説明

低VOC放散性木質材料の製造方法

【課題】 木質材料を加湿することにより、低VOC放散木質材料を製造する方法において、木質材料に、割れ、変色等のダメージを与えず、含水率変化、寸法変化等の問題を引き起こさない製造方法を提供すること。
【解決手段】 処理対象となる被処理木質材料として揮発性有機化合物を含み、且つ含水率が1〜30質量%である木質材料を使用し、該被処理木質材料の含水率を事前に測定し、その含水率と実質的に平衡状態となる温湿度に雰囲気に制御しながら加熱および加湿することにより該被処理木質材料中に含まれる揮発性有機化合物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC(Volatile Organic Compounds)と呼ばれるホルムアルデヒドに代表される揮発性有機化合物の放散性が低い、低VOC放散性木質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の室内空気質に対する関心が高まり、室内空気中の揮発性有機化合物(VOC)濃度を低減させる方法が模索されている。室内空気中のVOC濃度を低減させるためには、居住者が積極的に十分な換気を行うなどの対策が重要であるが、必要以上の換気は住宅の断熱性を低下させ、快適な室内温度を保つためにエネルギー消費量が多くなるという問題がある。そのため、VOC放散の少ない建築材料の開発が試みられてきた。
【0003】
木質材料は、加工性、審美性の良さ、また強度のわりに軽量であることから、建築材料として多用される。これら木質系建築材料は、例えば集成材、合板、防腐・防蟻処理木材など、その製造工程において接着、接合、化学処理等の加工が行なわれることが多い。これら加工の際、接着剤や化学処理剤等、VOCを含んだ処理剤が用いられるため、これら木質系建材については、特にVOC放散の低減が課題となってきた。
【0004】
このような状況下、建築基準法では、VOCの一つであるホルムアルデヒドの放散速度で建材の等級分けを行い、放散が多い建材については使用の制限が加えられるようになった。その結果、ホルムアルデヒドを含有しない接着剤、化学処理剤が開発され、これらを用いて製造した、ホルムアルデヒドの放散が少ない木質材料が提供されるようになった。
【0005】
しかしながら、これらホルムアルデヒドの放散が少ない木質材料は、例えばホルムアルデヒドの代替として他のVOC成分を工程で使用するなど、ホルムアルデヒド以外のVOCについて考慮されていないことが多い。接着、接合、化学処理等の加工を、VOC成分を全く用いずに行なうと、強度不足、コスト高等、なんらかの不具合が生じるためである。
【0006】
そこで、木質材料の中に含まれるVOCを加工後に効果的に取り除くことにより、VOCの放散が少ない木質材料を製造することが非常に重要となる。そのような方法としては、木質材料を加湿することにより、処理対象となる木質材料の含水率を高め、その後含水率を高めた木質材料を加熱することにより木質材料中に含まれるVOCを除去し、その結果、VOCの放散が少ない木質材料を得る方法が知られている(特許文献1参照)。この方法によれば、ホルムアルデヒドだけではなく、スチレン、トルエン等他のVOC成分も同時に除去できるため、ホルムアルデヒド以外のVOCの放散も低減した木質材料を低コストで製造することができる。接着、接合、化学処理等、木質材料の加工に用いる薬剤の幅が広がっていることから、上記方法は極めて有用な方法であるといえる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−266407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、木質材料を加湿して、VOCの放散の少ない木質材料を製造する方法は、木質材料中のVOC除去という意味では極めて有効な方法であるが、その工程に於いて処理対象となる木質材料の含水率を高くする必要があるため、処理後の木質材料の含水率を制御することが困難となる。木質材料の含水率は、材料強度、寸法安定性に影響を与える重要なパラメーターであり、例えば、木造住宅の構造用建材用途に使用する場合、5質量%〜30質量%が好ましく、5〜20質量%程度が特に好ましいとされるが、前述の従来方法では、このような範囲に含水率を維持することが難しい。木質材料の含水率と寸法との間には相関があり、特に含水率30質量%(繊維飽和点)以下の領域にあっては含水率の上昇は寸法の増加を引き起こすため、前記従来法では寸法が増加するという問題を抱えることになる。
