説明

低カロリー性パン

【課題】低カロリーで、必要な膨化、外観、食感、フレッシュネス、おいしさを与えるパンを作ること
【解決手段】特定形状を持つセルロース粒子、すなわち平均粒径を30−500μm、L/D2以下の球状セルロース粒子を、小麦粉にブレンド後、このブレンド小麦粉で製パンを行なうことで、課題が達成できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全く消化吸収されずエネルギーにならないセルロース粉末(β-1,4 結合多糖類)をブレンドした小麦粉を用いて、製パンを行なう技術に関する。
【0002】
セルロースを用いたパンは、高食物繊維入り、低カロリーパンとなりエネルギー過剰摂取を押さえねばならない糖尿病患者、あるいは肥満患者にとって都合のよいパンになる。糖尿病患者あるいは肥満型患者用には、低カロリーな食事が望まれている。総合的な低カロリー療法を施すには、まず主食の低カロリー化が必須である。現在では日本においてもパンは米と同様、主食として位置づけられ、パンの低カロリー対策は極めて重要である。
さらにセルロースは、口腔から入り排便されるまでの間、胃、大小腸等の消化器官を通過し各組織中に付着している発がん性物質のような異物を吸着除去して体外へ排出してくれる役割も担っている。このためこのパンは健康なひとにとっても都合の良いパンである。しかしセルロースを小麦粉にブレンドする際、ただ単にセルロース粉末(多種多様な形態の微粉末粒子)をブレンドしただけでは良好なパンの膨化、組織形成は得られない。本発明では、セルロースの形態やサイズを種々検討し、これをブレンドした小麦粉でも100%小麦粉で調製したパンと同じような膨化、組織形成を示す糖尿病患者及び肥満患者に適するパンを調製しようというものである。
【背景技術】
【0003】
従来の技術としては、コンニャク粉、大豆粉粉末、抵抗性デンプン等を小麦粉にブレンドして糖尿病患者及び肥満患者用パンの製造を行なう技術が発明されている。さらにセルロースをブレンドしたパンもあるが、一般にそこで使用されているセルロースの形は雑多であり、さらに微粉末状であるため、このパンは膨化が悪く、外観、食感、弾力性、フレッシュネスも小麦粉だけのパンに比べ劣る。そのために一般にはセルロースのブレンド量を減らし製パン性低下を抑えているが、エネルギーを低下させるパンとしては不十分である。例えば特許文献1や2では、セルロースを添加した技術が開示されているが、添加量は原料粉末100 重量部に対し、セルロースを最大10重量部添加しているに過ぎず、低カロリー化や食物繊維作用として不十分である。製パン性を低下させることなく、からだの中でエネルギーになりにくいパンを作ることがセルロースブレンドパンに求められる最大の課題であるが、このようにセルロースを入れるとどうしても製パン性の機能は劣化することが従来の技術の弱点であった。この弱点をカバーする新しい発明が求められている。
【特許文献1】特開平10−262541号公報
【特許文献2】特開2001−45960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セルロース粉末を小麦粉にブレンドし、そのブレンド小麦粉を用いて高食物繊維含有、低カロリーパンを製造しようとする時、単なるセルロース微粉末の添加では良好なパンの膨化、組織形成は得られない。パンの本質は膨化であり、膨化しないパンはパンとしての機能を示さない。パンの膨化は、パンの外観、食感、フレッシュネス(新鮮さ)、おいしさに貢献している。本発明は、パンに必要な膨化を与え、外観、食感、フレッシュネス、おいしさを与えるパンを作ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、セルロースブレンド小麦粉によるパンの膨化、組織形成には、セルロース粒子の形態とサイズが大きな関係をもっていることを見出し、本発明に至った。具体的には、本発明では特定形状を持つセルロース粒子、すなわち平均粒径を30−500μm、L/D2以下の球状セルロース粒子を、小麦粉にブレンド後、このブレンド小麦粉で製パンを行ない、パンの全重量に占めるセルロース粒子の割合が10重量%以上55重量%未満の、膨化に優れたパンを調製しようとするものである。本発明はこのようにセルロースの粒子の形を球状とし、平均粒径を30−500μmのサイズにすることによってパンに必要な膨化を与え、外観、食感、フレッシュネス、おいしさを与えるパンを作ることに成功した。
すなわち本発明は、次の発明に関する。
(1)平均粒径が30μm以上500μm未満であり、L/Dが2未満の球形であることを特徴とする製パン用のセルロース粒子。
(2)セルロース粒子がアルカリ金属水酸化物水溶液から再生されたセルロースを含有することを特徴とする上記(1)のセルロース粒子。
