説明

低揮発性二酸化炭素吸収液およびガス分離方法

【課題】天然ガスやIGCCなどの高圧条件の混合ガスから二酸化炭素などの酸性ガスを選択的に分離回収する物理吸収プロセスにおいて、酸性ガス成分の吸収量が大きく、かつ、揮発性が低い、新規低揮発性の吸収液、およびガス分離方法を提供する。
【解決手段】安価なグライム類の溶剤に、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドなどの塩類を添加した吸収液を用いることで、二酸化炭素などの酸性ガスの吸収量を減少させることなく、吸収液の揮発性を効果的に低減させ、それにより、二酸化炭素などの酸性ガスの分離回収に必要とされていた消費エネルギーを大幅に削減し、プロセス全般に渡り高効率化を達成可能とする。
【効果】酸性ガスを高効率で分離回収し、当該分離回収プロセスの消費エネルギーの低減化を可能とする新規吸収液を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス成分の分離回収、特に、高圧条件の混合ガスから二酸化炭素などの酸性ガスを物理吸収法により効率的に分離回収するための吸収液に関するものであり、さらに詳しくは、グライム類の溶剤に、塩類を添加した酸性ガス吸収液であって、当該吸収液の揮発性を低減させ、かつ、酸性ガスの吸収量を向上させることを可能とした新規吸収液、および当該吸収液を用いた物理吸収法によるガス分離方法に関するものである。本発明は、分子性の吸収液に、塩類を添加することで、当該吸収液の揮発性を低下し、かつ、溶解度を増加、あるいは、保持することで、ガス分離回収効率を向上させることを可能とする酸性ガス吸収技術に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスの主要な成分である二酸化炭素を分離・回収し、貯蔵する(CCS)技術は、京都議定書の発効に見られるように、産業界のみならず社会的にも重要視されており、その研究開発は、国際的な課題となっている。上記CCSのプロセスでは、二酸化炭素の分離・回収に要するエネルギーが特に大きく、全体の70%近くにのぼると予想され、実用化のためには、一層の低エネルギー化、低コスト化が望まれている。
【0003】
そのような背景から、各種混合ガス中から二酸化炭素を分離する技術について、これまで、様々な提案がなされている。それらの分離技術は、化学吸収法と物理吸収法とに大別される。化学吸収法は、二酸化炭素を選択的に溶解できるアルカリ性溶液を吸収液として利用し、二酸化炭素を化学反応によって吸収させ、その吸収液を加熱することにより、二酸化炭素を放出させて回収するものである。
【0004】
この化学吸収法は、混合ガス中の二酸化炭素の分離方法として、比較的低濃度の二酸化炭素ガスを含め、広く使用されている方法であり、1リットル当たり80〜100gの二酸化炭素を吸収できることが示されている。しかし、吸収液から二酸化炭素を取り出すためには、一般的に、高温が必要であり、加熱に要するエネルギーが著しく大きく、これらのことが、消費エネルギーの低減を図る上で、大きな課題となっていた。
【0005】
一方、物理吸収法は、吸収塔において高圧条件でガスを吸収し、再生塔で減圧して、これを回収するものである。物理吸収法の吸収量は、混合ガス中の分圧にほぼ比例するため、処理対象となる混合ガスが、高圧あるいは高濃度である場合にとりわけ有利である。そのため、物理吸収法は、例えば、ガス田から自噴する天然ガスや、石炭ガス化複合発電(IGCC)における燃焼前排ガスなどに含まれる二酸化炭素の分離に適用されている。
【0006】
これまで、物理吸収法の吸収液としては、Rectisol法のメタノール、あるいはSelexol法のポリエチレングリコール誘導体などが用いられている。これらの分子性溶剤を用いた物理吸収プロセスでは、吸収液を0℃近くに冷却して、ガスを吸収させて分離する。吸収液を冷却して低温にすることで、ガスの吸収量を増加し、かつ、溶剤の揮発を防ぐことが可能となるが、その一方で、余分に、冷却エネルギーが必要となる。
【0007】
また、物理吸収法は、高温のガスやスチームを対象としたガス処理に用いることが困難である、などの課題があった。先行技術文献(特許文献1および2)には、物理吸収液に不揮発性のイオン液体を用いることで、吸収液の蒸発を抑え、高温のガスやスチームを対象とできることが記載されている。しかしながら、イオン液体の製造コストは、未だ著しく高く、商業化に対しては、大きな障壁がある。
【0008】
一方、他の先行技術文献(非特許文献1)には、Selexol吸収液と類似の化学構造をもつ、グライム類化合物(CH−O−(CHCH−O)−CH、n=2〜4)の二酸化炭素吸収量が示されている。この文献には、グライム類化合物の基本骨格の繰返し数を小さくすると、単位体積当たりの二酸化炭素吸収量を増加できることが見出されたことが記載されている。
【0009】
グライム類化合物は、コスト的に比較的安価で、分子性溶剤のSelexol吸収液と比べて、二酸化炭素の吸収量にも優れている。しかし、グライム類化合物の基本骨格の繰返し数を下げると、分子量が小さくなり、沸点は低下し、揮発性は大きくなることが課題として挙げられている。すなわち、当技術分野においては、従来の物理吸収液と比較して、製造コストがほぼ同等で、低揮発性で、かつ、高性能の物理吸収液の必要性が高まっているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−296211号公報
