、側壁2bの上端面2cは、図3に示すように、内面から外面に向かって斜めに形成された斜面となっている。この際、内面側が外面側よりも高くなっている。しかも、この斜面には、温水W1に対して親和性を有する材料がコーティングされている。これにより、斜面となった側壁2bの上端面2cは、親水面となっている。
また、側壁2bの内面には、底面2aから一定距離離間した所定高さにおいて、該内面を一周囲むように温水W1に対して疎水性を有する疎水面5が形成されている。この疎水面5は、例えば、疎水性を有する材料を内面にコーティングすることで形成されている。
【0050】
上記液量調整手段3は、薄切片MがスライドガラスG上に掬い取られた後、伸展バス2に温水W1をさらに供給して該伸展バス2から温水W1を溢れ出させると共に、底面2aから一定距離離間した所定高さ、即ち、疎水面5が形成された高さに液面が位置するように温水W1の量を調整するものである。
即ち、液量調整手段3は、図2及び図3に示すように、温水W1が予め貯えられた温水タンク(貯液タンク)10と、該温水タンク10と伸展バス2の底面2aとの間に接続され、内部を温水W1が流れるパイプ(管路)11と、該パイプ11を介して温水タンク10から伸展バス2内に温水W1を供給して、温水W1を伸展バス2から溢れ出させる供給ポンプ(供給部)12と、温水W1を溢れ出させた後、伸展バス2内の温水W1の量を調整して、液面の位置を疎水面5が形成された所定高さに位置させる調整部13とを備えている。
【0051】
温水タンク10は、伸展バス2に隣接して設けられており、内部に一定量の温水W1が貯えられている。また、温水タンク10内には、温水W1の液面高さを感知する液面センサ15が取り付けられており、温水W1が一定量貯えられているときにだけポンプコントローラ16に信号を出力するようになっている。ポンプコントローラ16は、液面センサ15からの信号の有無によって、温水タンク10内に貯えられている液量が一定量であるか否かを認識できるようになっている。
【0052】
上記供給ポンプ12は、パイプ11の途中に設けられており、ポンプコントローラ16からの信号によって作動して、温水タンク10内に貯えられている温水W1を伸展バス2に供給するようになっている。この際、ポンプコントローラ16は、作業者によって入力された外部制御信号を受けて供給ポンプ12に信号を出力するようになっている。この供給ポンプ12の作動によって、伸展バス2内に貯留されている温水W1は徐々に水位が上昇して、伸展バス2の側壁2bの高さを越えた時点で溢れるように(オーバーフローするように)なっている。
【0053】
また、オーバーフローによって水位が上昇した温水W1は、連通孔17を介してその後排水されることで、水位が下降するようになっている。この連通孔17は、疎水面5と底面2aとの間における側壁2bに、伸展バス2の内部と外部とを連通するように形成されている。また、連通孔17の途中には、外部信号を受けて作動するバルブ18が設けられており、該連通孔17を自在に開閉できるようになっている。これにより、オーバーフローによって一旦上昇した水位を下げることができるようになっている。つまり、連通孔17及びバルブ18は、上記調整部13として機能する。
【0054】
また、温水タンク10の上部には、内部に水(液体)W2を供水する給水パイプ19が接続されている。この給水パイプ19の途中には、上記供給ポンプ12と同様にポンプコントローラ16からの信号によって作動する給水ポンプ20が設けられている。ここで、ポンプコントローラ16は、液面センサ15からの信号に基づいて温水タンク10内の液量が一定量より減った認識すると、供給ポンプ12に信号を出力して作動させるようになっている。また、ポンプコントローラ16は、温水タンク10内の液量が一定量に達したと認識すると、信号を停止して給水ポンプ20の作動を停止させている。
つまりポンプコントローラ16、給水ポンプ20、給水パイプ19及び液面センサ15は、伸展バス2内に供給した温水W1の量に応じて温水タンク10に水を供給して、温水タンク10内の液量を常に一定量に維持する給水手段21として機能している。
【0055】
更に温水タンク10内には、温度コントローラ25によって発熱量が制御されたヒータ26と、貯えられた温水W1の温度を測定すると共に、測定結果を温度コントローラ25に出力する温度センサ27とが取り付けられている。そして温度コントローラ25は、温度センサ27から送られてきた測定結果に基づいて、貯えられた温水W1が所定温度、例えば、40℃から70℃の温度になるようにヒータ26を発熱させている。これにより、給水パイプ19によって水W2が給水されたとしても、温水タンク10内で確実に所望する温度の温水W1にすることができる。