(3)アルカリ金属水酸化物水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする上記(2)のセルロース粒子。
(4)セルロースと、食用多糖類及び/またはポリペプチドの混合物であり、かつ、食用多糖類及び/またはポリペプチドの比率が重量比でセルロースに対し0.1以上10未満であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロース粒子。
(5)平均粒径が30μm以上500μm未満であり、L/Dが2未満であり、アルカリ金属水酸化物水溶液から再生されたことを特徴とするセルロース粒子。
(6)パンの全重量に占めるセルロース粒子の割合が10重量%以上55重量%未満であり、かつ膨化性が2.5cm3/g 以上であることを特徴とするパン。
(7)セルロース粒子が、アルカリ金属水酸化物水溶液から再生されたセルロースである上記(6)に記載のパン。
(8)アルカリ金属水酸化物水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする上記(7)に記載のパン。
(9)セルロース粒子の平均粒径が30μm以上500μm未満であり、L/Dが2未満の球形であることを特徴とすることを特徴とする上記(6)〜(8)のいずれかに記載のパン。
(10)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のセルロース粒子を3重量%以上45重量%未満含有することを特徴とするパンの生地。
(11)上記(10)に記載のパンの生地を温度130℃以上280℃未満の温度範囲で10分以上の焼成時間で調理することを特徴とするパンの製造方法。
【0006】
単にセルロース微粉末を小麦粉にブレンドしただけでは、小麦粉だけで調製した時のような良好な膨化と組織をもったパンは得られない。製パン組織形成のメカニズムは複雑で不明の点が多い。小麦粉中のデンプン粒は、製パン時にすべて可溶化してグルテンとともに気泡膜を形成するのではなく、グルテンを中心としたコアゲルの膜の中で、限られた水で多少は糊化するがそのほとんどは粒形を保持して膜中に存在し、パン組織の形成に貢献している。このように考えた場合、デンプン粒の代替としてセルロースをブレンドするために、セルロースはやはりデンプン粒と同じような粒形を持つ方がパン組織形成には都合良いものと推察された。そこでセルロース微粉末添加による製パン性の劣化を解決するために、デンプン粒の形に似た、サイズ30−500μm程度のセルロース粒子を用いて、製パン性劣化を解決しようという手段で発明を解決しようとするものである。
【0007】
以下本発明を詳細に説明する。本発明の低カロリー性パンはパン中に存在するデンプン粒の代替としてセルロースを使用するもので、セルロースの形状、大きさ、性状が非常に重要である。セルロースはまずその形状が球状なセルロース粒子でなければならない。これはパン中に存在するデンプン粒がほぼ球形であることに関係していると考えられる。パン組織中のデンプン粒の機能は不明な点は多いが、デンプン粒はパン組織を構成する膜中に数珠状に連結して存在しており、パン組織を力学的に保持する働きを持っていると推定される。したがってデンプン粒の代替としてのセルロースも数珠状に連結しうる、球状を有する必要がある。本発明で球状とは、不定形(曲率が不連続:いわゆる「かど」を持つ)ではなく、L/Dが小さいということである。本発明のセルロース粒子は、かどを持たず、且つL/Dが2以下、好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.5以下である。これはデンプン粒の形状・球状度合いに関係しているのかもしれない。球状の度合いは、200個以上の無作為に抽出したセルロース粒子の長径(L)と短径(D)を光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で測定して、それぞれの粒子のLとDの比L/Dを求め、その平均で示す。L/Dが2以上のものは製パン性が悪く本発明には不適当である。ここで製パン性が悪いとは、膨化性(パンを焼いた際のふくらみ度合い)が低く、外観、食感、弾力性、フレッシュネス(新鮮さ)が小麦粉だけのパンに比べ劣ることをいう。一般的なセルロース粉体である微結晶セルロースも粉体の最大長さと最小長さの比が2以下のものもあるが、形状が球状ではなく不定形(曲率が不連続:いわゆる「かど」を持つ)のものは本発明には不適当である。
【0008】
