説明

低臭気スチレン系ポリマー分散物

【課題】不快臭のないスチレン系水性ポリマー分散物、低臭気ポリマー分散物を製造する方法、およびこれらから製造される低臭気コーティング組成物の提供。
【解決手段】モノマー中にもしくは非ポリマー添加剤として、少量のアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を含み、高沸点有機アミンを含むポリマー分散物。前記アミン誘導体の沸点温度が少なくとも150℃である。この水性ポリマー分散物は低臭気コーティングを製造するのに有用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子、またはアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド添加剤、および高沸点を有する少なくとも1種の有機アミンを含む低臭気水性スチレン系ポリマー分散物に関する。この水性ポリマー分散物は、スチレン含有分散物の不快臭のないコーティングを製造するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリマー分散物からの付臭物質の除去はポリマー産業界において、特に、嗅覚要求を伴う消費者用製品について長く望まれている。付臭物質は、残留モノマー、モノマー中の不純物、または重合プロセスの他の原料をはじめとする様々な化学的性質を有する。除去方法には、重合混合物を長期間、イオン源もしくはフリーラジカル源の添加を伴うかもしくは伴わずに加熱して、モノマー転化率を上昇させること;親水性付臭物質を物理的に除去するための真空ストリッピングまたは蒸気スパージング;並びに、酵素を使用してエステル付臭物質を酵素分解すること;が挙げられる。しかし、これらの方法は時間がかかりかつ製造プロセスのコストを上昇させる。
【0003】
スチレン含有ポリマー分散物においては、分散物中のスチレン系モノマーまたは同定されていない他の化合物から揮発しうる不快臭を除去するのが困難である。重合期間の延長、数回にわたる蒸気ストリッピング、または酵素の使用は、分散物の満足行く脱臭を達成することができない。
【0004】
ポリマー分散物を脱臭する効果的な方法の1つは、残留モノマーと反応する化学物質を添加して、臭気のない付加物を生じさせるか、または不揮発性付加物のような、より低臭気の物質に変換することである。米国特許第5,616,651号は、ゴム状ポリマーを製造する方法を開示し、この方法は得られるポリマーエマルションを脱臭する工程を含む。この脱臭工程は、追加のアミノアルコールが、エマルション中に見いだされている残留モノマーであるアクリル酸n−ブチルおよびアクリロニトリルと反応しうる条件下で行われる。しかし、この脱臭方法は、残留アクリル酸n−ブチルおよびアクリロニトリルに適用されるだけである。スチレンモノマーおよび重合における他の原料からのスチレンおよび/または不純物からの臭気は依然として除去されることが望まれている。
【0005】
欧州特許出願公開第1,553,106号は、スチレンモノマーを含む低臭気ポリマー分散物を開示する。アミノアルコール、ヒドロキシルアミンおよびヒドラジンを含む脱臭剤が使用されて、分散物のベンズアルデヒドの含有量を低減させる。しかし、これら脱臭剤は、スチレンモノマーからの残留スチレンおよび/または不純物の脱臭には適用されない。
【0006】
米国特許第6,969,734号は、アセトアセトキシ官能性ポリマー粒子およびアルキルエトキシ化界面活性剤を含む水性ポリマー分散物を開示し、これは、基体に対する改良された接着性を有するコーティングを製造するのに有用である。アセトアセトキシ官能基は、ポリマー粒子の潜在的な架橋性の目的のために使用される。好ましい実施形態においては、ペンダントアセトアセトキシ基の加水分解を最小限にするために、1種以上の塩基が水性ポリマー分散物に添加されて、pHを8〜11の範囲の値に上昇させる。好適な塩基には、アンモニア、または第一級アミン、例えば、エタノールアミン、メチルアミンもしくはイソプロピルアミンが挙げられる。その発明は、場合によっては、蒸気ストリッピングまたは蒸留のようなプロセスによって水性ポリマーが処理されて揮発性有機化合物(VOC)を除去することも開示する。しかし、この先行技術文献はスチレン系モノマーを含む水性ポリマー分散物のいくつかの臭気が、上記化合物の2種以上、例えば、アセトアセトキシ官能性ポリマー粒子およびエタノールアミンなどと混合することによって、並びに蒸気ストリッピングによって除去されうることを開示していない。このような脱臭に好適なアミンだけでなく、有効なアミンの量も開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,616,651号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1,553,106号明細書
【特許文献3】米国特許第6,969,734号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、不快臭のないスチレン系水性ポリマー分散物、低臭気ポリマー分散物を製造する方法、およびこれらから製造される低臭気コーティング組成物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の形態は、低臭気水性スチレン系ポリマー分散物であって、
スチレン系モノマー(a)、および0〜20%の、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)を(共)重合単位として含む(コ)ポリマーと;
0〜20%の、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有する非ポリマー化合物(c)と;
0.01〜5%のアミン誘導体と;
を含み、
前記アミン誘導体の沸点温度が少なくとも150℃であり;
前記モノマー(b)と前記化合物(c)との合計量が0.01〜20%の範囲であり;
上記%はポリマー分散物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージである;
低臭気水性スチレン系ポリマー分散物に関する。
本発明の第2の形態は、
1)スチレン系モノマー(a)、および0〜20%の、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)を(共)重合単位として含む(コ)ポリマーと;
0〜20%の、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有する非ポリマー化合物(c)と;