つまり、温度コントローラ25、ヒータ26及び温度センサ27は、温水タンク10内に貯えられた液体(温水W1+水W2)を加温して所望する温度の温水W1にする加温手段28として機能する。
【0056】
また、温水タンク10、パイプ11及び伸展バス2は、断熱材(断熱体)29によってそれぞれ周囲が囲まれて、保温された状態になっている。これにより、放熱をできるだけ防いで、温水W1の温度が直ちに低下することを防止している。そのため、加温手段28を無駄に作動させる必要がなく、長時間に亘って効率的に温水W1の温度を所定温度に維持することができる。なお、図2では、図を見易くするため、伸展バス2周囲の断熱材29の図示を省略している。
【0057】
また、上述した伸展バス2は、やはり底面30aと側壁30bとで構成される回収槽30の底面30aに載置されている。この回収槽30は、伸展バス2の側壁2bと自身の側壁30bとの間に十分な隙間が空くようにサイズが設計されている。また、回収槽30の底面30aには、伸展バス2の側壁2bと自身の側壁30bとの間にドレン管31が接続されている。これにより、伸展バス2から溢れ出た温水W1は、回収槽30に回収された後、ドレン管31を介して外部に排出されるようになっている。
つまり回収槽30及びドレン管31は、上記液体排出手段4として機能するようになっている。
【0058】
次に、このように構成された伸展装置1を利用して薄切片Mを伸展させた後、作業者が伸展後の薄切片MをスライドガラスG上に掬い取って固定し、薄切片標本を作製する場合について説明する。
本実施形態の伸展方法は、オーバーフロー工程と、調整工程と、伸展工程とを順々に行って、包埋ブロックBを薄切して作製された薄切片MをスライドガラスG上に掬い取られるまでの間、伸展バス2に貯留された温水W1に浮かばせて伸展を行う方法である。これら各工程について、以下に詳細に説明する。
【0059】
なお、説明を判り易くするため、初期状態として図3に示すように、液面が疎水面5に達した状態で伸展バス2内に温水W1が貯留されているものとする。なお、この際バルブ18は閉まっており、連通孔17は閉塞した状態となっている。また、温水タンク10内には、図2に示すように、温水W1が一定量だけ貯えられている。これによりポンプコントローラ16は、液面センサ15からの信号を受けて、温水タンク10内の液量が一定量であると認識しており、給水ポンプ20の作動を停止させている。また、温水タンク10内に貯えられている温水W1は、加温手段28によって所望する温度範囲内に加温されている。
【0060】
このような初期状態を確認した後、作業者は包埋ブロックBを薄切して薄切片Mの作製を開始する。またこれと同時に、伸展工程を行う前準備として、上記オーバーフロー工程を行う。このオーバーフロー工程は、薄切片Mを温水W1に浮かばせる前に、伸展バス2内にさらに温水W1を供給して、貯留された温水W1を伸展バス2からオーバーフローさせる工程である。
具体的には、作業者はポンプコントローラ16に外部制御信号を入力する。これを受けて、ポンプコントローラ16は、給水ポンプ20を作動させる。すると、温水タンク10内に貯えられている温水W1が、パイプ11を通って伸展バス2に流れ込むので、伸展バス2内の温水W1の水位が徐々に上昇し始める。そして、温水W1の水位が伸展バス2の側壁2bの高さを越えた時点で、図4に示すように、伸展バス2の外部に溢れ出す。これにより、仮に温水W1の液面にゴミ等の浮遊物Dが浮いていたとしても、温水W1と一緒に伸展バス2から排出することができる。
【0061】
この際、ポンプコントローラ16は、所定時間の間、供給ポンプ12を作動させて温水W1を溢れ出させる、若しくは、予め伸展バス2に貯留されている温水W1を所定量だけ、例えば、1/3の量だけ溢れ出させる。こうすることで、液面に浮かんでいる浮遊物Dを確実に伸展バス2の外部に流して、排除することができる。
また、この場合に限られず、予め伸展バス2に貯留されている温水W1を全て溢れ出させて新たな温水W1に入れ替えるようにしても構わない。こうすることで、液面に浮かんでいる浮遊物Dはもちろんのこと、温水W1内に仮に不純物等が混入していたとしてもこれらを完全に排除することができる。
【0062】
