説明

位相差フィルム

【課題】光弾性係数が小さく、波長分散性に優れた位相差フィルムを提供することにある。
【解決手段】波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.8以上、1.0以下である熱可塑性樹脂Aを60〜99質量%と、負の複屈折を有する熱可塑性樹脂Bを1〜40質量%からなる位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償用途、反射防止用途に好適な位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイにおいて、位相差フィルムは、色補償、視野角補償などの光学補償用途および外光の反射防止用途に用いられている。近年、液晶ディスプレイの大画面化、高精細化、広視野角化により、位相差フィルムを液晶セルに組み込み製品化する場合には、貼り合わせたときの貼りムラが小さいこと、偏光フィルムの収縮など構成材料間の熱膨張差などにより発生する応力による位相差変化が小さいこと、すなわち光弾性係数が小さいこと、さらには位相差の波長分散においては波長が大きくなるに従い位相差が大きい逆分散性の位相差フィルムであることが望まれている。
【0003】
光弾性係数が小さく逆分散性の位相差フィルムとして、環状ポリオレフィンを用いる方法(例えば、特許文献1参照)が提案されており、1/2波長板と1/4波長板を特定の角度で積層することで、可視光領域の広帯域において正面からの入射光に対する位相差を1/4波長に近づけている。しかし、この積層型の位相差フィルムは、光弾性係数は小さいが、構成部材コストおよび貼合コストが大きく、またディスプレイの薄膜化、軽量化には限界があるという問題があった。
また、ポリカーボネートにビニル系低分子量ポリマーを添加することにより光弾性係数を低減する方法(例えば特許文献2参照)が提案されているが、ポリカーボネートの元々の光弾性係数が大きいため、ビニル系低分子量ポリマーを添加による光弾性係数の低減が不十分であるという問題や、逆分散性の位相差フィルムを得られないため、円偏光板を表示装置に組み込み、正面及び斜めから見るとコントラストが低く、色調が変化するという問題があった。また、ポリエステルを位相差フィルムとして用いる方法(例えば、特許文献3、4参照)が提案されているが、低光弾性係数と優れた逆分散性を両立することが困難であった。
【特許文献1】特開2000−302988号公報
【特許文献2】特開2003−270435号公報
【特許文献3】特開2007−4143号公報
【特許文献4】特開2007−112980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。したがって、本発明の目的は、光弾性係数が小さく、逆分散性に優れた位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明によれば、波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.8以上、1.0以下である熱可塑性樹脂Aを60〜99質量%と、負の複屈折を有する熱可塑性樹脂Bを1〜40質量%からなる位相差フィルムが提供される。
【0006】
さらには、本発明の位相差フィルムは、光弾性係数が−20×10−12 Pa−1以上、20×10−12 Pa−1以下であること、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.1以上、0.95以下であること、熱可塑性樹脂Bが負の光弾性係数を有し、質量平均分子量4万以上のポリスチレン共重合体であることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下に説明するとおり、光弾性係数が小さく、逆分散性に優れた位相差フィルムを提供することができる。そのため、液晶ディスプレイに使用したときの視野角特性をよくすることができ、また、偏光板に貼り合わせたときの貼りムラや、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮などにより発生する応力によるフィルムの寸法変化や位相差変化を小さくすることができ、光の額縁漏れや色ムラをなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の位相差フィルムは、波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.8以上、1.0以下である熱可塑性樹脂Aを60〜99質量%と、負の複屈折を有する熱可塑性樹脂Bを1〜40質量%からなることが必要である。
【0009】
熱可塑性樹脂AはR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.85以上、1.0以下が好ましい。上記範囲であることにより、負の複屈折を有する熱可塑性樹脂Bが少ない含有量で逆分散性を調節することができるため、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bの混合によるヘイズ悪化を低減することができる。本発明でいう位相差は自動複屈折計KOBRA−21ADH/DSP(王子計測機器製)で測定した値であり、熱可塑性樹脂AのR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)は波長が548.3nmの複屈折(Δn)が0.001の時のR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)の値である。熱可塑性樹脂AのR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)を上記範囲にする方法としては公知の方法を用いることができるが、製膜性、波長分散の制御のしやすさ、光弾性係数の観点からポリエステル樹脂が好ましい。
【0010】
熱可塑性樹脂Aがポリエステル樹脂の場合、カルド構造、単環または多環の脂環構造を有することが好ましい。カルド構造を含有することにより波長分散を制御でき、また脂環族を多く含有することにより光弾性係数を低減することができる。熱可塑性樹脂Aのポリエステル樹脂の脂環構造としては、例えばシクロヘキサン構造、シクロペンタン構造、デカリン構造、トリシクロデセン構造、ノルボルナン構造、シクロヘキセン構造、シクロペンテン構造、ノルボルネン構造、スピロ環構造などが挙げられる。また、カルド構造としては、フルオレン環、9,9−ビスフェニルフルオレン構造などが挙げられる。Tgの向上を目的として芳香族構造を多く導入すると光弾性係数が大きくなる傾向にあり好ましくないが、9,9−ビスフェニルフルオレン構造からなる芳香族は、主鎖方向の芳香環と主鎖と直交する方向のフルオレン環(芳香環)が分極を打ち消しあうため、高いTgと小さい光弾性係数の両立が可能になるため好ましい。カルド構造の共重合量を多くすることによりR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)の値を小さくすることができる。
