説明

低硫黄軽質炭化水素油の製造方法

【課題】 本発明は、ジスルフィド類を主な硫黄化合物として含有する炭化水素油であっても、水素を消費せず、エネルギー消費が少なく、環境への負荷を低減した方法で軽質炭化水素油を脱硫して低硫黄軽質炭化水素油を製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の低硫黄軽質炭化水素油の製造方法は、ジスルフィド類を含みかつ炭素数4以上のメルカプタン類の濃度が10ppm以下である軽質炭化水素油を、吸着剤で処理することによって前記炭化水素油の硫黄分を10ppm以下、好ましくは1ppm以下に除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄化合物を含有する炭素数3〜10、特に炭素数3〜4の炭化水素を主な成分とする軽質炭化水素油を吸着剤で処理して脱硫することにより、低硫黄軽質炭化水素油を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀の自動車及びその燃料においては環境問題への対応が大きな課題であり、地球温暖化ガスであるCO排出削減とNOx等のいわゆる自動車排出ガス削減との両方の観点から、燃料油である炭化水素油の硫黄分低減がますます求められている。
【0003】
従来、主に用いられてきた炭化水素油の脱硫技術である水素化脱硫方法をそのまま用い、燃料油に残存する微量の硫黄化合物をさらに除去することは、従来よりもさらに高温・高圧の反応を要するため、エネルギー消費が大きく、また、膨大な触媒量と水素消費量などにより、多大なコストアップとなる。特に、LPG(液化石油ガス)のような低沸点の炭化水素の場合、高温に加熱、気化して脱硫した後に再び冷却、液化する必要があり、さらにエネルギー消費が大きい。
【0004】
例えば、LPGは、製油所において通常は液相の状態で配管を通して輸送される。しかしながら、その脱硫としては、一旦気化してから気相で水素化脱硫してから再度液化する方法がとられ、気化および液化のために多大なエネルギーを必要としていた。特に常圧付近で冷却により液体で貯蔵されているLPGについては、その脱硫において多大なエネルギーロスが問題となっていた。
【0005】
エネルギー消費の少ない炭化水素油の脱硫方法として、吸着による脱硫方法が知られている。この方法は、水素を用いない緩やかな条件下で脱硫することができるため、簡便な設備かつ低い運転コストで実施可能であり、低エネルギー消費であるというメリットがある。吸着剤によるLPGの脱硫方法も知られているが、一般に100℃以上の温度に加熱することが必要であり、蒸気圧の高いLPGを処理するためには、極めて高圧に耐え得る設備を必要としていた。また、常温付近でのLPGの吸着剤による気相脱硫方法も知られているが、一旦気化して脱硫後に再度液化することになり多大なエネルギーを必要としていた。
【0006】
一方、石油精製の中間工程に生成する炭化水素油には、その原料や製造工程により、高濃度の硫黄を含み、複数種の硫黄化合物、炭化水素化合物を含む炭化水素油がある。このような炭化水素油は、脱硫工程の費用がかかること、含まれる化合物の反応性が高いことなどの理由から、専ら製油所の自家燃料などに消費され、商品として有効に活用されていなかった。例えば、このような留分として、石油精製の重質油熱分解装置から得られる留分を処理した炭化水素油が挙げられる。この留分は硫黄濃度が高く、かつ大きく変動する。また、硫黄化合物としては、主成分としてジスルフィド類を含み、その他多種類の硫黄化合物が含まれる。さらにこの留分には窒素化合物なども含まれる。また、炭化水素化合物も、多種類のパラフィン類、オレフィン類が含まれる。
【0007】
炭化水素油の硫黄分を液相状態で吸着処理する方法は知られているものの(例えば、特許文献1〜4参照)、これらの方法は、硫黄化合物の主成分がジスルフィド類であるという特殊な炭化水素油の脱硫を行うためのものではない。
【0008】
また、従来、上記の熱分解油のような硫黄化合物としてジスルフィド類、その他多様な化合物を含み、かつ濃度が変動する炭化水素油の吸着脱硫方法、特に、常温付近で液相状態のまま、十分な脱硫が可能な方法は提案されていなかった。
【特許文献1】特開2001−205004号公報
【特許文献2】特公昭38−26866号公報
【特許文献3】特許第2938096号公報
