説明

低リーチング性のフルオラス多相系反応方法

【課題】パーフルオロオクタン酸(PFOA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)に関連する問題や地球温暖化問題に鑑みて、溶媒/触媒双方のリーチングを低減した新規フルオラス多相系反応方法を提供すること。
【解決手段】少なくともフルオラス溶媒と有機溶媒とを用いるフルオラス多相系触媒反応方法であって、触媒として、下記一般式(1):
M[N(SORf)(SORf)] (1)
{式中、Mは、Hf、Sn、Yb、Y、Bi、La、及びScからなる群から選ばれる金属であり、Rfは、互いに独立に、下記一般式(2):
−(CFO[CF(CF)CFO]CFCF (2)
(式中、mは、2〜6の整数であり、そしてnは、1〜3の整数である。)で表される構造を有し、Rfは、互いに独立に、Rf又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、RfとRfの炭素数の合計は、10以上であり、そしてlは、金属Mの価数を示す。}で表されるフルオラスルイス酸触媒を使用し、かつ、フルオラス溶媒として、酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい沸点150℃以上の高沸点パーフルオロ炭化水素を使用することを特徴とする前記フルオラス多相系反応方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともフルオラス溶媒と有機溶媒とを用いるフルオラス多相系反応触媒方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フルオラス触媒として所定のフルオラスルイス酸を使用し、かつ、フルオラス溶媒として所定の高沸点溶媒を使用するフルオラス多相系反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオラス多相系反応とは、(一般)有機溶媒と、これと実質的に混じり合わないフルオラス溶媒との、少なくとも二相系での反応をいい、その反応は、一般にはフルオラス触媒により促進される。フルオラス溶媒とは、高度にフッ素化された(一般にはパーフルオロ化された)、場合によりヘテロ原子を含む炭化水素類であり、フルオラス触媒とはパーフルオロアルキル鎖で修飾された触媒であって、フルオラス溶媒によく溶解するものである。
【0003】
フルオラス多相系においてフルオラス触媒を用いた触媒反応を行うとき、反応基質は、反応前には一般有機溶媒に溶解しており、一方、フルオラス触媒は、フルオラス溶媒には溶解している。これを(高温で)激しく攪拌して反応させた後、(低温で)静置させると再び二相に分離する。このとき、上相の一般有機溶媒相には反応生成物が溶解しているのに対し、下相のフルオラス溶媒相には反応前と同様フルオラス触媒が溶解している。したがって、フルオラス多相系反応を用いれば、液々分離という簡単な操作で反応生成物と触媒とを分離することができるため、触媒をフルオラス溶媒相ごと回収して再使用することが可能となる。
【0004】
しかしながら、このようなフルオラス多相系反応は、フルオラス触媒やフルオラス溶媒が一般有機溶媒に難溶であることで成り立っているが、実際には微量のフルオラス溶媒と触媒が一般有機溶媒に溶け出している(すなわち、リーチング)という問題がある。
【0005】
従来使用されてきたフルオラス溶媒は、フロリナート(登録商標)FC−72やパーフルオロ(メチルシクロヘキサン)といったパーフルオロアルカン類や、ガルデン(登録商標)SV135といったパーフルオロポリエーテルが主流であった。これに対し、一般に、高沸点のフルオラス溶媒であれば一般有機溶媒に溶解し難いことが知られている。このような高沸点溶媒を使用したフルオラス多相系反応として、高沸点の割に比較的粘度が低い溶媒と、パーフルオロオクチル基を有するフルオラスルイス酸との組合せは知られていた(以下、特許文献1参照)。
【0006】
一方、フルオラス触媒で多用されるパーフルオロオクチル基を有する化合物は、近年、生体濃縮性が高いということで、問題視されている。かかる問題の対象は、パーフルオロオクタン酸(PFOA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)誘導体であり、所謂PFOA/PFOS問題として知られている。
【0007】
