説明

伸縮式支柱及びこれを用いた作業台

【課題】人力にて高さ調整と位置決めが可能な作業台で、その高さ位置に拘わらず一定の力で操作性良く昇降と位置決めができ、かつシンプルで耐久性と保全性の良い昇降機構を提供する。
【解決手段】直立したパイプ状の固定材と、その中に上下動可能に収納されたパイプ状又は棒状の昇降材とからなる伸縮式支柱において、固定材の上部に摺動ガイドプレートと、昇降材の下部に摺動ガイドブロックとを設け、定荷重バネの容器本体を固定材の上端付近に取り付け、かつ該定荷重バネのコイル状板バネの先端を前記昇降材の下端付近に取り付けて、前記昇降材の上昇時に付勢するように構成する。また、この定荷重バネの板バネの材質として、ばね用ステンレス鋼帯(JIS G 4313)SUS301−CSPの調質記号EHのものを用い、かつこれを400℃〜420℃で1〜2時間の低温焼鈍した材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内の天井照明や装飾工事を行う際、あるいは屋外における配線や電気機器の保全工事等で必要となる高所足場を設置する場合において、必要な箇所に必要な高さと面積の高所足場を、効率良く且つ安価に設置すると共に、人力によって容易に組立と高さ調整ができ、迅速に移動でき、且つ容易に折り畳みできる足場に用いる伸縮式支柱とこれを用いた作業台に関する。
【背景技術】
【0002】
高所作業を行う際の足場の設置ついては、従来よりビデー足場あるいは本足場と呼ばれる組立式の鋼管製の足場が多く用いられている。ビデー足場はおおむね高さ1700mm、通路幅は400〜600mm、長さは900〜1200mmであり、積み重ねることができる。よって、高さ10m以上の屋外構造物の建設や保全や解体工事において建物の周囲に多数段に段積みして使用され、レンタル制度も充実している。
しかし、屋内の天井照明工事のように、作業高さは10m未満であっても建築物によって天井高さは様々であり、求められる作業高さも一定しない場合は、ビデー足場1段では低過ぎ、2段では高過ぎる場合が生じる。
【0003】
また、ビデー足場の段積みは人力では困難で、レッカー等の重機が必要である。そこで、重機が使えず、人力で高さ調整する必要がある用途、主に屋内天井の電気工事や装飾工事等においては、専用の便利な足場が既にいろいろと考案されている。
例えば、下記特許文献1では人力で昇降、折り畳み、移動が可能な作業床が提案されている。その機構は、作業床昇降時に本体重量を支え、人力にて昇降を可能とするために、ガススプリング付き弾性筋交いを施装したことを最大の特徴としている。
【0004】
また、特許文献2では、特許文献1の技術を改良し、高さ調整を85cmから195cmという広範囲で実現できるように三段伸縮支柱とするとともに、中央の主脚部にパンタグラフ式押し上げ機構を設置し、これをガススプリングあるいはガスダンパーと呼ばれる内蔵ガス圧力によって弾性押圧する装置が考案されている。
これらの考案は、いずれも人力を助け、作業床自体の重量を支える機構として、ガススプリングと筋交いもしくはパンタグラフ式押し上げ機構を採用することを最大の特徴とし、その他の機構は、支柱伸縮機構が外筒の中に中筒が入りラッチ穴に閂を通す機構であり、折り畳み機構は外脚フレームを主脚部にヒンジ取付する機構であり、振動防止機構は固定式筋交いであるというように、一般的な機構との組合せと言える。
【0005】
しかしながら、従来の技術の最も大きな特徴であるガススプリングと筋交い又はパンタグラフの組合せ機構は、通常は、筋交い又はパンタグラフの昇降する部材を、昇降しない下部材の支点に固定されたガススプリングで斜め方向に押し上げるように構成されている。このようにガススプリングを斜め方向に取付け、取付け点の高さが変わるため、ガススプリングがほぼ一定の押圧力を発生する機械要素であるにもかかわらず、高さの変化に伴いガススプリングの角度が変化するために押上げ力も変化してしまう。
すなわち、最小高さから作業床を持ち上げる時点では、ガススプリングの角度は水平に近いためスプリングによる押上げ力が小さく、人手による押上げに大きな力が必要となる。一方、高さが最高点に近いときにはガススプリングの角度が垂直に近い角度となるため、スプリングにより大きな力が発生する。そのため、足場を下降させる際に、人手による押下げに大きな力を要することとなる。
【0006】
したがって、ガススプリングの容量とストロークを適正に選定し、かつ筋交いもしくはパンタグラフ部の設計を最適化しても、人手による高さ調整作業を常に一定の人力で行える状態には保つことできない。
