説明

低級オレフィンの収率を増大させるための接触変換方法

1以上の反応領域を含む接触変換反応器内で炭化水素油原料を接触変換触媒に接触させて、反応を行うことを含む、軽質オレフィン収率を増大させるための接触変換方法であって、前記炭化水素油原料が抑制剤の存在下で接触変換反応にさらされ、かつコークス堆積触媒から所望により抑制剤を含む反応蒸気を分離し、前記反応蒸気を分離することによってエチレンおよびプロピレンを含む対象生成物が得られ、かつ前記コークス堆積触媒が除去されかつ再利用のため前記反応器に戻されることによって再生される、接触変換方法。本方法は、抑制剤を導入することによってエチレンおよびプロピレンのような製造された軽質オレフィンの更なる変換反応を原水準の50〜70%まで弱めることができ、これにより対象生成物の収率を増大させることができる。原料として真空オイルガス油が使用される場合、エチレンの収率は8.73重量%まで上昇し、かつプロピレンの収率は29.30重量%まで上昇し、抑制剤が導入せずに得られたものと比較してそれぞれ14.4%および26.6%増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の接触変換方法に関する。より詳細には、触媒の存在下において炭化水素の接触変換を使用することによってエチレンおよびプロピレンのような軽質オレフィンを製造するための方法である。
【背景技術】
【0002】
石油炭化水素から軽質オレフィンを製造する従来の方法は水蒸気分解法であり、その機構は炭化水素の遊離基の水蒸気分解機構である。そのため、この方法のエチレン収率は比較的高い。一般的に言えば、ナフサの水蒸気分解によって製造されたプロピレン対エチレンの質量比は約0.43である。
【0003】
しかし、市場で求められているプロピレン対エチレンの質量比は0.7を超える。反応度合を適格に低下させることによってプロピレン収率を増大させることができるが、プロピレン対エチレンの質量比が0.65を超えることに適しておらず、さもなければ、軽質オレフィンの全収率が減少する可能性があり、その結果この方法の利益が小さくなるであろう。
【0004】
加えて、水蒸気分解に適した原料は、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、ナフサ、またはライトサイクルオイルのような軽質石油炭化水素である。しかし、軽質炭化水素の供給量は原油がより重要になるという動向と同様に制限され、その結果研究者達は軽質オレフィンを製造するために重質石油炭化水素を含む広範囲の原料を使用することに焦点を移さなければならない。
【0005】
過去数年にわたり、特許文献の中には、原料として重質石油炭化水素、ナフサ、C−C軽質炭化水素等を使用し、酸性ゼオライトで触媒分解反応を経て軽質オレフィンを製造するための方法を開示しているものもある。
【0006】
水蒸気分解と比較すると、この種の方法は2つの優位性を有する。1つは酸性ゼオライトでの炭化水素の反応がカルベニウムイオン機構に従うので、プロピレン対エチレンの質量比が気体生成物中において高いことである。他は流動接触分解の成熟した工業技術および科学技術を利用することによって、この種の方法は軽質炭化水素原料を取り扱うだけでなく、重質炭化水素原料をも取り扱うことができることである。
【0007】
米国特許第4,980,053は、プロピレンおよびブチレンを製造するための触媒分解法を開示している。この方法は、流動床または移動床反応器と固体酸触媒を使用して、550〜650℃の反応温度で、0.2〜20h−1の原料重量時間単位当たりの空間速度の下、触媒対原料の質量比が2〜12の状態で反応を行っている。
【0008】
その実施例1において、反応は原料としての真空の軽油を使用して、活性成分としてZSM−5の触媒および担体としてカオリンを用いて、580℃で行われ、エチレンに関しては5.89重量%、プロピレンに関しては21.56重量%およびブチレンに関しては15.64重量%の収率を得ている。
【0009】
米国特許第6,210,562は、エチレンおよびプロピレンを製造するための接触熱分解方法を開示している。この方法においては、予熱された重質石油炭化水素は、高温度の蒸気存在下においてライザーまたはダウンフロー移動ライン反応器で柱状層間粘土ゼオライトおよび/またはリンとアルミニウムまたはマグネシウムまたはカルシウムとによって改質された、ペンタシル構造を有する高シリカゼオライトと接触させられ、接触熱分解方法が650〜750℃の温度、1.5〜4.0×10Paの反応圧力、0.2〜5秒の反応時間、触媒対原料の質量比15〜40:1、および蒸気対原料の質量比0.3〜1:1で行われている。この方法においてはエチレンおよびプロピレンともに18重量%を超える収率が得られている。
【0010】