【特許文献4】特開平03−103493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来技術における問題を解決するものであり、ジスルフィド類を含有する炭化水素油であっても、水素を消費せず、エネルギー消費が少なく、環境への負荷を低減した方法で軽質炭化水素油を脱硫して低硫黄軽質炭化水素油を製造する方法を提供することを課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、常温付近で液相の状態のままでも、炭化水素油中に含まれるジスルフィド類を主とする硫黄分を吸着剤により効率的に脱硫できることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は、ジスルフィド類を含み、炭素数4以上のメルカプタン類の濃度が10ppm以下である軽質炭化水素油を、吸着剤で処理することにより、前記炭化水素油の硫黄分を10ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは2ppm以下、特には1ppm以下にまでも除去する低硫黄軽質炭化水素油の製造方法である。
本発明による低硫黄軽質炭化水素油の製造方法において、軽質炭化水素油は、重質油熱分解装置から得られる炭化水素油であることが好ましく。また、軽質炭化水素油は、炭化水素化合物として、ジエン類を含むものの方が本発明の効果が顕著に得られる。さらには、吸着剤がフォージャサイト型ゼオライトであることが好ましい。また、吸着剤に通油する際に前処理せず、軽質炭化水素を、直接、吸着剤に通油することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、常温付近で液相の状態の炭化水素油に含まれるジスルフィド類の硫黄化合物を、特定の吸着剤と接触させることにより効率よく吸着脱硫することができる。このため、炭化水素油を加熱することなく、また水素を消費することもないため、エネルギー消費が少なく、環境への負荷を低減した方法で、軽質炭化水素油を効率的に脱硫することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による低硫黄軽質炭化水素油の製造方法において、脱硫対象の炭化水素油としては、硫黄化合物の主成分としてジスルフィド類を含有し、その他の硫黄化合物として少なくともメルカプタン類を含むが、炭素数4以上のメルカプタン類の含有量が10ppm以下である軽質炭化水素油であれば、どのような炭化水素油でも好適に使用することができる。
好適に適用できる軽質炭化水素油は、具体的には、LPG留分、軽質なガソリン留分であり、炭素数が3〜10の炭化水素を主成分とするものである。LPG留分は、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン、ブタジエンなどを主成分とする燃料ガスおよび工業用原料ガスである。通常は、球状タンクにて、常温、加圧下に液相状態で貯蔵されるか、あるいは大気圧に近い状態にて液相で低温貯蔵される。
また、軽質なガソリン留分は、いわゆる製油所などで生産されるガソリン留分やナフサ留分に相当する基材である。ガソリンは、一般的には、炭素数3〜11程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)は0.783g/cm以下、沸点範囲は30〜220℃程度である。また、炭素数3〜7程度の軽質なガソリン留分、ナフサ留分でも構わない。
【0014】
また、本発明で利用する吸着脱硫方法の対象となる炭化水素油の炭化水素化合物の成分組成は、特に限定されるものではない。炭化水素化合物として、パラフィン類のほかに、オレフィン類、より反応性が高いジエン類を含んでいても構わない。本方法によれば、より反応性の高いジエン類を含む炭化水素油においても、ジエン類の重合が進行しないためか、吸着操作中、吸着槽入口と出口の差圧の発生が見られない。ジエン類の含有量は特に制限されるものではないが、一般的には数重量%以下、好ましくは2重量%以下である。ジエン類は、2重結合を2個含む炭化水素化合物であり、例えば、1,3−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン(シス、トランス)、1,4−ペンタジエン、2-メチル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン(シス、トランス)、1,5-ヘキサジエン、シクロヘキサジエンなどがあげられる。
【0015】
本発明の製造方法に用いる炭化水素油の硫黄濃度は、ジスルフィド類を含有し、炭素数4以上のメルカプタン類の含有量が10ppm以下であれば、特に限定されるものではない。例えば、硫黄濃度が10〜5000ppm、好ましくは10〜1000ppmである炭化水素油を挙げることができる。炭化水素油の硫黄濃度が、低濃度であるほど、吸着剤の寿命を長くすることができ、当該脱硫の経済性は良好となる。
【0016】
