説明

低温での結晶沈殿が抑制されたパームオレイン含有油脂組成物

【課題】結晶形成が抑制されたパームオレイン含有油脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)パームオレイン 30〜45質量%、(B)大豆油 55〜70質量%を含有する油脂組成物であって、該油脂組成物中の総トリパルミトイルグリセロール(PPP)含有量が0.1質量%未満であり、該油脂組成物中の総ジパルミトイルオレオイルグリセロール(P2O)含有量が5質量%以下であり、かつ20℃で液状である油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パームオレインを含有する油脂組成物、特に食用に好適な油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年度の日本の食用油脂需要は、菜種油84万トン、大豆油72万トンであり、それに次いでパーム油が35万トンとなっている。パーム油の生産量は年々増加しており、それに伴い一般消費者用の商品へ使用することが期待されている。しかし、パーム油及びパーム分別油を他の液状油脂と混合した場合、液状油脂単体と比較して、容易に結晶や沈殿が生じるため、使い勝手が悪く、一般消費者に受け入れられるような商品が輩出されていないのが現状である。
【0003】
上記課題を克服するために、液状油脂に少量のパーム油やパーム分別油を混ぜる方法が採られてきた。しかしながら、この方法では混合するパーム油やパーム分別油は少量に止まり、実用的な量を入れることはできなかった。
【0004】
また、上記課題を克服するために、結晶形成を抑制する効果を有する乳化剤を添加する方法が採られてきた(例えば、特許文献1)。上記乳化剤は数多く存在し、実際にその効果は大きいものの、上記乳化剤を含む油脂組成物においても、結晶形成を抑制する効果が十分でなく、一般消費者に受け入れられるような商品を再現性よく大量に作ることは困難である。これは、結晶形成を高度に抑制した油脂組成物を作るためには、上記乳化剤を添加した油脂組成物においても、なお、油脂組成物の組成を高度に調整することが必要であることを示唆するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2004−189965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて、パームオレインをかなりの量で含有する油脂組成物であって、低温での結晶沈殿が抑制された油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、パームオレインを比較的多く含有する油脂組成物において、油脂組成物を構成するトリアシルグリセロール中の総トリパルミトイルグリセロール(PPP)の量及び総ジパルミトイルオレオイルグリセロール(P2O)の量が、低温での結晶析出に関連性を有し、この含有量を特定の値以下にすると、上記課題を解決できるとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、(A)パームオレイン30〜45質量%、(B)大豆油55〜70質量%を含有する油脂組成物であって、該油脂組成物中の総トリパルミトイルグリセロール(PPP)含有量が0.1質量%未満であり、該油脂組成物中の総ジパルミトイルオレオイルグリセロール(P2O)含有量が5質量%以下であり、かつ20℃で液状であることを特徴とする油脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、パームオレインを比較的多く含有するにも係わらず、結晶形成に由来するにごりが生じにくく、透明性が優れているので、一般消費者に受け入れられるような油脂組成物を再現性良く大量に作ることができるとの実用上大きな利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いる成分(A)パームオレインは、パーム油から分別して得ることができる。パーム油は、具体的には、アブラヤシの果房を蒸気で処理した後、圧搾法により採油し、次いで、遠心分離を行い繊維や夾雑物を取り除き、乾燥し、その後、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭の精製を経てえることができる。精製方法として、化学的精製や物理的精製等があるが、いずれも用いることができる。パーム油は、常温で半固状、半液状である。
本発明では、このようにして得られたパーム油を原料とし、ここに含まれているPPPの含有量を低減させたものと用いる。このうち、パームオレイン中の総トリパルミトイルグリセロール(PPP)含有量を0.1質量%未満としたものを用いるのが好ましい。このようなパームオレインは、例えば、パーム油の3段分別法により得ることができる。ここで、パーム油の分別方法は特に限定がなく、通常は冷却による自然分別法を用いるが、界面活性剤や溶剤により分別する方法を用いることが可能である。これらのうち、自然分別法による方法を用いるのが好ましい。尚、ここで、総トリパルミトイルグリセロール(PPP)とはグリセリンに結合している全ての脂肪酸がパルミチン酸であるものをいう。
【0010】
さらに、本発明では、総ジパルミトイルモノオレオイルグリセロール(P2O)含有量が12.5質量%未満(より好ましくは12質量%未満)のパームオレインを用いるのが好ましく、又、総パルミトイルジオレオイルグリセロール(PO2)含有量が30質量%以上(より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは37質量%以上)のものを用いるのが好ましい。ここで、総パルミトイルジオレオイルグリセロール(PO2)含有量は45質量%以下のものが好ましく、特に42質量%以下のものが好ましい。
本発明では、上記パームオレインを油脂組成物中に30〜45質量%、好ましくは42質量%以下(より好ましくは40質量%以下)の量で含有させるのが好ましい。
ここで、パームオレインを含有する油脂組成物を構成するトリアシルグリセロール中のPPP等の量は、例えば、ガスクロマトグラフ測定方法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)に準ずる)などの方法により容易に測定することができる。
【0011】
本発明で用いる成分(B)としては、大豆油を用いる。本発明では、成分(B)の含有量は55〜70質量%であるが、本発明の油脂組成物における油分としては、成分(A)と(B)の油からなるものを用いるのが好ましい。
本発明では、成分(A)と(B)の油を含有する油脂組成物における総トリパルミトイルグリセロール(PPP)含有量が0.1質量%未満であり、かつ20℃で液状であることが重要である。ここで、該油脂中のPPP含有量が0.05質量%未満であるのが好ましい。
又、該油脂組成物中の総ジパルミトイルモノオレオイルグリセロール(P2O)含有量が5質量%未満であることが重要であり、P2O含有量が4.5質量%以下であるのが好ましい。
【0012】
さらに、該油脂組成物中の総パルミトイルステアロイルオレオイルグリセロール(PSO)含有量が1.5質量%未満(より好ましくは1.3質量%未満)であるのが好ましい。又、該油脂組成物中の総ジパルミトイルオレオイルグリセロール(P2O)含有量と総ジパルミトイルリノレオイルグリセロール(P2L)含有量と総パルミトイルステアロイルオレオイルグリセロール(PSO)含有量の合計含有量が11質量%未満(より好ましくは10質量%未満)であるのが好ましい。
さらに、該油脂組成物中の総パルミトイルジオレオイルグリセロール(PO2)含有量が15質量%以上であるのが好ましく、15.5質量%以上であるのがさらに好ましい。
又、本発明の油脂組成物が、20℃で液状であることは、例えば、容器に充填した油脂組成物を20℃で24時間保存し、その状態を照度1000Lux以上の蛍光灯下で、目視し、例えば、清澄で流動性があることにより確認できる。
【0013】
本発明では、さらに、乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させるのが好ましい。例えば、サンソフトQMP−5、サンソフトQMP−1(商品名、ともに太陽化学株式会社製)、THL−15、THL−17、THL−44(商品名、いずれも阪本薬品工業株式会社)を用いることができる。
本発明では、上記油脂組成物100質量部当り、該乳化剤を0.01〜10質量部、好ましくは0.03〜5質量部、より好ましくは0.05〜2質量部加えるのがよい。
【0014】
本発明の油脂組成物の製造方法としては、特に限定はなく、通常、パームオレインとパームオレイン以外の油脂を混合し、均一になるまで攪拌すれば良い。
大量生産する場合、より混合しやすくする目的で、パームオレインや添加剤(乳化剤)を加熱(例えば、40℃)してから、パームオレイン以外の油脂に加えて混合攪拌しても良い。
【0015】
(その他の成分)
本発明の油脂組成物中には、例えば、一般的な食用油脂に用いられる成分(食品添加物など)を添加することができる。このような成分としては、例えば、酸化防止剤、食感改良剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。
また、香辛料や着色成分等も添加することができる。
香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン等が挙げられる。
【0016】
本発明の油脂組成物は、広範な用途で使用される。例えば、炒め物(焼きそば、野菜炒め等)、揚げ物(天ぷら、コロッケ、トンカツ等)、マヨネーズ、ドレッシング、スプレー用途(油を食材にスプレーしてオーブンや電子レンジで加熱する)、離型油等に用いることができる。
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0017】
実施例において、「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。また、特別な記載がない場合、大豆油は日清オイリオグループ(株)製の商品名「日清大豆サラダ油」を用いた。又、表1に、パーム油、パームオレインA及びBの特性(ヨウ素価、トリグリセリドの構成脂肪酸の割合(質量%)及びトリアシルグリセロール組成(質量%))を示す。
パーム油は常法により精製した精製パーム油を用いた。パームオレインAは、上記パーム油を、自然分別法により2回分別精製して製造した。パームオレインBは、上記パームオレインAをさらに自然分別法により分別精製して製造した(分別精製:合計3回)。
【0018】
表1