米国特許第6,106,697は、原料としてのガスオイルまたは残油を使用することによってC−Cオレフィンを選択的に製造し、2段反応器で接触分解反応を行う方法を開示している。ガスオイルまたは残油は第1段反応器中で大孔ゼオライト系触媒と接触させられ、通常の接触分解条件の下で接触分解反応を行い、ナフサ留分を含む異なる沸点範囲の生成物を得ている。
【0011】
第1段反応器で得られたナフサ留分は第2段反応器に入り、中間孔形状選択的ゼオライト系触媒と接触させられて、500〜650℃の温度、4〜10:1の触媒対原料の質量比、70〜280kPaの炭化水素分圧で更なる反応を行い、C−Cオレフィンを得ている。
【0012】
要約すれば、従来技術でエチレン、プロピレンおよびブチレンの収率を増大させる主な手段は、高反応温度、高触媒対オイル比を用い、かつ通常の接触分解で用いられるものよりも投入する蒸気の量を多くし、約0.7nm未満の平均孔径を有する中間孔形状選択的ゼオライト系触媒を含む触媒を使用することである。
【0013】
上記手段のすべては石油炭化水素の分解反応と同一視でき、すなわち、従来技術のすべては、エチレン、プロピレンおよびブチレンの生成反応を活発化させることによりエチレン、プロピレンおよびブチレンの収率を増大させるという目的を実現する。
【0014】
最初から、当業者は通常、接触分解反応条件の下、安定的な反応生成物としてプロピレンを考える。「Catalytic Cracking Technology and Engineering (第2版)」(Chen Junwu著、China PetroChemical Press、2005年3月1日)の書籍152頁には、「プロピレンは安定な生成物であり、かつ本質的には高い原料変換でこれ以上は変換しない。」との記述がある。
【0015】
それにも関わらず、本発明者は驚くべきことに石油炭化水素の接触変換の反応条件下でプロピレンが注目すべき反応性を有し、酸性ゼオライトの存在下において軽質オレフィンを製造し、かつそれが他の炭化水素、水素およびコークスに急速に大量に変換され、その一方でプロピレン収率の低下を招くということを実験室的研究を介して発見をした。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、本発明者の発見に基づいて軽質オレフィン収率を増大させるための接触変換法を提供することである。この方法は、抑制剤の使用で軽質オレフィン形成後に続いて起こるプロピレンのような軽質オレフィンの変換反応を抑制することによって、軽質オレフィン収率、特にプロピレン収率を増大させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によって提供される方法は、1以上の反応領域を含む接触変換反応器内で炭化水素油原料を接触変換触媒に接触させて、反応を行うことを含み、前記炭化水素油原料が抑制剤の存在下で接触変換反応にさらされ、かつコークス堆積触媒から所望により抑制剤を含む反応蒸気を分離し、前記反応蒸気を分離することによってエチレンおよびプロピレンを含む対象生成物が得られ、かつ前記コークス堆積触媒が除去されかつ再利用のため前記反応器に戻されることによって再生される。
【0018】
本発明の前記炭化水素油原料は石油炭化水素油、鉱油、合成潤滑油およびこれらの混合物からなる群から選択される1つである。石油炭化水素油はC−C留分、ナフサ、ライトサイクルオイル、真空ガス油、コーカーガスオイル、脱アスファルテン油、水素化未転換油、大気残油、減圧残油、原油およびこれらの混合物からなる群から選択される1つである。
【0019】
鉱油は石炭液化油、オイルサンドビチューメン、シェール油およびこれらの混合物からなる群から選択される1つである。合成潤滑油はF−T合成方法を経て石炭、天然ガス、またはアスファルトから製造された留出物である。
【0020】
本発明の前記接触変換触媒はゼオライト、無機酸化物、および任意の粘土を含み、成分の含有量がそれぞれゼオライト10〜50重量%、無機酸化物5〜90重量%および粘土0〜70重量%である。
【0021】
活性成分として、ゼオライトは約0.7nm未満の平均孔径を有する中間孔形状選択的ゼオライトおよび約0.7nmを超える平均孔径を有する任意の大孔ゼオライトから選択される。中間孔ゼオライトはゼオライトの総重量の25〜100%、好ましくは50〜100%を構成する。大孔径ゼオライトはゼオライトの総重量の0〜75%、好ましくは0〜50%を構成する。
【0022】
中間孔ゼオライトはZSM系ゼオライトおよび/またはZRPゼオライト、もしくはリンのような非金属元素および/または鉄、コバルトおよびニッケルのような遷移金属元素によって改質された中間孔ゼオライトから選択される。ZRPゼオライトのより詳細な記述は米国特許第5,232,675を参照することができる。
