説明

低摩擦潤滑アセンブリー

【課題】 低摩擦潤滑アセンブリーが求められている。
【解決手段】 本発明は、新規な優れた摩擦潤滑アセンブリーに関し、それに含まれるのは、第二の部材に対して相対的に摺動可能第一の部材であって、前記第一の部材がその摺動表面上でOH基との化学親和力を有する部材、および第一の部材の摺動表面の上に位置し、典型的には水素結合相互作用によって、第一の部材の摺動表面に付着したトライボフィルムを形成することが可能な1種または複数の含酸素化合物を含む。第二の部材が、類似のOH末端摺動表面を有し、ここで、第一および第二の摺動表面の間の、含酸素化合物(潤滑剤)で支持された界面がH−および/またはOH−末端界面を有していて、それらの間で反発力をもたらすのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも第一の部材および第二の部材を含む低摩擦潤滑アセンブリーに関し、その表面またはコーティングは、互いに摺動接触状態にあって、そのため少なくとも1種の摩擦低減剤(含酸素化合物)の存在下で、水素および/またはヒドロキシル基を含む、特異的でユニークなトライボフィルムが発現する。
【背景技術】
【0002】
現今の先端技術において、潤滑試験において低摩擦を得るには、CH3末端トライボフィルムを形成させるか、または、たとえばMoS2またはホウ酸のような固体の成層化合物の存在下を用いる。しかしながら、得られる典型的な摩擦係数は0.04以上0.1未満が大半で、0.04未満のものは現在のところほとんど報告されていない。
【0003】
地球温暖化およびオゾン層破壊のような、地球環境問題が注目されている。地球温暖化にはCO2放出の影響が大きいとされていて、CO2放出の削減、特にCO2放出基準の設定がいずれの国においても重要な関心事となってきた。CO2放出を削減するための重要課題の一つが、機械、設備などの摩擦損失が原因のエネルギー損失を減少させること、特に自動車の燃料効率または燃料節約を改良することであって、それは、エンジン摺動部材およびそれに適用される潤滑油の性能に依存する。自動車の燃料効率を改良するには、次のようなアプローチ方法がある:(1)潤滑油の粘度を低下させて、それにより、流体潤滑領域における粘性抵抗およびエンジン中での撹拌抵抗を低下させる方法、および(2)潤滑油の中に適切な摩擦調節剤またはその他の添加剤を加えて、混合潤滑および境界潤滑条件下における摩擦損失を低下させる方法、である。
【0004】
(特許文献1)には、表面と、母材の表面の少なくとも一部に形成された硬質のカーボン薄膜とを有する母材からの低摩擦摺動部材が開示されており、ここで、硬質のカーボン薄膜を、有機含酸素化合物の存在下に、対向する部材に摺動可能に接触させると、硬質のカーボン薄膜の上に、エーテル結合、オキシドおよびヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するトライボフィルムが形成される。
【特許文献1】欧州特許第1510594A号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が目的としているのは、現行技術の低摩擦アセンブリーよりも改良された摺動特性を示す低摩擦潤滑アセンブリーを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その課題は、以下のものを含む低摩擦アセンブリーにより解決される:
第二の部材に対して相対的に摺動可能であって、その摺動表面の上にOHグループとの化学親和力を有する第一の部材;および
前記第一の部材の摺動表面の上に位置する含酸素化合物であって、OHグループとの水素結合相互作用によって、前記化学親和力を有する第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することが可能な1種または複数の含酸素化合物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の低摩擦潤滑アセンブリーについて詳細に説明する。
上述のごとく、本発明の低摩擦アセンブリーは:
第二の部材に対して相対的に摺動可能であって、その摺動表面の上にOHグループとの化学親和力を有する第一の部材;および
前記第一の部材の摺動表面の上に位置する含酸素化合物であって、OHグループとの水素結合相互作用によって、前記化学親和力を有する第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することが可能な1種または複数の含酸素化合物を含む。
【0008】
本質的に重要なのは、第一の部材のHまたはOH末端表面と、含酸素化合物(潤滑剤)中に存在する特定の極性分子との間の水素結合相互作用があるということであって、ここでその含酸素化合物(潤滑剤)はガス状であっても液状であってもよい。具体的には、一方では前記水素結合性相互作用、他方では第一および/または第二の部材のH末端表面に位置した含酸素化合物(潤滑剤)が、ユニークな低摩擦潤滑アセンブリーまたはシステムの確立に貢献して、そのために、摩擦の値を低減して、摩擦係数0.04未満の範囲、特殊なケースでは0.01未満とすることが可能となる。
【0009】
言い換えれば、二方向メカニズム(two−way mechanism)において、第一および/または第二の部材のC、Al、Siなどのような表面原子と、含酸素化合物(潤滑剤)分子の中に存在するヒドロキシル基(OH基)とのトライボケミカル反応が起きて、その後に、含酸素化合物(潤滑剤)分子が水素結合によってOH末端表面に吸着する。したがって、この新しく生成した摩擦界面(含酸素化合物(潤滑剤)を含む)は、H末端表面であるか、またはOH−および/またはH−末端表面のいずれかであるが、ここで、純粋なH末端表面よりも、50%を超える量のOH−末端表面がある方が有利である。
【0010】
たとえば第二の部材として生物学的材料の場合には、たとえばOH−およびSH−基を含むタンパク質が、第一の部材のOH−またはH−末端表面を構成していてもよい。
【0011】
好ましい実施態様においては、その第二の部材は、その摺動表面、好ましくはOH末端摺動表面の上にヒドロキシル基をさらに含み、トライボフィルムもまた摺動運動に対応して水素結合により第二の部材の摺動表面に付着する。
【0012】
さらに、その第一の部材には、非晶質物質および結晶化物質からなる群より選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。
【0013】
さらに好ましい実施態様においては、その第一の部材が、Si、SiO2、Al23、Si34、MgOまたは各種単一金属または混合金属の組合せの酸化物(オキサイド、oxide)、窒化物(ナイトライド、nitride)および炭化物(カーバイド、carbide)の組合せ、特にシリコンカーボオキサイド(silicon carboxide)、オキシナイトライド(oxinitride)およびカーボナイトライド(carbo nitride)、化学親和力を有しヒドロキシド(hydroxide)(たとえば、金属(OH)x)を形成する傾向を有する元素からの物質からなる群より選択される少なくとも1種を含む。化学組成および結晶構造がどうであろうとも、その第一の摺動部材はまた、ダイヤモンドおよびダイヤモンドライクカーボンでコーティングされていてもよい。
【0014】
そのダイヤモンドライクカーボンは、10原子%以下の量の水素を含んでいるのが好ましいが、そのダイヤモンドライクカーボンが、実質的に水素を含まないa−Cタイプやta−Cタイプのダイヤモンドライクカーボンで形成されていれば、より好ましい。