【0009】
また、前記従来法では木質材料の含水率を上げて加熱するため、木質材料を構成するリグニン、ヘミセルロース等の成分が分解し、茶色に変色するという問題がある。変色した木質材料は商品性が落ちるため、変色なき処理方法が待ち望まれている。
【0010】
さらに、前記従来法においてVOCや水分の移動は主として木材の繊維方向に沿って起こるため、柱材のように木口面積に対して長さの長い構造部材を処理する場合にはVOC放散低減の効果が内部まで及び難いという問題がある。構造部材の木口近傍はVOC放散の低減効果が発現するが、中央部ではVOC放散の低減効果が発現し難く、処理後に中央部に残ったVCOが放散するという問題が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこれら前記従来法にける課題を解決すべく鋭意研究した結果、木質材料の加湿処理工程において、雰囲気温湿度を、処理対象の木質材料の含水率と実質的に平衡状態となる温湿度に制御しながら、加熱することにより、木質材料の含水率を上昇させることなく、木質材料中のVOCを除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、揮発性有機化合物を含み、且つ含水率が1〜30質量%である木質材料からなる被処理木質材料から揮発性有機化合物を除去する工程を含む揮発性有機化合物放散性の低い木質材料を製造する方法において、前記工程における揮発性有機化合物の除去が、前記被処理木質材料の含水率と実質的に平衡状態となる温度及び湿度に制御された雰囲気中で前記被処理木質材料を加熱処理することにより行われることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、木質材料の含水率を大きく変動させることなく、木質材料中に存在するVOC成分を除去することができるので、処理後の含水率の制御が容易であり、木質材料の寸法が変動させることがない。また、本発明の方法では処理工程においても木材中の含水率は低い状態に保たれているため、加熱処理による木質材料に対するダメージが小さく、変色、しみ等が発生し難い。さらに、本発明の製造方法によれば、被処理材の中心部に存在するVOCも効率よく除去することができるので、従来、低VOC放散性を付与することが困難であった柱材のような構造部材に対しても、高いVOC放散性低減効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法で使用する被処理木質材料としては、揮発性有機化合物を含み、且つ含水率が1〜30質量%である木質材料であれば、木質材料の種類、形状は特に限定されない。たとえば、無垢の木材、集成材、LVL、合板、パーティクルボードなどが使用可能であるが、VOC放散性低減への要求が高いという理由から、柱材、フローリング材、壁材などの建築用木質部材を使用するのが好ましい。
【0015】
これら木質材料については、その製造工程において接着、接合、化学処理(たとえば防腐・防蟻処理)等の加工が行なわれることが一般的であり、この場合これら加工に起因してVOCを含むことになる。ここで、VOCとは沸点260℃以下の有機化合物を意味し、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、スチレン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、ノナン、デカン等を挙げることができる。前記被処理木質材料に含まれるVOCの量は特に限定されるものではないが、通常、次のようにして測定される放散速度で表して、放散速度が0.01mg/m・hr〜1000000mg/m・hr、特に0.1〜100000mg/m・hrとなるような量含まれるものが使用される。
【0016】
放散速度の測定方法: 木質材料を純空気で満たされた密容器に入れて封入した後に25℃で一定時間放置し、放置後の容器内のVOC濃度をガスクロマトグラフで定量する測定されたVOC濃度、容器体積(純空気量)、放置時間、サンプル木質材料の体積より、単位時間当たりに単位体積の木質材料から放散されたVOCの放散速度を求める。
【0017】