【0023】
ZSM系ゼオライトはZSM−5、ZSM−8、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−38、ZSM−48、同様の構造を有する他のゼオライト、およびこれらの混合物からなる群から選択される1つである。ZSM−5のより詳細な記述は米国特許第3,702,886を参照することができる。
【0024】
大孔ゼオライトは希土類Y(REY)、希土類HY(REHY)、異なる方法によって得られる超安定Y、高シリカYおよびこれらの混合物からなる群から選択される1つである。これらのゼオライトはすべて市販のものである。
【0025】
充填剤として、無機酸化物はシリカ(SiO)および/またはアルミナ(Al)から選択される。担体として、粘土はカオリンおよび/またはハロイサイトから選択される。
【0026】
本発明の前記接触変換反応器の反応領域は、1以上のライザー、1以上の流動床、1以上のダウナー、ライザー+流動床、ライザー+ダウナー、ダウナー+流動床およびこれらの変形態様から選択され、前記ライザーは単一直径ライザーまたは変化する直径を有するライザーであってもよい。
【0027】
本発明の前記抑制剤は、水素供与能を有する物質、希釈性を有する物質、酸性触媒の活性中心で吸収性を有する物質およびこれらの混合物から選択される1つであるか、または含み、水素供与能を有する物質は水素、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、接触分解乾燥ガス、コーキング乾燥ガスおよびこれらの混合物から選択される1つであるか、または含み、希釈性を有する物質は一酸化炭素であるか、または含み、酸性触媒の活性中心で吸収性を有する物質はメタノール、エタノール、アンモニア、ピリジンおよびこれらの混合物からなる群から選択される1つであるか、または含む。
【0028】
本発明の前記抑制剤の導入箇所は前記炭化水素油原料の供給ライン、前記再生触媒の送達ライン、前記反応器の反応領域、前記反応蒸気をコークス堆積触媒から分離する分離塔および前記コークス堆積触媒を除去するストリッパのいずれかを含む。
【0029】
抑制剤が反応器の反応領域から導入される場合、抑制剤は好ましくは前記反応領域の触媒導入口の下流に導入される。
【0030】
いくつかの反応領域を有する反応器が使用される場合、前記抑制剤は好ましくは反応領域間の箇所から導入される。例えば、ライザー+流動床を使用する場合、前記抑制剤は前記ライザーと前記流動床との間の箇所から導入される。しかしながら、原料と触媒の性質が異なるので、抑制剤はライザーの触媒導入口の下流の他の箇所から導入されることは排除されない。
【0031】
変化する直径を有するライザーである場合、前記抑制剤は好ましくは前記ライザーの直径変化部から導入される。しかしながら、原料と触媒の性質が異なるので、抑制剤はライザーの触媒導入口の下流の他の箇所から導入されることは除外されない。
【0032】
前記抑制剤対前記炭化水素油原料の重量比率は前記炭化水素油原料の重量に基づいて0.001〜15重量%、好ましくは0.003〜10重量%である。
【0033】
本発明の前記抑制剤は1箇所または同時に数箇所に導入されることが可能であり、かつ前記抑制剤が導入される抑制剤の総量の0〜100重量%の量でそれぞれの箇所に導入される。
【0034】
本発明の前記抑制剤は反応生成物から分離された抑制剤の0〜100重量%の量で再利用される。すなわち、抑制剤は非再利用、部分的な再利用、または完全な再利用で用いられることが可能である。
【0035】
本発明の反応蒸気および抑制剤の分離法は従来技術で一般的に使用されている装置で行われる。
【0036】
本発明の方法において、炭化水素油原料の反応温度は、前記反応器の最終反応領域の出口温度として特別に定義付けられていて、500〜700℃、好ましくは550〜650℃である。前記コークス堆積触媒から前記反応蒸気を分離するための分離塔の圧力は1.5〜4×10Pa、好ましくは1.5〜3.5×10Paである。反応時間は0.5〜10秒、好ましくは1〜5秒である。触媒対炭化水素油原料の質量比は6〜40、好ましくは10〜30である。蒸気対炭化水素油原料の質量比は0.1〜1:1、好ましくは0.2〜0.6:1である。
【0037】
従来技術と比較して、本発明は以下の効果を有する。
1.本方法の方法は、抑制剤を導入することによって製造された軽質オレフィンの更なる変換反応を原水準の50〜70%まで弱めることができ、これにより対象生成物の収率を増大させることができる。原料として真空オイルガス油が使用される場合、エチレンの収率は8.73重量%まで上昇し、かつプロピレンの収率は29.30重量%まで上昇し、抑制剤が導入せずに得られたものと比較してそれぞれ14.4%および26.6%増大する。
