説明

低吸着性シーラントフィルム並びにそれを用いた積層体及び包装袋

【課題】 本発明は、低吸着性に優れ、且つ、高いシール強度を示し、さらに、成膜が容易であるシーラントフィルム、並びにそれを用いた積層体及び包装袋を提供することを目的とする。
【解決手段】 第一のポリオレフィン系樹脂層と、該第一のポリオレフィン系樹脂層上に隣接して積層された環状ポリオレフィン系樹脂組成物層と、該環状ポリオレフィン系樹脂組成物層上に隣接して積層された第二のポリオレフィン系樹脂層とを有するシーラントフィルムであって、環状ポリオレフィン系樹脂組成物は、環状ポリオレフィン系樹脂とオレフィン系樹脂とを含み、該オレフィン系樹脂は、190℃でのメルトフローレートが5〜40g/10分であり、且つ、該樹脂組成物中に3〜50質量%の割合で存在することを特徴とする、シーラントフィルム、並びにそれを用いた積層体及び包装袋を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成品、医薬品、食品等の内容物に含有される有効成分の吸着量が低減された低吸着性のシーラントフィルム、並びにそれを用いた積層体及び包装袋に関し、より詳細には、内容物中の有効成分の含有量を高く維持することができ、且つ、高いシール強度を示し、さらに、成膜が容易であるシーラントフィルム、並びにそれを用いた積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、包装袋や蓋材等の包装材の最内層には、高いシール強度を示すポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、アイオノマー、EMMA等のコポリマー樹脂からなるシーラント層が設けられている。これらの樹脂は、ヒートシールにより高い密着強度を達成することができるが、種々の有機化合物を吸着し易いことが知られている。したがって、これらの樹脂からなるシーラント層を最内層、すなわち内容物と接する層として有する包装材は、有機化合物を有効成分として含む化成品、医薬品、食品等の包装には不適であり、あらかじめ内容物中に有効成分を多めに含ませる等の対策が必要である。
【0003】
そこで、良好なシール強度を有しながら、有効成分を吸着しにくいシーラント層の開発がなされている。代表的には、アクリロニトリル系樹脂からなる低吸着性シーラント層を最内層とする包装材が使用されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、アクリロニトリル系樹脂は、良好なシール強度が得られず、また高価であるため、より好ましい低吸着性シーラントの開発が求められている。
【0005】
これに対し、例えば特許文献2には、最内層が、アルミニウム箔または無機物の蒸着膜で形成される低吸着性包装材が開示されている。前記包装材は、前記アルミニウム箔や蒸着膜に部分的に接着性樹脂層を形成することで製袋して使用されている。接着性樹脂層としては、ウレタン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂等が開示されている。しかしながら、このような包装材は、その製造工程が複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−132946号公報
【特許文献2】特開平10−45176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決し、優れた低吸着性及びシール強度を示し、さらに、成膜が容易であるシーラントフィルム、並びにそれを用いた積層体及び包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々研究の結果、少なくとも、第一のポリオレフィン系樹脂層と、該第一のポリオレフィン系樹脂層上に隣接して積層された環状ポリオレフィン系樹脂組成物層と、該環状ポリオレフィン系樹脂組成物層上に隣接して積層された第二のポリオレフィン系樹脂層とを有するシーラントフィルムであって、環状ポリオレフィン系樹脂組成物は、環状ポリオレフィン系樹脂とオレフィン系樹脂とを含み、該オレフィン系樹脂は、190℃でのメルトフローレートが5〜40g/10分であり、且つ、該樹脂組成物中に3〜50
質量%の割合で存在することを特徴とするシーラントフィルム、並びにそれをシーラント層として有する積層体、及び該積層体からなる包装袋が、上述の目的を達成することを見出した。
【0009】
