説明

位置決め治具

【課題】成形する際に使用する金型の摩耗、摩損及び腐食が低減され得る位置決め治具であって、成形品を研磨やバリ取りをする際に凸部の形成が抑制され、かつ充填材の脱落や割れが抑制され得る位置決め治具を提供すること。
【解決手段】(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂14.85〜45質量%、(B)炭酸カルシウム53.5〜85質量%及び(C)シリコーンオイル0.15〜1.5質量%からなる組成物を含有する樹脂組成物を射出成形してなる位置決め治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め治具に関する。詳細には、ポリアリーレンスルフィド樹脂、炭酸カルシウム及びシリコーンオイルを含有する樹脂組成物を成形してなる位置決め治具に関する。
【背景技術】
【0002】
イメージセンサ、レンズホルダ、光コネクターなどの位置決め治具として用いられる製品には、高い寸法精度が求められる。そのため、エポキシ樹脂又はポリアリーレンスルフィド樹脂に、線膨張係数の低いシリカ粒子を高充填率で添加し、寸法精度および耐環境性を実現している(特許文献1参照)。特に、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂及びシリカを含有する樹脂組成物は、射出成形により高い生産性を実現できるため、好適に用いられている。
これらの製品では、位置決め精度を向上するため、成形品の一部を研磨して使用することがあり、一般的には、研磨後にバリ取りを実施する。このため、位置決め治具表面の樹脂層が除かれることがあり、こうして表面にむき出しになった充填材が脱落して光学特性を低下させる恐れがある。従来は、このような充填材の脱落を避けるため、特許文献1のように表面処理を施した球状シリカが使用されてきた。しかしながら、表面処理によりシリカの取り扱い性が低下するという問題、脱落防止効果が十分でないという問題、凝集体が生成するという問題、そもそもシリカを用いる場合には金型の腐食及び摩耗の懸念があるなどの問題があった。
一方で、繊維強化材を含有するポリアリーレンスルフィドを含有する樹脂組成物に、非繊維状無機充填材、特に炭酸カルシウムを高充填することで、寸法精度を高める試みもなされている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−273304号公報
【特許文献2】特開2002−12763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の樹脂組成物のように、炭酸カルシウムなどの非繊維状無機充填剤は、強度を発現させるためにガラス繊維やウィスカーなどの繊維強化材と併用するのが一般的であり、このため、材料特性に異方性が生じるという問題があった。また、研磨やバリ取り(以下、研磨等と総称することがある)の工程で、炭酸カルシウムや繊維強化材が脱落、破損するなどの問題があった。
そこで、本発明の課題は、成形する際に使用する金型の摩耗、摩損及び腐食が低減され得る位置決め治具であって、成形品の表面を研磨やバリ取りする際に、炭酸カルシウムの脱落や割れが抑制され得る位置決め治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題について鋭意検討を行った結果、特定含有比率のポリアリーレンスルフィド樹脂と炭酸カルシウムとシリコーンオイルとからなる組成物を含有する樹脂組成物を射出成形してなる位置決め治具であれば、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[4]に関する。
[1](A)ポリアリーレンスルフィド樹脂14.85〜45質量%、(B)炭酸カルシウム53.5〜85質量%及び(C)シリコーンオイル0.15〜1.5質量%からなる組成物を含有する樹脂組成物を射出成形してなる位置決め治具。
[2]前記射出成形後、一部を研磨してなる、上記[1]に記載の位置決め治具。
[3]光通信用部品用である、上記[1]又は[2]に記載の位置決め治具。
[4]前記光通信用部品が光ファイバーコネクターである、上記[3]に記載の位置決め治具。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、射出成形時の樹脂の流動パターンに関わらず高い寸法精度を有する位置決め治具が得られる。また、環境による寸法変化の少ない位置決め治具を、従来よりも簡単に安定した品質で得ることができる。さらに、本発明の位置決め治具であれば、成形する際に使用する金型の摩耗、摩損及び腐食が低減される。
