説明

低収縮型耐爆裂性水硬性硬化体

【課題】コンクリート成型物が火災時の高温で内部に急激に発生する水蒸気の体積膨張により爆裂することを防止し、流動性や圧縮強度の低下が小さく、かつ養生時の収縮を抑制する、低収縮型耐爆裂性水硬性硬化体を提供する。
【解決手段】上記の課題は、少なくともエチレン含有量が25〜70モル%であるエチレンービニルアルコール系共重合体を成分とし、断面が中空形状であり、中空率が0.1〜50%の範囲内にある繊維が含有されてなる低収縮型耐爆裂性水硬性硬化体を提供することにより解決される。
なかでも、前記の繊維が下記(1)〜(4)を満足している繊維であることが好ましい。
(1)繊維繊度が0.1〜100dtexであること、
(2)中空率が1〜45%であること、
(3)繊維長が1〜30mmであること、
(4)水硬性硬化体100容積%に対し、0.05〜5.0容積%含有されてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工時に高流動性を有し、かつ、火災時に耐爆裂性に優れるとともに、養生時のコンクリートの体積収縮が抑制された低収縮型の水硬性硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント、砂、砂利を主成分とする組成物に水を加えることにより硬化した水硬性硬化体、中でもコンクリートは、耐火性に優れた材料として知られており、近年、建物の超高層化に伴い、その高強度化が求められている。しかし、高強度コンクリートは通常のコンクリートに比べて組織が緻密になるように設計されているため、火災時にコンクリート内部に発生する水蒸気の膨張により表層部のコンクリートが剥落する「爆裂」と呼ばれる現象が起きることがある。そこで、このような高強度コンクリートについては、爆裂現象を抑制するために、コンクリート中にポリプロピレンやポリビニルアルコールなどの有機繊維を混入させることで、火災発生時のコンクリートが爆裂現象を起こす前に、水蒸気の逃げ道となる微細トンネルを形成させることで爆裂を制御する方法が検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、融点が160℃〜190℃であるエチレンービニルアルコール系共重合体を成分とする繊維を用いることにより、ベースコンクリートとの混和性に優れ、流動性にも優れ、かつ火災により熱せられた場合にも、混入されたエチレンービニルアルコール系共重合体繊維が溶融することで、内部に発生する水蒸気の抜け道となり、爆裂を抑制させることができるという報告がなされている(特許文献3)。
【0004】
また、高強度コンクリートは、水/セメント比が小さいため、セメントの水和反応にともなうコンクリートの自己収縮が大きく、そのためコンクリートに亀裂やひび割れが入ることが問題とされている。この課題を解決するために、膨張剤や収縮低減剤などを混入する方法を用いると、これらの添加剤を均一に分散させるためには混合時間を長くする必要があり、またコンクリートの強度が低下するので、水分を吸水させた開口空隙を有する多孔性の細骨材を用いることによって、コンクリートの水和反応を遅らせて、コンクリートの圧縮強度の低下が少なく、コンクリートの体積収縮を抑制できるという報告がされている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2620910号公報
【特許文献2】特開2000−143322号公報
【特許文献3】特許第4090762号公報
【特許文献4】特開2007−246293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1、2に開示されているように、ポリプロピレン繊維やポリビニルアルコール繊維を用いた場合であっても、爆裂防止効果は必ずしも十分であるとはいえず、上記特許文献2のような方法では、部材の厚さが薄い場合や鉄筋の被りが薄い場合には必ずしも有効ではなく、多量の繊維の添加が必要となっていた。また、特許文献1に記載のような高強度コンクリートでは、その組織が緻密であることから、繊維補強材を多く混入させる必要があり、そのため流動性が悪くなるという問題があった。そのため、この高強度コンクリートを用いて打設を行うと、流動性が悪いことから打設が困難になることや、圧縮強度が低下するといった問題もあった。
【0007】
上記の流動性の低下および圧縮強度の低下については、特許文献3に開示されている
