説明

体液検査測定器およびカバー部材

【課題】血液等の体液検査測定において、血液など体液の蒸散物がカバー部材に付着したとしても、透明性を長期間に渡って維持できるカバー部材、および該カバー部材を装着した体液検査測定器を提供する。
【解決手段】体液検査測定器100は、体液中の成分と反応を示す試薬が担持された体液吸収性部材11を備えた体液検査具10と、体液検査測定器本体110とを含んで構成され、体液検査測定器本体110の開口面111には、体液検査具10に対向して、透光性のカバー部材50が装着され、カバー部材50は、透光性の無機ガラスからなる基材51と、基材51表面の少なくとも一部に形成された防曇性能膜52とからなり、防曇性能膜52は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物から形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の体液を検査する体液検査測定器、および該体液検査測定器に装着して使用される透光性のカバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液を検査する血液検査測定器としては、図3に示すような構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。ここで、図3の血液検査測定器200は、血液検査具20と血液検査測定器本体210とから構成されている。血液検査具20は、図4に示すように、内部に血液吸収性部材21を備えるとともに、一端に血液吸入口22を有し他端に血液排出口23を有している。さらに、排出口23側端面が血液吸収性部材21に接触する細管24を備えている。従って、図5に示すように、指を針などで穿刺すことで皮膚表面に滲み出た血液Bに血液検査具20の血液吸入口22を接触させることで毛管現象により血液が吸引され、内部の血液吸収性部材21に吸収される。この血液吸収性部材21には前もって、血液と反応する試薬が担持されている。その後、図3に示すように血液検査具20は血液検査測定器本体210に装着され、血液検査測定器200により所定の光学的検査が行われる。それ故、血液検査具20を用いた血液検査測定器200により、簡便に多数人の血液検査を行うことができる。
【特許文献1】特開平10−019888号公報(図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1では、血液検査具20を血液検査測定器210に装着するので、血液吸収性部材21から血液や水分が血液検査測定器本体210側に飛散あるいは蒸散し、血液検査測定器本体210の内部が汚染される可能性がある。これに対して、測定器本体に透明なカバー部材を設けることも考えられるが、雰囲気の温度や湿度の変化によりカバー部材が曇り、測定に支障をきたすおそれがある。また、通常の防曇処理では、カバー部材表面に均一な防曇膜を形成することは困難である。例えば、カバー部材表面の防曇膜で被覆されない部分が存在すると、血液中の水分と揮発分が付着して固化してしまうおそれがある。
【0004】
そこで、本発明の目的は、血液等の体液検査測定において、血液など体液の蒸散物がカバー部材に付着したとしても、透明性を長期間に渡って維持できるカバー部材、および該カバー部材を装着した体液検査測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記した課題を解決すべく、本発明は、体液中の成分と反応を示す試薬が担持された体液吸収性部材を備えた体液検査具と、体液検査測定器本体とを含んで構成される体液検査測定器であって、前記体液検査測定器本体の開口面には、前記体液検査具に対向して、透光性のカバー部材が装着され、前記カバー部材は、透光性の無機ガラスからなる基材と、前記基材表面の少なくとも一部に形成された防曇性能膜とからなり、前記防曇性能膜は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物から形成されたものであることを特徴とする。
【0006】
ここで、体液とは、ヒトを含めて動物がなんらかの形で体内に持っている液体である。生物学的には、動物の体内にあって、組織間や体腔内、あるいは全身に広がった管や循環系の中を満たしている血液やリンパ液などを指すが、本発明では、唾液、汗、精液、あるいは尿など、体内外に分泌・排泄される様々な液体も体液と呼ぶ。
【0007】
本発明の体液検査測定器によれば、体液検査測定器本体と体液検査具との間には透光性のカバー部材が備えられている。それ故、体液検査具から血液などの体液が飛散あるいは蒸散したとしてもカバー部材により遮られ、体液検査測定器本体が汚染されることがない。しかも、このカバー部材は、透光性の無機ガラスからなる基材と、前記基材表面の少なくとも一部に形成された所定の防曇性能膜とからなるので、充分な防曇性能および膜自体の耐久性を持つカバー部材として作用する。具体的には、単体で存在する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物は、基材に対して化学的に結合するとともに、2量体以上の縮合物間、2量体以上の縮合物と単体分子間および、単体分子間で反応し、隙間を埋める糊の役目を果たす。これにより、無機ガラスからなる基材表面に親水成分を固定化するための部位、および、膜内で架橋する部位が均一に存在し、充分な防曇性能、および、膜自体の耐久性および均一性に優れた透明なカバー部材が得られる。従って、本発明によれば、カバー部材の透明性を長期に渡って維持でき、長期間に渡る使用が可能な体液検査測定器を提供できる。
【0008】
本発明では、前記体液検査具は、一端に体液吸入口を有し、他端に体液排出口を有するとともに、前記排出口側端面が前記体液吸収性部材に接触する細管とを備えていることが好ましい。
【0009】
この発明によれば、体液検査具は、一端に体液吸入口を有し、他端に体液排出口を有するとともに、前記排出口側端面が前記体液吸収性部材に接触する細管とを備えているので、血液等の体液の採取が非常に簡便であり、結果として、迅速に検査のできる体液検査測定器を提供できる。
【0010】
本発明では、前記カバー部材の基材は、その両面に前記防曇性能膜が形成されていることが好ましい。
【0011】
この発明によれば、カバー部材の基材は、その両面に前記防曇性能膜が形成されているので、体液検査具からの体液の飛散あるいは蒸散が激しくて、カバー部材の両面にまで体液等が接触した場合でも、カバー部材に体液等が付着することが無く、透明性を失わないので体液検査測定に支障をきたすことがない。
【0012】
本発明では、前記カバー部材の防曇性能膜に界面活性剤を含むことが好ましい。
【0013】
この発明によれば、カバー部材の防曇性能膜に界面活性剤を含むので、防曇特性を阻害することなく、外観が良好である均一な膜が作製でき、さらに、防曇特性自体を向上させたカバー部材となる。従って、より長期間に渡って性能を維持できる体液検査測定器を提供できる。
【0014】
本発明では、前記防曇性能膜を形成する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物のうち、前記非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、2量体以上の縮合物が、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満であることが好ましい。
【0015】
この発明によれば、より優れた防曇性能を有するとともに、膜自体の耐久性もより優れたカバー部材を備えた体液検査測定器の提供が可能である。それは、単体で存在する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物は、基材と膜の固定化に加え、2量体以上の縮合物間、2量体以上の縮合物と単体分子間および、単体分子間で反応し、隙間を埋める糊の役目を果たすためである。そして、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの2量体以上の縮合物が、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満、それ以外の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランが単体である場合、基材表面に親水成分を固定化するための部位、および、膜内で架橋する部位がバランスよく存在し、充分な防曇性能、および、膜自体の耐久性を持つ膜を有するカバー部材が得られる。
