説明

低温乾式殺菌方法および装置

【課題】 小型で簡便な装置を用いて、安全かつ確実に殺菌を行うことができる低温殺菌法を提供する。
【解決手段】 ガスボンベ(ガス供給源)8と、ガスボンベ8から供給されたガスを励起して、高エネルギー粒子を含む温度非平衡状態のガスを発生させる高エネルギー粒子発生部1〜3と、高エネルギー粒子発生部1〜3で発生した温度非平衡状態のガスを外部の病原微生物に噴射させるガス噴出部4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中において高エネルギー粒子等を用いて物体や生体表面に生存する細菌の殺菌を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SARSや鳥インフルエンザ等の病原菌による感染症が突発的に世界的規模で発生し、大きな社会問題となっている。この問題に対する国民の意識は高く、安全でかつ取り扱いが容易な殺菌・消毒技術を確立することが強く求められている。
一方、医療機関や一般家庭等においては、通常、殺菌・洗浄は消毒液を用いて行われているが、現状では、安全性と有効性の両面で完全な消毒液は存在せず、目的に応じた使い分けがされているにすぎない。また、食用の家畜や食品の原料となる家畜の飼育舎における殺菌・消毒の現状は、消毒薬の散布に依存していて甚だ不十分であり、これら家畜の感染予防技術の開発も緊急の課題となっている。
【0003】
また、従来公知の医療用小型低温殺菌装置としては、酸化エチレンガスを用いた殺菌装置、過酸化水素低温ガスプラズマ殺菌装置および放射線を用いた殺菌装置等がある。しかしながら、酸化エチレンガス殺菌装置は、法的規制のある発ガン性物質を用いる点で問題があり、過酸化水素低温ガスプラズマ殺菌装置では、真空装置が必要であり、コストが高くつき、操作が容易ではないという問題があり、放射線を用いた殺菌装置では、高価な放射線発生装置が必要であり、設置場所が限定されるといった問題があった。また、いずれの殺菌装置も医療用器材の殺菌が対象とされ、バッチ式殺菌を採用しているため,殺菌する対象物が限定されるという問題があった。
【特許文献1】特開平6−23023号公報
【特許文献2】特開2002−85531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、小型で簡便な装置を用いて、安全かつ確実に殺菌を行うことができる低温殺菌法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、ガスを励起して、高エネルギー粒子を含む温度非平衡状態のガスを発生させ、前記温度非平衡状態のガスを病原微生物に噴射することによって殺菌を行うことを特徴とする低温乾式殺菌方法を構成したものである。
ここに、温度非平衡状態のガスとは、例えば、病原微生物を死滅させるのに十分高い内部エネルギーを有している粒子が存在している一方、それが有する熱エネルギーが小さく、初期の目的に適したエネルギー状態をもつガスである。
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、また、ガス供給源と、前記ガス供給源から供給されたガスを励起して、高エネルギー粒子を含む温度非平衡状態のガスを発生させる高エネルギー粒子発生部と、前記高エネルギー粒子発生部で発生した温度非平衡状態のガスを外部の病原微生物に噴射させるガス噴出部と、を備えていることを特徴とする低温乾式殺菌装置を構成したものである。
【0007】
上記構成において、好ましくは、前記高エネルギー粒子発生部は、前記ガス供給源からガスの供給を受けるチャンバと、前記チャンバに対し、前記チャンバ内のガスを励起するための電磁界を供給する電磁界発生部と、前記電磁界発生部に電圧を供給する高圧電源と、からなり、前記ガス噴出部は、前記チャンバに接続されたガス噴出管からなっている。
【0008】
上記構成において、さらに好ましくは、前記高エネルギー粒子発生部は、発生させた前記温度非平衡状態のガスを前記ガス噴出部への導入前に冷却するための冷却手段を備えている。また、前記ガス供給源は、1種類のガスまたは2種類以上の混合ガスを供給するようになっていることが好ましい。
【0009】