エチレンービニルアルコール系共重合体を成分とする繊維(以下、EVA系繊維と略称する場合がある。)を含有させることにより改良されているが、本発明者等は、養生時にコンクリートの体積が収縮するという問題を有していることに気がついた。
【0008】
一方、特許文献4には、開口空隙を有する多孔性の細骨材を用いることによる低収縮型軽量コンクリートが開示されているが、該細骨材は耐爆裂性には効果がない。
【0009】
したがって、本発明の目的は、施工時に高流動性を有し、かつ、火災時のコンクリートの爆裂を抑制するとともに、さらに、養生時のコンクリートの体積収縮が抑制された、低収縮型の耐爆裂性水硬性硬化体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、少なくともエチレン含有量が25〜70モル%であるエチレンービニルアルコール系共重合体を成分とし、断面が中空形状であり、中空率が0.1〜50%の範囲内にある繊維(以下、EVA系中空繊維と略称することがある)が含有されてなる低収縮型耐爆裂性水硬性硬化体を得ることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
なかでも、上記中空繊維が、下記(1)〜(4)を満足していることが好ましい。
(1)繊維繊度が0.1〜100dtexであること、
(2)中空率が1〜45%であること、
(3)繊維長が1〜30mmであること、
(4)水硬性硬化体100容積%に対し、0.05〜5.0容積%含有されてなること。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、断面が中空形状であり、中空率が0.1〜50%の範囲内にあるEVA系中空繊維をコンクリート内に分散させることで、ポリプロピレン繊維やポリビニルアルコール繊維を配合した場合に比べて、繊維を配合することによるスランプ値(水硬性組成物の流動性を示す指標で、値が高いほど流動性が高い。)の低下が少なく、流動性が保持されているので、施工性に優れている。
【0013】
本発明によれば、断面が中空形状であり、中空率が0.1〜50%の範囲内にあるEVA系中空繊維をコンクリート内に分散させることで、後述の実施例および比較例により示されているように、耐火試験において、ポリプロピレン(中空)繊維、ポリビニルアルコール(非中空)繊維、EVA系非中空繊維、中空率が上記の範囲外のEVA系中空繊維に比べて、試験体の本体の爆裂後の残存率が高い結果が得られた。このことは、火災発生の初期の段階における水分の急激な体積膨張に対し、中空率が所定の範囲内にあるEVA系中空繊維の中空構造が水蒸気の逃げ道となることができ、また、その後の昇温過程において160℃以上に暴露された際、EVA系中空繊維が溶解することで空隙サイズが拡大し、コンクリート内に生じる膨張圧を更に緩和する空間を確保することができることに起因するものと考えられる。そのため、火災発生時の初期段階からその後の昇温時のすべての段階において爆裂抑制効果を発現することができると考えられる。
【0014】
さらに、本発明によれば、断面が中空形状であり、中空率が0.1〜50%の範囲内にあるEVA系中空繊維をコンクリート内に分散させることで、養生中における体積収縮量に変化がなく、コンクリートのひび割れの問題のない低収縮型の水硬性硬化体を得ることができる。これは、中空繊維の中空部に保持された水分により、水和反応がゆるやかになるため、自己収縮を抑制することが可能になるためであると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、中空率が0.1〜50%の範囲内にあるEVA系中空繊維を含有する低収縮型耐爆裂性水硬性硬化体である。本発明において、水硬性とは、セメントや石灰などが水との反応によって硬化する性質を意味しており、水硬性硬化体とは、水硬性を有する材料を主体とする組成物が硬化して形成された固形物または成形体をいう。耐爆裂性とは、前述のような爆裂現象を抑制する性質を意味しており、低収縮とは、JIS A11293−3に準じて、水硬性硬化体の体積収縮量を測定した値が100×10−6未満である場合、かかる水硬性硬化体を低収縮型の水硬性硬化体と称している。
【0016】
(水硬性組成物)
本発明において、水硬性硬化体を製造するための水硬性組成物は、セメントなどの結合剤、骨材、減水剤などからなる通常の成分に、所定の範囲内の中空率を有するEVA系中空繊維を加えて、これに水を配合することにより調整される。
【0017】
(結合剤)
