説明

位相差フィルム

【課題】複雑な光学設計を必要とせずに、逆分散性を発現させることができる位相差フィルムを提供する。
【解決手段】本発明に係る位相差フィルム1は、少なくとも2層の多層構造を有する。位相差フィルム1における各層が、同種の高分子材料を用いて形成されている。位相差フィルム1では、測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)の値が、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)の値以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、液晶表示装置のコントラスト及び視野角を改善するために用いられる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置では、偏光板を介して見るディスプレイの画像品位を高めるために、多様な機能を有する光学フィルムが用いられる。光学フィルムには、透明性及び光学補償性に優れているだけでなく、用途に応じて種々の光学特性に優れていることも要求されている。
【0003】
液晶が本来有する、複屈折性に起因する光学的な歪み並びに視覚方向により表示が着色するなどの視野角依存性を解消するために、上記光学フィルムとして、光学異方性を応用した位相差フィルムが広く用いられている。
【0004】
反射型液晶表示装置や反射型偏光板において用いられる位相差フィルムには、可視光領域(400〜700nm)において直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換する作用(位相差がλ/4(nm))を有することが求められる。しかしながら、ポリカーボネート系樹脂等により形成された一般的な位相差フィルムは、複屈折が短波長ほど大きく、長波長ほど小さくなり、特に短波長側において上述した性質を満たすことは困難である。
【0005】
また、上記位相差フィルムの一例として、下記の特許文献1には、複屈折光の位相差が1/4波長である1/4波長板と、複屈折光の位相差が1/2波長である1/2波長板とを、これらの光軸が交差した状態で貼り合わせた位相差板が開示されている。ここでは、位相差が異なる2種の位相差フィルムを積層することにより、測定波長が小さいほど複屈折が小さい性質(いわゆる逆分散性)を有する位相差板が得られ、可視光(400〜700mm)全域に渡って1/4波長板としてほぼ機能する位相差板が得られることが記載されている。
【0006】
下記の特許文献2では、正の屈折率異方性を有する高分子のモノマー単位と、負の屈折率異方性を有する高分子のモノマー単位とを含む高分子により形成された位相差フィルムが開示されている。
【0007】
下記の特許文献3では、平均屈折率が異なる少なくとも2種の層を構成単位とする繰り返し多層構造を含み、該繰り返し多層構造は、構造性複屈折を発現する位相差フィルムが開示されている。この位相差フィルムにおける上記少なくとも2種の層のうち少なくとも1種の層は、分子配向性複屈折による光学的異方性を有する層である。特許文献3では、高分子の多層溶融押出により、平均屈折率の異なる少なくとも2種の層を構成単位とする繰り返し多層構造の位相差フィルムを成形することが記載されており、このようにして得られた位相差フィルムが逆分散性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−68816号公報
【特許文献2】WO00/26705
【特許文献3】特許第4489145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、2枚の位相差板を予め用意して、該位相差板を積層するために、貼り合わせ工程が必要となってコストが高くなったり、光学設計上の負荷が増大したりするという問題がある。
【0010】
特許文献2に記載の位相差フィルムでは、正の屈折率異方性を有する高分子を構成するモノマーと、負の屈折率異方性を有する高分子を構成するモノマーとを用いているので、位相差フィルムを構成する材料の選択範囲が限られる。
【0011】
特許文献3に記載の位相差フィルムでも、光学設計上の負荷が大きいという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、複雑な光学設計を必要とせずに、逆分散性を発現させることができる位相差フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の広い局面によれば、少なくとも2層の多層構造を有する位相差フィルムであって、各層が、同種の高分子材料を用いて形成されており、測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)の値が、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)の値以上である、位相差フィルムが提供される。
【0014】
本発明に係る位相差フィルムのある特定の局面では、上記面内位相差Re(450)の上記面内位相差Re(550)に対する比(Re(450)/Re(550))が、0.95以下である。
【0015】
本発明に係る位相差フィルムの他の特定の局面では、該位相差フィルムは、少なくとも3層の多層構造を有する。
【0016】
本発明に係る位相差フィルムのさらに他の特定の局面では、該位相差フィルムは、多層溶融押出成膜法により得られた位相差フィルムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る位相差フィルムは、少なくとも2層の多層構造を有し、各層が同種の高分子材料を用いて形成されており、測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)の値が、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)の値以上であるので、複雑な光学設計を必要とせずに、逆分散性を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る位相差フィルムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0020】
本発明に係る位相差フィルムは、少なくとも2層の多層構造を有する。本発明に係る位相差フィルムでは、各層が、同種の高分子材料を用いて形成されている。本発明に係る位相差フィルムでは、測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)の値が、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)の値以上である。
【0021】
本発明に係る位相差フィルムにおける上記構成の採用によって、複雑な光学設計を必要とせずに、1つの位相差フィルムであっても、逆分散性を発現させることができる。
【0022】
図1に、本発明の一実施形態に係る位相差フィルムを模式的に断面図で示す。
【0023】
図1に示す位相差フィルム1は、高分子材料により形成された層11〜16(層A)と、層11〜16と同種の高分子材料により形成された層21〜27(層B)とを有する。位相差フィルム1は、多層フィルムである。層11〜16(層A)と層21〜27(層B)とは交互に、位相差フィルム1の厚み方向に積層されている。層Aは層Bにより挟み込まれおり、層Aはそれぞれ、層Bにより互いに隔てられている。層Bは層Aにより挟み込まれおり、層Bはそれぞれ、層Aにより互いに隔てられている。
【0024】
本発明に係る位相差フィルムでは、各層が、同種の高分子材料により形成されている。位相差フィルム1では、層11〜16は同一の材料を用いて形成されており、層21〜27は同一の材料を用いて形成されている。位相差フィルム1では、層Aと層Bとが同種の材料を用いて形成されている。本明細書において、「同種」とは、「組成は異なるが、物質名としては同じ」ことを意味する。また、本明細書において、「同種」には「同一」が含まれる。