そして、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.少なくとも、第一のポリオレフィン系樹脂層と、該第一のポリオレフィン系樹脂層上に隣接して積層された環状ポリオレフィン系樹脂組成物層と、該環状ポリオレフィン系樹脂組成物層上に隣接して積層された第二のポリオレフィン系樹脂層とを有するシーラントフィルムであって、環状ポリオレフィン系樹脂組成物は、環状ポリオレフィン系樹脂とオレフィン系樹脂とを含み、該オレフィン系樹脂は、190℃でのメルトフローレートが5〜40g/10分であり、且つ、該樹脂組成物中に3〜50質量%の割合で存在することを特徴とするシーラントフィルム。
2.前記第一のポリオレフィン系樹脂層と、前記環状ポリオレフィン系樹脂組成物層と、前記第二のポリオレフィン系樹脂層との共押出により形成されてなることを特徴とする、上記1に記載のシーラントフィルム。
3.前記第一及び第二のポリオレフィン系樹脂層を構成するポリオレフィン系樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする、上記1または2に記載のシーラントフィルム。
4.前記第一のポリオレフィン系樹脂層の厚みが10〜100μmであり、前記環状ポリオレフィン系樹脂組成物層の厚みが2〜30μmであり、前記第二のポリオレフィン系樹脂層の厚みが10〜100μmであることを特徴とする、上記1〜3のいずれかに記載のシーラントフィルム。
5.上記1〜4のいずれかに記載のシーラントフィルムをシーラント層として有する積層体であって、該シーラントフィルムの第二のポリオレフィン系樹脂層が、積層体における最表層であることを特徴とする積層体。
6.上記5に記載の積層体からなる包装袋であって、該積層体を、前記第二のポリオレフィン系樹脂層が最内層となるように重ね合せ、製袋して得られることを特徴とする包装袋。
7.上記6に記載の包装袋に内容物を充填してなる包装体。
【発明の効果】
【0010】
一般によく知られるポリオレフィン系樹脂のみからなる単層シーラントフィルムは、その厚さと、有機化合物吸着量及びシール強度とが比例する。したがって、包装袋のシーラントフィルムを、内容物の吸着を防ぐために薄くすると、シール強度が低下し、袋の耐衝撃性が低下する。また、耐衝撃性を高めるために、シーラントフィルムを厚くすると、内容物の吸着量が増大する。
【0011】
これに対し、本発明のシーラントフィルムは、最内層となるポリオレフィン系樹脂層(すなわち、第二のポリオレフィン系樹脂層)が、環状ポリオレフィン系樹脂組成物層及び第一のポリオレフィン系樹脂層で裏打ちされることにより、吸着量が少なく、且つ、高いシール強度を示す。また、この傾向は、これら3層を共押出することにより、特にインフレーション法により共押出することにより、一層顕著になる。
【0012】
すなわち、本発明のシーラントフィルムは、種々の有機化合物、例えばl−メントールやサリチル酸メチル等の成分を吸着しにくい。また、自立性袋(スタンディングパウチ)等の最内層を形成するのに十分な高いシール強度を示す。さらに、環状ポリオレフィン系樹脂は、高い分子間力を発揮し、分子間の距離が近い密な表面構造を有するため、該樹脂を含む本発明のシーラントフィルムは、低分子量成分の溶出を抑制し、保香性に優れる。
【0013】
また、一般的に、環状ポリオレフィン系樹脂は、その溶融成膜時に、高い分子間力が働き、ポリマー間で凝集を引き起こすことが知られている。その結果、膜の至る所で樹脂が凝集して瘤状のゲル塊を形成し、均一な膜表面を得ることが難しい。そして、この傾向は、インフレーション法による成膜時には一層顕著になり、該法により得られる環状ポリオレフィン系樹脂膜は、その表面全体に無数のゲル塊が発生する。しかしながら、本発明に従って、環状ポリオレフィン系樹脂に流度の高いオレフィン系樹脂を混合することによって、環状ポリオレフィン系樹脂の分子同士の不均一な凝集が抑制される。したがって、本発明のシーラントフィルムを構成する環状ポリオレフィン系樹脂組成物は、成膜が容易であり、均質で、良好な透明性を有する美麗な膜を形成することができる。また、インフレーション法による高速成膜時にも同様の効果を得ることができる。
【0014】
さらに、本発明のシーラントフィルムをシーラント層として有する積層体は、種々の包装材として使用するのに適しており、特に、高い耐衝撃性が求められる詰め替え用スタンディングパウチや、低吸着性が求められる医薬品用包装袋を形成するために、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のシーラントフィルムの層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
【図2】本発明のシーラントフィルムを有する積層体の層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