また、押上げ機構として、筋交いもしくはパンタグラフを用いると、作業台全体の重量アップとなり、結果的に製作コスト高となるとともに、筋交いやパンタグラフのピン部や上下端のスライド部の耐久性が問題になる。これらの部分の回転や摺動に適当な状態を維持するためには、摩耗によるガタの発生を抑える必要があり、適切な潤滑状態を維持する等の保全の手間が掛かるようになる。よって、ほぼ一定の人力で高さ調整できて、製作や保全が安価に行えるシンプルな機構が望まれている。
【0007】
【特許文献1】実用新案登録公報第2507917号
【特許文献2】実用新案登録公報第3063992号
【特許文献3】特開平7−229120号公報
【特許文献4】特開2002−153761号公報
【特許文献5】特開2006−30567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、かかる状況を鑑み、屋内天井の照明や装飾工事等の高さ10m未満の任意の高さに人力にて高さ調整と位置決めが可能な作業台において、人力にて高さ調整する際に、その高さ位置に拘わらず一定の力で操作性良く昇降と位置決めができ、且つシンプルで耐久性と保全性の良い昇降機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは、昇降式作業台の押上げ時の付勢に定荷重バネを用いることに着眼した。従来から、比較的軽量の物品を人力で昇降させる際に、定荷重バネで付勢する方法は、多数提案されている。例えば、電動駐車場ポール(特許文献3)、ロータリーエバポレータ(特許文献4)、ディスプレイ(特許文献5)等において、定荷重バネを用いた昇降装置が提案されている。
【0010】
しかし、市販の通常の定荷重バネのバネ力は、せいぜい1個当たり10kg程度であり、作業台のような重量物の昇降を定荷重バネを用いて付勢するのは難しいと考えられていた。
本発明者らは、定荷重バネのバネ力を増大させる手段について種々検討し、定荷重バネのコイル状の板バネの材質、形状、取付け方法等の工夫により、作業台のような重量物の昇降に十分なバネ力を確保し得ることを見出して、本発明を完成させた。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の伸縮式支柱は、
重量物を乗せる昇降式作業台を支持する伸縮可能な支柱であって、
該支柱が、直立したパイプ状の固定材と、該固定材の中に上下動可能に収納されたパイプ状又は棒状の昇降材とからなり、
前記固定材の上部に前記昇降材の外面に接して摺動する摺動ガイドプレートが設けられ、かつ前記昇降材の下部に前記固定材の内面に接して摺動する摺動ガイドブロックが設けられ、
そのコイル状板バネの長さが前記昇降材の昇降ストロークよりも大きい定荷重バネの容器本体を前記固定材の上端付近に取り付け、かつ該定荷重バネのコイル状板バネの先端を前記昇降材の下端付近に取り付けて、前記昇降材の上昇時に付勢するように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
この支柱においては、前記固定材の側面縦方向に所定間隔で設けられた通し孔に、支持用閂を差し込んで、上昇後の前記昇降材を支持するように構成されていることが好ましい。本発明は、定荷重バネを用いた付勢機構と、支持用閂を用いた位置決め機構により、重量物の昇降と位置決めを人力で容易に行い得るようにしたものである。
【0013】
上記の伸縮式支柱においては、前記固定材が角パイプであって、前記の定荷重バネが一対又は複数対前記固定材の対向する辺に、該固定材の中心軸に対称に取り付けられていることが好ましい。これにより、一本の支柱に2個の定荷重バネを取り付けても、力の偏りを防止することができ、定荷重バネによる付勢力を2倍に高めることができる。
【0014】
また、前記定荷重バネのコイル状板バネとして、該コイルの半径R、板バネ厚みt、板バネ材のバネ限界値Kから下式で計算される腰折れ指数Aの値が5.0以上になるようなバネ限界値Kを有するバネ材料を用いることが好ましい。
A = K/(R・t2
ここで、A:腰折れ指数(kg/mm5)
K:板バネ材のバネ限界値(kg/mm2
R:板バネを巻いた時のコイル半径(mm)
t:板バネの厚み(mm)
さらに、前記コイル状板バネ材として、JIS G 4313に規定されるばね用ステンレス鋼帯SUS301−CSPの調質記号EHのものを用い、かつこれを400〜420℃で1〜2時間の低温焼鈍した材料を用いることが好ましい。