0.01〜5%のアミン誘導体と;
を含み、
前記アミン誘導体の沸点温度が少なくとも150℃であり;
前記モノマー(b)と前記化合物(c)との合計量が0.01〜20%の範囲であり;
上記%はポリマー分散物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージである;
ポリマー分散物を提供する工程;
2)工程1)のポリマー分散物を蒸気ストリッピングするかまたはカルボキシルエステラーゼ酵素処理する工程;
を含む、低臭気水性スチレン系ポリマー分散物を製造する方法を提供することである。
本発明の第3の形態は、本発明の第2の形態の方法によって製造された低臭気水性スチレン系ポリマー分散物を含むコーティング組成物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物中の成分を記載する目的のために、挿入語句を含む全ての表現法は挿入される事項を含むもの、およびその事項を含まないもののいずれか、または双方を意味する。例えば、「(コ)ポリマー」の表現法は、選択的に、ポリマー、コポリマー、およびこれらの混合物を含み;「(メタ)アクリラート」の表現法は、アクリラート、メタクリラートおよびこれらの混合物を意味し、本明細書において使用される「(メタ)アクリル」の表現法は、アクリル、メタクリル、およびこれらの混合物を意味する。
【0011】
本明細書において使用される場合、用語「水性ポリマー分散物」とは、水性媒体中に分散された離散したポリマー粒子を含む組成物、例えば、水性ポリマーエマルションをいう。
【0012】
本明細書において使用される場合、用語「スチレン系ポリマー」とは、スチレンもしくはその何らかの誘導体、例えば、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、ブチルスチレンもしくはクロロスチレンなどの重合単位を含むポリマー、またはこれらの分子構造を含むモノマーをいう。
【0013】
本明細書において使用される場合、用語「ペンダント」とは「ポリマー骨格内ではなく側鎖基としてポリマー骨格に結合している」ことを意味する。用語「ペンダント」は、ポリマー鎖の末端でのこのような基の結合も含む。
【0014】
本明細書において使用される場合、ある範囲における用語「まで」は、ゼロより大きく、かつその範囲の終点までおよび終点を含むいずれかおよび全ての量を意味する。
【0015】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、単位「重量%」は重合されるモノマーの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージを意味するものとする。
【0016】
本明細書において使用される「ガラス転移温度」または「Tg」は、フォックス式(T.G.Fox(フォックス)、Bull.Am.Physics Soc.,第1巻、第3号、123ページ(1956))を用いて計算されるものである。すなわち、モノマーM1およびM2のコポリマーのTgを計算するためには、
【数1】

式中、Tg(calc.)はコポリマーについて計算されたガラス転移温度であり、w(M1)はコポリマー中のモノマーM1の重量分率であり、w(M2)はコポリマー中のモノマーM2の重量分率であり、Tg(M1)はM1のホモポリマーのガラス転移温度であり、およびTg(M2)はM2のホモポリマーのガラス転移温度であり、全ての温度はK単位である。ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、Interscience Publishers(インターサイエンスパブリッシャーズ)の、J.Brandrup(ブランドラップ)およびE.H.Immergut(イメルグト)により編集された「Polymer Handbook(ポリマーハンドブック)」に認められうる。
【0017】
本発明の水性ポリマー分散物はスチレン系モノマー(a)を(共)重合単位として含む(コ)ポリマーを含む。本明細書においては、スチレン系モノマーは、嗅覚的に不快臭を有し、かつスチレンもしくはその何らかの誘導体、例えは、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、ブチルスチレンまたはクロロスチレンなどの分子構造を有するモノマーである。
【0018】
本発明のある実施形態においては、スチレン系モノマー(a)の量は、ポリマー分散物の全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで、2〜80%、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜70重量%、最も好ましくは20〜60重量%の範囲である。
【0019】
本発明のある実施形態においては、水性ポリマー分散物は、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有するモノマー(b)を(共)重合単位として含む(コ)ポリマーを含む。モノマー(b)の量は、ポリマー分散物の全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで、0〜20%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.1〜1%の範囲である。
【0020】
本発明のモノマー(a)およびモノマー(b)は、水性ポリマー分散物の1つのコポリマーにおいて共重合されていることが意図される。本明細書においては、「1つのコポリマー」には、グラフト化構造、ブロック構造、星状構造もしくは網状構造の有無にかかわらず、離散したコポリマー分子が挙げられる。(a)モノマーおよび(b)モノマーが1つのポリマー鎖において共重合されていないことも意図され、例えば、2つの別個の(コ)ポリマー鎖における;2つの架橋した(コ)ポリマー粒子における;一方の(コ)ポリマー相が完全にもしくは部分的に別の(コ)ポリマー相によって封入されているコア/シェル(コ)ポリマー粒子における;連続(コ)ポリマー相内に複数の(コ)ポリマーミクロドメインを有する(コ)ポリマー粒子における;マルチローブ(multilobe)(コ)ポリマー粒子に;または相互侵入網目ポリマーにおける;ものが挙げられる。
【0021】