ところで、以下の特許文献2には、本発明に係るフルオラス多相系反応に使用するルイス酸触媒の一般式(2)に相当する構造として、下記一般式(3):
−(CFO[CF(CF)CFO]CFXCF (3)
で表される構造が開示されている。しかしながら、特許文献2には、環境問題やリーチング対策については触れられておらず、実際、特許文献2の実施例で開示されているのは一般式(3)中X=F、かつ、X=Hである構造をもつルイス酸触媒のみであるが、この構造をもつ触媒はリーチングが大きいという問題があった。
【0008】
このように、フルオラスルイス酸を用いたフルオラス多相系反応において、溶媒と触媒の両面からリーチング問題対策や環境問題についての対応策はこれまで採られてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−143847
【特許文献2】WO03/051511
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、所謂PFOA/PFOS問題に対応したルイス酸触媒と、地球温暖化のリスクを低減したフルオラス溶媒を用い、且つ溶媒/触媒双方のリーチングを低減した新規フルオラス多相系反応方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、フルオラス多相系反応方法において、触媒として、特定の構造を有する非PFOS構造のフルオラスルイス酸触媒を使用し、かつ、所定の酸素原子や窒素原子を含んでいてもよい高沸点パーフルオロ炭化水素系溶媒を使用することにより、地球温暖化係数の大きい溶媒の大気中への排出を抑制するのみならず、溶媒/触媒ともに一般有機溶媒への溶出(リーチング)が少ないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1]少なくともフルオラス溶媒と有機溶媒とを用いるフルオラス多相系触媒反応方法であって、触媒として、下記一般式(1):
M[N(SORf)(SORf)] (1)
{式中、Mは、Hf、Sn、Yb、Y、Bi、La、及びScからなる群から選ばれる金属であり、Rfは、互いに独立に、下記一般式(2):
−(CFO[CF(CF)CFO]CFCF (2)
(式中、mは、2〜6の整数であり、そしてnは、1〜3の整数である。)で表される構造を有し、Rfは、互いに独立に、Rf又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、RfとRfの炭素数の合計は、10以上であり、そしてlは、金属Mの価数を示す。}で表されるフルオラスルイス酸触媒を使用し、かつ、フルオラス溶媒として、酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい沸点150℃以上の高沸点パーフルオロ炭化水素を使用することを特徴とする前記フルオラス多相系反応方法。
【0013】
[2]前記有機溶媒がトルエンであり、出発材料シクロヘキサノールと無水酢酸が、反応生成物である酢酸シクロヘキシルに変換される、前記[1]に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るフルオラス多相系反応方法は、使用する触媒が非PFOS構造であり、かつ、使用するフルオラス溶媒の蒸気圧が低いため、地球温暖化のリスクが小さく、環境問題に対応したものである。また、本発明に係るフルオラス多相系反応方法は、微量のフルオラス溶媒/触媒が一般有機溶媒に溶け出すというリーチングが少ないことから、多サイクルのリサイクル反応として行っても溶媒/触媒のロスを最低限に抑制することができる。これらの点で、本発明に係るフルオラス多相系反応方法は、フルオラス多相系反応としての適性に優れた方法である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず本発明の方法に用いられるルイス酸触媒について説明する。これまでM[N(SORf)で表されるルイス酸触媒としてはRf=C17がほとんどであったが、これは、まさにPFOS誘導体そのものである。PFOS構造を回避する方法としては、C等の短鎖構造や鎖中に水素原子を含める等の方法が提案されているが、いずれもフルオラス性を損なう方向である。そこで本発明者らは、同じく回避方法として提案されている、鎖中にエーテル基を有する構造を採用することにした。
【0016】
以下、本発明に用いルイス酸触媒の構造について具体的に説明する。
