説明

低誘電率発泡材料とその製造方法

【課題】薄膜、平滑であり、耐熱性の低誘電率性発泡材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】材料を容器内に保ち、無機ガスを用いて前記容器内を所定の圧力に昇圧し、その後容器内部を所定温度まで加熱し所定時間保持する工程;および前記所定時間経過後に容器内を大気圧まで降圧する工程を含む、発泡材料の製造方法。発泡材料は、誘電率が1.0〜3.0であり、かつ気孔率が10%〜90%であり、平均気孔径が0.01〜10μmである。材料は熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミドなどのポリイミドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率発泡材料およびその製造方法に関する。具体的には、ポリイミドを用いた発泡材料およびその製造方法に関する。ポリイミドに無機ガスを超臨界状態で含浸させ発泡材料を製造する。得られる材料は、誘電率が低く、高い絶縁性材料として電気電子機器、宇宙航空用機器、軍需用機器の耐熱絶縁材料としての用途に利用される。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会における情報・通信機器の情報処理の高速化や通信電波の高周波化などに伴い、電子部品等を実装する配線基板にも、高周波に対応できる性能が要求されている。例えば、配線基板の絶縁層には、優れた高周波伝送特性と低クロストーク特性を発現すべく、高周波における誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さいことなどが要求されている。
【0003】
たとえば、配線基板の回路内では誘電損失という伝送過程のエネルギー損失が生じ、この誘電損失は、信号の周波数fと比誘電率εの材料の誘電正接tanδの積f×ε×tanδに対し比例関係を有する。このため周波数fが大きい高周波用途として使用される配線基板である場合には、比誘電率εと誘電正接tanδとが小さい材料が要求される。また、信号の伝送速度は、比誘電率εの1/2乗に反比例することから、高周波用途においては比誘電率の小さい材料が要求される。
【0004】
このような高周波用途に使用される材料には、材料に絶縁層を付与するなどの方法で対処することが考えられるが、一般的には材料自体が低誘電率のものを使用することが多く行われている。使用する材料として、たとえば低誘電率樹脂材料としてのポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素高分子やポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0005】
低誘電率樹脂材料としてのポリテトラフルオロエチレンであっても、誘電率は約2.1程度と高い。このため誘電率を下げるための試みとして、プラスチック材料の誘電率が分子骨格により決定されることに着目し、分子骨格を変成する方法などが行われてきている。しかしながら、分子骨格を変成する方法により誘電率を下げるように制御することには限界があるといわれている。
【0006】
別法として、空気が誘電率1の低誘電率であることを利用して、プラスチック材料を多孔質化させ空気を含ませることによって、プラスチック材料の誘電率を低く制御しようとする方法がある。
【0007】
一般的に、多孔質を製造する方法として、乾式法及び湿式法などが知られている。乾式法には、物理発泡法と化学発泡法がある。物理発泡法は、クロロフルオロカーボン類や炭化水素類などの低沸点液体をポリマーなどに分散させた後、加熱をして発泡剤を揮発させることにより、ポリマー中にセルを形成させる方法である。しかし、物理発泡法は、数十μm以上のセル径を有する発泡材料を得るには好適な方法であるとされるが、微細で均一なセル径を有する発泡材料を得るよう制御することは難しいとされる。また、発泡剤として用いる物質の有害性や当該物質が引き起こすとされるオゾン層の破壊など、環境へ及ぼす影響などが指摘されている。
【0008】
化学発泡法は、ポリマー中に添加した化合物を熱分解させ、この熱分解で生じたガスによりセルを形成させ、発泡材料を得る方法である。しかし、化学発泡法は、添加した化合物が熱分解後残渣を製品中に残すという問題が指摘されている。特に電子部品の用途などにおいては、部品の低汚染性を要求レベルが高いことから、この化学発泡法により発生する腐食性ガスによって引き起こされる影響や残渣物などによる汚染などの問題を引き起こすことが指摘されている。