【0016】
本発明では、前記防曇性能膜を形成する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物が、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホン酸基から選ばれる1種以上の官能基を含有することが好ましい。
【0017】
この発明によれば、良好な親水性を示す、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホン酸基を少なくとも1種以上非カップリング部位に少なくとも1個以上含有することで、良好な性能を有する防曇性能膜が得られる。従って、そのような防曇性能膜と基材からなるカバー部材を備えた体液検査測定器は、長期間に渡って安定して体液検査の測定に供することができる。
【0018】
本発明のカバー部材は、体液中の成分と反応を示す試薬が担持された体液吸収性部材を備えた体液検査具と、体液検査測定器本体とを含んで構成される体液検査測定器に装着される透光性のカバー部材であって、前記カバー部材は、前記体液検査測定器本体の開口面に、前記体液検査具に対向して配置され、透光性の無機ガラスからなる基材と、前記基材表面の少なくとも一部に形成された防曇性能膜とからなり、前記防曇性能膜は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物から形成されたものであることを特徴とする。
【0019】
本発明のカバー部材によれば、体液検査具から血液などの体液が飛散あるいは蒸散したとしてもカバー部材により遮られ、体液検査測定器本体が汚染されることがない。しかも、このカバー部材は、透光性の無機ガラスからなる基材と、前記基材表面の少なくとも一部に形成された所定の防曇性能膜とからなるので、充分な防曇性能および膜自体の耐久性を持つカバー部材として作用する。具体的には、単体で存在する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物は、基材に対して化学的に結合するとともに、2量体以上の縮合物間、2量体以上の縮合物と単体分子間および、単体分子間で反応し、隙間を埋める糊の役目を果たす。これにより、無機ガラスからなる基材表面に親水成分を固定化するための部位、および、膜内で架橋する部位が存在し、充分な防曇性能、および、膜自体の耐久性に優れた透明なカバー部材となる。従って、本発明のカバー部材を装着することで、仮に、血液などの体液からの蒸散物がカバー部材に接触した場合でも、カバー部材に体液等が付着することがなく、透明性を長期間に渡って維持でき、長期間に渡る使用が可能な体液検査測定器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の体液検査測定器およびカバー部材の実施形態について説明する。本実施形態における体液検査測定器は、例えば血液検査測定器である。
〔血液検査測定器およびカバー部材〕
図1に、本実施形態に係る血液検査測定器100を示す。血液検査測定器100は、血液検査具10と、透光性のカバー部材50と、血液検査測定器本体110を含んで構成される。カバー部材50は、血液検査具10に対向して、血液検査測定器本体110の開口面111に装着されている。
【0021】
図1の血液検査測定器100に装着されたカバー部材50は、図2に示すように、無機ガラス製の基材51と、その表面に形成された防曇性能膜52とから構成される。
【0022】
ここで、無機ガラスとしては、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、ハードレックス(強化無機ガラス) 、クリアレックス(無反射処理)、スピネルガラス、およびサファイアガラス等が挙げられる、
なお、血液検査具10は、図4に示すように、内部に血液吸収性部材11を備えるとともに、一端に血液吸入口12を有し他端に血液排出口13を有している。さらに、排出口13側端面が血液吸収性部材11に接触する細管14を備えている。従って、図4に示すように、指を針などで穿刺すことで皮膚表面に滲み出た血液Bに血液検査具10の血液吸入口12を接触させることで毛管現象により血液が吸引され、内部の血液吸収性部材11に吸収される。この血液吸収性部材11には前もって、血液と反応する試薬が担持されている。その後、図1に示すように血液検査具10は血液検査測定器本体110に装着され、血液検査測定器100により所定の光学的検査が行われる。
【0023】
血液吸収性部材11は、多孔性膜を担体として所定の試薬を含浸させたものである。この多孔性膜は血液中の赤血球を濾過できる程度の孔径を有するものが望ましい。多孔性膜の材質としては、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリオレフィン類、ポリスルホン類またはセルロース類等が挙げられる。試薬を溶解した水溶液を含浸させたり、測定時には血球を濾過するため、親水性の材料または、親水化された材質が好ましい。
【0024】
血液検査具の材質としては、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、硬質ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の剛性を有する合成樹脂が好ましい。測定時に血液を吸入することを考慮すると、アクリル樹脂等の親水性の高い材料、または親水化された材質が好ましい。
【0025】
血液検査測定器本体110としては、血液吸収性部材11で発色した強度を光学的に測定し、測定値へ換算、表示するものや、成分量に応じた電位変化を電気的に測定し、測定値へ換算、表示するものが好適に用いられる。測定対象としては、例えば、ヘマトクリット値が挙げられる。
〔防曇性能膜〕
次に、前記したカバー部材を構成する防曇性能膜について説明する。まず、防曇性能膜を形成するために使用される処理液(以下、「本処理液」ともいう)について説明する。
【0026】
本処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランは、単体および2量体以上の縮合物を含有する。2量体以上の縮合物は、膜内の親水性基の密度を向上させる。また、単体で存在するオルガノシランは、基材と膜の固定化に加え、2量体以上の縮合物間、2量体以上の縮合物と単体分子間および、単体分子間で反応し、隙間を埋める糊の役目を果たす。これにより、膜強度および、基材表面との高い密着性を発現する作用がある。さらに、糊として働く単体には親水性基が含有されるため、膜における親水性基の密度を低下させず、優れた防曇特性を示すことが可能である。
【0027】
また、本処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの2量体以上の縮合物は、2量体以上であれば充分な親水性基の密度が得られる。より高い親水性基の密度を得るため、2量体以上の様々な縮合度の縮合物を含むことが望ましく、さらに好ましくは、様々な2量体以上の縮合物のうち、縮合度の小さいものを大きいものよりも多く含み、膜内の充填率が低下しないことが好ましい。
【0028】
本処理液で用いられる適当な親水性有機溶剤とは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、水などである。親水性有機溶剤は、1種のみでも、2種以上の混合溶媒でも良い。
【0029】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシラン含有量は0.1質量%以上25質量%以下とすることが好ましい。0.1質量%以下では、防曇性能膜が薄くなり、耐久性に問題がある。25質量%以上の濃度で用いても、防曇性能膜の膜厚、性能に変化が見られず、経済的にもデメリットとなってしまう。特に、防曇性能膜を形成したカバー部材を前記した血液検査測定器のような光学的測定器に用いると、表面に形成する膜の膜厚によっては表面の反射特性が変化して、光線反射率および透過率が変化してしまうので、光学特性が変化してしまうことのない膜でなければならない。この場合、オルガノシラン含有量は0.1質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
