説明

低温脱着材料、その製造方法及び低温脱着方法

【課題】水分吸着可能なゼオライトからなる低温脱着材料であって、該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に、100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で脱着し得る低温脱着材料を提供する。
【解決手段】水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下、100℃以下の温度にて脱着し得る低温脱着材料であって、
前記水分吸着可能なゼオライトが、(A)ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の10%以上が2価の金属のイオンであり、SiO2/Al23モル比が3.0以上であるY型ゼオライトであることを特徴とする低温脱着材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温脱着材料、その製造方法及び低温脱着方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、特定な性状を有する水分吸着可能なゼオライトからなる低温脱着材料であって、該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に100℃以下、好ましくは80℃以下の温度で脱着し得る低温脱着材料、その効果的な製造方法、及び水分が吸着されてなる低温脱着材料を、大気圧下又は減圧下に100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で加熱処理して、水分を脱着させる低温脱着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、低温で水や水蒸気を吸着し、加熱すると吸着した水を脱着することで、繰り返し水分除去に使用できる材料として、例えばゼオライト、活性炭、シリカゲル、アルミナ等が広く知られているが、それらの中でゼオライトはその構造中に極性の高いカチオン部分を有するために他の吸着材と較べて相対湿度10%以下の低湿度においても吸着性能を保つことから、高機能脱水材として広範囲に用いられている。
しかし、吸着と脱着とを繰り返し行うためには吸着時に多量の水分を吸着し、かつ脱着時にはできるだけ低温で吸着した水を脱着する材料が望まれている。
【0003】
ところで、吸着ヒートポンプは補助動力を用いることなく、低質熱エネルギーを熱源として作動させうる最も優れた排熱回収再生方法の一つであり、環境共生型熱エネルギー利用システムへの導入有力候補とされている。この作動過程においては、吸着質、例えば水を吸着した吸着材を再生するために、吸着材を加熱して吸着質を脱着させ、乾燥した吸着材を吸着質の吸着に使用する温度まで冷却して再度吸着質の吸着に使用する。
【0004】
これまで、120℃以上の比較的高温での排熱・温熱を、吸着材の再生熱源として利用する吸収式ヒートポンプが、熱電併給プラント(コジェネレーションシステム)の一部として導入されるといった形で既に実用化されている。しかし一般にコジェネレーション機器、燃料電池では最終的に排熱・温熱の温度が100℃以下、現実的には80℃以下と比較的低温であるため、現在実用化されている吸収式ヒートポンプの駆動熱源としては利用できないのが実状である。
【0005】
吸着ヒートポンプや調湿空調装置において、高温側の熱源として用いられるガスエンジンコージェネレーションや固体高分子型燃料電池の排熱温度は60℃〜80℃である。これらの高温熱源を用いる際に使用する冷却側の熱源温度は、装置の設置可能な場所温度の制約によって決まる。例えば、工場や住宅などでは建物の外気温度となる。つまり、吸着ヒートポンプや調湿装置の操作温度範囲は、ビルなどに設置する場合には低温側が30℃〜35℃、高温側が60℃〜80℃程度である。また冷熱需要が増大する夏季には、外気温度の上昇が予想され、低温側の温度は上記以上となる可能性が高い。従って排熱を有効利用するためには、適用場の低温側熱源と高温側熱源の温度差が小さく、かつ低温側熱源が30℃以上、高温側熱源が80℃以下でも駆動できる装置が望まれている。
【0006】
一方、吸着ヒートポンプ又は調湿空調装置に用いる吸着材として、各種の吸着材の使用が検討されているが、諸種の問題点があり、その解決が望まれている。
吸着ヒートポンプや調湿空調用吸着材として従来より検討されているY型ゼオライトは相対蒸気圧がほぼ0に近い値であっても吸着物質を吸着するので、吸着物質を脱着させるには、相対蒸気圧をほぼ0にするために150℃〜200℃以上の高温が必要となる。したがって、これまでY型ゼオライトは、上述した低温廃熱を利用した吸着ヒートポンプや調湿装置に用いることが難しいという問題があった。
【0007】
また、例えば、K+またはAg+の1価金属イオンでイオン交換したゼオライトなどを用いるヒートポンプが知られている。ヒートポンプシステムを有効に活用するためには、水分吸着熱が大きいことと同時に、水の蒸発潜熱を効率的に冷熱に変換することが大きなポイントである。そのためには、常温付近における吸着量が大きく、且つ例えば100℃以下のより低い再生温度では吸着量が大きく低下する、いわゆる有効吸着量の大きいゼオライトほど利用価値が高いと言える。しかしながら、前記公知のゼオライトは、常温付近の吸着量は大きいものの比較的低い100℃以下の再生温度でも吸着量が大きく、有効吸着量は小さい。