【0015】
その第二の部材には、非晶質物質および結晶化物質からなる群より選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。
【0016】
さらに好ましい実施態様においては、その第二の部材が、第一の部材と同質で先に列挙した物質からなるものや、C、Fe、Al、Mg、Cu、Fe合金、Al合金、Mg合金およびCu合金からなる群より選択された少なくとも1種を含む。
【0017】
その含酸素化合物(摩擦調節剤、潤滑剤)が、その化学式の中に少なくとも1個のヒドロキシル基(OH基)を有しているのが好ましい。
【0018】
さらに、その含酸素化合物が、アルコール、カルボン酸、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、およびカーボネートからなる群の少なくとも1種、および/またはアルコール、カルボン酸、ホウ酸、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒドおよびカーボネートからなる群の少なくとも1種の誘導体を含んでいるのが好ましい。
【0019】
さらなる好ましい実施態様においては、その含酸素化合物が、ポリアルファ−オレフィン(PAO)、グリセロールモノオレエート(GMO)、グリセロール、H2Oおよび過酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、その含酸素化合物が、H22、またはH2OとH22の混合物、特にH22を含むのがより好ましい。また別の好ましい実施態様においては、その含酸素化合物(潤滑剤)がグリセロールである。さらに別な好ましい実施態様においては、その含酸素化合物(潤滑剤)が、滑液の中に見出される、特にルブリシン−OHである。さらに好ましい実施態様においては、その含酸素化合物(潤滑剤)がPAO−エステルである。
【0020】
さらなる好ましい実施態様においては、その含酸素化合物が、多価アルコールを含み、その多価アルコールが、イノシトール、ピロガロール、ウルシオール、ピロカテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、フラレノール、ペンタエリスリトール、その他の糖類、それらの異性体、誘導体、および置換体からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
前記糖類としては、アガロース、アデノシン三リン酸、アピオース、アミロース、アミロペクチン、飴ガラス、アラビノキシラン、アルキルグリコシド、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルダル酸、アルドース、アルトロース、アルドン酸、アルブチン、アロース、イドース、イヌリン、ウロン酸、エリスリトール、エリトロース、オリゴ糖、カラギーナン、ガラクトース、カルボキシメチルセルロース、還元糖、キサンタンガム、希少糖、キシラン、キシリトール、キシルロース、キシロース、キシログルカン、キチン、キトサン、グアーガム、グリコーゲン、グリコサミノグリカン、グリコシル基、グリセルアルデヒド、グルクロノキシラン、グルクロノラクトン、グルクロン酸、グルコサミン、グルコース、グルコマンナン、グルコン酸、グロース、ケトース、ケラト硫酸、ゲンチオビオース、コロジオン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、サポニン、ジギトニン、シクロアワオドリン、シクロデキストリン、シチジル酸、シニグリン、ジヒドロキシアセトン、硝酸でんぷん、ショ糖、GF2、スクラロース、スクロース、製糖、セルロース、セルロースエーテル、セロビオース、増粘安定剤、ソルビトール、ソルボース、タガトース、多糖、タロース、単糖、デオキシリボース、デキストリン、デルマタン硫酸、転化糖、デンプン、糖アルコール、糖タンパク質、トレオース、トレハロース、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、二糖、配糖体、ヒアルロン酸、フコイダン、フコース、プシコース、プタキロサイド、フルクトース、ペクチン、ヘパリン、ヘミセルロース、マルトース、マンニトール、マンノース、ラクトース、ラムノース、リキソース、リブロース、リボース、ルチン等が挙げられる。
【0021】
さらなる好ましい実施態様においては、その含酸素化合物が、前記多価アルコールの少なくとも1種とグリセロールの混合物を含む。
【0022】
さらなる好ましい実施態様においては、その含酸素化合物が、前記多価アルコールの少なくとも1種とH2Oの混合物を含む。
【0023】
その含酸素化合物は、液状物、ガス状物、ナノ粒子、または各種使用可能な蒸着技術による薄い有機蒸着膜(たとえばラングミュア・ブロジェット膜)であるのが好ましい。
【0024】
その第一の部材の摺動表面を前処理にかけてから、第二の部材に対して摺動させるのが好ましい。
特に、精密機械の加工(精密加工)の際や精密機械そのものにとって、油脂等のコンタミナント(汚染物質)が気になるが、H22やアルコール等の揮発性物質を含酸素化合物(潤滑剤)として用いた場合は、そういったコンタミナントが出てこない。よって、“時計”等を始めとした精密機械の、加工工程の摺動動作(金型を外す工程など摺動動作が入るところ)や、そのもの摺動部分に有効であることが分かる。特に、冷間・温間気候では揮発しやすく、耐コンタミナント効果に最適である。なお、上記精密加工には冷間加工と温間加工がある。冷間加工は、金属の再結晶温度より低い温度での塑性加工である。温間加工は、再結晶温度未満の温度域に金属材料を加熱して行う塑性加工である。
【0025】
前記前処理には、清浄化;機械的活性化、特に特殊な薬剤たとえばH22を用いた研磨;特にレーザーまたは電子ビーム処理による物理的処理の後にH22を塗布することによる化学的処理;が含まれているのが、好ましい。
【0026】
好ましくは、含酸素化合物(OH基含有潤滑剤)を塗布し、第二の部材に対する摺動接触をさせる前に、第一の部材の摺動表面を水素フリー(実質的に水素を含まない)とし、第二の部材との摺動接触に入ることによりOH末端摺動表面を作り出すが、前記含酸素化合物(OH基含有潤滑剤)は第一の部材の摺動表面の上に事前または同時に塗布する。
【0027】
本発明の低摩擦潤滑アセンブリーは、二つの部材の間で極端に低い摩擦が必要な、各種用途に適している。このアセンブリーは、たとえば機械工学、物理学または医学の分野で使用することができる。このアセンブリーは特に、燃焼機関、医療機器(内視鏡、カテーテル、シリンジ、針、採血チューブ、医用電子ポンプ等)、マイクロメカニカル機器およびナノメカニカル機器(MEMS;icro lectroechanical ystem、NEMS;ano lectroechanical ystem、特に時計等の精密機器)、その他低摩擦が必要なシステム(シェーバー、コンプレッサー、ポンプ、ギア、ベアリング等)において使用するのに適している。また、加工に用いる工具は加工面の切削部だけではなく、切削片の巻き込みによりすくい面、逃げ面での摩擦、凝着が問題となることがあり、これらの低摩擦アッセンブリーにより、加工時の駆動力の軽減が見込まれるほか、凝着防止による工具寿命の大幅に延長できる。
【0028】