【0015】
本発明に用いる定荷重バネのコイル状板バネには、強い引伸し力が継続的に作用し、かつ伸縮の繰り返しにより、バネ材に腰折れが生じる可能性が高い。本発明者らは、この腰折れの問題について種々検討し、上記の腰折れ指数Aの値が5.0以上になるようなバネ限界値Kを有するバネ材料を用いる必要があることを明らかにした。かかるバネ限界値Kを有する代表的なバネ材料として、JIS G 4313に規定されるばね用ステンレス鋼帯SUS301−CSPの調質記号EHのものであって、かつこれを400〜420℃で1〜2時間の低温焼鈍した材料があげられる。
【0016】
本発明の作業台の第一は、
作業者又は重量物を乗せる水平台を単数もしくは複数の伸縮可能な支柱によって支持する昇降式作業台であって、前記支柱の一部又は全部が請求項1から5のいずれかに記載の伸縮式支柱により構成されていることを特徴とする人力で昇降が可能な作業台である。
【0017】
また、本発明の作業台の第二は、
その中央付近で2分割され、少なくとも一対の連結部材により相互に連結された水平台と、
前記連結部材のそれぞれを支持する少なくとも一対の伸縮式主支柱と、
水平台の分割辺と反対側の2隅付近において、該水平台を支持する各一対の伸縮式補助支柱と、
主支柱間を連結する少なくとも一本の第一横桟と、
各補助支柱と前記主支柱との間を前記水平台の側辺と平行に連結する第二横桟と、前記一対の連結部材それぞれの両側に設けられ、水平軸の回りに回転可能に前記水平台を支持する第一回転ジョイントと、
前記第二横桟それぞれの主支柱に近接した位置に設けられ、垂直軸の回りに回転可能に第二横桟の本体及びその先に取り付けられた補助支柱を支持する第二回転ジョイントとを備え、
前記主支柱が、本発明のいずれかの伸縮式支柱により構成され、前記補助支柱が、直立したパイプ状の固定材と該固定材の中に上下動可能に収納されたパイプ状又は棒状の昇降材とからなるとともに、水平台の取付け点において係脱可能に水平台を支持するように構成され、
前記補助支柱の昇降材を水平台から取り外した状態で、補助支柱を前記固定材の中に収納し、この状態で第二横桟それぞれに設けた前記第二回転ジョイントを軸として第二横桟の本体及びその先に取り付けられた補助支柱のそれぞれを内側に折畳み、さらにその後前記第一回転ジョイントを軸として、水平台を下側に折り畳めるように構成されていることを特徴とする人力で昇降が可能な折畳み式作業台である。
【0018】
この第二発明の作業台においては、
主支柱及び補助支柱それぞれの下端に、その移動を容易にするためのキャスターが配設されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、作業足場のような重量物の昇降を付勢するバネとして定荷重バネを使用することが可能になり、これにより、昇降機構が簡易になるとともに、昇降課程でバネ力が変化することがないため昇降作業が容易になった。本発明の伸縮式支柱を用いることにより、人力にて昇降と位置決めが容易に行える作業台がシンプルな構造で提供され、昇降に必要な人力が昇降高さに拘わらず一定となり、作業台の昇降作業が大幅に効率化される。また、昇降する作業台の製作費用が大幅に安価になるとともに、その保全作業も軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、実施例の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施例である伸縮式可能な支柱の構造を示す断面図、図2は、図1の支柱における昇降材の詳細を示す斜視図である。
この伸縮式支柱1は、図1に示すように、角パイプ状(本実施例では断面が略正方形の角鋼管)の固定材2と、その中に上下動可能に収納された角パイプ状(本実施例では断面が略正方形の角鋼管)の昇降材3と、昇降材3の持ち上げを付勢する一対の定荷重バネ4a,4bとからなっている。
【0021】
一対の定荷重バネ4a,4bは、支柱上に取り付けられる水平台(図示していない)及び昇降材3等(以下、昇降物という)の重量とバランスするようなバネ力のものを選択し、この定荷重バネの容器本体7を前記固定材2の上端付近に取り付け、かつ定荷重バネのコイル状板バネ8の先端を前記昇降材の下端付近に取り付ける。なお、このコイル状板バネ8の長さは、昇降支柱1の必要昇降ストロークHよりも大きいものを用いる。