セルロース粒子の平均粒径は30μm以上、500μm未満、好ましくは80μm以上、300μm以下である。ここでいう平均粒径とは、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で200個以上の無作為に抽出した粒子の球形換算体積を測定し、全体の体積に対して、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径である。ここで粒子の球形換算体積は、それぞれの粒子のLとDの平均値を直径とした球とみなして求める。平均粒径が30μm未満の場合製パン性が著しく悪い。これはパン組織を構成する膜の厚さに起因すると考えられる。すなわち膜厚より著しく小さい粒子はパン組織を力学的保持できないと考えられる。500μm以上のセルロース粒子の場合も製パン性は悪くまた得られたパンを食べた場合、異物感が感じられ、不適当である。
【0009】
セルロース粒子の例としては、コットンリンターやパルプや微結晶セルロースなどの精製したセルロースおよびリグニンやヘミセルロースを含有するリグノセルロース類が挙げられる。これらは天然セルロースと呼ばれているが、天然セルロースからセルロース粒子を調製する方法は例えば、特開平7−173050号公報に記載の方法が使用できる。これは微結晶セルロース粉体を混合攪拌造粒機で水を加えながら練り合わせ、さらに転動型コーティング装置で水を噴霧しながら、造粒・球形化を行なう方法である。本発明ではセルロースに食用多糖及び/またはポリペプチドが混合していてもよいが、その混合は、この混合攪拌造粒機や転動型コーティング装置でも行なうことができる。これらの天然セルロースよりもやや好ましいセルロースとして再生セルロースを例示することができる。再生セルロースのほうがその他のセルロースより製パン性がやや良好である。この理由は定かでないが、セルロース粒子の表面状態や内部構造、デンプン粒などの小麦粉成分との相互作用などに起因すると考えられる。再生セルロースとしてはアルカリ金属水酸化物水溶液から再生したセルロースが挙げられる。好ましくは、セルロース/水酸化ナトリウム水溶液から凝固、精製させて得られるものである。なぜならセルロース粒子の製造過程で薬品として水酸化ナトリウムしか使用しないため、食品用のセルロース粒子として極めて安全だからである。水酸化ナトリウムは精製過程で完全に取り除かれるが、仮に少量残留していたとしても酸で中和すれば食品用として全く問題ない。セルロース/水酸化ナトリウム水溶液は例えば特公平6−21183号公報に記載の従来法により調製される。調製されたセルロース/水酸化ナトリウム水溶液は、所定の球状に成形し、凝固される。凝固は特開2001−139697号公報に記載されているような乾燥凝固、湿式ゲル化凝固、酸性水溶液による中和凝固、加熱によるゲル化凝固などが適用できる。凝固したものには水酸化ナトリウム、酸性凝固の際用いられた酸及びこれら酸のナトリウム塩が含まれている。水洗による精製をおこないこれらを除去することにより本発明のセルロース粒子が得られる。
【0010】
セルロース/水酸化ナトリウム水溶液の球状への成形にはさまざまな方法が適用できる。一つはセルロース溶液を非溶媒(分散媒)中で攪拌してセルロース溶液を粒子状に分散さる方法である。例えば特公昭57−45254号公報に記載されているように、疎水性の有機溶媒中に水系のセルロース溶液を、連続的に攪拌しながら投入し球状のセルロース粒子を製造する方法である。もう一つはセルロース溶液を二流体ノズルや回転円盤や超音波振動ノズルなどで噴霧して粒子を得るという物理的または機械的な粒子形成方法であり、代表的な例が特公昭56−21761号公報に記載されている。同様に好適に用いられる再生セルロースとしては、無機酸水溶液から再生したセルロースが挙げられる。好ましくは硫酸水溶液から凝固、精製させて得られるものである。なぜならセルロース粒子の製造過程で薬品として硫酸しか使用しないため、食品用のセルロース粒子として極めて安全だからである。硫酸は精製過程で完全に取り除かれるが、仮に少量残留していたとしてもアルカリで中和すれば食品用として全く問題ない。セルロース/硫酸水溶液は例えば再公表99/028350号公報に記載の従来法により調製される。調製されたセルロース/硫酸水溶液はセルロース/水酸化ナトリウム水溶液の場合と同様に成形、凝固できる。
【0011】
本発明のセルロース粒子はセルロースと、食用多糖類及び/またはポリペプチドとの混合物であってもよい。以降食用多糖類及び/またはポリペプチドを混合物成分と呼ぶ。混合物成分を混合する目的は、本発明の低カロリー性パンの食感を向上させるためである。例えば、非常に柔らかく密度の低いパンの場合、セルロースだけから構成されるセルロース粒子では食感に違和感を覚えることがある。このようなときセルロース粒子がセルロースと、混合物成分との混合物であると食感の違和感は解消される。これはセルロース粒子自体が柔らかくなったことや、口腔内での混合物成分の溶出などが関係するものと思われる。混合物成分の比率は重量比でセルロースに対し0.1以上10未満が好ましい。ここでいう比率とはセルロース(乾燥換算重量)に対して、何倍量の混合物成分(乾燥換算重量)が混合しているかということである。食感改良効果の観点からは比率が0.1以上であることが好ましい。また、セルロース粒子の形状をより球状に保つ観点からは比率が10未満であることが好ましい。混合物であるときも、セルロースは再生セルロースであることがより好ましい。
