説明

低反発性ポリウレタン発泡体

【課題】撥水性に優れ、枕やマットレス等の寝具に好適な低反発性ポリウレタン発泡体の提供を目的とする。
【解決手段】ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、触媒を含むポリウレタン原料から形成された低反発性ポリウレタン発泡体において、ポリオール成分が、リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物、またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールと、低反発性を発現するポリオールを含み、ポリイソシアネート成分がトルエンジイソシアネートからなり、イソシアネートインデックスが70〜90、反発弾性値が20%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性に優れる低反発性ポリウレタン発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、枕やマットレスの上敷きとして、圧縮後の復元が遅い低反発性ポリウレタン発泡体を用いたものが好んで用いられている。
【0003】
従来、ポリウレタン発泡体の復元性を遅くする手段として、ガラス転移温度をポリウレタン発泡体の使用温度に近づけること、通気性を低くすること、低分子量の架橋剤を添加すること、パラフィンオイルや難燃剤等の添加剤を配合することなどが提案されている。また、高密度で反発弾性値が低く、押圧後の復元に時間がかかる軟質ポリウレタンフォームとして、ひまし油ポリオールとアセトキシエチルメタクリレートを含むポリウレタン原料から発泡させたものが提案されている。
【0004】
しかし、従来の低反発性ポリウレタン発泡体は、寝具に使用した場合に蒸れ易く、しかも汗等により濡れた場合に吸水して長期的にはカビが発生するおそれがある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−2591号公報
【特許文献2】特開平11−286566号公報
【特許文献3】特開平7−62051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、撥水性に優れ、枕やマットレス等の寝具に好適な低反発性ポリウレタン発泡体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、触媒を含むポリウレタン原料から形成された低反発性ポリウレタン発泡体において、前記ポリオール成分は、リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールを含み、前記ポリイソシアネート成分はトルエンジイソシアネートからなり、イソシアネートインデックスが70〜90であり、反発弾性値が20%以下であることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記ポリオール成分100重量部中、前記リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールの量が、10〜50重量部であることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2において、接触角が85〜120度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリオール成分として、リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールを含むため、低反発性ポリウレタン発泡体に高い撥水性を付与することができる。しかもポリイソシアネート成分をトルエンジイソシアネートとしてイソシアネートインデックスを70〜90としたことにより、反発弾性値が20%以下の優れた低反発性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における低反発性ポリウレタン発泡体は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、触媒を含むポリウレタン原料の反応により発泡したものである。なお、本発明において、低反発性はJIS K 6400に準拠する反発弾性値が20%以下を言う。
【0012】
本発明におけるポリオール成分は、リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールを含むものである。
【0013】
前記リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールは、主として植物油に由来するポリオールであって、大豆油、ひまし油、菜種油、綿実油などをベースとしたものを挙げることができる。また、前記リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールは、水酸基価156〜205mgKOH/g、官能基数2〜4のものが好ましい。前記リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールは、前記ポリオール成分100重量部中に10〜50重量部含まれるのが好ましい。10重量部未満の場合には得られる低反発ポリウレタン発泡体の撥水性が低下し、一方、50重量部を超える場合にはポリウレタン原料が正常に発泡せず、低反発ポリウレタン発泡体が得られなくなる。
【0014】
