説明

伸線用引張補助治具

【課題】線材を牽引部材に干渉させずに容易かつ安全に掴持してキャプスタンに巻き付けることが可能な伸線用引張補助治具を提供する。
【解決手段】線材AをダイスDから引き抜くキャプスタンBへ、複数回巻付ける口出し工程の際に、線材Aと、牽引部材Cの他方端Cbと、を連結する伸線用引張補助治具であって、操作レバーによって揺動する歯部付の偏心カム2を有し線材Aの先端部Aaを掴持する掴持部材1と、枢着ピン10を介して揺動自在に枢着され巻取り外周面Baに接触する接触面3aを有する支持部材3と、支持部材3に連結ピン11を介して揺動自在に枢着され取着ピン12が取付けられる連結部材5と、を備えている。支持部材3の接触面3aが巻取り外周面Baに接触した際に、枢着ピン10の第1軸心L10が連結ピン11の第2軸心L11よりも、キャプスタンBのラジアル外方とし、さらに、取着ピン12の第3軸心L12よりもラジアル外方となるように構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸線用引張補助治具に関する。
【背景技術】
【0002】
トロリー線等の金属製の線材の伸線加工は、先端部を伸線用のダイスに通し、所定の長さ引き出す段取り作業が必要であった。さらに、引き出した線材をキャプスタンに巻き付ける作業も必要であった。
【0003】
従来、このような口出し工程の際に、金属製の線材では人の手によって引き抜くことは困難であり、キャプスタンにチェーンやワイヤー等の牽引部材を巻着させ、キャプスタンを回転駆動して、特許文献1記載のようなくさび状の爪部材を有するチャック部材で線材を掴持し牽引部材と連結し引き抜いていた。また、金属製のネット材を覆うように巻き付かせ摩擦力で線材を把持するものがあった。
また、伸線を引き出す装置として特許文献2記載のような線材端末把持具をレールに沿って移動させて引き出すものが知られている。
【特許文献1】実開平6−76437号公報
【特許文献2】特開2007ー216299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
くさび式のチャック部材では、掴持具に挿通された先端部が牽引部材と干渉するために、飲込み代を深くとれず、先端部の一部をダイスに挿通させるために細く加工した口出し部を掴持するため、チャック部材から抜け易くなり安全面と作業性の面で問題があった。また、細く加工した口出し部を掴持するので破断(断線)し易く安全面と作業性の面で問題があった。また、くさびを打ち込む手間や取り外す手間に多大な労力と時間を費やすという問題があった。また、摩擦力を利用した金属製のネット部材では、引っ張り力に負けて線材がネットから抜けてしまうことがあり安全性に問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、線材を牽引部材に干渉させずに容易かつ安全に掴持してキャプスタンに巻き付けることが可能な伸線用引張補助治具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、上記目的を達成させるために本発明に係る伸線用引張補助治具は、伸線用ダイスによって伸線される線材を該ダイスから引き抜くキャプスタンへ、複数回巻付ける口出し工程の際に、上記線材と、上記キャプスタンに一方端が取着される牽引部材の他方端と、を連結する伸線用引張補助治具であって、操作レバーによって揺動する歯部付の偏心カムを有し引き出される線材の先端部を掴持する掴持部材と、該掴持部材に枢着ピンを介して揺動自在に枢着され上記キャプスタンの巻取り外周面に接触する接触面を有する支持部材と、該支持部材に連結ピンを介して揺動自在に枢着され上記牽引部材の上記他方端が取着される取着ピンが取付けられる連結部材と、を備え、上記支持部材の接触面が上記巻取り外周面に接触した際に、上記枢着ピンの第1軸心が上記連結ピンの第2軸心よりも、上記キャプスタンのラジアル外方とし、かつ、上記取着ピンの第3軸心よりもラジアル外方となるように構成したものである。
【0007】