本発明において用いられる結合剤としては、セッコウ、セッコウスラグ、マグネシア等が挙げられるが、なかでもセメントが好適に使用される。ポルトランドセメントがその代表的なものであるが、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント等を使用してもよく、これらを併用してもかまわない。
本発明において、水とセメントとの比率については、水の比率が高いと硬化体が応力を受けて破断した場合に、破断面で繊維が破断しているケースよりも繊維が抜けるケースが増える傾向にあるので、水/セメント(質量比)は0.5以下,特に0.45以下とするのが好ましい。
【0018】
(骨材)
本発明において、骨材として、下記に例示する細骨材、粗骨材、またはこれらの混合物を用いることができる。細骨材としてたとえば大きさ0.1〜0.5mm程度の、川、海、陸の各砂、破砂、シリカ、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ等が用いられ、粗骨材としては大きさ10〜40mm程度の破石などが使用できる。
結合剤に対する骨材の配合比率は、結合剤100質量部に対して、骨材100〜600質量部の範囲内で適宜選択される。
【0019】
(減水剤)
減水剤としては、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、アクリル酸とアリルエーテルとのコポリマー、α−オレフインとエチレン性不飽和ジカルボン酸とのコポリマー、その部分エステル化物、部分アミド化物、部分イミド化物などの水溶性塩等が例示され、現在市販されている代表的なものとして、BASFポゾリス社製のSP−8シリーズ、竹本油脂(株)社製のHP−11シリーズ、日本ゼオン(株)社製のワーク500、デンカグレース(株)社製の100PHX等が好適に使用されるが、これらに限定されるものではない。減水剤の配合量は、結合剤と骨材の合計量100質量部に対して、減水剤0.1〜4.0質量部の範囲内で適宜選択されるのが好ましい。
【0020】
(EVA系中空繊維)
本発明において水硬性組成物に加えられるEVA系中空繊維は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物を成分とする繊維であり、該共重合体に含有されるエチレンの量は25〜70モル%のものが用いられる。好ましくは30〜50モル%である。エチレンの含有量が25モル%よりも低い場合、得られたEVA系中空繊維は水に溶解しやすい性質を有するため、繊維間同士で膠着が発生し、水硬性組成物内において分散性の低下が起こりやすい。一方、エチレンの含有量が70モル%よりも高い場合は、融点が120℃以下の低融点の繊維が形成されるため、繊維が水硬性組成物中で硬化前の水和熱により溶融しやすくなりやすい。エチレン含有量を調整することにより、200℃以下の融点をもつEVA系中空繊維を製造することが可能である。
【0021】
本発明において用いられるEVA系中空繊維は、エチレンービニルアルコール系共重合体を溶融紡糸することにより製造することができる。紡糸時の温度や引取り速度、延伸温度、延伸倍率、熱処理温度等の諸条件は、目標とする繊度、中空率、収縮率等、その他原綿物性に応じて適宜選択設定することができる。たとえば、エチレンービニルアルコール系共重合体を押出機で溶融して、該溶融体を、中空断面形成用の口金を備え付けた紡糸パックを用いて、溶融紡糸装置で紡糸することにより製造することができる。その際の紡糸温度としては200〜300℃の範囲内の温度が採用される。紡糸後の工程については、紡糸捲取り後、必要に応じて延伸してもよく、目標とする繊度や強度、伸度特性等に応じて、延伸温度、延伸倍率、熱処理温度等の諸条件を適宜設定することが望ましい。
【0022】
本発明において、EVA系中空繊維の平均繊度は、0.1〜100dtexの範囲であることが好ましく、0.5〜80dtexであることがさらに好ましい。繊度が0.1dtex未満であると保水能力が低下するため、収縮抑制への効果が発現しにくくなり、100dtexを超えると加熱溶融後の空隙サイズが大きく成り過ぎるため加熱後の圧縮強度が低下する傾向にあり好ましくない。
【0023】
本発明において、EVA系中空繊維は、下記式(1)で示す中空率が0.1〜50%の範囲であることが必要であり、より好ましくは1〜45%であり、さらに好ましくは5〜40%である。中空率が0.1%未満であると、保水能力が低下するため、収縮抑制への効果が発現しにくくなり、また、火災発生初期の爆裂抑制効果が十分に発現しないという問題を生じる。一方、50%を超えるとコンクリート混練時に中空部が潰れやすくなり、閉塞してしまうものがでてくるため、本発明においては用いられない。