新規な低摩擦アセンブリーの第一の部材および第二の部材に関しては、各種広範な物質と組合せが与えられる。したがって、本発明ではまず、第一の部材を決めることに焦点をあてるが、それに対して、第二の部材は、たとえば医学用内視鏡により形成される潤滑アセンブリーおよび人体の皮膚表面、または人体の体内血管まで考慮に入れた、生物学的物質から、金属また金属でコーティングした表面が互いに摺動する、たとえば、機械工作やエンジン設計、たとえば内燃機関の摺動要素に至るまで、幅広い。少なくとも第一の部材はスムーズな表面を有していて、前記表面が、薄層コーティング、たとえば母材を構成する金属または半金属上のDLCコーティングからなっているのが好ましい。
【0029】
この新規なシステムの低摩擦の性質は、少なくとも含酸素化合物(OH基含有潤滑剤)と接触させた後の、OH末端表面を含む第一の部材の摺動表面のユニークな組合せをベースとしていると考えられるが、前記OH末端表面は、ガス状または液状の含酸素化合物(潤滑剤)、たとえばグリセロールと水素結合をすることが可能である。そのOH末端摺動表面が、第二の部材の摺動表面の上にOH基の潤滑剤堆積によって確立するか、または、第二の部材の摺動表面そのものが、第一の部材および第二の部材のOH末端摺動表面と含酸素化合物(潤滑剤)のOH基との間の相互作用的な水素結合を確立するか、のいずれかで、対向する表面のOH末端に、向き合うようにあてられる。DLCコーティングは、第一の部材の側で使用されるのが好ましい。
【0030】
少なくとも第一の部材の摺動表面を前処理して、粗さを平滑化しておいて、その研磨面にOHヒドロキシル基を載せるようにするのが好ましい。
【0031】
以下、添付の図面を用いながら、本発明のいくつかの実施態様に基づいて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0032】
図1および2では、第一の部材と第二の部材とが摺動している間に、第一の部材と第二の部材の材料とその間に介在する含酸素化合物(潤滑剤)とのトライボケミカル反応によって、両方の摺動表面の上に新規な表面化学(OH−トライボフィルムと呼ぶ)が形成される。別な方法として、使用する前に表面を前処理することによってもそれを形成させることができるが、その「前処理」は、化学反応、真空を用いた清浄化、特殊な薬剤との反応およびさらに薬剤の存在下での機械的研磨、あるいはそれら3種の組合せなどであってよい。
【0033】
そのような処理は、機械的(研磨)、化学的または機械化学的(H22)、またはその他の清浄化もしくは物理的性質(電子衝撃またはイオン衝撃)などであってよく、それらいずれも、摺動表面に存在する原子を活性化しようとするものである。
【0034】
OH−トライボフィルムの厚みは通常ナノメートルの範囲であって、そのOH−トライボフィルムがヒドロキシル基(OH)およびH原子の両方から作られた末端を有しているのが好ましいが、末端がOH原子でできていれば、より好ましい。表面上に50%を超えるOH基があれば、さらに好ましい。さらに、100%OH基であれば、より好ましい。
【0035】
そのOH−トライボフィルムは、各種の分子たとえばアルコール、エステル、エーテル、酸、アミン、イミド、チオール、ペルオキシドおよび水、その他(たとえばホウ酸)などと、水素結合を形成することが可能であるので、有利である。一般的には、水と容易に水素結合することが可能な分子なら、どのようなものであっても、候補材料となりうる。
【0036】
水素結合で結合した分子によってOH−トライボフィルムの末端が封止されると、好ましいH末端表面となる。
【0037】
H末端表面とOH末端表面との間の摩擦が、正に荷電した水素原子の間の反発力のために、極めて低くなり、酸素原子の電気陰性度のために、そのOH末端表面はさらに反発力がある。
【0038】
OH−トライボフィルムは、トライボケミカル反応で必要とあれば、連続的に再形成される。
【0039】
間に存在する含酸素化合物(潤滑剤)によって形成される二つの摺動表面の間に存在する水素末端のために、接触している摺動表面、第一の部材および第二の部材の間に反発力が形成されるが、二つの摺動表面の間がヒドロキシル基末端の場合には反発力がさらに増大し、またそれは、COH結合が高いフレキシビリティを有している点からも好ましく、OH化合物はC−O結合の周りを自由に回転して、あたかも定常位置(stationary position)であるかのようになる。高い表面エネルギーを有し、また、その水素結合内で水に濡れない性質を持つ、よく知られている“C‐H終端表面”に比べて、“C−OH終端表面”は、低い表面エネルギーを有し、水に濡れやすい性質を持っている。この理由は、“C‐H終端表面”は非常に強く、“C−H終端表面”の“H”は、立体効果のため、水分子と一緒に水素結合をつくるのは不可能と予測される。この点に関し、“C−H‐‐‐‐‐O”の水素結合を考慮すると、3つの原子がほぼ同一線上に並んでいるのが望ましい。反対に、図7に見るごとく、ta−Cの“C−O−H終端表面”は、C−O結合が回転するため、自由度があり、そのため、表面のグリセロールのOH基との水素結合により形成され得る水分子(H‐‐‐‐‐O−H)の位置が最適化され、簡単に水素結合をつくることができる。
【0040】
含酸素化合物(潤滑剤)としてグリセロールを使用するのが好ましいが、グリセロールは、1分子あたり3個のOH基を有し3個の水素結合が可能なため、OH末端表面上に分子をより長く滞在させることが可能となるが、C−OおよびC−C結合がそれらの軸のまわりに自由に回転できるために、幾分かの反発エネルギーを有している。グリセロール潤滑システムは、その分子形状を最適化させて、好適なO‐‐‐‐‐H−O基の配列の観点からの異なった結合力を考えれば、より良好な水素結合状態となることができる。一般的には、第一の部材と含酸素化合物(潤滑剤)の間、および/または第一の部材と第二の部材との間のH末端表面は、OH末端表面を与えるよりも好ましいと思われる。
【0041】
本発明の好ましい実施態様においては、その第一の部材が、水素フリーな非晶質カーボン層(a−C)または水素フリーな四面体カーボン層(ta−C)のコーティングを有している。第二の部材もまた、水素フリーな非晶質カーボン層(a−C)または水素フリーな四面体カーボン層(ta−C)のコーティングを有しているのが好ましい。特に好適なのは、第一の部材および第二の部材の以下のような組合せである:a−Cコーティングとa−Cコーティング;ta−Cコーティングとa−Cコーティング;a−Cコーティングとta−Cコーティング;ta−Cコーティングとta−Cコーティング。これらのコーティングを塗布するのに特に好適な母材は、SCM415(浸炭処理)または加熱処理したSUJ2である。上記a−Cおよびta−Cは、それぞれ図8の三元系状態図に示された範囲に位置するものである。
【0042】
それらの部材の場合に好適な含酸素化合物(潤滑剤)は、グリセロールである。
【0043】
水素フリーなカーボン層たとえばDLCは、含酸素化合物(潤滑剤)と接触するやいなや、含酸素化合物(潤滑剤)上のOH基と反応する。これによって、OH末端の摺動表面が形成されるようになる。
【0044】
図3は、第一の部材および第二の部材が100%のH末端表面を含んでいる新規な低摩擦潤滑アセンブリーのモデルを示しているが、ここで、それらの間の反発親和性(repulsive affinity)が、摩擦係数を劇的に低下させている。これは、グリセロール潤滑を用いた水素フリーDLC(実質的に水素を含まない;ta−C)と水素フリーDLCシステムの性能を示す実験データである図4より明かである。別な方法として、図2における第一の部材および第二の部材の間の点線に沿った摩擦界面がOH基も含んでいて、第一の部材および第二の部材の表面にH末端とOH末端の混ざった状態を作り、それによって、対向する部材を互いに対して相対的に摺動させることにより、対向する部材のH−および/またはOH−末端表面の間に反発界面を形成させる。
【0045】