【0038】
2.本発明は、反応器に抑制剤を導入することによって使用される蒸気の量を低減することができ、そして触媒の熱水失活をある程度まで更に遅らせることができかつ触媒の寿命を引き延ばすことができる。
【0039】
3.本発明の方法は、C−C留分、ナフサ留分および様々な重質炭化水素を含む幅広い原料源を有する。加えて、本発明は、少しの変更を加えた後、既存の設備を使用することが可能であるので、比較的広範囲の利用を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の抑制剤が異なる箇所に導入されることが可能であるので、本発明は原料および触媒の異なる性質に従って、多くの実施の形態を有していてもよい。本発明の方法は、図1および図2とともに、抑制剤が供給ノズルから反応領域に導入されかつ再利用動作モードで使用されるという、また抑制剤がストリッパから導入されかつワンススルーモードで使用されるという以下の実施の形態をそれぞれ参照することにより詳細に説明されるが、本発明はこれによって限定されることを目的とするものではない。
【0041】
図1は、抑制剤が供給ノズルから反応領域に導入されかつ再利用動作モードで使用されることを説明する概略工程図である。この図によって示される手順において、高温再生触媒は再生触媒のための送達ライン16を介してライザー4の底部に入り、ライン1から導入されるプリリフティング媒体(pre-lifting medium)の助力で加速的な速度で上方に向かって流れる。
【0042】
ライン2からの予熱された炭化水素油原料、ライン3からの噴霧蒸気およびライン14からの抑制剤は特定の比率で混合され、次いでその混合物はライザー4に導入され、そして抑制剤の存在下で高温触媒と接触させられて、0.5〜10秒の反応時間、500〜700℃のライザー4の出口温度、1.5〜4×10Paの分離塔7の圧力、触媒対炭化水素原料の質量比が6〜40で反応を行う。
【0043】
反応蒸気、抑制剤および触媒の混合物は、ライザーの出口に向かってライザーに沿って上昇し、その後分離塔7に入り、そこで所望により抑制剤を含む反応蒸気はコークス堆積触媒から分離される。
【0044】
反応蒸気および抑制剤は更なる分離のためのライン8を介して次に続く分離系9に送られ、そして反応生成物は分離後ライン10から回収され、更に分離されて、対象生成物であるプロピレン、エチレンおよび同類のもの並びにナフサ、ライトサイクルオイル、重油、および同類のものを得る(図示せず)。
【0045】
抑制剤の一部はライン11を介して回収され、抑制剤の他は更なる分離および精製のためにライン12を介して分離装置13に入り、ライン14からの未使用の抑制剤と混合し、その後にライン3を介して噴霧蒸気とともに反応領域に入ることによって、リサイクルされる。
【0046】
コークス堆積触媒はストリッパ6に入り、その中に除去蒸気がライン5を介して導入され、コークス堆積触媒と逆流して接触させられて、できる限りコークス堆積触媒によって取り込まれている反応生成物を取り除く。取り除かれた触媒は、使用済み触媒のための送達ライン15を介して再生器18に送られ、そこで堆積しているコークを焼き尽くすことにより再生される。
【0047】
空気のような酸素含有ガスはライン17を介して再生器18に導入され、再生排ガスはライン19を介して回収される。再生触媒は再生触媒のための送達ライン16を介してライザー4に再循環される。
【0048】
図2は、抑制剤がストリッパから導入されかつワンススルーモードで使用されることを説明する概略工程図である。この図によって示される手順において、高温再生触媒は再生触媒のための送達ライン16を介してライザー4の底部に入り、管1から導入されるプリリフティング媒体の助力で加速的な速度で上方に向けて流れる。
【0049】
ライン2からの予熱された炭化水素油原料およびライン3からの噴霧蒸気が特定の比率で混合され、次いでその混合物はライザー4に導入され、抑制剤の存在下で高温触媒と接触させられて、0.5〜10秒の反応時間、500〜700℃のライザー4の出口温度、1.5〜4×10Paの分離塔7の圧力、触媒対炭化水素原料の質量比が6〜40で反応を行う。
【0050】
反応蒸気および触媒の混合物は、ライザーの出口に向かってライザーに沿って上昇し、その後分離塔7に入り、そこで反応蒸気はコークス堆積触媒から分離される。反応蒸気はライン8を介して次に続く分離系9に送られ、反応物分離が完了する。
【0051】
コークス堆積触媒はストリッパ6に入り、その中に除去蒸気およびライン14からの抑制剤がライン5を介して導入され、コークス堆積触媒と逆流して接触させられて、できる限りコークス堆積触媒によって取り込まれている反応生成物を取り除く。
【0052】