中空率(%)=<A/(A+B)>×100 (1)
ただし、A:中空部の断面積、B:非中空部の断面積
【0024】
本発明において、EVA系中空繊維の繊維長は、1〜30mmの範囲であることが好ましく、5〜25mmの範囲であることがより好ましい。繊維長が1mm未満の場合、繊維が溶解する前に発生する水蒸気が入り込むスペースが小さくなるため、火災初期段階における爆裂抑制効果が小さくなる傾向にあり好ましくない。また、繊維長が30mmを超えた場合、コンクリートへの混練時に繊維同士が絡まり合い、分散性が悪くなり、流動性が悪化しやすくなるため、好ましくない。
【0025】
EVA系中空繊維を水硬性組成物に添加して製造した水硬性硬化体において、EVA系中空繊維は、水硬性硬化体100容積%に対し、0.05〜5.0容積%含有されていることが好ましく、0.08〜3.0容積%含有されていることがさらに好ましい。含有率が0.05容積%未満の場合、爆裂抑制効果が少なくなり、逆に5.0容積%を超えると混練性が悪くなる傾向にある。
【0026】
(水硬性組成物に添加される添加剤)
本発明の水硬性硬化体は、上記の結合剤、骨材、減水剤、EVA系中空繊維のほかに、慣用の添加剤、たとえばAE剤、凝結・硬化調節剤、防錆剤、発泡剤・起泡剤、ポリマー混和剤や、天然または人工のシリカ質混合材、膨張材などのセメント混和材、または、EVA系中空繊維以外の合成繊維や鋼繊維などを含有していてもよく、これらの添加剤は単独、又は二種以上組み合わせて使用できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何等限定されるものではない。なお本発明における各繊維の物性および得られる水硬性硬化体の物性、耐爆裂性の評価は以下の方法により測定されたものを意味する。
【0028】
[繊維繊度 dtex]
JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法(8.5.1)」に準じて評価した。
【0029】
[繊維長 mm]
JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法(8.4.1)」に準じて評価した。
【0030】
[中空率%]
繊維の横断面写真から中空部の断面積(A)と、繊維外周内の断面積(A+B)を求め、上記の式(1)により算出した。
【0031】
[コンクリートのスランプ値 mm]
JIS A1101によるコンクリートのスランプ試験方法に準じて、コーン(上辺直径10cm、下辺直径20cm、高さ30cm)にフレッシュコンクリートを所定の手順で満たし、且つコーンを引き上げ、崩れたフレッシュコンクリートを上辺部の下がりを測定した。
【0032】
[体積収縮量]
JIS A11293−3「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法 第3部ダイヤルゲージ法」に準じて評価した。ただし、供試体の寸法は、直径20cm、高さ420cmの円柱供試体とし、温度20℃雰囲気下における材齢8日までの長さ変化の計測を行った。なお、体積収縮量は、例えば、長さ1mの水硬性硬化体が0.8mm収縮した場合、−800×10−6と表示する。体積収縮量が正(+)の値の時、コンクリートが膨張し、負の値の時、コンクリートが収縮したことを示す。
【0033】
[水硬性硬化体の圧縮強度 MPa]
直径10cm、高さ20cmの円柱体を成形して試料とし、毎秒0.25MPaの増加速度で荷重をかけてJIS A1108−1993試験方法に準じて測定した。
【0034】
[耐爆裂性の評価]
乾燥後の水硬性硬化体サンプル(直径10cm、高さ20cmの円柱体)を、横3m、高さ1m、奥行き50cmであり、一方の壁面にLPGバーナー火炎噴射口を上下に合計9個有する耐火煉瓦製加熱機にセットして加熱し、爆裂試験を実施した。耐火煉瓦製加熱機の加熱プログラムはISO834試験方法に準拠し実施し、加熱開始後15分で700℃に達し、加熱後30分で830℃に到達するようにした。そして加熱温度が830℃に到達した後ガス供給を遮断し、室温になるまで冷却した。その後さらに自然冷却を約4時間行った後、各円柱試験体の爆裂試験後の耐爆裂性を、爆裂前後の試験体の質量を測定し、下記式(2)により試験体の残存率を求め、爆裂防止性を評価した。