【特許文献2】特開2010−248052号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】D.Kodama,M.Kanakubo,M.Kokubo,S.Hashimoto,H.Nanjo,and M.Kato,Fluid Phase Equilibria,in press
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、従来の分子性吸収液と比べて、二酸化炭素の吸収量が同等あるいはそれ以上で、揮発性が低く、かつ、コスト的に安価なガス吸収液を提供することを可能とすることにより、天然ガスやIGCCなどの高圧条件の混合ガスから二酸化炭素などの酸性ガスを高効率で分離回収し、それらのプロセスの消費エネルギーを低減することを可能とする新しい吸収液を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、コスト的に比較的安価なグライム類の溶剤に、塩類を添加することで、二酸化炭素の吸収量を減少させることなく、吸収液の揮発性を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、安価なグライム類の溶剤に、塩類を添加することで、二酸化炭素の吸収量を減少することなく、吸収液の揮発性を低減できる新規ガス吸収液を提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記ガス吸収液を利用した酸性ガス分離方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)高圧条件の混合ガスから酸性ガスを選択的に分離回収するための物理的吸収液であって、
グライム(R−O−(CHCH−O)−R)(但し、RおよびRはCH、C、C、C、C11、およびそれらのフッ素誘導体のいずれかで、nは1〜5を表す。)骨格を有するグライム類の溶剤に、塩類を添加した吸収液であり、塩類を添加することで当該吸収液の揮発性を低減させ、かつ、酸性ガスの吸収量を向上させたことを特徴とする酸性ガス吸収液。
(2)添加する塩類が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([(CFSON])、又はその誘導体([(RSO)(RSO)N])(但し、RおよびRはF、CF、C、C、C、C11、およびそれらの部分水素化物のいずれかを表す。)の陰イオンから構成される、前記(1)に記載の吸収液。
(3)グライム類の溶剤が、ジグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、トリグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、又は、テトラグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)からなる、前記(1)又は(2)に記載の吸収液。
(4)添加する塩類の陽イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は1〜3の価数の金属イオンである、前記(1)から(3)のいずれかに記載の吸収液。
(5)酸性ガスが、二酸化炭素である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の吸収液。
(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載の酸性ガス吸収液を用いた物理吸収法により、高圧条件の混合ガスから酸性ガスを選択的に分離回収するための酸性ガス分離方法であって、
グライム(R−O−(CHCH−O)−R)(但し、RおよびRはCH、C、C、C、C11、およびそれらのフッ素誘導体のいずれかで、nは1〜5を表す。)骨格を有するグライム類の溶剤に、塩類を添加した酸性ガス吸収液を、酸性ガスを含む高圧条件の混合ガスに接触させて当該吸収液に酸性ガスを吸収させ、分離、回収することを特徴とする酸性ガス分離方法。
(7)添加する塩類が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([(CFSON])、又はその誘導体([(RSO)(RSO)N])(但し、RおよびRはF、CF、C、C、C、C11、およびそれらの部分水素化物のいずれかを表す。)の陰イオンから構成される、前記(6)に記載の酸性ガス分離方法。
(8)グライム類の溶剤が、ジグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、トリグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、又は、テトラグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)からなる、前記(6)又は(7)に記載の酸性ガス分離方法。
(9)添加する塩類の陽イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は1〜3の価数の金属イオンである、前記(6)から(8)のいずれかに記載の酸性ガス分離方法。