【0008】
除湿空調用および揮発性有機物除去用に有効なゼオライトとして、希土類交換FAU型ゼオライトや安定化FAU型ゼオライトが提案されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。希土類交換ゼオライトや安定化FAU型ゼオライトの有効吸着量は十分とは言えず、また高価であるためその用途が自ずから限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許5503222号明細書
【特許文献2】米国特許5512083号明細書
【特許文献3】米国特許5518977号明細書
【特許文献4】米国特許5535817号明細書
【特許文献5】米国特許5667560号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況下になされたもので、水分吸着可能なゼオライトからなる低温脱着材料であって、該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で脱着し得る低温脱着材料、その効果的な製造方法、及び水分が吸着されてなる低温脱着材料を、大気圧下又は減圧下に100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で加熱処理して、水分を脱着させる低温脱着方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該水分吸着可能なゼオライトが、特定の性状を有するY型ゼオライトであると、低温脱着材料として、その目的に適合し得ること、そして、このものは特定の工程を施すことにより、効率よく製造し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下、100℃以下の温度にて脱着し得る低温脱着材料であって、
前記水分吸着可能なゼオライトが、該ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の10%以上が2価の金属のイオンであり、SiO2/Al23モル比が3.0以上であるY型ゼオライトであることを特徴とする低温脱着材料、
[2]前記2価の金属のイオンが、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種である上記[1]に記載の低温脱着材料、
[3]前記ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の30%以上が、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種である上記[1]又は[2]に記載の低温脱着材料、
[4]水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に、100℃以下の温度にて脱着し得る低温脱着材料の製造方法であって、
構造中にプロトン、アルカリ金属及びアルカリ土類金属原子の少なくともいずれかを含み、かつ2価の金属のイオンの含有比率がイオン交換可能なイオン数の10%未満であり、SiO2/Al23モル比が3.0以上であるY型ゼオライトを水、アルコール類、ケトン類、エステル類及びエーテル類から選ばれる少なくとも一種の溶媒に懸濁させてゼオライト懸濁液とする工程と、
該ゼオライト懸濁液と2価の金属化合物とを接触させることにより、構造中のイオン交換可能なイオン数の10%以上を前記2価の金属のイオンに交換する工程とを有することを特徴とする低温脱着材料の製造方法、
[5]前記2価の金属化合物が、ハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物及び硫酸塩から選ばれる少なくとも一種である上記[4]に記載の低温脱着材料の製造方法、
[6]前記ゼオライト懸濁液中のゼオライトと前記2価の金属化合物との割合が、質量比で1:0.5〜1:100の範囲である上記[4]または[5]に記載の低温脱着材料の製造方法、
[7]前記2価の金属化合物が、硝酸塩または塩化物である上記[4]〜[6]のいずれかに記載の低温脱着材料の製造方法、
[8]前記2価の金属のイオンに交換する工程が、構造中のイオン交換可能なイオン数の20%以上を2価の金属のイオンに交換する工程である上記[4]〜[7]のいずれかに記載の低温脱着材料の製造方法、及び
[9]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の低温脱着材料を、大気圧下又は減圧下に、100℃以下の温度で加熱処理することにより、水分を脱着することを特徴とする低温脱着方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で脱着し得る低温脱着材料、その効果的な製造方法及び水分が吸着されてなる低温脱着材料を、大気圧下又は減圧下に100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で加熱処理して、水分を脱着させる低温脱着方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の低温脱着材料について説明する。
[低温脱着材料]
本発明の低温脱着材料は、水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に100℃以下の温度にて脱着し得る低温脱着材料であって、