本発明の製造方法を適用するために前記被処理木質材料の含水率は1〜30質量%である必要がある。含水率が1質量%未満のときは、含水率と実質的に平衡状態となる温湿度の組み合わせを求めることが困難であり、また、30質量%を越える木質材料は、自由水の形で水が含まれるため、どの温度、湿度領域であっても雰囲気の水分と平衡とならず、本発明の方法を適用することができない。効果の観点から被処理木質材料の含水率は5〜25質量%、特に5〜20質量%であることが好ましい。なお、ここで、含水率とは被処理木質材料に含まれる水の質量を被処理木質材料の全乾質量で除した値の%表示であり、市販の高周波容量式木材含水率計、電気抵抗式木材含水率計等で測定することができる。
【0018】
本発明の製造方法では、前記被処理木質材料からVOCを除去して低VOC放散性木質材料を製造するが、このとき前記被処理木質材料の含水率と実質的に平衡状態となる温湿度に制御された雰囲気中で前記被処理木質材料を加熱処理することにより揮発性有機化合物を除去することを最大の特徴とする。このような方法でVOCの除去を行うことにより、(i)木質材料の寸法が変動させることなく、(ii)木質材料に変色、しみ等のダメージを与えることなく、しかも(iii)表面から内部に渡って効率よくVOCを除去することが可能となる。このため木口面積に対して長さの長い柱材のような木質材料、特に少なくとも1つの木口面を有する木質材料であって、該木質材料の木口面の面積の総和{S(cm)}に対する該木質材料の体積{V(cm)}の比(V/S)が10(cm)以上、好ましくは100(cm)以上の木質材料に対しても、高いVOC放散性低減効果を得ることができる。ここで木口面とは木質材料の繊維を繊維方向に対して垂直若しくは斜めに切断した面を意味し、繊維方向平行に切断した面は木口面に含まれない。このような木質材料としては、木口面を両端面とし繊維方向の長い柱材であって、幅及び厚みが50mm以上で長さが1m以上の柱材を挙げることができる。
【0019】
このように、内部に優れた効果が得られるのは、概ね次のような作用機構によるものと推定される。即ち、従来法のように、被処理木質材料に100%蒸気を作用させた場合には、蒸気に接触した露出表面部(木口面とそれ以外の面)の含水率は急激に上昇する。この急激な含水率の上昇により、被処理木質材料の細胞壁を貫通し、通気弁の働きをするトーラス・マルゴが閉じ、被処理木質材料の通気性が低下する。従って、表面近傍のみ処理の効果が現れ、被処理木質材料の中央部には効果が及びにくい。それに対して、被処理木質材料の含水率を変化させない本発明の方法によると、被処理木質材料の通気性落とすことなく処理できるので、その効果が内部にまで及ぶことができるものと推定される。
【0020】
本発明の製造方法では、被処理木質材料を、該材料の含水率と実質的に平衡状態となる温湿度に制御された雰囲気中で前記被処理木質材料を加熱処理するが、この加熱処理は、下記(1)〜(5)に示す手順で行うことができる。なお、防腐・防蟻処理などの化学処理を施した木質材料を被処理木質材料とする場合、化学処理に引続き同一装置を使用して連続して行なうのが好ましい。
【0021】
(1)処理対象となる被処理木質材料の含水率の測定: 含水率は、全乾法、高周波容量法、電気抵抗法など公知の測定法が適用可能である。たとえば高周波容量法により含水率を求める場合には、市販の高周波容量式木材含水率計を用いればよい。
【0022】
(2)測定された含水率を維持する温度と相対湿度(関係湿度ともいう)の関係の確認: 木質材料に関しては、平衡含水率(ある雰囲気中に木質材料を放置して平衡に達したときの含水率)ごとに、その平衡含水率を維持する雰囲気の温度と湿度との関係が知られている。図1に示すグラフ(「人工乾燥材生産技術入門」、岡山県木材加工技術センター編、41頁より引用)は、このような関係をまとめたものであり、雰囲気の温度(℃)及び関係湿度(%)と平衡含水率との関係が示されている。即ち、グラフの横軸が雰囲気の温度を、縦軸が雰囲気の湿度を意味し、グラフ中の1〜30の数値が付された各曲線が、その数値に対応する平衡含水率(%)を維持する(満足する)温度と湿度との関係を示している。たとえば、(1)で測定された含水率が15%であれば、平衡含水率が15%である曲線(下から15番目の「15」の数字が付された曲線)から、温度と湿度との関係を確認する。
【0023】
(3)昇温スケジュールとそれに応じた湿度調整スケジュールの決定: 先ず、加熱処理を行うときの、昇温速度、処理温度での保持時間を決定し昇温スケジュールを決定する。なお、VOC除去効果、湿度調整の容易さの観点から、処理温度は、60℃〜100℃、特に80℃〜100℃の範囲が好ましい。
【0024】