特に第一の部材および/または第二の部材としてDLCおよびその他の物質の場合、2段のメカニズムを備える:まず、部材表面の原子、たとえばC、Se、Siなどと、含酸素化合物(潤滑剤)の中に存在するヒドロキシル基(OH基)とのトライボケミカル反応に基づいて、部材上にOH末端表面を作り出す。次いで、含酸素化合物(潤滑剤)の分子を水素結合によりその作り出されたOH末端表面上に吸着させ、H−および/またはOH−末端表面を含む第一および/または第二の部材の新しい界面の形成を行わせる。このようにすると、前記界面における反発力によって、新しいタイプの低摩擦潤滑アセンブリーの創製が容易となる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜9および比較例1〜4)
表2に示すプレートおよびピンをそれぞれの母材にコーテイングを施して作製した。各作製されたプレートおよびピンは、同じく表2に示された膜厚み、表面硬度および表面粗さを有するものである。
(振動摩擦摩耗試験(SRV摩擦試験))
得られたプレートおよびピンを、オプチモール社製振動摩擦摩耗試験機(SRV試験機)にセットし、表2に示す潤滑油(オイル)でプレートおよびピンを濡らし、表1の試験条件にて振動摩擦摩耗試験(SRV(ピン・オン・プレート)摩擦試験)を行い摩擦係数を測定した。得られた結果を表1に併記する。
【0047】
図6は、振動摩擦摩耗試験(SRV(ピン・オン・プレート)摩擦試験)の要領を示す斜視説明図である。同図に示すように、プレート上にピンが配置されて、ピンがプレート上を往復摺動する。垂直方向の矢印Aは摩擦試験において加えられる荷重方向(上方から下方:鉛直方向)、水平方向の矢印Bはピンがプレート面上を摺動する方向(水平方向)を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、その第一の部材は、スチール、DLCコートスチールまたはAl23から製造したものである。第二の部材もまた、スチール、DLCコートスチールまたはAl23から製造したものであるのが好ましい。第一の部材および第二の部材の特に好ましい組合せは以下のものである:スチールとAl23;DLCコートスチールとAl23;DLCコートAl23とDLCコートAl23;スチールとスチール;Al23とAl23;Al23とDLCコートAl23;DLCコートスチールとスチール;DLCコートAl23とスチール;DLCコートスチールとDLCコートスチール。
【0051】
それらの部材の場合に好適な含酸素化合物(潤滑剤)は、グリセロールである。以下の表3には、含酸素化合物(潤滑剤)としてのグリセロールを、スチール、DLCコートスチールおよびAl23から製造した部材と組み合わせた場合の実験データを示す。
【0052】
【表3】

【0053】
それらの部材に対してさらに好適な含酸素化合物(潤滑剤)はPAO−エステルである。以下の表4には、含酸素化合物(潤滑剤)としてのPAO−エステルを、スチール、DLCコートスチールおよびAl23から製造した部材と組み合わせた場合の実験データを示す。
【0054】
【表4】

【0055】
図5は前記水素フリーDLCと水素フリーDLCシステムをガス状H22潤滑を用いた場合の実験データであって、ここでも摩擦係数が劇的に低下している。
【0056】
PAO−エステルおよびグリセロール潤滑を用いた場合には、ルビー(Al23)/水素フリーDLCシステムにおいても摩擦係数が大きく低下する。これは、図9および図10より明らかである。図9はグリセロール潤滑を用いたルビー(Al23)/水素フリーDLCシステムの性能を示す実験データであり、図10はPAO-エステル潤滑を用いたルビー(Al23)/水素フリーDLCシステムの性能を示す実験データである。
【0057】
また、同じくPAO−エステルおよびグリセロール潤滑を用いた場合には、ルビー(Al23)/スチール(Fe;鉄)システムにおいても摩擦係数が大きく低下する。これは、図11および図12より明らかである。図11はグリセロール潤滑を用いたルビー(Al23)/スチールシステムの性能を示す実験データであり、図12はPAO-エステル潤滑を用いたルビー/スチールシステムの性能を示す実験データである。
以下、上記実施態様から把握される本発明の技術的根拠について説明する。
【0058】
(1)低摩擦潤滑アセンブリーであって:第二の部材に対して相対的に摺動可能であって、その摺動表面の上にOHグループとの化学親和力を有する第一の部材;および 前記第一の部材の摺動表面の上に位置する含酸素化合物であって、OHグループとの水素結合相互作用によって、前記化学親和力を有する第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することが可能な1種または複数の含酸素化合物を含む。
【0059】
(2)前記第二の部材が、それの摺動表面上にOHグループとの化学親和力をさらに有し、そして前記トライボフィルムが、摺動運動に応答してOHグループとの水素結合相互作用によって、前記第二の部材の摺動表面にも形成されることが可能である、(1)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(3)一定の摺動運動後に、前記第一の部材が、前記摺動表面に少なくとも1個のOH末端が付与される、(1)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0060】
(4)前記第一の部材の表面に付与された少なくとも1個のOH末端と前記含酸素化合物中のOHグループとの水素結合相互作用により、第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成する、(1)または(3)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(5)一定の摺動運動後に、前記第二の部材の摺動表面にさらに少なくとも1個のOH末端が付与される、(1)〜(3)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0061】
(6)前記第二の部材の表面に付与された少なくとも1個のOH末端と前記含酸素化合物中のOHグループとの水素結合相互作用により、第二の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成する、(1)〜(5)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(7)前記第一の部材が、非晶質物質および結晶化物質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(6)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0062】
(8)前記第一の部材が、Si、SiO2、Al23、Si34、MgOまたは各種単一金属もしくは混合金属の酸化物(オキサイド、oxide)、窒化物(ナイトライド、nitride)および炭化物(カーバイド、carbide)の組合せからなる群より選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(7)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(9)前記第一の部材が、シリコンカーボオキサイド(silicon carboxide)、オキシナイトライド(oxinitride)およびカーボナイトライド(carbo nitride)、化学親和力を有しヒドロキシド(hydroxide)(たとえば金属(OH)x)を形成する傾向を有する元素から形成された物質、ダイヤモンドおよびダイヤモンドライクカーボン、からなる群より選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(8)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0063】