【0011】
また、熱可塑性樹脂Bは負の複屈折を有することにより位相差フィルムのR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)の値を制御することができる。熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bの混合率により様々な波長分散性の位相差フィルムを製造できるため、生産性の観点から好ましい。さらに熱可塑性樹脂Bは負の光弾性係数を有することが好ましい。負の光弾性係数を有することにより、熱可塑性樹脂Aの光弾性係数をより低減した位相差フィルムとすることができる。好ましくは−1×10−12Pa−1以下、−50×10−12 Pa−1以上であり、より好ましくは−5×10−12Pa−1以下、−50×10−12 Pa−1以上である。本発明でいう負の複屈折とはガラス転移温度以上で延伸したフィルム面内の遅相軸が延伸方向と垂直である複屈折の状態を言い、また負の光弾性係数とは25℃で延伸するにしたがってフィルム面内で増加する位相差の遅相軸が延伸方向と垂直である状態かもしくは減少する位相差の遅相軸が延伸方向と平行である状態を言う。
【0012】
熱可塑性樹脂Bの質量平均分子量は4万以上15万以下であることが好ましい。4万以上であることで熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度が高くなり、位相差フィルムの耐熱性が向上するため好ましい。また、溶融製膜のしやすさの観点から15万以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂Bの分子量は押出温度での溶融粘度が熱可塑性樹脂Aと同程度となるように選択することが分散性の観点からより好ましい。
【0013】
熱可塑性樹脂Bの含有量は1〜40質量%であることが必要であり、より好ましくは5〜20質量%である。含有量が1%未満である場合は、光弾性係数低減の効果を得られないことがあり好ましくなく、40質量%を超える場合は、位相差フィルムのヘイズが高くなるため好ましくない。熱可塑性樹脂Bの含有量は位相差フィルムの目的とする波長分散性にあわせて決定することが好ましい。
【0014】
熱可塑性樹脂Bの質量平均分子量および含有量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法などを用いて測定することができる。また、含有量は、本発明の位相差フィルムの質量を100質量部としたときの熱可塑性樹脂Bの質量%で表される。
【0015】
本発明の位相差フィルムは光弾性係数が−20×10−12 Pa−1以上、20×10−12 Pa−1以下である事が好ましい。より好ましくは−10×10−12Pa−1以上、10×10−12 Pa−1以下であり、もっとも好ましくは−5×10−12Pa−1以上、5×10−12 Pa−1以下である。光弾性係数が−20×10−12Pa−1未満、または20×10−12 Pa−1より大きい場合は、円偏光板を液晶セルに貼り合わせたときの貼りムラや、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮などにより発生する応力により、位相差ムラが発生し、コントラストの低下や色相変化を起こすことがあり好ましくない。
【0016】
光弾性係数を−20×10−12 Pa−1以上、20×10−12 Pa−1以下にする方法としては、熱可塑性樹脂Aの有する脂環構造の含有量を増加させ、かつ熱可塑性樹脂Bを1〜40質量%含有させることが有効である。熱可塑性樹脂Bの含有量を増やすことによって光弾性係数を低減することができるが、熱可塑性樹脂Aの光弾性係数が大きい場合は、目的とする小さい光弾性係数を達成するために必要な熱可塑性樹脂Bの含有量が多くなるため、位相差フィルムのヘイズが高くなることがあり好ましくない。
【0017】
本発明の位相差フィルムはR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.1以上、0.95以下である事が好ましい。求められるR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)の値は用途や液晶ディスプレイの光学設計によるが、特に反射防止用の円偏光板に用いる位相差フィルムは、各波長における位相差が1/4となることが好ましい。つまり、波長628.2nmにおける位相差R(628.2)(nm)と波長548.3nmにおける位相差R(548.3)(nm)と波長480.4nmにおける位相差R(480.4)(nm)が次式を満たすことが理想であり、この理想値に近い場合を波長分散性が良いという。
R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm) = 1.146
R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm) = 0.8762。
【0018】
本発明の位相差フィルムは、位相差フィルムのR(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)が1.0以上、1.8以下であり、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.1以上、0.95以下であることが好ましい。より好ましくは、R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)が1.05以上、1.2以下であり、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.82以上、0.92以下であり、さらに好ましくはR(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)が1.08以上、1.17以下であり、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.84以上、0.90以下を満たすことである。
【0019】