また、前記ポリオール成分には、低反発性を発現するポリオールを含むのが好ましい。前記低反発性を発現するポリオール、すなわち低反発性ポリオールは、分子量の異なるポリオール(低分子量のポリオールと高分子量のポリオール)を物理的に混合したブレンドポリオールをいう。低分子量ポリオールは分子量700〜3000、平均官能基数1.5〜4.5のものが好ましく、一方、高分子量ポリオールは分子量4000〜12000、平均官能基数1.5〜4.5のものが好ましい。また、前記低分子量ポリオールと高分子量ポリオールの割合は、前記低分子量ポリオールを50〜80重量%、残りを前記高分子量ポリオールとするのが好ましい。前記低分子量ポリオールの割合が少ない場合、架橋密度が低くなって低反発性を発現しなくなり、一方、前記低分子量ポリオールの割合が多い場合には架橋密度が高くなり、得られる低反発性ポリウレタン発泡体が硬くなって触感が悪くなる。
【0015】
前記低分子量ポリオール及び高分子量ポリオールとしては、ポリオキシアルキレンポリオール、ビニル重合体含有ポリオキシアルキレンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリオキシアルキレンポリエステルブロック共重合体ポリオールから選択される1種または2種以上のものが好ましい。また、前記植物油由来のポリオールが、前記低分子量ポリオールの分子量範囲に該当する場合には、前記植物油由来のポリオールと他の高分子量ポリオールを混合して低反発性ポリオールとすることもできる。一般的に、植物油由来のポリオールは、水酸基価156〜205mgKOH/g、官能基数2〜4であるため、その分子量が約935となり、前記低分子量ポリオールに位置付けることができる。
【0016】
前記低反発性を発現するポリオールの量は、前記ポリオール成分において前記リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールとされた残りの量が好ましく、具体的にはポリオール成分100重量部中、低反発性を発現するポリオールの量が50〜90重量部である。
【0017】
本発明におけるポリイソシアネート成分は、トルエンジイソシアネート(TDIと称される)からなり、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、またはそれらの混合物が挙げられる。また、イソシアネートインデックス[ポリウレタン原料におけるNCO(モル)/OH(モル)×100]は、70〜90とされる。70未満の場合、得られる低反発性ポリウレタン発泡体の表面がべたついたり、変形後に復元しなくなったりする。一方、90を超えると、得られる低反発性ポリウレタン発泡体が硬くなって触感が低下するようになる。
【0018】
本発明における発泡剤は、ポリウレタン発泡体用として公知のものを使用することができる。たとえば、水、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤の配合量は適宜の量とされるが、水の場合には、通常、ポリオール成分100重量部に対して1〜3重量部程度とされる。
【0019】
本発明における触媒は、ポリウレタン発泡体用として公知のものを使用することができ、特に限定されない。使用可能な触媒として、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルグアニジン等のアミン触媒や、ジブチルチンジラウレート、スタナスオクトエート等の錫触媒や、フェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)が挙げられる。触媒の配合量は、触媒の種類によって適宜決定されるが、ポリオール成分100重量部に対し0.3〜2.0重量部程度が一般的である。
【0020】
その他、適宜助剤が配合される。例えば、整泡剤、着色剤、難燃剤等を挙げることができる。整泡剤としては、ポリウレタン発泡体用として公知のものを使用することができ、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤及び界面活性剤を挙げることができる。顔料は、求められる色に応じたものが用いられる。
【0021】
本発明の低反発性ポリウレタン発泡体は、反発弾性値が20%以下、好ましくは12〜16%であり、また、接触角が85〜120度であるのが好ましい。前記反発弾性値はJIS K 6400に準じて測定された値であり、20%を超える場合には低反発性に劣るようになる。さらには、前記好ましい範囲の下限である12%より低い場合には、復元性に劣るようになり、一方、前記好ましい範囲の上限である16%より高い場合には、得られる低反発性の効果が劣るようになる。また、前記接触角は低反発性発泡体と水の接触角を測定した値であり、85度未満の場合には撥水性に劣るようになる。一方、いくら撥水性に優れていても、120度を超えることは無いと推察される。
【0022】
本発明の低反発性ポリウレタン発泡体の製造は、前記ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、触媒を含むポリウレタン原料を用いて、公知のスラブ発泡あるいはモールド発泡により行うことができる。前記スラブ発泡は、混合攪拌されたポリウレタン原料をベルトコンベア上に吐出し、前記コンベアベルトが移動する間にポリウレタン原料を常温、大気圧下で自然発泡させ、硬化させることにより発泡体を形成する方法であり、本発明の低反発性ポリウレタン発泡体を連続的に製造することができる。なお、前記スラブ発泡の場合には、その後、乾燥炉内で硬化を完全にした(キュアした)後、所定形状に裁断される。一方、モールド発泡は、混合攪拌されたポリウレタン原料を、モールド(成形型)内に注入して、モールド内で発泡させることにより、モールド形状の発泡体を形成する方法であり、その後に裁断等を行うことなく所望形状の低撥水性ポリウレタン発泡体を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。