説明

伸縮ブームにおける伸縮シリンダ連結用ボスの溶接部分保護構造

【課題】伸縮シリンダ連結用ボスが溶接されるブーム側板の厚さが比較的薄いものであっても、クレーン作業状態においてボス溶接部分に作用する応力(こねる作用)を軽減し得るようにする。
【解決手段】ブーム筒13における左右のブーム側板14の対向位置にそれぞれ伸縮シリンダ連結用ボスを溶接した伸縮ブーム1において、各ブーム側板14のボス溶接部分3におけるブーム伸長側の近傍位置に、ブーム側板14がボス溶接部分3に対してブーム縮小側に付勢されているときの該ボス溶接部分3のブーム縮小側近傍のブーム側板に作用する変形応力を吸収し得るスリット5を上下向き姿勢で設けていることにより、クレーン作業状態においてボス溶接部分3に作用する応力をスリット5部分で吸収し得るようにようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ブーム筒における左右のブーム側板の対向位置に伸縮シリンダ連結用ボスを溶接した伸縮ブームに関し、さらに詳しくは、そのような伸縮ブームにおける伸縮シリンダ連結用ボスの溶接部分保護構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7には、例えば移動式クレーンに使用されている一般的な伸縮ブーム1を示しているが、この種の伸縮ブーム1は、複数本の単ブーム(図7のものでは基端ブーム11と1本の中間ブーム12と先端ブーム13の合計3本)を順次伸縮自在に連続させて構成されている。
【0003】
そして、この伸縮ブーム1では、基端ブーム11と中間ブーム12間に第1の伸縮シリンダ2Aを介在させている一方、中間ブーム12と先端ブーム13との間に第2の伸縮シリンダ2を介在させている。尚、以下の説明では、伸縮シリンダとして中間ブーム12と先端ブーム13間に介在されている第2の伸縮シリンダ2で説明するとともに、この第2の伸縮シリンダ2を単に伸縮シリンダと表現する。
【0004】
この伸縮シリンダ2は、図7に示すように、そのシリンダチューブ21の基端部を中間ブーム12の基端部寄り適所に連結軸20で連結している一方、そのシリンダロッド22の先端部を先端ブーム13の先側寄り適所に連結軸30で連結している。尚、以下の説明では、先端ブーム13のことを単ブーム13と表現したりブーム筒13と表現することがある。
【0005】
この伸縮シリンダ2におけるブームに対する連結構造をシリンダロッド22側のもので説明すると、このシリンダロッド22側の連結構造は、図8(図7のVIII−VIII拡大断面図)に示すように、先端ブーム(ブーム筒)13の左右の各ブーム側板14,14の対向位置にそれぞれ円筒体からなるボス31,31を横向き姿勢で溶接している一方、該両ボス31,31とシリンダロッド22の先端部に設けたボス(円筒体)23とに1本の連結軸30を横向き姿勢で挿通させることことにより、シリンダロッド22の先端部をブーム筒13に連結している。尚、連結軸30は、両ボス31,31及びシリンダロッド22側のボス23に対してそれぞれほとんど隙間(遊び)のない状態で挿通されている。
【0006】
ところで、左右の各ブーム側板14,14にそれぞれボス31,31を溶接する際には、単ブーム13をブーム筒に成形した状態ではブームの内側から各ボス31,31を溶接することができない。そこで、該ボス31をブーム側板14の内面側に溶接するには、次の手順で行っている。
【0007】
まずブーム筒13の左右各ブーム側板14,14の対向位置にボス31の外形より僅かに大きい円形穴15,15を形成しておく一方、各ボス31,31における外周面の外端寄り近傍位置(例えば外端面から3mm程度だけ内側に寄った位置)に上記円形穴15よりやや大径の外形を有するフランジ(鍔)32を仮溶接しておく。
【0008】