【図3】本発明のシーラントフィルムを有する積層体の層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記の本発明について以下に更に詳しく説明する。
<1>本発明のシーラントフィルム及びそれを用いた積層体の層構成
図1〜3は、本発明のシーラントフィルム及びそれを有する積層体の層構成の一例を示す概略的断面図である。
【0017】
本発明のシーラントフィルムは、図1に示すように、第一のポリオレフィン系樹脂層1、環状ポリオレフィン系樹脂組成物層2、及び第二のポリオレフィン系樹脂層3、の3層を基本の構成とする。
【0018】
また、本発明のシーラントフィルムを有する積層体としては、図2に示すように、本発明のシーラントフィルムAと、基材層Bとを有する積層体を挙げることができる。この積層体において、第二のポリオレフィン系樹脂層3が最表層を形成する。シーラントフィルムAと基材層Bとは、接着剤層4を介してラミネートすることにより積層してよい。また、本発明のシーラントフィルムの各層を構成する樹脂及び樹脂組成物を、基材層B上に共押出コーティングすることにより、接着剤層を介さずに直接積層することもできる。基材層Bは、包装用途に応じて任意の構成を有してよい。
【0019】
基材層Bの具体的態様としては、図3に示すように、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム5、接着剤層6、アルミ箔7、接着剤層8、及びナイロンフィルム9からなる態様を一例として挙げることができる。
以下、本発明において使用される樹脂名は、業界において慣用されるものが用いられる。また、本発明において、密度はJIS K7112に準拠して測定した。
【0020】
<2>環状ポリオレフィン系樹脂組成物層
本発明のシーラントフィルムの環状ポリオレフィン系樹脂組成物層は、環状ポリオレフィン系樹脂とオレフィン系樹脂とを含む環状ポリオレフィン系樹脂組成物からなる。
環状ポリオレフィン系樹脂
本発明において、環状ポリオレフィン系樹脂は、環状オレフィンをメタセシス開環重合反応によって重合した開環メタセシス重合体(COP)、及び、環状オレフィンとα−オレフィン(鎖状オレフィン)との共重合体、すなわち環状オレフィンコポリマー(COC)を包含する。
【0021】
環状オレフィンとしては、エチレン系不飽和結合及びビシクロ環を有する任意の環状炭化水素を使用することができるが、特にビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(ノルボルネン)骨格を有するものが好ましい。
【0022】
具体的には、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン及びその誘導体、トリシクロ[4.3.0.12.5]−3−デセン及びその誘導体、トリシクロ[4.4.0.12.5 ]−3−ウンデセン及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12.5 .17.10]−3−ドデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13.6 .02.7 .09.13]−4−ペンタデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12.5 .19.12.08.13]−3−ペンタデセン及びその誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13.6 .02.7 .09.13]−4,10−ペンタデカジエン及びその誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.12.5 .19.12.08.13]−3−ヘキサデセン及びその誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。環状オレフィンは、置換基として、エステル基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基等の極性基を有していてもよい。
【0023】
環状オレフィンと共重合するα−オレフィンとしては、エチレン、炭素数3〜20のα−オレフィンを使用することができ、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられ、好ましくはエチレンである。
【0024】
本発明において、開環メタセシス重合体の製造は、公知の開環メタセシス重合反応であれば特に限定されず、上記の環状オレフィンを、重合触媒を用いて開環重合させることによって製造することができる。