特に、本実施形態の伸展バス2は、側壁2bの上端面2cが斜面となっているので、オーバーフローさせた際に、温水W1が斜面を伝わって零れ落ち易い。しかも、この斜面となっている上端面2cは、親水面となっている。そのため、積極的に温水W1を上端面2c側に引っ張り込むことができる。即ち、表面張力で踏ん張る前に、温水W1を上端面2c側に引き寄せることができる。これらのことから、スムーズに温水W1を伸展バス2から溢れ出させることができ、浮遊物Dを排除し易い。
【0063】
また、伸展バス2の底面2aに接続されているパイプ11を介して温水W1を供給するので、伸展バス2の底面2a側から伸展バス2内に温水W1を供給できる。そのため、水面が泡立ってしまうことをできるだけ防止することができる。これにより、液面に浮かんでいる浮遊物Dが温水W1内に混入してしまうことを防ぐことができ、より確実に温水W1と一緒に伸展バス2の外部に排除することができる。
【0064】
上述したようにオーバーフロー工程を行うことで、薄切片Mを浮かばせる前に、伸展バス2内の温水W1を浮遊物Dが存在しない清浄な状態にすることができる。また、伸展バス2から溢れ出た温水W1及び浮遊物Dは、回収槽30によって回収された後、ドレン管31から外部に排出される。なお、作業者はポンプコントローラ16を介して供給ポンプ12を停止させることで、オーバーフロー工程を終了することができる。
【0065】
また、オーバーフロー工程を行っている間、温水タンク10内に貯えられている温水W1は徐々に水位が下がり始めている。すると、ポンプコントローラ16は、液面センサ15からの信号が途絶えるので、温水タンク10内の液量が所定量より減っていると認識する。これにより、ポンプコントローラ16は、図2に示すように、給水ポンプ20に信号を出力して作動させ、温水タンク10内に水W2の給水を開始させる。またこの水W2の給水により、温水W1の温度が若干低下するが、温度コントローラ25が温度センサ27からの測定結果を受けて、温度低下を直ちに認識してヒータ26の発熱量を増加させる。これにより、温水タンク10内に貯えられている温水W1の温度を所定温度よりも低下することを防止することができる。
【0066】
また、オーバーフロー工程を行っている間、若しくは、オーバーフロー工程後において、ポンプコントローラ16は液面センサ15からの信号に基づいて、適宜給水ポンプ20の作動を制御する。これにより、温水タンク10内の液量を常に一定量に維持することができる。つまり、オーバーフロー工程を含むいかなる場合であっても、温水タンク10内に温水W1を同じ量だけ確保することができる。これにより、大型の温水タンク10を用意する必要がなく、温水タンク10の小型化を図ることができる。しかも、この温水タンク10があるために、所定温度に加温された温水W1を安定して伸展バス2に供給することができる。
【0067】
上述したオーバーフロー工程が終了した後、伸展バス2の側壁2bの頂点まで水位が上昇した温水W1を、底面2aから一定距離離間した所定高さに位置する疎水面5に液面が位置するように温水W1の量を調整する調整工程を行う。
具体的には、伸展バス2に設けられたバルブ18を作動させて、連通孔17の閉塞を解く。これにより、図5に示すように、伸展バス2内の温水W1が連通孔17を介して外部に排水されるので、温水W1の水位を徐々に下げることができる。なお、排水された温水W1は、オーバーフロー時と同様に、回収槽30で回収された後、ドレン管31から排出される。そして、液面が疎水面5に達した時点で、バルブ18を閉めて連通孔17を再度閉塞させる。
このように、オーバーフロー工程後、調整部13によって温水W1の量を自在に調整でき、液面の位置を決められた所定高さに確実に位置させることができる。これにより、次の伸展工程時で薄切片Mを温水W1に浮かべた時に、伸展バス2内で確実に浮かべることができる。
【0068】
上述した調整工程が終了した後、作業者は薄切が終了した薄切片Mを伸展バス2に貯留された温水W1に浮かばせて伸展を行う伸展工程を行う。これにより、薄切した際に生じた皺や丸み等を取り除くことができ、薄切片Mを伸展させることができる。
特に、薄切片Mを温水W1に浮かべる前にオーバーフローを行って浮遊物Dを排除しているので、清浄な温水W1を利用して伸展を行うことができる。よって、従来とは異なり、薄切片Mに浮遊物Dが付着することがない。また、従来のように、作業者が薄切片Mを温水W1に浮かべる際に、注意深く液面を目視して、浮遊物Dの有無や位置を確認する必要がないので、作業者の負担を大幅に軽減でき、この伸展工程の作業効率を向上することができる。