また、伸線用ダイスによって伸線される線材を該ダイスから引き抜くキャプスタンへ、複数回巻付ける口出し工程の際に、上記線材と、上記キャプスタンに一方端が取着される牽引部材の他方端と、を連結する伸線用引張補助治具であって、操作レバーによって揺動する歯部付の偏心カムを有し、引き出される線材の先端部を掴持する掴持部材と、該掴持部材に枢着ピンを介して揺動自在に枢着され、上記キャプスタンの巻取り外周面に接触する接触面を有する支持部材と、該支持部材に取着されると共に上記牽引部材の上記他方端が取着される連結ピンと、を備え、上記支持部材の接触面が上記巻取り外周面に接触した際に、上記枢着ピンの第1軸心が上記連結ピンの第2軸心よりも、上記キャプスタン(B)のラジアル外方となるように構成したものである。
【0008】
また、上記接触面を、上記キャプスタンの軸心方向から見て該キャプスタンの巻取り外周面に沿う円弧状に形成したものである。
また、上記接触面を、上記第1軸心と上記第2軸心とを含む平面に関して、対称に二面形成したものである。
また、上記歯部を、V字型に形成したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の伸線用引張補助治具によれば、線材の先端部を工具を使用せず容易に掴持することができる。また、牽引部材と干渉しないように容易に掴持できる。つまり、先端部を深く飲み込むように掴持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1は本発明の伸線用引張補助治具の使用状態を説明する簡略説明図である。また、図2は、本発明の第1の実施の形態の側面図である。図3は平面図であり、図4はその使用状態を説明する説明図である。
【0011】
図1に示す20は、本発明の伸線用引張補助治具であって、籠状のドラムFに巻き付けられ、伸線用ダイスDによって伸線されるトロリー線等の金属製の線材AをダイスDから引き抜くキャプスタンBへ、複数回巻き付ける口出し工程(伸線の為の段取り作業)の際に、線材Aの先端部Aaと、キャプスタンBに一方端Caがフック部材Gを介して着脱自在に取着されるチェーンやワイヤ又はスリング等の牽引部材Cの他方端Cbと、を連結するものである。
【0012】
本発明の第1の実施の形態は、ダイスDに挿通させるために一部が細く加工された口出し部Abを最先端に有する先端部Aaを、掴持する掴持部材1を備えている。掴持部材1は、線材Aの先端部Aaが挿通可能な貫通孔1aを形成した平面視コの字状のブロック体6を有している。また、ブロック体6の貫通孔1aの近傍に支点ピン7を介して揺動自在に枢着される平歯車状の歯部2a付の偏心カム2を有している。また、偏心カム2を揺動させる丸杆状の操作レバー4を有している。操作レバー4は、その先端に於て、軸心方向に突出した短寸突出部を有している。また、偏心カム2は、操作レバー4の短寸突出部が抜き差し可能な挿入孔2bを有している。つまり、操作レバー4は、掴持部材1(の偏心カム2)から着脱自在なものである。
【0013】
偏心カム2は、平面視円弧状の曲面に歯部2aを形成している。歯部2aが形成される曲面の曲率半径の中心点から偏心した位置に支点ピン7が挿通される挿通孔2cを有している。また、偏心カム2のカム枢着軸心(支点ピン7の軸心)L7 から遠い歯部2aを先端部Aaが挿通される貫通孔1aに入り込むように揺動可能に配設されている。つまり、偏心カム2は、貫通孔1aに引き込まれる方向に揺動すると、歯部2aが先端部Aaに食い込むように配設されているものである。また、偏心カム2は、キャプスタンBの軸心方向(左右方向)に先端部Aaを押さえ付けるように配設している。
【0014】
また、掴持部材1に枢着ピン10を介して揺動自在に枢着される一対の板状の支持部材3,3と、一対の支持部材3,3に連結ピン11を介して揺動自在に枢着される一対の板状の連結部材5,5と、を備えている。
【0015】
支持部材3は、キャプスタンBの軸心方向(左右方向)から見て(側面視)キャプスタンBの巻取り外周面Baに沿う円弧状に形成した接触面3aを有している。接触面3aは、枢着ピン10の第1軸心L10と連結ピン11の第2軸心L11を含む平面Sに関して、対称に二面形成している。つまり、支持部材3は、側面視で対称の形状となる一対の接触面3a,3aを有している。また、一対の支持部材3,3は、掴持部材1を挟むように各々枢着ピン10,10で枢着され、掴持部材1(ブロック体6の貫通孔1a)から突出する先端部Aaが挿通可能な空間を形成している。
【0016】