水性ポリマー分散物は、分散物中で上記(コ)ポリマーと混合される添加剤として、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有する非ポリマー化合物(c)を、ポリマー分散物の全乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで0〜20%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.1〜5%含む。モノマー(a)およびモノマー(b)が1つのポリマーにおいて共重合されていない場合には、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマーはスチレン系ポリマー水性分散物に添加される添加剤としてみなされることができ、使用されうる。このようなアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマーを添加剤として使用することは、スチレン含有水性ポリマー分散物における添加剤としての非共重合化合物(c)と比較して同等の脱臭結果を達成する。
【0022】
アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド基は:
【化1】

(式中、Rは水素、もしくは1〜10個の炭素原子を有するアルキル、もしくはフェニルである)
で表される。
【0023】
アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基の例は:
【化2】

である。
式中、XはOまたはNであり、Rは二価の基であり、Rは三価の基であり、これらはアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基をポリマー骨格に結合させるか、または水性媒体中に分散されるようなものである。アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基の好適な量は、スチレン含有アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子またはスチレン含有ポリマー粒子1グラムあたり、1×10−6〜8×10−4モルのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基の範囲であることができる。
【0024】
スチレン含有アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子は、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性モノマー、非イオン性モノマーおよび場合によってはイオン性モノマーの重合により製造されうる。
【0025】
アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性モノマーは、エチレン性不飽和および1以上のアセトアセチル部分を有するモノマーである。これらアセトアセチル官能性モノマーは下記構造を有する:
【化3】

式中、Aは以下のいずれかである:
【化4】

式中、RはH、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、およびフェニルから選択され;RはH、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、フェニル、ハロ、COCH、およびCNから選択され;RはH、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、フェニル、およびハロから選択され;Rは1〜10個の炭素原子を有するアルキレン、およびフェニレンから選択され;Rは1〜10個の炭素原子を有するアルキレン、およびフェニレンから選択され;a、m、n、およびqは独立して、0および1から選択され;XおよびYのそれぞれは、−NH−、および−O−から選択され;、並びにBはA、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、フェニル、およびヘテロ環式基から選択される。アセトアセトキシ官能性モノマーの例には、以下のものが挙げられる:(メタ)アクリル酸アセトアセトキシアルキル、例えば、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシエチル、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシプロピル、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシブチル、および(メタ)アクリル酸2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピル;アセト酢酸アリル;アセト酢酸ビニル;様々なアセトアセタミド、例えば、これに限定されないが:
【化5】

(式中、RはHもしくはメチルである);並びにこれらの組み合わせ。好ましいアセトアセトキシ官能性モノマーには、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシエチル、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシプロピル、アセト酢酸アリル、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピル、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
モノマー(b)および化合物(c)の好適な合計量は、ポリマー分散物の全乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで、0.01〜20%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.1〜5%である。好ましい実施形態においては、ポリマー分散物は、モノマー(b)のカテゴリーにおける1種以上のアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性モノマー0.1〜5%、好ましくは0.1〜1%を重合単位として含むアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性(コ)ポリマーを含む。
【0027】