【0009】
セル径が小さくセル密度の高い発泡材料を得る方法として、窒素や二酸化炭素等の気体を高圧にしてポリマー中に溶解させた後、圧力を開放し、ポリマーのガラス転移温度や軟化点付近にまで加熱する事によりセルを形成する方法が行われている。
【0010】
たとえば、特開平6−322168号公報には、圧力容器に熱可塑性ポリマーを仕込み、該ポリマーの軟化点もしくはその近傍まで加熱し、気体を仕込み、超臨界流体状態に圧力を調節し、該ポリマーを飽和させ、急速に圧力解除する方法によって低密度多孔性発泡物品を製造する方法が開示されている。
【0011】
特開平2001−55464公報には、耐熱性ポリマーに非反応性ガスを加圧下で含浸させた後、圧力を減少させ、次いで120℃を超える温度で加熱することにより発泡させる耐熱性ポリマ発泡材料の製造方法により、平均気孔径0.01以上10μm未満の範囲にある耐熱性ポリマ発泡材料を得ることが開示されている。
【0012】
また湿式法として、ポリマー中に焼成もしくは溶媒抽出のできる親水性ポリマーを分散させて、その親水性ポリマーを除去する事によって該ポリマーを多孔質化する方法が提案されている。たとえば、特開平2003−26850公報には、ポリイミド樹脂前駆体と、ポリイミド樹脂前駆体に対して分散可能な分散性化合物と、溶媒とを含有する樹脂溶液を調製する工程、樹脂溶液を塗布し、溶媒を乾燥させることにより、分散性化合物がポリイミド樹脂前駆体に分散した皮膜を形成する工程、皮膜から分散性化合物を抽出溶媒により抽出して除去する工程、皮膜を190〜250℃の温度範囲で予備加熱する工程、皮膜をイミド化する工程により、多孔質ポリイミド樹脂を製造することが開示されている。
【特許文献1】特開平6−322168号公報
【特許文献2】特開平2001−55464公報
【特許文献3】特開平2003−26850公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、低誘電率発泡材料およびその製造方法に関する。具体的には、ポリイミドを用いた発泡材料およびその製造方法に関する。ポリイミドに無機ガスを超臨界状態で含浸させ発泡材料を製造する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の製造方法により平滑で表面性が優れ、低誘電率であり、耐熱性、絶縁性能が優れた発泡材料を得ることを見出した。
すなわち、材料を容器内に保ち、無機ガスを用いて前記容器内を所定の圧力に昇圧し、その後容器内部を所定温度まで加熱し所定時間保持する工程;および前記所定時間経過後に容器内を大気圧まで降圧する工程を含む、発泡材料の製造方法。さらに、前記発泡材料を加圧および加熱して整形する工程を含む、発泡材料の製造方法。
【0015】
上記発泡材料の製造方法において、前記圧力は1〜50MPaであり、前記温度は室温〜120℃である。好ましくは、前記圧力は7〜35MPaであり、前記温度は50〜100℃である。
【0016】
前記無機ガスは、窒素、二酸化炭素、空気、またはこれらの組合せよりなる群から選ばれる。また、前記無機ガスは、超臨界状態であることが好ましい。また前記無機ガスは、前記材料に対して1から5重量%を含浸する。
【0017】
上記製造方法により得られる発泡材料の特性は以下のとおりである。
誘電率が1.0〜3.0であり、かつ気孔率が10%〜90%である。平均気孔径が0.01〜10μmである。厚さが35μm〜150μmある。
【0018】
材料は、ポリイミドである発泡材料、このましくはポリイミドが熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミドまたはこれらの組合せよりなる群から選ばれる発泡材料を用いる。ポリイミドが結晶化度0〜20%未満である発泡材料がより好ましい。
【0019】
本発明において具体的には、材料として熱可塑性ポリイミドを用い、超臨界状態の無機ガスを高圧下で熱可塑性ポリイミド材料に含浸させ、その後圧力を開放させ、発泡した熱可塑性ポリイミド材料を得ることができる。
【0020】
本発明において、上記方法により得られた発泡材料を加圧および加熱して成形する工程をさらに含むことができる。この場合、前記加圧を10〜30kg/cm2、前記加熱を150〜350℃、および前記工程を30秒〜3分とすることが好ましい。上記材料がポリイミド、ポリエーテルイミドである場合、前記加圧を20kg/cm2、前記加熱を250℃、および前記工程を1分とすることが好適である。
【0021】