位相差フィルムを円偏光板に用いて、反射型および半透過型液晶表示装置や有機EL表示装置に組み込んだ際に、位相差フィルムが、一枚でR(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)が1.05以上、1.2以下を満たしていると長波長の光漏れがほとんどないため、黒表示がわずかに赤みを帯びることもなく好ましく、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.82以上、0.92以下を満たしていると、短波長の光漏れがほとんどないため、黒表示がわずかに青みを帯びることや、コントラスト低下もほとんどなく好ましい。また、広範囲の可視光波長域で、正面および斜めからの入射光を円偏光に変換することができるため、反射型および半透過型液晶表示装置や有機EL表示装置に組み込んだ際に、正面だけでなく斜めから見ても、コントラスト低下や色相変化を少なくすることができるため好ましい。
【0020】
R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)が1.0以上、1.8以下、かつR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.1以上、0.95以下を満たす方法としては、熱可塑性樹脂Aが、カルド構造、単環または多環の脂環構造を有し、熱可塑性樹脂AのR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.8以上、1.0以下であり、負の複屈折を有する熱可塑性樹脂Bを1〜40質量%含有することにより得ることができる。熱可塑性樹脂Bの含有量を増加させることにより、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)の値を小さくすることができ、目的の値に合わせて含有量を調節することが好ましい。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度の差が30℃以内である事が好ましい。より好ましくは20℃以内である。上記範囲内であることによって、熱可塑性樹脂Bが少ない混合量でR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)の値を調節できるため好ましい。ガラス転移温度の差を30℃以内とする方法としては、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bの共重合比率を調整することにより達成できる。例えば、ポリスチレンおよびポリαメチルスチレンの共重合体の場合、ポリスチレン成分の共重合比率を増加させることによってガラス転移温度を低下することができる。また、ポリエステル樹脂の場合、単環より多環の脂肪族を用いることによりガラス転移温度を増加させることができる。
【0022】
本発明の位相差フィルムの溶融粘度が、温度が270℃、せん断速度100s−1において10Pa・s以上、1000Pa・s以下であることが好ましい。溶融粘度は好ましくは50Pa・s以上、800Pa・s以下であり、より好ましくは、100Pa・s以上、500Pa・s以下である。1000Pa・s以下の場合は、流動性、成形性に優れ、溶融粘度を下げるために溶融温度を高くする必要がなく、フィルターにより異物が取り除けるため好ましい。1000Pa・sより大きい場合は、流動性、成形性に劣るため好ましくない。例えば、光学用フィルムとしては、ポリカーボネート、セルロースなどの樹脂からなるフィルムが挙げられるが、これらの樹脂は溶融粘度が高く、製膜可能な溶融粘度になるよう温度を上げると樹脂が分解または劣化する問題があるため、樹脂を溶媒に溶かして粘度を下げ、溶液流延法を用いる必要がある。溶液流延法を用いる場合は、生産性が低くなるため好ましくなく、また用いる溶媒が環境に影響を与えることがあるためからも好ましくない。10Pa・sより小さい場合は、製膜が困難となるため好ましくない。
【0023】
溶融粘度を10Pa・s以上にする方法として、組成により異なるが分子量を充分に上げることが好ましい。溶融粘度を1000Pa・s以下にする方法として、例えば分子量を調節し分子鎖の絡み合いを少なくするや、水素結合などの分子間結合を形成する置換基を少なくする方法などが挙げられる。
【0024】
また、重合反応が進行し、樹脂の分子量が大きくなるに従い、溶融粘度が高くなるため、重合装置の攪拌トルクも上昇する。重合終了時の攪拌トルクと樹脂の溶融粘度との関係を求め、目的の溶融粘度を満足する攪拌トルクで重合反応を停止することが好ましい。
【0025】
本発明の位相差フィルムのヘイズが3.0%以下であることが好ましい。好ましくは2.5%以下であり、より好ましくは2.0%以下である。ヘイズが3.0%より高い場合は、透明性が低下し位相差フィルム用途として適さなくなることがあり好ましくない。
【0026】
本発明の位相差フィルムは、波長548.3nmにおける複屈折をΔNとしたとき、ΔNが1.0×10−3以上、20×10−3以下であることが好ましい。より好ましくは、波長分散性および円偏光板の薄膜化の観点から1.5×10−3以上であり、さらに好ましくは1.6×10−3以上であり、もっとも好ましくは1.7×10−3以上である。また、ハンドリング性、位相差の制御の観点から好ましくは15×10−3以下であり、さらに好ましくは10×10−3以下である。芳香族構造のモル分率が50%である場合はΔNが20×10−3以上となることがあり好ましくなく、カルド構造のモル分率が45%以上である場合はΔNが1.0×10−3未満となることがあり好ましくない。ΔNを1.0×10−3以上、20×10−3以下とする方法として、例えば位相差フィルムのガラス転移温度Tg、またガラス転移温度が複数ある場合は高いガラス転移温度Tgに対し、(Tg−40)℃〜(Tg+40)℃の範囲のいずれかの温度で、1.1〜10倍のいずれかの延伸倍率で、一軸延伸、二軸延伸などの方法で作製できる。好ましくは(Tg−10)℃〜(Tg+30)℃であり、より好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg+20)℃の範囲のいずれかの温度で延伸することであり、延伸倍率に特に限定はないが、好ましくは1.1〜5倍であり、より好ましくは1.5〜4倍のいずれかの延伸倍率で延伸することである。延伸温度が(Tg+40)℃より大きい場合や、延伸倍率が1.1倍未満の場合はΔNが1.0×10−3未満となることがあり好ましくなく、延伸温度が(Tg−40)℃未満の場合はフィルム破れが生じることがあり好ましくなく、延伸倍率が10倍より大きい場合はクラックによる白化が生じることがあり好ましくない。
【0027】
延伸速度は好ましくは、50%/分以上、4000%/分以下とすることであり、より好ましくは100%/分以上、3000%/分以下であり、もっとも好ましくは200%/分以上、2000%/分以下である。延伸速度が50%/分未満の場合は、延伸による分子鎖の配向と同時に配向緩和が生じるため、ΔNが1.0×10−3未満となることがあり好ましくなく、4000%/分より大きい場合は応力集中によるフィルム破れやクラックによる白化が生じるため好ましくない。