これにより、昇降物が降りている状態(図1(a)の昇降支柱1が縮んだ状態)では、コイルバネ8が伸びた状態であり、定荷重バネのバネ力が昇降物を押し上げる力として作用する。したがって、僅かの力で、すなわち人力で容易に昇降物を押し上げることができる。
【0022】
本発明において、昇降の位置決めは、昇降材3の位置決めしたい位置に複数のラッチ穴12を設け、固定材2には一ケ所以上の通し穴13を設け、固定材の外側から通し穴13及びラッチ穴12を連通して、閂14を差し込むことによって位置決めし、昇降材3にかかる重量を支持できるようにする。これにより、位置決めの作業が簡便になり、一人の作業者で、昇降物の昇降と位置決めを容易に行うことができる。
また、昇降材3の下端には摺動ガイドブロック5(図2参照)を取付け、固定材2には摺動ガイドプレート6を、昇降材3を挟み込むように取付けることによって、昇降材3がこれらの部材によってガイドされ、人力によってスムーズに昇降物を上げ下げできるようにしている。
【0023】
なお、定荷重バネは、金属板をゼンマイ状に巻き、板バネ先端の引き伸ばし量に拘わらず一定のバネ力が掛かるように設計された機械要素であり、種々の寸法や荷重のものが市販されている。通常のコイルバネのバネ力は、引き伸ばし量に比例するのに対して、一定の引張力が得られることが特徴となっている。
そのため、昇降物の押し上げに要する力もほぼ一定となり、ガススプリングを取付けた弾性筋交い又はパンラタグラフを用いた従来技術(特許文献1,2など)のように昇降物の位置によって押上力が変化するという問題が無くなることが特徴である。
【0024】
本発明のポイントは、かなり重い足場の重量にバランスするバネ力を定荷重バネによって生み出すことにある。本発明者らが、種々検討した結果では、足場用伸縮式支柱1本当たり、50kg以上のバネ力が必要であることが知れた。かかる大きなバネ力を、現状の市販の定荷重バネによって確保することは到底不可能である。これを解決する手段について検討した結果、伸縮式支柱1本に2個の定荷重バネを用いれば、バネ1個当たり必要なバネ力は25kg以上となり、実現可能なレベルにかなり近づいてくる。後述するように、バネ1個当たりのバネ力の目標値を25kg以上と定めて、定荷重バネの形状とコイル状板バネの材質を適正に選択することにより、上記のバネ力の目標を実現可能なことを明らかにして、本発明を完成させた。
【0025】
定荷重バネは同じ容量(バネ力)のもの一対(空間的に取付け可能ならば複数対でもよい)を、昇降支柱1の軸心に対して対称になるように(具体的には対向する2辺の面に)取付けることが肝要である。容量又は取付け位置が非対称であると、昇降材3の位置が一方に偏り、スムーズな昇降が困難になるためである。そのためには、固定材2、昇降材3ともに角パイプ状のものを用いることが好ましい。また、対向する2辺の面に板バネ8を取り付けると、他の2辺は摺動ガイドプレート6の摺動面として利用できるので都合がよい。
【0026】
本実施例において、定荷重バネ4a,4bの板バネ8先端の取付け方は、図2に示すように、固定材2の角鋼管の中に入る昇降材3の角鋼管の下部に雌ねじをタップ加工して皿ボルト9を4本で挟み込んで固定している。
また、摺動ガイドブロック5は、昇降材3が固定材2の中で引っ掛かりなく昇降させるため取り付けているもので、その材質は、自己潤滑性を持つMCナイロン等の樹脂系材料もしくは、真鍮やアルミ合金等の摺動部材に用いられる非鉄金属材料を選定することが好ましい。本実施例では、所定の形状に加工されたMCナイロンブロックを用い、これを角鋼管である昇降材3の下端へ嵌り込む形で取付け、通しボルト10を数本用いて固定している(図2参照)。
【0027】
また、昇降材3を十分スムーズに昇降させるには、摺動部材は摺動ガイドブロック5だけでは不十分であり、固定材2の上部の内側に取付けられる摺動ガイドプレート6が必要である。この摺動ガイドプレート6の役割は、昇降材3が人力および定荷重バネ4a,4bの力によって昇降する際に、固定材2のなるべく上部において、昇降材3の振れを抑えることにある。そのため、摺動ガイドプレート6の寸法は、昇降材3と固定材2の片側隙間よりやや小さな厚みを持ち、幅は昇降材3の幅よりやや小さく、長さはその幅の1.5〜2倍程度のものを採用している。また、このガイドプレート6の取付けは、固定材2の上部にキリ穴を設け、該ガイドプレートにボルト穴を設け、そこに皿ボルト11を通し、固定材2の外側から固定する方法によっている。この摺動ガイドプレート6の材質は、摺動ガイドブロック5と同様に、自己潤滑性を持つMCナイロン等の樹脂系材料若しくは真鍮やアルミ合金等の摺動部材に用いられる非鉄金属材料が適当である。