前記水分吸着可能なゼオライトが、該ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の10%以上が2価の金属のイオンであり、SiO2/Al23モル比が3.0以上であるY型ゼオライトであることを特徴とする。
なお、本発明において前記「脱着」とは、大気圧下、吸水した水を、吸水前の自重の3.0質量%以上放出することをいう。
【0015】
(ゼオライトの種類)
ゼオライトは、ケイ酸塩の縮合酸の構造を有し、その基本単位は、ケイ素(Si)を中心として形成される4個の酸素(O)が頂点に配置されたSiO44面体と、このSiO44面体のケイ素の代わりにアルミニウム(Al)が置換したAlO44面体であり、これらと他の種々の基本構造の単位が三次元的に組み合わさり、無数の微細なチャンネル(通路)とケージ(空洞)が形成されたものである。このチャンネル、ケージは、分子吸着やイオン交換などの多様な特性を発現する。
ゼオライトの組成は、1価及び2価のカチオンを、それぞれM+、M2+で示すと、下記式(1)のように表すことができる。
【0016】
(M+,M2+1/2m[AlmSin2(m+n)]・xH2O ・・・(1)
+=Li+,Na+,K+,Rb+,(CH34+,(C254+,(C374+,C816+
2+=Ca2+,Mg2+,Ba2+,Sr2+,C81822+
(式中、m及びnは整数でn≧mであり、xは0以上の数である。)
なお、前記C816+は、7−アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン−7,7−ジメチルアンモニウムイオンであり、C81822+は、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジメチルアンモニウムイオンである。
【0017】
合成ゼオライトでは、SiO2/Al23モル比がほぼ1.8〜1.9のものをA型、該モル比が2〜3のものをX型、該モル比が3〜6のものをY型と呼んで区分している。また、1価および2価のカチオンの一部または全部を他の陽イオンと可逆的にイオン交換することができる。イオン交換可能なイオンの価数を考慮してカルシウム(Ca)のみまたはカルシウムを主として含むA型ゼオライトはCaA型と呼ばれ、ナトリウム(Na)のみまたはナトリウムを主として含むA型ゼオライトはNaA型と呼ばれている。
また、ZSM−5は、Mobil Oil社(米)により開発された、十員酸素環をもつ高シリカ−ペンタシル型合成ゼオライトであり、その類縁体として、ZSM−11、シリカライト、シリカライト−2、ペンタシル型メタロケイ酸塩などが知られている。
ZSM−5の単位格子組成は、下記式(2)
Nan(AlnSi96-n192)・16H2O (n<27) ・・・(2)
で表すことができる。
【0018】
本発明の低温脱着材料は、水分吸着可能なゼオライトからなるものであり、該ゼオライトとして、水分吸着性能及び吸着された水分の低温脱着性能の観点から、ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上が2価の金属のイオンであり、SiO2/Al23モル比が3.0以上、好ましくは4.0以上、より好ましくは5.0〜70.0であり、一般には細孔径が0.6〜0.9nm程度であるY型ゼオライトが用いられる。
前記2価の金属のイオンとしては、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種を好ましく挙げることができる。
【0019】
なお、本発明の低温脱着材料として用いられるゼオライトにおける、SiO2/Al23モル比及びイオン交換可能なカチオンの2価の金属のイオンへの交換率は、下記に示す方法に従って測定した値である。
<SiO2/Al23モル比の測定>
XRF(蛍光X線測定装置)を用いた測定により、当該ケイ素及びアルミニウムの定量値をもとに算出した。
<イオン交換可能なカチオンの2価の金属のイオンへの交換率の測定>
イオン交換可能なカチオンの2価の金属のイオンへの交換率は、XRF(蛍光X線測定装置)又はICP(発光分析装置)を用いた測定により、当該2価の金属カチオンの定量値をもとに算出することができる。
【0020】
本発明の低温脱着材料は、前記ゼオライトに吸着された水分を大気圧下又は減圧下、100℃以下の温度、好ましくは80℃以下の温度、より好ましくは50℃以下の温度にて脱着し得る材料である。
また、減圧下で脱着する場合には、通常0.1〜50kPa程度、好ましくは1〜10kPaの圧力で操作することが望ましい。
【0021】
次に、本発明の低温脱着材料の製造方法について説明する。
[低温脱着材料の製造方法]
本発明の低温脱着材料の製造方法は、水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に100℃以下の温度にて脱着し得る低温脱着材料の製造方法であって、
構造中にプロトン、アルカリ金属及びアルカリ土類金属原子の少なくともいずれかを含み、かつ2価の金属のイオンの含有比率がイオン交換可能なイオン数の10%未満であり、SiO2/Al23モル比が3.0以上であるY型ゼオライトを水、アルコール類、ケトン類、エステル類及びエーテル類から選ばれる少なくとも一種の溶媒に懸濁させてゼオライト懸濁液とする工程と、