<耐火試験後の本体質量/耐火試験前の本体質量>×100 (2)
【0035】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
本発明に係るEVA系中空繊維を含有する水硬性硬化体(実施例1〜6)、比較のために、繊維を含まない水硬性硬化体(比較例1)、EVA系繊維(非中空)を含有する水硬性硬化体(比較例2)、ポリビニルアルコール(PVA)繊維(非中空)を含有する水硬性硬化体(比較例3)、ポリプロピレン(PP)繊維(中空)を含有する水硬性硬化体(比較例4)、EVA系中空繊維(中空率60%)を含有する水硬性硬化体(比較例5)を作製して、水硬性硬化体の性能を評価した。
表1に示す組成の水硬性組成物に、表2に示す仕様の繊維を添加し(比較例1においては繊維の添加なし)、下記のようにして水硬性硬化体を製造した。なお、実施例1〜6および比較例2および5のEVA系繊維を構成するエチレンービニルアルコール系共重合体のエチレン含量は、44モル%であり、融点は170℃である。なお、ポリビニルアルコールの融点は、228℃、ポリプロピレンの融点は、165℃である。
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、細骨材(川砂)、粗骨材(最大粒径20mm)および高性能AE減水剤(SP)(ポゾリスSP−8N)を表1に示す割合で、100リットル容量の2軸ミキサーを使用して次のようにして混合した。最初にセメントと砂を1分間混ぜ、次いで水を加えて2分間混練する。次いで繊維を表2に示す配合率(表1に示す水硬性組成物に対して1.0容積%)で加え1分間混練し、一度掻き落として再度1分間混練した。次いで排出し切り返しを行い、再度2分間混練し、調製した。
得られた水硬性組成物を、直径10cm、高さ20cmの円柱供試体用型枠にキャスティングし、各実施例および各比較例について4個作成した。そして作成した円柱供試体を20℃、65%RHの部屋で24時間気中養生し、直ちに脱型し、20℃の水中に入れ28日間水中養生した。その後、上記の4個のうち2個を水中より取り出し、5時間後に圧縮強度を測定した。また残りの2個については、105℃の熱風乾燥機内で7日間乾燥した後、爆裂試験を行った。
これとは別に、フレッシュコンクリートの流動性の度合いを示すスランプ値を測定した。また、表1配合の水硬性組成物に、実施例1〜6、比較例2〜5については、繊維を添加して組成物を調整し、直径20cm、高さ420cmの円柱供試体用型枠にキャスティングし、各実施例または比較例について3個作成した。供試体を計測台に静置し、供試体長手方向の長さ変化をダイヤルゲージで計測した。計測装置は温度20±2℃の試験室に静置し、材齢8日までの長さ変化の計測を行って、体積収縮量を求めた。
スランプ値、体積収縮量、圧縮強度および爆裂試験後(加熱後)の試験体の残存率の測定結果を表2に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
(スランプ値)
表2から明らかであるように、繊維を添加しない硬化体のスランプ値(比較例1)に対して、繊維を添加した硬化体(実施例1〜6)のスランプ値は同等または低下する傾向にあるが、EVA系繊維を添加した試験体(実施例1〜6)のスランプ値はポリプロピレン繊維を添加した試験体(比較例4)のスランプ値に比べて、低下の度合いが少なく、すなわちEVA系繊維を添加した試験体はポリプロピレン繊維を添加した試験体に比べて流動性がよく、施工性がよいことがわかる。
【0039】
また、PVA繊維が親水性に富んだ繊維であることから、PVA繊維を水硬性組成物に添加すると流動性を損なうのに対し(比較例3)、EVA系中空繊維はPVA繊維に比べて疎水性であるので、PVA繊維よりも流動性に優れるといった特長を有する(実施例1〜6)。
【0040】
(体積収縮量)
表2の結果から、本発明に係る実施例1〜4の試験体では、いずれも体積収縮を起こしていなく、また、本発明に係る実施例5の試験体では、EVA系中空繊維の中空率が5%と低い場合であり、実施例6の試験体では、EVA系中空繊維の配合率が0.1%と低い
場合であるが、その場合でも体積収縮量は小さい。これに対して、比較例の試験体は、いずれも100×10−6以上の大きな収縮を起こしている。本発明の試験体は、EVA系中空繊維内部に水分が保持されるため、水和反応の進行がゆるやかになり、自己収縮が抑制されるものと考えられる。とくに、比較例2のEVA系非中空繊維を配合した水硬性硬化体が収縮するのに対して、本発明に係るEVA系中空繊維(中空率0.1〜50%)を配合した水硬性硬化体が体積収縮量が少ないことは注目すべきことである。なお、中空率が60%のEVA系中空繊維を配合した場合(比較例5)には、体積収縮が大きくなっているが、これはEVA系中空繊維の中空率が高すぎて、水硬性組成物を調整する際に、中空繊維の中空部が押しつぶされるためと考えられる。