本発明に用いルイス酸触媒は、下記一般式(1):
M[N(SORf)(SORf)] (1)
{式中、Mは、Hf、Sn、Yb、Y、Bi、La、及びScからなる群から選ばれる金属であり、Rfは、互いに独立に、下記一般式(2):
−(CFO[CF(CF)CFO]CFCF (2)
(式中、mは、2〜6の整数であり、そしてnは、1〜3の整数である。)で表される構造を有し、Rfは、互いに独立に、Rf又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、RfとRfの炭素数の合計は、10以上であり、そしてlは、金属Mの価数を示す。}で表される。
【0017】
該触媒構造の特徴は、一般式(1)のイミド配位子中のRfとRfにあり、RfとRfの内少なくともRfは、下記一般式(2):
−(CFO[CF(CF)CFO]CFCF (2)
で表される構造である。一般式(2)中、mは2〜6の整数であるが、合成の容易さから、2、4、6が好ましく、2、4がより好ましい。またnは1〜3の整数であり、nが大きいほどフルオラス性が高くなるので2、3が好ましいが、大きすぎると触媒の分子量が大きくなりすぎるので、2がより好ましい。
【0018】
Rfは、Rfと同じであることが好ましいが、Rf中のmとnは、Rf中のmとnとは異なっていてもよく、また、Rfは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であっても差し支えない。但し、RfとRfの炭素数の合計は、10以上であり、フルオラス性が高くなるので14以上が好ましく、18以上がさらに好ましい。一方、一般式(1)及び一般式(2)の理論上のRfとRfの炭素数の上限は34であるが、触媒が嵩高くなりすぎるので、該炭素数の上限は26であることが好ましい。
【0019】
一般式(1)において、金属Mは、Hf、Sn、Yb、Y、Bi、La、及びScからなる群から選ばれる。また、lは、金属Mの価数を示し、通常、3又は4である。
【0020】
一般式(2)で表される構造を有するイミド配位子は、公知の下記化合物(4):
CFCF(COF)[OCFCF(CF)]O(CFSOF (4)
{式中、nとmは一般式(2)中で定義したものと同じである。}から、
下記化合物(5):
CFCF(COOH)[OCFCF(CF)]O(CFSOF (5)
{式中、nとmは一般式(2)中で定義したものと同じである。}又は下記化合物(6):
CFCHF[OCFCF(CF)]O(CFSOF (6)
{式中、nとmは一般式(2)中で定義したものと同じである。}
又は下記化合物(7):
CF=CF[OCFCF(CF)]O(CFSOF (7)
{式中、nとmは一般式(2)中で定義したものと同じである。}を経由して、それぞれ、直接フッ素化することで得られる下記化合物(8):
CFCF[OCFCF(CF)]O(CFSOF (8)
{式中、nとmは一般式(2)中で定義したものと同じである。}
を原料として、公知の方法で合成することができる。
【0021】
また、本発明に係る方法に用いるフルオラス溶媒は、沸点150℃以上の高沸点パーフルオロ炭化水素化合物であるが、分子中に酸素原子や窒素原子を含んでいてもよい。リーチングを防ぐ目的からは沸点は180℃以上が好ましく、200℃以上がさらに好ましい。但し、一般的には沸点が高くなるにつれ、粘度が上昇するので沸点の上限は300℃が好ましく、250℃以下がより好ましい。もちろん融点は常温以下であることが好ましく、0℃以下がより好ましい。具体的には直鎖又はまたは分岐又は環状構造を有するパーフルオロ炭化水素、パーフルオロポリエーテル類、パーフルオロトリアルキルアミン類などが例示される。
【0022】
以下、本発明に係る方法に用いるフルオラス溶媒の具体例として、
(A)一般式(C2n+1Nで表される化合物:フロリナート(登録商標)FC−43(沸点174℃)、FC−70(沸点215℃)、FC−71(沸点250〜260℃、融点33℃)、
(B)一般式CF[OCF(CF)CF(OCFOCFで表される化合物:ガルデン(登録商標)HT200(沸点200℃)、HT230(沸点230℃)、HT270(沸点270℃)、クライトックス(登録商標)K−フルードK5(沸点186℃)、K6(沸点222℃)、K7(沸点250℃)、K8(沸点278℃)、K9(沸点296℃)等が挙げられる。
【0023】
