説明

低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法

【課題】 安価な材料を用いて、プロピレン系共重合体粉末の固着性を改良し、触媒、重合方法を問わず適用可能であり、製品性能に影響を与えない、低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ステアリン酸カルシウムをプロピレン系共重合体粉末に対して、ステアリン酸カルシウム含量が100〜500質量ppmになるように添加することを特徴とする低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低固着性ポリプロピレン系共重合体粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用プラスチックスの中で最も低比重のポリプロピレンは、融点が160〜170℃と高く、高温使用に適するが、ガラス転移温度が常温付近にあるため、低温で脆くなる欠点がある。この欠点を解消するために数多くのプロピレン系共重合体が開発されている。
中でも、プロピレン−エチレンブロック共重合体はポリプロピレンの高温特性を活かしつつ、ポリエチレンとほとんど同等の低温領域まで使用可能である。
【0003】
この、プロピレン−エチレンブロック共重合体は、プロピレンのみの重合体のホモポリマーセグメントとエチレンとプロピレンの共重合体のエラストマーセグメントからなる。このようなプロピレン−エチレンブロック共重合体を粉末のまま(重合工程で得られた粉末で造粒工程でペレットに加工する前のまま)用いる場合は、製品として製袋された後に、上記エラストマーセグメントの影響で、それ自体の自重や外気温の影響によって粉末が固着し、袋から出しにくくなったり、また投入作業が困難になったり、さらには投入後の充填サイロ中で固着し排出しずらくなる等の問題があった。
【0004】
このようなエラストマーセグメントを含む粉末の固着を防止する方法としては、特定の重合触媒と重合添加剤とを組合わせる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この方法によるとペレットの固着性は改善されるものの、特定の重合触媒と重合添加剤が必要であり汎用性に乏しいと言う問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するために、重合触媒の種類を問わず、また液相重合や、気相重合といった重合方法も問わず、経済的で、安価な材料を活用した固着防止方法の開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開平8−259647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下でなされたもので、安価な材料を用いて、共重合体粉末の固着性を改良し、液相重合法及び気相重合法を問わず適用可能であり、粉末製品として製品性能に影響を与えない、低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、プロピレン系共重合体の製品に中和剤として既に広く使用されている、ステアリン酸カルシウム微粉末を、プロピレン共重合体粉末に対して所定の割合で添加し、固着防止処理することで固着性が改善され上記目的を達成しうることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ステアリン酸カルシウム微粉末をプロピレン系共重合体粉末に対して、ステアリン酸カルシウム含量が100〜500質量ppmになるように添加することを特徴とする低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法、
(2)添加するステアリン酸カルシウムの量が、プロピレン系共重合体粉末に対して200〜400質量ppmである上記(1)記載の低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法、及び
(3)プロピレン系共重合体が、エチレン単位含有量4〜20質量%のプロピレン−エチレンブロック共重合体、エチレン単位含有量2〜7質量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体、エチレン単位含有量1〜5質量%、ブテン−1単位含有量4〜20質量%のプロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体及びブテン−1単位含有量10〜30質量%のプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体のいずれかである上記(1)又は(2)記載の低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プロピレン系共重合体に中和剤として使用されるステリン酸カルシウム微粉末を、プロピレン系共重合体粉末にステリン酸カルシウムとして、100〜500質量ppmの割合で添加することによって粉末の固着性を改善し、製品性能に優れ、液相重合法、気相重合法に対応可能な低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の低固着性プロピレン系共重合体粉末(以下、共重合体粉末ということがある)の製造方法においては、液相重合法又は気相重合法によって得られたプロピレン系共重合体粉末に対して、ステアリン酸カルシウム微粉末をステアリン酸カルシウム含量が100〜500質量ppmとなるように添加することで該プロピレン系共重合体粉末間の固着防止処理が施される。