【0028】
次に、前述したバネ1個当たりのバネ力の目標値25kg以上を達成するための条件を検討した結果について説明する。
C型定荷重バネの引込み力(バネ力)Pは、おおよそ下式で表される。
P=(E・W・t3/26.4)×(1/R2) …………(1)
ここで、P:バネの引込み力(kg)
E:板バネ材料の弾性係数(kg/mm2
W:板バネの幅(mm)
t:板バネの厚み(mm)
R:板バネを巻いた時のコイル半径(mm)
【0029】
(1)式に見られるように、バネ力Pは板バネの弾性係数に比例して大きくなる。板バネの材料としては、耐食性に優れ安定した特性を示すオーステナイトステンレス系(SUS301,SUS304等)のものが好ましい。中でも硬く塑性変形しにくいという観点から、SUS301が好ましい。SUS301の弾性係数Eは、調質条件にあまり依存せず、18,500kg/mm2程度である。
また、Pは板バネの幅Wに比例して大きくなるが、伸縮式支柱の昇降材に取り付けるという観点からWは100mm以下であることが必要である。同様に、コイルの外径も使いやすくするためにコンパクト設計が望ましく直径を小さくする要請と、コイル巻きに要する力が過大となり製造機械が大型となりすぎないように直径を大きくするという要請の兼合いから、直径60mm(半径30mm)程度にすることが望ましい。
【0030】
一方、板バネの厚みtの影響は極めて大きく、Pはtの3乗に比例する。しかし、tが大きくなると板バネをコイル状に巻くのに要する力が急激に大きくなり、強力な曲げ加工機が必要になる。本発明者らが検討した結果では、板バネメーカーが保有する最大級の曲げ加工機でも、板バネの幅が100mmの場合、板バネ厚みtは0.7〜0.8mmが限度であることが知見された。そこで、t=0.7mmとし、上記の諸数値を(1)式に代入して、バネ力Pを計算してみると,
P=(18,500×100×0.73/26.4)・(1/302)=26.7kg
となり、Pを25kg以上にするという目標が一応達成可能なことが知れる。
【0031】
定荷重バネの設計に関して、もう一つ重要な点は、引き伸しと巻き込みの繰返しによって、バネが次第に弾性を失う現象、いわゆる「へたり又は腰折れ」を如何にして防止するかである。本発明者らが検討した結果では、この腰折れ現象は、下式で表される腰折れ指数Aとよく対応することが知見された。
A = K/(R・t2) …………(2)
ここで、A:腰折れ指数
K:板バネ材のバネ限界値(kg/mm2
t,R:(1)式の定義と同じ
【0032】
上式のAが小さいほど、バネはへたり易い(腰折れし易い)。t,Rが与えられれば、Aはバネ限界値Kのみによって定まる。Kは、バネに曲げ応力が働いた時に塑性変形又は破断する限界の応力であり、通常はバネ材料のビッカース硬度(HV)とほぼ対応するので、ビッカース硬さによって材料検査を行っている。本発明者らは、本発明の定荷重バネに用いるコイル状板バネの場合に、Aの値がどの程度の大きさであれば、繰り返し巻き伸ししても腰折れしないかを実験的に検討した。実験の用いた板バネ材はSUS301−CSPで、調質・熱処理条件の異なる下記の3種である。
供試材1:調質記号H、調質圧延まま(HV430以上)
〃 2:調質記号EH、調質圧延まま(HV490以上)
〃 3:調質記号EH、低温焼鈍有(400℃×1h)(HV505以上)
A値は腰折れ(ヘタリ)の起こりにくさであるから、バネ限界Kに比例し、バネの曲げRには反比例し、曲げ応力と比例する断面係数がt2に比例することから、(2)式を定義し、実験した。
【0033】
板バネの幅W=100mm及びコイル最大半径R=30mmの一定とし、上記の供試材1及び3については板バネ厚みt=0.7及び0.8mm、供試材2についてはt=0.7mmとし、計5種類のコイルバネを試作して、バネの巻き伸ばし試験機で、6,000回の繰返し疲労試験を行った。供試材の条件、バネ限界値K,コイル条件、腰折れ指数Aの値及び疲労試験の評価結果(○印は試験後バネ力の低下ほとんど無し、×印は試験後バネ力の低下有り)をまとめて表1に示す。また、各実験水準での腰折れ指数Aの値を図3に示す。この結果から、腰折れ指数Aは5.0(kg/mm5)以上必要であることが明らかになった。W=100mm、R=30mm、t=0.7mmの条件で、Aを5.0以上にするには、バネ限界値Kが73.5kg/mm2以上必要である。以上の結果から、本発明に用いる板バネの材料としては、SUS301−CSPで調質記号EHで、圧延後低温焼鈍(400℃×1h)した材料が望ましいことが知見された。