【0012】
食品多糖類としては、例えばアラビヤガム、アラビヤガラクタン、アルギン酸、ガディガム、カラギーナン、カラヤガム、ザンタンガム、グアーガム、コンニャク粉、コンニャクグルコマンナン、グルコマンナン、タマリンド、クラガム、トラカントガム、ファーセレラン、プルラン、ペクチン、ローカストビーンガム、キシラン、マンナン、キチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、トウモロコシ、モチトウモロコシ、馬鈴薯、甘薯、小麦、 米、もち米、タピオカ等由来の澱粉、ならびにこれらに物理的または化学的な処理を施した化工澱粉(酸分解澱粉、酸化澱粉、α化澱粉、グラフト化澱粉、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、可溶性澱粉)、ならびにこれらのNa,K,及びCa塩の中から選ばれた少なくとも一種が用いられる。
【0013】
ポリペプチドとしては、例えば天然タンパク質及びその加水分解物の中から選ばれた少なくとも一種、グルテン、大豆蛋白、ガゼイン、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、及びそれらのNa,K及び、Ca塩ならびにそれらの加水分解物から選ばれた少なくとも一種が用いられる。当然これら食品多糖類やポリペプチドの混合物であっても良い。
【0014】
再生セルロ−スと混合物成分との混合方法は、特公平7−61239に記載のように混合物成分とセルロースを溶液状態で混合させてもよいし、セルロース/水酸化ナトリウム水溶液に混合物成分を溶解させてもよいし、予め混合物成分とセルロースを分散させた後、前述の方法で水酸化ナトリウム水溶液に溶解させてもよい。
【0015】
本発明の低カロリーパンは、パンに含有されるデンプン粒がセルロース粒子に置換されていることが特徴であり、パンの全重量(乾燥重量)に占めるセルロース粒子の割合が10重量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは10重量%以上55重量%未満、より好ましくは15重量%以上55重量%未満、最も好ましくは20重量%以上55重量%未満である。カロリー低減効果の観点からは、セルロース粒子の割合が10重量%以上であることが好ましく、製パン性や食感の観点から55重量%未満であることが好ましい。
【0016】
本発明の低カロリー製パン用の生地は、セルロース粒子をパン生地の全体重量(水分含有重量)に対し3重量%以上45重量%未満、好ましくは5重量%以上35重量%未満含有するものである。低カロリー化の観点からは、セルロース粒子が3重量%以上であることが望ましく、製パン性や食感の観点からは、45重量%未満であることが望ましいからである。
【0017】
本発明の低カロリー製パン用の生地用のセルロース粒子の平均粒径は30μm以上、500μm未満、好ましくは80μm以上、300μm以下である。製パン性の観点から平均粒径が30μm以上であることが好ましく、製パン性や異物感のなさの観点から500μm未満であることが望ましい。本発明のセルロース粒子のL/Dは2以下、好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.5以下である。製パン性の観点から、L/Dが2以下がよい。一般的なセルロース粉体である微結晶セルロースも粉体の最大長さと最小長さの比が2以下のものもあるが、形状が球状ではなく不定形のものは本発明には不適当である。
【0018】
セルロース粒子に使用されるセルロース種は特に限定はしないが、再生セルロースが好ましい。再生セルロースのほうがその他のセルロースより製パン性がやや良好である。この理由は定かでないが、セルロース粒子の表面状態や内部構造、デンプン粒などの小麦粉成分との相互作用などに起因すると考えられる。再生セルロースとしてはセルロース/水酸化ナトリウム水溶液またはセルロース/硫酸水溶液から凝固、精製させて得られるものが好ましい。なぜならセルロース粒子の製造過程で薬品として水酸化ナトリウムまたは硫酸しか使用しないため、食品用のセルロース粒子として極めて安全だからである。
【0019】