さらに、この位置決め治具の位置決め精度を高めるために、寸法が重要となる部分を研磨等して形態を整えたとしても、研磨面からの炭酸カルシウムの脱落及び割れが抑制されている。特に、樹脂組成物中にシリコーンオイルを所定量含有することで、研磨等を行った際の炭酸カルシウムの脱落や割れが顕著に低減されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例3で得られた成形品の研磨面(図1(a))及び同視野の高さ情報を濃淡で示した(図1(b))レーザー顕微鏡写真図である。
【図2】比較例3で得られた成形品の研磨面(図2(a))及び同視野の高さ情報を濃淡で示した(図2(b))レーザー顕微鏡写真図である。
【図3】比較例6で得られた成形品の研磨面(図3(a))及び同視野の高さ情報を濃淡で示した(図3(b))レーザー顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂14.85〜45質量%、(B)炭酸カルシウム53.5〜85質量%及び(C)シリコーンオイル0.15〜1.5質量%からなる組成物を含有する樹脂組成物を射出成形してなる位置決め治具である。
以下、本発明の位置決め治具の製造に用いる樹脂組成物が含有する上記各成分について順に説明する。
【0010】
[樹脂組成物]
((A)ポリアリーレンスルフィド樹脂)
(A)ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略称することがある。)は、難燃性や種々の機械的強度に優れる。
本発明で用いられるPASは、繰り返し単位が下記一般式(1)で示されるポリマーであることが好ましい。下記一般式(1)中、Arはアリーレン基、Sは硫黄原子を示す。
−(Ar−S)− ・・・(1)
繰り返し単位の(Ar−S)を1モルと定義した場合、本発明で用いられるPASは、この繰り返し単位を好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。
【0011】
前記Arが示すアリーレン基としては、p−フェニレン、m−フェニレン、o−フェニレン、アルキル(好ましくは、炭素原子数1〜6のアルキル基)置換フェニレン、フェニル置換フェニレン、ハロゲン(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)置換フェニレン、アミノ置換フェニレン、アミド置換フェニレン、p,p’−ジフェニレンスルフォン、p,p’−ビフェニレン、p,p’−ビフェニレンエーテル、p,p’−ビフェニレンカルボニル及びナフタレンなどの少なくとも一つのベンゼン環を含む二価の芳香族残基を挙げることができる。これらのアリーレン基からなるPASとしては、同一の繰り返し単位からなるホモポリマー、2種以上の異なるアリーレン基からなるコポリマー及びこれらの混合物を挙げることができる。
上記のPASの中でも、p−フェニレンスルフィドを繰り返し単位の主構成要素とするポリフェニレンスルフィド(例えば、全繰り返し単位の好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは実質100モル%がp−フェニレンスルフィドであるポリフェニレンスルフィド)が加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。この他に、ポリアリーレンケトンスルフィド、ポリアリーレンケトンケトンスルフィドなどを使用することもできる。
【0012】
前記コポリマーの具体例としては、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するランダム又はブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダム又はブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダム又はブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダム又はブロックコポリマーなどを挙げることができる。これらのPASは、本発明の位置決め治具の耐環境性の点から結晶性ポリマーであることが好ましい。
【0013】
また、PASは一般的に、その製造方法によって、実質上直鎖状の分子構造のものと、分岐や架橋構造を有する構造のものを製造できることが知られており、本発明においては、その何れの種類のものについても使用することができるが、直鎖状の分子構造のPASが好ましい。
直鎖状の分子構造のPASは、例えば極性溶媒中で、硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法により製造することができる(例えば、特開2010−77347号公報参照)。なお、PASに分岐構造又は架橋構造を導入するためには、1分子当たり3〜6個のハロゲン置換基を有するポリハロゲン置換芳香族化合物を併用することで製造することができる。