本発明において、上記発泡材料の製造方法に先立って、予め前記材料を厚さ35μm〜150μmの薄膜とする工程をさらに含むことができる。
【発明実施の形態】
【0022】
材料の形態
本発明で使用できるポリイミド樹脂の形態として、フィルムまたはシートが好ましい。またその厚さは15〜500μm、好ましくは35〜150μmがよい。厚さが150μm以上の場合、本発明に従って低誘電率発泡材料を製造することは可能である。しかし、市場ニーズでは小型回路への使用が求められているために、このニーズを満足するよう薄膜化・軽量化・フレキシブル性を考慮しなければならない。このようなニーズからみて、150μm以上の材料を用いて発泡材料を提供することは不適切である。また、厚さが35μm以下の場合、平滑にすることが困難で、超臨界状態の無機ガスを樹脂内で保持することが困難となり、発泡することが困難になる。
ポリイミド樹脂
本発明で使用することができるポリイミド樹脂の構造は、結晶化度として0〜20%以下であることが好ましい。結晶化度が20%以上では、樹脂構造内に自由空間が少なくなり、発泡に必要な十分な超臨界状態の無機ガスを含浸させにくくなる。このため目的とする発泡材料を得ることが困難になる。
【0023】
このことは、以下のような理論からも実証される事実である。すなわち、結晶領域にはヘリウムのような小さい分子であっても全く浸透できない、非晶領域(無定型領域)と結晶領域の混在する2相モデルでは、溶解度係数Sは無定型高分子の溶解度Saと無定型領域の容積分率αを用いて以下のように表される。
【0024】
S = α × Sa
また、拡散係数Dは無定型高分子の拡散係数Daと幾何学的阻害因子τおよび高分子鎖の不動化因子βで次式で表される。
【0025】
D = Da /τβ
ここで、τは拡散できない結晶領域を迂回するための因子であり、βは結晶領域が橋掛け構造をつくり拡散を阻害する因子である。
【0026】
本発明で使用することができるポリイミド樹脂の温度特性として、融点Tmが350℃以上、ガラス転移温度Tgが200℃以上、結晶化温度Tcが320℃以上のものが好ましい。またポリエーテルイミドについてはガラス転移温度Tgが200℃以上のものが好ましい。特に本発明で用いる好適なポリイミド樹脂は、発泡後、再加熱などによって再結晶させることで、Tcを上昇させることが可能で、より耐熱性の高い低誘電率発泡材料を得ることができる。
【0027】
さらに上記以外の温度特性を有するポリイミド樹脂として、融点Tmおよび結晶化温度Tcがなくガラス転移温度Tgが200℃以上を有するものでも使用することが可能である。
【0028】
また本発明で使用することができるポリイミド樹脂の機械特性として、無機ガスを形状変化することなく保持できる物性として、超臨界状態の無機ガスを含浸させる温度における貯蔵弾性率G'=108Pa以上とし、また十分な発泡をさせるための物性として、超臨界状態の無機ガスを含浸させる温度における損失弾性率G"=107Pa以上とすることが好ましい。
【0029】
さらに本発明で使用するポリイミド樹脂の電気特性として、誘電率3.2程度、誘電正接0.0063程度のものが好適である。しかし、この範囲に限定されないポリイミド樹脂を用いて、本発明と同様の効果を奏する材料を得ることができる。
【0030】
なお本発明で使用できるポリイミド樹脂フィルムについては、片面あるいは両面に金属箔を融着または接着したものを使用してもよい。
発泡材料の製造方法
本発明に従う発泡材料の製造方法を以下に示す。
【0031】
すなわち、材料を容器内に保ち、無機ガスを用いて前記容器内を所定の圧力に昇圧し、その後容器内部を所定温度まで加熱し所定時間保持する工程;および
前記所定時間経過後に容器内を大気圧まで降圧することを含む、
前記材料の発泡方法である。
【0032】
さらに、発泡材料を加圧および加熱して整形する工程を含む前記材料の発泡方法である。前記圧力が7〜35MPaであり、前記温度が50〜100℃である、前記材料の発泡方法である。
【0033】
無機ガスが、窒素、二酸化炭素、空気、またはこれらの組合せよりなる群から選ばれるガスである、前記材料の発泡方法である。
前記無機ガスが、超臨界状態である前記材料の発泡方法である。
【0034】
前記無機ガスを前記薄膜材料に対して1から5重量%を含浸する前記材料の発泡方法である。
予め前記材料を厚さ35μm〜150μmとする工程をさらに含む、前記材料の発泡方法である。
【0035】
本発明における発泡材料を得るための製造方法の一例を以下に示す。
a工程
