説明

低熱膨張線状体

【課題】構成がより簡便であり、かつ低価格な低熱膨張線状体を提供する。
【解決手段】低熱膨張線状体において、長さ方向に溝2が形成される正の熱膨張係数の導電性線状体1と、前記溝2に挿入され、前記正の熱膨張係数の導電性線状体より低い正の低熱膨張係数乃至負の熱膨張係数の線状体3とを具備する。よって、より簡便であり、かつ低価格な低熱膨張線状体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張線状体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、本願発明者らは低熱膨張線状体として、正の線膨張特性を持つ導電性材料と負の線膨張特性を持つ有機材料との複合構造化を図り、熱膨張を極力抑えることができる低熱膨張線状体を提案している(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−281942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の低熱膨張線状体においては、その構成に工夫を要し、かつ高価にならざるを得ないといった問題があった。
【0004】
本発明は、上記状況に鑑みて、より簡便であり、かつ低価格な低熱膨張線状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕低熱膨張線状体において、(a)長さ方向に溝が形成される正の熱膨張係数の導電性線状体と、(b)前記溝に配置され、前記正の熱膨張係数の導電性線状体より低い正の低熱膨張係数乃至負の熱膨張係数の線状体とを具備することを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体において、前記溝を複数形成し、該複数の溝の全てに前記線状体を挿入することを特徴とする。
【0007】
〔3〕上記〔2〕記載の低熱膨張線状体において、前記複数の溝を前記導電性線状体の中心線に対して対称に形成することを特徴とする。
【0008】
〔4〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体において、前記溝の形状がU字型又はV字型であることを特徴とする。
【0009】
〔5〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体において、少なくとも表面の一部には金属の導電性材料が形成されていることを特徴とする。
【0010】
〔6〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体において、前記導電性線状体は金属棒であることを特徴とする。
【0011】
〔7〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体において、前記(b)における線状体はザイロンからなることを特徴とする。
【0012】
〔8〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体において、前記(b)における線状体はダイニーマからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低熱膨張線状体の構成をより簡便にし、かつ低価格化を図ることができる。
【0014】
また、正の熱膨張係数の導電性線状体に形成した溝内に繊維を外から連続的に一様に押し込むことが可能であり、溝内の繊維(ヤーンプリプレグ)を接着時に押さえ続けることが可能な構造とすることにより、接着性が向上し、繊維密度を向上させた低熱膨張線状体を得ることが可能になり、低熱膨張の効果をより引き出しつつ表面に導電層を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の低熱膨張線状体は、長さ方向に溝が形成される正の熱膨張係数の導電性線状体と、前記溝に挿入され、前記正の熱膨張係数の導電性線状体より低い正の低熱膨張係数乃至負の熱膨張係数の線状体とを具備する。よって、構成がより簡便で、かつ低価格な低熱膨張線状体を提供することができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の分解斜視図、図2はその低熱膨張線状体の正の熱膨張係数の導電性線状体の断面図、図3はその低熱膨張線状体の断面図、図4はその低熱膨張線状体の斜視図である。
【0018】
これらの図において、1は正の熱膨張係数の導電性線状体(例えば、銅棒)、2はその導電性線状体1に長さ方向に形成された溝(ここでは4本のU字型溝)、3はその溝2に挿入されるロッド状の負の熱膨張係数の線状体(例えば、東洋紡製のPBO繊維であるザイロン)である。通常は、溝2の中に接着剤を塗布して、その接着剤によって線状体3を固定するようにする。ただし、接着剤を用いることなく、強嵌合により固定するようにしてもよい。
【0019】
なお、上記実施例では、負の熱膨張係数の線状体3として、ロッド状のザイロンを示したが、これに代えて、ヤーンプリプレグ、シートプリプレグを巻く繊維などでもよい。
【0020】
因みに、図2において、銅棒1の直径Xは16.93mm、銅棒1の直径Yは16.93mm、溝の幅は5.18〜5.25mm、溝の深さは4.86〜5.56mm、丸みRは2.5〜2.6である。
【0021】
また、上記した導電性線状体1に複数の溝2を配置する場合には、熱収縮量のバランスが良くなるように、導電性線状体1の中心線に対して対称になるように形成するのが望ましい。
【0022】
なお、負の線膨張係数を持つ線状体3の新材料としては、超高分子量ポリエチレン繊維「ダイニーマ」やPBO繊維「ザイロン」などが上げられる。
【0023】
特に、ザイロンは、室温付近での線膨張係数が−6×10-6/K程度の負の膨張を示し、高強力、高弾性率で耐衝撃性が高い、比重が小さいなどの特性も持つ有機系材料である。ザイロンの諸特性を表1にまとめる。
【0024】
【表1】