極性溶媒としては、芳香族有機アミド溶媒が反応系の安定性が高く、高分子量のポリマーを得やすいので好ましく用いられる。
なお、PAS中に含まれるハロゲン原子含有量(特に塩素原子含有量)は、好ましくは4500ppm以下、より好ましくは1500ppm以下である。該数値以下であれば、樹脂組成物中のハロゲン原子(特に塩素原子)及びハロゲン化合物(特に塩素化合物)の含有量を、ハロゲン原子換算で1000ppm以下とすることに有効である。ただし、PAS以外には塩素を含有する成分を含まない場合の値である。
【0014】
((B)炭酸カルシウム)
樹脂組成物には、前記(A)成分と共に、(B)炭酸カルシウムを含有させる。本発明では、高い寸法精度を有する位置決め治具を得るために、樹脂組成物に炭酸カルシウムを含有させて寸法精度を高めているため、シリカを含有させなくて済み、それゆえ、金型の摩耗、摩損及び腐食が少ない。また、成形品(位置決め治具)を研磨等する際、(B)成分の脱落や割れが少ない。
炭酸カルシウムとしては、特に制限は無く、例えば、石灰石、貝殻、白亜などの天然原料を機械的に粉砕分級した重質炭酸カルシウムや、化学的に製造された沈降炭酸カルシウムである軽微性又は軽質炭酸カルシウムなどを用いることができる。これらの中でも、重質炭酸カルシウムが好ましい。なお、重質炭酸カルシウムは、湿式粉砕法によって得られたものであってもよいし、乾式粉砕法によって得られたものであってもよい。
炭酸カルシウムの平均粒子径に特に制限は無く、1μmを超えてもよいが、寸法精度や、成形品を研磨等する際の炭酸カルシウムの脱落及び割れの抑制の観点からは、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.3〜1μm、さらに好ましくは0.5〜0.8μmである。
また、炭酸カルシウムの比表面積は、寸法精度や、成形品を研磨等する際の炭酸カルシウムの脱落及び割れの抑制の観点から、好ましくは5,000〜20,000cm2/g、より好ましくは8,000〜15,000cm2/g、さらに好ましくは10,000〜15,000cm2/gである。
【0015】
((C)シリコーンオイル)
前記樹脂組成物は、成形品表面の研磨面からの(B)成分の脱落のさらなる抑制のため、(C)シリコーンオイルを含有する。
シリコーンオイルとしては、樹脂組成物の流動性、離型性及び摺動性の観点から、25℃における動粘度が0.65〜5000mm2/秒であるものが好ましく、10〜100mm2/秒であるものがより好ましく、40〜100mm2/秒であるものがさらに好ましい。シリコーンオイルは、その化学構造において重合体主鎖がジメチルポリシロキサンの形態を有しているものが好ましい。さらに、重合体主鎖がジメチルポリシロキサン構造を有し、かつその側鎖のメチル基又は末端のメチル基の一部を、水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基やエトキシ基などのアルコキシ基などで置換した、反応性シリコーンオイルが好ましい。
【0016】
((A)成分〜(C)成分の配合比率)
前述のとおり、本発明の位置決め治具は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂14.85〜45質量%、(B)炭酸カルシウム53.5〜85質量%及び(C)シリコーンオイル0.15〜1.5質量%からなる組成物を含有する樹脂組成物を用いて得られる。好ましくは、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂14.85〜45質量%、(B)炭酸カルシウム53.8〜84.97質量%及び(C)シリコーンオイル0.18〜1.2質量%からなる組成物を含有する樹脂組成物を用いる。
(B)成分を上記のように高充填率で含有させることにより、成形収縮率及び線膨張係数が小さくなる。しかし、(B)成分の含有割合が上記範囲を超えると、樹脂組成物の粘度が著しく増加して流動性が低下し、成形性及び取り扱い性が低下する。一方、(B)成分の含有割合が上記範囲より小さいと、本発明の位置決め治具の線膨張係数が増加し、寸法精度が不十分なものとなる。
(C)成分が上記範囲で樹脂組成物に含有されていることにより、成形品を研磨等する際に(B)炭酸カルシウムの脱落及び割れをさらに抑制する効果が得られる。その他にも、樹脂組成物のペレットのスティッキング現象を防止する効果や、流動性、離型性及び摺動性を向上させる効果も有する。また、(C)成分の含有量が上記範囲内であれば、射出成形時にシリコーンオイルが表面に滲み出し難く、表面荒れやシルバーの発生を抑制できるため、表面外観を良好なものとすることができる。さらには、成形品の強度が充分なものとなり、成形時の噛み込み不良などを抑制でき、取り扱い性が良好なものとなる。
【0017】