セルロース粒子には食品用多糖やポリペプチドが混合されていてもよい。これらを混合する目的は、本発明の低カロリー性パンの食感を向上させるためである。例えば、非常に柔らかく密度の低いパンの場合、再生セルロースだけから構成されるセルロース粒子では食感に違和感を覚えることがある。このようなときセルロース粒子が再生セルロースと、混合物成分との混合物であると食感的な違和感は解消される。混合物成分の比率は再生セルロースに対し0.1以上10未満が適当である。食感改良効果の観点からは比率が0.1以上であることが好ましい。比率が10以上では、セルロース粒子の形状を球状に保つ観点からは、比率が10未満であることが好ましい。
【0020】
本発明の低カロリー性パンの製造方法は、当該セルロース粒子を3重量%以上45重量%以下含有するパン用生生地を、130℃以上280℃未満の温度範囲で10分以上の焼成するものである。130℃未満である場合や、時間が10分未満であると十分な焼成効果が得られない。280℃以上であると小麦粉成分が熱分解するほか、セルロース粒子も熱分解し紙が焦げる特有の臭いが発生し、食用に適さなくなる。
【0021】
本願における、膨化性の定義と測定方法を以下に述べる。
本願において、膨化性はパンの比容積である。比容積は、パンの比容積の測定で一般的な、菜種置換法を用いて測定する。以下菜種置換法を説明する。
まずパンを入れた容器を菜種種子で満たし、使用した菜種種子の容積をメスシリンダーで測定する。これをV1(cm3)とする。次にパンを取り除いた容器を同様の菜種種子で満たし、使用した菜種種子の容積をメスシリンダーで測定する。これをV2(cm3)とする。この差の容積がパンの容積であり、この容積をパンの重量G(g)で割った値が比容積(Sv)である。
Sv=(V2−V1)/G
膨化性(比容積)が、2.5以上であると、参考例(セルロース粒子を加えない小麦粉を原料とするパン)に近い食感、弾力性が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のセルロース粒子を含有するパンにより、膨化性(パンを焼いた際のふくらみ度合い)に優れ、外観、食感、弾力性、フレッシュネス(新鮮さ)が小麦粉だけのパンに比べ見劣りしなく、食感の良い、低カロリーのパンを供与することができた。さらに付帯効果として、食物繊維を多量に摂取することが可能となった。例えば、市販の食パン2枚(100g)には食物繊維約2g含まれており、1日の必要量20−25gには遠く及ばない。本発明の低カロリー性パン(例えばセルロース粒子20%含有)では食物繊維量は26gとなり一日の必要量に到達した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明実施の形態は以下のようである。セルロースの粒子をL/Dが2未満の球状、平均粒径を30μm以上、500μm未満にし、小麦粉にブレンドして製パン材料とする。このセルロースブレンド小麦粉をもちいて製パンし、パンに必要な膨化、外観、食感、フレッシュネス、おいしさを与えるパンを作る。次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
以下には、本発明の実施例、比較例、参考例をまとめて記載する。
【0025】
[実施例1−4、比較例1−3、参考例]
ここではセルロース粒子の平均粒径と形状の違いを中心に製パンに与える影響を検討した。実施例1−4のセルロース粒子は、セルロース濃度5重量%、水酸化ナトリウム7.6重量%、水87.4%のセルロース/水酸化ナトリウム水溶液を二流体ノズルで球状に成形し、0℃、10重量%の硫酸水溶液で凝固し、ついで水洗により硫酸および硫酸ナトリウム分を除去精製して調製した。図1にこのようにして調製した代表的セルロース粒子(実施例3のセルロース粒子)の光学顕微鏡写真を示す。このセルロース粒子の平均粒径は230μm、L/Dは1.1である。比較例1,2のセルロース粒子はセルロ−ス懸濁液(セオラスクリーム, FP-03)をセルロース濃度5重量%に調整し、スプレードライにより得た。比較例3のセルロース粒子は精製リンターを酸加水分解した繊維状のセルロース粒子(Fibrous Cellulose Powder, CF11, Whatman社製)である。製パンは、AACC 法(American Association of Cereal Chemists 法:Approved Methods of the American Association of Cereal Chemists編「Approved Methods of the American Association of Cereal Chemists」8版、1983年、American Association of Cereal Chemists,Inc.Minnesota,USA発行を参照)に基づいて行なった。セルロース粒子60g、小麦粉(カメリア)240g、砂糖14.5g、食塩 2.9 g、水所定量(ブラベンダーファリノグラフできめた吸水率(%)から求めた(ml))を基本配合とし、よく懸濁後、イースト8.7gを加え、以下の製パン法で製造した。参考例としてセルロースを加えないで、小麦粉(カメリア)300gとしたものも実施した。