さらに、本処理液は、防曇性能膜の均一性、外観向上のため、界面活性剤を混合することが好ましい。具体的には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両面界面活性剤などの界面活性剤類、およびその反応性誘導体などが挙げられる、オルガノシラン側の硫黄を含む基との相互作用から、好ましくはアニオン性のものが良く、更に好ましくはアニオン性基が硫酸または硫酸塩またはスルホン酸またはスルホン酸塩であるアニオン性界面活性剤が好ましい。用いられる界面活性剤は特定の一種または二種類以上を混合して使用しても良い。界面活性剤は、防曇性能膜強度を阻害しない範囲で混合可能である。よって、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物に対して、1質量%以上50質量%以下の範囲で混合が好ましい。
【0031】
また、アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリム等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩;アルキルリン酸カリウム等のアルキルリン酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキル(またはアルキルアリル)硫酸エステル塩;特殊反応型アニオン界面活性剤;特殊カルボン酸型界面活性剤;β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、特殊芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩等のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル等が挙げられる。
【0032】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ポリオキシエチレン誘導体;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンジステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、自己乳化型グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル:ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0033】
カチオン性界面活性剤および両面界面活性剤としては、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルペンジルジメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩:ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のアルキルベタイン;ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアミンオキサイドが挙げられる。
【0034】
また、本処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の2量体以上の縮合物は、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満である。1質量%未満である場合、膜内の親水性基密度が低くなり、充分な防曇特性が得られない。また、70質量%以上である場合、単体のオルガノシランが糊としての充分な役割を果たせず、充分な膜強度が得られない。より高い防曇性能および膜強度を得るためには、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物単体と、2量体以上の縮合物の存在比が重要である。しかし、用いるオルガノシランの種類によって、最適比率が存在するため、限定はできないが、2量体以上の縮合物が5質量%以上50質量%未満であることがなお好ましい。
【0035】
また、本処理液中には、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物は、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホン酸基から選ばれる1種以上の官能基を含有する。スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基は、酸化してスルホン酸基または硫酸基とすることが好ましい。
【0036】
スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基はオルガノシランおよび/またはその加水分解物のどの位置に存在しても良いが、親水性が発現し易いためには、スルホン酸または硫酸基に変換したときに末端にあることが好ましい。オルガノシランの反応部位は、クロロシランやアルコキシシラン、シラザンの様にシラノールに変換し、縮合および、基材表面の活性基と反応することが可能な基である。
【0037】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の例として、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、2−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、2−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2−メルカプトエチルジメチルメトキシシラン、2−(2−クロロエチルチオエチル)トリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチル−3−(3−フェノキシプロピルチオプロピル)シラン、3−(2−アセトキシエチルチオプロピル)ジメトキシメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロパンスルホン酸イソプロピルエステル、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]スルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルスルホン酸などが挙げられる。
【0038】
また、本処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランのカップリング部位は、親水性有機溶剤中で低温ではゆっくりと、高温になるほどはやく加水分解および縮合が進む。0℃未満では縮合が非常に遅く、2量体以上の縮合物を作製するのに非常に長い時間がかかり、作業性が良くない。70℃を超える温度では縮合が非常に速く進むため、制御が難しい。よって、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物を親水性有機溶剤に希釈した後、0℃以上70℃以下で0.1時間以上200時間以下保持することが好ましい。さらに、より縮合度の制御を安定的に行うためには、0℃以上40℃以下で2時間以上200時間以下保持するのが好ましい。
【0039】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの2量体以上の縮合物を作製する際、保管環境によって制御する方法とともに、酸触媒、アルカリ触媒、アミン系触媒、金属化合物触媒から選ばれる1種以上の触媒を用いる方法を組み合わせても良い。
【0040】
処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物のカップリング部位の縮合および加水分解を、酸触媒、アルカリ触媒、アミン系触媒、金属化合物触媒から選ばれる1種以上の触媒によって制御することにより、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの2量体以上の縮合物がオルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満であるような防曇処理液の作製を更に容易に行うことが可能となる。