本発明の位置決め治具には、前記(A)成分〜(C)成分からなる組成物を、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは実質的に100質量%含有する樹脂組成物を用いる。(A)成分〜(C)成分からなる組成物の含有量が上記範囲であれば、前記本発明の前記効果が充分に発現する。
【0018】
(その他の成分)
前記樹脂組成物には、(A)成分〜(C)成分以外の、その他の成分を含有させてもよい。
その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤などの各種添加剤;ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂;水素添加SBS(水素添加されたスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)、水素添加NBR(水素添加されたアクリロニトリルブタジエンゴム)、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム類;顔料;ガラス繊維、炭素繊維、硼酸アルミニウムウイスカー、酸化亜鉛ウィスカー、珪酸カルシウムウイスカー、炭酸カルシウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウィスカーなどの繊維状強化剤;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、カオリン、クレー、パイロファイト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、シリカ、タルク、ワラストナイト、ガラスビーズ、カーボンビーズなどの無機充填剤などが挙げられる。
【0019】
本発明で用いる樹脂組成物は、前記(A)成分〜(C)成分、及び必要に応じて前記その他の成分を配合し、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの混合機で均一に混合した後、単軸押出機や二軸押出機などにて好ましくは250〜380℃(より好ましくは280〜350℃)で溶融混練することにより得ることができる。
こうして得られる樹脂組成物を射出成形して得られる成形品は、成形品を研磨等する際に(B)炭酸カルシウムの脱落が少なく、かつ極めて高い寸法精度を有する。つまり、従来は、表面処理をした球状シリカを含有させることによって高い寸法精度を有する位置決め治具を製造していたが、本発明によって、該球状シリカに頼らずに高い寸法精度を有する位置決め治具を製造することができた。なお、寸法精度については、実施例に記載の測定方法による成形収縮率及び線膨張係数が小さいほど優れているものとして評価できる。
上記樹脂組成物の成形収縮率は、MD方向及びTD方向のいずれについても、0.6%以下であり、詳細には0.2〜0.5%であり、好ましいものでは、0.2〜0.3である。また、線膨張係数は、MD方向及びTD方向のいずれについても、2.5×10-5/K以下であり、詳細には、1.5×10-5/K〜2.5×10-5/Kであり、好ましいものでは、1.5×10-5/K〜2×10-5/K、より好ましいものでは、1.5×10-5/K〜1.8×10-5/Kである。
また、上記樹脂組成物のスパイラルフロー長さは、75〜95mm程度であり、曲げ強度は、68〜81Mpa程度である。
なお、いずれの特性も、実施例に記載の方法に従って測定したものである。
【実施例】
【0020】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた樹脂組成物を用いて、以下の方法によって各特性を評価した。
【0021】
[特性評価方法]
(1)研磨面からの炭酸カルシウム脱落数の調査
まず、直径32mmの円筒状サンプルを、シリンダ温度320℃及び金型温度135℃で射出成形することによって得た。該サンプルを用いて、以下のようにして、成形品の研磨面の規定面積当たりの炭酸カルシウムの脱落数を調査した。
直径8インチ盤120rpm上に、直径50μmのアルミナ研磨粉を分散し、その上に、前記直径32mmの円筒状サンプル3個を載せ、荷重12 lb(≒5.33N)をかけて、研磨を実施した。
研磨後のサンプルをレーザー顕微鏡「OPTELICS H1200」(Lasetec社製)にて観察し、300×300μm視野内の炭酸カルシウムの脱落数と割れ数を計数した。
(2)スパイラルフロー長さの測定
シリンダ温度320℃、金型温度135℃、射出圧力100MPaにて射出成形した際の、厚み1mm及び幅10mmのスパイラル状の溝を流れる長さを計測した。
(3)成形収縮率の測定
シリンダ温度320℃、金型温度135℃で、80×80×3.2mmの平板を成形し、MD方向及びTD方向の成形収縮率を測定顕微鏡「MEASURING MICROSCOPE MF」(株式会社ミツトヨ製)にて計測した。