一対の板状の連結部材5,5は、一対の支持部材3,3に連結ピン11で各々枢着されている。また、一対の連結部材5,5を左右方向に連結する取着ピン12を取着している。取着ピン12には、牽引部材Cの他方端Cbが取着ピン12の第3軸心L12周りに首振自在に取着されている。言い換えると、連結部材5は、牽引部材Cに揺動自在に取着されるものである。また、一対の連結部材5,5の左右の間隔を、掴持部材1(のブロック体1の貫通孔1a)から突出する先端部Aaが挿通可能な空間を形成している。また、連結部材5は、支持部材3の接触面3aがキャプスタンBの巻取り外周面Baに接触している際に、巻取り外周面Baに接触しないように設けている。
【0017】
また、図4に示すように、支持部材3の接触面3aが巻取り外周面Baに接触した際に、枢着ピン10の第1軸心L10が連結ピン11の第2軸心L11よりも、キャプスタンBのラジアル外方となるように枢着ピン10を設けている。さらに、取着ピン12の第3軸心L12よりもラジアル外方となるように枢着ピン10を設けている。つまり、掴持部材1から突出した先端部Aaが、牽引部材Cの他方端Cbに接触しないための間隙Hを形成するように設けている。また、先端部Aaの一部に(ダイスDを通すために)細く加工した口出し部Abが形成されているが、この口出し部Abでない箇所を掴持可能に掴持部材1を配設している。
【0018】
次に第2の実施の形態について説明する
図6は第2の実施の形態の要部断面平面図であり、図7はその使用状態を説明する説明図である。また、図8は、第2の実施の形態の伸線用引張補助治具の偏心カム2の実施の一例の側面図であり、図9はその正面図である。
引き出される線材Aの先端部Aaを掴持する掴持部材1は、先端部Aaが挿通可能な側方(キャプスタンBの軸心方向)開放状の溝部1cを形成した平面視L字状のブロック体6を有している。
溝部1cの近傍かつ、溝部1cに挿通される先端部AaよりもキャプスタンBのラジアル外方に支点ピン7を介して揺動自在に枢着される歯部2a付の偏心カム2を有している。また、偏心カム2を揺動させる丸杆状の操作レバー4を第1の実施の形態と同様に着脱自在に設けている。また、側方開口状の溝部1cは、使用状態でキャプスタンBのフランジ面Bbに対面状となるように形成される。
【0019】
偏心カム2は、先端部Aaが左右方向に逃げるのを規制するV字型の歯部2aを形成している。歯部2aが形成される側面視円弧状の曲面の曲率半径の中心点から偏心した位置に支点ピン7が挿通される挿通孔2cを有している。また、偏心カム2のカム枢着軸心(支点ピン7の軸心)L7 から遠い歯部2aを先端部Aaが挿通される溝部1cに入り込むように揺動可能に配設されている。つまり、偏心カム2は、溝部1cに引き込まれる方向に揺動すると、歯部2aが先端部Aaに食い込むように配設されているものである。
【0020】
また、掴持部材1に枢着ピン10を介して揺動自在に枢着される一対の板状の支持部材3,3と、一対の支持部材3,3に連結ピン11を介して揺動自在に枢着される一対の板状の連結部材5,5と、を備えている。
【0021】
支持部材3は、側面視キャプスタンBの巻取り外周面Baに沿う円弧状に形成した接触面3aを有し、一対の支持部材3,3は、掴持部材1を挟むように連結ピン11で枢着され、掴持部材1(ブロック体6の溝部1c)から突出する先端部Aaよりも、キャプスタンBの軸心方向に離れた位置で掴持部材1に枢着されている。
【0022】
また、一対の板状の連結部材5,5は、一対の支持部材3,3に連結ピン11で各々枢着され、第1の実施の形態と同様に、連結部材5,5に取着された取着ピン12の第3軸心L12周りに牽引部材Cの他方端Cbを首振自在に取着している。
【0023】
また、図7に示すように、支持部材3の接触面3aが巻取り外周面Baに接触した際に、第1の実施の形態と同様に、掴持部材1から突出した先端部Aaが、牽引部材Cの他方端Cbに接触しないための間隙Hを形成するように、枢着ピン10の第1軸心L10が連結ピン11の第2軸心L11よりも、キャプスタンBのラジアル外方とし、かつ、取着ピン12の第3軸心L12よりもラジアル外方となるように設けているものである。つまり、先端部Aaの口出し部Abでない箇所を掴持可能に掴持部材1を配設している。
【0024】
次に、図10は、第3の実施の形態の使用状態を説明する説明図である。