抑制剤はストリッパ6を介して分離塔7に入り、エチレンおよびプロピレンの更なる変換反応を抑制し、その後反応蒸気とともに生成物分離系に入る。取り除かれた触媒は、使用済み触媒のための送達ライン15を介して再生器18に送られ、そこで堆積しているコークを焼き尽くすことにより再生される。
【0053】
空気のような酸素含有ガスはライン17を介して再生器18に導入され、再生排ガスはライン19を介して回収される。再生触媒は再生触媒のための送達ライン16を介してライザー4に再循環される。
【実施例】
【0054】
本発明によって提供される方法は、以下の例の方法によってさらに説明されるが、本発明はそれによって何の制限も受けない。
【0055】
例で使用される触媒は、MMC−2の商標で、SINOPEC Catalyst Qilu Subcompanyから入手可能な市販の製品である。本例で使用される原料Aは99.9vol%を超えるプロピレン濃度を有する純プロピレンであり、原料Bは真空ガス油であり、主な性質は表1に示される。
【0056】
(例1)
この例は、本発明の方法による、抑制剤として一酸化炭素を使用するベンチ固定流動床反応器における軽質オレフィンの触媒反応性を示す。
【0057】
実験は原料として原料Aを用いてバッチ動作モードで行われた。原料、抑制剤および噴霧蒸気は予熱炉によって約350℃に加熱され、その後供給ノズルを介して流動床の底部に供給され、高温触媒と接触して、接触変換反応を行った。
【0058】
反応蒸気および抑制剤はコークス堆積触媒から分離され、その後生成物分離系に入り、そして反応蒸気は更に気体生成物と液体生成物に分離された。反応が完了した後、除去工程が行われ、蒸気によって使用済み触媒に吸収された炭化水素生成物を取り除いた。
【0059】
除去後、酸素含有ガスは反応器に導入され、使用済み触媒の再生を行い、そして触媒はその再生後次の反応に使用されることが可能となる。実験の主な動作条件および結果は表2に記載される。
【0060】
(例1´)
この例は、本発明の実施効果をなお一層証明する目的として、反応の間抑制剤を導入しない場合における軽質オレフィンの触媒反応性を示す。この例は通常の知識によって知られている事項から研究室において発明者によって発見された異なる実験事象を有する。
【0061】
本実験において原料として原料Aが使用された。使用された反応器、主な実験工程および他の動作条件は例1と同様であった。主な動作条件および結果は表2に記載される。
【0062】
表2における例1と例1´の実験結果の比較から、プロピレンは、軽質オレフィンを製造するための通常の反応条件下、接触変換によって相当高い反応性を有し、プロピレンの変換は55.19重量%まで上昇することが理解できる。これは、多くの研究者の認識とかなり異なっていた。本発明の方法はプロピレンの変換反応を大いに抑制することができる。例1のプロピレンの変換は22.8パーセント減少される。
【0063】
(例2)
本例は、本発明の方法による、抑制剤として水素を使用するベンチ固定流動床反応器における軽質オレフィンの触媒反応性を示す。
【0064】
本実験において原料として原料Aが使用された。使用された反応器、主な実験工程は例1と同様であった。主な動作条件および結果は表2に記載される。
【0065】
(例2´)
この例は、本発明の実施効果をなお一層証明する目的として、反応の間抑制剤を導入しない場合における軽質オレフィンの触媒反応性を示す。この例は通常の知識によって知られている事項から研究室において発明者によって発見された異なる実験事象を有する。
【0066】
本実験において原料として原料Aが使用された。使用された反応器、主な実験工程および他の動作条件は例2と同様であった。主な動作条件および結果は表2に記載される。
【0067】
表2における例2と例2´の実験結果の比較から、プロピレンは、軽質オレフィンを製造するための通常の反応条件下、接触変換によって相当高い反応性を有し、プロピレンの変換は64.01重量%まで上昇することが理解できる。これは、多くの研究者の認識とかなり異なっていた。本発明の方法はプロピレンの変換反応を大いに抑制することができる。例2のプロピレンの変換は29.97パーセント減少される。
【0068】
(例3)
この例は、本発明の方法による、抑制剤としてアンモニアを使用するベンチ固定流動床反応器における軽質オレフィンの触媒反応性を示す。
【0069】
本実験において原料として原料Aが使用された。使用された反応器、主な実験工程は例1と同様であった。主な動作条件および結果は表2に記載される。表2からプロピレンの変換がわずか38.30重量%であったことが理解できる。
【0070】
(例4)
この例は、本発明の方法による、異なる箇所から抑制剤を導入した場合におけるエチレンおよびプロピレンを製造するための重質炭化水素の接触変換を示す。
【0071】
