説明

低体温モデル動物およびその作製方法

【課題】本発明は、生活習慣の乱れを反映した低体温状態のモデル動物を提供することを目的とする。
【解決手段】ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ウサギなどの非ヒト動物の活動期の食餌を10日間以上制限して作製される低体温モデル動物、前記非ヒト動物の活動期の食事を制限することを特徴とする低体温モデル動物の作製方法、前記低体温モデル動物に被検物質を投与して、低体温の改善効果を評価することを特徴とする、低体温改善剤のスクリーニング方法、および前記方法によりスクリーニングされる低体温改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低体温モデル動物に関し、詳しくは、生活習慣の乱れを反映した低体温モデル動物、及び該動物を効率的に作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの体温は、例えば、朝食をとらない、夜型の生活、睡眠時間の不規則や日中の身体活動不活発等の生活リズムの変調が原因となり低下する。ヒトを含む恒温動物において、体温低下により悪寒・不快感、創部感染、創傷治癒遅延、免疫力低下等の症状を発症することが知られている。こうした症状の予防及び改善剤を開発する上で、低体温状態のモデル動物が求められている。
【0003】
従来の低体温状態のモデル動物としては、clock遺伝子変異を有する動物(特許文献1:特開2003−70376号公報)、ヒスタミン欠如マウス(HDC遺伝子ノックアウトマウス)(特許文献2:特開2003−128547号公報)、メラトニン等の薬物投与により低体温を誘発したモデル動物(非特許文献1:Journal of Pineal Research,2002,33:14−19)がある。しかし、これらの動物は遺伝子組み換えや薬物投与により低体温状態を誘導したものであり、実際の生活において低体温の原因となる生活習慣の乱れを反映していなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−70376号公報
【特許文献2】特開2003−128547号公報
【非特許文献1】Journal of Pineal Research,2002,33:14−19
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生活習慣の乱れを反映した低体温状態のモデル動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕非ヒト動物の活動期の食餌を10日間以上制限して作製される低体温モデル動物。
〔2〕前記非ヒト動物が、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、またはウサギである〔1〕記載の低体温モデル動物。
〔3〕非ヒト動物の活動期の食事を制限することを特徴とする低体温モデル動物の作製方法。
〔4〕〔1〕または〔2〕に記載の低体温モデル動物に被検物質を投与して、低体温の改善効果を評価することを特徴とする、低体温改善剤のスクリーニング方法。
〔5〕〔4〕に記載の方法によりスクリーニングされる低体温改善剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低体温モデル動物が提供される。係る低体温モデル動物を利用した実際の生活習慣の乱れ等を起因とした体温低下による症状の効果的かつ実用性の高い予防または治療剤の開発が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の低体温モデル動物は、非ヒト動物の活動期の食餌を制限して作製される。
【0009】
非ヒト動物とは、ヒト以外の動物を意味する。ヒト以外の動物としては、恒温動物が好ましく、哺乳類が特に好ましい。中でも、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、またはウサギが特に好ましい。品種、性別、年齢は特に問わない。
【0010】
食餌の制限とは、通常の食餌条件のうち、時間、種類および量のいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせを制限することを意味する。このうち、食餌の量の制限が好ましい。食餌の量の制限としては、給餌量を減少(通常の半量以下など)、或いは給餌停止によることができるが、給餌停止(絶食)が好ましい。
【0011】
本発明においては、活動期の食餌制限を行う。活動期とは、動物の生活リズムの一つであり、休息期(通常は睡眠)に対する期間である。活動期の全期間において食餌制限を行うか、或いは一部の時間において行うかは、その動物や食餌制限の内容により定めることができる。通常実験動物の場合には、暗期が活動期、明期が休止期に該当するため、暗期の食餌制限を行うことによることができる。なお、本発明においては活動期に食事制限を行うことを前提として、さらに休息期の食事制限を行ってもよい。
【0012】
活動期の食餌制限を行う期間は、食餌制限の内容にもよるが、10日間以上とし、好ましくは50日間以上とすることができる。10日間以上とすることにより、低体温を安定に維持できる低体温モデル動物が得られる。尚、期間の上限については、その動物の状況にもよるが、衰弱死に至らない範囲で適宜定めることができる。
【0013】