【0041】
(圧縮強度)
表2の結果から、本発明に係るEVA系中空繊維(中空率:0.1〜50%)を配合した水硬性硬化体(実施例1〜6)は、繊維を含まない場合(比較例1)、EVA系非中空繊維を配合した場合(比較例2)、ポリプロピレン繊維を配合した場合(比較例4)と比べて、圧縮強度の点でほぼ同レベルであり、EVA系中空繊維(中空率:60%)を配合した場合(比較例5)よりも圧縮強度が優れていることがわかる。
【0042】
(耐爆裂性)
表2の結果から、本発明に係るEVA系中空繊維を含有する水硬性硬化体(実施例1〜6)の耐爆裂性が優れていることが明らかである。とくに、比較例2のEVA系非中空繊維および比較例5の中空率60%のEVA系中空繊維を配合した水硬性硬化体よりも、実施例1〜6のEVA系中空繊維配合の水硬性硬化体の方が、耐爆裂性が優れていることは注目すべきことである。
【0043】
従来の、コンクリート、モルタルなどの水硬性組成物を調製する際に爆裂防止用として添加されるポリビニルアルコール繊維(以下、ビニロン繊維と略称することがある)が200℃以上の高温で溶融しながら分解が開始するのに対し、本発明において用いられるEVA系中空繊維は、上記したようにエチレン含有量の制御により200℃より低い融点を有する。したがってEVA系中空繊維が添加された水硬性硬化体が火災などによって加熱された場合、ビニロン繊維が添加された水硬性硬化体に比べてEVA系中空繊維が速やかに溶融・分解し、水蒸気の逃げ道となる微細トンネルをつくるので、EVA系中空繊維を添加した水硬性硬化体は、ビニロン繊維を添加した水硬性硬化体に比べて爆裂防止性に優れる結果を与えるものと考えられる。
【0044】
さらに本発明においては、繊維と水硬性硬化体との接着性も考慮すべき重要な因子である。水硬性硬化体が火災などの急激な温度上昇を伴って加熱されることにより、空隙に存在する水分が気化して蒸気圧が増すときに、周辺のマトリックスにはこれを破壊しようとする応力が負荷される。繊維が水硬性硬化体中に存在しないとマトリックスは容易に破壊され、爆裂に至る。繊維が存在すると、分断されようとするマトリックス中に繊維による架橋が形成され、マトリックスの破壊を防ごうとする。その後、さらなる温度上昇によって繊維が溶融・分解することにより水蒸気の逃げ道となる微細トンネルを形成し、爆裂防止が達成されると考えられる。
【0045】
従来から、ビニロン繊維は水硬性硬化体との接着性に優れていることが知られており、これに対してポリプロピレン繊維は水硬性硬化体との接着性が低いことが知られている。ビニロン繊維が添加された水硬性硬化体が火災などの急激な温度上昇を伴って加熱された場合、ビニロン繊維はマトリックスとの接着性が高いため、ビニロン繊維の存在により加熱時の水分の気化による蒸気圧の上昇に抗してマトリックスの破壊を防ごうとするが、さらなる温度および蒸気圧の上昇により繊維が溶融または分解する前に一旦マトリックスの破壊が生じると、繊維がマトリックスに固く固定されているために、かえって大きな爆裂に至る場合がある。一方、ポリプロピレン繊維はマトリックスとの接着性が低く、繊維が溶融する前に繊維により形成される架橋が弱いので、加熱時の水分の気化による蒸気圧の上昇に抗しきれず、容易に爆裂に至る場合がある。
【0046】
EVA系中空繊維はビニロン繊維よりも水酸基が少ないことから水硬性硬化体との接着性はビニロン繊維よりも低いが、一方ではポリプロピレン繊維に比べて接着性は高く、
すなわちマトリックスの破壊を防ぐための適度な接着性を有する。EVA系中空繊維を添加した水硬性硬化体は火災などの急激な温度上昇を伴った加熱時において、加熱時の水分の気化による蒸気圧の上昇により分断しようとするマトリックスをEVA系中空繊維が溶融する前に架橋を形成し、さらに加熱されることにより200℃以下の温度により速やかに溶融・分解し、水蒸気の逃げ道となる微細トンネルをつくる。したがって、EVA系中空繊維は、加熱による蒸気圧の上昇時に、繊維が溶融する前の爆裂を防ぐためのマトリックス中での架橋形成と、さらなる温度上昇により繊維が溶融・分解することによる微細トンネルの生成が、ビニロン繊維やポリプロピレン繊維に比べてスムーズに進行するので、ビニロン繊維やポリプロピレン繊維に比べて優れた耐爆裂防止性能を有すると考えられる。