【0041】
酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蟻酸、酒石酸、クエン酸、炭酸があげられる。塩酸、硫酸、硝酸、炭酸等のカルボキシル基を持たない酸については、オルガノシランの加水分解を促進する効果があり、カルボキシル基を持つ酸は、オルガノシランに対し、配位するため、縮合を抑える効果がある。よって、カルボキシル基を持たない酸と、カルボキシル基を混合して用いると、より縮合度の制御が容易に行うことが可能である。
【0042】
アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニウム化合物等があげられる。アミン系触媒は、具体的には、エチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、グアニジンなどのアミン、グリシンなどのアミノ酸、2−メチルイミダゾール、2,4−ジエチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾールのいずれでもよいが、加水分解、および縮合物に対し、水素結合を作り、縮合反応を制御する効果から、ヒドロキシル基を含有するアミンが好ましい。
【0043】
金属化合物触媒としては、アルミニウムアセチルアセトネート、チタンアセチルアセトネート、クロムアセチルアセトナートなどの金属アセチルアセトネート、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸スズなどの有機酸金属塩、SnCl4、TiCl4、ZnCl2などのルイス酸、過塩素酸マグネシウムなどがあげられる。3級アミン、有機錫化合物触媒については、その効果を高めるために混合して用いても良いことが一般的に知られている。触媒の量は、それぞれの触媒によって効果が異なるため、一概にはいえないが、膜の防曇特性を阻害しないで用いるのが望ましく、具体的には、処理液中の固形分に対して、75%以下で混合するのが好ましい。
【0044】
また、防曇性能膜を有するカバー部材を光学的血液検査測定器に用いると、表面に形成する膜の膜厚によっては表面の反射特性が変化して、光線反射率および透過率と共に光学特性が変化してしまうおそれがある。しかし、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液により形成した防曇性能膜は、非常に薄いため、光学特性に影響しない。
〔カバー部材の製造方法〕
本実施形態におけるカバー部材の製造方法は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を無機ガラスからなる基材表面に塗布する工程と、前記処理液を塗布した基材を加熱処理して乾燥硬化する工程とを含む。図6に、このカバー部材の製造工程フロー図(A)を示す。
【0045】
塗布工程においては、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を基材表面に塗布する。塗布方法はディップコーティング法、スピンコーティング法、バーコードコーティング法、スプレーコーティング法等があげられるが、生産性、塗布後の均一性を重視した場合、ディップコーティング法、スピンコーティング法が好ましい。
【0046】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を基材表面に塗布する前に、処理液に含まれるオルガノシランと基材表面の反応性を高める工程を実施しても良い。具体的には、プラズマ処理、アルカリ処理等で、基材表面を活性化する。
【0047】
処理液を塗布した基材を加熱処理して乾燥硬化する工程は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物を親水性有機溶剤に希釈した処理液内の溶媒を除去し、オルガノシランの反応を完結させるために行う。加熱処理の条件については、溶媒が蒸散し、オルガノシランの反応が好適に起こる条件で、かつ、基材自体に影響がない範囲であれば、特に限定しない。好ましくは、50℃以上300℃以下の温度範囲で1分以上24時間以下の加熱処理を行う。反応速度が温度に依存することから、加熱温度が低いほど長時間の処理が好ましい。加熱温度が300℃を越える場合、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物が分解するなどの影響があるため、避けた方が良い。50℃以上150℃以下で1分以上12時間以下の加熱処理であれば、工程を設計する上でなお好ましい。
【0048】
また、本実施形態における第2のカバー部材の製造方法は、図7の製造工程フロー図(B)に示すように、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物を親水性有機溶剤に希釈した処理液の、非カップリング部位に含有される、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基から選ばれる1種以上の官能基をスルホン酸基に変換する工程と、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基から選ばれる1種以上の官能基をスルホン酸基に変換した処理液を基材表面に塗布する工程と、前記処理液を塗布した基材を加熱処理して乾燥硬化する工程とを含んでもよい。
【0049】
本実施形態おける処理液中の非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基は、更に良好な親水性を示すスルホン酸基に変換することで、更に良好な防曇性能を持たせることが可能である。酸化は、一般的に用いられている、酸化反応(過マンガン酸ナトリウム、過酸化水素水、塩酸、臭化水素、オゾン含有ガス等による酸化)によって行われる。
【0050】
また、本実施形態における第3のカバー部材の製造方法は、図8の製造工程フロー図(C)に示すように、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を基材表面に塗布する工程と、前記処理液を塗布した基材を加熱処理して乾燥硬化する工程と、基材表面に形成された、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランの非カップリング部位に含有される、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基から選ばれる1種以上の官能基をスルホン酸基に転化する工程とを含む。
【0051】
本実施形態におけるカバー部材の表面には、さらに防曇特性を向上する目的で、界面活性剤を塗布しても良い。塗布する界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両面界面活性剤などがあげられる。具体的には、前記した界面活性剤を用いることが可能である。界面活性剤は特定の一種または二種類以上を混合して使用しても良い。界面活性剤は、防曇性基材表面に付与される方法であればいかなる塗布方法を用いても良い。
【0052】
スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基の酸化は、オルガノシランおよび/またはその加水分解物を縮合する前でも、縮合した後でも構わないが、より効率的に酸化を行うため、オルガノシランおよび/またはその加水分解物を縮合する前に行うことが好ましい。
【0053】
本実施形態によれば以下のような効果を奏する。
【0054】
非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物からなる処理液を無機ガラスからなる基材表面に処理することにより、化学的に基材表面に結合した均一な防曇性能膜を有するカバー部材50を提供できる。
【0055】