【0025】
また、環状オレフィンコポリマーの製造は、25〜45モル%のα−オレフィンと、55〜75モル%の環状オレフィンとを、メタロセン触媒等のシングルサイト系触媒やマルチサイト系触媒を用いてランダム重合させることによりなされる。
【0026】
本発明において好適に使用される開環メタセシス重合体及び環状オレフィンコポリマーは、いくつか市販されており、例えば日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR(R)」やポリプラスチック株式会社製の「TOPAS(R)」等が挙げられる。
【0027】
オレフィン系樹脂
環状ポリオレフィン系樹脂に、高流度のオレフィン系樹脂を混合することにより、成膜時の環状ポリオレフィン系樹脂同士の凝集によるゲル塊の発生を防ぎ、均一な膜表面を得ることができる。
【0028】
このようなオレフィン系樹脂としては、190℃でのメルトフローレート(MFR)が5〜40g/10分、好ましくは10〜35g/10分、さらに好ましくは15〜30g/10分である任意のオレフィン系樹脂を使用することができる。
【0029】
メルトフローレートが5g/10分より小さいと、環状ポリオレフィン系樹脂に適切な流動性を与えることができず、ゲル塊の発生を防ぐことができない。
一方、メルトフローレートが40g/10分より大きいと、成膜適性が失われ、均一なフィルムを得ることが困難となる。
【0030】
なお、本発明において、メルトフローレートは、JIS−K−7210(190℃、荷重2.16kg)に準拠して測定する。
オレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
具体的には、日本ポリエチレン株式会社製の「ノバテック(R)」等が挙げられる。
【0031】
環状ポリオレフィン系樹脂組成物
環状ポリオレフィン系樹脂組成物において、オレフィン系樹脂は、該樹脂組成物中に3〜50質量%、好ましくは5〜10質量%の比率で配合される。
【0032】
また、さらに必要ならば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤(脂肪酸アミド等)、難燃化剤、無機ないし有機充填剤、架橋剤、染料、顔料等の着色剤、更には、改質用樹脂等の添加剤の1種ないし2種以上を含んでもよい。
【0033】
混合物全体に対して、オレフィン系樹脂の配合比率が3質量%未満であると、環状ポリオレフィン系樹脂に適切な流動性を与えることができず、ゲル塊の発生の原因となる。
【0034】
一方、配合比率が50質量%より多いと、製膜はより容易になるが、環状ポリオレフィンの有する非吸着性が損なわれ、また、透明性が低下する。
【0035】
<3>第一及び第二のポリオレフィン系樹脂層
上記の環状ポリオレフィン系樹脂組成物層の一方の面上に、第一のポリオレフィン系樹脂層を、そしてもう一方の面上に、第二のポリオレフィン系樹脂層を積層することにより、本発明のシーラントフィルムが得られる。
【0036】
第一及び第二のポリオレフィン系樹脂層を構成するオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン等が用いられる。
【0037】
環状ポリオレフィン系樹脂組成物層との接着性が高く、また該層と共押出した際に製膜安定性を一層高めるため、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることが特に好ましい。
【0038】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂層を形成する直鎖状低密度ポリエチレンは、メタロセン触媒等のシングルサイト系触媒やマルチサイト系触媒から得ることができる、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとのコポリマーである。ここで、炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、等が挙げられる。
【0039】
これらモノマーを、低圧法、スラリー法、溶液法、気相法等の重合方法を用いて重合する。通常は、短鎖分布として炭素1000個あたり、3〜25個の短鎖分岐を有するが、炭素数約20個を超えるような長鎖分岐は有しない。通常、直鎖状低密度ポリエチレンにおいて、エチレン由来の構造単位は約99.9〜90モル%であり、α−オレフィン由来の構造単位は約0.1〜10モル%である。本発明では、構造均一性に優れる点で、メタ
ロセン触媒で調製された直鎖状低密度ポリエチレンを好適に使用することができる。
【0040】
本発明において使用するのに好適な直鎖状低密度ポリエチレン樹脂としては、住友化学株式会社製の「スミカセン」等が挙げられる。