(10)上記吸収液に酸性ガスの二酸化炭素を吸収させ、分離、回収する、前記(6)から(9)のいずれかに記載の酸性ガス分離方法。
【0015】
次に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明は、天然ガスやICCCなどの高圧条件の混合ガスから二酸化炭素などの酸性ガスを選択的に分離回収するための物理的吸収液であって、グライム(R−O−(CHCH−O)−R)(但し、RおよびRはCH、C、C、C、C11、およびそれらのフッ素誘導体のいずれかで、nは1〜5を表す。)骨格を有するグライム類の溶剤に、塩類を添加した吸収液であり、塩類を添加することで当該吸収液の揮発性を低減させ、かつ、酸性ガスの吸収量を向上させたことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明は、上記酸性ガス吸収液を用いた物理吸収法により、天然ガスやICCCなどの高圧条件の混合ガスから二酸化炭素などの酸性ガスを選択的に分離回収するための酸性ガス分離方法であって、グライム(R−O−(CHCH−O)−R)(但し、RおよびRはCH、C、C、C、C11、およびそれらのフッ素誘導体のいずれかで、nは1〜5を表す。)骨格を有するグライム類の溶剤に、塩類を添加した酸性ガス吸収液を、酸性ガスを含む高圧条件の混合ガスに接触させて当該吸収液に酸性ガスを吸収させ、分離、回収することを特徴とするものである。
【0017】
本発明において、グライム類骨格を有するグライム類溶剤とは、分子中にグライム骨格(R−O−(CHCH−O)−R)を有する溶剤のことであり、RおよびRはCH、C、C、C、C11、およびそれらのフッ素誘導体のいずれかで、nは1〜5を意味する。具体的には、例えば、ジグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、トリグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、あるいは、テトラグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)からなる溶剤が挙げられる。
【0018】
本発明の吸収液は、上述のグライム類溶剤に、塩類を添加して、当該吸収液の揮発性を低減させ、かつ、二酸化炭素などの酸性ガスの吸収量を向上させたことを特徴とするものである。グライム類溶剤に添加する塩類としては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([(CCFSON])、その誘導体[(RSO)(RSO)N](但し、RおよびRはF、CF、C、C、C、C11、およびそれらの部分水素化物のいずれかを表す。)の陰イオン、が使用される。これらの塩類の陽イオンとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは1〜3価の金属イオンであることが好適である。
【0019】
本発明では、グライム類の溶剤に、例えば、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドなどの塩類を添加することで、二酸化炭素などの吸収量の低下を招くことなく、吸収液の揮発性を低減することができ、これにより、二酸化炭素などの酸性ガスの吸収、分離回収プロセスにおける、吸収液の冷却エネルギーを低減し、吸収液の揮発による損失を防ぐことが可能となる。
【0020】
本発明のガス分離方法では、上記吸収液を使用することにより、初期の設備費の低減やランニングコストの低下が可能となり、従来の二酸化炭素の分離回収に必要とされていた消費エネルギーを大幅に低減し、二酸化炭素などの酸性ガスの分離回収プロセスの全般の高効率化を達成することが可能となる。
【0021】
後記する実施例で示されたように、本発明では、二酸化炭素などの酸性ガスの吸収量は、塩類の添加により減少する傾向を示すが、一方、吸収液に添加する塩類の濃度を高くするにしたがって、例えば、純粋なジグライム類の溶剤と比べて、吸収液の揮発による損失が半分近くに低下すること、すなわち、グライム類の溶剤に、塩類を添加することで、吸収液の揮発性を半分近くに低減できることが分かった。
【0022】
したがって、本発明では、吸収液に添加する塩類の濃度は、吸収液の揮発による損失と、吸収液による酸性ガスの吸収量とをバランスすると共に、吸収液の冷却条件を適宜調節して、二酸化炭素などの酸性ガスの分離回収に必要とされる消費エネルギーの低減と、分離回収効率化を図ることが重要となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、次のような効果が奏される。
1)グライム類の溶剤に、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドなどの塩類を添加することで、二酸化炭素の吸収量の低下を招くことなく、吸収液の揮発性を低減させることができる。
2)それにより、吸収液の冷却エネルギーを低減し、吸収液の損失を防ぎ、初期の設備費の軽減やランニングコストを低減することが可能となる。