該ゼオライト懸濁液と2価の金属化合物とを接触させることにより、ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の10%以上を2価の金属のイオンに交換する工程とを有することを特徴とする。
【0022】
(ゼオライト懸濁液の調製工程)
本発明の低温脱着材料の製造方法におけるゼオライト懸濁液の調製工程においては、ゼオライトとして、構造中にプロトン、アルカリ金属及びアルカリ土類金属原子から選ばれる少なくとも一種を含み、かつ2価の金属のイオンの含有比率が、イオン交換可能なイオン数の10%未満、好ましくは1%以下であって、SiO2/Al23モル比が5.0以上であるY型ゼオライトが用いられる。
【0023】
前記ゼオライトを懸濁させる溶媒としては、水、アルコール類、ケトン類、エステル類及びエーテル類などが用いられる。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどを、ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどを、エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどを、エーテル類としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサンなどを挙げることができる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、イオン交換に用いる塩の溶解度、経済性等の観点から水が最も好ましい。
ゼオライト懸濁液の濃度は、通常0.1〜70質量%程度、好ましくは1〜50質量%である。
【0024】
(ゼオライト中のイオン交換可能なイオンを2価の金属のイオンに交換する工程)
本発明の低温脱着材料の製造方法における、前記ゼオライト中のイオン交換可能なイオンをニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種である2価の金属のイオンに交換する工程において、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンとしては、プロトン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる少なくとも一種のカチオンを挙げることができる。
本発明においては、前記カチオンの数の10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上を2価の金属のイオンに交換する。この2価の金属のイオン源としては、例えばハロゲン化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩及び硫酸塩などから選ばれる少なくとも一種の水溶性の2価の金属化合物を挙げることができるが、硝酸塩または塩化物が好適である。イオン源となる化合物は、ゼオライト懸濁液に固体のまま投入してもよいが、分散性、反応速度の向上のためには溶液として投入することが好ましい。溶媒は特に限定されないが、イオン源の溶解度、イオン交換反応の反応への影響等を勘案すると、水溶液として投入することが特に好ましい。
【0025】
本発明においては、ゼオライト(前述の性状を有するY型ゼオライト)中のイオン交換可能なイオン(カチオン)を、そのカチオン数の10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上をニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種である2価の金属のイオンに交換するが、この交換方法としては、前述のようにして調製されたゼオライト懸濁液に、前記の水溶性の2価の金属化合物をそのまま添加してイオン交換してもよいし、ゼオライト懸濁液と、上記水溶性の2価の金属化合物を含む水溶液とを接触させてイオン交換してもよい。
イオン交換の反応温度は、特に制限はないが、通常0〜200℃程度、好ましくは20〜100℃であり、また、反応時間は、反応温度などの要因に左右され、一概に決めることはできないが、通常10〜120分間程度、または、十分にイオン交換させる場合、120分以上の操作を行ってもよい。
なお、前記のイオン交換反応における、前記ゼオライトと、前記水溶性の周期表7〜10族に属する金属の化合物との割合は、質量比で1:0.5〜1:100の範囲が好ましく、1:1〜1:80の範囲がより好ましく、1:2〜1:50の範囲がさらに好ましい。
【0026】
このようにしてニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン、及びカルシウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種である2価の金属のイオンに交換されたY型ゼオライトを、従来公知の手段により固液分離したのち、充分に水洗又は湯洗し、次いで120〜800℃程度の温度で、30〜180分間程度乾燥処理することにより、本発明の低温脱着材料として用いられる前記2価の金属のイオンとイオン交換されたY型ゼオライトが得られる。
本発明の低温脱着材料は、前述したように(A)ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上が2価の金属のイオンであり、かつSiO2/Al23モル比が5.0以上のY型ゼオライトであり、前述した低温脱着材料の製造方法によって効率よく製造することができる。