【0041】
さらに、本発明において、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、これに、必要ならば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤(脂肪酸アミド等)、難燃化剤、無機ないし有機充填剤、架橋剤、染料、顔料等の着色剤、更には、改質用樹脂等の添加剤の1種ないし2種以上を添加してもよい。
【0042】
<4>シーラントフィルムの製造
本発明のシーラントフィルムは、任意の方法により製造されるが、良好な成膜安定性、成膜容易性及び層間密着性を得て、シール強度及び低吸着性を一層高めるために、好ましくは、第一のポリオレフィン系樹脂と、環状ポリオレフィン系樹脂組成物と、第二のポリオレフィン系樹脂とを、共押出することにより製造する。
【0043】
共押出の方法としては、溶融共押出法(例えばTダイ法、インフレーション法)等の成膜法により、第一及び第二のポリオレフィン系樹脂と環状ポリオレフィン系樹脂組成物とを共押出して多層シーラントフィルムを製造することができる。または、これらの樹脂及び樹脂組成物を、任意の基材層上に共押出コーティングすることにより形成してもよい。
【0044】
特に、インフレーション法を用いて製膜することにより、3層間の密着性が高まり、一層高いシール強度及び低吸着性を示すシーラントフィルムを提供することができる。
【0045】
<5>層厚
本発明のシーラントフィルムは、任意の層厚を有するものであってよいが、安定した成膜化及び製品コストの観点から好適には、全体として20〜200μmの層厚を有する。ここで、各層の厚さは、シーラントフィルムを適用する包装材の用途、所望の非吸着性及びシール強度等に応じて適宜に設定することができるが、好適には、第一のポリオレフィン系樹脂層の層厚は、製品コストの観点から、10〜100μm、より好ましくは30〜80μmである。10μmより薄いと、高いシール強度が得られず、詰め替え用スタンディングパウチのような高い耐衝撃性が要求される包装用途に不適である。
【0046】
また、環状ポリオレフィン系樹脂組成物層の層厚は、2〜30μm、より好ましくは5〜15μmである。これより薄いと均一な環状ポリオレフィンの層を形成させることが困難となり、厚いとフィルムの硬さが増すため製膜性および加工性が悪くなるため好ましくない。
【0047】
さらに、第二のポリオレフィン系樹脂層の層厚は、10〜100μm、より好ましくは30〜80μmである。10μmより薄いと、高いシール強度が得られず、詰め替え用スタンディングパウチのような高い耐衝撃性が要求される包装用途に不適である。また、100μmより厚いと、内容物成分の吸着量が多くなるため好ましくない。
【0048】
<6>積層体
本発明のシーラントフィルムを、第二のポリオレフィン系樹脂層が積層体における最表層となるように、第一のポリオレフィン系樹脂層側の表面を任意の基材層と対向させて積層し、積層体を得ることができる。
【0049】
ここで用いる基材層としては、プラスチックフィルム等の単層フィルム、または多層積層フィルムが用いられるが、特に限定されず、各種包装袋及び包装容器に用いられる任意のフィルムを使用することができる。これらの中から、包装する内容物の種類や充填後の加熱処理の有無等の使用条件に応じて、適するものを自由に選択して使用する。好ましく使用される積層体の具体例として、以下のようなものが挙げられるが、これらに限定されない。
(1) ONフィルム/接着剤層/シーラントフィルム;
(2) ONフィルム/接着剤層/一軸延伸または二軸延伸HDPEフィルム/接着剤層/シーラントフィルム ;
(3) ONフィルム/接着剤層/一軸延伸または二軸延伸PPフィルム/接着剤層/シーラントフィルム;
(4) ONフィルム/接着剤層/一軸延伸または二軸延伸PPフィルム/接着剤層/アルミニウム箔/接着剤層/シーラントフィルム ;
(5) ONフィルム/シリカまたはアルミナまたはアルミニウム蒸着層/接着剤層/一軸延伸または二軸延伸HDPEフィルム/接着剤層/シーラントフィルム;
(6) ONフィルム/アンカーコート剤層/HDPE層/シーラント層[ここで、HDPE層及びシーラント層は、共押出コーティング法によりアンカーコート剤層上に積層される];
(7) ONフィルム/アンカーコート剤層/HDPE層/低密度ポリエチレン(LDPE)層/接着剤層/シーラントフィルム[ここで、HDPE層及びLDPE層は、共押出コーティング法によりアンカーコート剤層上に積層される];
(8) PETフィルム/接着剤層/アルミニウム箔/接着剤層/ONフィルム/接着剤層/シーラントフィルム ;