次に、各ボス31,31をブーム筒13の内側から、該ボス31のフランジ32側の端面が外側に向く姿勢で該ボス31の端面をブーム側板14の円形穴15から外向きに臨ませる。このとき、該各ボス31のフランジ32がブーム側板14の円形穴15の縁部内面に当接する状態で配置するが、左右の両ボス31,31に連結軸30を通した状態で行うと、両ボス31,31の芯合わせが確実に行える。
【0009】
次に、ボス31をブーム側板14の円形穴15に対して同心状に位置させた状態で、ブーム筒13におけるブーム側板14の外面側から、円形穴15の内周縁とボス31の外周面との隙間部分を溶接する。その場合、該隙間部分の全周に亘って溶加材(符号3で示す塗り潰し部分)を溶け込ませるが、該溶加材はフランジ32の付け根部分にも溶け込ませることで、ボス溶接部分3を補強している。
【0010】
そして、左右のブーム側板14,14のそれぞれ内面側に各ボス31,31を溶接した後、該両ボス31,31とシリンダロッド22先端部のボス(連結筒)23とに共通の連結軸30を挿通させることにより、図8に示す連結状態を完成させることができる。
【0011】
尚、伸縮シリンダ2のシリンダチューブ21は、その基端部を中間ブーム12の基端部に連結軸20で連結されているが、シリンダチューブ21基端部と中間ブーム12基端部との連結部分は、該中間ブーム12の基端側開口の近傍にあるので、該連結軸20近辺の補強は中間ブーム12の基端側開口から比較的容易に行える。
【0012】
この種の伸縮ブーム1は、クレーンのブームとして使用されるもので、ブーム起仰状態でブーム先端部から重量物を吊下させてクレーン作業を行うのに使用される。尚、以下の説明では、ブーム起仰状態でブーム先端部から重量物を吊下させた状態をクレーン作業状態ということがある。
【0013】
そして、上記クレーン作業状態においては、ブーム先端部から重量物を吊下させていることにより、伸縮シリンダ2(シリンダロッド2の先端部)とブーム側板14,14との連結部(左右のボス溶接部分3,3)にブーム縮小側への付勢力が働く。即ち、クレーン作業状態では、先端ブーム13がブーム縮小側に付勢される作用が発生し、このときボス31,31が連結軸30を介して伸縮シリンダ2でブーム縮小側から支持されている関係で、左右の各ブーム側板14,14は各ボス溶接部分3,3に対してブーム縮小側に付勢される作用を受ける。
【0014】
又、クレーン作業状態では、ブーム側板14におけるボス溶接部分3のブーム伸長側に近傍する部分(図8の符号14b部分)に圧縮作用が働く。尚、以下の説明では、ブーム側板14におけるボス溶接部分3のブーム伸長側に近傍する部分(図8の符号14b部分)を単にブーム伸長側近傍側板といい、ブーム側板14におけるボス溶接部分3のブーム縮小側に近傍する部分(図8の符号14a部分)を単にブーム縮小側近傍側板ということがある。
【0015】
そして、上記のように、クレーン作業状態においてブーム伸長側近傍側板14bに大きな圧縮力が働いているときには、その圧縮力によって該ブーム伸長側近傍側板14b部分が鎖線図示(符号14b′)するようにブーム内外方向(特に外向き凸状)に撓ませられる作用を受ける。又、ブーム伸長側近傍側板14bが鎖線図示(符号14b′)するように外向き凸状に撓ませられる作用を受けると、ボス溶接部分3を鎖線図示(符号3′)するようにブーム側板14に対して屈曲させる(ボス31に対してこねる)ような作用が働くとともに、ブーム縮小側近傍側板14aを鎖線図示(符号14a′)するように内向き凹状に撓ませる作用が働く。尚、図8における鎖線図示状態(14b′、3′、14a′)は、理解し易くするために撓み状態や屈曲状態をそれぞれ誇張表示したものである。
【0016】