【0028】
ΔNが1.0×10−3未満の場合は、R(628.2)(nm)/R(548.3)(nm)が1.0以上、1.8以下、かつR(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.1以上、0.95以下を満たさないことがあり、反射型および半透過型液晶表示装置や有機EL表示装置に組み込んだ際に、正面および斜めから見たとき、光漏れや、黒表示が青みを帯びることによるコントラスト低下や色相変化が生じることがあり好ましくない。また、必要な厚みが大きくなり、本発明の円偏光板を用いた表示装置の薄型化、軽量化の観点で好ましくなく、また、ΔNが20×10−3を超える場合は、位相差の制御が困難になり好ましくない。
【0029】
本発明の位相差フィルムの熱可塑性樹脂Aは、化学式(1)で表される構造単位を含む樹脂からなることが好ましい。
【0030】
【化1】

【0031】
化学式(1)で表される構造単位において、Rは好ましくは水素原子である。Rがアルキル基、アリール基、シクロアルキル基の場合は原料コストが高くなることや、Tgの低下があり好ましくない。また、m=1であることが好ましく、Rは同一でエチレン基であることが好ましい。アルキレン基の炭素数が大きい場合はTgが下がり好ましくなく、m=0の場合は重合の反応性が悪くなり好ましくない。より好ましくは、下記化学式(2)で表される構造単位である。
【0032】
【化2】

【0033】
上記化学式(1)で表される構造単位の誘導体としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられ、これらの中でも、光弾性係数、耐熱性、重合性の観点から9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが好ましい。
【0034】
本発明の位相差フィルムの熱可塑性樹脂Aは、さらに下記化学式(3)で表される構造単位を含む樹脂からなることが好ましい。Rは脂環族であることが好ましい。
【0035】
【化3】

【0036】
上記化学式(3)で表される構造単位の誘導体としては、例えば2,6−デカリンジカルボン酸、1,5−デカリンジカルボン酸、1,6−デカリンジカルボン酸、2,7−デカリンジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。エステル形成性誘導体としては、ジカルボン酸に対応する酸クロライドのような酸ハライド、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルなどの低級アルキルエステルなどが挙げられる。波長分散性、光弾性係数、耐熱性の観点から2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルが好ましい。
【0037】
本発明の位相差フィルムの熱可塑性樹脂Aは、ジオール単位としてさらに下記化学式(4)で表される構造単位を有することが好ましく、そのRはアルキル基、シクロアルキル基の単一、またはこれらの複数の組み合わせからなり、炭素数1〜50、酸素数0〜10であることが好ましい。
【0038】
【化4】

【0039】
化学式(4)で表される構造単位の誘導体としては、例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、2,2−ジメチルプロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ヘキサンジオール、スピログリコールなどの脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタンジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノールなどの環構造を有するジオールが挙げられる。位相差フィルムの延伸性、柔軟性の観点から好ましくはエチレングリコールであり、光弾性係数の低減、耐熱性の観点から、好ましくは2.3−ブタンジオール、スピログリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロピレングリコール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、1,2−デカリンジメタノール、1,3−デカリンジメタノール、1,4−デカリンジメタノール、1,6−デカリンジメタノール、2,7−デカリンジメタノールである。より好ましくはエチレングリコール、スピログリコール、2,6−デカリンジメタノールである。本発明の目的を損なわない範囲で、1種または2種以上組み合わせて用いることができ、例えばエチレングリコール、スピログリコール、2,6−デカリンジメタノールを併用することで耐熱性、光学特性、柔軟性、機械特性を調節することができる。
【0040】
本発明の位相差フィルムを構成する熱可塑性樹脂Aの重合方法に限定はなく、ポリエステル樹脂の場合、公知の重合法、例えば、ジカルボン酸とグリコールを誘導体とするエステル化法、ジカルボン酸ジエステルとグリコールを用いるエステル交換法などを用いることができる。
【0041】
エステル交換法の場合、例えば2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、エチレングリコールを用いる場合、テレフタル酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、エチレングリコールを所定のポリマー組成となるように反応容器へ仕込む。この際、エチレングリコールを全ジカルボン酸成分に対して1.7〜2.3モル倍添加することにより反応性が良好になる。これらを150℃程度で溶融後、触媒として酢酸マンガンを添加し撹拌する。150℃で、これらのモノマー成分は均一な溶融液体となる。ついで235℃まで徐々に昇温しながらメタノールを留出させる。その後200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸を加える。2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのようにジカルボン酸のエステル形成性誘導体ではなく、ジカルボン酸やジカルボン酸無水物を用いる場合は、このように途中で加えることにより反応性を良好にすることができる。その後、再び235℃まで昇温することでエステル交換反応を実施する。
【0042】