本発明のある実施形態においては、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性(コ)ポリマーは非スチレン系非イオン性の重合されたモノマーを含む。「非イオン性モノマー」は、本明細書においては、少なくとも1つのエチレン性不飽和を含むがペンダント酸もしくは塩基基を有しないモノマーである。さらに、前記非イオン性モノマーからは、スチレン系モノマー(a)およびアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基モノマー(b)が明確に除かれる。非イオン性モノマーの例には、ブタジエン;ビニルナフタレン;エチレン;プロピレン;酢酸ビニル;ビニルバーサタート(vinyl versatate);塩化ビニル;塩化ビニリデン;アクリロニトリル;(メタ)アクリル酸の様々なC−C40アルキルエステル、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オレイル、(メタ)アクリル酸パルミチル、および(メタ)アクリル酸ステアリル;他の(メタ)アクリラート、例えば、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、および(メタ)アクリル酸2−ブロモエチル;(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、例えば、(メタ)アクリル酸エトキシエチル;エチレン性不飽和ジ−およびトリカルボン酸および無水物のフルエステル、例えば、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチルおよびイタコン酸エチルメチルが挙げられる。他の好適な非イオン性モノマーには、多エチレン性不飽和モノマーが挙げられ、これはポリマー粒子の分子量を増大させるのに有効である。多エチレン性不飽和モノマーの例には、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリラート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリラート、エチレングリコールジ(メタ)アクリラート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリラート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリラート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリラート、フタル酸ジアリル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリラート、(メタ)アクリル酸アリル、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、トリビニルベンゼン、およびジビニルナフタレンが挙げられる。コポリマー中に共重合される非イオン性モノマーの好適な量は、ポリマー分散物の全重量を基準にして、20〜94重量%、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%の範囲である。
【0028】
アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性(コ)ポリマーは、場合によっては、重合単位として、少なくとも1種のイオン性モノマーを含む。共重合されるイオン性モノマーは、水性媒体中のポリマー粒子を安定化するのを助けるために、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子に含まれうる。本明細書において使用される場合、「イオン性モノマー」からは、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性モノマー、スチレン系モノマーおよび非イオン性モノマーが明確に除かれる。イオン性モノマーは、アニオン性モノマーまたはカチオン性モノマーであることができる。本明細書において使用される場合、「アニオン性モノマー」とは、少なくとも1つのペンダント酸基またはその塩を含むイオン性モノマーをいう。アニオン性モノマーの例には、カルボン酸含有モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、およびマレイン酸;酸無水物、これは水の存在下でカルボン酸モノマーを形成することができ、例えば、無水イタコン酸、および無水マレイン酸;並びに多カルボン酸モノマーの部分エステル、例えば、マレイン酸エチルが挙げられる。酸含有モノマーの他の例は、リン含有モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸2−ホスホエチル;並びに、硫黄の酸モノマー、例えば、ビニルスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリル酸スルホエチル、およびメタクリルオキシイソプロピル酸スルホフタラート、およびヒドロキシ、ジヒドロキシ、アミノもしくはジアミノアルキルもしくはアリールスルホン酸、例えば、1,4−ブタンジオール2−スルホン酸が挙げられる。本明細書において使用される場合、「カチオン性モノマー」とは、少なくとも1つのペンダント塩基基またはその塩を含むイオン性モノマーをいう。カチオン性モノマーからは、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性モノマー(b)が明確に除かれる。カチオン性モノマーの例には、アミン官能性モノマー、例えば、2−ビノキシ(vinoxy)エチルアミン、2−ビノキシエチルエチレン−ジアミン、3−アミノプロピルビニルエーテル、2−アミノ−2−メチルプロピルビニルエーテル、および2−アミノブチルビニルエーテルなど;並びに、アミド含有モノマー、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、および(メタ)アクリル酸オキサゾリジノエチルが挙げられる。ある非限定的な実施形態においては、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子は重合単位として、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーとの双方を含む。アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性コポリマーにおいて重合されるイオン性モノマーの好適な量は、ポリマー分散物の全重量を基準にして、40重量%まで、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性コポリマーは1種以上の重合されたイオン性モノマーを含むことができる。