薄膜化した上記にて示されるようなポリイミド樹脂フィルムを耐圧容器に投入する。
b工程
耐圧容器内に無機ガスを一定圧力・温度の下にて含浸させ、所定時間維持する。
c工程
所定時間経過後に耐圧容器内を常圧まで開放し、ポリイミド樹脂フィルム内に無機ガスを保持させる。
d工程
ガス含浸工程からポリイミド樹脂フィルムを取り出し、加圧および加熱できる装置を使用して、無機ガスが含浸された成形体を得る。
【0036】
b工程の具体的要素・条件
以下にb工程における具体的な要素、条件について詳述する。
無機ガス
まず、使用する無機ガスについては、環境負荷が小さい不活性ガスを使用するのが好ましく、特に二酸化炭素、窒素、もしくは空気が好適である。ポリイミド樹脂フィルムにこのガスを含浸させる際に、無機ガスは超臨界状態にあることが最適である。超臨界状態とは、気液の臨界温度および臨界圧力を超えた非凝縮状流体である。この状態において、臨界温度を超えているために分子は激しく熱運動し、さらに、臨界圧力を超えているので液体に匹敵する高密度を有している。たとえば、二酸化炭素における臨界点は31.1℃/7.3MPa、窒素における臨界点は−147.1℃/3.4MPaである。無機ガスを超臨界状態にすることによって、ポリイミド樹脂フィルムに対して溶解・拡散をすばやく行うことができる。
【0037】
ポリイミド樹脂に無機ガスを含浸させる量は、ポリイミド樹脂に対して1〜5wt%の範囲が好ましい。1wt%以下の含浸量では、発泡させるのに必要である十分な無機ガスの量(飽和量)には不足するため、高い発泡率を得ることは困難である。また5wt%以上の含浸量であっても、発泡させることができることを、本発明者らは本発明の実験結果から確認した。
【0038】
無機ガス含浸量の測定方法
ポリイミド樹脂フィルムに対する無機ガス含浸量の測定方法は以下のとおりである。
まず、無機ガスを含浸させる前のポリイミド樹脂フィルムにおける重量を秤量する(たとえば、電子天秤にて小数点以下4桁まで測定する)。
【0039】
次に、ポリイミド樹脂に無機ガスを含浸させた後、耐圧容器内からすばやく取り出し、無機ガスが含浸した状態のポリイミド樹脂における重量を秤量する(たとえば、電子天秤にて小数点以下4桁まで測定する)。
【0040】
得られた測定結果を下記式に当てはめて、無機ガスの含浸量を算出する。
無機ガス含浸量(wt%)=((Bにおける重量−Aにおける重量)/(Aにおける重量))×100
温度
ポリイミド樹脂に無機ガスを含浸させる温度条件は、常温〜120℃が適しており、50〜100℃がより好ましい。50℃以下では、無機ガスを発泡に必要である十分な量(飽和量)を含浸させるために多くの時間を要する。このため、製造工程に要する時間が長くなってしまい効率が悪くなる。また100℃以上では、分子間が徐々に広くなるために含浸された無機ガスを樹脂内で保持することが難しくなり、ガス抜けを起こしてしまうという問題を引き起こす。
【0041】
圧力
圧力については、1〜50MPaが適しており、7〜35MPaがより好ましい。7MPa以下では、無機ガスとして二酸化炭素を使用する場合、超臨界状態が得られないためポリイミド樹脂中への無機ガスの含浸を行うことができない。また35MPa以上では、無機ガスの含浸速度を速くすることは可能であるが、非常に高圧を要することから、装置上の安全面の問題や、その安全性を確保するために新たな装置が必要になるなど、非効率となり非経済的となる。
【0042】
時間
b工程において高圧状態を維持する時間は、5分〜48時間であればよく、30分〜24時間がより好ましい。30分以下の場合、発泡させるのに必要とされる十分な無機ガスの量(飽和量)に達するには不十分となり、高い発泡率の材料を得ることが困難となる。
【0043】
c工程の具体的要素・条件
c工程において必要であれば、含浸した無機ガスをポリイミド樹脂材料内に保持させるため、その材料において無機ガスが少なくとも液体状態で存在できるような温度領域に冷却することも可能である。これによって、より多くの無機ガスをポリイミド樹脂材料内に含浸させた状態を維持でき、高い発泡率の材料の提供が可能となる。
【0044】
その場合の温度依存については、以下の式が成り立つ。
(透過係数P) = (拡散係数D) × (溶解度係数S)
溶解度係数については、以下の式が成り立つ。
【0045】
溶解度係数 logS = -ΔH/RT + C (Rは気体定数、ΔHは溶解熱)
すなわち、温度が上昇することにより溶解度係数が上がる。したがって、溶解度を上げるという観点で低温保存をすることは理論的にも整合性があることである。
【0046】