*1は測定限界を示す。
【0019】
尚、表中、ジ飽和モノ不飽和は、ジ飽和モノ不飽和脂肪酸アシルグリセロールを、モノ飽和ジ不飽和は、モノ飽和ジ不飽和脂肪酸アシルグリセロールを示す。又、PPP(tripalmitoylglycerol)は脂肪酸としてパルミチン酸を3つ有するトリアシルグリセロール、P2Oは(dipalmitoyl oleoyl glycerol)脂肪酸としてパルミチン酸を2つ、オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール、P2L(dipalmitoyl linoleoyl glycerol)は脂肪酸としてパルミチン酸を2つ、リノール酸を1つ有するトリアシルグリセロール、PSOは(palmitoyl stearoyl oleoyl glycerol)脂肪酸としてパルミチン酸を1つ、ステアリン酸を1つ、オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール、PO2(palmitoyl dioleoyl glycerol)は脂肪酸としてパルミチン酸を1つ、オレイン酸を2つ有するトリアシルグリセロール、POLは脂肪酸としてパルミチン酸を1つ、オレイン酸を1つ、リノール酸を1つ有するトリアシルグリセロールを示す。
【0020】
表中の特性値は、以下の方法によって測定した。
ヨウ素価
「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996」の方法に準拠じて行った。
ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセロールなど
ガスクロマトグラフ測定方法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993))に準じて行った。
ガスクロマトグラフィ−は、HP6890(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。カラムは007-65HT(15m×0.25mmI.D.×0.1μm)(Quadrex社製)を用い、温度条件は350℃(1℃/min)〜360℃で行った。分析条件、ピークの帰属は、JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)のFIG.2を参照した。組成比は、クロマト上の総面積を100とし、面積%で表記した。
上記方法により、P2OやPO2の量などのトリアシルグリセロール組成を測定してから、それぞれに該当する成分の量の和を求めることにより、ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセロール、モノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセロール、の量を算出した。
【0021】
[実施例1]
(実験方法)
表2に示した割合の混合油脂(本発明品、比較例1及び2)を作り、充填した。混合油脂は、表3の特性を有するものであった。この混合油脂を用いて、以下の方法で耐冷性試験を行い、評価を行った。結果を表4に示す。
(油脂組成物の製造方法)
表2に示した油脂の必要量を計りとり、攪拌機にいれて十分混合攪拌した。ここで、乳化剤としては、市販のポリグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製、商品名;サンソフトQMP−5)を用い、油脂組成物99.9質量部に対して0.1質量部となる量で用いた。表3に得られた油脂組成物の特性を示す。
【0022】
(油脂組成物の充填方法)
得られた油脂組成物を、1000g用の遮光処理を施していない透明容器に、1000gになるよう充填した。この遮光処理を施していない透明容器は、市販されている日清キャノーラ油 ヘルシーライト(日清オイリオグループ株式会社製)と同じものである。
(耐冷性試験)
容器に充填した油脂組成物を、0℃で、3〜14日間保持して、下記の評価基準で耐冷性を評価した。この評価で○○以上の場合、透明度の点で商品価値があると判断する。
[評価基準]
○○○:清澄である。
○○ :僅かにもやがある。
○ :少しもやがある。
× :全体にもやがある。
×× :白色沈殿が生じる。又は、全体に白濁がある。
×××:白色沈殿が固化している。
結果をまとめて表4に示す。
【0023】
表2