【0029】
アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性モノマー、非イオン性モノマー、並びに任意のイオン性モノマーの種類および量は、意図される最終用途に好適なガラス転移温度を有するアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性(コ)ポリマーを提供するように選択されうる。アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性(コ)ポリマーのガラス転移温度についての好適な範囲には、−60℃〜100℃の範囲、好ましくは−40℃〜80℃の範囲、より好ましくは−40℃〜60℃の範囲が挙げられる。
【0030】
典型的には、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性(コ)ポリマー粒子は25ナノメートル(nm)〜20ミクロン、好ましくは25nm〜10ミクロン、より好ましくは25nm〜5ミクロンの範囲の平均直径を有する。平均ポリマー粒子直径は、ニューヨーク州、ホルツビルのブルックハーベンインスツルメンツコーポレーション(Brookhaven Instruments Corporation)により供給されるブルックハーベン(BROOKHAVEN商標)モデルBI−90パーティクルサイザーのような装置を使用する、準弾性光散乱技術によって決定されうる。
【0031】
本発明のアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性(コ)ポリマーは、エチレン性不飽和モノマーの懸濁重合もしくは乳化重合のような周知の重合技術によって製造されうる。乳化重合が好ましい。好適な方法は米国特許第5,356,968号および米国特許第5,264,530号に開示されている。アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子を製造する別の方法は、溶液重合と、その後の、当該技術分野において知られている様々な方法による溶液ポリマーのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子への変換である。乳化重合、溶液重合および懸濁重合プロセスをはじめとする好適な重合プロセスは、バッチ、半連続もしくは連続プロセスとして行われることができる。水性乳化重合は、アセトアセトキシ官能性ポリマー粒子を製造するのに好ましいプロセスである。水性乳化重合プロセスに好適な温度は、20℃から100℃未満の範囲、好ましくは20〜90℃の範囲である。重合プロセスは一般的に、様々な合成アジュバント、例えば、熱もしくはレドックス重合開始剤、連鎖移動剤、触媒、界面活性剤、高分子量ポリマー、分散剤、塩、緩衝剤、酸または塩基などを使用する。好ましくは、有機溶媒の使用は重合プロセスにおいて最小限にされ、低濃度の揮発性有機化合物(VOC)を有する水性ポリマー分散物を提供する。アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子を含む水性ポリマー分散物は、場合によっては、VOCを除くために、蒸気ストリッピングもしくは蒸留のようなプロセスによって処理される。
【0032】
本発明の水性ポリマー分散物は、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子が分散される水性媒体も含む。水性媒体は場合によっては、補助溶媒、例えば、水混和性補助溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、エチレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、およびジアセトンアルコール;並びに、水非混和性溶媒、例えば、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルイソアミルケトン、酢酸アミル、ジイソブチルケトン、キシレン、トルエン、コアゾール(Coasol)、ダルパッド(Dalpad)、ブタノールおよび石油スピリット、好ましくは、コアゾールもしくはダルパッドを補助溶媒として含む。水性ポリマー分散物は、ポリマー分散物の乾燥重量を基準にして10〜70重量%のポリマー粒子を有して提供されうる。好ましくは、1種以上の塩基が水性ポリマー分散物に添加され、pHを7〜11の範囲、より好ましくは7〜9.5の範囲の値に上昇させる。
【0033】
アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を含む化合物(c)は添加剤として使用され、そして水性ポリマー分散物に後添加されうるか、または重合プロセス中に添加されうる。化合物(c)は、その分子量が116〜800g/モルの範囲である低分子化合物であることができる。
【0034】
スチレンポリマー分散物の不快臭を除去するために、好適な有機アミンが選択されるべきであり、かつ分散物中でアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド基と混合されるべきである。好適なアミンは150℃を超える、好ましくは170℃を超える沸点温度を有するべきである。
【0035】
好適なアミンの例には、第一級アミン、第二級アミン、および第三級アミン;並びに他の観点から、アミン誘導体、例えば、アルキルアミン、アリールアミン、アルコールアミン、ポリアミンおよびアミノ酸などが挙げられる。好ましくは、アミンは水性相に可溶性であって、かつ150℃を超える沸点を有し、これには、限定されないが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N,N,N’N’−テトラ(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、およびグリシンが挙げられる。低沸点および/または低閾値を有するいくつかの第一級アミンは好適なアミンではなく、よって本発明のアミンから除かれる。好ましくは、分散物はアンモニアを含まない。本明細書において、「アンモニアを含まない」とは、ポリマー分散物中に、実質的にアンモニアを含まず、痕跡濃度のアンモニアを不純物として含むか、または検出可能な最小濃度未満のアンモニアを含むことを意味する。水性ポリマー分散物中のアミンの好適な量には、水性ポリマー分散物の全乾燥重量を基準にして、0.01〜5重量%、好ましくは0.01〜2重量%、より好ましくは0.1〜1重量%が挙げられる。
