説明

伸縮性導電繊維材料

【課題】柔軟で高い伸縮性を持ちながら張力等により形状が変化した状態でも電気抵抗の変化が小さく且つ優れた導電性を保持する伸縮性導電繊維素材を提供する。
【解決手段】伸縮性を持つ糸を、めっき、金属蒸着、スパッタリング、導電塗料のいずれか一つの方法で導電性を持たせた合成繊維でカバーリングした複合糸を、全部、または一部に用いて製編された編物であることを特徴とする、伸縮性導電繊維材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編物特有の柔軟性を有し、変形・伸縮をしても安定した導電性を保持することの出来る、伸縮性導電繊維材料に関する。詳しくは、変形・伸縮の激しい、人体装着用のウェアラブルコンピュータ等の着用素材として使用可能な、伸縮性導電繊維材料に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料等の繊維製品に導電性を持たせ、様々な電子デバイスとして利用しようとする考え方は従来より多々存在する。しかしながら、伸縮性のある繊維材料に対して、その変形・伸縮によっても電気抵抗値の変化のない材料は、実用に到っていないのが現状である。繊維材料に導電性を持たせる方法は、種々考案されているが、繊維の特性である、柔軟性を損ねずに導電性を付与する方法としては、めっき、金属蒸着、スパッタリングなどがあげられる。
【0003】
ところで、このような方法で導電性を付与された繊維材料は、その変形によって金属被膜の割れや剥離などにより、電気抵抗値の増大や、最悪の場合、導電性の喪失という事態となる事は避けられない。まして、伸縮性のある繊維材料に関しては、その変形や伸縮によって、繊維同士の接触面の面積変化により、電気抵抗値が大きく変化してしまうという欠点があった。
【0004】
例えば特許文献1には、高捲縮繊維を主体とする高伸度布に無電解めっき、金属蒸着、スパッタリングあるいは導電塗料の塗布にて導電加工を施した、導電繊維シートが開示されている。この導電繊維シートは伸張させても捲縮繊維の捲縮が伸ばされることより、金属層に亀裂が生じない状態でシートを伸張させることができるので、表面抵抗が大きくならず、電子機器のプラスチック成型品のシールド材として安定したシールド効果と成形性を有することができる。しかし、このような導電繊維シートは、柔軟性や伸度の不足から、
その応用範囲は限られたものである。
【0005】
また、特許文献2には、導電性の繊維と非導電性の繊維を混ぜ合わせた混紡糸を複数本合わせ伸縮性を有する筒編みにより導電性編物を製編、あるいは、伸縮性を有する織物構成、伸縮性を有する混紡糸を用いて交互織りにより製織した、導電性繊維材料が開示されている。これを測定個所にその変形に追従して変形可能に設けることにより、該導電性編物又は織物の電気抵抗の変化により測定対象物の変形を検知することができる。従って、複雑な形状の測定対象物の変形を検出でき、構造が単純で安価なセンサとすることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献2の導電性編物あるいは織物は、変形により電気抵抗値が変化するという欠点を逆に利用しようとするものであり、測定個所が可動、もしくはその形状に追従させることが必要で、かつそれが変形・伸張した場合でも未変形時・未伸縮時と同等の導電性を維持することが必要な用途では、その要求を満足できない。
【0007】
【特許文献1】特許第2908543号公報
【特許文献2】特開2003−20538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これまでになかった、柔軟で高い伸縮性を持ちながら張力等により形状が変化した状態でも電気抵抗の変化が小さく且つ優れた導電性を保持する伸縮性導電繊維素材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、伸縮性を持つ糸を、めっき、金属蒸着、スパッタリング、導電塗料のいずれか一つの方法で導電性を持たせた合成繊維でカバーリングした複合糸を、全部、または一部に用いて製編された編物であることを特徴とする、伸縮性導電繊維材料である。
また、編物が、50%伸張時にその電気抵抗値の変化率が、未伸張時の70%以下である伸縮性導電繊維材料である。
更に、この編物が、緯編組織である伸縮性導電繊維材料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い柔軟性、導電性を有し、変形・伸縮をした際にも安定した導電性を保持することの出来る伸縮性導電繊維材料を提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において合成繊維は特に限定される事はなく、如何なる合成繊維をも用いる事ができる。これら合成繊維としては、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系などがあげられ、これらのいずれのものも使用することができる。
【0012】
伸縮性をもつ繊維としては、好ましいものとしてポリウレタン系繊維をあげることが出来るが、これに限定されるものではない。
【0013】
合成繊維に導電性を付与する方法としては、蒸着法、スパッタリング法、電気めっき法、無電解めっき法など従来公知の方法により行うことができる。なかでも、形成される金属被膜の均一性、および生産性を考慮すると、無電解めっき法、あるいは、無電解めっき法と電気めっき法の併用が好ましい。また、金属の定着を確実にするために、予め、繊維の表面に付着している油剤、ゴミなどの不純物を、精練処理により完全に除去しておくことが好ましい。精練処理は従来公知の方法を採用することができ、特に限定されない。
用いられる金属としては、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、およびそれらの合金などを挙げることができるが、導電性を考慮すると、銀が好ましい。
【0014】
導電性を付与された合成繊維にて、伸縮性を持つ糸をカバーリングする手法については、公知公用の方法を、特に制限することなく用いる事ができる。
【0015】