さらに、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の2量体以上の縮合物は、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満とすることにより、膜内に効率的に親水性基が配置され、膜強度および基材表面との密着性がより向上したカバー部材50とできる。さらに、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液は、界面活性剤を含むことにより、最終的に得られるカバー部材により一層優れた防曇性を付与できる。
【0056】
前記したようなカバー部材50を備えた血液検査測定器100は、血液検査具10から血液が蒸散したとしてもカバー部材50により遮られ、体液検査測定器本体110が汚染されることがない。しかも、このカバー部材50は、透光性の無機ガラスからなる基材51と、基材51表面に形成された防曇性能膜52とからなるので、充分な防曇性能および膜自体の耐久性を持つカバー部材50として作用する。従って、カバー部材50の透明性を長期に渡って維持でき、長期間に渡る使用が可能な体液検査測定器100を提供できる。
【0057】
本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではない。
例えば、本実施形態では、血液検査測定器について記載したが、リンパ液や、唾液、汗、精液、あるいは尿など、体内外に分泌・排泄される様々な体液にも適用できる。
【実施例】
【0058】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明する。具体的には、以下に示す方法で血液検査測定器用のカバー部材を製造して、各種の評価を行った。カバー部材用の基材としては、いずれも白板ガラス(直径20mm、厚さ3mmの円盤状)を用いた。なお、実施例および比較例については、処理液の作製から防曇性カバー部材の製造方法までを一貫して示す。
【0059】
〔実施例1〕
(処理液の作製)
3−トリメトキシシリルプロパンスルホン酸イソプロピルエステル0.01molを氷酢酸60mlに溶解し、ここに、30質量%濃度の過酸化水素水35gを、液温を25〜30℃に保った状態で1時間かけて滴下した。滴下終了後、25℃で一昼夜攪拌した。この液をFT−NMRにて分析したところ、スルホン酸エステル基が酸化、メトキシ基が加水分解され、トリシロキシプロパンスルホン酸が合成されていることがわかった。また、トリシロキシプロパンスルホン酸溶液の固形分濃度を測定したところ、4質量%であった。
このトリシロキシプロパンスルホン酸溶液をエタノールにて0.2質量%に希釈し、150gとした。ここにN−アミノエチルエタノールアミン0.1gを混合し、30℃で2時間攪拌した(A−1液)。このA−1液の一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全化合物量中の40質量%であることを確認した。次にA−1液にラウリル硫酸ナトリウムを処理液総量に対し、50質量ppmとなるように加え、処理液Aとした。
(ディップコーティングにより基材表面に塗布する工程)
40℃の1.6N水酸化カリウム水溶液に3分間浸漬し、純水で充分に洗浄した白板ガラスを処理液Aに浸漬し、等速引き上げ装置を用いて10cm/分の引き上げ速度で塗工した。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Aを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持し、基材との反応を完結させ、防曇性能膜が形成されたカバー部材を得た(試料1)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0060】
〔実施例2〕
(処理液の作製)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.01molをエタノール1.19mlに溶解し、ここに、0.2N硫酸を0.238g添加し、30℃で2時間攪拌し、メトキシ基の加水分解を行った。ここに7.6%過酸化水素水77.54gを加え、60℃の環境下で24時間攪拌し、チオール基の酸化反応とシラノール基の縮合反応をおこなった。
この液をFT−NMRにて分析したところ、メルカプト基が酸化、メトキシ基が加水分解され、トリシロキシプロパンスルホン酸が合成されていることがわかった。この液の一部を純水で200倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全固形分量中の42質量%であることを確認した。また、トリシロキシプロパンスルホン酸溶液の固形分濃度を測定したところ、2.4質量%であった。
このトリシロキシプロパンスルホン酸溶液をエタノールにて固形分濃度が0.15質量%となるよう希釈し、150gの希釈液を得た。この希釈液に、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム(日光ケミカルズ株式会社製ニッコールOTP−100)を処理液総量に対して100質量ppmとなるように加え、処理液Bとした。
(ディップコーティングにより基材表面に塗布する工程)
基材としての白板ガラスの表面を洗浄するためにプラズマ処理を行った。プラズマ処理の条件としては、処理圧力:0.1Torr、導入ガス:乾燥air、電極間距離24cm:電源出力:DC1KV、処理時間:15secとした。
プラズマ処理した白板ガラスを処理液Bに浸漬して、等速引き上げ装置で20cm/分の引き上げ速度で塗工した。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Bを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、60℃で4時間保持し、基材との反応を完結させ、防曇性能膜が形成されたカバー部材を得た(試料2)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。また、反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0061】
〔実施例3〕
(処理液の作製)
ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド0.01mol(4.75g)をt−ブタノール47.5gに溶解し、0.1N硝酸1.7gを加えて25℃で2時間攪拌した。これをFT−NMRにて分析したところ、エトキシ基が加水分解され、ビス[3−(トリシロキシシリル)プロピル]ジスルフィドとなっていることがわかった。
この溶液1.5gをエタノールで100倍に希釈し、全量を150gとした。さらに、ここに、1N水酸化ナトリウム水溶液0.1gを混合し、室温で30分間攪拌した(C−1液)。このC−1液の一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全化合物量中の30質量%であることを確認した。次にC−1液にラウリル硫酸ナトリウムを処理液総量に対し、50質量ppmとなるように加え、処理液Cとした。
(スピンコーティングにより基材表面に塗布する工程)
40℃の1.6N水酸化カリウム水溶液に3分間浸漬し、純水で充分に洗浄した白板ガラスに、スピンコーターを用いて以下の方法で処理液Cを塗工した。具体的には、白板ガラスの中心部付近を真空チャックし、回転数500rpmで回転させた状態で処理液5mlを吐出し、回転数2500rpmで10秒間回転させ、余剰な処理液を振り切った。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Cを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持し、基材との反応を完結させた。
(官能基をスルホン酸基に転化する工程)
オゾンガスを酸素ガスで希釈したオゾン含有ガス(オゾン含有量200g/m)を、90℃で10分間接触させ酸化処理することにより、スルフィド基をスルホン酸基に置換し、防曇性能膜を形成したカバー部材を得た(試料3)。スルホン酸基の存在の確認は、メチレンブルーによる染色によって行った。メチレンブルーはスルホン酸に対し、イオン的に非常に強く結合するため、スルホン酸基が存在する場合、青く染色されることが知られている。得られたカバー部材の一部を1mMメチレンブルー水溶液(pH4)に25℃にて1分間浸漬したあと、純水を満たした超音波洗浄機(槽容量2.6リットル、発振周波数:45kHz、出力:120W)で3分間洗浄を行ったところ、青色に染色されていることが認められ、スルホン酸基の存在が確認された。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0062】