軽質炭化水素油に含まれる硫黄化合物は、硫黄濃度の50%以上、特には80%以上がジスルフィド類であることが好ましい。他の硫黄化合物としてメルカプタン類を0.1ppm以上含むことが好ましい。なお、その他、チオフェン類、スルフィド類などを含んでいてもよい。しかし、メルカプタン類は反応性が高く容易にジスルフィド類を形成する。従って、分子量の大きなメルカプタン類(炭素数4以上)は吸着特性が低い分子量の大きいジスルフィド類を形成するため、メルカプタン類(炭素数4以上)の含有量は10ppm以下とする。また、分子量が大きなその他の硫黄化合物も吸着剤の寿命が短くなることから、その含有量は10ppm以下とすることがさらに好ましい。その他の分子量が大きな硫黄化合物としては、炭素数5以上のジスルフィド類、炭素数5以上のスルフィド類、チオフェン類、ベンゾチオフェン類などが挙げられる。
【0017】
ジスルフィド類の硫黄化合物を比較的多く含有する軽質炭化水素油としては、例えば、石油精製における重質油の熱分解装置から得られるLPG留分や炭素数が3〜10の炭化水素を主成分とする軽質なガソリン留分が挙げられる。これらは、水素化脱硫で硫黄分を低減した留分でも、ソーダ洗浄などによりメルカプタン類を減じた留分であってもよく、本発明に好ましく使用できる。熱分解装置とは、触媒を用いることなく、高温下で重質な炭化水素油を分解し、軽質炭化水素油を得る装置である。石油精製では、例えば、常圧蒸留残渣、主に減圧蒸留残渣などの重質な炭化水素油を熱分解して、灯・軽油やガソリン留分などの軽質炭化水素油に転換し、石油資源の有効活用を図るために利用される。プロセスとしては、残渣を軽質油とコークスに転換するコーキングプロセス(代表的なプロセスとしてはディレードコーキング装置やフレキシコーキング装置が挙げられる。)や、残渣の粘度を下げるビスプレーキングプロセス、残渣を軽質油とピッチに転換するユリカシステム、HSCプロセスなどが知られている。
【0018】
メルカプタン類を減ずる処理については、メルカプタン類による硫黄分を除去する方法と、メルカプタン類をメルカプタン類ではない別の物質に転換して重質化する方法がある。メルカプタン類による硫黄分を除去する方法としては石油留分のスイートニングとして知られているペトロテック17(11)、974(1994)や講談社サイエンティフィク社「石油精製プロセス」(1998)記載の抽出型のスイートニングプロセス、抽出酸化型のスイートニングプロセス、公知の方法を採用する方法が挙げられる。あるいは、硫黄化合物の吸着または収着機能をもった脱硫剤と留分を接触させる方法も挙げられる。また、蒸留操作により、分子量の大きな沸点の高いメルカプタン類を分離する方法も挙げられる。
【0019】
また、硫黄化合物の主成分のジスルフィド類は、二硫化物のことである。二硫化アルキル及び二硫化アリールの総称であり、一般式R-S-S-R’(R及びR’はアルキル基などの炭化水素基)で表わされる硫黄化合物である。R及びR’を構成する炭化水素基の炭素数の和は2〜8個が好ましく、具体的には、ジメチルジスルフィド、メチルエチルジスルフィド、メチルプロピルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、メチルブチルジスルフィド、エチルプロピルジスルフィド、メチルペンチルジスルフィド、エチルブチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、メチルヘキシルジスルフィド、エチルペンチルジスルフィド、プロピルブチルジスルフィド、メチルヘプチルジスルフィド、エチルヘキシルジスルフィド、プロピルペンチルジスルフィド、ジブチルジスルフィドなどの鎖状ジスルフィドなどが例示できる。
【0020】
また、メルカプタン類は、メルカプト基(−SH)を有する硫黄化合物であり、一般式RSH(Rはアルキル基やアリール基などの炭化水素基)で表される。メルカプタン類は、チオールまたはチオアルコールとも呼ばれる。メルカプト基は反応性が高く、特に金属と容易に反応する。代表的なメルカプタン類として、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン(異性体を含む)、ブチルメルカプタン(ターシャリーブチルメルカプタンなどの異性体を含む)、ペンチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、ヘプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタンやチオフェノール類Ar−SH(Arはアリール基)などが挙げられる。
【0021】