当該製造方法によって得られた低温脱着材料は、そのゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下、100℃以下の温度、好ましくは80℃以下の温度、より好ましくは50℃以下の温度で脱着することができる。
【0027】
本発明はまた、前述した本発明の低温脱着材料を、大気圧下又は減圧下に100℃以下の温度、好ましくは80℃以下の温度、より好ましくは50℃以下の温度で加熱処理する低温脱着方法をも提供する。
当該低温脱着方法における脱着条件については、前述した本発明の低温脱着材料の説明において、示したとおりである。
本発明の低温脱着材料は、吸着ヒートポンプや調湿空調装置などに好適に用いられる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)イオン交換可能なカチオンの2価の金属のイオン交換率
各例で得られた2価の金属のイオン交換ゼオライトにおけるイオン交換率を、明細書本文に記載の方法に従って、下記の測定装置及び測定条件により求めた。
・測定条件:蛍光X線測定装置(島津製作所製「XRF−1700」)による定量分析
・イオン交換率の計算:アルミニウム1原子あたりの2価の金属の原子数を、検量線を用いて定量し、2価の金属のイオン交換率を算出した。
(2)ゼオライトのSiO2/Al23モル比
蛍光X線測定装置(島津製作所製「XRF−1700」)により、ゼオライト中の成分元素の分析を行い、Si/Alモル比を求め、2×(Si/Alモル比)をSiO2/Al23モル比とした。
【0029】
(3)水の脱離量の測定
(a)試料ペレットの作製
質量約7〜10mgのゼオライト粉末試料を、ハンドプレス(島津製作所製「SSP−10A形」)により、直径13mm、長さ50〜90μmのペレット状に加圧成形した。
(b)試料ペレットの前処理
上記(a)で得た試料ペレットを、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)測定用の加熱排気可能な真空セルに入れ、真空ラインと接続して、350℃にて、2時間真空加熱排気を行った。到達真空度は約0.03Paである。
【0030】
(c)FTIR測定
FTIR(BIO RAD社製「FTS3000MX」)を用いて、前処理後ならびに水蒸気を1330Pa吸着させた状態の試料について、IRスペクトル測定を行った。温度は前処理温度の350℃から成り行きで下げていき、60℃までは10℃刻みで、60℃から30℃までは5℃刻みで、測定を行った。なお、30℃については5分間吸着平衡待ちを行った後、スペクトルを測定した。
【0031】
(d)測定結果の解析
得られたスペクトルについて、水蒸気の吸着量に対応する「1650cm-1付近に現れる吸着した水蒸気の変角振動」に帰属される吸収スペクトルの面積強度を求め、得られた面積強度を試料質量で規格化した値を測定温度に対してプロットし、水分吸着量の温度依存性に関する情報を得た。規格化した値(吸収強度)は、以下のような計算式で求めた。
吸収強度[cm/g]=( S[cm-1]×π×(1.3[cm]/2)2 ) /( m[g])×0.9 )
・S[cm-1]:ピーク面積強度
・m[g]:試料質量
このようにして得られた水分吸着量の温度依存性に関する情報に基づき、水蒸気分圧1330Paにおける25℃、及び測定温度で得られた面積強度を試料質量で規格化した値(吸収強度)をそれぞれA、Bとした。 また、25℃と測定温度間での吸収強度の差を「B−A」(cm/g)とし、更に吸収強度と吸水量との関係からゼオライト100gあたりの脱着率に変換して、当該ゼオライトの水分吸着特性を評価した。
【0032】
実施例1
(1)硝酸ニッケル六水和物[Ni(NO32・6H2O](和光純薬工業社製、試薬)を蒸留水に溶かし、濃度0.5mol/Lの水溶液500mLを調製した。
(2)一方、水溶性不純物の除去を行う目的で、ナトリウムタイプのY型ゼオライト(SiO2/Al23モル比:5.0)粉末5gを、300mLの三角フラスコに入れ、蒸留水を適量入れた後、オイルバス中、80℃で約7時間以上浸した。なお、1,2時間置きに、三角フラスコを振り、十分にゼオライト粉末が蒸留水と混ざるようにした。
(3)上記(2)の上澄み液を除去し、上記(1)で調製した水溶液を約70mL加え、80℃で約7時間浸した。なお、1,2時間置きに、三角フラスコを振り、十分にゼオライト粉末が溶液と混ざるようにした。この操作を計7回繰り返した。
(4)次いで、ゼオライト粉末を、ろ液のpHがpH試験紙により中性になるまで、蒸留水により減圧下でろ過洗浄した。洗浄には蒸留水を計4L使用し、pH試験紙で中性になった後も、十分に洗浄を行った。
(5)ろ紙上に残ったゼオライトを、120℃にて一晩乾燥処理して、ニッケルイオンに交換されたY型ゼオライトを得た。イオン交換可能なカチオンのニッケルイオン交換率は67%であった。また、このニッケルイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する「1650cm-1付近に現れる吸着した水蒸気の変角振動」に帰属される25−50℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、3.6質量%であった。
【0033】
実施例2