拡散係数については、以下の式が成り立つ。
拡散係数 logD = -ED/RT + C (EDは拡散の活性化エネルギー)
このことから、拡散係数についても同様に温度の逆数に対数的に比例していることから低温保存の有効性が裏付けられる。
【0047】
気体透過係数について、以下の式が成り立つ。
気体透過係数 logP = -Ep/RT + C (Epは活性化エネルギー)
ここでEp = ED + ΔHであるため、溶解熱と活性化エネルギーの和に対して 逆比例関係を有する(対数的に)。
【0048】
薄膜を構成している高分子は絶えずミクロブラウン運動という熱振動を繰り返している。その結果、気体が透過しうるチェーンの隙間(微細孔)が形成される。温度が高くなると、分子運動は盛んとなり、高分子鎖の振動幅も大きくなるため、気体分子は拡散しやすくなる。
【0049】
拡散は分子運動で濃度の高いところから低いところへの物質移動
Stokesの式 拡散係数 D = KT/6πrζ (ζは摩擦係数で粘度ηに比例する)
Einsteinの式 D = KT/6πrζn2 (nは重合度)Dは重合度と共に小さくなる
これらより、高分子の粘度が拡散の防止に役立っていると考えられる
後工程
a〜d工程後に、上記方法により得られた発泡材料を加圧および加熱して成形する工程をさらに含むことができる。この後工程においては、前記加圧を10〜30kg/cm2、前記加熱を150〜350℃、および前記工程を30秒〜3分とすることが好ましい。上記材料がポリイミド、ポリエーテルイミドである場合には、前記加圧を20kg/cm2、前記加熱を250℃、および前記工程を1分とすることが好適である。
【0050】
ポリイミド樹脂を加熱および加圧するための好適な装置として、たとえば熱プレス、熱ロールなどを挙げることができる。特に、熱プレスにおいては、圧力および温度を材料全体に均一に施用することができることから、本発明の方法に用いることがより好ましい。熱プレスを用いる際には、プレス板の間にスペーサーを用いてもよい。これにより、材料表面を平滑に仕上げることができる。スペーサーを用いない場合には、発泡によって発生する気泡により、表面に凹凸ができるため平滑を維持することが困難になる場合もある。
【0051】
加熱温度としては、ポリイミド樹脂のガラス転移温度TgからTg+100℃の間が好適である。Tg付近においては、樹脂の分子運動が活発になってくることから、発泡および発泡材料の形状を整えることが容易になるためである。よって、薄膜かつ平滑である発泡材料をたやすく得ることができる。
【0052】
加圧圧力としては、単位平方センチメートルあたり1〜30kgf未満が好適である。単位平方センチ30kgf以上では材料が発泡するのが困難であるため、高い発泡率の発泡材料を得ることが困難となる。
【0053】
加圧時間としては、1〜10秒が好ましい。1秒以下ではポリイミド樹脂内部含む全体までの伝熱が不十分な状態で、d工程が終了してしまうことになり、発泡ムラや表面の平滑ムラが発生する恐れがある。10秒以上ではポリイミド樹脂内部まで伝熱が十分となりすぎて、表面スキン層が厚くなり、材料内部にセルがほとんどない発泡材料となる恐れがある。
【0054】
前処理工程
本発明において、上記発泡材料の製造方法に先立って、予め前記材料を厚さ35μm〜150μmの薄膜とする前処理工程をさらに含むことができる。
【0055】
以上一例として詳述した方法で得られる低誘電率発泡材料は、その厚さが25〜500μmで薄膜かつ平滑を有する。その特性は、見かけ比重0.10から1.00g/cm3、セル径1〜2μm、セル壁0.1〜0.2μm、表面スキン層厚さは全体の厚さに対して10〜50%である。さらに電気特性として誘電率1.5〜2.7、誘電正接0.0020〜0.0054を有する。なお、得られる発泡材料の厚さ公差は10%以内である。
【0056】
また、得られる発泡材料の片面又は両面に金属箔を融着又は接着してもよい。
[発明の効果]
【0057】
本発明により平滑で表面性が優れ、耐熱性、絶縁性能が優れた発泡材料を得ることができる。得られた発泡材料は、耐熱性が高く、また絶縁性が非常に高い。薄膜とした材料から得られた材料は、その厚さが公差±10%の平滑度合いを示す。本発明の製造方法に供する前のポリイミド樹脂の誘電率が3.2であることに対して、本発明の製造方法により得られる発泡材料の誘電率は、低いもので1.5である。さらに本発明により得られる発泡材料は、表面にスキン層を有することから、電気電子機器の回路基板製造に使用される薬剤の侵入もないという利点がある。このことから、本発明の発泡材料は、回路基板用の絶縁材料の用途に適した材料であることを示す。