3)これらの効果により、従来、高圧条件の混合ガスから二酸化炭素などの酸性ガスの分離回収に必要とされていた消費エネルギーを大幅に削減し、プロセスの全般に渡り高効率化を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】容積可変型高圧相平衡測定装置の概略図を示す。
【図2】ジグライム、トリグライム、テトラグライム、および、それらのグライム類に、塩類として、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを添加した吸収液の単位体積当たりのCO吸収量の圧力依存性を示す。
【図3】ジグライム、トリグライム、テトラグライム、および、それらのグライム類に1wt%(3mol%)塩化リチウムを添加した吸収液のCO溶解度(x1)および飽和密度の圧力依存性を示す。
【図4】ジグライムに、塩類として、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを所定量添加した吸収液の50℃における質量減少の時間変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
本実施例では、ジグライム類に、塩類を添加した吸収液を用いて、二酸化炭素吸収量、液相の密度を測定した。図1に、本実施例で使用した容積可変型高圧相平衡測定装置の概略図を示した。この図に示した容積可変型高圧相平衡測定装置を用いて、ジグライム(DEGDME)、トリグライム(TEGDME)、テトラグライム(TTEGDME)、および、それらのグライム類に、塩類として、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTfN)を所定量添加した吸収液の二酸化炭素の吸収量ならびに液相の密度を以下の手順で測定した。
【0027】
[測定方法]
あらかじめ装置内を真空にした後、二酸化炭素と液体成分を高圧セル内に仕込み、循環ポンプでセル内を循環させ、平衡状態に到達した後、圧力、密度、温度を測定した。同一仕込み組成において、セル容積を順次変化させ、数点測定を行った。
【0028】
以上の結果を、以下の表1〜3に示す。また、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、および、それらのグライム類に、塩類として、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを添加した吸収液の単位体積当たりのCO吸収量の圧力依存性を図2に示した。どの吸収液を用いた場合も、二酸化炭素の吸収量は圧力増加に伴い大きくなることが分かる。また、ジグライム、トリグライム、テトラグライムと分子量が大きくなると、一定圧力では、沸点は上昇し、揮発性も低下するが、二酸化炭素の吸収量も減少することが分かる。一方、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを加えたグライム類吸収液は、塩を加えるとやや二酸化炭素の吸収量が減少するが、その程度はそれほど顕著ではないことが明らかになった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【実施例2】
【0032】
実施例1に記載した測定方法と同様にして、ジグライムに、1wt%(3mol%)塩化リチウムを添加した吸収液の二酸化炭素の吸収量を測定した。図2に示した通り、塩化リチウムを添加した吸収液では二酸化炭素の吸収量が著しく低下することが分かる。リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドの添加量が30wt%に対して、塩化リチウムの添加量は1wt%であることを考慮すると、塩化リチウムでは塩添加による二酸化炭素吸収量の減少が大きく、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドでは極めて小さいことが明らかになった。この結果は、吸収液の単位体積当たりの二酸化炭素吸収量を示したものである。一方、図3に示した通り、モル分率表記の二酸化炭素溶解度では、上記の効果はさらに顕著に観察されることが分かる。
【実施例3】
【0033】
ジグライムに、塩類として、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを5、10、15、20、25、30wt%添加したグライム溶液を調製した。それらを、試験管に約10g測り取り、50℃の湯浴に設置して、震とうした。所定時間経過後、吸収液の蒸発に伴う質量減少を天秤で測った。その結果を図4に示した。ただし、各吸収液の質量減少は、変化率(=100×(変化した質量)/(初期に図り取った質量))として表記した。
【0034】