(10)前記ダイヤモンドライクカーボンが、10原子%以下の量の水素を含む、(8)または(9)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(11)前記ダイヤモンドライクカーボンが、実質的に水素を含まないa−Cタイプ、またはta−Cタイプのダイヤモンドライクカーボンから形成されている、(1)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0064】
(12)前記第二の部材が、非晶質物質および結晶化物質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(11)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(13)前記第二の部材が、Si、SiO2、Al23、Si34、MgOまたは各種単一金属もしくは混合金属の酸化物(オキサイド、oxide)、窒化物(ナイトライド、nitride)および炭化物(カーバイド、carbide)の組合せからなる群より選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(12)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0065】
(14)前記第二の部材が、シリコンカーボオキサイド(silicon carboxide)、オキシナイトライド(oxinitride)およびカーボナイトライド(carbo nitride)、化学親和力を有しヒドロキシド(hydroxide)(金属(OH)x)を形成する傾向を有する元素から形成された物質、ダイヤモンドおよびダイヤモンドライクカーボン、からなる群より選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(13)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(15)前記第二の部材が、C、Fe、Al、Mg、Cu、Fe合金、Al合金、Mg合金およびCu合金からなる群より選択された少なくとも1種を含む、(1)〜(12)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0066】
(16)前記含酸素化合物が、摺動表面に付着した少なくとも1個のヒドロキシル基を有する、(1)〜(15)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(17)前記含酸素化合物が、アルコール、カルボン酸、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、およびカーボネートからなる群の少なくとも1種、および/またはアルコール、カルボン酸、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒドおよびカーボネートからなる群の少なくとも1種の誘導体を含む、(1)〜(16)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0067】
(18)前記含酸素化合物が、OH基を1つ以上含む、(1)〜(17)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0068】
(19)前記含酸素化合物が、ポリアルファ−オレフィン(PAO)、グリセロールモノオレエート(GMO)、グリセロール、H2O、および過酸化物、からなる群より選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(17)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0069】
(20)前記含酸素化合物が、H22、H22とH2Oの混合物、またはH22とグリセロールの混合物を含む、(1)〜(19)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0070】
(21)前記含酸素化合物が、多価アルコールを含む、(1)〜(19)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0071】
(22)前記多価アルコールが、イノシトール、ピロガロール、ウルシオール、ピロカテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、フラレノール、ペンタエリスリトール、その他の糖類、それらの異性体、誘導体、および置換体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、(21)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0072】
(23)前記含酸素化合物が、前記多価アルコールの少なくとも1種とグリセロールの混合物を含む、(1)〜(22)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0073】
(24)前記含酸素化合物が、前記多価アルコールの少なくとも1種とH2Oの混合物を含む、(1)〜(22)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(25)前記含酸素化合物が、滑液に見出される、(1)〜(24)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0074】
(26)前記含酸素化合物が、ルブリシンに見出される、(1)〜(25)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(27)前記含酸素化合物が、ルブリシン−OHに見出される、(1)〜(26)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0075】
(28)前記含酸素化合物が、液状物、ガス状物、ナノ粒子、または各種使用可能な蒸着技術による薄い有機蒸着膜、特にラングミュア・ブロジェット膜である、(1)〜(27)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(29)前記第一の部材の摺動表面を前処理にかけてから、第二の部材に対して摺動させる、(1)〜(28)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0076】
(30)前記第二の部材の摺動表面を前処理にさらにかけてから、第一の部材に対して摺動させる、(1)〜(29)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(31)前記前処理が、清浄化;機械的活性化、特に研磨;含酸素化合物の塗布による、化学的処理;またはレーザー、イオンビームまたは電子ビーム処理による物理的処理、を含む、(29)および(30)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0077】