フルオラス溶媒は、沸点上昇に伴うリーチング低下と粘度上昇を勘案しながら選択すればよいが、相対的に沸点の割には粘度が低いポリエーテル類(ガルデン(登録商標)、クライトックス(登録商標)K−フルード)が好ましく、中でも沸点の割にはリーチングが少ないクライトックス(登録商標)K−フルードがより好ましい。
【0024】
本発明に係るフルオラス多相系反応方法は、フルオラス触媒として所定のフルオラスルイス酸を使用し、かつ、フルオラス溶媒として所定の高沸点溶媒を使用する、すなわち、所定の触媒と所定の溶媒を組合せたことを特徴とする。
これまでのフルオラスルイス酸触媒を用いたフルオラス多相系反応は、PFOS問題と地球温暖化の環境問題への対応を迫られていた。溶媒を高沸点フルオラス溶媒に代えれば、地球温暖化リスク低減とリーチング低下を併せ持つことは想定されていた。一方、触媒については別途、フルオラス性を損なうことなく非PFOS化する方法について検討されていた。そこで、本願発明者らは、鋭意検討し、実験を重ねた結果、所定の構造を有する触媒と、所定の高沸点溶媒との組合せを用いたところ、使用する触媒のリーチングに関しても、PFOS誘導体系の従来技術の触媒よりも、リーチングが少ないという予想外の効果を発見した。
即ち、本発明に係るフルオラス多相系反応方法において、所定の高沸点溶媒と所定の非PFOS構造の触媒とを組合せて用いることで、溶媒/触媒の両方で環境問題対応と低リーチングが初めて達成されたのである。
【0025】
さらに、本発明に用い触媒は、従来技術のPFOS誘導体型の触媒に比較して、高沸点フルオラス溶媒への溶解度が顕著に高いということも判明した。
【0026】
本発明に係るフルオラス多相系反応方法に用いる(一般)有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、酸素、窒素又は塩素で置換された脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられる。具体的には、トルエン、キシレン、塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
また、本発明に係るフルオラス多相系反応方法は、具体例には、アルコールのアシル化、Baeyer-Villiger反応によるエステル・ラクトン合成、エステルとアルコールによるエステル交換反応、カルボン酸とアルコールとの直接エステル化反応、Friedel-Craftsアシル化反応、アルドール反応、Diels-Alder反応、エン反応、Prins反応等、その他一般のカルボニル基、イミノ基への求核付加反応又は置換反応に、適用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例等により本発明をより具体的に説明する。
[実施例1]
トルエン(1.5ml)とクライトックス(登録商標)K−フルードK7(1.5ml)(沸点250℃)の混合溶媒中へ、シクロヘキサノール(50mg)と無水酢酸(61mg)、及びガスクロマトグラフィー分析用内部標準試料ノナン(64mg)を加え、最後に一般式(1)においてM=Yb(III )、RfとRfがともに一般式(2)においてm=2、n=2である化合物(20mg)を加え、25℃で1.5時間攪拌した。反応終了後静置し、上相をガスクロマトグラフィーで分析を行った結果、転化率95%、選択率100%で酢酸シクロヘキシルが生成したことを確認した。また同じく上相中のK7成分をガスクロマトグラフィーで定量したところ、0.05wt%の濃度で溶解していた。また、上相中のYbをICPで定量したところ、検出限界以下であった。
【0029】
[比較例1]
クライトックス(登録商標)K−フルードK7の代わりにガルデン(登録商標)SV135(沸点135℃)を用い、触媒として一般式(1)の化合物の代わりにYb[N(SO17(16mg)を用いた以外、実施例1と同様に反応を行った。その結果、転化率99%、選択率100%で酢酸シクロヘキシルが生成したことを確認した。また同じく上相中のSV135成分を定量したところ、1.2wt%の濃度で溶解していた。また、上相中のYbをICPで定量したところ、仕込み量の0.3%がトルエン相に存在していることが分かった。
【0030】
[比較例2]
触媒として一般式(1)の化合物の代わりにYb[N(SO17(16mg)を用いた以外、実施例1と同様に反応を行った。その結果、転化率94%、選択率100%で酢酸シクロヘキシルが生成したことを確認した。また同じく上相中のK7成分を定量したところ、0.05wt%の濃度で溶解していた。また、上相中のYbをICPで定量したところ、仕込み量の0.2%がトルエン相に存在していることが分かった。