エステル反応終了後、トリメチルリン酸を加え、撹拌後に水を蒸発させる。さらに、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、エチレングリコールを留出させる。重合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇するので、撹拌トルクが0.2Nmとなった時点で反応を終了し、重合装置から樹脂を水槽へ吐出する。攪拌トルクが0.2Nm未満で反応を終了すると、溶融粘度が低く、成形が困難になることがあるので好ましくなく、0.2Nmを大きく超えた場合は、溶融粘度が高くなりすぎるので、製膜可能な溶融粘度になるよう押出温度を上げる必要があるが、その際に樹脂の熱分解や着色が生じることがあるので好ましくない。吐出された樹脂は水槽で急冷し、カッターでチップとする。得られた樹脂は95℃の温水が満たされた水槽に投入して5時間水処理を行う。水処理後、脱水機を用いて樹脂から水分を除去する。
【0043】
このようにして得た熱可塑性樹脂Aに、公知の溶液混錬法、溶融混錬法などの方法を用いて熱可塑性樹脂Bを添加することで、本発明の位相差フィルムを得て製膜する方法、または熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bをドライブレンドし直接溶融押出によって製膜する方法などが挙げられるが、溶液混錬法は生産性が低くなることや、用いる溶媒が環境に影響を与えることがあり好ましくなく、また上記の方法に限定されるわけではない。樹脂の各構造単位のモル分率(%)は、例えば熱分解ガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)法や、樹脂を加水分解し、生成物をシリル化など誘導体化した後に、GC−MS法、及びNMR法などの方法を用いて測定することができる。また、熱可塑性樹脂Bの分子量と含有量はゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法や、GPC法で分取後、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bの質量分析する方法などを用いて測定することができる。また、熱可塑性樹脂Bの同定には、NMR法やGC−MS法などの方法を用いることができる。
【0044】
本発明の位相差フィルムの熱可塑性樹脂Bは負の複屈折を有することが必要である。負の複屈折を有する熱可塑性樹脂は、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリスチレン−フェニルマレイミド共重合体やポリスチレン−シクロヘキシルマレイミド共重合体などのポリスチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート共重合体などが挙げられる。
【0045】
さらに、本発明の位相差フィルムの熱可塑性樹脂Bが負の光弾性係数を有するために、メチルメタクリレート成分やα−メチルスチレン成分を用いることが好ましい。ガラス転移温度が高く光弾性係数が小さいため、好ましくはα−メチルスチレンを含有する熱可塑性樹脂が好ましい。α−メチルスチレンを含有する熱可塑性樹脂としてはポリα−メチルスチレンやα−メチルスチレンとビニル芳香族との共重合体が挙げられる。ビニル芳香族の具体例としてはスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン等があるが好ましいのはスチレンである。
【0046】
本発明において、熱可塑性樹脂Bに用いるポリスチレン共重合体を重合するための方法はリビング重合法により製造される。リビング重合法には、リビングアニオン重合、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合があり、特に限定されることなく、いずれの方法においても製造することができる。この中でも、特にリビングアニオン重合法を用いる場合、例えばスチレンとαメチルスチレンとシクロヘキサンを混合した溶液を、活性アルミナを充填した5Lの容積の製造塔内を通過させて重合禁止剤であるt−ブチルカテコールを除去させる。そして、反応器内の攪拌翼を175rpmで攪拌させ、重合反応を進める。次に、重合反応器から排出されたリビングポリマーの溶液を重合停止剤溶液のある反応器内に移し、停止剤溶液を0.1kg/時の流速で導入しその後、静的ミキサーを経て完全に重合反応を停止させる。さらに、ポリマー溶液は予熱器で260℃まで加熱し、2MPaの減圧下で溶媒と未反応モノマーをポリマーから分離、回収した後に、十分に揮発成分が除去されたポリマーを、カッターでペレタイズ化しポリマーを回収する。このようにして本発明の熱可塑性樹脂Bを得ることができるが、上記に限定されるわけではない。
【0047】
本発明の位相差フィルムを製膜する方法としては、公知の製膜方法を用いて製膜することができる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法などの製造方法が使用できるが、厚みムラ減少、異物削減の観点からT−ダイ法、流延法、ホットプレス法が好ましく使用できる。ヘイズ低減のためには、T−ダイ法、流延法が好ましい。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいはニ軸押出しスクリューのついたエクストルーダ溶融押出し装置が使用できる。好ましくはL/D=25以上120以下のニ軸混練押出機が着色を防ぐことができる点で好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。特に本発明の位相差フィルムを構成する樹脂は非晶性であるため乾燥が難しいため、ベント式押出機は乾燥せずに溶融押出しできる点で好ましく用いられる。押出温度としては熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bの混合体のガラス転移温度のうち高い温度Tgに対し(Tg+100)〜(Tg+200)℃の範囲のいずれかの温度で行うことができる。キャスト方法は溶融した樹脂をギアポンプで計量した後にTダイ口金から吐出させ、冷却されたドラム上に、密着手段である静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの冷却媒体に密着冷却固化させて室温まで急冷し、未延伸フィルムを得ることが好ましい。特に本発明の位相差フィルムは良好な平面性や均一な厚み、光学特性が要求されるため、静電印加法が特に好ましく用いられる。
【0048】