【0036】
さらに、水性ポリマー分散物は、場合によっては、他の成分、例えば、他のポリマー、界面活性剤、顔料、例えば、二酸化チタン、エキステンダー、染料、真珠光沢化剤(pearlescents)、接着促進剤、架橋剤、分散剤、脱泡剤、レベリング剤、蛍光増白剤、紫外線安定化剤、吸収性顔料、造膜助剤、レオロジー改変剤、防腐剤、殺生物剤、内部空隙を有するポリマー粒子、および酸化防止剤を含む。水性ポリマー分散物は、(コ)ポリマーの乾燥重量を基準にして、0〜40重量%、好ましくは0〜20重量%、より好ましくは0〜5重量%の量の造膜助剤を含むことができる。好ましくは水性ポリマー分散物は造膜助剤を含まない。
【0037】
水性ポリマー分散物は、多モード粒子直径分布、例えば、2モード分布を有するアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子を含むことができる。ある非限定的な実施形態においては、水性ポリマー分散物は小モードのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子と、大モードのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子とを含み、ここで、小モードは25〜150nmの範囲の平均粒子直径を有し、大モードは1000nm未満であるが小モードの平均粒子直径より大きい平均粒子直径を有する。さらに、この非限定的な実施形態においては、小モードアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子:大モードアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性ポリマー粒子の比率は、重量比で1:90〜9:1の範囲であることができる。
【0038】
本発明の水性スチレン系ポリマー分散物は、スチレン系モノマー(a)とアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性モノマー(b)との共重合、またはスチレン系(コ)ポリマーと非ポリマーアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能性化合物(c)との混合;および重合プロセス中またはその後に、少なくとも150℃の沸点を有するアミン誘導体と本質的に混合されることによって製造される。上のように得られた低臭気スチレン系ポリマー分散物は、さらなる脱臭プロセス、例えば、蒸気ストリッピングおよびカルボキシルエステラーゼ酵素処理の両方もしくはいずれかにかけられることができる。蒸気ストリッピングは分散物中に残るわずかな臭気を除くために1から数サイクルまたはパスの間続けられることができる。カルボキシルエステラーゼは室温で水性分散物に添加され、次いで、一晩静置されるか、または酵素供給者の指示に従うことができ、酢酸ブチルおよびプロピオン酸ブチルのような付臭物質を分散物から除去することができる。
【0039】
低臭気水性ポリマー分散物の用途の1つとして、ポリマー分散物をバインダーとして使用することにより、本発明によって低臭気コーティング組成物が達成されうる。
【0040】
低臭気コーティング組成物は、アクリルコーティング、ビニルアクリルコーティング、スチレンアクリルコーティング、粉体コーティング、溶媒アクリルコーティング、アルキド樹脂コーティング、溶媒ウレタンコーティングおよびエポキシコーティングのような様々なスチレン含有コーティングシステムに好適である。
【0041】
低臭気コーティング組成物は裸のまたはあらかじめ塗装された基体をはじめとする様々な基体、例えば、これに限定されないが、セメント、セラミック、タイル、塗装物、ガラス、プラスチック、木材、金属、織物および不織布、並びに紙上に適用するのに好適であり;上記基体を含むまたは上記基体で覆われる、嗅覚要求を伴う消費者用製品について特に好適である。
【0042】
本明細書においては、他に示されない限りは、各好ましい技術的解決策およびより好ましい技術的解決策における技術的特徴は互いに組み合わせられることができ、新たな技術的解決策を形成することができる。簡潔さのために、出願人は、これらの組み合わせについての説明を省略する。しかし、これらの技術的特徴を組み合わせることにより得られる全ての技術的解決策は、明確な様式で本明細書に文字通り記載されているとみなされるべきである。
【0043】
以下の実施例は本発明の方法および組成物を例示するために提示される。これらの実施例は、当業者が本発明を理解するのを助けることを意図している。しかし、本発明は、実施例によって何ら限定されない。
【実施例】
【0044】
以下の物質が実施例において使用された:
【表1】

【0045】
以下のプロセスが実施例において使用された:
蒸気ストリッピングプロセスは以下の通りであった:サンプルをオーブンに入れ、50℃に予備加熱する。次いで、サンプルは単一ステージ、連続ストリッパーを通る1または2パスでストリップされた。ストリッピング中の、蒸気:分散物の相対流速は1:5であった。
嗅覚知覚に従った臭気評価が以下のように行われた:10人のヒトが、缶内の様々な水性分散物の臭気の臭いを選択し、次いで、評定を付け、その評定は、平均の評価に基づいて表中に示された。
結果は以下に記載されるように1〜5の尺度でランク付けされた。
【0046】
【表2】

【0047】
嗅覚の知覚:
秀=臭気なし
非常に優=わずかに快適な臭気、不快臭なし
優=わずかなもしくは中程度の快適な臭気、STからの不快臭なし、BAからのわずかな不快臭
良=中程度の快適な臭気、STからのわずかな不快臭、BAからの中程度の不快臭
悪=中程度の快適な臭気、STからの中程度の不快臭、BAからの中程度の不快臭
劣悪=中程度の快適な臭気、STからの強いもしくは顕著な不快臭、BAからの中程度の不快臭
【0048】
水性分散物は、パドルスターラー、温度計、窒素入口および還流凝縮器を備えた5リットル四つ口丸底フラスコ内で調製された。
【0049】
実施例1:対照のスチレンアクリル水性ポリマー分散物