ところで、クレーン作業時において、ブーム側板14,14がボス溶接部分3,3に対してブーム縮小側へ付勢する作用は、上記したようにブーム伸長側近傍側板14bを外向き凸状に撓ませる機能をもつもので、そのときボス溶接部分3を符号3′(図8)で示すようにブーム側板14に対して屈曲させる(ボス31に対してこねる)ような作用が発生する。この作用(ボス溶接部分3をボス31に対してこねる作用)は、該ボス溶接部分3に対する不自然な応力となるものであるが、このボス溶接部分3に対する応力を緩和するのに、ブーム側板14におけるボス溶接部分3の強度を高めることが有効である。そして、ブーム側板14自体の強度を補強するには、該ブーム側板14におけるボス31が溶接される部分の内面側に所定面積を有する補強板(予めボス31を貫通させた状態で溶接している)をあてがって該補強板の全周をブーム側板14の内面に溶接する(強固に溶接できる)ことが考えられるが、ブーム筒に成形した状態では、そのブーム側板14の内面に補強板を溶接するのは極めて困難である。
【0017】
尚、単ブームとして、左右に2つ割りしたものを合体(上下2箇所の接合部をそれぞれ溶接する)させてブーム筒に成形するものでは、各分割板の状態でブーム側板となる部分の内面側に予め補強板(ボス付き)を溶接しておくことが可能である。即ち、2つの分割板を合体させるものでは、その合体時に、左右の円形穴15,15が正確に対向するように微調整することができるので、補強板(ボス付き)を先に溶接しておくことが可能となる。ところが、1枚物の鋼板からブーム筒を成形するものでは、補強板(ボス付き)を先に溶接しておくと正確な位置での折曲が難しくなるとともに、折曲誤差によりブーム筒に成形した後の各ボスの溶接位置(対向する各ボスの芯)が正確に対向しなくなることがある。従って、1枚物の鋼板でブーム筒を成形する場合には、ブーム側板14の内面側から補強板で補強することはできないものであった。
【0018】
ところで、例えば積載形クレーンに使用されている伸縮ブーム1では、各単ブーム(11、12、13)に使用されている鋼板の厚さは、強度面と軽量化面とのバランスを考慮して、3mm強(例えば3.2mm)程度に設定したものが多い。このようにブーム側板14の鋼板厚さが薄いと、上記のようにボス溶接部分3に対してブーム縮小側に大きな付勢力が働いているときには、ブーム伸長側近傍側板14bに対して上記の撓ませ力(図8の符号14b′)がかなり大きく作用することで、ボス溶接部分3を符号3′(図8の鎖線図示)で示すように屈曲させようとする作用が働く。そして、このようにボス溶接部分3に鎖線図示(符号3′)するような屈曲作用が生じたときには、各ボス31,31に連結軸30が挿通されていることにより、ボス溶接部分3の屈曲を阻止するような作用が発生する。
【0019】
従って、クレーン作業状態においては、ブーム伸長側近傍側板14bが撓ませられる作用(符号14b′)に起因してボス溶接部分3を屈曲(符号3′)させようとする作用(各ボス31を傾動させようとする作用となる)と、連結軸30による各ボス31,31の姿勢維持作用とが同時に発生するが、その両作用(ボス溶接部分屈曲作用とボス姿勢維持作用)はボス溶接部分3に対してこねるような作用として現れる。
【0020】
そして、このようなボス溶接部分3に対するこねる作用は、該ボス溶接部分3(ブーム側板14の円形穴15の内周縁とボス31の外周面間の溶接部分)に対する不自然な応力となるものであるので、無くすることが好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
そこで、本願発明は、上記した従来の問題点に鑑み、伸縮シリンダ連結用ボスが溶接されるブーム側板の厚さが比較的薄いものであっても、クレーン作業状態においてボス溶接部分に作用する応力(こねる作用)を軽減し得るように構成することにより、該ボス溶接部分を長期に亘って保護し得るようにした、伸縮ブームにおける伸縮シリンダ連結用ボスの溶接部分保護構造を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願発明は、上記課題を解決するための手段として次の構成を有している。尚、本願発明は、伸縮シリンダで伸縮せしめられる伸縮ブームであって、ブーム側板に溶接された伸縮シリンダ連結用ボスの溶接部分に受ける応力(こねる作用)を軽減するための溶接部分保護構造を対象にしたものである。又、本願発明の正式名称は、「伸縮ブームにおける伸縮シリンダ連結用ボスの溶接部分保護構造」であるが、以下の説明では、本願発明の名称として単に「ボス溶接部分保護構造」と表現することがある。