【実施例】
【0058】
使用したフィルム材料
実施例及び比較例に使用したポリイミド(PI)フィルム及びポリエーテルイミドフィルム(PEI)は、以下の通りである。
【0059】
ポリイミドフィルム(PI−1)
三井化学(株)製 ,商品名「AURUM PI−PA」
厚さ75μm,Tg:258℃,d=1.33g/cm3,250℃での貯蔵弾性率7.3x108Pa,250℃での損失弾性率1.1x108Pa
ポリエーテルイミドフィルム(PEI−1)
三菱樹脂(株)製,商品名「スペリオUT−F」
厚さ75μm及び50μm,Tg:226℃,d=1.29g/cm3
【0060】
発泡材料の製造
(1)薄膜化したポリイミド樹脂に無機ガスを所定圧力/温度にて含浸させる。ここで溶解される無機ガスは超臨界状態とする。
(2)所定時間経過後に減圧し、ポリイミド樹脂内に無機ガスを保持させる。
(3)無機ガス含浸状態のポリイミド樹脂を、Tg付近まで加熱、発泡材料を得る。
弾性率の測定
Rheometric Scientific社製 ARES 1KFRTN1−FCOを用い、1Hzで5℃/分の昇温速度で各材料の貯蔵弾性率(G')曲線を求め、これを弾性率とした。
シート断面の形態観察
調製した発泡シートを液体窒素中にて凍結後割断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL製JXA−6100P)を用い、加速電圧5kVにて測定した。
外観形状(平滑性)の判定
発泡後の材料において、反り返り、歪み、及びしわ等が観測されない場合○、観察された場合×として判定した。
厚さの測定
MITUTOYO製シックネスゲージ(機種No.7331)を用いて測定した。
誘電率の測定
アジレント社製PRECISION LCR METER 4285A(測定可能範囲75k−30MHz)を用い、1MHzにて誘電率及び誘電正接測定を行った
[実施例1〜7]
【0061】
表1に示すそれぞれの未発泡ポリイミドフィルムを、耐圧容器中100℃、20MPaの二酸化炭素雰囲気に60分間浸漬した後大気圧に戻すことにより、二酸化炭素を含浸させた。この条件におけるフィルムの二酸化炭素含浸率はPI−1において3.3wt%であった。大気圧に戻した後、表に示すそれぞれの温度に設定された熱プレスで、圧力20kg/cm3にて1分間加熱した後冷却することにより、ポリイミドからなる、厚さ公差10%未満の平滑な発泡材料を得た。得られた発泡材料の比重及び平均気孔径を表に示す。
【比較例1〜4】
【0062】
15mmx15mmサイズのポリイミドフィルムPI−1に実施例1〜7と同様の条件にて二酸化炭素を含浸させた後、表1に示す温度に設定された、直径15cmの2本の熱ロール間に挿入した。このときの2本のロール間の間隙は0.2mm、回転速度は6rpmであった。フィルムは発泡したが、大きくゆがみを生じ、厚さ公差10%以内の平滑な発泡材料を得ることは出来なかった。
【比較例5〜7】
【0063】
15mmx15mmサイズのPI−1に実施例1〜7と同様の条件にて二酸化炭素を含浸させた後、表に示すオーブン温度設定にて1分間加熱した。フィルムは発泡したが、大きく反りを生じ、厚さ公差10%以内の平滑な発泡材料を得ることは出来なかった。
【0064】
【表1】

[実施例8〜10]
【0065】
表2に示すサイズ及び厚さのポリエーテルイミドフィルムPEI−1を、耐圧容器中50℃、20MPaの二酸化炭素雰囲気に60分間浸積した後大気圧に戻すことで、二酸化炭素を含浸させた。この条件におけるフィルムの二酸化炭素含浸率は3.0wt%であった。大気圧に戻した後、熱プレスを用いてそれぞれの条件にて加熱した後冷却することにより、ポリエーテルイミドからなる、厚さ公差10%以内の平滑な発泡材料を得た。得られた発泡材料の密度及び平均気孔径を表に示す。
【比較例8】
【0066】
実施例8〜10と同じ条件にて二酸化炭素を含浸させた、表2に示したサイズ及び厚さのポリエーテルイミドフィルムPEI−1を、熱プレスを用いて表に示す条件にて加熱した後冷却した。フィルムは溶融し、発泡材料を得ることは出来なかった。
【比較例9】
【0067】
実施例8〜10と同じ条件にて二酸化炭素を含浸させた、表2に示したサイズ及び厚さのポリエーテルイミドフィルムPEI−1を、熱プレスを用いて表2に示す条件にて加熱した後冷却した。フィルムは発泡したが、大きくゆがみを生じ、厚さ公差10%以内の平滑な発泡材料を得ることは出来なかった。
【比較例10〜11】
【0068】