【0024】
表3

*2は、推定値を示す。
室温での状況については、容器に充填した油脂組成物を20℃で24時間保存し、その状態を照度1000Lux以上の蛍光灯下で、目視して調べた。
【0025】
表4

なお、表中「−」は未測定を示す。
【0026】
表4に示すとおり、本発明品は、比較例に比べて、優れた耐冷性を示すことが判る。
[実施例2]
結晶の発生の原因を究明するため、実施例1の油脂組成物(本発明品)を過酷な条件下に置いて、強制的に結晶を生じさせ、結晶化して沈殿した部分と、その他の部分に分けて、それぞれの部分について、成分を分析した。
(実験方法)
実施例1と同様の方法により油脂組成物(本発明品)を調製し、これを充填した容器を、0℃で約3ヶ月間保存して、十分に沈殿を生じさせた。その沈殿が生じている油脂を低温室でろ過し、沈殿または白濁部分(固形部)と、その他の部分(沈殿や白濁しなかった部分、液状部)を分けた。次に、それぞれを室温下に置いて室温まで戻し、次いで100℃に加熱して十分に攪拌して、透明な油脂組成物を得た。
固形部及び液状部のトリアシルグリセロール組成(質量%)を、表5に示す。
【0027】
表5

*1は測定限界を示し、*2は推定値を示す。
【0028】
表5に示すとおり、PO2、MPO、MPL、S2O含量は3者でほとんど変化はなかったが、固形部には、他の2者と比較して、PPP含量が大きく偏った。これにより、結晶形成には、PPPが大きく寄与している可能性が示唆された。
また、固形部には、他の2者と比較して、P2O、P2L、PSO含量が偏った。これにより、結晶形成には、P2O、P2L、PSOが、結晶の原料に用いられやすい可能性が示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)パームオレイン 30〜45質量%、
(B)大豆油 55〜70質量%
を含有する油脂組成物であって、該油脂組成物中の総トリパルミトイルグリセロール(PPP)含有量が0.1質量%未満であり、該油脂組成物中の総ジパルミトイルオレオイルグリセロール(P2O)含有量が5質量%以下であり、かつ20℃で液状であることを特徴とする油脂組成物。
【請求項2】
さらに、該油脂組成物中の総パルミトイルステアロイルオレオイルグリセロール(PSO)含有量が1.5質量%未満である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
さらに、該油脂組成物中の総ジパルミトイルオレオイルグリセロール(P2O)含有量と総ジパルミトイルリノレオイルグリセロール(P2L)含有量と総パルミトイルステアロイルオレオイルグリセロール(PSO)含有量の合計含有量が11質量%未満である請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
該油脂組成物が、さらに、乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステルを含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項5】
さらに、該油脂組成物中の総パルミトイルジオレオイルグリセロール(PO2)含有量が15質量%以上である請求項1〜4のいずれか1項記載の油脂組成物。

【公開番号】特開2009−19196(P2009−19196A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148330(P2008−148330)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】