【0069】
また、本実施形態では、所定温度に加温された温水W1を利用して伸展を行うので、より薄切片Mが伸び易くなり、皺や丸みをより効果的に取り除くことができる。また、疎水面5に液面が位置するように温水W1の水位が調整されているので、液面に浮かんで伸展がなされている薄切片Mが側壁2bに近づいたとしても、該側壁2bに貼り付いて付着してしまうことを極力防止することができる。よって、薄切片Mを無駄にすることなく、確実に伸展させることができる。
また、伸展工程中に薄切片Mが側壁2bに付着し難いので、伸展バス2のサイズをできるだけ小さいサイズに設計することができる。つまり、最初に説明したように、スライドガラスGよりも若干大きい程度の必要最小限のサイズにすることができる。これにより、伸展バス2の小型化を図ることができる。また、伸展バス2の内部に貯留する温水W1の量をできるだけ少量にすることができるので、ランニングコストを抑えることができる。
【0070】
次に、作業者はこの伸展工程によって十分に薄切片Mの伸展が終了したと判断すると、図6に示すように、伸展バス2の上方から温水W1内にスライドガラスGをゆっくりと挿入する。そして、スライドガラスGの端に薄切片Mの端部を付着させた後、ゆっくりとスライドガラスGを引き上げる。これにより、スライドガラスG上に薄切片Mを掬い取って固定することができる。その後、スライドガラスGを乾燥することで、薄切片標本を作製することができる。特に、浮遊物Dが付着していない薄切片Mであるので、高品質な薄切片標本を作製することができる。
【0071】
上述したように、本実施形態の伸展装置1及び伸展方法によれば、作業者にかかる負担を極力減らしながら、浮遊物Dを付着させることなく確実に薄切片Mを伸展させることができる。その結果、高品質な薄切片M及び薄切片標本を作製することができる。
【0072】
また、薄切片Mを掬い取った後、次の薄切片Mを伸展させる前に、再度オーバーフロー工程及び調整工程を行った後、伸展工程を行う。特に、最初の薄切片Mを温水W1に浮かべた後は、液面上にゴミに加え、薄切片Mの破片等が浮いてしまう可能性があり、浮遊物Dがより一層生じてしまう恐れがある。しかしながら、上述したように薄切片Mを浮かべる前に毎回必ずオーバーフローさせるので、浮遊物Dを伸展バス2から排除できる。従って、2枚目以降の薄切片Mについても、浮遊物Dを付着させることなく確実に伸展させることができる。
【0073】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態では、加温手段28により所定温度に加温された温水W1を利用して、薄切片Mの伸展を行う場合を例にしたが、この場合に限られず、常温の水を利用して伸展を行っても構わない。但し、温水W1を利用することで、薄切片Mがより伸展し易くなるのでより好ましい。
また、伸展バス2内に温水W1を供給する供給ポンプ12を、供給だけでなく、伸展バス2内から温水W1を排水することができるポンプに変えても構わない。こうすることで、オーバーフローさせた後の伸展バス2の水位を調整することが可能となる。これにより、連通孔17及びバルブ18を不要にすることができ、より構成を単純化することができる。なおこの場合には、このポンプが調整部13を兼ねることになる。
【0075】
また、上記実施形態では、伸展バス2の側壁2bを全て同じ高さにしたが、一部分を他の部分よりも低く形成して、オーバーフローさせたときに、低くなった場所から集中的に温水W1を溢れ出させても構わない。
こうすることで、オーバーフロー時に温水W1をより積極的に流動させた状態で伸展バス2の外部に流すことができる。つまり、強制的に流れを作ることができる。従って、液面に浮いた浮遊物Dをより短時間で確実に排除することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、回収槽30で回収した温水W1を、ドレン管31を介して排出させた構成にしたが、排出した温水W1をフィルタ等により濾過させた後、給水パイプ19に再度戻すように設計しても構わない。こうすることで、不要になった温水W1から浮遊物Dや不純物等を除去した後、再利用できるのでランニングコストをさらに低下することができる。
【0077】