(32)前記化学的処理を行う含酸素化合物が揮発性の高いものである、(31)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(33)前記揮発性の高い含酸素化合物がH22である、(32)に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【0078】
(34)含酸素化合物を塗布し、前記第二の部材に対する摺動接触をさせる前に、前記第一の部材の摺動表面を水素フリーとするが、前記含酸素化合物を第一の部材の摺動表面の上に事前または同時に塗布して、第二の部材との摺動接触に入ることによりOH末端摺動表面を作り出す、(1)〜(33)のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
(35)(1)〜(34)に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用した、燃焼機関。
【0079】
(36)(1)〜(34)に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用したことを特徴とする、医療機器。
(37)内視鏡、カテーテル、シリンジ、針、採血チューブ、および医用電子ポンプである、(36)に記載の医療機器。
【0080】
(38)(1)〜(34)に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用した、シェーバー。
(39)(1)〜(34)に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用したことを特徴とする、時計、コンプレッサー、ポンプ、ギア、ベアリング、および加工用工具(バイト)。
【0081】
(40)(1)〜(34)に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用した、精密加工。
(41)前記精密加工が冷間加工または温間加工である、(40)に記載の精密加工。
【0082】
(42)(1)〜(34)に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用した、精密機械。
(43)低摩擦潤滑アセンブリーを適用させた時計であって:第二の部材に対して相対的に摺動可能であって、その摺動表面の上にOHグループとの化学親和力を有する第一の部材;および 前記第一の部材の摺動表面の上に位置する含酸素化合物であって、OHグループとの水素結合相互作用によって、前記化学親和力を有する第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することが可能な、1種または複数の含酸素化合物を含む低摩擦潤滑アセンブリーを適用された時計。
【0083】
(44)前記第二の部材が、それの摺動表面上にOHグループとの化学親和力をさらに有し、そして前記トライボフィルムが、摺動運動に応答して前記OHグループとの水素結合相互作用によって、前記第二の部材の摺動表面にも形成されることが可能である、(43)に記載の時計。
(45)一定の摺動運動後に、前記第一の部材の摺動表面に少なくとも1個のOH末端が付与される、(43)に記載の時計。
【0084】
(46)前記第一の部材の表面に付与された少なくとも1個のOH末端と前記含酸素化合物中のOHグループとの水素結合相互作用により、第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成する、(43)または(45)に記載の時計。
(47)一定の摺動運動後に、前記第二の部材の摺動表面にさらに少なくとも1個のOH末端が付与される、(43)〜(46)のいずれかに記載の時計。
【0085】
(48)前記第二の部材の表面に付与された少なくとも1個のOH末端と前記含酸素化合物中のOHグループとの水素結合相互作用により、第二の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムをさらに形成する、(43)〜(47)に記載の時計。
(49)前記第一の部材が、少なくともAl23を含む、(43)〜(48)に記載の時計。
【0086】
(50)前記第二の部材が、FeおよびFe合金からなる群より選択された少なくとも1種を含む、(43)〜(49)のいずれかに記載の時計。
(51)前記含酸素化合物が、ポリアルファ−オレフィン(PAO)、グリセロールモノオレエート(GMO)、グリセロール、からなる群より選択される少なくとも1種を含む、(43)〜(50)のいずれかに記載の時計。
【0087】
(52)前記第一の部材が、Al23であり、前記第二の部材が、FeまたはFe合金であり、前記含酸素化合物がグリセロールである、(43)〜(51)のいずれかに記載の時計。
(53)前記Al23からなる第一の部材が、アンカーに設けられた爪であり、前記FeまたはFe合金からなる第二の部材が、ガンギ車である、(43)〜(52)のいずれかに記載の時計。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】異なった第一の部材と第二の部材から形成された低摩擦アセンブリーの模式的で一般的な概略図である。
【図2】類似の第一の部材と第二の部材を使用した低摩擦アセンブリーの模式図である。
【図3】OH末端表面を有する第一および第二の部材を有する低摩擦アセンブリーと、それぞれの表面の上の含酸素化合物(潤滑剤)としてのグリセロールの単分子層を表した図である。その点線は、水素結合と摺動界面を示す。
【図4】グリセロール潤滑を用いた水素フリーDLCと水素フリーDLCシステムの性能を示す図である。
【図5】ガス状H22潤滑を用いた水素フリーDLCと水素フリーDLCシステムを示す図である。
【図6】振動摩擦摩耗試験機(SRV摺動試験)の試験条件を模式的に示した図である。
【図7】グリセロールとta−Cとの間の結合を示した説明図である。
【図8】ta−Cおよびa−Cの範囲を示す三元系状態図である。
【図9】グリセロール潤滑を用いたルビー(Al23)/水素フリーDLCシステムの性能を示す図である。
【図10】PAO-エステル潤滑を用いたルビー(Al23)/水素フリーDLCシステムの性能を示す図である。
【図11】グリセロール潤滑を用いたルビー(Al23)/スチールシステムの性能を示す図である。
【図12】PAO-エステル潤滑を用いたルビー(Al23)/スチールシステムの性能を示す図である。
【図13】1重量%のイノシトールを含むグリセロールを潤滑剤として用いたルビー(Al23)/スチールシステムの性能を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低摩擦潤滑アセンブリーであって:
第二の部材に対して相対的に摺動可能であって、その摺動表面の上にOHグループとの化学親和力を有する第一の部材;
および
前記第一の部材の摺動表面の上に位置する含酸素化合物であって、OHグループとの水素結合相互作用によって、前記化学親和力を有する第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することが可能な1種または複数の含酸素化合物;
を含むことを特徴とする低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項2】
前記第二の部材が、それの摺動表面上にOHグループとの化学親和力をさらに有し、そして前記トライボフィルムが、摺動運動に応答してOHグループとの水素結合相互作用によって、前記第二の部材の摺動表面にも形成されることが可能であることを特徴とする、請求項1に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項3】