本発明においては、高い伸縮性を持たせる為に繊維材料の構造を、緯編組織とすることが好ましい。具体的には平編(親子天竺、プレイティング、レース目編)、ゴム編(1×1針抜き、片畦編、両畦編)、パール編(ガーター、梨地編、ケーブル編み)、スムース編み(ポンチローマ、モックロディア)等の組織があげられる。これらの組織に製編された生機を精練・乾燥して余分な油分や不純物を除去し、熱セットで形状を安定させることが好ましい。カバーリングを施した複合糸は伸縮性を持つ特性上、常に組織を収縮する方向に力を与え、導電糸同士の接触を保つ役割を果たし、また素材の高い伸縮性にも寄与する。これにより伸縮による繊維材料の変形に関わらず優れた導電性を保つことができ、しかも変形による繊維同士の接触面積の変化が小さく、結果、電気抵抗値が変化を抑えることが可能となる。図1は、銀めっき糸のみで製編した導電繊維材料と、本発明の伸縮性導電繊維材料との、繊維同士の接触状態について、その比較をモデル的に示すものである。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0017】
電気抵抗値の測定方法は、120mm×120mmの試料を用意し、これを、10mm×100mmの銅板を装着したクリップを端子として、サンプルの向かい合う辺同士の両端を、端子間距離が100mmとなるように挟む。このように設定して端子間の電気抵抗値をテスターにて測定し、タテ方向、ヨコ方向共に測定した。また、伸張時の電気抵抗値測定は、クリップ端子を引っ張り、端子間の距離が150mmとなる(50%伸張)ようにして、テスターにて端子間の電気抵抗値を測定した。ただし、50%伸張が不可能な試料に関しては、伸張可能な距離まで引っ張り、その距離を測定し伸張率を計算した。
【0018】
屈曲耐久性の評価は、20mm×100mmの試料を用意し、上記クリップを端子として、その端子間が80mmとなるようにして、テスターにて電気抵抗値を測定した。その後、JIS P8115に準じMIT試験機法にて試料を荷重250gでセットし、10000回の屈曲試験を行う。試験後、試料を取り出し再び上記の方法にて電気抵抗値を測定した。
【0019】
また、本発明の伸縮性導電繊維材料の目標とする性能について、以下のように設定をした。
・初期電気抵抗値 0.5Ω/□以下
・50%伸張時電気抵抗値 0.5Ω/□以下
・50%伸張時の電気抵抗値変化 0.2Ω/□以下
・定荷重伸度(荷重20N) 150%以上
・屈曲耐久性 屈曲1万回で電気抵抗値の劣化無きこと
【0020】
[実施例1]
ポンチローマ組織にて編物を作成した。使用糸は銀めっきを施した導電糸(40d/13f)とポリウレタン糸(30dモノフィラメント糸)に銀めっき糸を550回/m巻き付けたカバーリング糸を使用した。この2つの糸を図2の配列で製編を行い、生機を得た。次いで、得られた生機を、精練・乾燥して、余分な油分や不純物を除去し熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮繊維材料を得た。
得られた導電性伸縮性材料はコース75本/インチ、ウエル64本/インチ、柔軟で伸縮性に富み、50%伸張しても電気抵抗値の変化率が70%以下の優れた導電性伸縮繊維材料であった。
【0021】
[実施例2]
モックロディア組織にて編物を作成した。使用糸は銀めっきを施した導電糸(40d/13f)とポリウレタン糸(30dモノフィラメント糸)に銀めっき糸を550回/m巻き付けたカバーリング糸を使用する。この2つの糸を図3の配列で製編を行い、生機を得た。次いで、得られた生機を、精練・乾燥して、余分な油分や不純物を除去し熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮繊維材料を得た。
得られた導電性伸縮性材料はコース75本/インチ、ウエル60本/インチ、柔軟で伸縮性に富み、50%伸張しても電気抵抗値の変化率が70%以下の優れた導電性伸縮素材であった。
【0022】
[比較例1]
ポンチローマ組織にて編物を作成した。使用糸は銀めっきを施した導電糸(40d/13f)のみを使用し図4に示す組織にて製編を行い、生機を得た。次いで、得られた生機を精練・乾燥して、余分な油分や不純物を除去し熱セットにて形状を安定させ、伸縮性導電繊維材料を得た。
得られた導電性伸縮性材料はコース50〜53本/インチ、ウエル58〜60本/インチであり、電気抵抗変化率91.8〜99.3%であり、70%を大きく上回るものであった。又、タテ方向に15%しか伸張できず、目標の50%までは伸張できない繊維材料であった。
【0023】
[比較例2]
モックロディア組織にて編物を作成する。使用糸は銀めっきを施した導電糸(40d/13f)のみを使用し図5に示す組織にて製編を行い、生機を得た。次いで、得られた生機を精練・乾燥して、余分な油分や不純物を除去し熱セットにて形状を安定させ、伸縮性導電繊維材料を得た。
得られた導電性伸縮性材料はコース40本/インチ、ウエル60〜65本/インチであり、電気抵抗変化率93.3〜99.6であり、70%を大きく上回るものであった。 又、タテ方向に20%しか伸張できず、目標の50%までは伸張できない繊維材料であった。
【0024】
これらの伸縮性導電繊維材料の、各種測定結果を表1及び表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】銀めっき糸のみで製編した導電性繊維材料と、本発明の伸縮性導電繊維材料との、繊維同士の接触状態について示した図である。
【図2】実施例1の組織図である。
【図3】実施例2の組織図である。
【図4】比較例1の組織図である。
【図5】比較例2の組織図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を持つ糸を、めっき、金属蒸着、スパッタリング、導電塗料のいずれか一つの方法で導電性を持たせた合成繊維でカバーリングした複合糸を、全部、または一部に用いて製編された編物であることを特徴とする、伸縮性導電繊維材料。
【請求項2】
編物が、50%伸張時にその電気抵抗値の変化率が、未伸張時の70%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の、伸縮性導電繊維材料。
【請求項3】
編物が、緯編組織であることを特徴とする請求項1に記載の伸縮性導電繊維材料。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−191811(P2007−191811A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9273(P2006−9273)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】