【0025】
上記位相差フィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、好ましくは1000μm以下である。上記位相差フィルムにおける各層の厚みは、積層数に応じて適宜選択される。
【0026】
測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)の値は、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)の値を超えることが好ましい。上記位相差フィルムにおける上記面内位相差Re(450)の上記面内位相差Re(550)に対する比(Re(450)/Re(550))は、0.95以下であることが好ましい。こられの場合には、複雑な光学設計を必要とせずに、より一層良好な逆分散性を有する位相差フィルムを得ることができる。上記比(Re(450)/Re(550))の下限は特に限定されない。上記比(Re(450)/Re(550))は、0.75以上であることが好ましい。
【0027】
上記位相差フィルムは、樹脂により形成されていることが好ましい。該樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂等が挙げられる。上記位相差フィルムは、熱可塑性樹脂により形成されていることがより好ましい。上記熱可塑性樹脂として、結晶性樹脂を用いてもよく、非晶性樹脂を用いてもよい。
【0028】
上記樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、ポリカーボネート樹脂、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)系樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、熱可塑性エラスマー、及び(メタ)アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。なかでも、ポリオレフィン系樹脂等の結晶性樹脂が好適である。
【0029】
多層フィルムである上記位相差フィルムの製造方法としては、通常用いられる方法が採用可能である。上記位相差フィルムの製造方法としては、例えば、ウェットラミネーション法、ドライラミネーション法、押出コーティング法、多層溶融押出成膜法、ホットメルトラミネーション法及びヒートラミネーション法等が挙げられる。
【0030】
多層フィルムの製造の容易さから、多層フィルムは、多層溶融押出成膜法により得られていることが好ましい。上記多層溶融押出成膜法としては、例えば、マルチマニフォールド法及びフィードブロック法等が挙げられる。
【0031】
上記位相差フィルムは、2層以上の積層構造を有する。上記位相差フィルムは、3層状の積層構造を有していてもよく、5層以上の積層構造を有していてもよく、10層以上の積層構造を有していてもよい。このように層数が多くても、本発明に係る位相差フィルムでは、複雑な光学設計を必要とせずに、逆分散性を発現させることができる。
【0032】
本発明に係る位相差フィルムは、延伸されていなくてもよい。本発明に係る位相差フィルムは、延伸されていなくても、良好な逆分散性を有する。また、本発明に係る位相差フィルムは、多層構造を有するが、実質的に1枚の位相差フィルムである。本発明に係る位相差フィルムは、1枚の位相差フィルムであるにもかかわらず、良好な逆分散性を有する。本発明に係る位相差フィルムは、安価にかつ簡便に製造することができる。
【0033】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、下記の実施例に限定されない。
【0034】
実施例1〜4及び比較例1では、多層溶融押出装置を用いて、多層溶融押出成形により、成形温度150℃で位相差フィルムを得た。
【0035】
(実施例1)
主押出機及び副押出機にそれぞれ、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、EV460)を供給した。主押出機と副押出機との先端に多層用フィードブロックを取り付け、各々の原料を交互に、2種3層を積層するように、積層体を得た。さらに、下流部に2分割して積層可能な多層用ブロックを4セットを直列に取り付け、3層の積層体を16個積層することにより層数を増加させて、層数48及び厚み800μmの多層の位相差フィルムを得た。
【0036】
(実施例2)
主押出機に供給した樹脂の種類を、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、EV360)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、多層の位相差フィルムを得た。
【0037】
(実施例3)
主押出機に供給した樹脂の種類を、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、EV560)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、多層の位相差フィルムを得た。
【0038】
(実施例4)
実施例1で得られた多層の位相差フィルムの両側の表面に、表面層としてエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、EV460)により形成された層をさらに積層したこと以外は実施例1と同様にして、層数50及び厚み800μmの多層の位相差フィルムを得た。
【0039】
(比較例1)
主押出機のみにエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、EV460)を供給し、押し出すことにより、厚み800μmの単層の位相差フィルムを得た。
【0040】
<評価方法>
位相差フィルムの面内位相差Reは、位相差測定装置(王子計測機社製、商品名KOBRA)を用いて測定した。測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)と、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)とを測定した。また、得られた測定値から、上記比(Re(450)/Re(550))を求めた。
【0041】
結果を下記の表1に示す。
【0042】
【表1】

【符号の説明】
【0043】
1…位相差フィルム
11〜16…層(層A)
21〜27…層(層B)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層の多層構造を有する位相差フィルムであって、
各層が、同種の高分子材料を用いて形成されており、
測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)の値が、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)の値以上である、位相差フィルム。
【請求項2】
前記面内位相差Re(450)の前記面内位相差Re(550)に対する比(Re(450)/Re(550))が、0.95以下である、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
多層溶融押出成膜法により得られた位相差フィルムである、請求項1又は2に記載の位相差フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−194251(P2012−194251A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56533(P2011−56533)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】