実施例8〜10と同じ条件にて二酸化炭素を含浸させた、表2に示したサイズ及び厚さのポリエーテルイミドフィルムPEI−1を、熱プレスを用いて表に示す条件にて加熱した後冷却したが、フィルムは発泡しなかった。
【0069】
【表2】

[実施例11〜13]
【0070】
60mmx60mmサイズの未発泡ポリイミドフィルムPI−1に、実施例1〜7と同様の条件にて二酸化炭素を含浸させた後すぐにそのフィルムを、スペーサーを入れ込んだ2枚の金属板間に挟み、表3に示す温度に設定した熱プレスで、圧力20kg/cm2にて1分間加熱し冷却することにより、表に示すそれぞれの密度のポリイミド発泡材料を得た。これらのポリイミド発泡材料について誘電率測定を行ったところ、発泡後比重が低下するのに伴い、誘電率、誘電正接とも低下した。
【比較例12】
【0071】
60mmx60mmサイズの、未発泡ポリイミドフィルムPI−1について誘電率測定を行ったが、発泡後以上の誘電率、誘電正接を得ることは出来なかった。
【0072】
【表3】

[実施例5、14]
【0073】
15mmx15mmサイズの未発泡ポリイミドフィルムPI−22を、表4に示す条件にて熱オーブン中加熱することで結晶化を行った。結晶化度は表5((三井化学(株)技術資料H−04「AURUM成形品の結晶化条件」より引用)に示す比重と結晶化度の関係より決定した。結晶化させたポリイミドフィルムに、実施例1〜7と同じ条件にて二酸化炭素を含浸させた。この時の、それぞれのフィルムの二酸化炭素含浸率は表4に示すとおりである。二酸化炭素を含浸させた後、250℃の熱プレスで20kg/cm2の圧力にて1分間加熱した後冷却することにより、ポリイミドからなる、厚さ公差10%以内の平滑な発泡材料を得た。
【比較例13】
【0074】
表5に示す未発泡ポリイミドフィルムを、表4に示す条件にて熱オーブン中加熱することで結晶化を行った。結晶化度は表5に示す密度と結晶化度の関係より決定した。結晶化させたポリイミドフィルムを、耐圧容器中100℃、20MPaの二酸化炭素雰囲気に60分間浸漬した後大気圧に戻すことにより、二酸化炭素を含浸させた。この条件におけるそれぞれのフィルムの二酸化炭素含浸率は表に示すとおりである。ガスを含浸させたシートを大気に戻した後、250℃の熱プレスで20kg/cm2の圧力にて1分間加熱した後冷却したが、発泡材料は得られなかった。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

[実施例15]
【0077】
実施例8〜10と同じ条件にて二酸化炭素を含浸させた15mmx15mmサイズのポリエーテルイミドフィルムPEI−1を液体窒素(雰囲気温度−198℃)中にて保管した。含浸完了後3分経過時、1時間経過時、及び2時間経過時の二酸化炭素含有率を表6に示す。含浸後5時間経過時に液体窒素中より取り出し、275℃に設定した熱プレスで、圧力20kg/cm2にて10秒間加熱した後冷却することにより、ポリエーテルイミドからなる、厚さ公差10%以内の平滑な薄膜の発泡材料を得た。
【比較例14】
【0078】
実施例8及び9と同じ条件にて二酸化炭素を含浸させた15mmx15mmサイズのポリエーテルイミドフィルムPEI−1を冷凍庫(雰囲気温度−20℃)中にて保管した。含浸完了後3分経過時、1時間経過時、及び2時間経過時の二酸化炭素含有率を表6に示す。含浸後5時間経過時に冷凍庫中より取り出し、275℃に設定した熱プレスで、圧力20kg/cm2にて10秒間加熱した後冷却したが、発泡材料は得られなかった。
【比較例15】
【0079】
実施例8及び9と同じ条件にて二酸化炭素を含浸させた15mmx15mmサイズのポリエーテルイミドフィルムPEI−1を室温(25℃)中にて保管した。含浸完了後3分経過時、1時間経過時、及び2時間経過時の二酸化炭素含有率を表6に示す。含浸後5時間経過後、275℃に設定した熱プレスで、圧力20kg/cm2にて10秒間加熱した後冷却したが、発泡材料は得られなかった。
【0080】
【表6】

[実施例16]
【0081】
シートサイズ15mmx15mmのポリエーテルイミドフィルム(PEI−1)を50℃x20MPax180minの条件にて超臨界二酸化炭素を含浸させた。時間経過後、フィルムを取り出し、所定温度に加熱した熱プレスにて、隙間0.5mm、プレス板間隔0.3mm/0.2mmにて挟み込んだフィルムを加熱した。この時加熱圧力は20kgf/cm2、加熱時間は5秒とした。その結果、加熱温度がフィルムのガラス転移温度以上、融点以下であった場合、平滑かつ表面が良好な低誘電率発泡材料を得ることができた。この条件における発泡後比重と外観について表7に示す。