【0047】
さらに、繊維とマトリックスとの接着性は、セメント量の多い(砂が少ない)マトリックス、例えば高強度コンクリートや高強度モルタル等では小さく、セメント量の少ない(砂が多い)マトリックス、例えば普通コンクリートや普通モルタル等では大きいと一般的にいわれている。したがって、セメントの多いマトリックスで適度な接着性を得ようとすれば、マトリックスとの接着性に優れたビニロン繊維が好適であり、一方セメント量の少ないマトリックスで適度な接着性を得ようとすれば、マトリックスとの接着性が低いポリプロピレン繊維が好適である。EVA系中空繊維は上記したように、マトリックスとの接着性がビニロン繊維よりも低いが、ポリプロピレン繊維よりも高く、しかも共重合体中のエチレン含有量を制御することによって接着性を調整できるので、普通コンクリートや普通モルタル等から高強度コンクリートや高強度モルタル等まで幅広い物性のコンクリートやモルタル等の使用に適している。なおここでいう、高強度コンクリート、高強度モルタルとは圧縮強度が60MPa以上のコンクリート、モルタルのことであり、普通コンクリート、普通モルタルとは20MPa以上60MPa未満のコンクリート、モルタルのことである。
【0048】
本発明に係るEVA系中空繊維を含有した水硬性硬化体は、従来のビニロン繊維やポリプロピレン繊維を含有した水硬性硬化体に比べ、普通コンクリート、普通モルタル等から高強度コンクリート、高強度モルタル等まで幅広い圧縮強度の水硬性硬化体において爆裂防止性能に優れているので、建造物の床、壁、柱、梁などを構成するコンクリート部材として使用することができる。また手摺などの薄肉部材は表面積が大きいことから急激に温度上昇して爆裂しやすいので、従来のビニロン繊維やポリプロピレン繊維を用いた場合においては、耐爆裂性を付与することは容易ではないが、本発明に係るEVA系中空繊維を用いれば、薄肉部材においても耐爆裂性を付与することが可能となる。
【0049】
さらに、ポリプロピレン繊維との比較において、ポリプロピレン繊維は比重が0.9であることから、水硬性組成物にポリプロピレン繊維を添加した場合に表面に繊維が浮いて、組成物中に繊維を均一に混合するのが難しいのに対し、EVA系中空繊維は比重が1.1〜1.2程度であることから、EVA系中空繊維が組成物中において均一な混合が容易であるという優位点を有する。繊維の組成物中への均一な混合は、優れた爆裂防止性能を得るためには重要な要素である。
【0050】
とくに、本発明に係る中空率が0.1〜50%の範囲内にあるEVA系中空繊維を含む水硬性硬化体は、前記のように、EVA系非中空繊維を含む水硬性硬化体に比して、EVA系中空繊維内部に水分が保持されることにより、水和反応の進行がゆるやかになり、自己収縮が抑制されるため、体積収縮量において格段に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るEVA系中空繊維を含有する水硬性硬化体は、従来のビニロン繊維やポリプロピレン繊維を含有した水硬性硬化体に比べ、普通コンクリート、普通モルタル等からなる高強度コンクリート、高強度モルタル等まで種々の圧縮強度を有する幅広い水硬性硬化体において爆裂防止性能に優れているので、建造物の床、壁、柱、梁などを構成するコンクリート部材として幅広く使用することができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施態様を例示的に説明したが、当業者であれば、特許請求の範囲に開示した本発明の範囲および精神から逸脱することなく多様な修正、付加および置換ができることが理解可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエチレン含有量が25〜70モル%であるエチレンービニルアルコール系共重合体を成分とし、断面が中空形状であり、中空率が0.1〜50%の範囲内にある繊維が含有されてなる低収縮型耐爆裂性水硬性硬化体。
【請求項2】
エチレン含有量が25〜70モル%であるエチレンービニルアルコール系共重合体を成分とする繊維が下記(1)〜(4)を満足してなる請求項1に記載の低収縮型耐爆裂性水硬性硬化体。
(1)繊維繊度が0.1〜100dtexであること、
(2)中空率が1〜45%であること、
(3)繊維長が1〜30mmであること、
(4)水硬性硬化体100容積%に対し、0.05〜5.0容積%含有されてなること。