【0023】
[本願請求項1の発明]
本願請求項1の発明のボス溶接部分保護構造は、ブーム筒における左右のブーム側板の対向位置にそれぞれ伸縮シリンダ連結用ボスを溶接した伸縮ブームにおいて、上記各ブーム側板のボス溶接部分におけるブーム伸長側の近傍位置に所定長さを有するスリットを上下向き姿勢で設けている一方、該スリットは、上記ブーム側板が上記ボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢されているときの上記ボス溶接部分のブーム伸長側近傍のブーム側板に作用する変形応力を吸収し得るものであることを特徴としている。
【0024】
尚、上記したボス溶接部分のブーム伸長側近傍のブーム側板に作用する変形応力とは、図8(従来例)におけるブーム伸長側近傍側板14bに対する撓ませ力(符号14b′)のことである。又、本願の説明においても、ボス溶接部分のブーム伸長側近傍のブーム側板のことを単にブーム伸長側近傍側板ということがある。
【0025】
本願で使用される伸縮ブームは、少なくとも2本の単ブームを伸縮自在に連続させたものであるが、この種の伸縮ブームとしては、基端ブームと先端ブームとの間に適数本(1〜2本)の中間ブームを介在させたものが多用されている。そして、本願では、少なくとも先端ブームを次順のブーム(例えば先側から2本目の中間ブーム)に対して伸縮シリンダで伸縮させ得るようにしている。
【0026】
先端ブームと伸縮シリンダ(シリンダロッド)との連結構造は、先端ブームの左右各ブーム側板の内面側対向位置にそれぞれボス(円筒体)を溶接し、該各ボスとシリンダロッド先端部のボス(連結筒)とに1本の連結軸を挿通させたものである。
【0027】
各単ブームに使用されている鋼板の厚さは、強度面と軽量化面とのバランスを考慮して、3mm強(例えば3.2mm)程度に設定したものが多いが、この程度の薄いものでは、上記ボス溶接部分付近の材料強度が比較的弱いものとなる。
【0028】
そして、上記「背景技術」の項でも説明したように、この種の伸縮ブームはクレーンのブームとして使用されるが、クレーン作業時において、ブーム起仰状態でブーム先端部から重量物を吊下させた状態(本願の説明でも、この状態をクレーン作業状態という)では、伸縮シリンダ(シリンダロッド先端部)とブーム側板との連結部(左右のボス溶接部分)にブーム縮小側への付勢力が働く。即ち、クレーン作業状態では、先端ブームがブーム縮小側に付勢されており、このとき左右の両ボスが伸縮シリンダでブーム縮小側から支持されている関係で、左右の各ブーム側板は各ボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢される作用を受けている。
【0029】
従って、ブーム側板の鋼板厚さが薄い(例えば上記の3.2mm)と、クレーン作業状態において、各ブーム側板が各ボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢されていることで、ブーム伸長側近傍側板に変形応力(撓ませ力)が発生することになる。
【0030】
そして、本願のボス溶接部分保護構造となるスリットは、先端ブームにおける伸縮シリンダ(シリンダロッドの先端部)が連結される左右のブーム側板に実施されているが、この請求項1では、該各スリットは、左右のブーム側板のボス溶接部分におけるブーム伸長側の近傍位置にそれぞれ設けている。
【0031】
このスリットの形状・寸法等は、特に限定するものではないが、例えば溝幅が5〜10mm、上下長さが60〜100mm程度で、円弧状や直線状等の適宜のものが採用できる。又、該スリットのブーム側板に対する形成位置は、ブーム側板に溶接されているボスの外端から例えば20〜30mm程度だけブーム伸長側に離間した位置が適当である。