〔実施例4〕
(処理液の作製)
ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド0.02mol(4.75g)をt−ブタノール40.5gに溶解し、0.1N硝酸1.2gを加えて30℃で5時間攪拌した。これをFT−NMRにて分析したところ、エトキシ基が加水分解され、ビス[3−(トリシロキシシリル)プロピル]ジスルフィドとなっていることを確認した。
【0063】
この溶液2.25gをエタノールで100倍に希釈し、全量150gとしたものを処理液Dとした。この液の一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全化合物量中の29質量%であることを確認した。
(スピンコーティングにより基材表面に塗布する工程)
40℃の1.6N水酸化カリウム水溶液に3分間浸漬し、純水で充分に洗浄した白板ガラスを準備した。その白板ガラスにスピンコーターを用いて処理液Dを塗工した。スピンコーターを用いた処理液の塗工は、白板ガラスの中心部付近を真空チャックし、回転数500rpmで回転させた状態で処理液3mlを吐出し3秒間回転を保持し、さらに回転数2500rpmで10秒間回転させ、余剰な処理液を振り切った。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Dを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持し、基材との反応を完結させた。
(官能基をスルホン酸基に転化する工程)
オゾンガスを溶解したオゾン水(オゾン含有量70〜80質量ppm)を常温で20分間接触させ酸化処理することにより、スルフィド基をスルホン酸基に置換し、防曇性能膜を形成したカバー部材を得た(試料4)。スルホン酸基の存在の確認は、メチレンブルーによる染色によって行った。メチレンブルーはスルホン酸に対し、イオン的に非常に強く結合するため、スルホン酸基が存在する場合、青く染色されることが知られている。得られたカバー部材の一部を1mMメチレンブルー水溶液(pH4)に25℃にて1分間浸漬したあと、純水を満たした超音波洗浄機(槽容量2.6リットル、発振周波数:45kHz、出力:120W)で3分間洗浄を行ったところ、青色に染色されていることが認められ、スルホン酸基の存在が確認された。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0064】
〔実施例5〕
本実施例は、処理液D(実施例4参照)を用いて、カバー部材を作製した実施例である。処理液の作製については、実施例4と同様であり説明を省略する。
(ディップコーティングにより基材表面に塗布する工程)
白板ガラスの表面を洗浄するためにプラズマ処理を行った。プラズマ処理の条件としては、処理圧力:0.1Torr、導入ガス:乾燥air、電極間距離24cm:電源出力:DC1KV、処理時間:15secとした。
【0065】
プラズマ処理した白板ガラスを処理液Dに浸漬して、等速引き上げ装置で20cm/分の引き上げ速度で塗工した。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Dを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、60℃で4時間保持し、基材との反応を完結させ、防曇性能膜を形成したカバー部材を得た(試料5)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。また、反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0066】
〔実施例6〕
(処理液の作製)
処理液D(実施例4参照)と同様に、ビス[3−(トリシロキシシリル)プロピル]ジスルフィド溶液をエタノール/水(50/50vol%)溶媒で10倍に希釈し、これにオゾンガスを酸素ガスで希釈したオゾン含有ガス(オゾン含有量200g/m)を2.5l/minで30分間通じ酸化した。この液をFT−NMRにて分析したところ、ジスルフィド基が酸化され、トリシロキシプロパンスルホン酸が合成されていることを確認した。こうして得られたトリシロキシプロパンスルホン酸溶液の固形分濃度を測定したところ2.0質量%であった。
【0067】
このトリシロキシプロパンスルホン酸溶液をエタノールにて固形分濃度が0.15質量%となるよう希釈し、150gの希釈液を得、処理液Eとした。この液の一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全固形分量中の30質量%であることを確認した。
(ディップコーティングにより基材表面に塗布する工程)
40℃の1.6N水酸化カリウム水溶液に3分間浸漬し、純水で充分に洗浄した白板ガラスを準備した。その白板ガラスを処理液Eに浸漬し、等速引き上げ装置を用いて20cm/分の引き上げ速度で塗工した。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Eを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持し、基材との反応を完結させ、表面に防曇性能膜が形成されたカバー部材を得た(試料6)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0068】
〔実施例7〕
(処理液の作製および官能基をスルホン酸基に転化する工程)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン溶液(0.02molをアセトン60mlに溶解)を氷冷した0.4mol/l過酸化マンガン水溶液200ml中に氷冷したまま1時間かけて滴下した。滴下終了後、氷冷からはずし、25℃で2時間攪拌し、未反応の過マンガン酸を二酸化マンガンにした。この反応液から、二酸化マンガンを濾別し、わずかに黄みがかった濾液を得た。この濾液をFT−NMRにて分析したところ、チオール基が酸化、メトキシ基が加水分解され、トリシロキシプロパンスルホン酸カリウムが合成されていることがわかった。また、トリシロキシプロパンスルホン酸カリウム溶液の固形分濃度を測定したところ、3質量%であった。
このトリシロキシプロパンスルホン酸カリウム溶液をエタノールにて0.2質量%に希釈し、150gとした。ここに濃塩酸(35質量%)を0.05g、酢酸0.025gを混合し、0℃で72時間攪拌した(F−1液)。このF−1液の一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全化合物量中の15質量%であることを確認した。次にF−1液にジラウリルスルホコハク酸ナトリウムを処理液総量に対し、50質量ppmとなるように加え、処理液Fとした。
(ディップコーティングにより基材表面に塗布する工程)
40℃の1.6N水酸化カリウム水溶液に3分間浸漬し、純水で充分に洗浄した白板ガラスを処理液Gに浸漬し、等速引き上げ装置を用いて10cm/分の引き上げ速度で塗工した。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Fを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持し、基材との反応を完結させ、防曇性能膜を形成したカバー部材を得た(試料7)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。反射率は処理前と後で変化は見られなかった。
【0069】
〔実施例8〕
(処理液の作製および官能基をスルホン酸基に転化する工程)
実施例7と同様に、トリシロキシプロパンスルホン酸カリウム溶液を作製し、強酸性陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120Na)100ml中を通薬速度SV4にて通過させた。トリシロキシプロパンスルホン酸カリウム溶液のpHが10.5であったのに対し、イオン交換した溶液はpHが1.3であり、スルホン酸カリウムがスルホン酸にイオン交換され、トリシロキシプロパンスルホン酸溶液となっていることが確認された。トリシロキシプロパンスルホン酸溶液の固形分濃度を測定したところ、1.5質量%であった。