上記に記載の製膜方法により製造した未延伸フィルムを、(Tg−40)℃〜(Tg+40)℃の範囲のいずれかの温度で、1.1〜10倍のいずれかの延伸倍率で、一軸延伸、ニ軸延伸などの方法で作製できる。二軸延伸の延伸方式は、特に限定はなく、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの方法を用いることができる。好ましくは(Tg−10)℃〜(Tg+30)℃であり、より好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg+20)℃の範囲のいずれかの温度で延伸することであり、延伸倍率に特に限定はなく、目的とした位相差に応じて決めることができるが、一軸延伸の延伸方式を用いる場合は、好ましくは1.1〜5倍であり、より好ましくは1.5〜4倍のいずれかの延伸倍率で延伸することが、波長分散性の観点から好ましい。延伸温度が(Tg+40)℃の場合や、延伸倍率が1.1未満の場合はΔNが1.0×10−3未満となることがあり好ましくなく、延伸温度が(Tg−40)℃未満の場合はフィルム破れが生じることがあり好ましくなく、延伸倍率が10倍より大きい場合はクラックによる白化が生じることがあり好ましくない。
延伸速度は好ましくは、50%/分以上、4000%/分以下とすることであり、より好ましくは100%/分以上、3000%/分以下であり、もっとも好ましくは200%/分以上、2000%/分以下である。延伸速度が50%/分未満の場合は、延伸による分子鎖の配向と同時に配向緩和が生じるため、ΔNが1.0×10−3未満となることがあり好ましくなく、4000%/分より大きい場合は応力集中によるフィルム破れやクラックによる白化が生じるため好ましくない。
【0049】
延伸した位相差フィルムは、(Tg−20)℃〜(Tg+10)℃の範囲のいずれかの温度で、収縮率0.5〜10%の収縮を延伸方向に対して行うことが好ましい。より好ましくは、(Tg−15)℃〜(Tg+5)℃であり、さらに好ましくは(Tg−10)℃〜(Tg)℃の範囲のいずれかの温度である。(Tg−20)℃未満の場合は、収縮の際にフィルムが弛み平滑性が損なわれることがあり好ましくなく、(Tg+10)℃より高い温度の場合は、分子鎖の配向緩和によりΔNが1.0×10−3未満となることがあり好ましくない。収縮率は、好ましくは1〜8%であり、さらに好ましくは2〜7%である。ここで、収縮率を
【0050】
【数1】

【0051】
とする。収縮率が1%未満の場合は、残留応力の解消が不十分なことがあり、長期の位相差安定性に劣る場合があるので好ましくなく、10%より大きい場合はフィルムの平滑性が悪化することがあるので好ましくない。また、収縮速度は好ましくは、0.1%/分以上、100%/分以下とすることであり、より好ましくは0.25%/分以上、80%/分以下であり、もっとも好ましくは0.5%/分以上、40%/分以下である。0.1%/分未満の場合は、目的の収縮率に達するまでに必要な時間が長くなるため、分子鎖の配向緩和によりΔNが1.0×10−3未満となることがあり好ましくなく、100%/分より大きい場合はフィルムの平滑性が悪化することがあるので好ましくない。
【0052】
本発明の位相差フィルムの厚みは1〜300μmであることが好ましい。より好ましくは7〜150μmであり、さらに好ましくは10〜80μmである。1μm未満の場合はフィルムのハンドリングが困難になることがあり、300μmを超える場合は光線透過率が低くなることがあり、また本発明の位相差フィルムを用いた液晶ディスプレイの薄型化、軽量化の観点で好ましくない。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、物性の測定は次の方法に従って行った。
【0054】
熱可塑性樹脂Bの質量平均分子量・含有量
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC:東ソー社製)に、示差屈折率計(RI:東ソー社製)を組み入れ、GPC装置でサイズ分別された溶液の屈折率差を、溶出時間を追って測定することにより、溶質の分子量を順次計算し、質量平均分子量を求めた。データ処理には、GPCデータ処理システム(東レリサーチセンター社製)を用いた。また、GPCで分取した熱可塑性樹脂Bおよび熱可塑性樹脂Aの質量を測定することにより、含有量を求めた。
【0055】
波長分散・複屈折
下記測定器を用いて測定した。
装置:自動複屈折計 KOBRA−21ADH/DSP (王子計測機器製)
サンプルホルダー:ADH−05−5(0.5mm以下)、φ5mm
吸収端波長:0nm
測定波長:480.4nm、548.3nm、628.2nm、752.7nm
測定モード:波長分散特性測定
入射角:0°
サンプル:1〜200μmのいずれかの厚みのフィルム。
サンプルの厚み:フィルム厚みは5点測定し、その平均値を有効数字3桁で算出した。
測定結果:波長λ(nm)の時の位相差をR(λ)(nm)と記載した。各サンプル5回測定を行い、その平均値を有効数字3桁で算出し、波長分散とΔNを導いた。
波長分散:R(628.2)/R(548.3)、R(480.4)/R(548.3)より算出した。
ΔN:R(548.3)(nm)/(フィルム厚み)(nm)より算出した。
【0056】
溶融粘度
JIS−K7210−1976(参考試験)に準処して測定した。測定には、下記測定器、および条件にて行った。
装置:フローテスター CFT−500(島津製作所製)
ダイの長さ:10mm
ダイの内径:1.0mm
予熱時間:5分
温度:270℃
荷重:10kgf、50kgfおよび100kgf
サンプル:5mm角に裁断したフィルム。
サンプル調整:10−3Pa−1以下に減圧した真空乾燥機を用いて、100℃、24時間の乾燥を行った。
測定結果:各荷重、3回測定を行った。せん断速度をx、溶融粘度をyとする。Y=lny、X=lnx、A=lnaとし、最小二乗法を用いて直線Y=AX+bを求めた。さらに、求めたAよりaを導き、累乗近似式y=axを用いて、せん断速度が100s−1の際の溶融粘度を算出した。
【0057】
光弾性係数
下記測定器および測定方法にて測定した。
装置:セルギャップ検査装置 RETS−1200(大塚電子株式会社製)
サンプル:または1〜200μmのいずれかの厚みのフィルム。樹脂サンプルの場合、プレス法にてフィルム状に成型した後にΔN=0.001となるように1軸に延伸したフィルムをサンプルとした。
サンプルサイズ:30mm×50mm
サンプル厚み:フィルム厚みは5点測定し、その平均値を有効数字3桁で算出しd(nm)とした。
測定スポット径:φ5mm
光源:589nm
測定方法:サンプルの厚みをd(nm)とし、長手方向の両端を冶具で挟み、長手方向に9.8×10Paの応力σ(Pa−1)をかけた。この状態で、位相差R(nm)を測定した。
測定結果:張力をかける前の位相差をR、かけた後の位相差をRとした。
光弾性係数(Cσ):Cσ=(R―R)/(σ×d)より、光弾性係数(Cσ)(Pa−1)を計算した。5枚のフィルムを測定し、その平均値を有効数字2桁で算出した。
【0058】
ヘイズ
測定には、下記測定器および条件にて行った。
装置:直読ヘーズメーターHGM−2DP(C光源用) (スガ試験機社製)
光源:ハロゲンランプ12V、50W
受光特性:395〜745nm