実験は原料として原料Bおよび抑制剤としてメタノールを用いて行われ、連続的な反応−再生動作における試験的なライザー設備で接触変換実験を行った。ライザーは16mmの内径および6mの高さを有し、ライザー反応領域の出口上に64mmの内径および0.3mの高さを有する流動床反応領域があった。
【0072】
実験はワンススルーモードで行われた。抑制剤は供給ノズルから導入された。温度約700℃を有する再生触媒は、再生触媒のための管を介してライザー反応領域の底部に入り、プリリフティング蒸気の助力で上昇した。原料は予熱炉で約350℃まで予備加熱され、噴霧蒸気および抑制剤と混合された。混合物は連続してライザー反応領域および供給ノズルを介して流動床反応領域に入り、高温触媒と接触して、接触変換反応を行った。
【0073】
反応蒸気、抑制剤、蒸気およびコークス堆積触媒は流動床反応領域の出口から分離塔に入った。反応蒸気および抑制剤は分離塔内で触媒から迅速に分離された。反応蒸気は更に気体生成物と液体生成物に分離され、そして使用済み触媒は重力によってストリッパに入った。
【0074】
除去蒸気は使用済み触媒に吸収された炭化水素生成物を取り除き、その後流動床反応領域を介して気体−液体分離系に入った。除去された使用済み触媒は再生器に入り、加熱空気への接触を経由して再生された。再生触媒は送達ラインで蒸気によって除去され、再生触媒に吸収された非炭化水素ガス不純物を取り除いた。除去された再生触媒は再利用のためのライザー反応領域に戻された。
【0075】
主な動作条件および実験結果は表3に記載される。表3からエチレンおよびプロピレンの収率はそれぞれ8.73重量%および29.30重量%まで上昇することが理解できる。
【0076】
(比較例)
この例は抑制剤を導入しない場合におけるエチレンおよびプロピレンを製造するための原料としての重質炭化水素の接触変換を示す。
【0077】
本実験において原料として原料Bが使用された。使用された反応器、主な実験工程および他の動作条件は例4と同様であった。主な動作条件および結果は表3に記載される。例4および比較例におけるライザーの入口での原料Bの分圧は、原料の変換が分圧の変化によって影響を及ぼさないことを確保するため等しくした。
【0078】
例4および比較例の実験結果の比較から、軽質オレフィンを製造するための石油炭化水素の接触変換の従来技術に基づけば、本発明の方法によれば、エチレンおよびプロピレンの高い収率が達成され得ることが理解できる。同じ反応条件が使用されかつ抑制剤が導入されていなかった比較例と比較すると、エチレンおよびプロピレンの収率はそれぞれ14.4%および26.6%増大した。
【0079】
(例5)
この例は、本発明の方法による、異なる箇所から抑制剤を導入した場合におけるエチレンおよびプロピレンを製造するための重質炭化水素の接触変換を示す。
【0080】
実験は原料として原料Bおよび抑制剤として水素を用いて行われ、抑制剤は除去蒸気の分配器から導入された。実験で用いられた反応器および主な工程は例4と同様であり、そして主な動作条件および結果は表3に記載される。表3からエチレンおよびプロピレンの収率がそれぞれ8.73重量%および28.55重量%まで上昇することが理解できる。
【0081】
(例6)
この例は、本発明の方法による、異なる箇所から抑制剤を導入した場合におけるエチレンおよびプロピレンを製造するための重質炭化水素の接触変換を示す。
【0082】
実験は原料として原料Bおよび抑制剤としてデカヒドロナフタレンを用いて行われ、抑制剤はプリリフティング蒸気の分配器から導入された。実験で用いられた反応器および主な工程は例4と同様であり、そして主な動作条件および結果は表3に記載される。表3からエチレンおよびプロピレンの収率がそれぞれ8.15重量%および27.88重量%まで上昇することが理解できる。
【0083】
(例7)
この例は、本発明の方法による、抑制剤が自己生成乾燥ガスであり、それが供給ノズルから導入され、かつ再利用動作モードで使用される場合におけるエチレンおよびプロピレンを製造するための重質炭化水素の接触変換を示す。
【0084】
実験は原料として原料Bを用いて行われた。実験で用いられた反応器および主な工程は例4と同様であり、そして主な動作条件および結果は表3に記載される。表3からエチレンおよびプロピレンの収率がそれぞれ8.29重量%および28.52重量%まで上昇することが理解できる。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】軽質オレフィン収率を増大させるための本発明によって提供される接触変換方法の概略工程図であって、抑制剤が供給ノズルから反応領域に導入されかつ再利用動作モードで使用される図である。