実施例1において、硝酸ニッケル六水和物を硝酸マグネシウム六水和物[Mg(NO32・6H2O](和光純薬工業社製、試薬)に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、マグネシウムイオンに交換されたY型ゼオライトを得た。イオン交換可能なカチオンのマグネシウムイオン交換率は68%であった。また、同様にこのマグネシウムイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−50℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、7.1質量%であった。
【0034】
実施例3
実施例1において、硝酸ニッケル六水和物を塩化カルシウム[CaCl2](和光純薬工業社製、試薬)に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、カルシウムイオンに交換されたY型ゼオライトを得た。イオン交換可能なカチオンのカルシウムイオン交換率は80%であった。また、同様にこのカルシウムイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−50℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、6.1質量%であった。
【0035】
実施例4
実施例1において、硝酸ニッケル六水和物を硝酸コバルト六水和物[Co(NO32・6H2O](和光純薬工業社製、試薬)に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コバルトイオンに交換されたY型ゼオライトを得た。イオン交換可能なカチオンのコバルトイオン交換率は44%であった。また、同様にこのコバルトイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−50℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は3.5質量%であった。
【0036】
実施例5
実施例1において、硝酸ニッケル六水和物を硝酸鉄(III)九水和物[Fe(NO33・9H2O](和光純薬工業社製、試薬)に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、鉄イオンに交換されたY型ゼオライトを得た。また、同様にこの鉄イオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−50℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、8.8質量%であった。
【0037】
実施例6
実施例2において、吸着温度を25−80℃に変えた以外は、実施例2と同様の操作を行った。このマグネシウムイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−80℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、18.1質量%であった。
【0038】
実施例7
実施例3において、吸着温度を25−80℃に変えた以外は、実施例3と同様の操作を行った。このカルシウムイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−80℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、14.8質量%であった。
【0039】
実施例8
実施例5において、吸着温度を25−80℃に変えた以外は、実施例5と同様の操作を行った。この鉄イオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−80℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、13.8質量%であった。
【0040】
実施例9
実施例2において、吸着温度を25−100℃に変えた以外は、実施例2と同様の操作を行った。このマグネシウムイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−100℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、25.9質量%であった。
【0041】
実施例10
実施例3において、吸着温度を25−100℃に変えた以外は、実施例3と同様の操作を行った。このカルシウムイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−100℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、19.5質量%であった。
【0042】
比較例1
実施例2において、ゼオライトをナトリウムタイプのA型ゼオライト(SiO2/Al23モル比1)に変えた以外は、実施例2と同様の操作を行い、マグネシウムイオンに交換されたA型ゼオライトを得た。イオン交換可能なカチオンのマグネシウムイオン交換率は49%であった。また、同様にこの鉄イオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−50℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、1.1質量%であった。
【0043】