(4)線膨張係数の測定
ASTM D696に従って測定した。
(5)曲げ強度の測定
ASTM D790に従って測定した。
【0022】
<実施例1〜7及び比較例1〜7>
表1〜3に示す配合量にて、各成分をヘンシェルミキサーで均一に混合した後、二軸押出機「TEM37」(東芝機械株式会社製)を用いて、シリンダ温度320℃で溶融混練し、ペレットを製造した。該ペレットを用いて、前記特性評価方法に従って成形品の特性を評価した。結果を表1〜3に示す。また、実施例3、並びに比較例3及び6においては、前記研磨面からの炭酸カルシウム脱落数の調査方法に従って研磨処理された成形品の研磨面を、「OPTELICS H1200」(Lasetec社製)にて観察して得られた写真をそれぞれ図1〜3に示す。なお、左右の写真は同視野のものであるが、左が通常の写真であり、右は、高さ情報を濃淡で示す写真である。
【0023】
なお、表1〜3に示す各成分は、以下のものを用いた。
(A)PPS:ポリフェニレンスルフィド樹脂「H1G」、DIC株式会社製
(B)炭酸カルシウム:重質炭酸カルシウム「ホワイトンP−30」(比表面積12,000cm2/g、平均粒子径0.68μm)、東洋ファインケミカル株式会社製
(B’)シリカ:表面処理球状シリカ「TSS−6ビニルシラン」、平均粒子径5μm、株式会社龍森製、東レ・ダウコーニング・シリコン株式会社製「SZ6300」の表面処理品
(C)シリコーンオイル:「FZ9000」、東レ・ダウコーニング株式会社製
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
表1〜3より、本発明の位置決め治具の製造に用いられる樹脂組成物であれば(実施例1〜7参照)、研磨面からの炭酸カルシウム脱落や割れが少なく、スパイラルフロー長さが比較的長くて程良い流動性を有しており、成形性及び取り扱い性に優れている。さらに、成形収縮率及び線膨張係数が小さくて寸法精度が高く、曲げ強度も良好である。
それに対して、(A)成分と(B)成分の含有割合が本発明の範囲外である場合(比較例1及び2)、特に比較例1のように(A)成分が過剰量であれば、成形収縮率及び線膨張係数が高くなって寸法精度が低下した。また、比較例2のように、(B)成分が過剰量であれば、スパイラルフロー長さが短く、流動性が低いことが分かり、成形性及び取り扱い性が悪いため、工業的な有用性に乏しい。
表2より、(C)シリコーンオイルの含有量が本発明の規定範囲外であると、研磨面からの(B)炭酸カルシウムの脱落や割れが極めて多くなることがわかる。また、表3より、特許文献1に開示された樹脂組成物を用いた場合には、研磨面からの(B)炭酸カルシウムの脱落が極めて多くなった。
さらに、図1(a)及び(b)より、実施例3における成形品の研磨面には、(B)炭酸カルシウムの脱落や割れが少ないことがわかるが、図2(a)及び(b)より、比較例3における成形品の研磨面には、(B)炭酸カルシウムの脱落及び割れが共に多く発生していることが分かる。図3(a)及び(b)より、比較例6における成形品の研磨面には、シリカの脱落は少ないものの、割れが多く発生していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の位置決め治具は、イメージセンサ、レンズホルダ、光コネクターなどの、光電子関連機器、光通信機器、電気電子関連機器の部品用として有効に用いられる。詳細には、イメージセンサ部品、光ファイバーコネクター、スリーブなどの光通信用部品用、特にコネクターフェルールなどの、光ファイバーコネクター用として有効である。
【符号の説明】
【0029】
1 炭酸カルシウムの脱落部位
2 炭酸カルシウム又はシリカの割れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂14.85〜45質量%、(B)炭酸カルシウム53.5〜85質量%及び(C)シリコーンオイル0.15〜1.5質量%からなる組成物を含有する樹脂組成物を射出成形してなる位置決め治具。
【請求項2】
前記射出成形後、一部を研磨してなる、請求項1に記載の位置決め治具。
【請求項3】
光通信用部品用である、請求項1又は2に記載の位置決め治具。
【請求項4】
前記光通信用部品が光ファイバーコネクターである、請求項3に記載の位置決め治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−36281(P2012−36281A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176662(P2010−176662)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】