水性分散物Aが以下のプロセスのように調製された:32.35gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(18重量%溶液)と、660gの脱イオン水との混合物がフラスコに添加され、窒素雰囲気下で89℃に加熱された。モノマーエマルション(ME)は406gの脱イオン水、71.9gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(18%溶液)、922gのBA、652gのスチレン、24.3gのMAA、および4.8gのp−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウムを混合することにより調製された。88℃のフラスコの内容物に、以下の物質が順に添加された:26gの脱イオン水中の7.2gの炭酸ナトリウムの溶液、58gのモノマーエマルションと33gの脱イオン水との混合物、および水中0.1重量%硫酸鉄溶液18.2gと水中1重量%エチレンジアミン四酢酸の四ナトリウム塩溶液2.7gとの混合物、並びに脱イオン水16.5g中の過硫酸ナトリウム5.09gの溶液。次いで、フラスコの内容物を88℃の温度に維持しつつ、MEが3時間未満の期間にわたってこのフラスコに添加された。脱イオン水90g中の過硫酸ナトリウム2.9gの溶液と、脱イオン水90g中の亜硫酸水素ナトリウム2.5gの溶液とが、モノマーエマルション添加と共に、同じ時間の長さにわたって共添加された。MEの添加完了後、ME容器は22gの脱イオン水ですすがれた。20分後、脱イオン水30g中の70%tBHP3.8gの溶液と、脱イオン水30g中のイソアスコルビン酸2.3gの溶液とが40分未満の期間にわたって添加され、そのフラスコの内容物が45℃に冷却させられた。次いで、5%水酸化ナトリウム溶液100gが添加され、フラスコの内容物はろ過されて、凝塊を除去した。得られた水性ポリマー分散物対照Aは8.0のpHおよび50.2重量%固形分を有していた。
【0050】
実施例2:スチレンアクリル水性ポリマー分散物中のAAEM使用
水性分散物Bが以下のプロセスのように調製された:32.35gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(18%溶液)と、660gの脱イオン水との混合物がフラスコに添加され、窒素雰囲気下で89℃に加熱された。モノマーエマルションは406gの脱イオン水、71.9gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(18%溶液)、915gのBA、645gのスチレン、24.3gのMAA、および4.8gのp−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウムを混合することにより調製された。88℃のフラスコの内容物に、以下の物質が順に添加された:26gの脱イオン水中の7.2gの炭酸ナトリウムの溶液、58gのモノマーエマルションと33gの脱イオン水との混合物、および水中0.1重量%硫酸鉄溶液18.2gと水中1重量%エチレンジアミン四酢酸の四ナトリウム塩溶液2.7gとの混合物、並びに脱イオン水16.5g中の過硫酸ナトリウム5.09gの溶液。次いで、フラスコの内容物を88℃の温度に維持しつつ、MEが3時間未満の期間にわたってこのフラスコに添加された。脱イオン水90g中の過硫酸ナトリウム2.9gの溶液と、脱イオン水90g中の亜硫酸水素ナトリウム2.5gの溶液とが、モノマーエマルション添加と共に、同じ時間の長さにわたって共添加された。MEの50重量%が添加されたときに、16.8gのAAEMがME容器に添加された。MEの添加完了後、ME容器は22gの脱イオン水ですすがれた。20分後、脱イオン水30g中の70%tBHP3.8gの溶液と、脱イオン水30g中のイソアスコルビン酸2.3gの溶液とが40分未満の期間にわたって添加され、そのフラスコの内容物が45℃に冷却させられた。次いで、5%水酸化ナトリウム溶液100gが添加され、フラスコの内容物はろ過されて、凝塊を除去した。得られた水性ポリマー分散物Bは8.0のpHおよび49.8重量%固形分を有していた。
【0051】
実施例3:スチレンアクリル水性ポリマー分散物中のMEAの使用
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、922gのBA、652gのスチレン、24.3gのMAA、および4.8gのp−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウムを含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Cが製造された。中和剤は、5%水酸化ナトリウム溶液36gおよび50%MEA水溶液18.2gである。得られた水性ポリマー分散物Cは8.4のpHおよび49.5重量%固形分を有していた。
【0052】
実施例4:スチレンアクリルポリマーおよび水性ポリマー分散物中のAAEMおよびMEA
水性ポリマー分散物B(実施例2)と同様の手順で、915gのBA、645gのスチレン、24.3gのMAA、4.8gのp−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウム、16.8gのAAEMを含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Dが製造された。中和剤は、5%水酸化ナトリウム溶液36gおよび50%MEA(沸点170℃)水溶液18.2gである。得られた水性ポリマー分散物Dは8.5のpHおよび49.6重量%固形分を有していた。
水性ポリマー分散物B(実施例2)と同様の手順で、918gのBA、648gのスチレン、24.3gのMAA、4.8gのp−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウム、8.3gのAAEMを含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Eが製造された。中和剤は、5%水酸化ナトリウム溶液50gおよび50%エタノールアミン3.4gである。得られた水性ポリマー分散物Eは8.7のpHおよび49.3重量%固形分を有していた。
AAEMおよびMEAを適用して得られたサンプルは、次いで、臭気評価にかけられた。結果は表1に示されるとおりである。
【0053】
【表3】

【0054】
上記結果は、AAEMおよびMEAの組み合わせを適用することが、スチレンモノマーからの不快臭を除去できたことを示していた。
【0055】
実施例5:蒸気ストリッピング(54℃減圧下)またはN51032酵素処理との組み合わせ
サンプルF:Aの1パス蒸気ストリッピング
サンプルG:Aの2パス蒸気ストリッピング
サンプルH:Dの1パス蒸気ストリッピング
サンプルI:Dの2パス蒸気ストリッピング
サンプルJ:サンプルD中に0.01重量%のN51032(水性ポリマー分散物Dの乾燥重量に基づく)を室温で添加、次いで一晩静置。