(9) PETフィルム/接着剤層/シリカまたはアルミナまたはアルミニウム蒸着層/ONフィルム/接着剤層/シーラントフィルム;
(10)PETフィルム/接着剤層/ONフィルム/接着剤層/アルミニウム箔/接着剤層/シーラントフィルム ;
(11)PETフィルム/接着剤層/EVOHフィルム/接着剤層/ONフィルム/接着剤層/シーラントフィルム。
【0050】
上記において、ONフィルムは2軸延伸ナイロンフィルム、HDPEは高密度ポリエチレン、LDPEは低密度ポリエチレン、PPフィルムはポリプロピレンフィルム、PETフィルムは2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、EVOHフィルムはエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルムを指すものである。また、アンカーコートは、押し出しコーティングで樹脂を積層する際、接着性を向上させるために基材フィルム側に予めコーティングするものでプライマーコートの一種である。また、シーラントフィルム及びシーラント層は、第一のポリオレフィン系樹脂層/環状ポリエチレン樹脂組成物層/第二のポリオレフィン系樹脂層からなる本発明のシーラントフィルムまたはシーラント層を指す。
【0051】
これらの構成において、ONフィルム、PETフィルムは、基材フィルムとして積層体に機械的強度や印刷適性を付与し、一軸延伸HDPEフィルム、一軸延伸PPフィルムは、その延伸方向を袋の引き裂き方向と一致するように用いることにより、引き裂きの方向性を安定化させることができる。そして、アルミニウム箔、シリカ蒸着層、EVOHフィルム等は、ガスバリア性を付与するために積層するものである。基材フィルムの表面には、必要に応じて印刷層や種々の包装資材をさらに積層してもよい。
【0052】
<7>包装袋
上記の本発明の積層体を使用し、第二のポリオレフィン系樹脂層が最内層となるように製袋して、包装袋とすることができる。また、本発明の積層体を、第二のポリオレフィン系樹脂層を最内層とする蓋材として使用し、包装容器を製造することができる。
【0053】
包装袋を製造するには、本発明の積層体を二つ折にするか、または積層体2枚を用意し、その第二のポリオレフィン系樹脂層の面を対向させて重ね合わせ、その周辺端部を、例えば、スタンディングパウチ型、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、ガゼット型等のヒートシール形態によりヒートシールして、種々の形態の包装袋とする。
【0054】
上記において、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【0055】
本発明の積層体を蓋材として使用する包装容器を製造するには、樹脂製容器の開口部に、第二のポリオレフィン系樹脂層の面が接するように積層体を重ね合せ、袋と同様にヒートシールすることによって行うことができる。
【0056】
本発明の積層体よりなる包装袋や包装容器は、特に、有機化合物を有効成分として含む化成品、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等の包装のために、例えば、貼付剤の外袋として、または液体洗剤、液体柔軟剤、液体石鹸等の詰め替え用内容物に使用されるスタンディングパウチとして、好適に使用することができる。特に、本発明の積層体は、低吸着性だけでなく、優れたシール強度を示すため、大容量の液体を充填する必要があるスタンディングパウチのように、高い耐衝撃性が求められる包装袋の製造に適している。
【0057】
スタンディングパウチの製造方法としては、袋の胴部、すなわち側面を形成する胴材用積層体、及び底部を形成する底材用積層体として本発明の積層体を使用し、これらのシーラント面同士を対向させて配置し、スタンディングパウチ型にヒートシールすることによって得られる。
【0058】
また、胴材用積層体として本発明の積層体を使用し、底材用積層体としては、本発明より高いシール強度を示す別の積層体を用いることにより、良好な低吸着性を維持しながら、袋の耐衝撃性を一層高めることもできる。例えば、底材用積層体として、ポリオレフィン系樹脂からなる、厚さ50μm以上、好適には50〜200μmのシーラント層を有する積層体を用いることにより、極めて高い耐衝撃性を示すスタンディングパウチを製造することができる。
【0059】