図から、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドをジグライムに添加することで、吸収液の質量減少が抑えられることが分かる。その効果は、塩の濃度を高くするにしたがって顕著であり、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを30wt%加えた吸収液では、純粋なジグライムと比べて、質量減少を半分近くに抑えられることが確認された。この結果は、グライム類の溶剤に、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを添加することで、吸収液の揮発性を効果的に低減できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上詳述したように、本発明は、低揮発性二酸化炭素吸収液に係るものであり、本発明により、グライム類の溶剤に、塩類を添加することで、二酸化炭素の吸収量の低下を招くことなく、吸収液の揮発性を低減することが可能となり、これにより、二酸化炭素の吸収特性に優れた、低揮発性の物理吸収液を提供することが実現可能となる。本発明の吸収液を利用することにより、従来の分子性吸収液で必要とされた冷却エネルギーを低減し、吸収液の損失を防ぐことができ、二酸化炭素の分離回収に必要とされていた消費エネルギーを大幅に削減し、プロセスの全般に渡り高効率化を達成することが可能となる。本発明の吸収液は、ガス田から自噴する天然ガスや石炭ガス化複合発電(IGCC)における燃焼前排ガスなどの、高圧条件の混合ガスから二酸化炭素などの酸性ガスを選択的に高効率で分離回収するのに効適に使用できるものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧条件の混合ガスから酸性ガスを選択的に分離回収するための物理的吸収液であって、
グライム(R−O−(CHCH−O)−R)(但し、RおよびRはCH、C、C、C、C11、およびそれらのフッ素誘導体のいずれかで、nは1〜5を表す。)骨格を有するグライム類の溶剤に、塩類を添加した吸収液であり、塩類を添加することで当該吸収液の揮発性を低減させ、かつ、酸性ガスの吸収量を向上させたことを特徴とする酸性ガス吸収液。
【請求項2】
添加する塩類が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([(CFSON])、又はその誘導体([(RSO)(RSO)N])(但し、RおよびRはF、CF、C、C、C、C11、およびそれらの部分水素化物のいずれかを表す。)の陰イオンから構成される、請求項1に記載の吸収液。
【請求項3】
グライム類の溶剤が、ジグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、トリグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、又は、テトラグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)からなる、請求項1又は2に記載の吸収液。
【請求項4】
添加する塩類の陽イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は1〜3の価数の金属イオンである、請求項1から3のいずれかに記載の吸収液。
【請求項5】
酸性ガスが、二酸化炭素である、請求項1から4のいずれかに記載の吸収液。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の酸性ガス吸収液を用いた物理吸収法により、高圧条件の混合ガスから酸性ガスを選択的に分離回収するための酸性ガス分離方法であって、
グライム(R−O−(CHCH−O)−R)(但し、RおよびRはCH、C、C、C、C11、およびそれらのフッ素誘導体のいずれかで、nは1〜5を表す。)骨格を有するグライム類の溶剤に、塩類を添加した酸性ガス吸収液を、酸性ガスを含む高圧条件の混合ガスに接触させて当該吸収液に酸性ガスを吸収させ、分離、回収することを特徴とする酸性ガス分離方法。
【請求項7】
添加する塩類が、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([(CFSON])、又はその誘導体([(RSO)(RSO)N])(但し、RおよびRはF、CF、C、C、C、C11、およびそれらの部分水素化物のいずれかを表す。)の陰イオンから構成される、請求項6に記載の酸性ガス分離方法。
【請求項8】
グライム類の溶剤が、ジグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、トリグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)、又は、テトラグライム(CH−O−(CHCH−O)−CH)からなる、請求項6又は7に記載の酸性ガス分離方法。
【請求項9】
添加する塩類の陽イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は1〜3の価数の金属イオンである、請求項6から8のいずれかに記載の酸性ガス分離方法。
【請求項10】
上記吸収液に酸性ガスの二酸化炭素を吸収させ、分離、回収する、請求項6から9のいずれかに記載の酸性ガス分離方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−170842(P2012−170842A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32675(P2011−32675)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「産業技術研究助成事業(若手グラント)/イオン液体を用いた新しいガス分離・精製方法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】