【0032】
そして、この請求項1のボス溶接部分保護構造は、次のように機能する。
【0033】
クレーン作業時において、重量物吊下により先端ブームがブーム縮小側に付勢されているときには、各ボスが伸縮シリンダでブーム縮小側から支持されている関係で、上記ブーム伸長側近傍側板に圧縮力が働くが、その圧縮力は図8の符号14b′で示すように上記ブーム伸長側近傍側板を撓ませるような作用となり、さらにその撓ませ作用がボス溶接部分に対して図8に符号3′で示すような屈曲作用となるものである。
【0034】
ところで、この請求項1のものでは、ブーム側板のボス溶接部分におけるブーム伸長側の近傍位置にスリットを設けていることにより、該スリット部分でブーム側板が前後に縁がきれているので、上記ブーム伸長側近傍側板に対する撓ませ力(図8の符号14b′)を該スリット部分で吸収できる(逃がすことができる)。このことは、ボス溶接部分(ブーム側板とボスとの溶接部分)にこねるような変形応力がほとんど作用しないことを意味するものである。
【0035】
[本願請求項2の発明]
本願請求項2の発明は、上記請求項1のボス溶接部分保護構造において、各ブーム側板のボス溶接部分におけるブーム縮小側の近傍位置にも所定長さを有するスリットを上下向き姿勢で設けている一方、該ブーム縮小側近傍位置のスリットは、ブーム側板がボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢されているときのボス溶接部分のブーム縮小側近傍のブーム側板に作用する変形応力を吸収し得るものであることを特徴としている。
【0036】
尚、上記したボス溶接部分のブーム縮小側近傍のブーム側板に作用する変形応力とは、図8(従来例)におけるブーム縮小側近傍側板14aに対する撓ませ力(符号14a′)のことである。又、本願の説明においても、ボス溶接部分のブーム縮小側近傍のブーム側板のことを単にブーム縮小側近傍側板ということがある。
【0037】
ところで、上記のように、ブーム側板がボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢された状態(クレーン作業状態)では、ボス溶接部分のブーム伸長側近傍のブーム側板(ブーム伸長側近傍側板)に作用する変形応力(撓ませ力)の大部分をブーム伸長側のスリット部分で吸収できるようになっているが、ブーム側板におけるスリットの上部及び下部はそのまま連続しているので、そのブーム伸長側近傍側板には変形応力の一部が伝わるようになる。そして、ブーム伸長側近傍側板に伝わった一部の変形応力(撓ませ力)は、比較的弱いものであるがボス溶接部分を図8の符号3′で示すように屈曲させるような作用となる。
【0038】
そこで、この請求項2の溶接部分保護構造では、各ブーム側板のボス溶接部分におけるブーム伸長側の近傍位置とブーム縮小側の近傍位置の両方にそれぞれスリットを設けているので、ブーム伸長側にあるスリットとブーム縮小側にあるスリットの両方で変形応力を吸収でき、ブーム側板がブーム縮小側に付勢されていても、ボス溶接部分に作用する変形応力(こねる作用)を一層軽減させることができる。
【発明の効果】
【0039】
[本願請求項1の発明の効果]
本願請求項1の発明のボス溶接部分保護構造は、ブーム筒における左右のブーム側板の対向位置にそれぞれ伸縮シリンダ連結用ボスを溶接した伸縮ブームにおいて、各ブーム側板のボス溶接部分におけるブーム伸長側の近傍位置に、ブーム側板がボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢されているときのボス溶接部分のブーム縮小側近傍のブーム側板に作用する変形応力を吸収し得るようにしたスリットを設けたものである。
【0040】