【0082】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は本発明によって得られる泡材料の内部構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電率が1.0〜3.0であり、かつ気孔率が10%〜90%である発泡材料。
【請求項2】
平均気孔径が0.01〜10μmである、請求項1に記載の発泡材料。
【請求項3】
前記発泡材料が、35μm〜150μmの厚さの薄膜材料である、請求項1又は2に記載の発泡材料。
【請求項4】
前記発泡材料がポリイミドである請求項1〜3の1項に記載の発泡材料。
【請求項5】
前記ポリイミドが結晶化度0〜20%未満である請求項4に記載の発泡材料。
【請求項6】
前記ポリイミドが熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミドまたはこれらの組合せよりなる群から選ばれる、請求項4又は5に記載の発泡材料。
【請求項7】
材料を容器内に保ち、無機ガスを用いて前記容器内を所定の圧力に昇圧し、その後容器内部を所定温度まで加熱し所定時間保持する工程;および
前記所定時間経過後に容器内を大気圧まで降圧することを含む、
発泡材料の製造方法。
【請求項8】
前記圧力が1〜50MPaであり、前記温度が室温〜120℃である、請求項7に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項9】
前記圧力が7〜35MPaであり、前記温度が50〜100℃である、請求項7に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項10】
前記昇圧の時間が1〜10秒であり、前記加熱時間が1〜10秒である、請求項7〜9の1項に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項11】
前記無機ガスが、窒素、二酸化炭素、空気、またはこれらの組合せよりなる群から選ばれるガスである、請求項7〜10の1項に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項12】
前記無機ガスが、超臨界状態である請求項7〜11の1項に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項13】
前記無機ガスを前記材料に対して1から5重量%を含浸する請求項7〜12の1項に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項14】
超臨界状態である無機ガスを含浸させる温度における貯蔵弾性率G'が108Pa以上である請求項7〜13の1項に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項15】
超臨界状態である無機ガスを含浸させる温度における損失弾性率G"が107Pa以上である請求項7〜14の1項に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項16】
前記発泡材料を加圧および加熱して成形する工程をさらに含む、請求項7〜15の1項に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項17】
前記加圧を10〜30kg/cm2、前記加熱を150〜350℃、および前記工程時間が30秒〜3分である、請求項16の1項に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項18】
前記圧力が前記材料に対して単位平方センチメートルあたり1〜30kgf未満での圧力で、前記温度が前記薄膜材料のガラス転移温度Tg〜Tg+100℃であり、時間が1〜10秒である、請求項16または17に記載の発泡材料の製造方法。
【請求項19】
予め前記材料を厚さ35μm〜150μmの薄膜とする工程をさらに含む、請求項7〜17の1項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−111708(P2006−111708A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299738(P2004−299738)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】