【0034】
【表1】

【0035】
次に、上記の伸縮式支柱を用いた本発明の作業台について説明する。図4は、本発明の一実施例である昇降式作業台の斜視図である。この作業台は、水平台15が取付け部材16を介して、4本の伸縮可能な支柱1(以下、伸縮式支柱という)に取り付けられている。図は、支柱1が縮められた状態を示し、支柱の昇降材は固定材2内に収容されているので、図に表れていない。この時、定荷重バネの容器本体7内のコイル状板バネは伸びた状態で、その引込み力によって、昇降物(水平台15及び昇降材等)の重量を支えている(ほぼバランス状態にある)。水平台15の浮上りを防止するため、固定材2に設けられた通し穴13に閂14を差し込んで固定する。
【0036】
昇降物を上昇させるときには、各支柱の閂14を外せば、僅かな力で上昇させることができるので、必要な高さまで上昇した状態で、昇降材の対応するラッチ穴12を選んで、通し穴13の外側から閂14を差し込んで固定すればよい。
このように、人力で昇降と位置決めを容易に行い得ることが、本発明の作業台の特徴である。
本実施例においては、昇降物を4本の伸縮式支柱1で支持し、各支柱のバネ力は最大50kgであるから、昇降物全重量約200kgまで適用可能である。昇降物の重量は200kg以内のことが多いので、大部分のケースをカバーすることができる。昇降物の重量がこれより大幅に小さい場合には、定加重バネの板バネとして幅Wの小さいものを用いればよい。また、支柱の本数を少なくしてもよい。
図4で示した支柱の数や配置は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。支柱の数や配置は、作業台として使用目的に応じて適宜選択すればよい。また、図4には示していないが、通常は水平台15の周囲は手すり(安全柵)で囲まれており、人が水平台15に上るためのタラップが取り付けられる。
【0037】
図5〜7は、本発明の他の実施例である昇降式作業台の構成を示す図で、図5は台が降下した状態を示す側面図、図6は台が上昇した状態を示す側面図、図7は図5のA−A矢視断面図である。この作業台は、足場となる水平台を昇降してその高さを調節し得るのみならず、不使用時の収納の便のため、折畳み可能に構成されている点が、図4の作業台と根本的に相違している。
図5及び図6に示すように、水平台はその中央部付近で2分割され、水平台15a,15bが一対の連結部材17を介して中央の主支柱18に取り付けられている。また、水平台15a,15bの主支柱と反対側の端部付近は、それぞれ補助支柱19により支持されている。
【0038】
主支柱18は、水平台15a,15bの分割辺の両側端部付近で両者を繋ぐ一対の連結部材17のそれぞれを支持するように一対配置されている(図7参照)。この主支柱は、上に述べた(図1,2に示した)本発明の伸縮式支柱である。すなわち共に角鋼管からなる固定材2aとその内部の昇降材3aを備え、昇降材は定荷重バネ4a,4bで付勢されるように構成されている。図に表れていないが、固定材の上部に摺動ガイドプレートが設けられ、昇降材の下部に摺動ガイドブロックが設けられている点も図1,2で示した構造と同じである。
なお、主支柱18は2対であってもよい。すなわち、水平台7a,7bの対向する辺の中央分割線の両側に、それぞれ連結部材17の両端を支持するように配置されていてもよい。これにより、主支柱の数が2本から4本に増えるため、昇降物を押し上げるバネ力を2倍にすることができる。
【0039】
一方、水平台15a,15bの外側(中央分割線の反対側)両端付近には、補助支柱19が水平台15aに一対、水平台15bにも一対(合計4本)設けられている。この補助支柱も、固定材2bとその内部の昇降材3bを備え、伸縮可能であるが、この補助支柱19においては定荷重バネで付勢するという機構は設けられていない。したがって、水平台の上昇を付勢するバネ力は、専ら主支柱18に依存している。補助支柱の固定材2bと昇降材3bは角鋼管であってもよいが、これに限定する必要はない。また、固定材の上部に摺動ガイドプレートが設けられ、昇降材の下部に摺動ガイドブロックが設けられていてもよいが、必ずしもこれらが無くてもよい。
ただし、主支柱、補助支柱ともに、固定材の側面縦方向に所定間隔で設けられた通し孔に、支持用閂を差し込んで、上昇後の前記昇降材を支持するという機構は必要である。
【0040】