ついで、前記(2)で確認した関係に基づいて、この昇温スケジュールに従って加熱した場合に平衡含水率が(1)で測定された含水率と一致するように、各雰囲気温度において達成すべき湿度(理想湿度)を決定する。最後に、使用する装置の温度・湿度調整性能を考慮して、加熱処理中における実湿度が実質的に理想湿度となる、具体的には、実湿度が与える平衡含水率が(1)で測定された含水率の±4%、より好ましくは±2%の範囲内となるような湿度調整パターンを決定する。なお、雰囲気の温湿度が与える平衡含水率が、処理対象となる木材の含水率より4%以上高くなる温湿度で処理を行なうと、木質材料が実質的に吸湿し、含水率の上昇、寸法の増加が認められ、好ましくない。また、雰囲気の温湿度が与える平衡含水率が、処理対象となる木材の含水率より4%以上低くなる温湿度で処理を行なうと、木質材料が実質的に放湿し、含水率の低下、寸法の収縮が認められるとともに、木質材料中のVOCの除去効果も十分ではなくなる。
【0025】
(4)処理の実行: 雰囲気の温度及び湿度を調節することが可能な装置の内部に被処理木質材料を導入し、(3)で決定した昇温スケジュール及び湿度調整スケジュールに従って温度および湿度が制御された雰囲気中で処理を行う。このような処理を行う装置としては、温湿度が制御可能な汎用の蒸気式木材乾燥装置を使用可能である。
【0026】
(5)冷却: 加熱処理終了後、木質材料を自然放冷する。
【0027】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1
試験材として、オウシュウアカマツ集成柱材(大きさ105mm×105mm×1000mm)を準備し、高周波容量法で含水率を測定した。測定値は12質量%であった。平衡含水率が12質量%となる温度と湿度の関係を図1から読み取った。30℃〜100℃の間の10℃ごとの各温度における「関係湿度(%)」を表1に示す。なお、参考として、表1には、平衡含水率が、6,8,10,14、及び16%であるときについて同様にして決定した30℃〜100℃の間の10℃ごとの各温度における関係湿度も併せて示している。
【0029】
【表1】

この試験材を、常温、常圧下でトルエンに1分間浸漬することにより、トルエンを含有する試験材(被処理木質材料)を得た。次いで、この試験材について、試験材の端から150mm(端部)、500mm(中央部)の位置の幅、厚みを測定した。
【0030】
その後、上記試験材(被処理木質材料)を、木材乾燥実験機(日本電化工業製)にセットし、雰囲気温湿度を表2に示す昇温スケジュール及び湿度調整スケジュールで常圧下に加熱、加湿処理を行なった。
【0031】
この昇温度スケジュール及び湿度調整スケジュールは、平衡含水率が12%である温度と湿度の組合せから理想湿度をベースに設定したものである。昇温過程においては温度、湿度はリニアに上昇するため、実湿度は理想湿度を若干外れるが、全ての温度範囲で実湿度が与える平衡水率は11重量%〜13質量%の間であつた。
【0032】
【表2】

【0033】
処理後の試験材について、端部、中央部の位置の幅、厚みを測定し、処理前の寸法測定値と比較して寸法変化率を求めた。また、高周波容量法で含水率を測定した。更に以下の方法で試験材から放散するトルエンの放散速度を評価した。
【0034】
すなわち、まず、試験材の木口から50〜100mm(端部)、475〜525mm(中央部)の位置で試験材をカットし、長さ50mmの評価片を得た。この評価片の木口をニカワでシールして測定用資料とした。各測定用資料をそれぞれ容量30Lのテドラパック(GLサイエンス製)内に導入すると共に導入時に内部に入ってしまった外気を、テドラバックを変形させることによりできるだけ排出して、測定用資料をテドラバック内に封入した。次にテドラバック内に純空気(巴商会製)を20L封入し、常温で24時間放置、放置後のテドラパック内空気中に含まれるトルエン濃度を、ガスクロマトグラフ(アジレント社製)で測定。得られたトルエン濃度から、木質材料1mあたり、1時間あたりの放散速度に換算した。
【0035】
これら含水率、寸法変化率、放散速度の測定結果と、処理後の試験材の外観評価結果を表3にまとめて示す。
【0036】
【表3】

比較例1
実施例1と同様の方法で、含水率測定値が12質量%である木質材料をトルエンに浸漬、トルエンを含有する試験材を得た。試験材の端から50〜100mm(端部)、475〜525mm(中央部)の位置でカットし、長さ50mmのサンプル片を得た。得られたサンプル片から放散するトルエンの量を、実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表3にまとめた。