また、上記実施形態において、図7に示すように、伸展バス2に貯留された温水W1の液面に対して一方向に向かって送風するブロア(送風手段)40を取り付けても構わない。このブロア40は、例えば、図示しない架台によって伸展バス2の上方に固定されており、伸展バス2の長手方向に向かって送風する。
このブロア40を取り付けることで、図8に示すように、オーバーフロー工程を行う際に、伸展バス2から溢れ出している温水W1の液面に対して一方向に送風することができる。すると温水W1は、送風によって強制的に流動された状態となる。これにより、液体をより積極的に伸展バス2の外部に流すことができ、より短時間で確実に浮遊物Dを排除することができる。
【0078】
また、オーバーフロー時だけでなく、図9に示すように、薄切片MをスライドガラスG上に掬い取る際に送風を行うこともできる。こうすることで、図10に示すように、薄切片MをスライドガラスGに向けて移動させることができる。従って、スライドガラスGに対して薄切片Mを押し付けることができ、容易且つ確実に薄切片Mを掬い取ることができる。そのため、作業効率を向上することができる。
【0079】
また、上記実施形態において、図11及び図12に示すように、底面2aの一部分に挿入されたスライドガラスGが入り込む凹部2dが形成されている伸展バス2を用いても構わない。なお、図11では、図を見易くするために、断熱材29の図示を省略している。
こうすることで、薄切片Mを掬い取る際に、凹部2d内にスライドガラスGを挿入することができる。従って、凹部2d以外の伸展バス2の深さをできるだけ浅くすることができ、貯留する温水W1の量を最小限に抑えることができる。よって、ランニングコストを抑えることができる。なおこの場合において、伸展バス2自体の温度を温水W1と略同じ温度に加熱できるように構成すると良い。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る伸展装置で伸展される薄切片を示す図である。
【図2】本発明に係る伸展装置の一実施形態を示す構成図である。
【図3】図2に示す伸展バス及び回収槽の断面図である。
【図4】図3に示す状態から、温水を伸展バス内から溢れ出させて、オーバーフローを行っている状態を示す図である。
【図5】図4に示す状態から、伸展バスの側壁の上端面まで上昇した温水の水位を減少させている状態を示す図である。
【図6】伸展バスの温水にスライドガラスを挿入して、伸展が終了した薄切片を掬い取る直前の状態を示す図である。
【図7】貯留された温水の液面に対して送風を行えるブロアを、伸展バスの上方に設けた状態を示す斜視図である。
【図8】図7に示すブロアを利用して、オーバーフロー時に温水の液面に対して送風を行い、液面に浮かんだ浮遊物を強制的に伸展バスの外部に流している状態を示す図である。
【図9】図7に示すブロアを利用して、伸展を行っている際に温水の液面に対して送風を行い、液面に浮かんだ薄切片をスライドガラス側に移動させている状態を示す図である。
【図10】図9に示す状態の断面図である。
【図11】伸展バスの変形例を示す斜視図であって、底面にスライドガラスが挿入される凹部が形成された伸展バスを示す図である。
【図12】図11に示す伸展バスの断面図である。
【符号の説明】
【0081】
B 包埋ブロック
G スライドガラス(基板)
M 薄切片
S 生体試料
W1 温水(液体)
W2 水(液体)
1 伸展装置
2 伸展バス
2a 伸展バスの底面
2b 伸展バスの側壁
2c 側壁の上端面
2d 伸展バスの凹部
3 液量調整手段
4 液体排出手段
5 疎水面
10 温水タンク(貯液タンク)
11 パイプ(管路)
12 供給ポンプ(供給部)
13 調整部
21 給水手段
28 加温手段
29 断熱材(断熱体)
40 ブロア(送風手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を、基板上に掬い取られるまでの間、液体に浮かばせた状態で伸展させる伸展装置であって、
底面と側壁とで囲まれた空間に前記液体が貯留され、該液体内に上方から前記基板を挿入可能とされた伸展バスと、
前記薄切片が前記基板上に掬い取られた後、前記伸展バスに前記液体を供給して該伸展バスから液体を溢れ出させると共に、前記底面から一定距離離間した所定高さに液面が位置するように液体の量を調整する液量調整手段と、
前記伸展バスから溢れ出た前記液体を回収すると共に、回収した液体を外部に排出する液体排出手段とを備えていることを特徴とする伸展装置。
【請求項2】
請求項1に記載の伸展装置において、