比較例2
実施例5において、ゼオライトをナトリウムタイプのA型ゼオライト(SiO2/Al23モル比1)に変えた以外は、実施例5と同様の操作を行い、コバルトイオンに交換されたA型ゼオライトを得た。イオン交換可能なカチオンのコバルトイオン交換率は65%であった。また、同様にこのコバルトイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−50℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、1.4質量%であった。
【0044】
比較例3
実施例1において原料として用いた、ナトリウムタイプのY型ゼオライト(SiO2/Al23モル比5)の水蒸気の吸着量に対応する25−50℃での吸収スペクトルの面積強度を測定し、試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換したところ、2.5質量%であった。なお、測定に用いたY型ゼオライトのイオン交換可能なカチオンのナトリウム交換率は73%であった。
【0045】
比較例4
比較例3において、吸着温度を25−80℃に変えた以外は、比較例3と同様の操作を行った。このナトリウムイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−80℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、10.4質量%であった。
【0046】
比較例5
比較例3において、吸着温度を25−100℃に変えた以外は、比較例3と同様の操作を行った。このナトリウムイオン交換Y型ゼオライトの水蒸気の吸着量に対応する25−100℃での吸収スペクトルの面積強度を試料質量で規格化した値を水の脱着率に変換した値は、18.0質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の低温脱着材料は、特定の性状を有する水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で加熱処理することにより、容易に脱着することができ、かつ有効水分吸着量の大きな材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下、100℃以下の温度にて脱着し得る低温脱着材料であって、
前記水分吸着可能なゼオライトが、該ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の10%以上が2価の金属のイオンであり、SiO2/Al23モル比が3.0以上であるY型ゼオライトであることを特徴とする低温脱着材料。
【請求項2】
前記2価の金属のイオンが、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の低温脱着材料。
【請求項3】
前記ゼオライト中のイオン交換可能なイオン数の30%以上が、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の低温脱着材料。
【請求項4】
水分吸着可能なゼオライトからなり、かつ該ゼオライトに吸着された水分を、大気圧下又は減圧下に、100℃以下の温度にて脱着し得る低温脱着材料の製造方法であって、
構造中にプロトン、アルカリ金属及びアルカリ土類金属原子の少なくともいずれかを含み、かつ2価の金属のイオンの含有比率がイオン交換可能なイオン数の10%未満であり、SiO2/Al23モル比が3.0以上であるY型ゼオライトを水、アルコール類、ケトン類、エステル類及びエーテル類から選ばれる少なくとも一種の溶媒に懸濁させてゼオライト懸濁液とする工程と、
該ゼオライト懸濁液と2価の金属化合物とを接触させることにより、構造中のイオン交換可能なイオン数の10%以上を前記2価の金属のイオンに交換する工程とを有することを特徴とする低温脱着材料の製造方法。
【請求項5】
前記2価の金属化合物が、ハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物及び硫酸塩から選ばれる少なくとも一種である請求項4に記載の低温脱着材料の製造方法。
【請求項6】
前記ゼオライト懸濁液中のゼオライトと前記2価の金属化合物との割合が、質量比で1:0.5〜1:100の範囲である請求項4または5に記載の低温脱着材料の製造方法。
【請求項7】
前記2価の金属化合物が、硝酸塩または塩化物である請求項4〜6のいずれかに記載の低温脱着材料の製造方法。
【請求項8】
前記2価の金属のイオンに交換する工程が、構造中のイオン交換可能なイオン数の20%以上を2価の金属のイオンに交換する工程である請求項4〜7のいずれかに記載の低温脱着材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の低温脱着材料を、大気圧下又は減圧下に、100℃以下の温度で加熱処理することにより、水分を脱着することを特徴とする低温脱着方法。

【公開番号】特開2012−30152(P2012−30152A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169835(P2010−169835)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(390016090)ユニオン昭和株式会社 (9)
【Fターム(参考)】