第3の実施の形態は、第1の実施の形態と同様に、着脱自在な操作レバー4と歯部2a付の偏心カム2と支点ピン7とを有する掴持部材1を、側面視円弧状かつ平面Sに関して対称に面形成された接触面3aを有する支持部材3に、枢着ピン10を介して枢着している。また、一対の支持部材3,3に、牽引部材Cの他方端Cbが取着される連結ピン11が取着されている。
【0025】
支持部材3の接触面3aが巻取り外周面Baに接触した際に、枢着ピン10の第1軸心L10が連結ピン11の第2軸心L11よりも、キャプスタンBのラジアル外方となるように枢着ピン10を設けている。即ち、掴持部材1から突出した先端部Aaが、牽引部材Cの他方端Cbに接触しないための間隙Hを形成するものである。言い換えると、先端部Aaの口出し部Abでない箇所を掴持可能に掴持部材1を配設している。
【0026】
なお、本発明は、設計変更可能であって、例えば、一対の板状の支持部材3,3を、ブロック状に一体形成しても良い。また、支持部材3は、接触面3aを有するのであれば、実施の形態のような(イチョウの葉型乃至扇型の)形状でなくとも良い。
また、一対の板状の連結部材5,5をブロック状に一体形成しても良い。
また、第1・2の実施の形態の取着ピン12に筒状のカラー部材を外装させ、カラー部材に牽引部材Cを揺動自在に取着しても良い。また、取着ピン12を着脱自在に設け、牽引部材Cを着脱可能にしても良い。
また、第3の実施の形態の連結ピン11に筒状のカラー部材を外装させ、カラー部材に牽引部材Cを揺動自在に取着しても良い。また、連結ピン11を着脱自在に設け、牽引部材Cを着脱可能にしても良い。
【0027】
上述した本発明の伸線用引張補助治具の使用方法(作用)について説明する。
図1に示すように、伸線される線材Aを、線材Aが巻き付けられた第1ドラムF1 から、伸線用第1ダイスD1 を通して第1キャプスタンB1 に複数回巻き付ける第1工程の際に、線材AのダイスD1 から引き出す為に細く加工した口出し部Ab以外の先端部Aaを、牽引部材Cが取着された第1の実施の形態の伸線用引張補助治具20Aに掴持させる。
【0028】
つまり、図2及び図3に示すように、貫通孔1aに先端部Aaを挿通させる。この際、掴持部材1は首振(揺動)し、口出し部Abは、支持部材3や連結部材5等の部材に妨害されることなくスムーズに挿通される。つまり、先端部Aaは深く挿通される。そして、偏心カム2に操作レバー4を取付けて、歯部2aが口出し部Ab以外の先端部Aaに食い込むように偏心カム2を揺動させ、線材Aを掴持する。つまり、外径の細い口出し部Abを掴持しないので、破断や抜けの虞れを軽減する(安全性を向上させる)。掴持後、操作レバー4は取り外される。
【0029】
次に、第1キャプスタンB1 を第1ダイスD1 から引き出す方向(図4、図5のN方向)に回転駆動させる。すると、第1キャプスタンB1 は、牽引部材Cが巻き付けられながら、第1の実施の形態の伸線用引張補助治具20Aを引き寄せ、第1ダイスD1 から線材Aを引き出す。この際、線材Aは、張力によって掴持部材1から抜ける方向(図示T方向)に力が働いて抜けようとするが、偏心カム2の歯部2aが食い付いた状態で先端部Aaが抜ける方向Tに移動すると、偏心カム2はさらに先端部Aaに歯部2aが食い込む方向に揺動する。つまり、抜ける方向Tの力を利用して偏心カム2は自ら歯部2aを先端部Aaに食い込ませ、より強く掴持する。
【0030】
そして、第1キャプスタンB1 を回転させると、図4に示すように、支持部材3の巻取り外周面Baに近い接触面3aがキャプスタンBの巻取り外周面Baに沿うように接触する。接触した際に、先端部Aaと牽引部材Cの他方端Cbの間に間隙Hを形成する。線材Aは牽引部材Cに干渉することなく線材Aの軸心Laを直線状に保ったまま第1キャプスタンB1 に接近する。
【0031】
さらに、第1キャプスタンB1 が回転すると、図5に示すように、掴持部材1は巻取り外周面Ba側に傾倒するように揺動し、線材Aを第1キャプスタンB1 に巻き付ける。この際、巻取り外周面Baに、支持部材3の接触面3aは面接触し摩擦力を高めて支持部材3がキャプスタンBの軸心方向に振れるように滑るのを軽減する。また、巻取り外周面Baを損傷するこなく沿うように接触する。
【0032】