【0070】
このトリシロキシプロパンスルホン酸溶液をエタノールにて0.15質量%に希釈し、150gとした。この希釈液を0℃で72時間保管した(G−1液)。このG−1液の一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全化合物量中の10質量%であることを確認した。次にG−1液にジラウリルスルホコハク酸ナトリウムを処理液総量に対し、100質量ppmとなるように加え、処理液Gとした。
(ディップコーティングにより基材表面に塗布する工程)
白板ガラスの表面を洗浄するためにプラズマ処理を行った。プラズマ処理の条件としては、処理圧力:0.1Torr、導入ガス:乾燥air、電極間距離24cm:電源出力:DC1KV、処理時間:15secとした。プラズマ処理した白板ガラスを処理液Gに浸漬して、等速引き上げ装置で20cm/分の引き上げ速度で塗工した。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Gを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、60℃で4時間保持し、基材との反応を完結させ、防曇性能膜を形成したカバー部材を得た(試料8)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0071】
〔実施例9〕
(処理液の作製)
アセトン60mlに3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.02molを溶解し、これを氷冷した0.4mol/l過マンガン酸カリウム水溶液200ml中に氷冷したまま1時間かけて滴下した。滴下終了後、25℃で2時間攪拌し、未反応の過マンガン酸カリウムを二酸化マンガンとした。この反応液を0℃で一昼夜保管し、二酸化マンガン微粒子を沈降させ、これを濾別した。この濾液をFT−NMRにて分析したところ、メルカプト基が酸化、メトキシ基が加水分解され、トリシロキシプロパンスルホン酸カリウムが合成されていることがわかった。また、トリシロキシプロパンスルホン酸カリウム溶液の固形分濃度を測定したところ、3質量%であった。
【0072】
得られたトリシロキシプロパンスルホン酸カリウム溶液を、再生した強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製アンバーライトIR−120Na)100ml中を通薬速度SV4にて通過させた。トリシロキシプロパンスルホン酸カリウム溶液のpHが10.5であったのに対し、イオン交換した溶液はpHが1.3であり、スルホン酸カリウムがスルホン酸にイオン交換され、トリシロキシプロパンスルホン酸溶液となっていることが確認された。トリシロキシプロパンスルホン酸溶液の固形分濃度を測定したところ、1.5質量%であった。
【0073】
このトリシロキシプロパンスルホン酸溶液をエタノールにて固形分濃度が0.15質量%となるよう希釈し、150gの希釈液を得た。この希釈液を0℃で72時間保管し縮合物を生成した後、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム(日光ケミカルズ株式会社製ニッコールOTP−100)を処理液総量に対して100質量ppmとなるように加え、処理液Hとした。
この処理液Hの一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全固形分量中の15質量%であることを確認した。
(ディップコーティングにより基材表面に塗布する工程)
40℃の1.6N水酸化カリウム水溶液に3分間浸漬し、純水で充分に洗浄した白板ガラスを準備した。その白板ガラスを処理液Hに浸漬し、等速引き上げ装置を用いて20cm/分の引き上げ速度で塗工した。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Hを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持し、基材との反応を完結させ、防曇性能膜が形成されたカバー部材を得た(試料9)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。また、反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0074】
〔実施例10〕
(処理液の作製)
トリシロキシプロパンスルホン酸溶液を作製し、これを固形分濃度が0.15質量%となるようエタノールで希釈し、150gの希釈液を得た。ここにN−アミノエチルエタノールアミンを0.3g混合し、40℃で2時間保持し縮合物を生成した後、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム(日光ケミカルズ株式会社製ニッコールOTP−100)を処理液総量に対して100質量ppmとなるように加え、処理液Iとした。
この処理液Iの一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全固形分量中の62質量%であることを確認した。
(ディップコーティングにより基材表面に塗布する工程)
プラズマ処理を60秒間行った白板ガラスを基材として準備した。プラズマ処理の条件としては、処理圧力:0.1Torr、導入ガス:乾燥air、電極間距離24cm:電源出力:DC1KV、処理時間:60secとした。このプラズマ処理を行った白板ガラスを処理液Iに浸漬し、等速引き上げ装置を用いて20cm/分の引き上げ速度で塗工した。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Iを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持して基材との反応を完結させ、防曇性能膜を形成したカバー部材を得た(試料10)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は5°以下であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。反射率は処理前と後で変化が見られなかった。
【0075】
〔比較例1〕
(処理液の作製)
処理液D(実施例4参照)でビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィドのかわりに、n−ヘキシルトリエトキシシランを4.96g用いた以外は同様に、加水分解、縮合を行い、エタノールにて固形分濃度が0.15質量%となるよう希釈し、150gの処理液Jを得た。
【0076】
この処理液Jの一部を純水で20倍に希釈し、LC/MSで分析したところ、2量体以上の縮合物の存在が確認され、その比率は全化合物量中の52質量%であることを確認した。
(スピンコーティングにより基材表面に塗布する工程)
40℃の1.6N水酸化カリウム水溶液に3分間浸漬し、純水で充分に洗浄した白板ガラスに、スピンコーターを用いて以下の方法で塗工した。白板ガラスの中心部付近を真空チャックし、回転数500rpmで回転させた状態で処理液3mlを吐出し3秒間保持し、さらに回転数2500rpmで10秒間回転させ、余剰な処理液を振り切った。
(加熱処理して乾燥硬化する工程)
処理液Jを塗布した白板ガラスを熱風循環式恒温槽内で、120℃で1時間保持して基材との反応を完結させ、防曇性能膜を形成したカバー部材を得た(試料11)。得られたカバー部材の純水に対する接触角は43°であり、白濁等の外観上の不具合は確認されなかった。反射率は処理前と後で変化が見られなかった。メチレンブルー染色法により、このカバー部材の染色を行ったが、染色されなかった。
【0077】
以上の各実施例および比較例におけるカバー部材(試料1〜12)の製造条件を表1に示す。
【0078】
【表1】


以上の各実施例および比較例で得られたカバー部材を、以下に示す評価方法で評価した。その結果を表2に示す。評価項目は、初期防曇性、防曇耐久性、耐擦傷性、水やけ試験、染色試験とした。以下、各評価項目について評価方法を説明する。