作業台全体の構造を補強するために、図7に見られるように、一対の主支柱18a,18b間には上下に第一横桟20が、中央分割線と平行に張り渡されている。また、主支柱18aと補助支柱19aの間、及び主支柱18bと補助支柱19bの間には第二横桟21が張り渡されている。第一横桟20は上下2本であるが、第二横桟21は水平台15a,15bそれぞれの両側上下で計8本である。
第一横桟20はその両端が主支柱18に固定されているが、第二横桟21はいずれも、一端が補助支柱19に固定され、他端は垂直軸を介して水平面内で回転可能に、主支柱18に取り付けられている。
【0041】
この作業台を折畳み可能にするのは、下記の3つの構成によっている。
(1)水平台15a,15bと4本の補助支柱19との取付け点で、昇降材3bの上端が脱着可能に水平台に取り付けられている。折畳みの際には、各補助支柱19の昇降材3bは、水平台から分離され、固定材2bの中に収納された状態になること。
(2)各第二横桟の主支柱側端部付近に、垂直軸の回り回転する第二ジョイント22が設けられ、このジョイントに接続された各第二横桟21の本体及びその先に固定された補助支柱19が、内側に(第一横桟に接近するように)折り曲げ可能に構成されている。また、この折り曲げ時に補助支柱が動き易いようにその下端にキャスター23が取り付けられていること。
(3)接続部材17の両側には、水平軸の回り回転する第一ジョイント24が一対設けられ(図5,6参照)、水平台15a,15bは、この第一ジョイント24を介して接続部材17に取り付けられている。これにより、水平台はその先端側(中央分割線の反対側)を少なくとも90度下方に折り曲げ可能に構成されていること。
【0042】
以下、この作業台の折畳みの手順について説明する。図8は、第二実施例の作業台の折畳み手順の説明図で、図8(a),(b),(d)は側面図、図8(c)は平面図である。また、2分割された水平台の左右の折畳み方は同じなので、左側の水平台のみ図示している。
本実施例においては、図8(a)に示すように、水平台15aの下面の支持部材25内に昇降材3bの先端を挿入し、側面からピン26を差し込んで、水平台15aと昇降材3bを固定している。作業台の折畳み時には、まずピン26を外し、図8(b)に示すように、昇降材3bを固定材2bの中に収納する。
【0043】
この状態で、図8(c)に示すように、ジョイント22のところで、第二横桟21及びその先に取り付けられた固定材2bを内側に折り曲げ、第二横桟21が第一横桟20に接近するまで折り畳む。その後、図8(d)に示すように、水平台15aを固定しているピン(図示していない)を外し、ジョイント24のところで、水平台15aを下側に折り曲げて、水平台15aが固定材2bに接近するまで折り畳む。反対側の水平台15bも上記と同じ手順で折り畳むことができる。
【0044】
この第二実施例の作業台は、人力で水平台の昇降と位置決めが容易にできるだけでなく、使用していない時にはきわめてコンパクトに折り畳むことができる。そのため、この作業台は、遠隔地に車両で運搬して使用するような使い方に非常に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例における伸縮式支柱の構造を示す断面図である。
【図2】図1の支柱における昇降材の詳細を示す斜視図である。
【図3】本発明における板バネ材の腰折れ試験の結果の例を示す図である。
【図4】本発明の第一実施例である作業台の斜視図である。
【図5】本発明の第二実施例である作業台の側面図である。
【図6】図5の作業台の支柱を伸ばした状態を示す側面図である。
【図7】図5の作業台のA−A矢視断面図である。
【図8】本発明の第二実施例である作業台の折畳み手順の説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1:伸縮式支柱
2,2a,2b:固定材
3,3a,3b:昇降材、
4a,ab:定荷重バネ、
5:摺動ガイドブロック
6:摺動ガイドプレート、
7:定荷重バネの容器本体
8:定荷重バネの板バネ
9:皿ボルト
10:通しボルト
11:皿ボルト
12:ラッチ穴
13:通し穴
14:閂
15,15a,15b:水平台
16:水平台の取付け部材
17:連結部材
18,18a,18b:主支柱
19,19a,19b:補助支柱
20:第一横桟
21:第二横桟
22:第二回転ジョイント
23:キャスター
24:第一回転ジョイント
25:支持部材
26:ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量物を乗せる昇降式作業台を支持する伸縮可能な支柱であって、