第1キャプスタンB1 に線材Aが所定の巻数だけ巻き付いた後、掴持部材1へ操作レバー4を取付けて掴持部材1から線材Aを取り外す。線材Aは、第1ドラムF1 と第1キャプスタンB1 に対面状に設置される第2ドラムに巻き取られ、第1ダイスD1 によって順次伸線される。
第1ドラムF1 の線材Aの伸線が終了すると、第2ドラムF2 と第1キャプスタンB1 の間に、第1ダイスよりも細く伸線する第2ダイスD2 を設置し、第2ドラムF2 から第2ダイスD2 を通して線材Aを第1キャプスタンB1 に引き出す。
この第2工程の口出し工程の際に、第1キャプスタンB1 は第1工程とは逆回転する。
【0033】
第1の実施の形態の伸線用引張補助治具20Aは、第1工程で巻取り外周面Baに接触していた接触面3aとは平面Sに関して対称の接触面3aが接触する。(つまり、第1の実施の形態の伸線用引張補助治具20Aの向きの変更や取り外しが必要なく段取り時間が削減される。)即ち、操作レバー4の取付方向が変化しないので、作業者は第1工程と同じ立ち位置から操作レバー4の差込可能となる。そして、第1工程と同じ位置に同様の作用で、第1キャプスタンB1 に線材Aを巻き付ける。
【0034】
第2ドラムF2 から繰出された線材Aが、第2ダイスD2 にて伸線されて巻き付いた第1ドラムF1 は、仕上げ用ダイスD3 の近傍に移動される。この移動した第1ドラムF1 ’から線材Aを仕上げダイスD3 を通して第2キャプスタンB2 のフランジ面Bb近傍に巻き付ける際に、第2の実施の形態の伸線用引張補助治具20Bを使用する。
【0035】
第2の実施の形態の伸線用引張補助治具20Bは、側方開口状の溝部1cが、第2キャプスタンB2 のフランジ面Bbに対面状に配設される。掴持部材1の溝部1cに線材Aの先端部Aaを挿通させる。先端部Aaの口出し部Abは、支持部材3や連結部材5等の部材及び牽引部材Cの他方端Cbに妨害されることなくスムーズに挿通される。操作レバー4の操作によってV字型の歯部2aは、第2キャプスタンB2 のラジアル外方から口出し部Ab以外の先端部Aaを掴持する。つまり、外径の細い口出し部Abを掴持しないので、破断や抜けの虞れを軽減する(安全性を向上させる)。V字型の歯部2aに入り込んで第2キャプスタンB2 の軸心方向の振れを規制される。よって、線材Aはフランジ面Bb近傍の巻取り外周面Ba(所定位置)に安全に巻き付けられる。
【0036】
そして、第1の実施の形態の伸線用引張補助治具20Aの第1工程の際と同様の作用で、牽引部材Cや連結部材5等の部材に干渉せずに、側面視円弧状の接触面3aが巻取り外周面Baを損傷させることなく沿うように接触する。また、接触面3aが巻取り外周面Bbと面接触となって摩擦力を向上させ、線材Aを第2キャプスタンB2 に安定して巻き付ける。
【0037】
また、第3の実施の形態の伸線用引張補助治具20Cを、第1の実施の形態と同様の第1・2工程で使用した際は、上述した同様の作用により掴持部材1に口出し部Ab以外の先端部Aaが掴持される。牽引部材Cの他方端Cbを連結ピン11に取着しているので、掴持させる箇所により接近し引き抜く力を効率良く与えて線材Aを安全に引き出す。また、キャプスタンBの回転方向Nが変化しても平面Sに関して対称に形成された接触面3aが確実に巻取り外周面Baを損傷させることなく沿うように接触する。また、接触面3aが巻取り外周面Baと面接触となって摩擦力を向上させ、線材AをキャプスタンBに安定して巻き付ける。
【0038】
以上のように、本発明は、伸線用ダイスDによって伸線される線材AをダイスDから引き抜くキャプスタンBへ、複数回巻付ける口出し工程の際に、線材Aと、キャプスタンBに一方端Caが取着される牽引部材Cの他方端Cbと、を連結する伸線用引張補助治具であって、操作レバー4によって揺動する歯部2a付の偏心カム2を有し引き出される線材Aの先端部Aaを掴持する掴持部材1と、該掴持部材1に枢着ピン10を介して揺動自在に枢着されキャプスタンBの巻取り外周面Baに接触する接触面3aを有する支持部材3と、支持部材3に連結ピン11を介して揺動自在に枢着され牽引部材Cの他方端Cbが取着される取着ピン12が取付けられる連結部材5と、を備え、支持部材3の接触面3aが巻取り外周面Baに接触した際に、枢着ピン10の第1軸心L10が連結ピン11の第2軸心L11よりも、キャプスタンBのラジアル外方とし、かつ、取着ピン12の第3軸心L12よりもラジアル外方となるように構成したので、線材Aの先端部Aaが牽引部材C(の他方端Cb)に干渉せずに掴持部材1へ深く飲み込むように掴持できる。