スタンディングパウチのより具体的な製造方法としては、例えば、胴材用積層体2枚を用意し、そのシーラント面同士を対向させて配置する。次いで、これらの下端部に、シーラント面を外側に向けて中央で山折りにした底材用積層体を挿入し、ガゼット部を設けて周縁部をヒートシールする。ガゼット部を舟底シール型にヒートシールすることにより、自立性の底部を形成することができる。また、注出口部を形成するヒートシール部、及びその両側を切り欠くための打ち抜き部を備えた製袋機を使用して、パウチ上部のコーナー部分に注出口部を設けてもよい。
【0060】
内容物を充填して包装体を製造するには、シールせずに残しておいた充填口から内容物を充填した後、充填口を、例えば脱気シール等によりヒートシールして密封する。
次に本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
(1)環状オレフィンコポリマー(ポリプラスチックス(株)製TOPAS(R)8007−F04;メルトフローレート1.9g/10分(190℃);密度1.02g/cm3)90質量%、及び、低密度ポリエチレン(旭化成ケミカルズ(株)製サンテックM6525;メルトフローレート28.0g/10分(190℃);密度0.916g/cm3)10質量%を含む混合物を十分に混練して、環状ポリオレフィン系樹脂組成物を調製した。(2)得られた環状ポリオレフィン系樹脂組成物と、直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製 エボリュー SP2020;メルトフローレート2.3g/10分(190℃);密度0.916g/cm3)とを、多層インフレーション製膜により共押出し、第一の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層(厚さ60μm)/環状ポリオレフィン系樹脂組成物層(厚さ10μm)/第二の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層(厚さ60μm)の構成を有する本発明のシーラントフィルムを製造した。
(3)一方、基材フィルムとして、2軸延伸ポリエステルフィルム(PET;東洋紡績(株)製 エステル(R)E5100;厚さ12μm)を用い、その一方の面上に接着剤(DIC(株)製ディックドライ CX703/KR90;配合比15/1)を、版深110μmのピラミッド版を用いて塗工量3.0g/m2で塗布し、厚さ7μmのアルミ箔(日本製箔(株)製 A1N30H−O)と貼り合せた。このアルミ箔上に接着剤を同様に塗布し、ナイロンフィルム(ユニチカ(株)製 エンブレムONBC、厚さ15μm)を貼り合せ、基材層を製造した。
(4)基材層のナイロンフィルムを設けた面に接着剤を同様に塗布し、上記(2)で製造した本発明のシーラントフィルムを貼り合せた後、40℃の恒温槽に48時間保管し、接着剤を硬化させて、本発明の積層体を製造した。得られた積層体の層構成は以下のとおりであった:
PETフィルム/接着剤層/アルミ箔/接着剤層/ナイロンフィルム/接着剤層/第一の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層/環状ポリオレフィン系樹脂組成物層/第二の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層
【0062】
[比較例1]
シーラントフィルムの層構成が、第一の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層(厚さ120μm)/環状ポリオレフィン系樹脂組成物層(厚さ10μm)の2層構成であること以外は実施例1と同様にして、積層体を製造した。
【0063】
[比較例2]
シーラントフィルムの層構成が、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層(厚さ130μm)のみの単層構成であること以外は実施例1と同様にして、積層体を製造した。
【0064】
[比較例3]
シーラントフィルムの層構成が、環状ポリオレフィン系樹脂組成物層(厚さ130μm)のみの単層構成であること以外は実施例1と同様にして、積層体を製造した。
【0065】
[比較例4]
シーラントフィルムの層構成が、環状ポリオレフィン系樹脂組成物層(厚さ10μm)/第二の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層(130μm)の2層構成であること以外は実施例1と同様にして、積層体を製造した。
【0066】
[評価方法・結果]
(1)吸着性試験
実施例1及び比較例1〜4の積層体を胴材及び底材として用いて、外形寸法:高さ237mm×幅130mm、底部の折り込み部の高さ35mm、シール幅5mmのスタンディングパウチを製造した。また、底部は舟底型のシールパターンでヒートシールした。
【0067】