スルフィド類は、チオエーテルとも呼ばれ、硫化アルキル及び硫化アリールの総称であり、一般式R−S−R’(R及びR’はアルキル基やアリール基などの炭化水素基)で表わされる硫黄化合物である。硫化水素の水素2原子をアルキル基などで置換した形の化合物である。スルフィド類は、鎖状スルフィド類と環状スルフィド類に分けられる。鎖状スルフィド類は、スルフィド類のうち、硫黄原子を異原子として含む複素環をもたない硫黄化合物及びその誘導体である。代表的な鎖状スルフィド類として、ジメチルスルフィド、メチルエチルスルフィド、メチルプロピルスルフィド、ジエチルスルフィド、メチルブチルスルフィド、エチルプロピルスルフィド、メチルペンチルスルフィド、エチルブチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、メチルヘキシルスルフィド、エチルペンチルスルフィド、プロピルブチルスルフィド、メチルヘプチルスルフィド、エチルヘキシルスルフィド、プロピルペンチルスルフィド、ジブチルスルフィドなどが挙げられる。環状スルフィド類は、スルフィド類のうち、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環をもち、芳香性をもたない(五原子環又は六原子環で且つ二重結合を2個以上もつ複素環をもたない)硫黄化合物である。代表的な環状スルフィド類として、テトラヒドロチオフェン(硫化テトラメチレン、分子式CS、分子量88.1)、メチルテトラチオフェンなどが挙げられる。
【0022】
チオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五原子環又は六原子環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環がベンゼン環と縮合していない硫黄化合物及びその誘導体である。複素環同士が縮合した化合物も含む。チオフェンは、チオフランとも呼ばれ、分子式CSで表わされる、分子量84.1の硫黄化合物である。その他の代表的なチオフェン類として、メチルチオフェン、ジメチルチオフェン、トリメチルチオフェン、エチルチオフェン、プロピルチオフェン、ブチルチオフェン、ペンチルチオフェンなどが挙げられる。
【0023】
ベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五原子環又は六原子環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が1個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物などである。ベンゾチオフェンは、チオナフテン、チオクマロンとも呼ばれ、分子式CSで表わせる、分子量134.2の硫黄化合物である。その他の代表的なベンゾチオフェン類として、メチルベンゾチオフェン、ジメチルベンゾチオフェン、トリメチルベンゾチオフェン、テトラメチルベンゾチオフェン、ペンタメチルベンゾチオフェン、ヘキサメチルベンゾチオフェン、メチルエチルベンゾチオフェン、ジメチルエチルベンゾチオフェン、トリメチルエチルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルベンゾチオフェン、メチルジエチルベンゾチオフェン、ジメチルジエチルベンゾチオフェン、トリメチルジエチルベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルベンゾチオフェン、メチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルベンゾチオフェンなどのアルキルベンゾチオフェンなどが挙げられる
【0024】
本発明に用いる吸着剤は、低分子量のジスルフィド類、メルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類などに対し吸着能力を有する吸着剤であれば良い。例えば、本発明に好適に使用される吸着剤は、フォージャサイト型ゼオライトを主成分とする吸着剤を用いる。フォージャサイト型ゼオライトの含有量が60重量%以上、特には70重量%以上であり、フォージャサイト型ゼオライト以外の成分が実質的に含まれていない、すなわち、バインダーを除くと前記ゼオライト以外の不純物の含有量は5重量%以下、特には1重量%以下であることが好ましい。フォージャサイト型ゼオライトとして、NaX型またはNaY型を用いることが好ましい。フォージャサイト型ゼオライト(FAU)は、骨格構造の構成単位が4員環、6員環及び6員二重環である。ミクロ細孔は三次元構造であり、入口は非平面12員環で形成された円形で、結晶系は立方晶である。フォージャサイト型の天然ゼオライトであるホージャス石は、分子式(Na,Ca,Mg)29・Al58Si134384・240HOなどで表わされ、ミクロ細孔径が7.4×7.4Å、単位胞の大きさが24.74Åである。フォージャサイト型の合成ゼオライトとしては、X型とY型が存在する。NaX型ゼオライトはNa88[(AlO88(SiO104]・220HOなどで示され、有効直径10Å程度までの分子を吸着可能である。NaY型ゼオライトは、有効直径8Å程度までの分子を吸着可能である。本発明に好ましく用いられるフォージャサイト型ゼオライトは、一般式:xNaO・Al・ySiOで表され、X<1、かつ、y<10が好ましく用いられる。SiO/Alモル比は、10mol/mol以下が好ましく用いられる。