【0031】
[比較例3]
触媒として一般式(1)の化合物の代わりに下記式(9):
Yb[N(SOCFCFO[CF(CF)CFO]CHFCF(9)
で表される触媒(20mg)を用いた以外、実施例1と同様に反応を行った。その結果、転化率90%、選択率100%で酢酸シクロヘキシルが生成したことを確認した。また同じく上相中のK7成分を定量したところ、0.05wt%の濃度で溶解していた。また、上相中のYbをICPで定量したところ、仕込み量の39%がトルエン相に存在していることが分かった。
【0032】
[実施例2]
クライトックス(登録商標)K−フルードK7の代わりにフロリナート(登録商標)FC−70(沸点215℃)を用いた以外、実施例1と同様に反応を行った。その結果、転化率95%、選択率100%で酢酸シクロヘキシルが生成したことを確認した。また同じく上相中のFC−70成分を定量したところ、検出限界以下であった。また、上相中のYbをICPで定量したところ、検出限界以下であった。
【0033】
[実施例3]
クライトックス(登録商標)K−フルードK7の代わりにガルデン(登録商標)HT230(沸点230℃)を用いた以外、実施例1と同様に反応を行った。その結果、転化率96%、選択率100%で酢酸シクロヘキシルが生成したことを確認した。また同じく上相中のHT230成分を定量したところ、0.02wt%の濃度で溶解していた。また、上相中のYbをICPで定量したところ、検出限界以下であった。
【0034】
[実施例4]
クライトックス(登録商標)K−フルードK7と1,2−ジクロロエタンを、それぞれ、2.5mlずつ容器に取り、さらに一般式(1)においてM=Hf(IV)、RfとRfがともに一般式(2)においてm=2、n=2である化合物(58mg、約11μmol)を加え、超音波洗浄機で15分間混合処理した。しばらく静置後、2層に分かれたそれぞれの相を19F−NMRで分析したところ、一般式(1)の化合物は下層のフルオラス相にのみ存在し、上層からは検出されなかった。また、上層からはK7成分も検出されなかった。
【0035】
[比較例4]
一般式(1)の化合物の代わりにHf[N(SO17(45mg、約11μmol)を用いた以外、実施例4と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、液体2層とその中間に白色固形物層が現れた。上下の液体相を19F−NMRで分析したところ、Hf化合物は下層のフルオラス相に、仕込みの20%が存在し、上層からは検出されなかった。
【0036】
[実施例5]
1,2−ジクロロエタンの代わりに1,4−ジオキサンを用いた以外、実施例4と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、2層に分かれたそれぞれの相を19F−NMRで分析したところ、一般式(1)の化合物は下層のフルオラス相に98.2%、上層のジオキサン相に1.8%存在していた。また、上層からはK7成分は検出されなかった。
【0037】
[比較例5]
一般式(1)の化合物の代わりにHf[N(SO17(45mg、約11μmol)を用いた以外、実施例5と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、液体2層に別れ、その中間付近の器壁に透明な不溶物が付着していた。上下の液体相を19F−NMRで分析したところ、Hf化合物は下層のフルオラス相に12.1%、上層のジオキサン相に14.8%存在していた。
【0038】
[実施例6]
一般式(1)の化合物としてM=Sn(IV)、RfとRfがともに一般式(2)においてm=2、n=2である化合物(57mg、約11μmol)を用いた以外、実施例4と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、2層に分かれたそれぞれの相を19F−NMRで分析したところ、一般式(1)の化合物は下層のフルオラス相にのみ存在し、上層からは検出されなかった。
【0039】
[比較例6]
一般式(1)の化合物の代わりにSn[N(SO17(44mg、約11μmol)を用いた以外、実施例6と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、液体2層とその中間に白色固形物層が現れた。上下の液体相を19F−NMRで分析したところ、Sn化合物は下層のフルオラス相に、仕込みの10%が存在し、上層からは検出されなかった。