一定の摺動運動後に、前記第一の部材が、前記摺動表面に少なくとも1個のOH末端が付与されることを特徴とする、請求項1に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項4】
前記第一の部材の表面に付与された少なくとも1個のOH末端と前記含酸素化合物中のOHグループとの水素結合相互作用により、第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することを特徴とする、請求項1または3に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項5】
一定の摺動運動後に、前記第二の部材の摺動表面にさらに少なくとも1個のOH末端が
付与されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項6】
前記第二の部材の表面に付与された少なくとも1個のOH末端と前記含酸素化合物中のOHグループとの水素結合相互作用により、第二の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することを特徴とする、請求項1〜5に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項7】
前記第一の部材が、非晶質物質および結晶化物質からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項8】
前記第一の部材が、Si、SiO2、Al23、Si34、MgOまたは各種単一金属
もしくは混合金属の酸化物(オキサイド、oxide)、窒化物(ナイトライド、nitride)および炭化物(カーバイド、carbide)の組合せからなる群より選択される少なくとも1種
を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項9】
前記第一の部材が、シリコンカーボオキサイド(silicon carboxide)、オキシナイトラ
イド(oxinitride)およびカーボナイトライド(carbo nitride)、化学親和力を有しヒドロ
キシド(hydroxide)(たとえば金属(OH)x)を形成する傾向を有する元素から形成さ
れた物質、ダイヤモンドおよびダイヤモンドライクカーボン、からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項10】
前記ダイヤモンドライクカーボンが、10原子%以下の量の水素を含むことを特徴とする、請求項8または9に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項11】
前記ダイヤモンドライクカーボンが、実質的に水素を含まないa−Cタイプ、またはta−Cタイプのダイヤモンドライクカーボンから形成されていることを特徴とする、請求項10に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項12】
前記第二の部材が、非晶質物質および結晶化物質からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項13】
前記第二の部材が、Si、SiO2、Al23、Si34、MgOまたは各種単一金属
もしくは混合金属の酸化物(オキサイド、oxide)、窒化物(ナイトライド、nitride)および炭化物(カーバイド、carbide)の組合せからなる群より選択される少なくとも1種
を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項14】
前記第二の部材が、シリコンカーボオキサイド(silicon carboxide)、オキシナイトラ
イド(oxinitride)およびカーボナイトライド(carbo nitride)、化学親和力を有しヒドロ
キシド(hydroxide)(金属(OH)x)を形成する傾向を有する元素から形成された物質
、ダイヤモンドおよびダイヤモンドライクカーボン、からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項15】
前記第二の部材が、C、Fe、Al、Mg、Cu、Fe合金、Al合金、Mg合金およびCu合金からなる群より選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項16】
前記含酸素化合物が、摺動表面に付着した少なくとも1個のヒドロキシル基を有することを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項17】
前記含酸素化合物が、アルコール、カルボン酸、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、およびカーボネートからなる群の少なくとも1種、および/またはアルコール、カルボン酸、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒドおよびカーボネートからなる群の少なくとも1種の誘導体を含むことを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項18】
前記含酸素化合物が、OH基を1つ以上含むことを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項19】
前記含酸素化合物が、ポリアルファ−オレフィン(PAO)、グリセロールモノオレエート(GMO)、グリセロール、H2O、および過酸化物、からなる群より選択される少な
くとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項20】
前記含酸素化合物が、H22、H22とH2Oの混合物、またはH22とグリセロールの
混合物を含むことを特徴とする、請求項1〜19のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項21】
前記含酸素化合物が、多価アルコールを含むことを特徴とする、請求項1〜19のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項22】
前記多価アルコールが、イノシトール、ピロガロール、ウルシオール、ピロカテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、フラレノール、ペンタエリスリトール、その他の糖類、それらの異性体、誘導体、および置換体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項21に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項23】
前記含酸素化合物が、前記多価アルコールの少なくとも1種とグリセロールの混合物を含むことを特徴とする、請求項1〜22に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項24】
前記含酸素化合物が、前記多価アルコールの少なくとも1種とH2Oの混合物を含むことを特徴とする、請求項1〜22に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項25】
前記含酸素化合物が、滑液に見出されることを特徴とする、請求項1〜24のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項26】