【0012】
本発明において前記重合体粉末を構成する成分としては、プロピレン系共重合体であれば特に制限はないが、プロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。炭素数2〜8のα−オレフィンとしては、たとえば、エチレン,1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−へプテン、1−オクテンが挙げられ、好ましくはエチレン、1−ブテン、1−へキセンである。
共重合体としては、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体及びプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体から選ばれるプロピレン系共重合体が挙げられる。
前記プロピレン−エチレンブロック共重合体に含まれるエチレン単位含有量に特に制限はないが4〜20質量%が好ましく、さらに好ましくは、5〜18質量%である。
また、前期プロピレン−エチレンランダム共重合体に含まれるエチレン単位含量に特に制限はないが、エチレン単位含有量は2〜7質量%が好ましく、さらに好ましくは2〜6質量%である。
また、前記プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体に含まれるエチレン単位含有量及びブテン−1単位含有量に特に制限はないが、エチレン単位含有量は1〜5質量%が好ましく、さらに好ましくは、1〜4質量%であり、ブテン−1単位含有量は4〜20質量%が好ましく、さらに好ましく5〜18質量%である。
さらに、前記プロピレン−ブテン−1共重合体に含まれるブテン−1単位含有量に特に制限はないが、5〜30質量%が好ましく、さらに好ましくは8〜28質量%である。
エチレン単位含有量、エチレン単位とブテン−1単位の含有量、あるいはブテン−1単位含有量を上記範囲内にすることで、ポリプロピレンの高温特性を活かし、ポリエチレンとほとんど同等の低温領域まで使用可能であるポリプロピレン系共重合体粉末を得ることができる。該共重合体粉末の粘着性は、共重合体成分のエチレン単位、ブテン−1単位の含有量によって異なり、エチレン単位、ブテン−1単位含有量の増加に伴って粘着性は増す。
また、共重合体粉末の平均径は通常200〜1500μmであり、好ましくは500〜1000μmである。
【0013】
本発明で用いられるプロピレン系共重合体粉末の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いる公知の重合方法が用いられる。オレフィン重合用触媒としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒系が挙げられる。重合方法としては、例えば、液相重合法、気相重合法等が挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法においては、共重合粉末の固着防止のためにステアリン酸カルシウム微粉末が用いられる。ステアリン酸カルシウム微粉末はプロピレン系共重合体粉末に対して、ステアリン酸カルシウムの含有量が100〜500質量ppmに、さらに好ましくは、200〜400質量ppmになるように添加することで、固着防止処理のなされた低固着性の共重合体粉末を得ることができる。
本発明の製造方法においては、液相重合、気相重合で得られた共重合体粉末に対して適用することができる。
ステアリン酸カルシウム微粉末を共重合体粉末に添加することにより、共重合体粉末の表面には、ステアリン酸カルシウム微粉末が万遍なく付着し、少量のステアリン酸カルシウムの添加で固着性の改善された、共重合体粉末得ることができる。
【0015】
ステアリン酸カルシウム微粉末によって固着防止された共重合体粉末は、フレキシブルコンテナや紙袋、ポリ袋等に製袋され、製品として出荷される。このフレキシブルコンテナや紙袋等に製袋された該共重合体粉末は、固着しない状態で長期間保存することができる。
本発明において、固着防止剤として用いているステアリン酸カルシウムは中和剤として慣用されているものであり、製品性能に対する影響は非常に少ない。
【0016】
以下に、本発明について図面を例示しながら詳細に説明する。尚、この図1及び詳細説明は本発明の一実施態様を例示するものであって、本発明の内容がこれに限定されるものではない。
図1は、本発明の低固着性プロピレン系共重合体粉末の溶媒重合法による製造工程の一例を示す概略図である。
1は重合槽、2は洗浄槽、3は溶媒分離機、4はステアリン酸カルシウムタンク、5はテーブルフィーダー、6はパウダー乾燥機、7はパウダーサイロ、8は充填(袋詰め)用サイロである。