【0040】
[実施例7]
一般式(1)の化合物としてM=Y(III )、RfとRfがともに一般式(2)においてm=2、n=2である化合物(43mg、約11μmol)を用いた以外、実施例4と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、2層に分かれたそれぞれの相を19F−NMRで分析したところ、一般式(1)の化合物は下層のフルオラス相にのみ存在し、上層からは検出されなかった。
【0041】
[実施例8]
一般式(1)の化合物としてM=Bi(III )、RfとRfがともに一般式(2)においてm=2、n=2である化合物(44mg、約11μmol)を用いた以外、実施例4と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、2層に分かれたそれぞれの相を19F−NMRで分析したところ、一般式(1)の化合物は下層のフルオラス相にのみ存在し、上層からは検出されなかった。
【0042】
[実施例9]
一般式(1)の化合物としてM=La(III )、RfとRfがともに一般式(2)においてm=2、n=2である化合物(44mg、約11μmol)を用いた以外、実施例4と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、2層に分かれたそれぞれの相を19F−NMRで分析したところ、一般式(1)の化合物は下層のフルオラス相にのみ存在し、上層からは検出されなかった。
【0043】
[実施例10]
一般式(1)の化合物としてM=Sc(III )、RfとRfがともに一般式(2)においてm=2、n=2である化合物(43mg、約11μmol)を用いた以外、実施例4と同様に混合処理を行った。しばらく静置後、2層に分かれたそれぞれの相を19F−NMRで分析したところ、一般式(1)の化合物は下層のフルオラス相にのみ存在し、上層からは検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るフルオラス多相系反応方法は、触媒が非PFOS構造であり、溶媒も高沸点であることから蒸気圧が低く、地球温暖化のリスク低減が図られた、環境問題に対応したものであり、各種反応に利用しうるものである。また、本発明に係るフルオラス多相系反応方法は、溶媒と触媒の両者に関してリーチングが少ないことから、多サイクルのリサイクル反応として行っても従来技術の反応系に比較して該溶媒と触媒の高効率なリサイクルを可能とし、経済的にも有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフルオラス溶媒と有機溶媒とを用いるフルオラス多相系触媒反応方法であって、触媒として、下記一般式(1):
M[N(SORf)(SORf)] (1)
{式中、Mは、Hf、Sn、Yb、Y、Bi、La、及びScからなる群から選ばれる金属であり、Rfは、互いに独立に、下記一般式(2):
−(CFO[CF(CF)CFO]CFCF (2)
(式中、mは、2〜6の整数であり、そしてnは、1〜3の整数である。)で表される構造を有し、Rfは、互いに独立に、Rf又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、RfとRfの炭素数の合計は、10以上であり、そしてlは、金属Mの価数を示す。}で表されるフルオラスルイス酸触媒を使用し、かつ、フルオラス溶媒として、酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい沸点150℃以上の高沸点パーフルオロ炭化水素を使用することを特徴とする前記フルオラス多相系反応方法。
【請求項2】
前記有機溶媒がトルエンであり、出発材料シクロヘキサノールと無水酢酸が、反応生成物である酢酸シクロヘキシルに変換される、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2011−42592(P2011−42592A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190116(P2009−190116)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】