【図2】軽質オレフィン収率を増大させるための本発明によって提供される接触変換方法の概略工程図であって、抑制剤がストリッパから導入されかつワンススルーモードで使用される図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の反応領域を含む接触変換反応器内で炭化水素油原料を接触変換触媒に接触させて、反応を行うことを含む、軽質オレフィン収率を増大させるための接触変換方法であって、
前記炭化水素油原料が抑制剤の存在下で接触変換反応にさらされ、かつコークス堆積触媒から所望により抑制剤を含む反応蒸気を分離し、前記反応蒸気を分離することによってエチレンおよびプロピレンを含む対象生成物が得られ、かつ前記コークス堆積触媒が除去されかつ再利用のため前記反応器に戻されることによって再生される、接触変換方法。
【請求項2】
前記炭化水素油原料が石油炭化水素油、鉱油、合成潤滑油およびこれらの混合物からなる群から選択される1つであり、前記石油炭化水素油がC−C留分、ナフサ、ライトサイクルオイル、真空ガス油、コーカーガスオイル、脱アスファルテン油、水素化未転換油、大気残油、減圧残油、原油およびこれらの混合物からなる群から選択される1つであり、前記鉱油が石炭液化油、オイルサンドビチューメン、シェール油およびこれらの混合物からなる群から選択される1つであり、前記合成潤滑油がF−T合成方法を経て石炭、天然ガス、またはアスファルトから製造された留出物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触変換触媒がゼオライト、無機酸化物、および任意の粘土を含み、成分の含有量がそれぞれゼオライト10〜50重量%、無機酸化物5〜90重量%および粘土0〜70重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ゼオライトが約0.7nm未満の平均孔径を有する中間孔形状選択的ゼオライトおよび約0.7nmを超える平均孔径を有する任意の大孔ゼオライトから選択され、かつ前記中間孔ゼオライトが前記ゼオライトの総重量の25〜100%を構成しかつ前記大孔径ゼオライトが前記ゼオライトの総重量の0〜75%を構成していることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記中間孔ゼオライトがZSM系ゼオライトおよび/またはZRPゼオライトから選択され、かつ前記ZSM系ゼオライトがZSM−5、ZSM−8、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−38、ZSM−48、同様の構造を有する他のゼオライト、およびこれらの混合物からなる群から選択される1つであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記大孔ゼオライトが希土類Y、希土類HY、異なる方法によって得られる超安定Y、高シリカYおよびこれらの混合物からなる群から選択される1つであることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記接触変換反応器の前記反応領域が1以上のライザー、1以上の流動床、1以上のダウナー、ライザー+流動床、ライザー+ダウナー、ダウナー+流動床およびこれらの変形態様から選択され、前記ライザーが単一直径ライザーまたは変化する直径を有するライザーであってもよいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抑制剤が水素供与能を有する物質、希釈性を有する物質、酸性触媒の活性中心で吸収性を有する物質およびこれらの混合物から選択される1つであるか、または含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記水素供与能を有する物質が水素、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、接触分解乾燥ガス、コーキング乾燥ガスおよびこれらの混合物から選択される1つであるか、または含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記希釈性を有する物質が一酸化炭素であるか、または含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記酸性触媒の活性中心で吸収性を有する物質がメタノール、エタノール、アンモニア、ピリジンおよびこれらの混合物からなる群から選択される1つであるか、または含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記抑制剤の導入箇所が炭化水素油原料の供給ライン、再生触媒の送達ライン、前記反応器の反応領域、前記反応蒸気を前記コークス堆積触媒から分離する分離塔および前記コークス堆積触媒を除去するストリッパのいずれかを含むことを特徴とする、請求項1または8に記載の方法。