上部開口部から、メントール濃度が5μg/mlとなるように調製したメントール-エタノール溶液100mlを充填した後、開口部を脱気シールにより密封した。
【0068】
50℃の雰囲気下で2週間保存した後、溶液中のメントール含有量をGC/MS法により測定し、吸着量を求めた。
【0069】
(2)シール強度試験
実施例1及び比較例1〜4の積層体を、シーラント面を対向させて重ね合せ、ヒートシーラー(テスター産業(株)製TP-701S HEAT SEAL TESTER)で、170℃で1秒間、圧力1kgf/cm2でヒートシールした。
【0070】
次いで、これを幅15mmの短冊状に切り出し、テンシロン引張試験機((株)オリエンテック製 RTC-1310A)を用いて圧着されたシール部を引き剥がし、シール強度を測定した。このときの引張速度は300mm/分とした。
【0071】
(3)落下衝撃試験
上記吸着性試験と同様にスタンディングパウチを製造し、上部開口部から水450mlを充填した後、開口部を密封した。これを120cmの高さから5回落下させ、破袋しなければ○とし、破袋すれば×とした。
以下の表に結果を示す。
【表1】

【0072】
実施例1の積層体は、良好な低吸着性と高いシール強度とを兼ね備えており、これからなるスタンディングパウチは、高い耐衝撃性を示した。これに対し、比較例1及び3の積層体は、良好な低吸着性を示すものの、シール強度は低く、これからなるスタンディングパウチは、落下の衝撃に耐えることができなかった。また、比較例2の積層体は、多量のメントールを吸着した。さらに、第一のポリオレフィン系樹脂層を有しない比較例4の積層体は、最内層に同じ厚さの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層を有する比較例2の積層体よりも低いシール強度を示した。
【符号の説明】
【0073】
1.第一のポリオレフィン系樹脂層
2.環状ポリオレフィン系樹脂組成物層
3.第二のポリオレフィン系樹脂層
4.接着剤層
5.PETフィルム
6.接着剤層
7.アルミ箔
8.接着剤層
9.ナイロンフィルム
A.シーラントフィルム
B.基材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第一のポリオレフィン系樹脂層と、該第一のポリオレフィン系樹脂層上に隣接して積層された環状ポリオレフィン系樹脂組成物層と、該環状ポリオレフィン系樹脂組成物層上に隣接して積層された第二のポリオレフィン系樹脂層とを有するシーラントフィルムであって、
環状ポリオレフィン系樹脂組成物は、環状ポリオレフィン系樹脂とオレフィン系樹脂とを含み、該オレフィン系樹脂は、190℃でのメルトフローレートが5〜40g/10分であり、且つ、該樹脂組成物中に3〜50質量%の割合で存在することを特徴とする、シーラントフィルム。
【請求項2】
前記第一のポリオレフィン系樹脂層と、前記環状ポリオレフィン系樹脂組成物層と、前記第二のポリオレフィン系樹脂層との共押出により形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載のシーラントフィルム。
【請求項3】
前記第一及び第二のポリオレフィン系樹脂層を構成するポリオレフィン系樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシーラントフィルム。
【請求項4】
前記第一のポリオレフィン系樹脂層の厚みが10〜100μmであり、前記環状ポリオレフィン系樹脂組成物層の厚みが2〜30μmであり、前記第二のポリオレフィン系樹脂層の厚みが10〜100μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシーラントフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシーラントフィルムをシーラント層として有する積層体であって、該シーラントフィルムの第二のポリオレフィン系樹脂層が、積層体における最表層であることを特徴とする積層体。
【請求項6】
請求項5に記載の積層体からなる包装袋であって、該積層体を、前記第二のポリオレフィン系樹脂層が最内層となるように重ね合せ、製袋して得られることを特徴とする、上記包装袋。
【請求項7】
請求項6に記載の包装袋に内容物を充填してなる包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−111182(P2012−111182A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263661(P2010−263661)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】