つまり、外径が細く破断(断線)し易い口出し部Abを掴持せずに、線材Aを安全に掴持できる。また、破断(断線)による口出し工程のやり直し(段取りのやり直し)を減少させて作業効率を向上できる(生産性を向上できる)。また、工具等を必要とせず、容易に口出し部Abを掴持できる。また線材Aを容易に取り外しできる。また、掴持部材1が揺動して、線材AをキャプスタンBの巻取り外周面Baに沿うように容易に巻き付けることができる。
【0039】
また、伸線用ダイスDによって伸線される線材AをダイスDから引き抜くキャプスタンBへ、複数回巻付ける口出し工程の際に、線材Aと、キャプスタンBに一方端Caが取着される牽引部材Cの他方端Cbと、を連結する伸線用引張補助治具であって、操作レバー4によって揺動する歯部2a付の偏心カム2を有し、引き出される線材Aの先端部Aaを掴持する掴持部材1と、掴持部材1に枢着ピン10を介して揺動自在に枢着され、キャプスタンBの巻取り外周面Baに接触する接触面3aを有する支持部材3と、支持部材3に取着されると共に牽引部材Cの他方端Cbが取着される連結ピン11と、を備え、支持部材3の接触面3aが巻取り外周面Baに接触した際に、枢着ピン10の第1軸心L10が連結ピン11の第2軸心L11よりも、キャプスタンBのラジアル外方となるように構成したので、線材Aの先端部Aaが牽引部材C(の他方端Cb)に干渉せずに掴持部材1へ深く飲み込むようにに掴持できる。つまり、外径が細く破断(断線)し易い口出し部Abを掴持せずに、線材Aを安全に掴持できる。また、破断(断線)による口出し工程のやり直し(段取りのやり直し)を減少させて作業効率を向上できる(生産性を向上できる)。また、工具等を必要とせず、容易に口出し部Abを掴持できる。また容易に取り外しできる。また、掴持部材1が揺動して、線材AをキャプスタンBの巻取り外周面Baに沿うように容易に巻き付けることができる。また、牽引部材Cの他方端Cbを線材Aが掴持される箇所に近づけてより引き出す力を線材Aに与えることができる。また全体を小型・軽量化できる。
【0040】
また、接触面3aを、キャプスタンBの軸心方向から見てキャプスタンBの巻取り外周面Baに沿う円弧状に形成したので、キャプスタンBとの接触摩擦面を広くでき、支持部材3の滑りが軽減されて、より安全に口出し作業ができる。また、キャプスタンBを損傷させずに作業できる。つまり、キャプスタンBの傷によって、線材Aに傷が転造されるようなことがなく線材Aの品質を向上できる。
【0041】
また、接触面3aを、第1軸心L10と第2軸心L11とを含む平面Sに関して、対称に二面形成したので、キャプスタンBの回転方向Nに関わらず線材Aを引き出すことができる。また、本発明の伸線用引張補助治具を回転方向Nに合わせて着脱させる手間を削減できる。また、回転方向Nが変化してもキャプスタンBの所定の位置に線材Aを巻き付けることができる。つまり、1台のキャプスタンBを挟むようにダイスDを2箇所設置でき、作業の効率が向上する。また、伸線設備を簡略化できる。
【0042】
また、歯部2aを、V字型に形成したので、より安定して線材Aの先端部Aaを掴持できる。また、線材Aが振れるのを規制してより安全に作業ができると共に所定の位置に線材Aをより正確に巻き付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の伸線用引張補助治具の使用状態を説明する簡略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の側面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態の平面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の使用状態説明図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態の使用状態説明図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態の要部断面平面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態の使用状態説明図である。