【0025】
原料の炭化水素油の吸着は、公知の吸着操作で行うことができる。例えば、固定層による吸着(炭化水素油中に一定時間、吸着剤を浸漬後、炭化水素油を抜き取る方式、炭化水素油の通油下において吸着剤の固定層と接触させる方式)、移動層や流動層による吸着、擬似移動層による吸着などの方式で行うことができる。炭化水素油量、吸着剤量、炭化水素油の通油速度、吸着剤との接触時間、温度などの吸着条件を調整することにより、本発明によって吸着脱硫された炭化水素油は、硫黄濃度を10ppm以下、好ましく5ppm以下、さらには2ppm以下、1ppm以下とする。また、窒素濃度も1ppm以下とすることができる。通常、吸着温度は60℃以下、特に吸着剤の吸着容量が大きくできることから、より低温で処理することが好ましい。経済的な理由から、過度の低温は避けるべきであり、常温付近がより好ましい。また、吸着剤との接触は、液相で行うことが好ましいが、気相状態にて接触させても構わない。
尚、吸着剤は水分などが吸着していない活性の高いものが使用される。しかし、通油開始の際は、吸着剤の発熱を防ぐために、通油開始前に窒素と低硫黄LPGガスの混合ガスを通油するなどの吸着剤が充填された吸着槽の前処理を行わず、直接吸着剤層に軽質炭化水素油の通油を行うことが寿命を長くすることができ望ましい。
【0026】
石油精製から得られる留分を上記のように処理して得られた軽質な留分は必要に応じさらに精製処理することにより、家庭用・工業用燃料、自動車用燃料、石油化学プロセス用原料などとして用いることができる。石油化学プロセスとしては、例えば、オレフィン製造プロセス、環化プロセスなどが挙げられる。炭化水素油を芳香族化する石油化学プロセスである環化プロセスについて例示すれば、LPG(炭素数3〜4のパラフィン)を主な原料とするサイクラー(Cyclar)(ライセンサー:BP/UOP)、炭素数3〜8のオレフィン、パラフィンを原料とするアルファ(α)(ライセンサー:旭化成/山陽石油化学)、LPG軽質ナフサを原料とするゼットフォーミング(Z Forming)(ライセンサー:新日本石油/千代田化工)などがある。これらのプロセスの触媒には、GaやZnを担持あるいは修飾したZSM−5(メタロシリケート)が用いられる(「アロマッティックス」第49巻第5・6号(1997)、「ペトロッテック」第27巻第12号(2004)参照)。
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
原油の減圧蒸留残渣をディレードコーカ装置より処理して得られた分解軽質留分をスプリッターにより分留してLPG留分を得、これをさらにソーダ洗浄し得られたLPG留分を、長さ0.9m、内容積7Lの吸着剤の層に、圧力0.5MPaG、温度10〜20℃にて、線速度0.7m/時(滞留時間:1.3時間)で液相状態にて長さ方向に通油した。吸着剤として、成型されたフォージャサイト型ゼオライトNaX型(東ソー(株)製ゼオラムF−9 9−14#)を用いた。予め、吸着剤が充填された吸着槽は、低硫黄濃度の炭素数3の炭化水素ガス(20容量%)と窒素(80容量%)の混合ガス(硫黄分2ppm)を45L/分で45分置換し、その後、上記LPG留分を20L/分で45分通油した後、評価試験を実施した。LPG留分の組成、硫黄濃度、窒素濃度を表1に示す。硫黄分の測定はASTM D5453に準拠して、窒素分の測定はJIS K2609に準拠して、炭化水素組成についてはJIS K2240に準拠して測定した。
硫黄、窒素、パラフィン類、オレフィン類などの各濃度は、ディレードコーカ装置の原料の変化により変動している。硫黄化合物に関しては、炭素数4以上のメルカプタン類、炭素数5以上のジスルフィド類、炭素数5以上のスルフィド類、チオフェン類は実質的に含まれておらず、検出下限以下であった。各硫黄化合物の硫黄分は化学発光検出器付きガスクロマトグラフィー法により測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
通油開始後におけるカラム出口でのLPG留分中の硫黄濃度変化を図1に示す。35時間付近から硫黄濃度が徐々に増加していくことがわかる。この図から、大きな入口の硫黄濃度の変動にかかわらず、出口の硫黄濃度は、通油開始初期4〜42時間まで10ppm以下、特に10〜34時間までは2ppm以下、さらに16〜20時間は1ppm未満であった。なお、窒素濃度は、通油開始から終了まで1ppm以下であった。また、ジエン類の重合などによるカラム前後での差圧の上昇は観察されなかった。オレフィン類の組成の吸着処理前後での大きな変化は見られなかった。なお、吸着剤の層をより長くすることにより、硫黄、窒素はさらに低濃度まで脱硫できる。