さらには、前記高エネルギー粒子発生部は、前記ガス供給源からガスの供給を受けるためのガス供給口に流動変動弁を備えていることが好ましく、また、前記高エネルギー粒子発生部および前記ガス噴出部の少なくとも一方に、発生した温度非平衡状態のガス中に水蒸気を混入させる手段が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高エネルギー粒子を含む温度非平衡状態のガスを物体や生体に噴射することによって殺菌を行うので、十分な殺菌機能を生じさせる一方で、物体や生体への損傷を大幅に低減することができる。また、照射対象が金属のような耐熱性のものであれば、噴射するガスの温度を50℃以上にすることで、殺菌時間を短縮させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例について説明する。図1は、本発明の1実施例による低温乾式殺菌装置の概略構成を示した図である。
図1を参照して、本発明による低温乾式殺菌装置は、ガスボンベ(ガス供給源)8と、ガスボンベ8から供給されたガスを励起して、高エネルギー粒子を含む温度非平衡状態のガスを発生させる高エネルギー粒子発生部1〜3と、高エネルギー粒子発生部1〜3で発生した温度非平衡状態のガスを外部の病原微生物に噴射させるガス噴出部4を備えている。
この実施例では、単一のガスボンベ8が備えられ、1種類のガスが供給されるようになっているが、複数本のガスボンベを備えて、2種類以上の混合ガスを供給する構成とすることもできる。
【0012】
高エネルギー粒子発生部1〜3は、この実施例では、マイクロ波プラズマ源からなっている。マイクロ波プラズマ源は、プラズマトーチ3と、マイクロ波電源1と、マイクロ波電源1からプラズマトーチ3に電力を供給する同軸ケーブル2とから構成されている。
図示されないが、プラズマトーチ3は、ガスボンベ8からガスの供給を受けるチャンバと、このチャンバに対し、チャンバ内のガスを励起するための電磁界を供給する電磁界発生部とを有している。また、ガス噴出部は、プラズマトーチ3に備えられたプラズマ噴出管4からなっている。
なお、この実施例では、装置作動時の安全確保のために、マイクロ波プラズマ源におけるマイクロ波電源1を除く部分は、ドラフトチャンバー7内に収容されている。
【0013】
好ましい実施例によれば、プラズマトーチ3は、発生させた温度非平衡状態のガスをプラズマ噴出管4への導入前に冷却するための冷却機構を備えている。また、プラズマトーチ3は、そのチャンバにおけるガス供給口に流動変動弁を備えていることが好ましい。 さらに、プラズマトーチ3のチャンバおよびプラズマ噴出管4の少なくとも一方に、発生した温度非平衡状態のガス中に水蒸気を混入させる手段が設けられていることが好ましい。
【0014】
こうして、マイクロ波電源1から同軸ケーブル2を通じて、プラズマトーチ3に電力が供給される。また、ガスが、ガスボンベ8からプラズマトーチ3に供給される。そして、プラズマトーチ3で生成されたプラズマが、基板6に固定されたサンプル5に照射され、殺菌が行われる。
【0015】
次に、上述の低温乾式殺菌装置による実際の殺菌作用を調べるべく、試験を行った。試験内容は次のとおりである。
マイクロ波の周波数は2.45GHzであり、投入電力は300〜400Wであった。ガスとして、アルゴン、ヘリウムおよび酸素が使用され、最大流量は20SLMとされ、また、これらのガスの混合が可能とされた。
【0016】
サンプル5を設置する基板上の温度が、323K、333K、353K、383Kとなるように、適宜照射距離が、70mmから150mmの間で調整された。また、アルゴンガスを通したステンレス管を電熱ヒーターで加熱することで、加熱アルゴンガスが供給された。殺菌時間は10分、20分、30分、40分とされた。
本発明の低温乾式殺菌装置との比較のため、紫外線照射による殺菌を行い、254nmを発生する水銀紫外線ランプ(UVランプ)を使用して、サンプルに紫外線が照射された。
【0017】
ガス温度は、E型熱電対で計測された。サンプルとして、バイオインジケーター(3M製、Attest290)とNo.1291のサンプルが使用された。このサンプルは、自然環境にも存在する枯草菌の芽胞を紙片に塗布したのもからなっている。
殺菌効果の確認が、処理済のサンプル5をバイオインジケーターに挿入して判定を行うことによりなされた。バイオインジケーターによりサンプルが陰性(−)と判定された場合は、細菌数が10−5減少していることが保証される。一方、陽性(+)と判定された場合は、10−5の殺菌効果が得られていないことが示される。
【0018】
枯草菌の芽胞の状態が、キーエンス製リアルサーフェース顕微鏡VE−7800を用いて撮影された。図2〜図5は、それぞれ、この実験で得られたサンプル表面に塗布されている枯草菌の芽胞の写真であり、図2は、未処理のもの、図3は、アルゴンプラズマ照射(353K)を実施したもの、図4は、加熱アルゴンガス照射(353K)を実施したもの、図5は、UV照射を実施したものを示している。芽胞は、未処理で長さ1〜2μm程度の繭型であり、その分布は一様でなく、紙の繊維の谷間などに密集している。処理による芽胞の状態の違いは、写真からは判断が困難であったが、処理による密集の度合や芽胞が小さくなる現象が見られた。