【0037】
実施例2〜4及び比較例2〜3
実施例1と同様の方法で、含水率測定値が12質量%である木質材料をトルエンに浸漬、トルエンを含有する試験材を得た。この試験材を、実施例1と同様の方法で、表2に示した温湿度スケジュールで処理し、処理後木質材料の含水率、寸法変化率、放散速度、外観を評価した。結果を表3にまとめて示す。
【0038】
実施例1は、処理対象となる木質材料の含水率12質量%を与える温湿度の組み合せを常に維持した条件で、最高温度100℃で加熱、加湿処理した場合である。加熱・加湿処理を行なわない比較例1と比較して、トルエンの放散速度は2桁低減され、低VOC放散木質材料が製造できていることがわかる。含水率の変化もなく、寸法変化も小さい。また、割れ、木材の変色もなかった。
【0039】
実施例2は、最高温度70℃で同様の処理を行なったものである。トルエンの放散速度は1桁以上低減し、本発明の効果は十分に発現している。また、実施例3、4は、それぞれ平衡含水率14質量%、10質量%を与える温湿度で処理したものであるが、実施例1と同様の効果が発現している。
【0040】
一方、比較例2は木質材料に蒸気を直接作用させる、所謂蒸煮処理を行なったものである。端部のトルエン放散速度は低減しているものの、柱材中央部の放散速度低減効果は不十分であることがわかる。また、含水率の上昇、寸法の増加が認められ、更に木質材料表面が茶色に変色した。
【0041】
比較例3は、加湿せず、100℃まで雰囲気加熱のみを行なった場合を想定し、雰囲気の絶対湿度が一定の条件で処理したものである。トルエンの放散速度は十分に低減しない一方、木質材料の含水率は低下、寸法収縮、割れの発生が認められた。
【0042】
比較例4は、平衡含水率6質量%与える温湿度で、実施例1と同様の処理を行なったものである。処理対象となる木質材料の含水率12質量%より6質量%低い条件で処理を行なうと、トルエンの放散速度低減効果が薄くなり、また、含水率低下、寸法収縮を引き起こすことがわかる。
【0043】
比較例5
比較例2と同様に処理した木質材料を、温度80℃、真空度100mmHgで真空加熱処理を行った。処理後の木質材料の含水率、寸法変化率、放散速度、外観の評価結果を表3にまとめて示す。
【0044】
比較例5は、比較例2と同じプロセスで得た木質材料を、更に真空加熱し、含水率を元に戻し、トルエンの放散速度を低減させようとしたものである。含水率は15質量%と元の値に近くなったが、真空加熱時に木質材料に割れが発生した。また、柱材の中央部のトルエン放散速度が大きく低減することはなかった。
【0045】
以上のように、VOCを含む木質材料を、処理対象となる木質材料の含水率に合わせた特定の温湿度範囲で、加熱・加湿処理を行なうことにより、含水率変化、寸法変化がなく、割れ、変色も発生しない状態で、木質材料のVOC放散を低減させることができる。本発明の製造方法によると、柱材のように一定以上の大きさの木質材料であっても、材料に割れ、変色、寸法変化等のダメージを与えることなく、低VOC放散木質材料を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本図は、特定の平衡含水率を維持する雰囲気の温度と湿度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物を含み、且つ含水率が1〜30質量%である木質材料からなる被処理木質材料から揮発性有機化合物を除去する工程を含む揮発性有機化合物放散性の低い木質材料を製造する方法において、前記工程における揮発性有機化合物の除去が、前記被処理木質材料の含水率と実質的に平衡状態となる温度及び湿度に制御された雰囲気中で前記被処理木質材料を加熱処理することにより行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記被処理木質材料が、少なくとも1つの木口面を有する木質材料であって、該木質材料の木口面の面積の総和{S(cm)}に対する該木質材料の体積{V(cm)}の比(V/S)が10(cm)以上の木質材料からなることを特徴とする請求項1に記載方法。
【請求項3】
前記被処理木質材料が、建築用木質部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載方法。

【図1】
image rotate