同様に負の線膨張係数を有するダイニーマと比べると、負の線膨張係数としては小さいが、引張強度、引張弾性率が大きく、分解温度も高いなどの特徴があり、応用を考えた場合には、より有用な材料と見ることができる。密度は1.56g/cm3 で、鋼線(スチール)の比重7.8g/cm3 と比べて1/5程度と軽量である。
【0025】
なお、導電性線状体に形成される溝は、図5に示すように、導電性線状体11に1本の溝12を形成し、そこに1本の線状体13を挿入するようにしてもよい。また、図6に示すように、導電性線状体21に2本の溝22を形成し、そこに2本の線状体23を挿入するようにしてもよい。この2本の溝22の場合にも、導電性線状体21の中心線に対して対称になるように形成するのが望ましい。
【0026】
なお、上記実施例では、負の熱膨張係数の線状体を用いるように説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、低熱膨張係数の線状体であれば、負の熱膨張係数を有するものでなくともよい。かかる低い熱膨張係数の線状体としては、インバーなどの金属体やカーボンなどを挙げることができる。ただし、低熱膨張係数の線状体の熱膨張係数が導電性線状体の熱膨張係数より小さいことが成立することを条件とする。
【0027】
また、溝の形状はU字型にかえてV字型などであってもよい。さらに、目的に合わせてその他各種形状の溝を形成してもよい。また、銅のような導電性線状体の一部に隙間を設け、そこから負の熱膨張係数の線状体としての繊維(ヤーンプリプレグ)を連続して押し込むことができる形状であってもよい。
【0028】
更に、かかる低熱膨張線状体をトロリ線に用いるような場合には、導電性線状体1の少なくともその表面には、金属の導電性材料が形成され、十分なる集電機能を果たすようにすることが重要である。
【0029】
図7は本発明の他の実施例を示す低熱膨張線状体(その1)の断面図、図8はその低熱膨張線状体(その2)の断面図、図9はその低熱膨張線状体(その3)の断面図である。
【0030】
この実施例では、図7に示すように、導電性線状体31に4本のU字型溝32を形成し、この4本の溝32内にヤーンプリプレグ(負の熱膨張係数の線状体)33を充填するようにして、低熱膨張線状体を形成するようにしている。つまり、ザイロン繊維にエポキシ樹脂を含浸した半硬化状態のヤーンプリプレグを導電性線状体31の4本の溝32の中に充填し、ヤーンプリプレグに含浸されているエポキシ樹脂を加熱硬化させて複合化する。
【0031】
また、図8に示すように、導電性線状体41に1本のU字型溝42を形成し、この1本の溝42内にヤーンプリプレグ(負の熱膨張係数の線状体)43を充填したり、図9に示すように、導電性線状体51に2本のU字型溝52を形成し、この2本の溝52内にヤーンプリプレグ(負の熱膨張係数の線状体)53を充填するようにしてもよい。
【0032】
このように構成したので、溝内に繊維(ヤーンプリプレグ)を外から連続的に一様に押し込むことが可能であり、溝内の繊維を接着時に押さえ続けることが可能な構造とすることにより、接着性が向上し、低熱膨張特性を持つ繊維の密度を上げられた低熱膨張線状体を得ることが可能となり、低熱膨張の効果をより引き出しつつ表面に導電層を確保することができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の低熱膨張線状体は、熱膨張を極力抑えることができるため、鉄道車両への給電を行うためのトロリ線に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の分解斜視図である。
【図2】本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の正の熱膨張係数の導電性線状体の断面図である。
【図3】本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の断面図である。
【図4】本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の斜視図である。
【図5】本発明の実施例を示す1本の線状体を挿入した低熱膨張線状体の斜視図である。
【図6】本発明の実施例を示す2本の線状体を挿入した低熱膨張線状体の斜視図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す低熱膨張線状体(その1)の断面図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す低熱膨張線状体(その2)の断面図である。
【図9】本発明の他の実施例を示す低熱膨張線状体(その3)の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1,11,21,31,41,51 正の熱膨張係数の導電性線状体
2,12,22,32,42,52 溝
3,13,23 ロッド状の負の熱膨張係数の線状体
33,43,53 ヤーンプリプレグ(負の熱膨張係数の線状体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)長さ方向に溝が形成される正の熱膨張係数の導電性線状体と、
(b)前記溝に配置され、前記正の熱膨張係数の導電性線状体より低い正の低熱膨張係数乃至負の熱膨張係数の線状体とを具備することを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項2】
請求項1記載の低熱膨張線状体において、前記溝を複数形成し、該複数の溝の全てに前記線状体を挿入することを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項3】
請求項2記載の低熱膨張線状体において、前記複数の溝を前記導電性線状体の中心線に対して対称に形成することを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項4】
請求項1記載の低熱膨張線状体において、前記溝の形状がU字型又はV字型であることを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項5】
請求項1記載の低熱膨張線状体において、少なくとも表面の一部には金属の導電性材料が形成されていることを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項6】
請求項1記載の低熱膨張線状体において、前記導電性線状体は金属棒であることを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項7】
請求項1記載の低熱膨張線状体において、前記(b)における線状体はザイロンからなることを特徴とする低熱膨張線状体。
【請求項8】
請求項1記載の低熱膨張線状体において、前記(b)における線状体はダイニーマからなることを特徴とする低熱膨張線状体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−172838(P2006−172838A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362109(P2004−362109)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】