従って、この請求項1のボス溶接部分保護構造では、この伸縮ブームを使用したクレーン作業時において、上記したように(請求項1の説明部分)ブーム伸長側近傍側板に作用する変形応力(溶接部分に対してこねるような作用力となる)をスリットで吸収できるので、ボス溶接部分に対する変形応力を軽減でき、それによってボス溶接部分の耐久性を良好にし得るという効果がある。
【0041】
[本願請求項2の発明の効果]
本願請求項2の発明は、上記請求項1のボス溶接部分保護構造において、各ブーム側板のボス溶接部分におけるブーム縮小側の近傍位置にも、ブーム側板がボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢されているときのボス溶接部分のブーム縮小側近傍のブーム側板に作用する変形応力を吸収し得るようにしたスリットを設けたものである。
【0042】
従って、この請求項2のボス溶接部分保護構造では、この伸縮ブームを使用したクレーン作業時において、上記請求項1のようにブーム伸長側のスリットによりブーム伸長側近傍側板に発生する変形応力(撓ませ力)を吸収できる一方、ブーム縮小側のスリットによりブーム縮小側近傍側板に発生する変形応力(撓ませ力)を吸収できるので、ボス溶接部分全体の耐久性が一層良好となるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本願第1実施例のボス溶接部分保護構造を備えた伸縮ブームの一部切開側面図である。
【図2】図1のII−II拡大断面図である。
【図3】図1のIII−III拡大断面図である。
【図4】本願第1実施例のボス溶接部分保護構造の作用説明図で、図1における伸縮シリンダ連結用ボス付近の拡大図である。
【図5】本願第2実施例のボス溶接部分保護構造を示す図4相当図である。
【図6】本願第3実施例のボス溶接部分保護構造を示す図4相当図である。
【図7】従来の一般的な伸縮ブームの一部切開側面図である。
【図8】図7のVIII−VIII拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
[実施例]
以下、図1〜図6を参照して本願の実施例を説明すると、図1〜図4には第1実施例のボス溶接部分保護構造を採用した伸縮ブームを示し、図5には第2実施例のボス溶接部分保護構造(スリットの形状変形例)を示し、図6には第3実施例のボス溶接部分保護構造(スリットの形状変形例)を示している。
【0045】
本願の各実施例のボス溶接部分保護構造は、図1〜図3に示す伸縮ブーム1に適用されているが、この伸縮ブーム1自体は、図7に示す従来例のものと同じであって、例えば積載形クレーンのブームとして使用されるものである。
【0046】
そして、図1〜図3に示す伸縮ブーム1の構成、及び本願のボス溶接部分保護構造を必要とする説明についても、上記した「背景技術」の項での説明と重複するので、大部分は該「背景技術」の項の説明を援用し、概略のみを以下に再掲する。
【0047】
この実施例で使用する伸縮ブーム1でも、各単ブーム11〜13の鋼板厚さとして、強度面と軽量化面とのバランスを考慮して、3mm強(例えば3.2mm)程度のものを採用している。
【0048】
又、この実施例の各単ブーム(ブーム筒)11〜13は、それぞれ1枚物の鋼板を筒形状(五角形)に折曲したものを採用している。尚、このように、筒ブームとして1枚物の鋼板を折曲して成形したものでは、後述するボス31をブーム筒の内面側から溶接できないものである。
【0049】
この伸縮ブーム1でも、中間ブーム12と先端ブーム13との間に伸縮シリンダ2を介在させていて、該伸縮シリンダ2の伸縮動作で先端ブーム13を中間ブーム12に対して伸縮作動させ得るようになっている。
【0050】