前記含酸素化合物が、ルブリシンに見出されることを特徴とする、請求項1〜25のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項27】
前記含酸素化合物が、ルブリシン−OHに見出されることを特徴とする、請求項1〜26のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項28】
前記含酸素化合物が、液状物、ガス状物、ナノ粒子、または各種使用可能な蒸着技術による薄い有機蒸着膜、特にラングミュア・ブロジェット膜であることを特徴とする、請求項1〜27に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項29】
前記第一の部材の摺動表面を前処理にかけてから、第二の部材に対して摺動させることを特徴とする、請求項1〜28のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項30】
前記第二の部材の摺動表面を前処理にさらにかけてから、第一の部材に対して摺動させることを特徴とする、請求項1〜29のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項31】
前記前処理が、清浄化;機械的活性化、特に研磨;含酸素化合物の塗布による、化学的処理;またはレーザー、イオンビームまたは電子ビーム処理による物理的処理、を含むことを特徴とする、請求項29および30に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項32】
前記化学的処理を行う含酸素化合物が揮発性の高いものであることを特徴とする、請求項31に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項33】
前記揮発性の高い含酸素化合物がH22であることを特徴とする、請求項32に記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項34】
前記含酸素化合物を塗布し、前記第二の部材に対する摺動接触をさせる前に、前記第一の部材の摺動表面を水素フリーとするが、前記含酸素化合物を第一の部材の摺動表面の上に事前または同時に塗布して、第二の部材との摺動接触に入ることによりOH末端摺動表面を作り出すことを含むことを特徴とする、請求項1〜33のいずれかに記載の低摩擦潤滑アセンブリー。
【請求項35】
請求項1〜34に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用したことを特徴とする、燃焼機関。
【請求項36】
請求項1〜34に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用したことを特徴とする、医療機器。
【請求項37】
内視鏡、カテーテル、シリンジ、針、採血チューブ、および医用電子ポンプであることを特徴とする、請求項36に記載の医療機器。
【請求項38】
請求項1〜34に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用したことを特徴とする、シェーバー。
【請求項39】
請求項1〜34に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用したことを特徴とする、時計、コンプレッサー、ポンプ、ギア、加工用工具(バイト)、およびベアリング。
【請求項40】
請求項1〜34に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用したことを特徴とする、精密加工。
【請求項41】
前記精密加工が冷間加工または温間加工であることを特徴とする、請求項40に記載の精密加工。
【請求項42】
請求項1〜34に記載の低摩擦潤滑アセンブリーを適用したことを特徴とする、精密機械。
【請求項43】
低摩擦潤滑アセンブリーを適用させた時計であって:
第二の部材に対して相対的に摺動可能であって、その摺動表面の上にOHグループとの化学親和力を有する第一の部材;
および
前記第一の部材の摺動表面の上に位置する含酸素化合物であって、OHグループとの水素結合相互作用によって、前記化学親和力を有する第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することが可能な、1種または複数の含酸素化合物;
を含むことを特徴とする低摩擦潤滑アセンブリーを適用された時計。
【請求項44】
前記第二の部材が、それの摺動表面上にOHグループとの化学親和力をさらに有し、そして前記トライボフィルムが、摺動運動に応答して前記OHグループとの水素結合相互作用によって、前記第二の部材の摺動表面にも形成されることが可能であることを特徴とする、請求項43に記載の時計。
【請求項45】
一定の摺動運動後に、前記第一の部材の摺動表面に少なくとも1個のOH末端が付与されることを特徴とする、請求項43に記載の時計。
【請求項46】
前記第一の部材の表面に付与された少なくとも1個のOH末端と前記含酸素化合物中のOHグループとの水素結合相互作用により、第一の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムを形成することを特徴とする、請求項43または45に記載の時計。
【請求項47】
一定の摺動運動後に、前記第二の部材の摺動表面にさらに少なくとも1個のOH末端が
付与されることを特徴とする、請求項43〜46のいずれかに記載の時計。
【請求項48】
前記第二の部材の表面に付与された少なくとも1個のOH末端と前記含酸素化合物中のOHグループとの水素結合相互作用により、第二の部材の摺動表面に位置するようにトライボフィルムをさらに形成することを特徴とする、請求項43〜47に記載の時計。
【請求項49】
前記第一の部材が、少なくともAl23を含むことを特徴とする、請求項43〜48のいずれかに記載の時計。
【請求項50】
前記第二の部材が、FeおよびFe合金からなる群より選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項43〜49のいずれかに記載の時計。
【請求項51】
前記含酸素化合物が、ポリアルファ−オレフィン(PAO)、グリセロールモノオレエート(GMO)、グリセロール、からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項43〜50のいずれかに記載の時計。
【請求項52】
前記第一の部材が、Al23であり、
前記第二の部材が、FeまたはFe合金であり、
前記含酸素化合物がグリセロールであることを特徴とする、請求項43〜51のいずれかに記載の時計。
【請求項53】
前記Al23からなる第一の部材が、アンカーに設けられた爪であり、
前記FeまたはFe合金からなる第二の部材が、ガンギ車であることを特徴とする、請求項43〜52のいずれかに記載の時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−92351(P2012−92351A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28008(P2012−28008)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2008−513293(P2008−513293)の分割
【原出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(308032172)
【Fターム(参考)】