食餌制限の態様としては、下記の例が挙げられる。:活動期の全期間の給餌停止(休息期は自由摂取);活動期の全期間において自由摂取時の半量を給餌;活動期に自由摂取時の1/4量以下の給餌(休息期は自由摂取)。
【0014】
食餌制限を行う前後の飼育条件は、常法に従えばよく特に限定されない。均質なモデル動物を作製するための観点からは、同一の条件下で飼育することが好ましい。
【0015】
本発明において「低体温」とは、動物の体温がその動物の平熱よりも低いことを意味する。どの程度低温かについてはその動物種、個体、環境、測定時期などによるが、体温(活動期と休息期とがある動物の場合活動期の体温)が平常温度よりも0.3℃以上低温であり、0.5℃以上低温であることが好ましい。特に0.5〜1.4℃程度低いことが好ましい。
【0016】
本発明の低体温モデル動物は低体温を示す。低体温に至った時点で、さらに活動期の食事制限を継続することにより低体温の状態は持続する。また、低体温に至った時点で食事制限を終了して通常の自由摂取に戻した場合でも、通常食事制限終了より数日間(例えば3日間(72時間)程度)は低体温を示す。
【0017】
本発明の低体温モデル動物は、実際の生活習慣の乱れ等に起因する低体温の臨床状態に近い。よって、生活習慣の乱れに基づく低体温に起因する疾患の原因解明、予防、治療および診断技術におけるモデル動物として利用することができる。例えば、低体温モデル動物の生育状況の観察により、低体温が生態に及ぼす影響を考察することができる。また、飼育条件の変化、被検物質投与による動物への影響の観察により低体温状態への環境の影響を考察することができる。
【0018】
そして、本発明の低体温モデル動物は、低体温改善剤のスクリーニングにも利用できる。具体的には、低体温モデル動物に被検物質を投与して、低体温の改善効果を評価して、低体温の改善効果を有する物質を、低体温改善剤の有効成分としてスクリーニングすることが出来る。係るスクリーニング方法において、被検物質の低体温の改善効果の評価とは、改善効果を有するかどうかの評価、改善効果の度合いの評価などを含む。被検物質は、公知、新規を問わず、また、天然由来、人工合成のいずれであってもよい。スクリーニング方法の一例を挙げると下記のとおりである。本発明の低体温モデル動物に被検物質を経口的又は非経口的に投与し、投与後の該動物の体温を測定して平熱への回復如何、回復までにかかる期間を評価し、改善効果の高いものを低体温改善剤として選抜する。
【実施例】
【0019】
本発明を実施例により具体的に説明する。
【0020】
実施例1
SD系ラット(オス、7週齢)の腹腔内に体温測定用カプセル(23mm長×8mm径、PDT−4000、MiniMitter社製)を埋め込み、1週間自由摂取により飼育した(環境温度:22℃±0.5℃、明暗サイクル:明期12時間、暗期12時間)。その後、休息期にあたる明期にのみ食餌を提示し暗期の食餌提示を中止した。食餌提示制限は10日間継続し、その後2日間再び自由摂取させた。
【0021】
食餌制限継続後、埋め込んだカプセルから発信させる電波をデータ収録装置(Vital View、MiniMitter社製)により受信し、10分間ごとの深部体温平均値を24時間モニタリングした。得られた深部体温測定値のうち、活動期の平均深部温度を算出した。
【0022】
その結果、活動期の平均深部体温は37.7℃であり、低体温の状態が3日間安定して継続した。
【0023】
実施例2
実施例1において、食餌提示制限を55日間、自由摂取を2日間としたほかは実施例1と同様に行った。その結果、活動期の平均深部体温は37.4℃であった。低体温の状態は10日間安定して継続した。
【0024】
実施例3
実施例1において、食餌提示制限を30日間、自由摂取を2日間としたほかは実施例1と同様に行った。その結果、活動期の平均深部体温は37.4℃であった。低体温の状態は10日間安定して継続した。
【0025】
比較例1
実施例1において、食餌提示制限を5日間、自由摂取を2日間としたほかは実施例1と同様に行った。その結果、活動期の平均深部体温は、38.2℃であった。
【0026】
比較例2
実施例1において食餌提示制限を行わず自由摂取を12日間としたほかは実施例1と同様に行った。その結果、活動期の平均深部体温は38.2℃であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物の活動期の食餌を10日間以上制限して作製される低体温モデル動物。
【請求項2】
前記非ヒト動物が、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、またはウサギである請求項1記載の低体温モデル動物。
【請求項3】
非ヒト動物の活動期の食事を制限することを特徴とする低体温モデル動物の作製方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の低体温モデル動物に被検物質を投与して、低体温の改善効果を評価することを特徴とする、低体温改善剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法によりスクリーニングされる低体温改善剤。

【公開番号】特開2009−137881(P2009−137881A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315432(P2007−315432)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】