【請求項13】
前記抑制剤が前記反応領域の触媒導入口の下流に導入されることを特徴とする、請求項1または8に記載の方法。
【請求項14】
いくつかの反応領域を有する反応器が使用される場合、前記抑制剤が反応領域間の箇所から導入されることを特徴とする、請求項1、7、および8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記接触変換反応器がライザー+流動床の反応領域を有する場合、前記抑制剤が前記ライザーと前記流動床との間の箇所から導入されることを特徴とする、請求項1、7、および8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記接触変換反応器で使用される反応領域が変化する直径を有するライザーである場合、前記抑制剤が前記ライザーの直径変化部から導入されることを特徴とする、請求項1、7、および8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記抑制剤対前記炭化水素油原料の重量比率が前記炭化水素油原料の重量に基づいて0.001〜15重量%であることを特徴とする、請求項1または8に記載の方法。
【請求項18】
前記抑制剤対前記炭化水素油原料の重量比率が前記炭化水素油原料の重量に基づいて0.003〜10重量%であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記抑制剤が1箇所または同時に数箇所に導入されることが可能であり、かつ前記抑制剤が導入される抑制剤の総量の0〜100重量%の量でそれぞれの箇所に導入されることを特徴とする、請求項1または8に記載の方法。
【請求項20】
反応条件は、前記反応器の最終反応領域の出口温度が500〜700℃であり、前記コークス堆積触媒から前記反応蒸気を分離するための分離塔の圧力が1.5〜4×10Paであり、反応時間が0.5〜10秒であり、触媒対炭化水素油原料の質量比が6〜40であり、蒸気対炭化水素油原料の質量比が0.1〜1:1であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
反応条件は、前記反応器の最終反応領域の出口温度が550〜650℃であり、前記コークス堆積触媒から前記反応蒸気を分離するための分離塔の圧力が1.5〜3.5×10Paであり、反応時間が1〜5秒であり、触媒対炭化水素油原料の質量比が10〜30であり、蒸気対炭化水素油原料の質量比が0.2〜0.6:1であることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記接触変換反応器の反応領域がライザー+流動床であり、かつ前記抑制剤がメタノールであり、接触変換反応器のワンススルー動作モードで使用されることを特徴とする、請求項1、20、および21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記接触変換反応器の反応領域がライザー+流動床であり、かつ前記抑制剤が水素であり、接触変換反応器のワンススルー動作モードで使用されることを特徴とする、請求項1、20、および21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記接触変換反応器の反応領域がライザー+流動床であり、かつ前記抑制剤がデカヒドロナフタレンであり、接触変換反応器のワンススルー動作モードで使用されることを特徴とする、請求項1、20、および21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記接触変換反応器の反応領域がライザー+流動床であり、かつ前記抑制剤が接触変換反応器から自己生成される乾燥ガスであり、接触変換反応器の再利用動作モードで使用されることを特徴とする、請求項1、20、および21のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−520839(P2009−520839A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546078(P2008−546078)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/CN2006/003481
【国際公開番号】WO2007/071177
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(501329404)中國石油化工股▲分▼有限公司 (13)
【出願人】(504427813)中国石油化工股▲分▼有限公司石油化工科学研究院 (10)
【Fターム(参考)】