説明

低熱膨張線状体およびその製造方法

【課題】有機系新材料と銅などの導電性金属を複合化するのに、接着剤を使用せずに、有機系新材料に導電性金属をめっきすることにより、複合強度と耐熱性を高めることができる低熱膨張線状体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】低熱膨張線状体において、低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料1と、この繊維材料1にめっきされ、前記低熱膨張特性を有する繊維材料は大きな線膨張係数で正の線膨張特性を持つ導電性材料5とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張線状体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、本願発明者らは低熱膨張線状体として、正の線膨張特性を持つ導電性材料と負の線膨張特性を持つ有機材料との複合構造化を図り、熱膨張を極力抑えることができる低熱膨張線状体を下記特許文献1として提案している。
【特許文献1】特開2003−281942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の低熱膨張線状体では、ザイロンのプリプレグシートなどの有機材料と銅などの金属をエポキシ樹脂などにより接着することで複合化していたが、接着による複合化は、接着強度やエポキシ樹脂の耐熱性などの点で問題がある。
【0004】
本発明は、上記状況に鑑みて、有機系新材料と銅などの導電性金属を複合化するのに、接着剤を使用せずに、有機系新材料に導電性金属をめっきすることにより複合強度と耐熱性を高めることができる低熱膨張線状体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕低熱膨張線状体において、低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料と、この繊維材料にめっきされ、前記低熱膨張特性を有する繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張特性を持つ導電性材料とを具備することを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体において、前記繊維材料がザイロンであることを特徴とする。
【0007】
〔3〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体において、前記繊維材料がダイニーマであることを特徴とする。
【0008】
〔4〕低熱膨張線状体の製造方法において、芯材として、低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料を用意し、この繊維材料上に前記低熱膨張特性を有する繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張特性を持つ導電性材料をめっきすることを特徴とする。
【0009】
〔5〕上記〔4〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料としてザイロンを用いることを特徴とする。
【0010】
〔6〕上記〔4〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料としてダイニーマを用いることを特徴とする。
【0011】
〔7〕上記〔4〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料を撚った後にめっきを施すことを特徴とする。
【0012】
〔8〕上記〔4〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記めっきは、無電解めっきを行った後に、電気めっきを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機系新材料と導電性金属を複合化する際に接着剤を使用せずに、有機系新材料に導電性金属をめっきすることにより複合化し、複合強度と耐熱性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
低熱膨張線状体において、低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料と、この繊維材料にめっきされ、前記低熱膨張特性を有する繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張特性を持つ導電性材料とを具備する。よって、複合強度と耐熱性を高めることができる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の第1実施例を示す低熱膨張線状体の断面図である。
【0017】
この図において、1は負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料であり、例えばザイロンまたはダイニーマを用いることができる。5はその繊維材料1にめっきされる正の線膨張特性を持つ導電性材料であり、例えば銅である。
【0018】
ここに、本発明に用いられるザイロン、ダイニーマと従来の芯材として用いられているスチールの諸特性を表1に示す。
【0019】
【表1】