【図8】第2の実施の形態の偏心カムの実施の一例を示す側面図である。
【図9】第2の実施の形態の偏心カムの実施の一例を示す正面図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態の使用状態説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 掴持部材
2 偏心カム
2a 歯部
3 支持部材
3a 接触面
4 操作レバー
10 枢着ピン
11 連結ピン
12 取着ピン
A 線材
Aa 先端部
B キャプスタン
Ba 巻取り外周面
C 牽引部材
Ca 一方端
Cb 他方端
D ダイス
10 第1軸心
11 第2軸心
12 第3軸心
S 平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸線用ダイス(D)によって伸線される線材(A)を該ダイス(D)から引き抜くキャプスタン(B)へ、複数回巻付ける口出し工程の際に、上記線材(A)と、上記キャプスタン(B)に一方端(Ca)が取着される牽引部材(C)の他方端(Cb)と、を連結する伸線用引張補助治具であって、
操作レバー(4)によって揺動する歯部(2a)付の偏心カム(2)を有し引き出される線材(A)の先端部(Aa)を掴持する掴持部材(1)と、該掴持部材(1)に枢着ピン(10)を介して揺動自在に枢着され上記キャプスタン(B)の巻取り外周面(Ba)に接触する接触面(3a)を有する支持部材(3)と、該支持部材(3)に連結ピン(11)を介して揺動自在に枢着され上記牽引部材(C)の上記他方端(Cb)が取着される取着ピン(12)が取付けられる連結部材(5)と、を備え、
上記支持部材(3)の接触面(3a)が上記巻取り外周面(Ba)に接触した際に、上記枢着ピン(10)の第1軸心(L10)が上記連結ピン(11)の第2軸心(L11)よりも、上記キャプスタン(B)のラジアル外方とし、かつ、上記取着ピン(12)の第3軸心(L12)よりもラジアル外方となるように構成したことを特徴とする伸線用引張補助治具。
【請求項2】
伸線用ダイス(D)によって伸線される線材(A)を該ダイス(D)から引き抜くキャプスタン(B)へ、複数回巻付ける口出し工程の際に、上記線材(A)と、上記キャプスタン(B)に一方端(Ca)が取着される牽引部材(C)の他方端(Cb)と、を連結する伸線用引張補助治具であって、
操作レバー(4)によって揺動する歯部(2a)付の偏心カム(2)を有し引き出される線材(A)の先端部(Aa)を掴持する掴持部材(1)と、該掴持部材(1)に枢着ピン(10)を介して揺動自在に枢着され上記キャプスタン(B)の巻取り外周面(Ba)に接触する接触面(3a)を有する支持部材(3)と、該支持部材(3)に取着されると共に上記牽引部材(C)の上記他方端(Cb)が取着される連結ピン(11)と、を備え、 上記支持部材(3)の接触面(3a)が上記巻取り外周面(Ba)に接触した際に、上記枢着ピン(10)の第1軸心(L10)が上記連結ピン(11)の第2軸心(L11)よりも、上記キャプスタン(B)のラジアル外方となるように構成したことを特徴とする伸線用引張補助治具。
【請求項3】
上記接触面(3a)を、上記キャプスタン(B)の軸心方向から見て該キャプスタン(B)の巻取り外周面(Ba)に沿う円弧状に形成した請求項1又は2記載の伸線用引張補助治具。
【請求項4】
上記接触面(3a)を、上記第1軸心(L10)と上記第2軸心(L11)とを含む平面(S)に関して、対称に二面形成した請求項1,2又は3記載の伸線用引張補助治具。
【請求項5】
上記歯部(2a)を、V字型に形成したことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の伸線用引張補助治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−95853(P2009−95853A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269181(P2007−269181)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】