前記側壁の上端面は、内面から外面に向かって斜めに形成された斜面となっており、内面側が外面側よりも高くなっていることを特徴とする伸展装置。
【請求項3】
請求項2に記載の伸展装置において、
前記上端面は、前記液体に対して親和性を有する親水面とされていることを特徴とする伸展装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の伸展装置において、
前記側壁の内面には、前記液体に対して疎水性を有する疎水面が前記所定高さにおいて該内面を一周囲むように形成されていることを特徴とする伸展装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の伸展装置において、
前記液量調整手段は、前記液体が予め貯えられた貯液タンクと、
該貯液タンクと前記伸展バスの底面との間に接続され、内部を前記液体が流れる管路と、
該管路を介して前記貯液タンクから前記伸展バス内に前記液体を供給して該液体を伸展バスから溢れ出させる供給部と、
前記液体を溢れ出させた後、前記伸展バス内の液体の量を調整して液面の位置を前記所定高さに位置させる調整部とを備えていることを特徴とする伸展装置。
【請求項6】
請求項5に記載の伸展装置において、
前記伸展バス内に供給した前記液体の量に応じて前記貯液タンク内に液体を給水して、貯液タンク内に貯えられている液体の量を一定量に維持する給水手段を備えていることを特徴とする伸展装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の伸展装置において、
前記貯液タンク内に貯えられた前記液体を、所定温度に加温する加温手段を備え、
前記貯液タンク、前記管路及び前記伸展バスは、断熱体によってそれぞれ周囲が保温されていることを特徴とする伸展装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の伸展装置において、
前記伸展バスに貯留された前記液体の液面に対して一方向に向かって送風する送風手段を備えていることを特徴とする伸展装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の伸展装置において、
前記伸展バスの側壁の一部分が、他の部分よりも低く形成されており、前記液体を集中的に伸展バスから溢れ出させることを特徴とする伸展装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の伸展装置において、
前記伸展バスの底面の一部分には、挿入された前記基板が入り込む凹部が形成されていることを特徴とする伸展装置。
【請求項11】
生体試料が包埋された包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を、基板上に掬い取るまでの間、伸展バスに貯留された液体に浮かばせて伸展させる伸展方法であって、
前記薄切片を前記液体に浮かばせる前に、前記伸展バス内に液体を供給して、貯留されている液体を伸展バスから溢れ出させるオーバーフロー工程と、
該オーバーフロー工程後、前記伸展バスの底面から一定距離離間した所定高さに液面が位置するように前記液体の量を調整する調整工程と、
該調整工程後、薄切が終了した前記薄切片を前記伸展バスに貯留された前記液体上に浮かばせて伸展を行う伸展工程とを行うことを特徴とする伸展方法。
【請求項12】
請求項11に記載の伸展方法において、
前記オーバーフロー工程を行う際に、所定時間の間前記液体を溢れ出させる、若しくは、所定量だけ前記液体を溢れ出させることを特徴とする伸展方法。
【請求項13】
請求項11に記載の伸展方法において、
前記オーバーフロー工程を行う際に、前記伸展バス内に貯留されている前記液体を全て溢れ出させて新たな液体に入れ替えることを特徴とする伸展方法。
【請求項14】
請求項11から13のいずれか1項に記載の伸展方法において、
前記オーバーフロー工程を行う際に、前記液体の液面に対して一方向に向かって送風して、液体を強制的に流動させることを特徴とする伸展方法。
【請求項15】
請求項11から14のいずれか1項に記載の伸展方法において、
前記液体として、所定温度に加温した液体を用いることを特徴とする伸展方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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