【0017】
低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造
一例としてプロピレン−エチレンブロック共重合体について説明する。
重合槽1では、触媒、モノマーとしてプロピレン及びエチレン及び分子量調整剤、有機溶媒を用いてプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造がおこなわれる。ブロック共重合体は、先ずプロピレンホモポリマーを重合した後、その存在下でエチレンとプロピレンを共重合することにより得られる。製造されたプロピレン−エチレンブロック共重合体は有機溶媒中に粉末状で存在する。
次に洗浄槽2に搬送して、失活剤を加えることで触媒を失活させ、その後溶媒分離機3で粉末状のプロピレン−エチレンブロック共重合体(以下粉末状ポリマーということがある)と溶媒を分離させる。分離した粉末状ポリマーをパウダー乾燥機6に搬送するが、その際、ステアリン酸カルシウムタンク中のステアリン酸カルシウム微粉末をテーブルフィーダー5によりステアリン酸カルシウムの量が粉末状ポリマーに対して、所定の割合になるように添加する。
粉末状ポリマーとステアリン酸カルシウム微粉末は、パウダー乾燥機6の中で乾燥されながら混合される。
ステアリン酸カルシウム微粉末で固着防止処理をされた粉末状ポリマーは、パウダーサイロ7に空送され、次に充填用サイロ8に送られ、フレキシブルコンテナや紙袋、ポリ袋等に充填される。
気相重合法によって得られる粉末状のプロピレン−エチレンブロック共重合体の固着防止処理についても、前記溶媒重合の工程と同じように行うことができる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例により、更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
エチレン単位含有量7−8質量%のプロピレン−エチレンブロック共重合体粉末を溶媒重合法により溶媒にヘプタンを用いて重合した。ステアリン酸カルシウム微粉末を、プロピレン−エチレンブロック共重合体粉末に対して、ステアリン酸カルシウムが300質量ppmになるように添加し、既に詳述した工程で固着防止処理を行なったプロピレン−エチレンブロック共重合体粉末を得た。粉末の平均粒径は450μmであった。
この固着防止処理をしたプロピレン−エチレンブロック共重合体粉末を25Kg紙袋に充填し、4段段積みし温度を25〜30℃にコントロールした場所に保管した。
一番下に積まれた袋のプロピレン−エチレンブロック共重合体粉末の固着状態を観察したところ、12ヶ月後に固着状態が確認された。
【0019】
比較例1
ステアリン酸カルシウムによる固着防止処理を行なわなかった以外は実施例1と同様におこなった。
一番下に積まれた袋のプロピレン−エチレンブロック共重合体粉末の固着状態を観察したところ1ヶ月後に固着状態が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の低固着性プロピレン系共重合体粉末の溶媒重合法による製造工程の概略図である。
【符号の説明】
【0021】
1 重合槽
2 洗浄槽
3 溶媒分離機
4 ステアリン酸カルシウムタンク
5 テーブルフィーダー
6 パウダー乾燥機
7 パウダーサイロ
8 充填用サイロ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリン酸カルシウム微粉末をプロピレン系共重合体粉末に対して、ステアリン酸カルシウム含量が100〜500質量ppmになるように添加することを特徴とする低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法。
【請求項2】
添加するステアリン酸カルシウムの量が、プロピレン系共重合体粉末に対して200〜400質量ppmである請求項1記載の低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法。
【請求項3】
プロピレン系共重合体が、エチレン単位含有量4〜20質量%のプロピレン−エチレンブロック共重合体、エチレン単位含有量2〜7質量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体、エチレン単位含有量1〜5質量%、ブテン−1単位含有量4〜20質量%のプロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体及びブテン−1単位含有量5〜30質量%のプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体のいずれかである請求項1又は2記載の低固着性プロピレン系共重合体粉末の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−45378(P2006−45378A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229325(P2004−229325)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】