【0056】
【表4】

【0057】
水性ポリマー分散物の臭気は、蒸気ストリップまたは酵素処理の組み合わせによってさらに低減された。
【0058】
実施例6:スチレンアクリル水性ポリマー分散物中に使用される添加剤およびアミン
サンプルK:室温で、98gの水性ポリマー分散物Aに50%AASP溶液2gおよびグリシン0.4gを添加した。次いで、1時間攪拌した。
サンプルM:水性ポリマー分散物B(実施例2)と同様の手順で、918gのBA、648gのスチレン、24.3gのMAA、4.8gのp−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウム、8.3gのAAEMを含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物が製造された。中和剤は、5%水酸化ナトリウム溶液36gである。得られた水性ポリマー分散物Lは6.7のpHおよび49.9重量%固形分を有していた。次いで、110gの水性ポリマー分散物Lを取り出し、0.3gのブチルアミン(沸点77℃)を室温で添加し、1時間攪拌し、一晩静置して、サンプルMを得た。
サンプルN:同じ手順を用いて、110gの水性ポリマー分散物L中に0.4gのヘキシルアミン(沸点133℃)を使用した。
サンプルO:同じ手順を用いて、110gの水性ポリマー分散物L中に1.2gの30%ジエタノールアミン(沸点271℃)水溶液を使用した。
サンプルP:同じ手順を用いて、110gの水性ポリマー分散物L中に1.3gの30%トリエタノールアミン(沸点360℃)水溶液を使用した。
サンプルQ:同じ手順を用いて、110gの水性ポリマー分散物L中に1.4gの30%トリエチレンテトラミン(沸点272℃)水溶液を使用した。
サンプルR:水性ポリマー分散物B(実施例2)と同様の手順で、918gのBA、648gのスチレン、24.3gのMAA、4.8gのp−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウム、8.3gのAAEMを含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物が製造された。中和剤は、25%アンモニア溶液18.2gである。得られた水性ポリマー分散物Rは8.2のpHおよび50.4重量%固形分を有していた。
【0059】
【表5】

【0060】
アンモニアまたは低沸点(150℃未満)アミンを使用したサンプルから得られた水性ポリマー分散物は、アミンの強い不快臭を有しており、かつスチレン系臭気の除去が優れた水準に到達しなかった。低臭気水性ポリマー分散物は、AAEMと一緒に高沸点水溶性アミンを使用することにより達成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低臭気水性スチレン系ポリマー分散物であって、
スチレン系モノマー(a)、および0〜20%の、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)を(共)重合単位として含む(コ)ポリマーと;
0〜20%の、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有する非ポリマー化合物(c)と;
0.01〜5%のアミン誘導体と;
を含み、
前記アミン誘導体の沸点温度が少なくとも150℃であり;
前記モノマー(b)と前記化合物(c)との合計量が0.01〜20%の範囲であり;
上記%はポリマー分散物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージである;
低臭気水性スチレン系ポリマー分散物。
【請求項2】
モノマー(a)およびモノマー(b)が1つのコポリマーにおいて共重合されていない、請求項1に記載のポリマー分散物。
【請求項3】
ポリマー分散物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで、モノマー(a)の量が10〜70%の範囲であり、かつモノマー(b)の量が0.1〜10%の範囲である、請求項1に記載のポリマー分散物。
【請求項4】
ポリマー分散物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージで、モノマー(a)の量が20〜60%の範囲であり、かつモノマー(b)の量が0.1〜1%の範囲である、請求項3に記載のポリマー分散物。
【請求項5】
アミン誘導体が第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンおよびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載のポリマー分散物。
【請求項6】
アミン誘導体が水溶性である、請求項1に記載のポリマー分散物。
【請求項7】
アミン誘導体の量が、ポリマー分散物の乾燥重量を基準にして、0.1〜1重量%の範囲である、請求項1に記載のポリマー分散物。
【請求項8】
ポリマー分散物がカルボキシルエステラーゼ酵素をさらに含む、請求項1に記載のポリマー分散物。
【請求項9】
1)スチレン系モノマー(a)、および0〜20%の、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有するエチレン性不飽和モノマー(b)を(共)重合単位として含む(コ)ポリマーと;
0〜20%の、少なくとも1つのアセトアセトキシもしくはアセトアセタミド官能基を有する非ポリマー化合物(c)と;
0.01〜5%のアミン誘導体と;
を含み、
前記アミン誘導体の沸点温度が少なくとも150℃であり;
前記モノマー(b)と前記化合物(c)との合計量が0.01〜20%の範囲であり;
上記%はポリマー分散物の乾燥重量を基準にした重量パーセンテージである;
ポリマー分散物を提供する工程;
2)工程1)のポリマー分散物を蒸気ストリッピングするかまたはカルボキシルエステラーゼ酵素処理する工程;
を含む、低臭気水性スチレン系ポリマー分散物を製造する方法。
【請求項10】
請求項9の方法によって製造された低臭気水性スチレン系ポリマー分散物を含むコーティング組成物。

【公開番号】特開2011−137151(P2011−137151A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−271881(P2010−271881)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】