(製パン工程、製パン配合ストレート法)
*ミキシング;低速1分、中速1分、高速5分ミキシングする。(捏上温度25℃)
*発酵;30℃ 80 分
*フロアータイム;15分
*分割;120g
*成型;モルダーにてワンローフ成型
*発酵;ホイロ(38℃,湿度80%)内発酵
*焼成;200℃, 20 分
【0026】
【表1】

【0027】
結果を表1に示す。平均粒径の小さいセルロース粒子(比較例1、2) では無添加物(参考例、市販のパンと同程度)に比べパン高、比容積ともに大幅に低かった。製パン性はパン高や比容積が無添加物の概ね0.7以下の場合悪いと判断されるが、比較例1、2の場合はいずれも0.7以下であり、製パン性は悪かった。また比較例3では平均粒径は80μmあるものの、L/Dが5.5で繊維状形態を示す粒子を使用しており、製パン性は悪かった。実施例1−4ではパン高、比容積とも無添加物に劣らぬ、あるいは、平均粒径が230,280μm(実施例3、4)では、むしろそれより優れたパンが得られた。このことから、平均粒径や形状が製パン性に対して極めて大きな影響を及ぼし、これを考慮すると良好なパンの得られることがわかった。
【0028】
[実施例5、6、比較例4]
ここではセルロース粒子の混合割合について検討を加えた。セルロース粒子と小麦粉の合計重量を300gとし、セルロース粒子の比率(セルロース粒子と小麦粉の合計重量に対するセルロース粒子の重量比率)を変化させ製パンした。製パン条件は実施例1−4と同じである。ここで、セルロース粒子は実施例3と同じ平均粒径230μm、L/D1.1のものを使用した。表2にセルロースの比率が30,40,65%の場合(それぞれ実施例5,6、比較例4)の製パン結果を示した。実施例5,6ではいずれも製パン性は良かったが、セルロース粒子比率が極めて高い比較例4では無添加物(参考例)のパン高、比容積の0.7以下であり、製パン性は悪かった。
【0029】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例3、5、6による平均粒径230μm、L/D1.1のセルロース粒子の光学顕微鏡写真。なお写真の長辺の長さは1100μmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が30μm以上500μm未満であり、L/Dが2未満の球形であることを特徴とする製パン用のセルロース粒子。
【請求項2】
セルロース粒子がアルカリ金属水酸化物水溶液から再生されたセルロースを含有することを特徴とする請求項1記載のセルロース粒子。
【請求項3】
アルカリ金属水酸化物水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項2記載のセルロース粒子。
【請求項4】
セルロースと、食用多糖類及び/またはポリペプチドの混合物であり、かつ、食用多糖類及び/またはポリペプチドの比率が重量比でセルロースに対し0.1以上10未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース粒子。
【請求項5】
パンの全重量に占めるセルロース粒子の割合が10重量%以上55重量%未満であり、かつ膨化性が2.5cm3/g 以上であることを特徴とするパン。
【請求項6】
セルロース粒子が、アルカリ金属水酸化物水溶液から再生されたセルロースである請求項5に記載のパン。
【請求項7】
アルカリ金属水酸化物水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項6に記載のパン。
【請求項8】
セルロース粒子の平均粒径が30μm以上500μm未満であり、L/Dが2未満の球形であることを特徴とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のパン。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース粒子を3重量%以上45重量%未満含有することを特徴とするパンの生地。
【請求項10】
請求項9に記載のパンの生地を温度130℃以上280℃未満の温度範囲で10分以上の焼成時間で調理することを特徴とするパンの製造方法。


【図1】
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