この伸縮シリンダ2の先端ブーム13に対する連結構造は、先端ブーム(ブーム筒)13の左右の各ブーム側板14,14の対向位置にそれぞれ円筒体からなるボス31,31を横向き姿勢で溶接している一方、該両ボス31,31とシリンダロッド22の先端部に設けたボス(円筒体)23とに1本の連結軸30を横向き姿勢で挿通させることことにより、シリンダロッド22の先端部をブーム筒13に連結している。この実施例では、連結軸30として太さが約30mmのものを使用している一方、ボス31として外径が約50mmのものを使用している。尚、各ボス31,31の各ブーム側板14,14に対する溶接部分(ボス溶接部分3)の詳細は、上記「背景技術」の項で説明したものと同じであるので、その「背景技術」の当該部分の説明を援用する。
【0051】
この実施例の伸縮ブーム1も、クレーンのブームとして使用されるが、クレーン作業状態(ブーム起仰状態でブーム先端部から重量物を吊下させた状態)においては、ブーム側板14におけるボス溶接部分3のブーム伸長側に近傍する部分14b(以下、これを単にブーム伸長側近傍側板14bという)に圧縮力が作用する(詳しくは、上記「背景技術」の項での説明を参照)。
【0052】
そして、クレーン作業状態においては、上記ブーム伸長側近傍側板14bに圧縮力が作用することで、該ブーム伸長側近傍側板14bに変形応力(図8に符号14b′で示す撓ませ力)が発生し、そのブーム伸長側近傍側板14bに対する変形応力(撓ませ力)がボス溶接部分3への屈曲作用(図8の符号3′)となり、さらに該ボス溶接部分3への屈曲作用がブーム縮小側近傍側板14aへの撓ませ力(図8の符号14a′)となる。
【0053】
そこで、本願のボス溶接部分保護構造は、ブーム側板14におけるボス溶接部分3を強度的に補強することなく、該ボス溶接部分3(ボス31の外周面とブーム側板14の円形穴15の内周面間の溶接部分)に対する応力(こねる作用)を軽減し得るようにしたものである。
【0054】
図1〜図4に示す第1実施例のボス溶接部分保護構造は、先端ブーム13と伸縮シリンダ2のシリンダロッド22との連結部分に適用されたものである。そして、この第1実施例のボス溶接部分保護構造では、先端ブーム13の左右のブーム側板14,14におけるボス溶接部分3の前後各側(ブーム伸縮方向の各側)の近傍位置にそれぞれ所定長さを有するスリット4,5を上下向き姿勢で設けて構成されている。
【0055】
この第1実施例で採用されている両スリット4,5は、ボス31の中心Pと同心状の円弧形状で、溝幅が5〜10mm、上下長さが60〜100mm程度のものである。尚、各スリット4,5の上下各端部は亀裂防止用の大径部となっている。
【0056】
又、各スリット4,5のブーム側板14に対する形成位置は、ブーム側板14に溶接されているボス31の外端から例えば20〜30mm程度だけブーム縮小側又はブーム伸長側にそれぞれ離間した位置が適当である。
【0057】
ところで、各スリット4,5の機能については後述するが、この第1実施例の伸縮ブーム1では、ブーム側板14における各スリット4,5の上部及び下部はそのまま連続しているので、クレーン作業状態ではスリットがあるもののブーム伸長側近傍側板14bには変形応力(撓ませ力)が伝わるようになる。そして、ブーム伸長側近傍側板14bに伝わった変形応力(撓ませ力)は、ボス溶接部分3を図8の符号3′で示すように屈曲させるような作用として現れる。
【0058】
これに対して、この第1実施例(図1〜図4)のボス溶接部分保護構造(各スリット4,5)は、クレーン作業時において次のように機能する。
【0059】
この溶接部分保護構造では、ボス溶接部分3の前後近傍位置にそれぞれスリット4,5があるので、前後のスリット4,5間のブーム側板部分(図4に示すボス溶接部分3を含む符号Lの範囲)がブーム側板全体に対して前後に縁が切れている。そして、この伸縮ブーム1を使用したクレーン作業状態において、上記のようにボス溶接部分3を屈曲させる作用(変形応力)が発生したときに、その変形応力の大部分をブーム伸長側スリット5で吸収できる(逃がす)一方、ブーム縮小側にあるスリット4でも吸収できる(逃がす)ようになっている。つまり、ブーム側板14におけるボス溶接部分3の前後の近傍位置にそれぞれスリット4,5があることにより、ボス溶接部分3を含めた両スリット間のブーム側板部分(図4の符号Lの範囲)が比較的容易に屈曲変形可能となっている。そして、該ボス溶接部分3に屈曲させようとする作用が発生したときに、両スリット間のブーム側板部分(符号Lの範囲)がその屈曲作用に容易に追従することで、ボス溶接部分3にこねる作用はほとんど発生しなくなる。