光学条件:JIS−K7105−1981に準拠
5枚のフィルムを測定し、その平均値を有効数字2桁で算出した。
【0059】
ガラス転移温度
測定には、下記測定器および条件にて行った。
装置:示差走査熱量計 RDC220 ロボットDSC(セイコーインスツルメント社製)
測定条件:窒素雰囲気下
測定範囲:25〜300℃
昇温速度:20℃/分
サンプル:フィルム
サンプル量:5mg
測定結果:JIS−K7121−1987の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に準処して、測定チャートの各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス単位の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。測定は5回行い、その平均値を有効数字3桁で算出した。
【0060】
[ポリエステル樹脂の重合]
熱可塑性樹脂Aとしてポリエステル樹脂を使用した。
【0061】
[参考例1]
(ポリエステル樹脂(1))
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル127質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン131質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガンを0.15質量部添加し撹拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.04質量部加え、水を蒸発させた。二酸化ゲルマニウムを0.04質量部添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧しエチレングリコールを留出させた。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、撹拌トルクが0.2Nmとなった時点で反応を終了し、重合装置からポリエステルを水槽へ吐出した。吐出された樹脂は水槽で急冷後、カッターでチップとした。得られたチップをNMRにて組成分析した結果、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル誘導体成分50mol%、エチレングリコール誘導体成分20mol%、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン誘導体成分30mol%の組成比であった。得られたポリマーの特性を表1に示す。
【0062】
[参考例2]
(ポリエステル樹脂(2))
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの仕込み量を175質量部とした以外は参考例1と同様にしてポリマーを得た。得られたポリマーの特性を表1に示す。[参考例3]
(ポリエステル樹脂(3))
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル127質量部、エチレングリコール62質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン88質量部、スピログリコール91質量部の割合でそれぞれ計量した以外は参考例1と同様にしてポリマーを得た。得られたポリマーの特性を表1に示す。
【0063】
[参考例4]
(ポリエステル樹脂(4))
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの仕込み量を197質量部とした以外は参考例1と同様にしてポリマーを得た。得られたポリマーの特性を表1に示す。
【0064】
[参考例5]
(スチレン−αメチルスチレン共重合体(1))
スチレン16質量部、α―メチルスチレン29質量部、シクロヘキサン55質量部の割合で計量し混合した溶液を貯蔵タンクに溜め窒素バブリングした後に、溶液に活性アルミナを充填した5L容積の精製塔内を通過させて重合禁止剤であるt−ブチルカテコールを除去した。
重合反応器は窒素ガスでシールし、外部から空気が混入しないようにし、重合反応器の入り口にギアポンプを設置し重合溶液が常に2.1Lとなるように制御した。また、重合溶液からは常に溶液の一部が沸騰している状態にし、内温を82℃〜84℃の間に制御した。攪拌翼の回転数は175rpmとした。重合反応器の原料入り口、出口にはそれぞれギアポンプを取り付け、原料および重合溶液が常に2.1L/時の一定流量の液を流せる様に制御した。また、n−ブチルリチウム(15質量%のn−ヘキサン溶液、和光純薬社製)をシクロヘキサンで1/51倍に希釈した開始剤溶液は0.25L/時で重合反応器内へ導入した。
【0065】
重合反応器から排出されたリビングポリマーの溶液は、更にギアポンプを通じて、メタノール(特級、和光純薬社製)を3質量%の濃度になるようにシクロヘキサンで希釈した溶液に二酸化炭素と少量の水を飽和状態になるまで吹き込んで調整した重合停止剤溶液のある反応器まで導いた。停止剤溶液は0.1kg/時の流速で導入し、その後、静的ミキサーを経て完全に重合反応を停止させた。さらに、ポリマー溶液は予熱器で260℃まで加熱し、その後2MPaの減圧下で溶媒と未反応モノマーをポリマーから分離、回収した。十分に揮発成分が除去されたポリマーは、その後ロープ状に排出されて水中で冷却後、カッターでペレタイズ化しポリマーを回収した。得られたスチレン−αメチルスチレン共重合体は、スチレンとαメチルスチレンの共重合比50質量%:50質量%であり、質量平均分子量13万、ガラス転移温度(Tg)が134℃、光弾性係数が−5×10−12/Paであった。
【0066】
[実施例1]
熱可塑性樹脂Aとしてポリエステル樹脂(1)のチップを減圧乾燥した後、熱可塑性樹脂Bとしてスチレン−αメチルスチレン共重合体(1)を10質量%の含有量となるようポリエステル樹脂(1)とドライブレンドし、二軸押出機(KZW15TW-45HG テクノベル社製)を用い、押出温度260℃で、溶融混錬を行った。押出機からスチレン−αメチルスチレン共重合体含有ポリエステル樹脂を水槽へ吐出し急冷後、カッターでチップとした。
【0067】
得られた樹脂のチップを減圧乾燥した後、次のようなホットプレス法を用いて製膜した。金属板の上にポリイミドフィルムを重ね、そのポリイミドフィルム上に内側の枠が12cm四方である金属の枠を重ねた。金属の枠内の中央部にチップ2.5gを乗せた。さらにポリイミドフィルムと金属板を重ね、270℃で2分間予熱の後、10kgf/cmの圧力で10秒間プレスした。プレス終了後、フィルムを挟んだ金属板を水につけてフィルムを冷却固化し、金属枠からフィルムを切り出した。さらに切り出したフィルムを長方形に切り、長手方向の両端を保持して、124℃のオーブン中で、2.8倍の延伸倍率で一軸延伸を行い、1/4波長位相差フィルムを得た。延伸したフィルムのTg、光弾性係数、溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表2に示した。