【比較例1】
【0031】
ノルマルデカン55wt%、1−ヘキセン44wt%、及び1,3−ペンタジエン0.4wt%を含む軽質炭化水素油に、ジメチルジスルフィド、ノルマルブタンチオール、ジメチルスルフィド、プロピオニトリルを加えて、硫黄濃度及び窒素濃度を調整した。総硫黄濃度は356ppmであり、各硫黄化合物の濃度は、ジメチルジスルフィド322ppm、ノルマルブタンチオール26ppm、ジメチルスルフィド8ppmであり、窒素濃度は4ppmであった。
このようにして調製した軽質炭化水素油を、長さ0.3m、内容積26mLに充填した吸着剤の層に、圧力0.25MPaG、25℃にて、線速度0.7m/時(滞留時間:25分)で液相状態にて長さ方向に通油した。
吸着剤として、成型されたフォージャサイト型ゼオライトNaX型(合成ゼオライト、F−9、粒状(和光純薬工業(株)))を用いた。
通油開始以降におけるカラム出口での炭化水素油中の硫黄濃度変化を図2に示す。12時間付近で出口の硫黄濃度は10ppmを超えた。そのときの出口での主な硫黄化合物は、メチルノルマルブチルジスルフィド、ジノルマルブチルジスルフィドなどであり、これらの化合物は、ノルマルブタンチオールが反応した化合物であると考えられる。また、ジメチルジスルフィド(DMDS)が、単独で10ppmを超えた時間は、約16時間後である。したがって、重質なノルマルブタンチオールが含まれることにより、出口の硫黄濃度が、10ppmに達する時間が短くなることがわかる。なお、この通油時間内において、窒素濃度は1ppm以下であった。
【実施例2】
【0032】
実施例1と同様に、長さ0.9m、内容積7Lの吸着剤の層に、圧力0.5MPaG、温度10〜20℃にて、線速度0.7m/時(滞留時間:1.3時間)で液相状態にて長さ方向に通油した。吸着剤として、成型されたフォージャサイト型ゼオライトNaX型(東ソー(株)製ゼオラムF−9 9−14#)を用いた。なお、予め、吸着剤が充填された吸着槽は処理を行わなかった。
出口濃度/入口濃度=50%となった時間と平均硫黄濃度から求めた吸着容量は、33gS/kg-adsであった(adsは、吸着剤を示す)。一方、実施例1では24gS/kg-adsであった。以上のことから、初期処理をおこなわず、直接LPG留分を液相にて通油することにより、吸着剤の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1におけるカラム出口での炭化水素油中の硫黄濃度の変化を示す。
【図2】比較例1におけるカラム出口での炭化水素油中の硫黄濃度の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジスルフィド類を含みかつ炭素数4以上のメルカプタン類の濃度が10ppm以下である軽質炭化水素油を、吸着剤で処理することによって前記炭化水素油の硫黄分を10ppm以下に除去することを特徴とする低硫黄軽質炭化水素油の製造方法。
【請求項2】
軽質炭化水素油の硫黄分を1ppm以下に除去することを特徴とする請求項1に記載の低硫黄軽質炭化水素油の製造方法。
【請求項3】
軽質炭化水素油が、重質油熱分解装置から得られたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の低硫黄軽質炭化水素油の製造方法。
【請求項4】
軽質炭化水素油は、炭化水素化合物としてジエン類を含むものであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の低硫黄軽質炭化水素油の製造方法。
【請求項5】
吸着剤が、フォージャサイト型ゼオライトであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の低硫黄軽質炭化水素油の製造方法。
【請求項6】
吸着剤に通油する際に前処理せず、軽質炭化水素を、直接、吸着剤に通油することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の低硫黄軽質炭化水素油の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−335865(P2006−335865A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161744(P2005−161744)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(502053100)石油コンビナート高度統合運営技術研究組合 (72)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】