該支柱が、直立したパイプ状の固定材と、該固定材の中に上下動可能に収納されたパイプ状又は棒状の昇降材とからなり、
前記固定材の上部に前記昇降材の外面に接して摺動する摺動ガイドプレートが設けられ、かつ前記昇降材の下部に前記固定材の内面に接して摺動する摺動ガイドブロックが設けられ、
そのコイル状板バネの長さが前記昇降材の昇降ストロークよりも大きい定荷重バネの容器本体を前記固定材の上端付近に取り付け、かつ該定荷重バネのコイル状板バネの先端を前記昇降材の下端付近に取り付けて、前記昇降材の上昇時に付勢するように構成されていることを特徴とする伸縮式支柱。
【請求項2】
前記固定材の側面縦方向に所定間隔で設けられた通し孔に、支持用閂を差し込んで、上昇後の前記昇降材を支持することを特徴とする請求項1記載の伸縮式支柱。
【請求項3】
前記固定材が角パイプであって、前記の定荷重バネが一対又は複数対前記固定材の対向する辺に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の伸縮式支柱。
【請求項4】
前記定荷重バネのコイル状板バネとして、該コイルの半径R、板バネ厚みt、板バネ材のバネ限界値Kから下式で計算される腰折れ指数Aの値が5.0以上になるような弾性限界値Kを有するバネ材料を用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の伸縮式支柱。
A = K/(R・t2
ここで、A:腰折れ指数(kg/mm5)
K:板バネ材のバネ限界値(kg/mm2
R:板バネを巻いた時のコイル半径(mm)
t:板バネの厚み(mm)
【請求項5】
前記コイル状板バネ材として、JIS G 4313に規定されるばね用ステンレス鋼帯SUS301−CSPの調質記号EHのものを用い、かつこれを400℃〜420℃で1〜2時間の低温焼鈍した材料を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の伸縮式支柱。
【請求項6】
作業者又は重量物を乗せる水平台を単数もしくは複数の伸縮可能な支柱によって支持する昇降式作業台であって、前記支柱の一部又は全部が請求項1から5のいずれかに記載の伸縮式支柱により構成されていることを特徴とする人力で昇降が可能な作業台。
【請求項7】
その中央付近で2分割され、少なくとも一対の連結部材により相互に連結された水平台と、
前記連結部材のそれぞれを支持する少なくとも一対の伸縮式主支柱と、
前記水平台の分割辺と反対側の2隅付近において、該水平台を支持する各一対の伸縮式補助支柱と、
前記主支柱間を連結する少なくとも一本の第一横桟と、
前記の各補助支柱と前記主支柱との間を前記水平台の側辺と平行に連結する第二横桟と、
前記一対の連結部材それぞれの両側に設けられ、水平軸の回りに回転可能に前記水平台を支持する第一回転ジョイントと、
前記第二横桟それぞれの前記主支柱に近接した位置に設けられ、垂直軸の回りに回転可能に前記第二横桟の本体及びその先に取り付けられた前記補助支柱を支持する第二回転ジョイントとを備え、
前記主支柱が、請求項1から5のいずれかに記載の伸縮式支柱により構成され、前記補助支柱が、直立したパイプ状の固定材と該固定材の中に上下動可能に収納されたパイプ状又は棒状の昇降材とからなるとともに、前記水平台の取付け点において、係脱可能に前記水平台を支持するように構成され、
前記補助支柱の前記昇降材を水平台から取り外した状態で、該支柱の前記固定材の中に収納し、この状態で前記第二横桟それぞれに設けた前記第二回転ジョイントを軸として前記第二横桟の本体及びその先に取り付けられた前記補助支柱のそれぞれを内側に折畳み、さらにその後前記第一回転ジョイントを軸として、前記水平台を下側に折り畳めるように構成されていることを特徴とする人力で昇降が可能な折畳み式作業台。
【請求項8】
前記主支柱及び前記補助支柱それぞれの下端に、その移動を容易にするためのキャスターが配設されていることを特徴とする請求項7に記載の折畳み式作業台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−95470(P2008−95470A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281592(P2006−281592)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000227261)日鉄防蝕株式会社 (31)
【Fターム(参考)】