【0068】
[実施例2]
熱可塑性樹脂Bであるスチレン−αメチルスチレン共重合体(1)を15質量%の含有量になるようにドライブレンドし、延伸温度を125℃とした以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
延伸したフィルムのTg、光弾性係数、溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表2に示した。
【0069】
[実施例3]
熱可塑性樹脂Aとして参考例2で得られたポリエステル(2)を使用し、熱可塑性樹脂Bであるスチレン−αメチルスチレン共重合体(1)を10質量%の含有量になるようにドライブレンドし、延伸温度を138℃とした以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
延伸したフィルムのTg、光弾性係数、溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表2に示した。
【0070】
[実施例4]
熱可塑性樹脂Aとして参考例3で得られたポリエステル(3)を使用し、熱可塑性樹脂Bであるスチレン−αメチルスチレン共重合体(1)を15質量%の含有量になるようにドライブレンドし、延伸温度を121℃とした以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
延伸したフィルムのTg、光弾性係数、溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表2に示した。
【0071】
[比較例1]
ポリエステル樹脂(1)を減圧乾燥した後、次のようなホットプレス法を用いて製膜した。金属板の上にポリイミドフィルムを重ね、そのポリイミドフィルム上に内側の枠が12cm四方である金属の枠を重ねた。金属の枠内の中央部にチップ2.5gを乗せた。さらにポリイミドフィルムと金属板を重ね、270℃で2分間予熱の後、10kgf/cmの圧力で10秒間プレスした。プレス終了後、フィルムを挟んだ金属板を水につけてフィルムを冷却固化し、金属枠からフィルムを切り出した。さらに切り出したフィルムを長方形に切り、長手方向の両端を保持して、113℃のオーブン中で、2.6倍の延伸倍率で一軸延伸を行い、1/4波長位相差フィルムを得た。延伸したフィルムのTg、光弾性係数、溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表2に示した。
【0072】
[比較例2]
スチレン−αメチルスチレン共重合体(1)を45質量%の含有量になるようにドライブレンドし、延伸温度を126℃とした以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
延伸したフィルムのTg、光弾性係数、溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表1に示した。
【0073】
[実施例3]
熱可塑性樹脂Aとして参考例4で得られたポリエステル(4)を使用し、熱可塑性樹脂Bであるスチレン−αメチルスチレン共重合体(1)を10質量%の含有量になるようにドライブレンドし、延伸温度を137℃とした以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
延伸したフィルムのTg、光弾性係数、溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表2に示した。
【0074】
[実施例4]
熱可塑性樹脂Aとしてシクロオレフィン(1)(ポリプラスチック社製TOPAS 6013)を使用し、熱可塑性樹脂Bであるスチレン−αメチルスチレン共重合体(1)を10質量%の含有量になるようにドライブレンドし、延伸温度を137℃とした以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。シクロオレフィン(1)の特性を表1に、延伸したフィルムのTg、光弾性係数、溶融粘度、位相差、波長分散性の測定を行い、表2に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の位相差フィルムは、光弾性係数が小さく、逆分散性に優れた位相差フィルムを提供することができる。そのため、液晶ディスプレイに使用したときの視野角特性をよくすることができ、また、偏光板に貼り合わせたときの貼りムラや、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮などにより発生する応力によるフィルムの寸法変化や位相差変化を小さくすることができ、光の額縁漏れや色ムラをなくすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長λ(nm)の光に対するフィルム面内の位相差をR(λ)(nm)としたとき、R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.8以上、1.0以下である熱可塑性樹脂Aを60〜99質量%と、負の複屈折を有する熱可塑性樹脂Bを1〜40質量%含有することを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂Bが負の光弾性係数を有する請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
光弾性係数が−20×10−12 Pa−1以上、20×10−12 Pa−1以下である請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
R(480.4)(nm)/R(548.3)(nm)が0.1以上、0.95以下である請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
熱可塑性樹脂Bが質量平均分子量4万以上のポリスチレン共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度の差が30℃以内である請求項1〜5のいずれかに記載の位相差フィルム。

【公開番号】特開2010−54661(P2010−54661A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217752(P2008−217752)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】