図2はその低熱膨張線状体の製造工程図である。
【0020】
(1)図2(a)に示すように、負の線膨張係数を有する繊維材料1(例えば、ザイロンまたはダイニーマ)に撚りをかけて芯材として用意する。
【0021】
(2)次に、図2(b)に示すように、その繊維材料1をめっき槽2に浸して、正の線膨張特性を持つ導電性材料5(例えば、銅)をめっきする。めっき槽2では、電着させようとする金属3(ここでは銅の板状体)と繊維材料1を電解液4中に浸す。ついで、この繊維材料1を陰極とし、金属3を陽極として、直流電流を流すと、図2(c)に示すように、繊維材料1上に導電性材料5(ここでは銅)をめっきすることができる。
【0022】
ここで、めっきの条件としては、電流密度を1.6A/dm2 とする。
【0023】
なお、めっきは、無電解めっきを行った後に、電気めっきを行うようにしてもよい。その無電解めっきは、例えば、イオン交換樹脂を原料にした前処理剤をスプレーで繊維材料1上に塗布し、イオン交換により繊維材料1上に金属イオンを付着させてめっきする。
【0024】
その化学銅めっきにおける前処理について説明する。
【0025】
(1)まず、被めっき材料表面に、添加剤(コンディショナー)により脱脂処理を施す。すなわち、基板に付着している汚れのうち、主に油脂類を除去する工程が脱脂である。スルーホールめっき前処理としてはアルカリ系脱脂剤が多く使用されており、アルカリによる鹸化作用と界面活性剤の乳化分散作用により、油、指紋などを除去する。また、キレート剤を添加することにより、金属酸化物をキレート化して溶解し、めっき表面の洗浄とともにぬれ性を与える。脱脂液には、後述するキャタポジット工程の塩化パラジウム、塩化第1すずのコロイド浴または錯塩の吸着を高めるための添加剤も加えられている。
【0026】
(2)次に、キャタリップ処理を施す。次工程のキャタポジット浴は、塩化パラジウム(PdCl2 )、塩化第1すず(SnCl2 )のコロイド浴または錯塩でできている。このキャタポジット液に基板の水洗水が混入すると、キャタポジット液が分解する原因となるため、あらかじめ基板を塩素系イオン含有液に浸漬させる必要があり、このための液がキャタリップ液である。これによりキャタポジット液の安定性が向上し、めっき品質も安定するようになる。
【0027】
(3)次いで、キャタポジット処理を施す。キャタポジット液としては、一般的にPdCl2 −SnCl2 キャタポジット(コロイドまたは錯塩)が使用されている。キャタポジットは無電解銅めっき前の被めっき材料表面に吸着し、無電解銅めっきの触媒として作用する。
【0028】
(4)次いで、アクセレレーター処理を施す。アクセレレーター処理は、キャタポジット処理された被めっき材料表面への無電解銅めっきの析出を促進させるために重要な工程である。この作用は、塩化第1すずおよび塩化パラジウムよりなる、加水分解生成物として吸着されているキャタポジットを活性金属パラジウムに変え、また過剰の塩化第1すずを除くことにある。この処理は、無電解銅めっきの密着性向上の面からも重要である。
【0029】
図3は本発明にかかる無電解銅めっきにおける前処理の作用を示す模式図である。
【0030】
ここで、より具体的な無電解銅めっきにおける前処理の作用について図3を参照しながら説明する。繊維材料1を基材とした場合について説明する。
【0031】
(1)図3(a)に示すように、繊維材料1表面は、水和反応により表面水融基を有し負に荷電している。
【0032】
(2)次に、脱脂処理では、図3(b)に示すように、カチオン界面活性剤の吸着により、繊維材料1表面の負電荷の中和が行われる。
【0033】
(3)次に、アクチベータ処理では、図3(c)に示すように、Pd−Sn(合金核)コロイド粒子の吸着が行われる。
【0034】
(4)次に、水洗処理では、図3(d)に示すように、加水分解によりSn+4はSn(OH)4 となり、Pd−Sn合金核を覆う。
【0035】
(5)次いで、アクセレレーター処理おいては、図3(e)に示すように、Sn(OH)4 層を溶解除去し、活性なPd−Sn核を表面に露出させる。
【0036】
(6)次に、図3(f)に示すように、化学銅の析出初期では、銅がPd−Sn核を中心にアイランド状に析出させる。
【0037】
なお、上記実施例では、負の熱膨張係数の有機線状体を用いるように説明したが、本発明はそれに限定さるものではなく、低熱膨張係数の線状体であれば、負の熱膨張係数を有するものでなくともよい。かかる低い熱膨張係数の線状体としては、インバーなどの金属やカーボンなどを挙げることができる。ただし、低熱膨張係数の線状体の熱膨張係数が被着される導電性線状体の熱膨張係数より小さいことが条件となる。
【0038】
また、上記実施例では、繊維材料1に撚りをかけた。これは、繊維材料に撚りをかけるとめっき特性を向上させることができるためである。ただし、本発明には、繊維材料に撚りをかけない場合や束ねた場合なども含まれ、撚り方や束ね方により制約されることはない。
【0039】
このように、この実施例では、低熱膨張線状体の製造方法として、低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する、芯材としての繊維材料を用意し、この繊維材料上に、前記低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張特性を持つ導電性材料をめっきする。
【0040】
このように構成することにより、複合強度と耐熱性の高い低熱膨張線状体を得ることができる。特に、スチールの場合には腐食や酸化を防止することができる。
【0041】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の低熱膨張線状体およびその製造方法は、トロリ線、ちょう吊線、電線、ケーブルやレールなどの線状体に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施例を示す低熱膨張線状体の断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す低熱膨張線状体の製造工程図である。
【図3】本発明にかかる無電解銅めっきにおける前処理の作用を示す模式図である。
【符号の説明】
【0044】
1 繊維材料(ザイロン、ダイニーマ)
2 めっき槽
3 電着させようとする金属
4 電解液
5 導電性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料と、
(b)該繊維材料にめっきされ、前記低熱膨張特性を有する繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張特性を持つ導電性材料とを具備することを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項2】
請求項1記載の低熱膨張線状体において、前記繊維材料がザイロンであることを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項3】
請求項1記載の低熱膨張線状体において、前記繊維材料がダイニーマであることを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項4】
(a)芯材として、低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料を用意し、
(b)該繊維材料上に前記低熱膨張特性有する繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張特性を持つ導電性材料をめっきすることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料としてザイロンを用いることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料としてダイニーマを用いることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項7】
請求項4記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料を撚った後にめっきを施すことを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項8】
請求項4記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記めっきは、無電解めっきを行った後に、電気めっきを行うことを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−85915(P2006−85915A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266418(P2004−266418)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ザイロン
2.ダイニーマ
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(504349146)共栄電資株式会社 (9)
【Fターム(参考)】