表1及び表2の配合に基づきポリウレタン原料を調製して、そのポリウレタン原料を縦270×横270×高さ300mmの箱内に混合、攪拌して注入し、常温、大気圧下で反応、発泡させてポリウレタン発泡体を形成した。その後、250×250×250mmに切り出して実施例及び比較例の低反発性ポリウレタン発泡体を得た。なお、表1は、ひまし油ポリオール(リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物)と大豆油ポリオール(オレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物)の量を変化させた場合、表2はイソシアネートインデックスを変化させた場合である。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表1及び表2において、低反発性ポリオールは、分子量1600のポリオキシアルキレンポリオール65重量部と分子量5000のポリオキシアルキレンポリオール35重量部を含むもの、品番:LR00、三井武田ケミカル株式会社製、OHV=106、ひまし油ポリオールは、品番:H−30、伊藤製油株式会社製、OHV=162、大豆油ポリオールは、品番:VIKOL2、アルケマ株式会社製、OHV=205、ポリエステルポリオールは、品番:BGA1000、三井武田ケミカル株式会社製、OHV=112、アミン触媒1は、3級アミン、品番:Niax A1、クロンプトンコーポレーション製、アミン触媒2は、3級アミン、品番:LV33、中京油脂株式会社製、整泡剤は、シリコーン整泡剤、品番:SRX294A、東レ・ダウコーニング株式会社製、金属触媒は、スタナスオクトエート、品番:MRH110、城北化学工業株式会社製、ポリイソシアネートは、2,4−異性体65重量%と2,6−異性体35重量%のトルエンジイソシアネート、品番:T−65、日本ポリウレタン工業株式会社製である。
【0027】
このようにして得られた実施例及び比較例の低反発性ポリウレタン発泡体について、密度(単位;kg/m、JIS K 7222:1999準拠)、反発弾性値(単位;%、JIS K 6400−3:2004準拠)、硬さ(単位;N、JIS K 6400−2:2004)、引張強度(単位;kPa、JIS K 6400−5:2004準拠)、伸び(単位;%、JIS K 6400−5:2004準拠)、圧縮歪(単位;%、JIS K 6400準拠)を測定した。また、10×20×50mmに裁断したサンプルを用い、そのサンプルの表面に垂らした水とサンプル表面の接触角を協和界面科学製、CA−D型接触角測定器により測定した。各測定結果を表1及び表2の下欄に示す。
【0028】
表1の結果から、ポリオール成分100重量部中にひまし油ポリオール及び大豆油ポリオールを10〜90重量部含み、残りを低反発性ポリオールとした実施例1A〜6Aは、反発弾性値が低いことから低反発性を有することがわかり、また接触角が大であることから撥水性に優れていることがわかる。それに対して、ひまし油ポリオール及び大豆油ポリオールの何れも含まない比較例1A、ひまし油ポリオール及び大豆油ポリオールに代えてポリエステルポリオールを含む比較例3Aは、何れも実施例1A〜6Aと比べて接触角が小さく、撥水性に劣っていることがわかる。また、ポリオール成分にひまし油ポリオールを100重量部含む比較例2は、発泡性が非常に劣っており、発泡することができなかった。
【0029】
表2において、イソシアネートインデックスが70未満の比較例1Bは、イソシアネートインデックスが低いことから、良好な発泡体が得られなかった。また、イソシアネートインデックスが90を超える比較例2Bは、硬さの値が高く、触感に劣っていることがわかる。それに対してイソシアネートインデックスが70〜90の実施例1B〜実施例3Bは、表面のべたつき感が無く、しかも硬さの値が比較例よりも低いことから触感に優れていることがわかる。
【0030】
このように、本発明の低反発性ポリウレタン発泡体は、撥水性に優れ、しかも触感が良好なものであり、枕やマットレス等の寝具に好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、触媒を含むポリウレタン原料から形成された低反発性ポリウレタン発泡体において、
前記ポリオール成分は、リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールを含み、
前記ポリイソシアネート成分はトルエンジイソシアネートからなり、
イソシアネートインデックスが70〜90であり、
反発弾性値が20%以下であることを特徴とする低反発性ポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記ポリオール成分100重量部中、前記リシノレイン酸とグリセリンのエステル縮合物またはオレイン酸及びリノール酸とグリセリンのエステル縮合物を含むポリオールの量が、10〜50重量部であることを特徴とする請求項1に記載の低反発性ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
接触角が85〜120度であることを特徴とする請求項1または2に記載の低反発性ポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2007−246779(P2007−246779A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73956(P2006−73956)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】