〔評価方法〕
(1)初期防曇性:
20℃に保管したカバー部材を、温度40℃、湿度90%に保った環境中に移し、表面の曇り発生を目視観察した。この曇り方を、つぎの3段階に分けて評価した。
【0079】
○…ぜんぜん曇らないもの
△…2分後に曇りが消える
×…2分たっても曇りが消えない
(2)防曇耐久性:
カバー部材表面を布(木綿)で500gf(4.9N)の荷重をかけ1000回摩擦したあと、純水でよく洗浄、乾燥する。これを20℃に保管したサンプルを、温度40℃、湿度90%に保った環境中に移し、表面の曇り発生を目視観察する。この曇り方を、つぎの3段階に分けて評価した。
【0080】
○…ぜんぜん曇らないもの
△…2分後に曇りが消える
×…2分たっても曇りが消えない
(3)耐擦傷性:
カバー部材表面を#0000のスチールウールで1kgf(9.8N)の荷重をかけ50回摩擦した。キズのついた度合いを以下の3段階に分けて評価した。
【0081】
○…まったくキズがつかない
△…1〜10本程度の細かいキズがつく
×…細かく無数にキズがつく。
(4)水やけ試験:
水道水をカバー部材表面にたらし、乾燥させた後、布で残留物を拭き取った。拭き取り度合いを以下の3段階に分けて評価した。
【0082】
○…完全に拭き取れる
△…一部残留物が残る
×…残留物の大部分が残る
(5)染色試験:
スルホン酸基の存在の確認を、メチレンブルーによる染色によって行った。メチレンブルーはスルホン酸に対し、イオン的に非常に強く結合するため、スルホン酸基が存在する場合、青く染色されることが知られている。具体的には、カバー部材の一部を1mMメチレンブルー水溶液(pH4)に25℃にて1分間浸漬したあと、純水を満たした超音波洗浄機(槽容量2.6リットル、発振周波数:45kHz、出力:120W)で3分間洗浄を行い、青色に染色されているか確認した。染色性を以下の2段階で評価した。
【0083】
○…染色されている
×…染色されていない
【0084】
【表2】

表2の結果より、実施例1〜10(処理液A〜I)の初期防曇性能および防曇耐久性、耐擦傷性は良好であり、比較例1(処理液J)の初期防曇性能および防曇耐久性が不良であることがわかる。従って、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液を基材表面に塗工処理することにより、充分な親水性基の密度が得られ、優れた防曇性能膜が形成されることがわかる。
【0085】
また、実施例1〜10(処理液A〜I)の初期防曇性能および防曇耐久性が良好であることから、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液は、界面活性剤を含んでも良いといえる。界面活性剤を含有する処理液を基材に塗工処理した場合、防曇特性を阻害することなく、外観が良好である均一な膜が作製でき、さらに、防曇特性を向上させることができる。
【0086】
また、実施例1〜10(処理液A〜I)において外観上不具合が見られないことから非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物を親水性有機溶剤に希釈した処理液により、形成した防曇性能膜は、非常に薄いため、光学特性を損なうことなく、優れた防曇性能を持ったカバー部材が作製できたといえる。
【0087】
以上の結果より、本発明のカバー部材は、優れた防曇特性を有しており、血液検査測定器に装着して用いた場合に、血液検査具から飛散あるいは蒸散した水分や揮発分により光学特性を損なうこともない。従って、長期間に渡って安定して使用できる血液検査測定器を提供できることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の体液検査測定器およびカバー部材は、血液検査等の医療分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施形態に係る血液検査測定器の断面図
【図2】前記実施形態におけるカバー部材の断面図
【図3】従来の血液検査測定器の断面図
【図4】前記実施形態における血液検査具の断面図
【図5】前記実施形態における血液採取の状況を示す概略図
【図6】防曇性カバー部材の製造工程フロー図(A)
【図7】防曇性カバー部材の製造工程フロー図(B)
【図8】防曇性カバー部材の製造工程フロー図(C)
【符号の説明】
【0090】
10,20…体液(血液)検査具、11,21…体液(血液)吸収性部材、12,22…体液(血液)吸入口、13,23…体液(血液)排出口、14,24…細管、50…カバー部材、51…基材、52…防曇性能膜、100,200…体液(血液)検査測定器、110,210…体液(血液)検査測定器本体、111…開口面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液中の成分と反応を示す試薬が担持された体液吸収性部材を備えた体液検査具と、体液検査測定器本体とを含んで構成される体液検査測定器であって、
前記体液検査測定器本体の開口面には、前記体液検査具に対向して、透光性のカバー部材が装着され、
前記カバー部材は、
透光性の無機ガラスからなる基材と、前記基材表面の少なくとも一部に形成された防曇性能膜とからなり、前記防曇性能膜は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物から形成されたものである
ことを特徴とする体液検査測定器。
【請求項2】
請求項1に記載の体液検査測定器において、
前記体液検査具は、
一端に体液吸入口を有し、他端に体液排出口を有するとともに、前記排出口側端面が前記体液吸収性部材に接触する細管とを備えている
ことを特徴とする体液検査測定器
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の体液検査測定器において、
前記カバー部材の基材は、その両面に前記防曇性能膜が固着されている
ことを特徴とする体液検査測定器。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の体液検査測定器において、
前記カバー部材の防曇性能膜に界面活性剤を含む
ことを特徴とする体液検査測定器。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の体液検査測定器において、
前記防曇性能膜を形成する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物のうち、
前記非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、2量体以上の縮合物が、オルガノシラン総量の1質量%以上70質量%未満である
ことを特徴とする体液検査測定器。
【請求項6】
請求項5に記載の体液検査測定器において、
前記防曇性能膜を形成する非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物が、スルホン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホン酸基から選ばれる1種以上の官能基を含有する
ことを特徴とする体液検査測定器。
【請求項7】
体液中の成分と反応を示す試薬が担持された体液吸収性部材を備えた体液検査具と、体液検査測定器本体とを含んで構成される体液検査測定器に装着される透光性のカバー部材であって、
前記カバー部材は、前記体液検査測定器本体の開口面に、前記体液検査具に対向して配置され、
透光性の無機ガラスからなる基材と、前記基材表面の少なくとも一部に形成された防曇性能膜とからなり、前記防曇性能膜は、非カップリング部位に少なくとも1個以上の硫黄を含むオルガノシランおよび/またはその加水分解物の、単体および2量体以上の縮合物から形成されたものである
ことを特徴とするカバー部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−71690(P2010−71690A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237016(P2008−237016)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】