【0019】
図6は、殺菌温度および殺菌処理方法に対する殺菌率の違いを示したグラフである。図6中、殺菌率(%)は、(陰性を示したサンプル数)/(同じ殺菌条件下の総サンプル数)×100により算出された値である。
【0020】
この実験により、以下のことがわかった。
(1)殺菌温度が上昇するに従い、殺菌率が増大すること。
(2)アルゴンプラズマと加熱アルゴンガスの照射では、アルゴンプラズマの照射の方が明らかに殺菌率が高いこと。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の1実施例による低温乾式殺菌装置の概略構成を示した図である。
【図2】殺菌されていないサンプル表面に塗布されている枯草菌の芽胞の写真である。
【図3】アルゴンプラズマ照射(353K)による殺菌処理がなされたサンプル表面に塗布されている枯草菌の芽胞の写真である。
【図4】加熱アルゴンガス照射(353K)による殺菌処理がなされたサンプル表面に塗布されている枯草菌の芽胞の写真である。
【図5】UV照射による殺菌処理がなされたサンプル表面に塗布されている枯草菌の芽胞の写真である。
【図6】殺菌温度および殺菌処理方法に対する殺菌率の違いを示したグラフである。
【符号の説明】
【0022】
1 マイクロ波電源
2 同軸ケーブル
3 プラズマトーチ
4 プラズマ噴出管
5 サンプル
6 基板
7 ドラフトチャンバー
8 ガスボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを励起して、高エネルギー粒子を含む温度非平衡状態のガスを発生させ、前記温度非平衡状態のガスを病原微生物に噴射することによって殺菌を行うことを特徴とする乾式殺菌方法。
【請求項2】
ガス供給源と、
前記ガス供給源から供給されたガスを励起して、高エネルギー粒子を含む温度非平衡状態のガスを発生させる高エネルギー粒子発生部と、
前記高エネルギー粒子発生部で発生した温度非平衡状態のガスを外部の病原微生物に噴射させるガス噴出部と、を備えていることを特徴とする低温乾式殺菌装置。
【請求項3】
前記高エネルギー粒子発生部は、
前記ガス供給源からガスの供給を受けるチャンバと、
前記チャンバに対し、前記チャンバ内のガスを励起するための電磁界を供給する電磁界発生部と、
前記電磁界発生部に電圧を供給する高圧電源と、からなり、
前記ガス噴出部は、前記チャンバに接続されたガス噴出管からなっていることを特徴とする請求項2に記載の低温乾式殺菌装置。
【請求項4】
前記高エネルギー粒子発生部は、発生させた前記温度非平衡状態のガスを前記ガス噴出部への導入前に冷却するための冷却手段を備えていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の低温乾式殺菌装置。
【請求項5】
前記ガス供給源は、1種類のガスまたは2種類以上の混合ガスを供給することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の低温乾式殺菌装置。
【請求項6】
前記高エネルギー粒子発生部は、前記ガス供給源からガスの供給を受けるためのガス供給口に流動変動弁を備えていることを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれかに記載の低温乾式殺菌装置。
【請求項7】
前記高エネルギー粒子発生部および前記ガス噴出部の少なくとも一方に、発生した温度非平衡状態のガス中に水蒸気を混入させる手段が設けられていることを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれかに記載の低温乾式殺菌装置。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−102004(P2006−102004A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290628(P2004−290628)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)9月4日 社団法人日本機械学会発行の「2004年度年次大会講演論文集(2)」に発表
【出願人】(392036326)株式会社アドテック プラズマ テクノロジー (24)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】