【0060】
図5に示す第2実施例及び図6に示す第3実施例の各ボス溶接部分保護構造は、それぞれスリット4,5の形状を変化させたものである。
【0061】
図5に示す第2実施例では、第1実施例(図4)で使用した円弧状の各スリット4,5をそれぞれ逆向き(円弧の内面側がそれぞれ外向き)にした状態で設けたものである。この図5の場合でも、ブーム側板14がボス溶接部分3に対してブーム縮小側に付勢されると、第1実施例と同様にボス溶接部分3に作用する応力を各スリット4,5で吸収するようになる。
【0062】
図6に示す第3実施例では、ボス溶接部分3の前後に設けた各スリット4,5をそれぞれ上下向きの直線状としている。この図6の場合でも、ブーム側板14がボス溶接部分3に対してブーム縮小側に付勢されると、第1実施例と同様にボス溶接部分3に作用する応力を各スリット4,5で吸収するようになる。
【0063】
尚、上記した第1〜第3の各実施例(図1〜図4、図5、図6)の溶接部分保護構造では、スリット4,5をボス溶接部分3の前後(ブーム伸縮方向)両側にそれぞれ設けているが、ボス溶接部分3に対する変形応力は、主としてブーム伸長側近傍側板14bに加わる圧縮力で起こるものであるので、他の実施例では、該スリットは、ボス溶接部分3におけるブーム伸長側の1箇所(符号5のもの)だけに設けたものでもよい。
【符号の説明】
【0064】
1は伸縮ブーム、2は伸縮シリンダ、3はボス溶接部分、4はブーム縮小側のスリット、5はブーム伸長側のスリット、13は先端ブーム、14はブーム側板、14aはブーム縮小側近傍側板、14bはブーム伸長側近傍側板、Lは両スリット間の範囲、21はシリンダチューブ、22はシリンダロッド、30は連結軸、31はボスである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブーム筒における左右のブーム側板の対向位置にそれぞれ伸縮シリンダ連結用ボスを溶接した伸縮ブームにおいて、
上記各ブーム側板のボス溶接部分におけるブーム伸長側の近傍位置に所定長さを有するスリットを上下向き姿勢で設けている一方、
上記スリットは、上記ブーム側板が上記ボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢されているときの上記ボス溶接部分のブーム伸長側近傍のブーム側板に作用する変形応力を吸収し得るものである、
ことを特徴とする伸縮ブームにおける伸縮シリンダ連結用ボスの溶接部分保護構造。
【請求項2】
請求項1において、
上記各ブーム側板のボス溶接部分におけるブーム縮小側の近傍位置にも所定長さを有するスリットを上下向き姿勢で設けている一方、
上記ブーム縮小側近傍位置のスリットは、上記ブーム側板が上記ボス溶接部分に対してブーム縮小側に付勢されているときの上記ボス溶接部分のブーム縮小側近傍のブーム側板に作用する変形応力を吸収し得るものである、
ことを特徴とする伸縮ブームにおける伸縮シリンダ連結用ボスの溶接部分保護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35631(P2013−35631A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171115(P2011−171115)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000148759)株式会社タダノ (419)
【Fターム(参考)】